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【咲SS:菫宥】宥「なんて、つめたい人」【青春】
<タイトル>
宥「なんて、つめたい人」
<あらすじ>
インターハイ準決勝。姉として妹を支えるべく、決死の思いで挑んだ松実宥。
でも、そこに待ち構えていたのは、ある意味彼女の天敵ともいえる存在で…
<登場人物>
弘世菫,松実宥
<症状>
青春。
※いったんヤンデレ成分は抜きました。
ヤンデレ分がほしい方がいらっしゃったら
コメントでリクエストどうぞ。
それなりに要望があればifとして続きを書きます。
<その他>
※原作(2014年8月現在)より若干時系列が進みます。
おそらく今後判明する原作の展開とは異なるのでご注意を。
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寒い…対局中に、こんなに寒いのはいつぶりだろう。
私は今日何度目かの身震いをして、
かじかんだ手にはーっと息を吹きかける。
この寒さを作り上げているのは、私の目の前に座るその人。
そう、白糸台高校麻雀部部長…弘世菫さん。
(な、なんて…つめたい人…)
その鋭い眼光は、真っ直ぐに私を見据えていて。
それだけで、私は思わずたじろいてしまう。
ただ麻雀を打っているだけなのに、
まるで命を狙われているような寒々しさを感じるのは、
ただ私が寒がりだからなんだろうか。
(ううん…違う…!)
その刹那に浮かんだのは、
彼女の放った矢が私を貫くイメージ。
彼女は、狙った相手から直撃を取ることができる。
そして、今狙われているのは私。
(よ、よけなくちゃ…!)
頭をフル回転させて、どうにか回避する方法を考える。
このままでは…私は彼女に射抜かれる。
せっかく集まってきてくれたあったかい牌を
泣く泣く手放し、あったかくない牌を手元に残す。
それは私にとって、苦痛でしかなかったけど。
脳裏によぎるのは、玄ちゃんの涙。
(に…逃げるだけじゃダメ…たおさなきゃ…弘世さんを!)
私が、取り返さなくちゃいけない。
だって、私は…お姉ちゃんなんだから!
そうして私は、なんとかそれを成し遂げた。
残ったのは、開始前よりはいくらか多くなった点棒。
私はほっと息をつく。
気づけば私は、手に汗を握っていた。
それは、初めてのことだった。
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「おねーちゃーん!ありがとおぉぉおー!!」
「宥さん、すごいです!!大活躍ですよ!!」
「さすが宥さん…心強…」
控室に戻った私は、みんなの歓迎を受ける。
あぁ、あったかい…こうやって戻ってこれて、
本当によかった。
「弘世菫対策、バッチリハマったみたいだね」
「はい…正直対策してなかったら、危なかったです」
「まぁでも、これで決勝も大丈夫そうかな」
「そうだと、いいんですけど…」
今日の対局で、あの人も自分の狙いが
読まれてしまっていることは気づいただろう。
何の対策もしないで出てきてくれるだろうか。
私は断言できず、つい口ごもってしまう。
そもそも、できればもう、あの人とは戦いたくない。
(だって、あの目…つめたすぎるんだもん…)
対局中のことを思い出し、私はまたも身震いする。
…でも。
「今日の宥さんは一味違いましたね!!」
「うん…なんかこう、燃えてたよね!」
「えっ…?」
対局を見ていたみんなの感想に私はびっくりする。
え…だって、私は、あんなに
あったかくない牌に囲まれていたのに。
あんなにつめたい人と戦っていたのに。
「わ、私…あったかそうだった…?」
「うん、むしろ熱そうなくらいだったよ!」
言われてみれば、対局の後、私は汗をかいていた。
もしかして…弘世さんと戦ったから?
彼女のつめたさが、逆に私を燃え上がらせたっていうこと?
私は、ちょっとだけ弘世さんに興味を持った。
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ばったり。
お手洗いをすませて、控室に帰ろうとした私は、
偶然にも例のあの人と出くわしてしまった。
そう、弘世菫さん。
この人にちょっと興味を持った私だけど、
だからといってあのつめたい目は忘れられなくて。
つい私は目を背けてしまう。
(こ、このまま、通りすがらせてくれないかな…)
なんて考えながら、少しずつ距離を取ろうとする。
でも…弘世さんは私を逃がしてはくれなかった。
「そこまで怯えられると、さすがに堪えるな…
別に取って食ったりしないから、
顔をあげてくれないか?」
そう言って、彼女は私を呼び留めた。
(だ、だめ…逃げられなかったよ…)
なんて勝手に絶望しながら、
私はおどおどと弘世さんの顔色をうかがった。
(あ、あれ…?)
私を見つめるまなざしには、
あの時のような寒々しさは一切なく。
むしろそれは、どちらかといえば穏やかで
あったかささえ感じるものだった。
「あれ…?つめたくない…?」
あまりの意外さに、私は心の声を
そのまま口に出してしまっていた。
「ん?冷たい…?あぁ、いやいや…
対局中ならともかく、普段から
相手を睨んでるわけじゃないぞ?」
「とはいえ、対局中に怖がらせていたのは事実か。
申し訳なかった」
そう言って、今度は弘世さんが私に頭を下げる。
「わ、わわ、や、やめてください…
き、気にしてないですから!」
「私が気にしてるんだ。他校の生徒を
眼力で震え上がらせたとあっては
また余計な二つ名を増やされかねないからな」
「ふ、二つ名…?あ、それって、もしかして…」
シャープシューター菫。
「やはり広まってしまっているか…
個人的には非常に不本意なんだがな」
なんて、困ったように彼女は笑う。
ビデオでずっと、弘世さんのつめたい視線を
受け続けた私からすれば、そんな名前でからかうなんて、
とても考えられなかったけど。
なるほど普段の弘世さんは、それを
許してくれるくらい優しい人なのかもしれない。
「くすっ…」
「…まぁ、笑いが提供できて何よりだ」
そう言って、弘世さんは肩を竦めた。
私は、またちょっと弘世さんに興味を持った。
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「宥姉…まだ見るのー?」
「う、うん…もう少しだけ…」
帰ってきた私は、ポータブルプレイヤーで
あの人の対局を見直してみる。
もう何回、ううん、何十回見たかわからないその映像。
ちょっと前の私にとっては、それはすごくつらい作業だった。
だって、あの人の目はひどくつめたいもので。
自分がその目で見つけられると考えただけで、
体の芯から体温が奪われていくのを感じたから。
でも、今はちょっとだけ違う。
あの目の奥には、優しさが隠れていることを知っているから。
(あ…)
ぼーっと映像を見ていた私は、
その時初めて気づいた。
それは対局が終わった後の弘世さん。
今までは、対策とは関係がないからって、
飛ばしちゃってたんだけど…
確かに、対局中より目があったかくなってる…?
(ど、どうしよう…これ、大発見だよ…!!)
「あ、憧ちゃん、憧ちゃん!」
「ん、どったの宥姉」
「こ、これ!ここ見て!」
「んー?」
画面を覗きこむ憧ちゃんに、私は大発見を熱弁する。
でも、憧ちゃんの反応は私が予想したものは違うものだった。
「ごめん、宥姉…違いが全然わからないんだけど」
「あ、あれ…?だ、だからね、
こっちの弘世さんはつめたいでしょ?」
「でもね、こっちの弘世さんは…
ほら、あったかいんだよ!」
私の説明を受けた憧ちゃんは、少し考え込むと…
突然、にやにやと笑みを浮かべる。
「宥姉…もしかして…この人にほれちゃった〜?」
「えっ…?」
(ど、どうしてそうなるの!?)
「いやだってさぁ…?こんなの普通わかんないってば。
比喩じゃなくてホントにミリ単位じゃん」
「こんなの気づけるとしたら、
よっぽどその人のこと見てないと無理だって」
「それにしても、まさか白糸台の部長とはねー」
「ちっ、ちがうよ!?そ、そういうのじゃなくて!」
「はいはい、ごちそうさま!」
ほ、本当に違うんだけど…違いに気づけたのは、
単に私が弘世さんをいっぱい見てたからなだけで…
でも…
なんだか、ぽかぽかしてくるのは、どうしてだろう?
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団体戦決勝。
最後のステージにゆっくり向かう私は、
またあの人と顔を合わせた。
「…こ、こんにちは…」
「あぁ、こんにちは」
少しだけ抵抗が薄れた私は、自分から弘世さんに声をかける。
弘世さんは前と同じように、穏やかな笑みを私に向けてくれる。
「きょ、今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ」
その様子に、私はほっと安心する。やっぱりこの人はいい人だ。
でも、次に弘世さんが発したのは、予想外の言葉だった。
「…そうだ、せっかくだから先に謝っておこう」
「な、なにをですか…?」
「君は一昨日、私に怯えていただろう?」
「あ、あれは…弘世さんのこと、知らなかっただけで…」
「今は、認識を改めてくれているのか?」
「は、はい…」
「だとしたら、なおさら謝っておく必要がある」
「え…?」
「今日の私は…一昨日とは比較にならないほど冷たいだろう」
「怖がらせてすまないが…容赦はしないから、そのつもりでいてくれ」
そう言って弘世さんは、一足先に会場に去っていく。
私は動くことができず、その場に立ちすくんでしまった。
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(すごくつめたくてあつい)
それが、対局が始まった時の、私の素直な感想だった。
私の目の前に座る人は、一昨日と同じで弘世さん。
でも、その雰囲気は、一昨日とはまるで違っていた。
その眼差しは、前よりもずっとずっと鋭くて。
今までが笑っていたんじゃないかと思うくらいつめたかった。
でも、それだけじゃなくって。
それ以上に、…覇気って言うんだろうか、
言葉では表せない熱量を、弘世さんから感じる。
考えてみれば当然かもしれない。
全国三連覇がかかる王者の代表を務める弘世さん。
この一戦にかける思いは、部長ですらない私なんかでは
想像することもできない。
ピクリ
(あ、でも…くせは直ってないかも…)
右手が数ミリ動いて、その後相手を見つめるくせ。
それは、一昨日の弘世さんと同じものだった。
そして、その視線の先は…私じゃない。
ちょっとだけ安心する。
さすがにあの目で見つめられるのは、
もう少し心の準備ができてからがいい。
狙いをつけられた相手に少しだけごめんなさいして、
私は普通に手作りを始める。そして…
私は弘世さんに射抜かれた。
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一瞬、何が起こったのかわからなかった。
頭に浮かんだのは、自分の胸に
真っ直ぐ矢が突き刺さるイメージ。
「ロン…12000!!」
気づけば、弘世さんが私を正面から見据えていた。
え、なんで…どうして?
(って、どうしてもなにもないよ…)
答えなんて一つしかない。
くせを直されて、その上で逆手に取られた。
それしかない。
『言ったはずだ。一昨日とは違うと』
私を見る弘世さんの目が、そう告げているようだった。
その目はやっぱりつめたくて。
私の身体から熱を奪い去っていくようで。
それでいて、私から熱を奪うあの人からは、
ストーブにも負けない熱さを感じて。
つめたくって、さむくって。
あったかくて、あつくって。
こんな状況は、今までに経験したことがない。
(こ、こんなの…どうすればいいの?)
でも、私は混乱しながらも、
湧き上がる一つの感情を抑えることができなかった。
(弘世さんを、もっと知りたい)
だって、こんなにつめたくて、
あったかい人を私は知らない。
つめたいのに、あったかくなる人なんて。
私は、弘世さんを観察することにした。
そう、赤土さんから映像を渡されたあの日から、
ずっとそうしていたように。
そうすれば、この状況も何とかできるかもしれない。
私は、弘世さんをじっと見つめる。
気づけば、試合はあっという間に終わっていた。
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次鋒戦が終わった後。
私はみんなのところに帰る前に、
ロビーで休んでいくことにした。
自分でも、なんでそうしたのかはよくわからない。
ただ、身体がすごくぽかぽかしていて。
このほてりを、もう少しだけ味わっていたかった。
「お疲れ様」
「ふっ、ふぇえ!?」
ふいに声をかけられて、変な声を出してしまう。
そこには、私にこの熱を与えてくれた人…
そう、弘世さんがいた。
「…すまない、脅かしてしまったようだな」
そう言って苦笑する弘世さんは、
本当に対局中とは別人で。
今私をほてらせている熱とは別の、
穏やかなあったかさを与えてくれる。
「…負けちゃいました」
「これは団体戦だ。まだわからないさ」
「でも、私は弘世さんに負けちゃいました」
「私としては、勝った気がしないがな」
「…トップでしたよ?」
「できれば、後続のために10万点差をつけたかった」
弘世さんの言葉に、やっぱり王者の代表なんだと実感させられる。
単純にあの試合を楽しんでしまった私とは全然違う。
なんだか、少しさみしくなった。
「…くせ、直ってましたね」
「なんのことだ?」
「え…あ、あれ…?
右手が動いた後に狙う人を見るくせですけど…」
「…そんな癖があったのか?
だが、そんなわかりやすい癖があれば、
照が見逃すはずはないんだが…」
「えっと…動くのは数ミリですし…
視線はいろんな方向を見てるから…
両方知ってないと使えないからじゃないかと…」
「数ミリ!?…よく気づいたな…!
私自身それなりに確認したんだが…」
「で、でも…今日はくせを逆手に取ってましたよね?」
「私はその癖には気づいていなかったよ」
「え、じゃ、じゃぁ…どうやって?」
「私は、逆に君を観察したんだ」
「えっ…?」
予想外の回答に私はあわてる。
なんだか恥ずかしくて、さらにかっかと熱がわく。
「私自身の癖は見つけることができなかった。
だから、もう癖を見つけることは諦めた」
「その代わり、私は対局中の君を分析したんだ」
「君には、手牌にわかりやすく赤い牌が
偏る傾向があるが、私が狙った時だけは
それ以外の牌が手牌に多く混じる傾向があった」
「そして、それは初手からそうだった」
「つまり、私は射抜くと決めた時点ですでに
それを看破されていたことになる」
「だから、まず最初に射抜く相手を決めた上で…
あえてそれをキャンセルして、
別の相手を射抜くことにした」
「そして、次に君の捨て牌を見る。
私の狙いがバレていなければ、君の捨て牌は
赤以外の牌が多く出る」
「そして、君は二回目のターゲットは見破れなかった。
これで、君が狙いを確認できるのは、
初回だけだと推測できたわけだ」
(そっか…そういうことだったんだ…)
それなら、くせが全く変わらない上に、
くせを逆手に取ることができる。
むしろ、くせを直すよりもずっと有効だったかもしれない。
「で、でも…そんなこと、敵である私に
教えちゃっていいんですか?」
「先に私の癖を教えてくれたのは、君の方だろう?」
「…そ、そうでした…」
「しかし、驚いたよ…私に癖があると推測した上で、
皆で何度も映像を見直したのに…
そんな癖には誰も気づかなかった。君はすごいんだな」
「あ、その…!違うんです!
くせを見つけたのは、私じゃなくて…」
赤土さんなんだけど。
でも、なんだかそれをただ伝えるのは、
とっても胸が苦しくて。
「あ、でも私も他に発見したんですよ!?」
つい、そんなことを口走ってしまう。
「…今聞いた癖以外にも、まだあるというのか?」
「あ、えっと…くせというわけじゃないんですけど…」
「えっと…」
「対局後の弘世さんの目は、
対局中よりずっとあったかいんです!!」
弘世さんは、目を丸くすると…
次の瞬間、大きな声で笑い出した。
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「君は面白いな。対局中も、打っていて面白かった」
「お、おもしろかった…?わ、私と打っていて、
おもしろかったですか?」
「あぁ…君は、一見気弱に見えるが…
対局となると、一歩も引かずに立ち向かってきた。
私に狙いを定められて、
それをできるものはそうはいない」
「そして、私の心の機微を読むかのように、
あの手この手で私をかわしてきた…
本当は、もっと徹底的に射抜くつもりだったんだがな」
「白糸台高校の部長としては失格だが…
思わず立場を忘れて、つい熱中してしまったよ」
「わ、わぁっ……」
私だけじゃなかった。
弘世さんも、楽しんでいてくれた。
それだけのことで、身体がどんどんぽかぽかする。
「できれば、君とまた打ちたい…
もっとも、その時は容赦しないがな」
そう言って弘世さんは不敵に笑う。
その目には、あの時と同じつめたさが見え隠れしていて。
でも、それなのに。見つめられた私は、
これ以上になく熱くなってしまう。
(あぁ、なんてつめたくて、あったかい人)
私は、もっといっぱい、弘世さんを知りたくなった。
もっと、もっと。
(完)
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勿論ドロドロで
最初はドロデレになる予定でしたが
やっぱりここで止めておいてよかったのです。