現在リクエスト消化中です。リクエスト状況はこちら。
【咲SS:菫宥】宥「菫ちゃんのこと、もっともっと知りたいな」【ヤンデレ】
<タイトル>
宥「菫ちゃんのこと、もっともっと知りたいな」
<あらすじ>
インターハイで交流が生まれた弘世菫と松実宥。
でも、関係を進展させるきっかけがないため、
映像の世界に没頭する宥。
その病的な姿に心を痛めた新子憧は、
現状を打開することを提案するが…
宥「こ、このお話の続きです…」
<登場人物>
弘世菫,松実宥,新子憧,宮永照,高鴨穏乃,松実玄
<症状>
異常行動,依存(宥)
※ほのぼの宥姉が好きな方は、
前回で一応キリはついてるので
こちらは読まないことをお勧めします。
<その他>
※照は病んでません
※話的にはそんなに重くないです。多分。
--------------------------------------------------------
「ゆ、宥姉…ま、また見てるの…?」
「う、うん、また、新しい動画が手に入ったから……」
今日もまた、宥姉はポータブルプレイヤーと
にらめっこしている。
画面をチラ見すると、そこにはいつも通り
藍色の髪を身にまとった長身の女性…
そう、弘世菫さんの姿が映っていた。
「わ、わぁ…弘世さん…すごいつめたい目……」
インターハイ以来、宥姉は暇さえあれば、
こうやって弘世さんの映像を見るようになった。
最初こそ、微笑ましいなぁなんて思いながら
生温かくその様子を眺めてたんだけど…
毎日毎日このありさまだと、
正直ちょっと病的なものを感じてしまう。
「あ、ほら、憧ちゃん!また新発見だよ!
弘世さんね、ちょっとストレスを感じてる時は、
左目がピクッて2ミリくらい下がるんだよ!」
ゾッ…
(どんだけ細かくチェックしてんのよ!?)
また、宥姉の新発見。これがまた、
普通の人なら絶対に気づかないような些細なもので。
今の宥姉が普通じゃないことを
否が応でも再認識させてくれる。
これはさすがに、外野が止めてあげないと
まずいんじゃないだろうか。
「ちょ、ちょっと、玄…何とかしなさいよ…!」
「え、えーと、おねーちゃん?
そんなに動画ばっかり見てないで、
もういっそ本人に
会いに行っちゃったらどうかな?」
「そうしたいのはやまやまだけど…
東京まで行くと、いっぱいお金かかっちゃうし…
動画で我慢するよ…」
「だったらせめて携帯とかで
連絡とればいいじゃない」
「れ、連絡先知らないし…
こ、これならいつでも見れるから…」
そう言って、再び映像に没頭する宥姉。
いやいや、見てるこっちが参ってくるんだってば…
「そ、そうだ!だったら、練習試合とか組むのはどう?
今だったらうちもそこそこ名前売れてるし、
もしかしたら受けてくれるかも!
それなら部費で行けるでしょ!?」
「それだよ憧ちゃん!さっそく
赤土先生にお願いしてみよう!」
善は急げ。私たちはさっそくハルエに提案する。
そしてハルエは私たちの期待通り、
あっさり白糸台高校との練習試合を取り付けてくれた。
「奈良だったら観光にもちょうどいいし、
慰安旅行もかねてこっちに来るってさ」
しかも、こちらから出向くのではなく、
向こうからわざわざ遠征に来てくれるらしい。
さすが強豪校は気前がいい。
「わ、わぁ…弘世さん、こっちに来てくれるんだぁ…」
ようやくポータブルプレイヤーから目を離す宥姉。
ぱあぁ…っていう効果音まで聞こえてきそう。
そうしてくれてれば、
いつものかわいい宥姉なんだけどなぁ…
まぁ、私たちにできるのはここまで。
後は弘世さんが何とかしてくれることを期待するしかない。
頼んだわよ…シャープシューター!
私は神に祈る気持ちで空を見上げた。
--------------------------------------------------------
練習試合当日。
私達は阿知賀の部室で一堂に会して、
互いに挨拶をかわしていた。
「お招きくださってありがとうございます。
本日はよろしくお願いいたします」
礼儀正しくお辞儀する弘世さん。
その振る舞いはとっても洗練されていて、
さすがお嬢様学校だなぁと感心する。
あ、うちもお嬢様学校だったわ。
(まぁでも、弘世さんが来てくれてよかったわ)
とりあえず最難関をクリアして、
私はほっと安堵のため息をつく。
今はインターハイも終わって、
ちょうど世代交代の時期。
三年生である弘世さんが、練習試合に
参加してくれる保証はなかったのだ。
「わぁあ…弘世さんだよ…!本物の弘世さんだぁ…」
喜びのあまりぴょんぴょん跳ねる宥姉。
こんなテンションの宥姉は今まで見たことがない。
まぁ、これだけ喜んでくれると、
提案した甲斐があったというものだけど…
いったいインターハイで
何があったって言うんだか。
「ほら、こんなところで跳ねてないで、
直接お話してきなよ」
「で、でも…すぐそばに宮永さんいるし…
私なんかが出て行ったら、お邪魔じゃないかな…」
目を伏せて表情を曇らせる宥姉。
ああもうめんどくさい。
そうやってためこんじゃうから、
ヤンデレみたいになっちゃうんだってば!
「宮永さんならただのお菓子好きの
優しい人だから大丈夫だって…
ほらほら、いいからさっさと行く!」
「わ、わわ…憧ちゃん、押さないでぇ…!」
--------------------------------------------------------
「ああ、松実さんじゃないか!お久しぶり」
「お、お久しぶりです…」
「照、この人が松実宥さんだ」
「いや…紹介されなくてもインターハイの
対戦相手くらい知ってるけど…
いつの間に仲良くなってたの?」
「対局後に何度か話す機会があってな」
「は、はい…」
「ふーん…それで、今日行くことにしたんだ…」
「っていうと、もしかして今日、
来なかったかもしれなかったってことですか?」
「うん。白糸台はもう引継ぎが終わってるから…
菫が行くって言わなかったら、私も来なかった」
「そ、そうだったんだ…」
わーお。結構本気で危なかったんだ…!
これで弘世さんが来てなかったら、
宥姉ガチで病んじゃうところだったわ…
「憧ー、空いてるなら一緒に打とうよー!」
「はいはい今行くわよ。じゃぁ、
呼ばれてるんで私もちょっと打ってきますね」
「え、あ、憧ちゃん、行っちゃうのぉ…?」
「憧ー!はーやーくー!!」
「あーもうちょっとくらい待ちなさい!
じゃぁ、後は3年生同士親睦を深めてくださいな」
正直、今の私にとっては練習試合なんかより、
宥姉の方が気になるのは事実なんだけど…
だからって、ずっと宥姉にべったり
くっついてるわけにもいかない。
情けない声をあげながらくっついてくる宥姉を振り払って、
私はその場を退散することにした。
--------------------------------------------------------
松実宥さん。
毎日菫と打っていた私ですら気づかなかった、
菫の癖を見抜いた人。
その癖の内容は、射抜く相手を定める前に、
右手が数ミリぴくりと動いた後、
射抜く相手の方向を見るというもので。
あの日、帰ってきた菫に言われて
再度映像を見直してみたけど、正直違いはよくわからなくて。
結局指の部分を拡大して、ようやくわかるという代物だった。
これを見つけられるなんて、
私と同じ特殊な能力の持ち主なのかな?
と思って照魔境を覗いてみたりもしたのだけど。
松実宥さんは…特にそんな能力は持っていなかった。
ただ、赤い牌が集まりやすい…それだけ。
じゃぁ、どうやって見つけたんだろう、
と疑問に思ったわけだけど…
期せずして、その理由はすぐにわかった。
「ロン…8000」
「や、やられちゃいました…そっかぁ…
あのくせは、そっちの意味だったんだぁ…」
「あの癖?また私の癖を見つけたのか?」
「あ、はい…弘世さんって、対局中に
左肩が3mm左に2回動くことがあるんですけど…
それが、聴牌したことを示すのか、
それともターゲットの不要牌の判断がついたのか、
どっちの意味かわからなかったんです…
今ので、不要牌の判断がついた時の
くせだったんだってわかりました…」
「そんな癖があったのか…よく見つけたもんだ」
「…そんな癖、どうやって見つけたの?」
「あ、はい…私、毎日ポータブルプレイヤーで
弘世さんの動画を確認してるんです!」
「…!?……なんで?」
「も、もっと、弘世さんのこと知りたいから…
これで、また一つ弘世さんに詳しくなりました!」
「ははっ…こいつはしてやられたな。
だが、そうして暴露した以上、
私はもうその癖は出さないぞ?」
「そ、そんなぁ…せっかく見つけたのに…」
「ま、次見つけたら隠しておくんだな。
私としては、教えてくれた方がありがたいが」
はははっ…
なごやかな談笑に包まれる雀卓。
え、何これ笑うところ?
もっとも、笑ってるのは菫と松実宥さんだけなんだけど。
仲間はいないのか、と思ってふと横を見ると…
運悪くこの雀卓に入ってしまった松実玄さんは、
青ざめた顔でひきつった笑みを浮かべていた。
あ、よかった…やっぱりこれ、引くところだよね?
--------------------------------------------------------
「と、言うわけで…ちょっと
最近の宥姉はおかしいんですよ」
「なるほど」
ひとしきり対局が終わった後。
話しかけてきた新子さんから、
大まかな状況を確認することができた。
「今日、宥姉と対局したんですよね…?
弘世さんの反応はどうでした?」
「菫?普通に談笑してたけど」
「あ、あの宥姉を前に談笑!?」
新子さんが驚くのも無理はない。
正直、私もちょっと怖かったし。
でも…
「菫は菫で普通じゃないから…」
「そ、そうなんですか…?」
「うん。菫は別に病気ってわけじゃないけど…
神経が尋常じゃないくらい図太い」
どのくらい図太いかっていうと、
屋上に呼び出されて告白された挙句、
断ったらむりやりキスを迫ってきた後輩と
次の日談笑できるくらい図太い。
「だから…菫が宥さんをたしなめることは
期待しないほうがいい」
多分、菫は彼女の行為を異常として
認識しないだろうから。
「そ、そんな…じゃぁ、宥姉はこれからもずっと
あのヤンデレ状態のままってこと!?」
絶句する新子さん。気持ちはわからなくもない。
私だって、仮に菫がずっと宥さんの映像に没頭して
一人でにやにやしてたら、ちょっと…
いや、かなり扱いに困る。
「と言っても、私は別に今のままでも
特に困らないんだけど」
「そ、そこを何とか!!」
「まぁ、宥さんのためにも、菫からそれとなく
注意するように打診してみる」
「お、お願いします!どうか!どうか!!」
深々と頭を下げる新子さん。
その声には並々ならぬ熱意がこもっていて…
相当苦労してるんだろうなぁ、
という事がうかがえた。
--------------------------------------------------------
新子さんとの会話を終えて、菫の元に戻ってくると。
菫はタブレットで何かの映像を確認していた。
「…菫、何見てるの?」
「ああ、照か…ほら、さっき宥さんが
私の癖について言及していただろう?
あれが本当か確認している」
ああ、自分の映像か…よかった。
てっきり松実宥さんのアレが伝染したのかと思った。
…というか、
「名前呼びすることにしたんだ」
「ああ…名字だと妹さんと区別しにくいからな」
(きっと松実宥さん、大喜びしたんだろうな…)
満面の笑みでぴょんぴょんと跳ねる
松実宥さんの姿を思い浮かべながら
ぼーっとしてると、ふいに菫に声をかけられる。
「なぁ、照…もしお前だったら、
次にいつ対局するかもわからない、
2回対局しただけの選手の映像を
延々と分析し続けたりするか?」
「…まぁ、しないよね。菫は?」
「私もしない。…だとしたら、
彼女はどうして私の映像を見続ける?」
「菫はなんでだと思う?」
「普通に考えれば、何かしら
特別な感情を持たれているから、
というのが妥当なところだろうな」
「…だとしたら、菫はどうする?」
「どうすると言われてもな…
こちらも興味を持っているのは事実だが、
正直インハイの時数回話しただけだぞ?」
「まぁ、そうだよね…」
そう、菫は神経は図太いけど、鈍感ではない。
むしろ、やたらモテて告白されまくっている分、
こういうことに関しては、普通の人よりもずっと鋭い。
「ふむ…そもそもお互いのことを
もっとよく知る必要があるな…連絡先でも交換するか」
問題は、自分の影響力を考えないで
あっさりこういう行動に出ちゃうことなんだけど。
(多分これ、今よりひどいことになるんだろうなぁ…)
ふと、これからさらに疲弊することになるだろう
新子さんの姿が目に浮かんだ。
天然さんの被害をこうむるのは、
いつだって周りの世話役だ。
他人事ながら同情の念を禁じえなかった。
「宥さん、ちょっと加減を知らないみたい人だから
メールのやり取りは最初から
ある程度制限かけておいた方がいいよ。
後、ずっと動画見続けるのも
目に悪いからやめさせた方がいい」
でも、私にできるのはこのくらい。
ごめんね、新子さん。
--------------------------------------------------------
「えへへ…」
にへらーっと笑う宥姉。
部室に帰ってきてからずっとこんな感じだ。
これは、間違いなく何かあったわね…
「宥姉、ずいぶんご機嫌だけど…
なんかいいことでもあった?」
「え、えへへ…やっぱり、わかっちゃう?」
わからいでか。
「え、えっとね…菫ちゃんにね、
名前で呼んでもらえるようになったの…」
そう言いながら、頬を赤らめる宥姉。
おお、それは大進歩じゃない。
「で、でね…連絡先ももらっちゃった…」
「マジで!?」
「で、でもね…あんまり
動画ばっかり見てると目が悪くなるから、
控えめにするようにって怒られちゃった…」
(グッジョブシャープシューター!!)
何よ、やるじゃないシャープシューター!
この迅速な対応、さすがあの白糸台高校の
麻雀部部長を務めきっただけはある。
完璧な対応だわ!
私は心の中で小さくガッツポーズした。
--------------------------------------------------------
こうして、宥姉正常化を目的とした練習試合は、
無事成果を出して終了したかのように見えた。
でも、私はその時気づくべきだったのだ。
その成果が、以前よりもさらに
深刻な事態をもたらすことになることに…
--------------------------------------------------------
その日から、宥姉はずっと携帯とにらめっこするようになった。
「……」
じっと携帯の画面を見つめる宥姉の顔には、
うっすらとクマができている。
「……ゆ、宥姉…?」
「……」
「宥姉!」
「…!な、なぁに、憧ちゃん?」
「…夜、ちゃんと寝てる?」
「…ね、寝てるよ?い、今のはちょっと、
そう、集中してただけで…」
うつろな表情でたどたどしく答える宥姉。
いやこれ、絶対寝てないでしょ…
「寝なきゃだめじゃない…」
「で、でも…いつ菫ちゃんから
メール来るかわからないし…」
「はぁ、もう…いい、宥姉?
メールってのはね、自分の都合のいい時に
見るために使うもんなのよ?」
「基本はほっといて、気がついた時に確認して
返信すればいいんだって」
「…そ、そんなの駄目だよ…
菫ちゃんを待たせちゃう!」
「宥姉…動画と違って、携帯は双方向なんだからさ…
あんまり重いと、迷惑がられちゃうよ?」
「す、菫ちゃんはそんなこと言わないもん…
昨日だって、私が出したメール、
全部返信してくれたんだから…」
「え!?弘世さん、全部返信してくるの!?」
「う、うん…だから、菫ちゃんも、
楽しみにしてくれてるはずだよ…?」
「えーと…そのメール、
いつも何通くらい送ってるの?」
「え?わ、わからないけど…いっぱい?」
あーもうこれ、絶対洒落になんない数のメール送ってるわ…
というか、そこは律儀に返信してないで
叱ってあげてよシャープシューターさん…!
私は人知れず頭を抱えた。
--------------------------------------------------------
「む、また宥からメールだ。精が出るな」
「…精が出るのは菫の方だと思うけど…
なんか、目を離したらメールばっかり打ってない?」
「部活の時間は自粛しているが」
「逆に言えばそれ以外はほとんどでしょ」
「いや、そうでもないぞ?
夜も睡眠不足になるから
メールしないようにしているからな」
「…ちなみに、毎日何件くらいやりとりしてるの?」
「いちいち数えてはいないが…
どれ、数えてみるか。…うん、昨日は412件だな」
「菫、覚えておいて。その数は、普通の人からしたら
完全に病気としか思えない数字だから」
--------------------------------------------------------
『ちょっと照姉、なんとかしてよぉ!』
『…もう、気にしない方がいいんじゃない?
ちょっと普通じゃない同士で
お似合いだと思うけど』
『いやいや無理だってば!
メールが届かない時は無表情で
ずっと携帯を凝視してるし、
届いたら届いたで、そのたびに
満面の笑みでそれを見せられて
自慢される私の身にもなってよ!』
『…じゃぁ、何か他に熱中できるような
題材を与えてあげたら?』
『今の宥姉に、弘世さんより熱中できるものなんて…!』
『……』
『…そっか。弘世さんをダシに使えばいいんだ』
『そういうこと』
--------------------------------------------------------
連休明け。部室でシズとまったりしていると、
玄が血相を変えて飛び込んできた。
「あ、憧ちゃん…おねーちゃんに、何か言った!?」
「うん。東京に行って、弘世さんと同じ大学に通ったら
弘世さんと交流し放題だよー?って」
考えてみれば、単純なこと。
弘世さんをダシにすれば、宥姉は何だってする。
だったら、それを正しい方向に導いてあげればいい。
「そ、それでいきなり、あんな猛勉強始めたんだ…」
「うん、効果てきめんだったでしょ?」
「効き目ありすぎだよ…おねーちゃん、
お部屋から一歩も出てこないで、
ず〜っと勉強してるんだよ!?」
「無為に携帯の画面眺めてるよりずっと有意義じゃない」
まぁ、根本的な解決にはなってないし、
毎日宥姉と顔を合わせ続ける玄には悪いけど…
「おねーちゃん、卒業したら松実館で
女将修行する予定だったのに…
家族計画が完全に白紙状態だよ…」
「どうせ今の宥姉が就職したって、
まともに仕事できるわけないってば」
松実館的にも、将来の女将がこのまま
ヤンデレになるくらいなら、
ちょっとくらいモラトリアム挟んでも
まともになってくれた方がいいでしょ?
「と、いうかね…」
「悪いけど私、もう宥姉にかまってる暇ないのよ」
そう言って、私は問題の人物に顔を向ける。
そこには、目から光を失ったシズの姿があった。
しまった…ちょっと放置しすぎちゃったみたい。
「ねぇ、憧…今は私と遊んでるはずだよね?
なんで玄さんと話してるんだよ?」
「あ、シズ!手錠は駄目!跡がつくじゃない!」
「うるさい!憧が私をほおっておくのが悪いんだ!!」
あーもう、なんで私の周りにはヤンデレばっかり
集まってくるのよ!?
--------------------------------------------------------
翌年、四月。
--------------------------------------------------------
満開の桜の花びらが空を舞う中、
私たちは大学のキャンパスを歩いていた。
「さて、必要なものはあらかた揃ったし、帰るとするか」
「うん」
私の横を歩くのは、私服に身を包んだ菫ちゃん。
突然おしかけた私を、菫ちゃんは
いやな顔一つしないで受け入れてくれた。
「新居の方は、私が独断で決めてしまったからな。
気に入ってもらえるといいが」
「菫ちゃんがいるなら、私はどこでも大丈夫だよ?」
「そう言ってもらえると助かる」
それどころか、住むところを決めてないなら
ルームシェアしないか?と提案されて今に至る。
菫ちゃんのことは、動画でいっぱい見続けた。
それこそ、何十回、何百回も。
連絡が取れるようになってからは、
毎日メールで言葉を交わし続けた。
それこそ、何千回、何万回も。
それでも、こうして直接会ってお話してると…
まだまだいっぱい、知らなかった菫ちゃんが見えてくる。
例えばほら、こうして横を歩いていると、
ほのかに香る菫ちゃんの香り。
こうしていっしょに歩いていると、
歩みが遅い私に合わせて、
さりげなく歩幅をせばめてくれる
菫ちゃんの優しさ。
私はまだ全然、菫ちゃんのことを知らない。
「家電はこっちで一通りそろえたが…
何か欲しいものはあるか?」
「え、えっと…ビデオカメラが、ほしいかも…」
「ビデオカメラか。何か撮りたいものでもあるのか?」
「え、えっと…その…菫ちゃん」
「なんだ、まだ観察したりないのか?
直接現物を見ればいいだろう?」
「な、何度も見返したいから…だ、駄目かな?」
「別に構わないさ。ただ、それなら
今度は私も君を観察させてもらうからな?」
「わ、私なんか見ても、おもしろくないよ…?」
「その言葉、そっくりそのままお返ししよう」
そう言って、朗らかに笑う菫ちゃん。
あぁ、なんてあったかい人なんだろう。
最初は、すごくつめたい人だと思った。
こんなにつめたい人、他にはいないと思った。
でも、その瞳の奥には、あったかさが隠れていて。
知れば知るほど、菫ちゃんは、あったかくなっていく。
そうやって、私を芯からあっためてくれるんだ。
菫ちゃんのこと、もっともっと知りたいな。
私はこれからも、菫ちゃんの観察を続けていく。
(完)
この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/102423817
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。
この記事へのトラックバック
http://blog.sakura.ne.jp/tb/102423817
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。
この記事へのトラックバック
しかしシズは意外なほどヤンデレがしっくりくる。
もしや相手ではなく菫さんの方に魔性の何かが!?
菫「なるほど、つまりお前はGみたいなものなんだな?」
憧「憧穏は伏線。これを見て憧穏を望む人が多いようなら次は憧穏!」
宥「私の話も…リクエストがあればもう少し続くかも」
この度量ある菫さんSSでは新鮮でgood