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【咲SS:照菫】君の背な向け、矢をつがう 【後編】

登場人物:宮永照,弘世菫
症状:狂気,執着,依存(症状悪化)

※若干オカルト。ホラー注意。
 
(前編はこちらを参照のこと)
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結論から先に言えば、
その日、私の初めてが
奪われることはなかった。

さらに言えば、
私がそのまま狂うこともなかった。


私が発狂し叫び声をあげる寸前に。
照が私に謝罪したからだ。


「おどかしてごめんなさい」


と。

そこには先ほどまで
狂気の笑みを浮かべていた魔物はいなかった。



何が起きたのか理解ができない私に対し、
照は訥々と説明を始めた。
こいつにしては珍しく、私の顔色を窺いながら。


麻雀において
ある一定の水準を超えた戦いになると、
通常の運や確率を超越した
ある種オカルトのような
要素が切っても離せなくなること。

私が今の殻を破って一皮むけるには、
オカルトの世界に首を突っ込む必要があること。

といっても私はかなり鈍い手合いだったらしく、
眠っている力を引き起こすには
荒療治が必要だったこと。

荒療治を行うにしても、
999回も負け続けた私に
インパクトを与えるには
相当のプレッシャーを与える
必要があったこと。


その結果が、あの恐怖体験という事らしい。


もちろん初めてを奪う、なんていうのは嘘で、
単に私が恐怖を感じる内容であれば
何でもよかったこと。


「ごめん…でも、菫には必要だと思った」


そう言って、照はもう一度頭を下げた。



はぁーーっ…


今まで一度もついたことがないような、
大きな大きなため息を一つ。
非日常から日常に戻ってこれた安堵と、
壮絶な肩すかし感。
張りつめた緊張の反動が大きくて、
ようやくとれた行動がこれだった。


「本当にごめんっ…ごめんなさいっ…」


私の溜息に目に見えて狼狽しながらも、
矢継ぎ早に謝罪の言葉をつむぐ照。
その目には明らかに
不安の色が浮かんでおり…
まるで今にも
捨てられようとしている子犬のようだった。


考えてみれば、今回の件は照にとっても
相当勇気のいる行動だっただろう。


友人を犯すという宣言。
それでいてあの日常を逸脱した恐怖体験。
あの時の照は「恐怖」そのものだった。

正直、後少し種明かしが遅ければ、
私は一生もののトラウマを
抱えていたかもしれない。


逆にいえば、照はそんな姿を見せてまで、
私の成長のために一役買ってくれたのだ。
私に嫌われる可能性も
十二分にあったのに、だ。


そう考えれば、私は照に
感謝しなければいけないのだろう。


何よりあの照が。
他人への執着が著しく薄い照が。
私に嫌われたくないと
思ってくれていることに
奇妙な感動を禁じえなかった。


「はぁ、仕方ないな…
 負けたことには変わりないし、
 ケーキバイキングくらいなら
 連れてってやる」

照の顔がいつもより若干
わかりやすく明るくなった。
たったそれだけで許せてしまう辺り、
私は相当に甘いやつなのだろう。

思わず私は今日何度目かのため息をついた。
今度は照に聞こえないように注意しながら。

何気なく時計に目を向ける。
と、時計はそろそろ守衛が
巡回してくる時刻を指していた。


「照、帰るぞ」


話を切り上げる大義を得たり。
いそいそと撤収準備を始めたその時。


「    」


照が何か一言つぶやいたような気がした。


「ん?なんか言ったか?」

「何でもない」

「そうか」


そう言うと、照も
卓上の牌を片付け始める。
それでこの話は
本当におしまいとなった。



ただ、この時。



この時、照がつぶやいた一言を
聞き逃していなければ。


その言葉の意味を
理解することができたのなら。


この後の私の人生はもう少し
別の展開を迎えていたのかもしれない。



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次の日から私は、
自分でも驚くくらい強くなった。

集中して相手の状況を分析すると
相手の不要牌が
頭に浮かぶようになったのだ。
不要牌がわかれば、
それを狙って手役を作れば
狙った相手からたやすく
点数を直取りすることができる。
火力に乏しい私には
ありがたい能力だった。

そして、何よりも特筆すべきことは、
この能力は照にも有効だという事だ。

卓上を戦場に置き換え。
矢をつがえ弓をひきしぼり。
放った矢で照を射る。

初めてそれが成功した時、
照は驚いたような顔を見せた後、
それからゆっくり微笑んで。


「おめでとう」


と言ってくれたのだ。

その時ようやく、
私は照のライバルとして、
照に認めてもらえたような気がした。


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私は夢中になってこの能力を磨いた。


するとそのうち、
私も照と同じように、
あの名状しがたい光のようなものが
放出されるようになった。

狼狽した私だったが、
これが放出されている状態で麻雀を打つと、
自分がさらに強くなっていることに気付いた。

照曰く、
これは強者が発するオーラのようなもので、
トッププロであれば誰でも
備えている能力らしい。

さらに加えれば、若干の威圧感と
視界に影響を与える点を除けば、
人体に害を与えるようなものではない
とのことだった。

実際照のそれに巻き付かれてみたが、
見た目のきわどさを除けば
特に害はなさそうだった。


「使い方によっては日常生活でも役に立つ」


照は事もなげにそう言った。


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私はそれを日常生活に取り入れた。
そして思いのほか
役に立つ事がわかった。


「部長、宮永先輩が
 どこにいるか知りませんか?」


一見クールな照ではあるが、
あれでいて放浪癖がある上に
方向音痴だったりする。

ふっと猫のようにいなくなった照を捜して、
これまで何度も苦労をさせられたものだった。

だが、今やもうそんな労苦に
煩わされることもない。


「ふむ、じゃぁちょっと捜しに行くか」


そう言いながら、
私は指先に結ばれた照の光を見やる。

光は照に繋がっているから、
そのまま辿っていけば
自然と照が見つかるという寸法だ。


程なくして、いつものように
売店でお菓子をむさぼっている照を発見する。

迷うことなく一直線で照を見つけた私に、
部員は驚きを禁じえないようだった。


私はちょっとした悪戯が成功したような
ささやかな満足感を堪能しながら、
部員ににやりと笑みを見せた。


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こうして、照がもたらした非日常は、
着実に私の日常を侵食していった。



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暗転の口切りは他校との練習試合だった。


そこは最近麻雀部が新設された高校で、
めきめきと実力をつけている高校だった。

実際対面して手合せしてみると、
なるほど確かに手ごたえがあった。


使うか…


ここで初めて、私は照以外の相手に
あの能力を行使した。



その瞬間、彼女の顔は恐怖に染まり、
全身を大きく震わせながら
椅子から転げ落ちた。



助け起こそうと身を乗り出して
手をさしのべた時。

私は聞いてしまった。


「許してっ……
 殺さないでっ……!」


差しのべた手を押しのけるようにして、
彼女は逃げるように走り去った。
私には彼女の後姿を
呆然と眺めることしかできなかった。


その日、彼女が戻ってくることは
ついになかった。


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次の変化に気づいたのは、
部活内で後輩に指導している時だった。


後輩の私を見る目に、
恐怖の色がありありと浮かんでいるのだ。

練習試合のこともあったので、
彼女達を「射抜いた」ことは
なかったにも関わらずだ。

直接彼女たちに聞いてみる。
彼女たちは震えながらも
口をそろえてこう言った。



「先輩から何か、
 青くて黒い、名状しがたい
 光のようなものが滲み出ているように見える」



その後の私は何も手につかず。
収支は見るも無惨な結果となった。


それでも彼女たちの私を見る目は
終始変わることはなかった。


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それからの私は、
かつての信頼関係を取り戻すために
手を尽くした。


努めて能力を隠すようにした。
普段から光を漏らさないように意識した。

すでに認識してしまった者については、
「それ」は決して
害を及ぼすものではないことを
懇切丁寧に説明した。


結局のところは、
信頼関係で解決できる問題のはずなのだ。
照と私がそうだったように。


部員がこの能力を正しく理解し、
欲を言えば彼女たちも
目覚めることができたなら。


それは、白糸台にとって大きな力になる。
私はそう信じて疑わなかった。


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照との関係はより濃密になっていった。


この頃の私はすでに、意識しなくても
常に光を発するようになっていた。
それを無理矢理止めるのは、
息を止めて我慢するような苦行に等しい。
それを我慢せずにいられるのは、
一人の時を除けば、照と二人で
あの部屋にいる時だけだった。


照と二人きりになるやいなや、
私は鬱憤を晴らすかのように、
全力で光を放出する。

照はまったく意に介さないどころか、
それ以上の光で私を塗りつぶす。


全力で射抜いても動揺の色一つ見せない。
それどころか、いい勝負だったと
微笑んですらくれる。


その様を見て私はひどく安堵するのだ。


普段はひたすら本性をひた隠し。
二人きりの時は逆に
狂ったように本性を発揮する。


しばらくの間そんな日々が続いた。


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結論を言ってしまえば、結局最後まで
部員たちはかつてのように
心を開いてくれることはなかった。


努力の成果がまったく出なかったわけではない。
少なくとも、面と向かっておびえた顔を
見せるようなことはなくなった。


しかし、それでも。


目が合わないように微妙に視線をそらされた。
意識していない時にふと視界に私が入ると、
身体が強張るのが見て取れた。


そこに確かに恐怖があった。



私はだんだん、疲れてきた。
そんな私に、
ついにとどめを刺す瞬間がやってきた。



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「すいません…部長と打つと
 練習にならないので…
 どうか遠慮させてください」


その後、自分が何をしたのかは
覚えていない。


気づいた時にはあの部屋の前に立っていた。


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「私なら、仮に背中から射抜かれたとしても
 菫を怖がったりしない」



部屋に入ってきた私を見るなり、
照は涼しげな顔でこう言った。


私は糸が切れる寸前だった。
そのあまりにも優しい言葉に
縋りたかった。

とはいえ、先ほど
部員からかけられた言葉とは
あまりにも対照的なその言葉を
素直に呑み込むこともできず。


私はあえて照が見てとれるように
ゆっくりとした動作で弓を取ると、
照の背後に陣取った。
それは、いつも部屋に置かれていた
本物の弓だった。


「これでもか?」

「怖くない」


背中越しに照が答える。
私はそのまま本物の矢をつがえ、
矢じりの先を照に向ける。
照には見えないが、何をしているかは
気配で伝わった事だろう。


「これでもか?」

「怖くない」


照の声音に変化はない。
私は照の背中に向け照準を絞る。
ぎりぎりと弦を引き絞るその音は、
照の耳にも伝わった事だろう。


「これ…でもか?」

「怖くない」


それでも照は平然と言ってのけた。
いっそのこと、このまま本当に
引き手の力を抜いてしまいたい
衝動にかられる。

その刹那、彼女はこちらを振り向いて。
囁くようにこう言った。




「いいよ」

「私は菫に殺されてもかまわない」




涙が自然と頬を伝った。


私はようやく理解できた。
何があっても
照だけは私を捨てないでいてくれる。
それがようやく、本当にようやく
心から理解できたのだ。



照の全身から這い出した紫が、
静かに私ににじり寄る。


それは
私の手に、
足に、
胴に、
頭に絡みつく。


やがてそれは、
私のすべてを埋め尽くした。


それは、何も知らない人から見れば、
捕食に等しい恐怖の光景だっただろう。

だが、私はもはや
それに恐怖を感じることはなかった。



私はゆっくりと瞳を閉じ、
優しいその紫に頬ずりをした。














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次の日から私は、
照以外の部員と打つことはなくなった。


積み上げたものは脆くも崩れ去り。
残ったのは傍らの照ただ一人だった。


もう、それでいいと思った。






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「…試合、終了ー!!」


アナウンサーの無機質な声が会場に響き渡る。
それは、この大会における
白糸台高校の優勝が確定した瞬間であった。


私は即座に立ち上がる。
卓を囲んだ選手たちに反応はない。
そのまま軽い会釈を残し、早々に卓を後にする。

テレビに映る私の顔は
どんな表情をしているだろう。
少なくとも、笑顔ではないのだろう。

口で砂をかむような味気無さ。
それが今私を満たしているものだ。

彼女達は開幕間もなく私が放った、
わずかな光に気圧された。

戯れに射抜いてやったら
もうそれで勝敗は決着した。
その後は、勝負でも何でもなかった。

今なら照の気持ちがわかる。
なるほど、あの時の照のあれは
こういうことだったのか、と。


あの時の照がそうしたように、
私は口元だけを動かして
その言葉を吐き捨てた。


「つまらない」


と。

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控室に戻ると、あの時とは逆に
今度は照が私を出迎えてくれた。



「お疲れ様、よくやったな」


かけられたその言葉は、
照の口調にしては違和感があるもので、
それでいて妙に覚えがあった。
きっとこれは、
照なりの意趣返しのつもりなのだろう。


「勝って当然。あの程度の選手に負けるはずがない」


同じく私も繰り返す。
今ならこの言葉の本当の意味がわかる。


「だからといって、
 『つまらない』はどうかと思うけど?」


照は妙に楽しそうだった。
今の私がどんな感情を抱いているか、
私以上によくわかっているくせに。
だが、これはかつて私がしたことだ。
甘んじて受け入れるしかない。
ならば、私が返答はやはりこうだろう。



「照、口直しするぞ。射抜き殺してやる」



どこからか
ひっ、と小さな悲鳴が漏れた。
視界に入った照以外のチームメンバーの顔色が
異常なほどに青ざめているのが見えた。

もっとも、言われた当の本人は。



「……閉会式とインタビューが終わってからね」



平然とあの時の再現を続けたのだが。
ただ、あの時と違う事もあった。
それは。


ぞるっ…
ぞるっ…
ぞるるっ……


まとわりついてくる照の紫と、照の笑顔。
その照の表情は、まるで。


何かを成し遂げたような達成感と。
まるでこれから情事にでも及ぶかのような
恍惚にまみれていた。


(完)


(照視点:解説編)

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posted by ぷちどろっぷ at 2014年07月20日 | Comment(3) | TrackBack(0) | 咲-Saki-
この記事へのコメント
SSに馴染みが無く、照菫を深く理解しいない自分にはまるで新鮮な世界観で、そして自分の中で照菫というカプはこういうものなんだとこれから前提付けてしまうほどの衝撃でした。
この二人の距離、織り成すねっとりとした空気は咲-Saki-の中でも異質なものなのかもしれないと思ったりもしました。
素晴らしい作品ありがとうございます。
Posted by かぐつち at 2015年03月16日 19:12
拝見させていただきました。
あまり感想というのが苦手で、稚拙な文になりますが
照と菫の絆というのでしょうか
良かったです!
Posted by ケンケN at 2016年05月31日 03:49
自分の中の照菫像は完全にこれですね
Posted by at 2018年07月08日 01:00
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