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【咲SS:久咲】咲「あれ…気づいたら私、部長がいないと生きていけなくなってる」【後編】

<シリーズの趣旨>
黒久さんと白咲ちゃんシリーズ。
部長の天然な真っ黒さに触れているうちに、
徐々に白咲ちゃんも黒く染まってしまいます。

<あらすじ>
宮永咲です。
優しい部長に支えられながら、インターハイを目指しています。
お姉ちゃんと仲直りするために頑張ります!

前編はこちら。

<登場人物>
竹井久,宮永咲,染谷まこ,原村和,片岡優希

<症状>
共依存
異常行動

<その他>
※2014/08の、宮永家の事情が判明してない時期に書いてます。
今後の原作とは大きく矛盾するであろう点にご注意を。
※途中から原作と大きくキャラが乖離しています。ご注意を。

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一日中部屋にいました。


何もする気が起きなくて。
でも、眠ると、あの日のことを夢に見て。


だから、ずっと起きてました。
ずっと、部屋の隅で座りこんでました。


もう、死んじゃおうかな


なんて、ぼんやりと考えることが多くなって。
無意識にカッターに目がいったその時。


部長が、私の部屋に入ってきました。


部長の目には、私はどう映ったのでしょうか。


髪の毛はボサボサで。
お風呂に入ってなくて。
服もずっと着替えてなくて。


正直、汚物と言われても言い返せないくらい
ひどい状態だったのに。


部長は何も言わないで、ただ、私を抱きしめました。
部屋の隅っこで体操座りする私を、
ぎゅっと包み込むように抱きしめました。


ずいぶんと長いことそうしていました。


部長は、私に何も言いませんでした。
きっと、わかっていたんだと思います。
私には、もうしゃべるだけの気力もないって。

だからただ、ただ抱きしめてくれました。




……




どのくらい時間が経ったでしょうか。
不意にぐぅーっと、お腹が鳴る音が響きました。


私のではありません。
となればそれは、部長のものでした。


そのことに対して、部長は何も反応しませんでした。
いつの間にか少しだけ回復していた私は、
気づけば部長に話しかけていました。


「…何か、食べた方がいいです」


「それを言うなら、咲の方でしょう?」


「…私は、もういいんです」


「だったら、私ももういいわ」


「……死んじゃいますよ」


「咲もね」


「…私は、もういいんです」


「だったら、私ももういいわ」





「あなたが死を選ぶなら、私もそうする」





そう言って、部長は微笑みかけました。


不意に、涙があふれてきました。
もう、流し尽くしたと思っていた涙。
一度流れ出した涙は、堰を切ったようにあふれ出し、
止めることができなくなって。
私は、部長にすがりついて泣き続けました。
いつまでも、いつまでも。


部長は、優しく受け止めてくれました。

ただ、私の背中をやさしくさすりながら、
冷え切った私を、あっためてくれたんです。



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私が元のように動けるようになるまで、
部長はずっとそばにいてくれました。


「…部長は、つらくないんですか?」


「何が?」


「こんな、つまらない私といっしょにいるのに」


「別に、つまらなくはないわよ?」


「そうですか」


「うん」


部長は、私が話しかけない限り話しかけてきません。
ただ、そばにいてくれました。



眠る時も、部長に抱かれて眠りました。

すぐに悪夢で起きてしまいますけど、
そうすると部長も起きて、
私の背中をゆっくりとさすってくれました。

私はようやく、少しずつではありますが、
眠れるようになりました。



ご飯を少し食べるだけで吐き出してしまう私を見ても、
嫌な顔一つしないで、

「少しだけ食べれたね…
 少しずつ、少しずつ戻していきましょう?」

そう言って、頭を撫でてくれました。

おかげで、吐くことに対して感じていた恐怖や、
吐いてしまう事に感じていた罪悪感も
だんだん薄れていき…
少しずつ、ご飯を食べられるようになりました。



私がようやく出歩けるくらいに回復してからも、
部長は私に付き添ってくれました。


「今日は、どこ行こうか」


「学校の、森の中に行きたいです…」


「そっか。じゃ、行きましょ」


「……」


「……」


二人で、てくてくと歩き始めます。
会話はありません。
でも、今さら苦にはなりませんでした。


「……」


「……」


目的についてからも、何をするわけではありません。
ただ、ぼーっとして。部長といっしょにいる。
それだけです。


「そろそろ帰ろっか」

「はい」



帰りも、やっぱり無言です。
でも、私は確かな安らぎを感じていました。




そうこうしているうちに、部長の存在は
私の中でどんどん大きなものになっていきました。


散歩を繰り返すうちに、
どちらからともなく手を繋ぐようになりました。


いつしかその手は、恋人たちのように
指をしっかり搦めあうものに変わっていました。


「咲は方向音痴だから、しっかりと手を繋いでおかないとね」


そう言いながら、悪戯っぽく笑う部長。
私は子ども扱いにほっぺたを膨らませながらも、
繋がれた手を離すことはしませんでした。

その時私は、自分が怒れることに気づきました。
少しずつ、感情が戻ってきたんです。




--------------------------------------------------------



夏休みが終わり、学校が始まりました。



その頃には私は、『部長がそばにいるなら』という
条件付きではありますが、
普通に生活を送れる程度には回復していました。

ですが、さすがにこれからはずっと
部長といっしょというわけにはいきません。
それは、私の中で大きな不安として
暗い影を落としていました。


でも、始業式が終わった後の帰り道。
部長は私に、かわいくラッピングされた
小包を手渡しました。


「何ですか、これ?」


ラッピングを解いて封を切った、その中にあったのは…
かわいらしいピンクの携帯電話。
それは新品で、とても高価な雰囲気を醸し出しています。


「これからは携帯を使いましょう?」

「こ、こんなのいただけませんよ!?」

「あー、違うわ咲。逆」

「逆…ですか?」

「うん。私が咲のために携帯をあげるんじゃなくて、
 私が寂しいから咲に携帯を持ってほしいの」


「私のためだと思って、もらってくれないかしら?」


部長のため。

そう言われると、私には断れませんでした。
何より私自身、部長と離れる不安に
押しつぶされそうだったのです。
私は、素直に部長の好意に甘えることにしました。


「そうそう、携帯を使うにあたって、
 守ってほしいルールがあるわ」

「ルール…ですか?」

「うん。まぁ、強制はしないけどね」

「まぁ、といってもルールはたった一つ。
 その携帯は私以外の連絡を取るのには使わないこと」

「はい」


私は素直に頷きました。むしろ、部長以外の人と
交流できるほど回復していない私としては、
その方がありがたいと思いました。
これも、私に対する部長の気遣いなのかもしれません。


「もう一つ、こっちも受け取って」


そう言って、部長はもう一つ包みを私に渡します。
中を開けてみると、その中には…


「ノート…ですか?」

「うん。授業中とか、携帯を使えない時もあるでしょ?
 そんな時、私に対する思いを書いてくれるとうれしいわ」

「私も書くから、ね?」


そう言って、私に渡したものとおそろいの
ノートを取り出してにっこりする部長。
一種の交換日記みたいなものでしょうか…
そう考えると、なんだかちょっとだけワクワクしました。



家に帰って部長と別れてから、
さっそく携帯電話を取り出して、
アドレス欄を確認します。
そこには、「竹井久」の文字だけが
表示されていました。

私は何だか、急に声が聞きたくなって、
気づけば通話ボタンを押していました。


『やっほー、咲。携帯の使い方は大丈夫みたいね』


プルルル…と1回コールされた後、
携帯電話から聞こえる部長の声。
私はほっとしました。
これなら、何とかなりそうです。


その日は一晩中部長とおしゃべりしました。


気がつけば、空が白んでいて。
私はあわててお弁当を作り始めます。
それでも、携帯電話で部長との会話は続けながら。


そのうち、部長が家にやってきました。
部長は、眠たそうに目をこすりながらも、


「こういうのも楽しいわね!」


と笑いかけてくれました。



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次の日。

私は、授業の始まりと同時に、
部長がくれたノートを広げました。


「わぁ…」


思わず笑みがこぼれました。
なぜなら、そこには部長から私に向けた
メッセージが書かれていたからです。


『咲へ。
 
 授業が始まるなり、いきなりこの
 ノートを開いたりしてないわよね?

 勉強もしなくちゃだめよ?

 でも、もし退屈したり、
 寂しくなった時には…
 私のことを思い浮かべて、
 このノートにそれをぶつけなさい。
 きっと、楽になるから。

 そうそう、こっちでもルールを一つ。
 このノートは、1日一回1ページ
 私の名前で埋め尽くすように!

 なぜって?

 私がいなくて寂しい時に
 やってみるとわかるわ。
 なぜだか気持ちが落ち着くから

 あなたの竹井久より』



完全に行動が読まれていることに、
少しだけ気恥ずかしさを感じもしましたが、
それすらも少しうれしくて。

部長らしさが伝わるメッセージに
ほっこりしながらも、少し疑問が浮かびます。
名前で1ページ埋め尽くす…
その行為の意味が、
私にはよくわかりませんでした。
正直に言ってしまえば、
ちょっと普通じゃないかな、
とも思いました。


でも…部長のメッセージの通りだったんです。


程なくして、すぐに寂しさが募ってきました。
それも仕方のないことだと思います。
だって、夏休みだった二週間くらいは、
今くらいの時間帯は、いつも部長が
そばに居てくれたのですから。


『1日一回1ページ
 私の名前で埋め尽くすように!』

『私がいなくて寂しい時に
 やってみるとわかるわ。
 なぜだか気持ちが落ち着くから』


その言葉に従って、
私はノートに鉛筆を走らせます。


『久』


なんだか、少しだけ寂しさが薄れたような気がしました。
続けて、2回目を書き出します。


『久』『久』


そのまま、三回目をつづって…


『久』『久』『久』


止まらなくなります。


『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』


キーンコーンカーンコーン…


気が付けば、授業が終わっていました。
チャイムの音でふと我に返って鉛筆を止めると…


ノートが、部長の名前で埋まっています。


それを見て、自分がしたことなのに、
私は怖くなってしまいました。


それはなんだかまるで、狂っているように見えて。


こんなノートを見せたら、
部長に嫌われてしまうかもしれません。

部長が決めたルールには、『1ページ』と
記されています。
むしろ部長は、戒めの意味でページ数を
限定したのかもしれません。

でも、名前はすでに3ページ
埋め尽くされています。


私は散々迷った末、1ページだけ残して、
部長の名前を消しました。



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お昼休み。私は屋上で部長のことを待っていました。


「咲ー!おまたせー!」


軽やかな部長の声に、思わず気持ちが浮き足立ちます。
私は部長がこちらにたどり着くのを待たず、
部長に駆け寄りました。
自分が思っていた以上に、部長に飢えていたようです。

二人で私が作ったお弁当を広げながら、
私たちはその日あったことを
お互いに語りあいました。


「そういえば、あのノートどうだった?
 何か書いた?」

「あ、はい……名前、書いてみました…」


思わず言いよどんでしまいました。
止まらなくなって3ページも
書いたということがバレたら、
部長に気味悪がられてしまうかもしれません。

でも、それが杞憂だということは
すぐわかりました。


「あ、やっぱり?実は私も書いちゃった。ほら」


部長は自分のノートを持ってきていました。
部長が広げたページは…私の名前で、
びっしりと埋め尽くされていました。


『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』
『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』
『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』
『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』
『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』
『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』
『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』
『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』
『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』
『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』
『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』
『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』
『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』
『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』
『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』
『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』
『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』
『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』
『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』
『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』
『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』
『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』
『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』
『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』
『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』
『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』
『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』
『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』
『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』
『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』
『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』
『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』
『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』
『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』
『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』
『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』
『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』
『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』
『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』
『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』『咲』


思わず背筋が凍りました。


名前の羅列は、ページをまたいで、
さらにめくってもまだ続いていて…
私と同じ、3ページに渡って綴られていたのです。

客観的に行為を見せつけられたことで、
私はその異常性をはっきりと認識しました。


これは、してはいけないことだ


そう、直感的に思いました。


でも。


「咲は、何ページ書いたの?」


なんて、楽しそうに私に尋ねてくる部長を見ると…
これが異常だなんて言い出せなくて。
つい


「さ、3ページ、です…」


と、本当のことを答えてしまいました。
そしたら、部長は目を輝かせて。


「3ページ!?一緒じゃない!!
 私たち、やっぱり何か通じるものでもあったのかしら?」


と、嬉しそうに満面の笑みを見せてくれたのです。
そして、私をぎゅっと抱きしめてくれるものだから。


私は、考えるのをやめてその温かさに
没頭してしまいました。



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その日、私はインターハイが終わってから初めて
部活に顔を出しました。


「ご迷惑をおかけしました…」

「気にせんでええ。わしの方こそすまんかったな…
 咲が苦しんどること、気づいてやれんかった」

「い、いえ…私の、個人的な理由ですし…」

「そんなの関係ないじょ!咲ちゃんが悩んでるなら、
 私たちはいつでも力になるじぇ!」

「ゆーきの言うとおりです…
 私たちは、仲間じゃないですか…!」

「みんな…ありがとう…」


ほぼ無断でずっと部活を休んでいたのに、
みんなはそんな身勝手な私に
温かい言葉をかけてくれました。


そう、私はもうずっと前から、
一人じゃなかったのです。


その時私は、いかに自分が
周りを見ていなかったかに気づきました。
また少しだけ、自分の身体が
軽くなったような気がしました。


でも。


「じゃぁ、早速打つじぇ!」


優希ちゃんにそう促された時、
足がすくんでしまいました。

私の足が向かう先にある自動麻雀卓。
なぜだかそれが、とても近寄りがたいものに思えたのです。

きっとそれは、「あの時」のことを
思い出してしまうからでしょう。


そう、お姉ちゃんの…冷たい目。


それでもそれは、いつかは乗り越えなければいけない壁です。
私は、意を決してそれに近づこうとして…


「はい、ストップ」


部長に止められました。


「今の咲にはまだ早いわ。
 今日は見学にしておきなさい?」


私の肩に手を置いて、優しく微笑む部長。
やっぱり、部長には全部お見通しだったのです。

次の刹那、部長は真剣な顔をして、
私に諭すように言いました。


「咲、これからあなたにすごくひどいことを言うわ」


そこで、部長は一呼吸置きました。
私も、普段とは違う部長の雰囲気を感じ取って、
思わず身構えます。


「あなたの中で、お姉さんの存在は、
 とてもとても大きなものなのだと思う。
 それこそ、私なんかが口を出せないほどに」


「でも、あえて言うわ」


「お姉さんのことは、もう忘れなさい」


「これは、あくまで私の考える家族像だけど…
 家族っていうのはね。
 お互いを支え合うから家族なのよ」


「どちらが悪い、責任があるとか、
 冷たい正論をぶつけあうんじゃなくて、
 いいところも悪いところも、
 受け入れてあげるのが家族なの」


「今回の件…お姉さんに非はないのかもしれないわ。
 でもね…はっきり言って、私から言わせれば、
 お姉さんは家族失格よ」


「咲が、こんなに頑張って、こんなに傷ついているのに…
 手を差し伸べない人」


「そんな人に、いつまでも執着してあげる必要はないわ」


「だから、もう忘れなさい」


「あなたにはもう、大切な人がいるでしょう?」


そう言って、部長は私を抱きしめました。
私は何も言わないで、ただ部長に身をゆだねました。


もし同じ言葉を、インターハイ前に言われていたら…
私は、絶対に受け入れなかったと思います。


でも…実際にお姉ちゃんに拒絶されて。
全てに絶望して、死んでしまおうかとすら思って。
そして、部長に救われて…
私は今、みんなの前に立っている。


私にはもう、お姉ちゃんは
いらないのかもしれません。


結局その日、私は麻雀を打ちませんでした。
でも、楽しそうに麻雀を打つみんなを見て。
麻雀を打ちながら、私に笑いかけてくれる部長を見て。


私は、部長の言葉を受け入れようと思ったんです。


それからしばらくは、平和な日々が続きました。
朝部長が迎えに来てくれて、手を繋いで学校に登校して。
会えない間は、つらい思いをノートにぶつけて。
会える時は、思いっきり部長にあまえました。
そして、帰りもやっぱりいっしょに帰って。
帰ってからの会えない時間は、
メールと電話で乗り切りました。


ただ、ノートに名前を書く行為だけは、
ルール通り、1日1ページに留めました。
理由はうまく説明できませんけど、
なんだかそれ以上は進んではいけない気がしたのです。



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でも、ある日を境に、私はその戒めを
あっさりと破ってしまいました。

部長が、いなくなったからです。





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別に、行方不明になったというわけではありません。
ただ、親戚の法事があるだとかで、
一日学校を休んだだけの事でした。


私も、学校を休みました。
部長が迎えに来なかったからです。


会えない寂しさを、メールにのせて届けようとしました。

でも、部長から返事は来ませんでした。
弔辞だから電源を切っていたんだと思います。
それでも私は、メールを送り続けました。
でも、返事は来なくって。
私はだんだん、冷静さを保てなくなってきました。


焦り、不安、寂しさ、悲しみ。
いろんな気持ちがないまぜになって。
なんだかもうどうしようもなくなって。


叫び出しそうになった時。
視界の隅に、あのノートが映ったのです。


震える手で、とっさに一文字書き込みます。


『久』


そのまま、筆を止めることなく
二文字目を書き込みます。


『久』『久』


私は、一心不乱に書き続けました。
もう、止めることはできなくて。


『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』


ひたすら、ひたすら書き続けました。

やがて、ノートは終わってしまって。
なのに、まだ足りません。

名前、書かないと落ち着かないんです。

書くもの、探さなきゃ。

あ、これ、余白ある。

『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』


埋まっちゃった。

こっちに、余白。

『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』『久』
『久』『久』『久』『久』


埋まった。


こっち。余白。埋まった。

あっち、余白。うまった。

もう、かくものがない。

でも、たりない、全然たりない。

やだよ、ぶちょうがたりない。

もっと、もっとかかなくちゃ。

もっともっともっともっともっと


ピンポーン


そこに突然鳴り響いた、
来客を告げるインターホンの電子音。


「ぶちょう!?」


私はすくっと立ち上がりました。


玄関まで駆けて行って、勢いよく扉を開くと…
そこには、黒い喪服に身を包んだ部長がいました。
私は、わき目もふらず部長に飛びつきました。


「ごめんね、来るのが遅くなっちゃって」


部長はそう言いながら、懐からハンカチを取り出して、
私の頬を拭ってくれました。

その時になって初めて、
私は自分が泣いていたことに気づきました。
それも、部長の喪服をぐっしょりと
濡らしてしまうほどに。

私は「あっ」と声を発して、
思わず部長から離れようとします。


でも。


「今さらそんなの気にしないの」


部長に身体を引き寄せられて。
部長の腕の中に閉じ込められてしまいました。


私はもう、諦めて迷惑をかけることにして、
部長の胸に顔をうずめます。
たったそれだけで、
さっきまであれほど私を苦しめていた負の感情は、
まるで霧のようにどこかに消えてしまいました。


その時、私は思ったんです。


(あれ…?きがついたら、わたし…
 ぶちょうがいないと、
 いきていけなくなってる…?)



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たった一日…ううん、半日部長と触れ合えなかったことは、
私にとても、とても大きな爪痕(つめあと)を残しました。
そう、それは…取り返しがつかないほどに。


その日、帰ろうとした部長の手を、
私はどうしても離すことができなくて。


「い、いかないでください…いっしょに、
 いっしょにいてください…」


涙ながらにお願いして、私の家に泊まってもらいました。

次の日になっても、私は部長の手を離せなくて。
学校に着いたら離れちゃうことを想像するだけで、
身体中がぶるぶると震えて。

結局、部長までいっしょに学校を
休んでもらうことになってしまいました。


部長は私を一切責めたりしませんでした。
それどころか、部長は穏やかな笑みを浮かべて、
私に向かってこう言ったんです。


「私も、まだ咲とくっつき足りないから、
 気がすむまでくっついてましょ?」


私は、その言葉にあまえました。
そして、一日が過ぎて、二日が過ぎて…
やがて、一週間が過ぎて…



結局、私の気がすむ日は来ませんでした。



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今、私は部長のおうちに住んでいます。


学校は、やめちゃいました。
だって、部長といっしょにいることができませんから。


部長も、学校をやめちゃいました。
だって、私といっしょにいることができませんから。


一日中、部長といっしょに過ごします。

部屋の中でごろごろしたり、
お外に散歩に行ったり、することはまちまちですが。
部長といっしょ。そこだけは変わりません。


この先、どうなるかはわかりません。
でも、私が部長から離れられないのは、
多分もう一生治らないと思います。


きっと、あの日が分岐点だったと思うんです。
そう、初めてノートに部長の名前を書いたあの日。


多分あの日の時点で、すでに私は狂ってました。
おそらくは、部長も。
ううん、部長はもっと前から
おかしかったのかもしれません。


あの時、自分たちの異常さを省みていれば。
おかしいよって、話し合っていれば。
今とは違った未来があったのかもしれません。


でも私たちは、より狂う道を選んでしまいました。


そして残念ながら、もう
正気に戻りたいとも思わないのです。

むしろ、部長が正気に戻りそうになったら…
私はどんな手を使ってでも、
それを止めようとするでしょう。




この先、私たちはどうなるのでしょうか。

このままの生活を続けていくというのは、
流石に無理があるでしょう。

私は、思い切って部長に聞いてみることにしました。


「部長」

「なに?」

「今の生活…このままじゃ、いつかは破綻しますよね」

「そうかもね」

「どうしましょう?」

「働いてもいいんだけどね…そうすると、
 どうしても咲と離れる時間ができちゃうけど。
 咲は、耐えられる?」

「無理です」

「そうよね。私も多分無理だと思う」

「自宅で働ける方法はないですかね…」

「うーん。実はもう調べてみたんだけどね。
 元手が必要だったり、コネが必要だったり、
 そもそもあんまり稼げなかったりで
 これだっていうのはなさそうなのよね」

「そうですか…」

「ま、その辺を考えるのは私に任せておきなさい。
 何とかしてみせるから。
 咲は、私のことだけ考えてればいいわ」

「はい」

「……」

「……」

「…ねぇ、咲」

「なんですか?」

「もしもの話だけどね?
 このまま、行けるところまで行ってみて、
 維持できなくなる時が来て…
 私にもどうにもできなかったとしたら」

「その時は、二人で逝くってことでいいかしら?」

「はい」


そんなわけで、私の運命は全部
部長に委ねてしまいました。


『維持できなくなる時』が
いつ来るのかはわかりません。

数年後かもしれませんし、数か月後かもしれません。
その時までに、部長が何とかしてくれるかもしれません。


ただ、どう転ぶにせよ、私がすることは一つです。


部長のことだけ考えること。


私がすることは、それだけです。




(久「私のことだけ考えなさい」に続く)
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posted by ぷちどろっぷ at 2014年08月30日 | Comment(7) | TrackBack(0) | 咲-Saki-
この記事へのコメント
咲ちゃんかわいい
Posted by at 2014年08月30日 17:17
てるてると部長が裏でつながっている可能性が
微粒子レベルで存在する?!
Posted by at 2014年08月30日 21:06


すばらです!
Posted by at 2014年08月30日 22:21
段々と染まっていく咲さんかわいい
Posted by at 2014年08月31日 13:58
コメントありがとうございます!

咲さんの可愛さが少しでも伝われば幸い。

>てるてると部長が裏でつながっている可能性が
>微粒子レベルで存在する?!

あなたが神か?
実はその展開もちょっと考えたんですよね…
残滓が読み取れるくらい残っていたんだろうか…
Posted by ぷちどろっぷ(管理人) at 2014年08月31日 22:51
あ〜咲さんと部長がかわいいわ〜
というわけでこれを知ったときの照さんの反応もお願いしたいですはい
Posted by at 2015年02月08日 08:57
>これを知ったときの照さんの反応
照「この話の私は咲とほとんど交流がない。
  だから罪悪感を感じながらも
  普通に祝福すると思う」
久「むしろ私が絶対に会わせないわ。
  咲を拒絶したあなたなんかには」
Posted by ぷちどろっぷ(管理人) at 2015年02月08日 10:38
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