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【咲SS:豊白】豊音「じ、実は…わたし…妖怪なんだー」【狂気】

<あらすじ>
インターハイも終わり、徐々に高校生活の終わりを意識し始める時期。
そんな時期に起きた、宮守女子怪異譚です。

<登場人物>
姉帯豊音,小瀬川白望,臼沢塞,熊倉トシ,エイスリンウィッシュアート,鹿倉胡桃

<症状>
・怪異
・狂気
・思考力低下
・精神崩壊

<その他>
※最初はハートフルシロ監禁飼育物語を書く予定だったのに、
 どうしてこうなった…!?
※書いた本人的にはバッドエンドではないですが、
 見る人から見たら完全に鬱展開バッドエンドかも。 ご注意を。

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春は、好きだけど苦手。
それが私、小瀬川白望の春に対するイメージだ。


凍てつく寒さがなりをひそめて、
ゆるやかに暖かくなってくる日だまりが好き。

寒さの中にありながら温もりを与えてくれる
炬燵もまた格別だけど、
やっぱりただ日向ぼっこで
ぬくぬく眠れた方がダルくない。


でも、春は出会いと別れの季節。


新たな人間関係を構築しなければいけないのは
言うまでもなくダルいし、
何より、せっかく築き上げた人間関係が壊れてしまうのは
この上なくダルい。
だから、春は苦手でもある。


でも、私以上に、そんな春を苦手とする人がいる。


そう、それはトヨネ…姉帯豊音。



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私にとって、春は一番大好きな季節。

だって、お日様がぽかぽかあったかいしー、
お花とかもちょーきれいだしー、
ちょうちょさんとかカエルさんとかも出てきて
なんだかとっても賑やかになるしー。
なんだかこっちまで、うきうき楽しくなってくるよー!


だから、だから…


だからまさか、春が来てほしくないなんて、
そんな風に感じる時が来るなんて、
思ってもみなかったよー…


だって、春になったら…私たちは離れ離れになっちゃう。
せっかく転校して楽しくなってきたばっかりなのに、
私、またぼっちになっちゃうよー…


今回ばかりは…春に来てほしくないよー…



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塞「ねぇシロ、あんたは進路どうするの…?」

白望「朝から進路の話とか…ダル…」

胡桃「ごまかさない!大切な話なんだから!」

エイスリン「シロ、モシカシテ、ニート?」


その日は、進路の話が話題に挙がった。
発端は、私が進路希望調査の紙を出していなかったから。
それで、学級委員の塞に催促されたんだった。


塞「まったくもう…クラスで出してないの、
  もうあんただけだよ?」

白望「…みんなは、もう進路決まってるの?」

塞「私は進学…まぁ、まだ大学は決めてないんだけどね」

胡桃「私も進学!せっかくだから
   外の世界に出てみるつもり!」

エイスリン「ワタシハ、ツウヤク!」


みんなが思い思いの進路を口々に答える。
それは、少なからず私にとって衝撃的なことだった。
そうか…みんなはもう、将来のことを考えているんだ…


白望「…トヨネも、もう決まってるの?」

豊音「私は、村役場に就職すると思うよー」


落雷を受けたような、そんなショックが私を襲う。
正直仲間だと思っていたトヨネまでもが、
明確な就職のイメージを描いていた。


塞「あーもう、とりあえず何も考えてないなら、
  進学って書いときな?後から変更も可能なんだから」

白望「ダル…塞、書いといて…」

塞「はいはい」

胡桃「いや、そこは自分で書かなきゃダメ!
   塞もあまやかさないの!」


いつもの調子で塞にあまえる私。
ああ、思いついた。塞と同じ大学に進学しよう。
塞ならきっと、しっかり行先の
大学のことも調べるんだろうし、
それに乗っかればダルくない。


なんてことを考えていた私は、
ふいに、トヨネの表情に違和感を感じた。

笑顔のトヨネが、泣いているように見えたから。



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トヨネの故郷は、ずいぶんと山奥にある閉鎖された村で、
同年代の友達は存在しないと聞いていた。


毎日自分の部屋でテレビを見て過ごしたというトヨネは、
きっと友達と遊んだりなんてできなかったんだろう。


みんなと麻雀を打っただけで涙をこぼしたトヨネ。
みんなと離れることが寂しくて涙を流したトヨネ。
そんな、人一倍寂しがり屋なトヨネ。


そんなトヨネが、みんなから離れて村役場に就職する?


それ自体は、そこまで変な話ではないはずなのに…
なんだか、ダルいことになる予感がした。



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今日はみんなと進路の話をしたよー。
シロが一人だけ進路希望の紙を出してなくって、
さえに怒られてた!
みんなは怒ってたけど、私はなんだかうれしかったなー。
私も本当なら、先のことなんて考えたくないよー。


「…みんなは、もう進路決まってるの?」


シロがみんなに質問する。
それは、私がどうしても聞きたくて、
それでいて口に出せなかった質問だったわけで。
シロ、グッジョブだよー。


そしたらみんなは口々に、
自分の進路について教えてくれた。
それは…


「進学」「進学」「ツウヤク!」


それぞれちょっと違ったけど、それらはみんな、
私の進路とはかすりもしないって点では一緒だったんだー。


そりゃそうだよねー。
だって私の村役場とか、かするわけないよー。
わかってた、わかってたよー。


わかってたけどー…

わたし、またぼっちになっちゃうよー…



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豊音「ツモ!ホンイツドラ3であがり止めだよー」

塞「かー、またトヨネの一人勝ちかー!」

胡桃「もう何連続だっけ?」

エイスリン「6レンゾク!」

塞「マジで!?トヨネ強すぎでしょ!?」


本日6回目の半荘が終了する。
今日は始まってからずっとトヨネの一人勝ち状態が続いていた。
ちなみに私はダルいから一度も打つことなく、
寝そべって対局を見ている。


エイスリン「トヨネ、マタツヨクナッタ!」

豊音「えへへへへー」


エイスリンの言葉に、トヨネが照れくさそうに笑顔を見せる。
いつも通りの微笑ましい風景。
でも私には、なんだかそれが、ひどく危ういものに見えた。
なんだか、ダルい…
ダルいのが、止まらない…


塞「結局私、トヨネの六曜って全部は破れてないんだよねー」

胡桃「卒業するまでに一度くらいは破っておきたいよね」

塞「友引は比較的破りやすいんだけどなぁ…まぁ、次こそは!」

豊音「…っ。負けないよー!次は友引も破らせないよー!」


最近は、部室でもこういった会話が多くなってきた。
どことなく、この楽園の終わりを感じさせる会話。
そのたびに、トヨネはピクリと反応し、
それでいて何もないように振る舞っている。


コォオオオオオ


豊音「…負ケなイよー。…絶対ニ、マケなイよー」


コォオオオオオ


本日7回目の半荘が開始される。
トヨネの背から這いずり出した影が、辺りを黒く染めていく。
それは、さっきよりも濃さを増していた。



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トヨネの闇が、日に日に、少しずつ濃くなってきている。
トヨネが、おかしくなってきている。
でも、それに気づいているのは私だけみたいだった。


エイスリンは、トヨネが強くなっていると言った。
それは、ある意味では当たっていて、
ある意味では間違っている。

六曜のうち、先負をはじめとする五つは、
確かに強くなっている。

でも…残りの一つ。ある一つだけは、
明らかに弱くなってきている。
その能力の名は…


友引。


そう、友引だけは、力が弱くなっている。
…何かの皮肉なんだろうか。


最後の半荘、トヨネはすべての力を友引にだけ集中させた。
結果、友引は破られなかったものの、
麻雀としては負けてしまった。


でも、負けたその半荘が、トヨネは一番うれしそうだった。
その目には、薄く涙が滲んでいた。



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今日もみんなと麻雀したよー。
といっても、シロはダルいからって
一回も打たなかったけどー。


7回やって、6回私がトップ。
最後だけ負けちゃったよー。
でもみんな、最後の回だけは友引を破れなかった。
私の友引はさいきょーなんだよー。


…友引かー。


麻雀では、友達をひっぱってこれるんだけどなー。
ぼっちの子を、助けてあげられるんだけどなー。


わたしはこのまま、ぼっちになっちゃうのかなー。
それって、すっごくさみしいなー。

さみしいなー…



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白望「ダル…」

豊音「シロ、開口一番それはないよー」


部室の扉を開けると、豊音が一人で麻雀牌をいじっていた。


豊音「みんなはまだ来てないよー」

白望「…今日は、他のみんなは来ない…」

豊音「え、そうなのー?」


エイスリンは家の用事。
塞と胡桃は大学受験の願書を取りに行ったから。


豊音「そ、そっかー…み、みんなは、大変だねー」

白望「…トヨネだって大変だと思うけど…」

豊音「私は、コネ就職が決まってるからねー。
   就職難知らずだよー」


いいでしょー、と胸をはるトヨネ。
その声はかすかに震えていた。


白望「トヨネ…ダルい…膝枕して」

豊音「えぇー、ムシ!?ツッコミ待ちだったのにー」


そう言いながらも、言われるがままに
膝枕してくれるトヨネ。
うん、ダルくない…
でも、これから、すごくダルいことを
聞かなければいけない。


白望「トヨネは…進学しないの…?」

豊音「…シロ、聞いてなかったのー?
   私は就職だよー?村に戻るよー」

白望「それって、豊音の意志…?」

豊音「もっ…もちろんだよー?…村の人への恩返しだよー」


トヨネの声が、わかりやすく震える。
やっぱり、本当は…帰りたくないんじゃないだろうか。


白望「…私が、ついてきて…って言っても?」

豊音「……!?」

白望「……」

豊音「……っごっ…」

白望「…ご?」

豊音「…ご、ごめんねー…」

白望「……」

白望「…私より…村の人の方が、大事…?」

豊音「…その、言い方は…ずるいよー…」

白望「…ごめん」

豊音「……」

豊音「本当は…ついていきたいよー」

豊音「でもねー、だめなんだー」



豊音「ワタシ、ニンゲンじゃないからー」



トヨネの発言に、明らかに違和感のある単語が混じる。
でもそこには、冗談の色は感じ取れなくて…
私には、ぽろりと口からこぼれた真実のように聞こえた。


白望「…どういうこと?」

豊音「わわっ、これ、秘密だったよー!シロ、忘れて!」

白望「…どういうことか教えてくれたら忘れる…」

豊音「それ、忘れる気ないよねー!?」

白望「……」

白望「…トヨネ。教えて」


理由はわからないけど、
これを聞き逃すわけにはいかないと思った。
私は珍しく身を乗り出してトヨネに詰め寄る。


豊音「…なんだか、シロらしくないよー」

白望「…トヨネ…お願い」

豊音「…わかったよー…
   でも、他の皆にはナイショだよー?」

白望「…うん」

豊音「……」

豊音「わたしねー、実はねー…」

豊音「……」

豊音「…じ、じつはねー…」

白望「……」


トヨネはなかなか切り出さない。
躊躇するその声が震えている。
私は、黙ってひたすら答えを待った。





豊音「じ、実は…わたし…妖怪なんだー」




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白望「…何とかならないんですか…?」

トシ「何の事だい?」

白望「トヨネのことです…」


ついに、この時が来てしまった。
部員の中から、豊音の真実を知る子が現れる日が。


トシ「…豊音から、聞いたのかい」

白望「…はい」


珍しく背筋を伸ばし、ダルがる様子もなく
私の目をまっすぐ見据えながら、白望が答える。
…もし気づくとしたら、あんただと思っていたよ。


トシ「……」

トシ「…何とも、ならんさね…」


私は、胸に去来する苦々しい思いを
必死に押しとどめながら、ゆっくりと息を吐き出した。


白望「…じゃぁトヨネは…このまま、
   村に幽閉される…?」

トシ「…そうなるね」

白望「……」

トシ「…あの子はね…本来、
   出てきちゃいけない子だったんだ」


そう、あの子は…
比喩や陰口なんかではない、本当の意味での妖怪。
生まれついた村では、神様として祀られていた。


トシ「でも私が、期間限定であの子を村から連れ出したのさ」


だって…あんな純真無垢な子が、若者もいない辺鄙な村で、
幽閉されたままただ朽ちていくだなんて…
あんまりじゃないか。


トシ「私が、豊音の転校先をこの学校にした理由はね…
   豊音のためだったんだよ」

白望「…塞」

トシ「そう。あの子の異形を塞ぐ力を持ってすれば、
   豊音の中の怪を抑えられながら
   生活できるんじゃないかと思ってねぇ…」


…でも、駄目だった。塞の力は、
確かに豊音の力を塞ぐことはできたけども…
体力の消耗が激しすぎて、
常時発動できるものじゃなかった。


白望「だから次は、インターハイを目指した?」

トシ「インターハイに出て、全国の高校と戦えば…
   中には豊音の中の怪を調伏できる子に
   会えるかもしれないと思ってねぇ…
   そう、例えば…永水とかね」


でも…これも、駄目だった。


トシ「豊音はあまりにも純粋な妖怪過ぎて、
   祓うとそのまま存在自体を消し去ってしまうらしいわ」

白望「…今のまま…気にしないで
   生きていくことはできないんですか…?」

トシ「無理だねぇ」


そもそもそれができるなら、
打開策を求めて奔走なんかしていない。


トシ「あの妖怪はね…年を経ることに力が強くなる。
   そして、力が強くなればなるほど…
   人間らしさを失っていくのさ」

白望「……っ」

トシ「村の人が、幽閉してくれるって言ったね?
   それはね…むしろ最大限の好意なんだよ。
   いくら神様とはいえ、理性を失った化け物を、
   殺さないで飼ってくれるんだからねぇ…」

トシ「結局…あの子は、元の巣に戻るしかないのさ。
   しかも、実はもう…タイムリミットは近い」

白望「…どういうことですか?」

トシ「あの子はもう、自分の力を抑えられなくなってきている。
   理性が少しずつ削れてきているんだよ」

白望「……!!」




トシ「おそらくあの子の理性は…卒業まで持たない」





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春は、好きだけど苦手。
それは、出会いと別れの季節だから。


でも、春までは。
少なくとも卒業までは、
一緒にいられると思っていた。


今は、ただ、春が恋しい。
せめて、春まで、待ってほしい。


でも、それも、かなわない。



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熊倉先生の話を聞いた上で私にできること。
それは、ほとんど何もないに等しかった。


豊音「シロ、どうしたのー?なんか最近、優しいけどー」

白望「…別に…ダルいから、トヨネを頼ってるだけ…」


せめて、私にできること。
それは、トヨネのそばにいてあげることだけだ。


トヨネは自分の身に起きていることを
正確には把握していなかった。
力を抑えるために村に戻る。
そこはトヨネもわかってる。
でも、村に戻れば普通に生活できると思っている。


実際には違う。熊倉先生の推測通りなら、
村に戻る頃にはトヨネの理性はなくなって…
本能に従う獣に成り果てている。
後は、村で家畜同様に飼われるだけだ。


このことは、他の3人には話していない。
話したところで、苦しむ人間が増えるだけだから。


トシ「もう、あんたもこれ以上豊音に深く関わらない方がいい」


熊倉先生は、私にそう警告した。
同情してトヨネに付き添ったところで、
できることは何もない。
むしろ、一緒にいることで、
自分までトヨネに侵食されて
同類になってしまう可能性が高い。
私まで、人生を棒に振る必要はないのだと。


熊倉先生の言う事は、きっと正しいのだろう。
でも、私には…まだ一介の高校生に過ぎない私には、
だからといって、そんなにあっさり友達を
切り捨てることはできなかった。


迷う。


どうすればいいのか、わからない。
ダルくて、ダルくて…仕方がない。



そうやって、私がダルがってるうちに…




トヨネは、消えた。




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塞「どういうこと!?シロ、あんた何か聞いてた!?」

白望「…何も…」

胡桃「聞いてたら黙ってるわけないよ!?」

エイスリン「ハツミミ!!」

白望「……」


突然の転校。
学校から伝えられた事実はそれだけだった。

私はもちろん、他の麻雀部部員にも
何も伝えられていなかったのだろう。
当然ながら、部室は騒然となった。


白望「……」


確かに、突然の失踪については何も知らされてはいなかった。
でも、心当たりはある。
私はみんなと別れた後、タイミングを計って
一人で真相を聞きに行った。


白望「トヨネを、どうしたんですか」

トシ「…理性が完全になくなるまで、
   待ってるわけにはいかないだろう?」


そう答えた熊倉先生は、ひどく憔悴しているように見えた。


トシ「もう、トヨネのことは忘れるんだよ」

白望「…いやです…」

白望「…確かに、トヨネに私ができることは、ほとんどない…」

白望「…でも…そばにいてあげることはできる…」

トシ「だからだよ…!」


珍しく、熊倉先生が苛立っているように見えた。


トシ「…あんたは、こうでもしなければ、
   豊音のそばにいようとするだろう?」

トシ「…それが…どれだけ危険なことかも、私は話したはずだよ」

トシ「それとも、豊音と心中する気かい?」


私には、答えることができなかった。
確かに私は、まだ迷っているけど。
それでも、この終わり方は違うと思った。


でも。


トシ「頼むよ…私だって…教え子を、
   これ以上失いたくないんだよ……!」



肩を震わせながら懇願する先生を前に…
私に何が言えただろうか。



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一週間経っても、二週間経っても、
トヨネは戻ってこなかった。


トヨネは今、どこにいるんだろうか。
これまでの話から考えれば、
村に戻ったと考えるのが妥当だろう。


なら、このまま待っているだけでは
もうトヨネには会えないはずだ。


明日から、トヨネの村を探そう。


私はそう決意して眠りについた。




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夢を、見ていた。


真っ暗闇の中、トヨネが何かに手を伸ばしている。


見えない何かをつかもうと、
がむしゃらに伸ばす手は空を切り、
それでもトヨネは手を伸ばす。


何度も何度も、泣きじゃくりながら。


やがて、トヨネの手が、だらりと落ちる。
諦めたかのように、力なく。


その後は、ただ上を向いて泣き続けた。
子供のように、わんわんと。
誰かの名前を、叫びながら。



シ…ロ…!
…シ……ロォ……!


それは、私の名前だった。



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夜中に私は飛び起きた。
やけに視界がぼやけている。
目をこすると、自分が涙を流していることに気づいた。


私はすくりと立ち上がる。
寝間着そのままに家を後にする。


自分でも、自分の行動がよくわからない。
でも、呼ばれている気がした。
トヨネに呼ばれている気がした。
ここを逃したら、もうトヨネに会えない気がした。
今はもう、ダルがっている場合じゃない。

私は、わき目もふらず駆け出した。



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がむしゃらに走り続けた先にあったのは、
山奥にあった小さな社だった。


本来は神聖なはずであろうその場所は、
ひどく禍々しい、黒い闇に覆われていた。


間違いない、トヨネは今、ここにいる


私は臆することなく、足を踏み入れる。

不法侵入などものともせず、
社の戸に手をかける。

その戸には、何かよくわからない文様の書かれた札が
びっしりと貼り付けられていた。

遮二無二それを引き剥がし、私は戸を引き開ける。


戸を開けた、その奥には…




黒い、大きな塊があった。




「シ…ロ…?」


「トヨネ…でいいんだよね?」


「シロ…?…シロ…!!」


「シロォッ……!!」


黒い塊は私の姿を見つけると、一目散に私に飛びかかった。
体格差も手伝って、私はそのまま押し倒されてしまう。

抱きしめられる様な感触。
よく見れば、それは髪の毛を振り乱したトヨネだった。

よかった…黒い塊のようなものになったのかと思った。

なんてのんきなことを考えながら、
泣きじゃくるトヨネの背中に手を回して、
そのままポンポンと背中をさすり、
頭をなでようとして…

頭に何か、ツノみたいなものが生えていることに気づく。
触っていいのかちょっと迷ったので、
よけながら頭を撫でる。



トヨネはそのまま泣き続けた。

私は、何も言わずトヨネを抱きしめ続けた。



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豊音「シロ…どうしてここがわかったのー…?」


どのくらい時間が経ったのかはわからない。
ようやく少しおさまったトヨネが、
当然の質問を私に投げかける。


白望「…夢で、トヨネが私を呼んでたから…
   起きて、走ったらここに着いた…」

豊音「…すごいよー…シロ、すごいよー…」

白望「…トヨネは…どうしてここに?」

豊音「……」

白望「…トヨネ?」


トヨネは、寂しそうに笑った。
あれだけ泣いたのに、まだトヨネの目には、
涙があふれていた。


豊音「…ぜんぶ、きいちゃったんだよー…」

豊音「わたし、もうすぐ、だめになっちゃうって」

豊音「だめになっちゃったら、シロ、まきこんじゃうって」

豊音「シロ、そしたら、わたしと、いっしょになっちゃって」

豊音「そしたらすごいうれしいの。でも、だめなんだよー」

白望「…そっか…」


舌ったらずにたどたどしく語るトヨネ。
もう、理性の欠如はかなりのところまで進んでいるようだった。
それでもトヨネは私のために、
土壇場のところで踏みとどまっているように思えた。


豊音「だからね、シロ…おわかれしよ?」

豊音「うれしいけど、おわかれ、しよ?」


でも、それは本心じゃない。


トヨネの本音は夢で見た。
私を呼んで、がむしゃらに手を伸ばすトヨネ。
私の名前をひたすら呼んで、泣きじゃくるトヨネ。
そんなトヨネを、私は見捨てることはできない。


白望「…いやだ…私はトヨネから離れない…」


豊音「……っ!…やめて、ほしいよー!」

豊音「やさしくされると、だめ、なんだよー!」

豊音「せっかく、あきらめ、たのにー!」

豊音「わたし、わた、し…!」

豊音「シロの、こと、ほしく、なっちゃうよー!!」


ふるふると震えながらトヨネがぐずる。
闇がさらに濃くなった気がする。
トヨネは、自分の中の何かと戦っている。


…トヨネ…もういいんだよ。
もう、戦う必要なんかないんだ。


白望「…いいよ…トヨネにあげる」

白望「…私のこと、全部…トヨネにあげる…」


これが正しい答えなのか。私にはわからない。
私の中で、トヨネが大切な人なのは事実。
でも、同じくらい、塞も、胡桃も、エイスリンも大切で。
その中で、トヨネだけを選ぶことが正しいのか、
私には、わからない。

でも今、トヨネと別れたら。
トヨネはきっと、一生不幸なままになる。
それだけは間違いない。

だから、答えは出てないけれど。
私は迷って…トヨネを選ぶ。


豊音「シロー…」

白望「…なに…?」

豊音「シロ、わたし、もう、けっこう、だめ、なんだよー?」

白望「…そっか…」

豊音「シロ、はなれて、わたし、たべる、たべちゃうよ?」

豊音「はなれないと、たべるよ?シロ、おいしそう」

豊音「シロ、たべる、おいしそう、たべるね?」


食べるって、どういう意味なんだろう。
本当に頭からがぶりといかれてしまうんだろうか。
さすがに生きたまま食べられるのはダルいから
できれば、比喩的なものだといいな…。

なんて、これまたのんきなことを考えながら…



白望「…ダルいから…セルフサービスでおねがい…」



私は力を抜いて、トヨネに身をゆだねた。



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かじられるわけじゃなかった

よかった




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それから私は、トヨネと何度も肌を重ねた

何度も、何度も

ここではそれしか、やることがないから




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そのうちに、私は、異変に気づいた

なんだか、トヨネが、入ってくる

何が?よく、わからない

でも、トヨネが、入ってくる

頭の中が、黒くなる

白い私が、黒くなる

トヨネの黒で、黒く、なる

きもちいい

とっても、とっても、きもちいい



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トヨネ

と いっしょ

なる



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…数か月後。






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今日もいい天気。
私はお気に入りのバスケットを携えて、
日課となっている村はずれの小屋に向かう。


目的の小屋は、村から歩いて10数分。
ちょっと遠いけど、
森に囲まれていて、静かで落ち着ける場所だ。


ほどなくして、小屋に到着。
小屋の中を見渡すと、
二人の妖怪が仲睦まじく寄り添いながら
私を待っていてくれた。
…すっぱだかで。


「……っ、何回見ても、
 これだけは慣れないなぁ…」


一人で勝手に照れながらも、
私はバスケットからおにぎりを取り出して
二人の前に差し出す。
二人は、ぺちゃぺちゃと
私の手ごとおにぎりをほおばった。


「はいはい、いい子だねー。
 まだまだあるからねー…」



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私が全てを知ったのは、
全部手遅れになってしまった後のことだった。


シロの行方不明事件は
それなりに世間で騒がれたけど、
こんな田舎で突如行方不明になった人間を
捜索するのは難しくて。

大したことも明らかにならないまま、
シロの捜索は打ち切られてしまった。


私たちは独自に調査を続けたけど、
だからと言って、ただの女子高生が
集められる情報なんてたかが知れていて。


ならばと、同時期に突然居なくなった
トヨネに焦点を当てて、探し出すこと数か月。

こちらはトヨネ本人から
おおまかな所在は聞いていたので、
なんとか目的の村を見つけることができた。
もっとも、実際に向かうのは春になるまで
待たないといけなかったけど。


そして、村に出向いた私を出迎えてくれたのは…
人間をやめてしまった、一糸纏わぬ姿の二人。



私は、呆然と立ち尽くすしかなかった。



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大まかな真相は、村の人から聞いた。


トヨネは、元々こうなる運命だったこと。

皆に迷惑をかける前に、
転校したことにして行方をくらまそうとしたこと。

そしたら、どこから聞きつけたのか
シロがくっついてきたこと。

しばらくは、シロがトヨネの面倒を見ていたんだけど、
そのうち、シロも理性を失ってしまったこと。

それからは、二人を村で持ち回りで
保護していたこと。


村の人たちは、掛け値なしにいい人たちだった。
最初は、年頃の女の子を裸で小屋に入れておくなんて、
どんな性犯罪者集団かと思ったんだけど。
そもそも、二人は頻繁に、その…愛し合うから…
服を着せてもきりがないらしい。
元々人そのものが少ない村では、
そこまでは手をかけられないとのことだった。


「あんたに、シロちゃんからの手紙が残されている」


そういって手渡された手紙は、
確かにシロの筆跡だった。
まだ理性が残っている間に
一度だけ筆をとったらしい。
いや、そこはもっとたくさんとりなさいよ。
というか、手紙書けたなら連絡しなさいよ。

いろいろと言いたいことを飲み込みながら、
私は手紙の封を切った。


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塞、胡桃、エイスリンへ


ごめん。
迷ってる時間がなかった。

私は、トヨネを助ける。
トヨネは今、私しかいないから。

全部書くのはダルいから、
詳しくは村の人に聞いて。

もし、これを見た時に、
私がトヨネと一緒になっていたら、
できればみんなで飼ってくれるとうれしい。


白望


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そんなわけで今、私は二人を世話している。
胡桃はもうすぐ身支度を整えてこっちに来るらしいし、
エイスリンちゃんも多分そうだ。
そしたらまた、5人で仲良く一緒に暮らそう。


なんて物思いにふけっていたら、
私はシロに覆いかぶさられる寸前だった。
なんで気づかないのと思うことなかれ。
小屋に入ると二人の闇が黒すぎて、
周りがよく見えないのだ。


「ちょ、シロ!盛らないの!
 アンタにはトヨネがいるでしょう!?」


って、トヨネの方を見たら…
あれー?トヨネー?なんできみは、
私の股間に顔をうずめてるのかなー?


「だー!!二人とも、めっ!!」


と言って聞いてくれるような二人ではないので、
モノクルで強制的に塞ぐしかない。


数分かけて念入りに睨みつけてあげて、
ようやく二人はへなへなとへたり込む。


「はぁー…はぁー…はぁー…
 ゆだんも…すきも…ないんだから…!」


私も小屋から這い出してへなへなと座り込む。


「あー、やば。これ、やばい」


二人の闇にあてられすぎた。

頭がふわふわする。からだがうずうずする。
けものになりたくなる。
あのにひきにたべられたくなる。
たべられたい
きっと、おいしい
しろ、とよね、おいしい
たべたい
わたしも たべたい
たべた


「駄目!!」


黒い何かに飲み込まれそうになる理性を、
必死で取り戻す。
危なかった…今回のはちょっと
本気で墜ちかけてた。


「まいったなー…こりゃ、
 私ももう長くないかも」


早々に胡桃に交代してもらって、
お祓いでもしてもらわないといけない。
いや、お祓いが効くのかわからないけど。


正直に言ってしまえば、
楽になってしまいたいと思う時がある。
私も、二人の中に入れてほしいって。


でも、私にその権利はない。
あの時、トヨネの異変に気づけなかった私には。
だから私は、これからも飼育係として
一生二人の世話をするつもり。
シロにもお願いされちゃったしね。


私は小屋の中の二人を見る。
おなかが膨れて眠くなったのか、
二人はくっついてすやすやと
寝息を立てていた。


ふと、心の中でなんとなく問いかけてみる。




ねぇ、シロ。トヨネ。
今、あんたたちは、幸せなのかな?






二人の寝顔は、安らかだった。




(完)
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posted by ぷちどろっぷ at 2014年09月02日 | Comment(6) | TrackBack(0) | 咲-Saki-
この記事へのコメント
宮守来た!! そして珍しく営み(意味深)が絡んだ。
豊音が人外という風潮。豊音が村では座敷牢に入れられ、お姉様方に可愛がられてる(意味深)という風潮、大好き。
Posted by at 2014年09月02日 21:20
狂気というよりは、ファンタジー風味の入ったいい純愛ものだなぁ。
Posted by at 2014年09月02日 22:55
こういう話好き
伝記物っぽい
Posted by at 2014年09月03日 05:22
モノローグが素敵です。
Posted by at 2014年09月03日 23:10
豊音にはこういう話がぴったりだよな
Posted by at 2014年09月06日 05:58
コメントありがとうございます!

他とは少し毛並みが違う内容でしたが、
受け入れていただけたようでよかったです。

>純愛
理性がなくなっていくという意味で
狂気扱いにしましたが、本筋としては
純愛のつもりだったのでうれしいですね。

>伝記もの、モノローグ
これもうれしいですね!ありがとうございます。

>豊音

白望「トヨネは人間じゃないと思う」

豊音「ひどすぎだよー」

>お姉さま
豊音「ちょっとぐらっときたけど、
    そもそも村に若い人がいないよー」

塞「座敷牢はいいかもね」

豊音「その場合、入るのはシロか塞だけどねー」
Posted by ぷちどろっぷ(管理人) at 2014年09月07日 15:57
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