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【咲SS:照菫】君の背な向け、矢をつがう 【解説編】
登場人物:宮永照,弘世菫
症状:狂気,執着,依存
(本編はこちらを参照のこと)
麻雀を打つ時、卓上を光で支配すること。
それは、宮永家では
ごく「普通」のことだった。
姉妹でじゃれあう時に、
抱き合いながらお互いの光を
絡ませあうこと。
それは、私たちにとって
ごく「普通」のことだった。
それが社会では
「普通ではない」ということは、
なんとなく感覚で理解していた。
ただ、それを明確に意識したのは、
高校に入学して、
麻雀部に入部してからだ。
まず、私の光は、
雀士だからといって誰にでも
見えるものではないということを知った。
さらに、私の光が見える人には、
それが途方もなく
恐ろしいものに映ることを知った。
最後に、普通の人にとって、
麻雀とは運と確率が支配する、
非常にデジタルな競技であることを知った。
これらの事実は、
私を落胆させるに十分だった。
強豪校と聞いていたにも関わらず、
誰一人私に勝てる人はいなかった。
光が見える人は
私をまるで化け物のように怖がり、
見えない人はイカサマを
しているんじゃないかと私を疑った。
一縷の望みに賭けて
挑んだインターハイでは、
初出場で団体、個人ともに
全国大会優勝という快挙に終わった。
もっとも私が欲しかったのは
トロフィーではなく、
手に汗を握る強敵であり、
境遇を分かち合える理解者だったのだが。
それはどちらも手に入らなかった。
--------------------------------------------------------
それでも私が
麻雀をやめなかったのは、
ひとえにある人物に
依るところが大きい。
そう、弘世菫その人である。
残念ながら、彼女は
「見えない」側の人間だった。
麻雀はそれなりに強かったが、
運と確率に支配されている彼女では、
私に太刀打ちできるはずもなかった。
でも。
それでも。
彼女は、何度でも、何度でも
私に立ち向かってきた。
何度彼女を飛ばしたかわからない。
それでもなお彼女は立ち上がり。
まるで獲物を狙うかのような
鋭い目で睨むのだ。
それでいて、勝負が終わると、
さわやかに微笑みかけるのだ。
そろそろ帰るか、と。
優しく手を差し伸べるのだ。
その強さは、宮永家の一族でも
持っていなかったもので。
その闘志は、咲でさえも
持っていなかったもので。
その優しさは、
久しく私が忘れていたもので。
強い感情と愛情に飢えていた私が、
彼女の虜になるのに
さほど時間はかからなかった。
--------------------------------------------------------
それからというもの、
私は彼女を注意深く
観察することにした。
辛抱強く観察を続けることで、
私は彼女の中に
かすかに渦巻く力の奔流を見た。
当然だ。
あれほどに強い信念を持ち、
あれほどに強い闘志を持ち、
あれほどに優しい彼女に。
力がないなんてありえない。
菫に力が潜んでいることを知った私は
当然ながら喜んだ。
しかしながら、
その力を目覚めさせるかについては、
相当の葛藤が必要だった。
--------------------------------------------------------
彼女の力を目覚めさせること。
それは間違いなく
彼女に不幸をもたらすだろう。
真面目で、誠実で、
和を大切にする彼女は、
たくさんの人に囲まれていた。
一年生にありながら、
次期部長は確実と目されていた。
そんな彼女が力に目覚めたら、
一体どうなることだろう。
きっと、人は皆
潮が引くように離れていく。
そして彼女は
呆然とした表情で立ち尽くし。
それでも人との繋がりを求め。
離れていった人たちを呼び戻そうと
もがくのだろう。
想像しただけで、他人事ながら
身を切るような思いにつまされる。
でも。
それでいて、
そんな彼女の傍らに立つ、
私の姿を夢見てしまうのだ。
いずれ全てに疲れ果てた彼女に、
私はそっと手を差し伸べる。
彼女は大粒の涙を零しながら、
すがるように私の手を取るのだ。
そんな最後を想像すると、
それは私の胸の奥に
後ろ暗い喜びをもたらした。
そんなおぞましい妄想を、
何度も何度も
繰り返してしまう私は、
やはり皆が思うとおり、
醜い、いやしい、
化け物なのかもしれない。
--------------------------------------------------------
ある日の団体戦で、私は大将を希望した。
大将は、全てを背負う最後の砦だ。
仲間の思いを無にしないために、
最後まで諦めず牙をむいてくれる
可能性に期待したのだ。
半日後。
私は大差で優勝を決定づけた。
大将でも何一つ変わらなかった。
いや、むしろ。
勝ち目がないと悟り、
後ろに託す仲間も
いなかった彼女たちは、
これまで戦ってきた
選手達以上に
あっさりと絶望した。
敗者を見下ろす私は、
機械的に終わりの挨拶を告げる。
心底疲れ切った様子の彼女達は
反応すらしなかった。
湧き上がる失望感を抑えきれず、
気づけば私は、唇を動かしていた。
「つまらない」と。
--------------------------------------------------------
菫は気づいていた。
私がこっそりつぶやいたことにすら、
気づいていた。
そこまで細かく
私を見てくれていたという事実に
望外の喜びを感じながら、
同時に私は筆舌に尽くしがたい
寂寥感を味わった。
なぜなら、菫はその行為を
たしなめたからだ。
「つまらないはないだろう」
ぐっと胸がつまり、
叫びだしたくなる気持ちを
必死で押しとどめた。
いつも私のそばにいてくれる
菫でさえも、
私の孤独に気づいてくれない。
すがるように光を伸ばす。
菫は意に介さない。
見えていないのだ。
それが、ひどく悲しかった。
お前は私とは違う世界の人間なのだと、
冷たくあしらわれた気分だった。
わかってもらうためには、
菫にも同類に
なってもらうしかない。
でも、菫の幸せを考えたら、
それを選んではいけない。
菫、
さみしい。
さみしいよ。
--------------------------------------------------------
結局私は、醜い化け物だった。
愛する人の幸せよりも、
自分自身の幸せを選んだ。
事がすんだ後、
私はひたすらに謝った。
『おどかしてごめんなさい、
怖がらせてごめんなさい』
と。
人の道を踏み外した私を、
菫は許すばかりか、
逆に気遣いの言葉まで
かけてくれた。
あぁ、菫、
ごめんなさい。
私が謝らなければいけないことは、
こんなことじゃない。
本当に。
本当に謝るべきだったのは。
私の世界に貴方を
ひきずりこんでしまったこと。
「ひきずりこんで、ごめんなさい」
その一言に、
菫は気づかなかった。
--------------------------------------------------------
真っ暗だった私の世界に、
一条の光が差してきた。
元々飲み込みが速い菫は、
あっという間に
能力のイメージを掴み、
自らの意志の矢を
私に深く突き立てた。
それは、また一歩、
菫が私の側に
歩み寄ってくれたことに
他ならない。
この調子でいけば、
遠からず菫は私と同じになる。
そうすれば、
もう私は一人じゃない。
これからはずっと菫が一緒。
今まで葛藤していた
時間は何だったのか。
もっと早くこうすれば
よかったのだ。
あの日感じた罪悪感は、
圧倒的な多幸感に飲み込まれて
消えてしまった。
--------------------------------------------------------
菫がみんなに嫌われ始めた。
--------------------------------------------------------
菫は逃げていく背を必死に追った。
諦めず説得を続ければ、
きっとみんなもわかってくれる。
そう信じて彼女はもがいた。
その菫の有様は、
かつて私が妄想したあの姿に、
驚くほどぴたりと符合した。
ならば、きっと結末も
同じなのだろう。
菫の目から、日に日に
光が失われていく。
私の中に、あの日感じた
悲壮感が蘇る。
でも、それを
はるかに上回る恍惚が
私の脳内を焼き尽くす。
もうすぐ…
あの妄想が現実になる。
私は菫を
止めようとはしなかった。
黙って全てを受け入れた。
そうすることで、
菫が放つ暗い光は、
ますます強く、
激しくなって。
もはや私以外の部員には
誰も耐えられない
光量にまで到達する。
そしてそれは、破滅の日が
もう遠くないことを
教えてくれた。
--------------------------------------------------------
そして、ついにその日が来た。
--------------------------------------------------------
「助けて!!
部長が…部長がおかしい!!」
突然駆け込んできた
ある部員の叫びを受けて、
私の指導室は騒然となった。
私は逸る気持ちを
抑えながら、菫受け持ちの
指導室に駆けつける。
そこには
表情のない顔で立ちつくし、
部屋を黒い光で塗り潰す
菫の姿があった。
「宮永先輩、助けてください!」
逃げ惑っていた部員達が
私に駆け寄ってくる。
それは今の菫と私とでは、
今の菫の方がより
魔物らしいということを
意味していた。
菫が…ついに私と
一緒になった!!
もはや興奮に高鳴る胸を
抑えきれず、
柄にもなく
私は歓喜の声をあげる。
私に助けを求めた部員達は
恐怖に顔を歪めると、
蜘蛛の子を散らすように
逃げて行った。
これまでは光が見えなかった
部員達まで。
今すぐ菫に
抱きつきたい衝動をこらえ、
私は指導室を後にする。
どうせなら、あの部屋で
菫を受け入れたい。
私たちの世界を変えた、
あの部屋で。
菫はきっと来てくれる。
--------------------------------------------------------
菫が部屋にやってきた。
虚ろな菫の瞳から、
一切の光が消えていた。
私は優しくこう告げる。
「私なら、仮に背中から
射抜かれたとしても
菫を怖がったりしない」
菫は私の言葉を受けて、
部屋に置いてあった弓を取る。
「これでもか?」
表情のない顔で菫は問う。
私の言葉が真実であることを
確認するために。
「これでもか?」
弓に矢をつがえ、菫は問う。
まだ私の言葉が信じきれないから。
「これ…でもか?」
菫は矢を引き絞る。
今にも泣きそうな声で菫は問う。
私は微笑みながらこう言った。
「私は菫に殺されてもかまわない」
菫は弓を取り落し、
その場に立ち尽くして慟哭する。
泣きじゃくる菫に光を這わせ、
菫の全てを塗り潰す。
菫は逃げ出そうとせず、
ゆっくりとその身を光にゆだねる。
それは、菫が
私のものになった瞬間だった。
--------------------------------------------------------
菫は私以外の人と
麻雀を打たなくなった
私以外の人と
親しく話すこともなくなった
菫はもう、私のものだ
そう、私だけのもの
誰にも絶対渡さない
--------------------------------------------------------
ある日の大会で、
菫は大将を任された。
そして、まるであの日の私の
足跡をたどるかのように、
他の選手を蹂躙して。
あの時の私のように、
つまらないと吐き捨てた。
あの時私を
たしなめた菫はもういない。
そこにいるのは
私と同じ菫だけ。
私のことを
理解してくれる菫だけ。
あの時と同じように、
私は菫に光を這わす。
それを見た菫は不敵に笑うと、
私が這わせた光に
自らの光を重ね合わせた。
(完)
(作品設定紹介)
症状:狂気,執着,依存
(本編はこちらを参照のこと)
麻雀を打つ時、卓上を光で支配すること。
それは、宮永家では
ごく「普通」のことだった。
姉妹でじゃれあう時に、
抱き合いながらお互いの光を
絡ませあうこと。
それは、私たちにとって
ごく「普通」のことだった。
それが社会では
「普通ではない」ということは、
なんとなく感覚で理解していた。
ただ、それを明確に意識したのは、
高校に入学して、
麻雀部に入部してからだ。
まず、私の光は、
雀士だからといって誰にでも
見えるものではないということを知った。
さらに、私の光が見える人には、
それが途方もなく
恐ろしいものに映ることを知った。
最後に、普通の人にとって、
麻雀とは運と確率が支配する、
非常にデジタルな競技であることを知った。
これらの事実は、
私を落胆させるに十分だった。
強豪校と聞いていたにも関わらず、
誰一人私に勝てる人はいなかった。
光が見える人は
私をまるで化け物のように怖がり、
見えない人はイカサマを
しているんじゃないかと私を疑った。
一縷の望みに賭けて
挑んだインターハイでは、
初出場で団体、個人ともに
全国大会優勝という快挙に終わった。
もっとも私が欲しかったのは
トロフィーではなく、
手に汗を握る強敵であり、
境遇を分かち合える理解者だったのだが。
それはどちらも手に入らなかった。
--------------------------------------------------------
それでも私が
麻雀をやめなかったのは、
ひとえにある人物に
依るところが大きい。
そう、弘世菫その人である。
残念ながら、彼女は
「見えない」側の人間だった。
麻雀はそれなりに強かったが、
運と確率に支配されている彼女では、
私に太刀打ちできるはずもなかった。
でも。
それでも。
彼女は、何度でも、何度でも
私に立ち向かってきた。
何度彼女を飛ばしたかわからない。
それでもなお彼女は立ち上がり。
まるで獲物を狙うかのような
鋭い目で睨むのだ。
それでいて、勝負が終わると、
さわやかに微笑みかけるのだ。
そろそろ帰るか、と。
優しく手を差し伸べるのだ。
その強さは、宮永家の一族でも
持っていなかったもので。
その闘志は、咲でさえも
持っていなかったもので。
その優しさは、
久しく私が忘れていたもので。
強い感情と愛情に飢えていた私が、
彼女の虜になるのに
さほど時間はかからなかった。
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それからというもの、
私は彼女を注意深く
観察することにした。
辛抱強く観察を続けることで、
私は彼女の中に
かすかに渦巻く力の奔流を見た。
当然だ。
あれほどに強い信念を持ち、
あれほどに強い闘志を持ち、
あれほどに優しい彼女に。
力がないなんてありえない。
菫に力が潜んでいることを知った私は
当然ながら喜んだ。
しかしながら、
その力を目覚めさせるかについては、
相当の葛藤が必要だった。
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彼女の力を目覚めさせること。
それは間違いなく
彼女に不幸をもたらすだろう。
真面目で、誠実で、
和を大切にする彼女は、
たくさんの人に囲まれていた。
一年生にありながら、
次期部長は確実と目されていた。
そんな彼女が力に目覚めたら、
一体どうなることだろう。
きっと、人は皆
潮が引くように離れていく。
そして彼女は
呆然とした表情で立ち尽くし。
それでも人との繋がりを求め。
離れていった人たちを呼び戻そうと
もがくのだろう。
想像しただけで、他人事ながら
身を切るような思いにつまされる。
でも。
それでいて、
そんな彼女の傍らに立つ、
私の姿を夢見てしまうのだ。
いずれ全てに疲れ果てた彼女に、
私はそっと手を差し伸べる。
彼女は大粒の涙を零しながら、
すがるように私の手を取るのだ。
そんな最後を想像すると、
それは私の胸の奥に
後ろ暗い喜びをもたらした。
そんなおぞましい妄想を、
何度も何度も
繰り返してしまう私は、
やはり皆が思うとおり、
醜い、いやしい、
化け物なのかもしれない。
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ある日の団体戦で、私は大将を希望した。
大将は、全てを背負う最後の砦だ。
仲間の思いを無にしないために、
最後まで諦めず牙をむいてくれる
可能性に期待したのだ。
半日後。
私は大差で優勝を決定づけた。
大将でも何一つ変わらなかった。
いや、むしろ。
勝ち目がないと悟り、
後ろに託す仲間も
いなかった彼女たちは、
これまで戦ってきた
選手達以上に
あっさりと絶望した。
敗者を見下ろす私は、
機械的に終わりの挨拶を告げる。
心底疲れ切った様子の彼女達は
反応すらしなかった。
湧き上がる失望感を抑えきれず、
気づけば私は、唇を動かしていた。
「つまらない」と。
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菫は気づいていた。
私がこっそりつぶやいたことにすら、
気づいていた。
そこまで細かく
私を見てくれていたという事実に
望外の喜びを感じながら、
同時に私は筆舌に尽くしがたい
寂寥感を味わった。
なぜなら、菫はその行為を
たしなめたからだ。
「つまらないはないだろう」
ぐっと胸がつまり、
叫びだしたくなる気持ちを
必死で押しとどめた。
いつも私のそばにいてくれる
菫でさえも、
私の孤独に気づいてくれない。
すがるように光を伸ばす。
菫は意に介さない。
見えていないのだ。
それが、ひどく悲しかった。
お前は私とは違う世界の人間なのだと、
冷たくあしらわれた気分だった。
わかってもらうためには、
菫にも同類に
なってもらうしかない。
でも、菫の幸せを考えたら、
それを選んではいけない。
菫、
さみしい。
さみしいよ。
--------------------------------------------------------
結局私は、醜い化け物だった。
愛する人の幸せよりも、
自分自身の幸せを選んだ。
事がすんだ後、
私はひたすらに謝った。
『おどかしてごめんなさい、
怖がらせてごめんなさい』
と。
人の道を踏み外した私を、
菫は許すばかりか、
逆に気遣いの言葉まで
かけてくれた。
あぁ、菫、
ごめんなさい。
私が謝らなければいけないことは、
こんなことじゃない。
本当に。
本当に謝るべきだったのは。
私の世界に貴方を
ひきずりこんでしまったこと。
「ひきずりこんで、ごめんなさい」
その一言に、
菫は気づかなかった。
--------------------------------------------------------
真っ暗だった私の世界に、
一条の光が差してきた。
元々飲み込みが速い菫は、
あっという間に
能力のイメージを掴み、
自らの意志の矢を
私に深く突き立てた。
それは、また一歩、
菫が私の側に
歩み寄ってくれたことに
他ならない。
この調子でいけば、
遠からず菫は私と同じになる。
そうすれば、
もう私は一人じゃない。
これからはずっと菫が一緒。
今まで葛藤していた
時間は何だったのか。
もっと早くこうすれば
よかったのだ。
あの日感じた罪悪感は、
圧倒的な多幸感に飲み込まれて
消えてしまった。
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菫がみんなに嫌われ始めた。
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菫は逃げていく背を必死に追った。
諦めず説得を続ければ、
きっとみんなもわかってくれる。
そう信じて彼女はもがいた。
その菫の有様は、
かつて私が妄想したあの姿に、
驚くほどぴたりと符合した。
ならば、きっと結末も
同じなのだろう。
菫の目から、日に日に
光が失われていく。
私の中に、あの日感じた
悲壮感が蘇る。
でも、それを
はるかに上回る恍惚が
私の脳内を焼き尽くす。
もうすぐ…
あの妄想が現実になる。
私は菫を
止めようとはしなかった。
黙って全てを受け入れた。
そうすることで、
菫が放つ暗い光は、
ますます強く、
激しくなって。
もはや私以外の部員には
誰も耐えられない
光量にまで到達する。
そしてそれは、破滅の日が
もう遠くないことを
教えてくれた。
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そして、ついにその日が来た。
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「助けて!!
部長が…部長がおかしい!!」
突然駆け込んできた
ある部員の叫びを受けて、
私の指導室は騒然となった。
私は逸る気持ちを
抑えながら、菫受け持ちの
指導室に駆けつける。
そこには
表情のない顔で立ちつくし、
部屋を黒い光で塗り潰す
菫の姿があった。
「宮永先輩、助けてください!」
逃げ惑っていた部員達が
私に駆け寄ってくる。
それは今の菫と私とでは、
今の菫の方がより
魔物らしいということを
意味していた。
菫が…ついに私と
一緒になった!!
もはや興奮に高鳴る胸を
抑えきれず、
柄にもなく
私は歓喜の声をあげる。
私に助けを求めた部員達は
恐怖に顔を歪めると、
蜘蛛の子を散らすように
逃げて行った。
これまでは光が見えなかった
部員達まで。
今すぐ菫に
抱きつきたい衝動をこらえ、
私は指導室を後にする。
どうせなら、あの部屋で
菫を受け入れたい。
私たちの世界を変えた、
あの部屋で。
菫はきっと来てくれる。
--------------------------------------------------------
菫が部屋にやってきた。
虚ろな菫の瞳から、
一切の光が消えていた。
私は優しくこう告げる。
「私なら、仮に背中から
射抜かれたとしても
菫を怖がったりしない」
菫は私の言葉を受けて、
部屋に置いてあった弓を取る。
「これでもか?」
表情のない顔で菫は問う。
私の言葉が真実であることを
確認するために。
「これでもか?」
弓に矢をつがえ、菫は問う。
まだ私の言葉が信じきれないから。
「これ…でもか?」
菫は矢を引き絞る。
今にも泣きそうな声で菫は問う。
私は微笑みながらこう言った。
「私は菫に殺されてもかまわない」
菫は弓を取り落し、
その場に立ち尽くして慟哭する。
泣きじゃくる菫に光を這わせ、
菫の全てを塗り潰す。
菫は逃げ出そうとせず、
ゆっくりとその身を光にゆだねる。
それは、菫が
私のものになった瞬間だった。
--------------------------------------------------------
菫は私以外の人と
麻雀を打たなくなった
私以外の人と
親しく話すこともなくなった
菫はもう、私のものだ
そう、私だけのもの
誰にも絶対渡さない
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ある日の大会で、
菫は大将を任された。
そして、まるであの日の私の
足跡をたどるかのように、
他の選手を蹂躙して。
あの時の私のように、
つまらないと吐き捨てた。
あの時私を
たしなめた菫はもういない。
そこにいるのは
私と同じ菫だけ。
私のことを
理解してくれる菫だけ。
あの時と同じように、
私は菫に光を這わす。
それを見た菫は不敵に笑うと、
私が這わせた光に
自らの光を重ね合わせた。
(完)
(作品設定紹介)
この記事へのコメント
こんな切なくて物悲しいマッチポンプもそうそうないでしょうね…。自らの身勝手をたしなめる罪悪感と、菫を愛してしまった怪物ゆえの寂寥感の板挟みで苦しむ照の心情は想像するにあまりあります。本当に罪深いのは招く帰結を知りながら菫を引き込んだ照なのか、はたまた照を魅了してしまった菫なのか。もっとも、無条件に愛し合える相手を得た二人にこんな問いは無意味でしょうが。
Posted by at 2016年07月02日 23:10
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