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【咲SS:菫淡】淡「スミレ先輩は、私の事捨てないよね?」【ヤンデレ】

<あらすじ>
ねえ、テル。わかってる?
私が白糸台に来たのは、
テルに私を見てもらうためなんだよ?

なのに、テルは行っちゃうの?
私を置いて。私を捨てて。

深い絶望に包まれる私。
そんな私を救ってくれたのは、
もう一人の三年生。

そう、菫先輩だった。

<登場人物>
宮永照,弘世菫,大星淡

<症状>
・依存
・狂気


<その他>
※重苦しくてドロドロです。ご注意を。

以下のリクエストに対する作品です。
・全国後、自分を拾い必要としてくれた
 照に突き放され、精神的に追い詰められる淡。
 そこにつけ込む菫。シリアスで

--------------------------------------------------------



私が白糸台高校に来た目的。
それは、テルに私を見てもらうため。

私の存在意義。
それは、テルに拾ってもらった恩を返すこと。

でも、全国大会が終わったあの日。
私はどちらも失った。


『おっ…大番狂わせーーーーーっ!!
 白糸台高校の三連覇を、まさか、まさかの
 無名校、清澄高校が阻止!』

『清澄高校、初出場にして全国優勝です!!』


私の道を阻んだのは、奇しくもテルと同じ苗字を名乗る、
さえない感じの女の子。そう、宮永咲。

とぼとぼと控室に帰る私を尻目に、
彼女はテルに駆け寄って…
そして、テルと固く抱きあった。

そこは、本当なら私の位置。
でも、無様に負けた私に、
テルに抱きしめてもらうだけの価値はなくて。


私はその時、全てを失ったことを知った。



--------------------------------------------------------



私達白糸台高校は、三連覇を逃した。
それは、とても残念なこと。

私だって、何も感じなかったわけじゃない。
悔しい気持ちで胸が熱くなり、
こみあげてくるものを必死で押しとどめた。

でも、だからと言って、誰を責めるつもりはない。
だって、みんな全力を出して戦った。
ただ、ほんのちょっと。
ほんのちょっとだけ、力が及ばなかっただけ。

それについて、恥じる必要はないと思う。


でも、今でも夢に見る。


まるで、ぷっつりと糸の切れた人形のように、
動きを止めてしまった淡。

深い悲しみを力に変えて、
私に会うために頑張ってきた咲。


二人が、同じ距離で並んでいる。


私はどちらを選べばいいのだろうか。
そもそも、どちらかを選ばなければいけないのだろうか。

悩んでいるうちに、咲は私の腕に飛び込んできて。

淡は、ひっそりと私の前から姿を消す。


私はそこで、目を覚ます。



--------------------------------------------------------



「…淡に避けられている?」

「うん」


その日、私は珍しく浮かない顔をしている照から、
これまた珍しい相談を受けた。

聞けば、インターハイが終わった頃から、
淡がくっついてこなくなったらしい。
それまでは押しのけても
纏わりついてくるほどだったのに。


「私、何かしちゃったのかな」

「…お前は、何もしちゃいないさ」


そう、何一つな。
私は一人嘆息した。


何かをしたことが問題なんじゃない。
何もしなかったのが問題なんだ。


淡が、逆転負けを喫したあの試合。
照は淡を責めたりはしなかった。

それはおそらく照からしたら、

「全力を出して頑張った淡を、
 なぜ責める必要があるの?」

ということだったのだろう。
一般的な見方をすれば、それが間違いだとは言えない。


だが、私には淡の気持ちがよくわかる。
照はむしろ、淡を責めるべきだった。
そうでなくとも、せめて淡の前で
悔し涙を流すくらいはするべきだった。

淡はおそらく照のために、
全身全霊を籠めて戦ったはずだ。

それでも負けて、
絶望に打ちひしがれたはずだ。


それは、「頑張ったんだから責める必要はない」
なんて軽く流していいもんじゃない。


だが…


そんな無念は、無敗のお前にはわからないんだろうな。



--------------------------------------------------------



試合の後控室に戻った私は、そこで
目に涙を浮かべた尭深と亦野先輩に出会った。


『負けちゃって…ごめんなさい…』

『…お前は悪くない…!私達が、もっと頑張れたら…』

『先輩達のリードを…キープできていたら…』


先輩達は、私を責めたりはしなかった。
それは、先輩の優しさだったんだろうけど。
私にとっては、逆に針のむしろだった。


『菫、先輩は…?』

『…わからない…私達を慰めた後、
 どこかに出かけていったよ…』


私も、控室を後にした。
ここにも、私の居場所はなかったから。



--------------------------------------------------------



菫先輩は簡単に見つかった。
だってその周囲には、胸を引き裂くような
悲しみの波動が渦巻いていたから。

人気のない袋小路で、菫先輩は泣き崩れていた。
胸をかき抱き、それまで私達には
一度も見せたこともなかった涙を大量に流して、
嗚咽を繰り返していた。


私は、これまで、こんな菫先輩を見たことはなかった。
そのむき出しの嘆きを目の当たりにして初めて。
他のチームメイトを見ても感じなかった、
深い悲しみが私を襲う。


そう、テル以外にもう一人。
私を責めることができるとしたら、この人だろう。


三年間、テルと一緒に頑張ってきた人。
過去の優勝経験者。
決勝では見事にリベンジを果たし、
テルの大量リードを
さらに大きく広げて後続につないだ人。


白糸台の代表であるこの人は、
三連覇に対して並々ならぬ思いを抱き、
私なんかじゃ想像もできないくらいの
重圧を感じていたはずだった。


菫先輩は、私の姿を見つけると、
しゃくりあげながらこう言った。


『…この敗北は、チーム虎姫全員の敗北だ』


私は、あからさまな失望を感じた。
菫先輩まで…私を責めな


『だが!!』

『大将は!!』

『全ての責任を取るポジションだ!!』

『……っ!』

『仲間の思いを受け継ぎ、決着をつけるポジションだ!!』

『お前は、仲間の思いを、努力を台無しにした!!』

『それを、絶対に忘れるな!!』

『二度と…同じ悲しみを、チームメイトに味わわせるな!!』


大粒の涙を流しながら、菫先輩は私を叱責した。


不意に、私の目から涙がこぼれ落ちる。
テルを見ても、尭深を見ても、亦野先輩を見ても。
全く出てこなかった涙。

それが、後から後からあふれ出す。


『ごめんなさい…!私が…私のせいで…!!』


私達は抱き合って慟哭した。
恥も外聞もなく泣きはらした。


結局、私を責めたのは菫先輩だけだった。
それが、優しさと呼べるものなのかはわからない。

でも私は、菫先輩のおかげで。

後一歩のところで、壊れなくて済んだんだ。



--------------------------------------------------------



ある日私は意を決して、逃げる淡を捕まえた。


「……」


淡の顔は深く沈んで、過去の明るさは見る影もない。


「淡…元気を出してほしい」

「…私は、元気だよ」

「その顔で言っても説得力がない」


元々、実の妹ですら良好な関係を築けなかった私だ。
こんな時の後輩にかける、気のきいた言葉なんて
思いつくはずもなく。

辺りを、気まずい沈黙が支配する。
情けないことに、その沈黙を破ったのは私ではなく、
慰めるべき、淡の方だった。


「テルはさ…私の事、責めないの?」

「責める…なんで?」

「だって…私、テルと、菫先輩の三連覇を、
 駄目にしちゃったんだよ?」


そう言って、自嘲めいた笑みを浮かべる淡。
キリキリと胸が痛む。
あの敗北は、淡のせいだけじゃない。
なのに淡は、それを一人で背負おうとしている。

私は思わず口を開いた。


「私達は、全員全力で戦った」

「だから、あの敗北は、皆の敗北」

「淡だけが、責任を感じる必要はない」

「それよりも…淡には、早く立ち直ってほしい」

「これからの白糸台を担うのは…
 間違いなく、あなたなんだから」


それは、間違いなく私の本心で。

責任を問うというのなら、私にだって責任がある。
そもそも、過去を振り返っていても、何も生まれない。
だから、辛くても、前を向いてほしい。


「そうだね…」


そう言って、淡は乾いた笑みを浮かべた。
私の気持ちは、淡に届いただろうか。
少なくとも、淡の表情からはそれが読み取れなかった。



--------------------------------------------------------



テルはもう、私を捨てた。
少なくとも私は、そう感じた。


『あの敗北は、皆の敗北』


テルはとっても優しいから。
それは、きっと本心なんだろうね。


でもさ。


先鋒で、エースポジションで10万点稼いだ人に、
これ以上どんな責任があるのかな?

次鋒で、さらに4万点稼いでリードを広げた人に、
これ以上どんな責任があるのかな?

そんなの、あるわけないじゃん。
悪いのは、間違いなく私なんだよ。
悪いんだから、叱ってよ。


なのに…


「それよりも…淡には、早く立ち直ってほしい」

「これからの白糸台を担うのは…
 間違いなく、あなたなんだから」


テルにとってあの大会は、
もうとっくに過去のものなんだね?

もう、テルは私を見ていないんだ。
だから、怒ったりもしないんだ。


菫先輩とは、大違いだよ。



--------------------------------------------------------



淡は、いつも照を追っていた。

拾ってくれた恩義を感じているのだろう。
仲間が見つかったのがうれしいのだろう。

それはまるで、血を分けた姉妹のように。
二人はいつも一緒にくっついていた。


私は、そんな二人に嫉妬していた。
なぜなら、照は。そして、淡も。
私が持っていない、『才能』を持っていたから。

それは、凡人がどれだけ足掻こうと。
命を賭そうと、決して手に入らないもので。

それでも、私は諦めきれなくて。
必死で、必死で手を伸ばした。

だって、『それ』がなければ…
私は二人に、仲間として認めてもらえないと思ったから。
でも、実際にはそれは勘違いだった。


なぜなら、程度の差こそあれど。
淡だって、私と何も変わりはしなかったのだから。


宮永の血に格の違いを見せつけられ。
もがき苦しみながら、結局逆転を許し。
泣きながら崩れ落ちる淡。


私は、そんな淡の姿に、私自身を重ね合わせる。


淡が虚ろな目で私の前に現れた時。
私は淡が、照に受け止めてもらえなかったと悟った。
でなければ、あの淡が一人で彷徨っているものか。

正直に言えば、三連覇よりも。
そのことの方が、強く私を打ちのめした。


あの、淡でさえ。
私が、どうやっても追いつけなかった淡でさえ。
あれだけ、仲睦まじかった淡でさえ。


こんな時に、一人で置き去りにされている。


思わず手を差し伸べてしまった。
その傷を、舐めてしまった。

気づけば、淡は私にすがりついていた。



--------------------------------------------------------



菫先輩と一緒にいることが多くなった。
だって、私の悲しみをわかってくれるのは、
菫先輩だけだから。


「私ね、テルに捨てられちゃったよ」

「照が?」

「うん…今後の白糸台はあなたが担え、だってさ」

「…私、テルを追いかけて白糸台に来たのにね」


拾ってくれた人には恩を返せず、
その人は私の元から去って。
その後の舞台で、私は何をすればいいのかな?


「はっ…腹いせに、一人で滑稽に踊り続けたらどうだ?」

「あはっ…菫先輩は言わないの?
 かっこよく『次の世代はお前が担え!』ってさ」

「言ってやりたいところだがな…
 私には、お前の気持ちがよくわかる」

「…私の気持ち?」

「照はプロに行くらしい。私は進学だ」

「私も、あいつとは道を分かつことになる」


私は思わず息を呑んだ。なんとなく、
この二人はずっと一緒にいるんだろうなって、
勝手に思ってたから。


「で、でも…菫先輩も、スカウト来てたよね?」

「まあな…だが、私にとっては、
 麻雀だけが全てじゃない」

「大学でも麻雀は続けられるが…
 プロになったら、他の道は無くなるからな」

「そっか。菫先輩は、弓も勉強もできるもんね」

「で、それを話した時…あいつ、何て言ったと思う?」

「『そっか…寂しいけど、仕方ないね。
  お互い道は分かれるけど、頑張っていこう』とか?」

「ははっ、こいつは驚いたな。ほぼ満点解答だ」

「まあ、なんとなく想像がついたよ」


寂しそうに笑う菫先輩。
なるほど確かに、私にも菫先輩の気持ちが
痛いくらいよくわかった。


「大学を選ぶのは、私の意思だ。
 あいつがプロを選ぶのはあいつの意思だ」

「お互い自分の意思を優先したんだから、
 そこに文句を言うつもりはない」

「だが…もう少しくらい、
 悲しんでくれてもいいと思わないか?」

「…うん」

「あいつにとっては…私なんて、
 別にいなくてもいい、くらいの存在なのかもな」

「……」


菫先輩でも駄目なんだ。
テルの中じゃ、私達なんて、本当に
その程度なのかもしれないね…

そう思うと、また悲しくなって。
私は、菫先輩に寄りかかる。

菫先輩は、特に拒絶することもなく、
私の肩を抱き寄せて。
ポン、ポンって、優しく叩いてくれた。

それで、私は止まらなくなって。
また、泣き出してしまった。



--------------------------------------------------------



私達はいつも一緒だった。
新入生だった時から、三年生までずっと。
私達は、支え合ってきたはずだった。


でも、卒業間際のここに来て。
菫と別行動することが多くなった気がする。


「菫…菫まで、私のこと避けてない?」

「…お前は何を言ってるんだ」


心底あきれたようなその表情に、私は思わず安堵した。
よかった…菫は別に、私を嫌いになったわけじゃないんだ。

でも。


「私は単に、淡のケアをしてるだけだ」

「…それって、私にできることはないの?」

「ないな」


突き放したような菫の声。
元々、菫はこういう言い方をする人だけど。
今はそれが、私の心に突き刺さる。


「…私、何か悪い事したのかな」

「…別に、お前に悪いところがあるとは思えんが」

「でも、現に淡に避けられている」

「……」

「そうだな…あえて言うなら」

「…言うなら?」


「お前は強すぎた。それだけだ」


そう言って、菫は笑った。
その笑顔を見て、私は胸が締めつけられる。

なぜか、菫まで遠ざかっていくような、
そんな予感がしてならなかった。



--------------------------------------------------------



本当はわかっている。照は、何も悪くない。

照は、心が強かった。
私達は、弱かった。ただそれだけのことだ。

私達は、自分の心の弱さを棚に上げて、
身勝手な思いを照にぶつけているに過ぎない。

だが、だからこそ。
私は淡を救ってやれるし、照は淡を救えない。


…つけ加えて言うならば。


私はただ弱いだけでなく、醜くもあったらしい。


最初は、傷を舐めあっているだけだった。
悲しむ淡に自分の姿を重ね合わせて、
淡を癒すことで自分を癒していただけだった。


だが、いつの間にか。


淡の中の順列が変わっていくにつれて。
今まで照が占めていた場所が、
次第に私に置き換わっていくのを感じて。

私は、歪んだ喜びに満たされるようになっていた。


照、お前は確かに強いんだろう。
お前は確かに正しいんだろう。

だが、それゆえに、大切なものを捨ててしまう。


お前がいらないなら、私がもらってもいいよな?



--------------------------------------------------------



放課後になると、私はすぐに教室を飛び出す。
向かう先は部室…じゃなくて屋上。
想い人はもう先に来て、私を待ってくれていた。


「スミレ先輩!」

「そんなにあわてなくても、逃げたりしないさ」


そう言って笑うスミレ先輩。
その笑みに温かさを覚えながら、
私はスミレ先輩の横に座った。


「ちょっと肌寒くなってきたねー」

「もう秋だな」


そう言って、スミレ先輩が私にペットボトルを差し出す。
ちょっとぬるくなったお茶がちょうどいい。


「お前、毎日ここに来てるが…部活はいいのか?」

「スミレ先輩もテルもいない部活に、何の意味があるの?」

「私達がいなくても麻雀はできるだろう」

「できないよ。私にはできない。わかってるくせに」

「すまんすまん」


一緒にいることが増えて、気づいたこと。

スミレ先輩は、意外と
不真面目だったりするってこと。

今のスミレ先輩は、
私を無理に部活に追いやろうとはしない。

部長の時のスミレ先輩だったら
絶対に許さなかったと思うんだけど。
でも、今まで厳しかったのは、
きっと部長だったからなんだろうね。

もっと早く、こっちの
スミレ先輩を知りたかったな。


「あーあ。私って、どうしてこうなんだろうなー」

「何がだ?」

「スミレ先輩も、テルも、
 もうすぐ卒業しちゃう点では同じなのにさ」

「心配する必要はないさ。私は進学だからな。
 遠征とかがあるプロとは違って、
 放課後とかは普通に会えると思うぞ?
 大学入ったら一人暮らしする予定だしな」
 
「さすが!」


一緒にいることが増えて、気づいたことがある。

スミレ先輩は意外と抜けているけど…
外しちゃいけないところだけは、絶対に外さない。

今もほら、私がずっと悩んでいたことを、
あっさりと解決してくれた。


この人だったら…今度こそ。
全てをゆだねて、安心できるのかも。


「ねえ、スミレ先輩?」

「なんだ?」

「スミレ先輩は、私の事、捨てないよね?」

「手を伸ばすだけ伸ばしておいて捨てないよね?」

「私、スミレ先輩に捨てられたら、
 今度こそ駄目になっちゃう自信があるからね」

「捨てないでね?」

「……」

「駄目になった淡か。それはそれで、
 見てみたい気もするが」

「別にいいけど…その時は、
 スミレ先輩も道連れにするよ?」

「ま。そのくらいの駄賃は払ってやるさ」


うん。この人なら大丈夫。

だって私が脆いところを見せても、
それをたしなめるんじゃなくて。
ありのままの私を受け入れてくれるから。

私は、いつものようにスミレ先輩に寄りかかった。



--------------------------------------------------------



私は部屋で一人、膝を抱えながら考える。

菫は、私のことを強いと言った。
それは、いったいどういう意味なんだろう。

単純に麻雀が強い、なんてつまらない意味ではないと思う。
私より強い人なんていくらでもいるだろうし、
菫も、淡も、充分強い。

だとしたら、いったい何が強いんだろう。

卒業を目前にして、親友が離れていきそうで。
大切な後輩が離れていきそうで。
泣きたくなるくらいの心細さに襲われている私。

もう一度、戻りたい。
幸せだった、あの頃に。

横にはいつも菫がいて、淡が纏わりついてきて。
それを、ちょっと離れた位置で尭深と亦野が
穏やかな目で見守っている。


あの頃に、戻りたい。
どうか、どうか。


そんなことばかり考えている私の、
どこが強いっていうんだろう。



--------------------------------------------------------



照の様子がどうもおかしい。

前までは何を考えているのかわからなかったその瞳に、
不安が色濃く映るようになってきた。

今もほら、放課後が近くなって帰り支度を始める私を、
照は意味もなく引き止める。


「もうちょっとだけ…勉強しよう」

「悪いが、淡の面倒を見ないといけないんでな」

「…淡と私、どっちが大切なの?」


あまりにも照らしくないその台詞に、
思わず私は目を見開いた。

言った照自身、自分が吐いた台詞に
驚愕した顔を浮かべ、慌てて訂正する。


「ごめん、どうかしてた」


そう言って目を伏せる照。
いたたまれなくなったのか、
そのまま、かばんを取って立ち去った。


「淡によろしく」


私に、泣きそうな笑みを見せながら。


一人残された私は、
それがどういう意味を持つのかを考える。

捻くれず素直に考えれば、
淡と私が去っていくことで、
照が寂しさを感じているというところなのだろう。


思わず笑いがこみあげる。
どうやら私達は、単にボタンを
掛け違えていただけらしい。

照は、私達を捨ててなどいなかった。
単に、言葉が足りなかっただけ。
あいつはあいつなりに、
私達を大切に思っていたのだろう。


だが。覆水盆に返らずだ。


淡の中で、私達の立ち位置が変わっていったように。

私の中でも、お前と淡の位置はもう
入れ変わってしまっているんだ。


今の私は、淡がほしい。そう、お前よりもな。

もし、私達の関係が修復されて。
淡の中の私達が、再び入れ替わるなんて事が起きたら…

私は、お前を殺してしまうかもしれない。



--------------------------------------------------------



私は、この出来事を利用することにした。
そう、淡と私の関係をより強固なものにするために。


「どうやら照は、私と離れたくないらしい」

「…は?」

「『…淡と私、どっちが大切なの?』と問われたよ」

「はぁ!?」


わかっている。これは明らかなマナー違反だ。
昔の私だったら、絶対にしなかった行為だろう。
でも、自分の醜さを理解した今、
私は手段を選ぶつもりはない。


「そ、それで、スミレ先輩は、なんてこたえたの!?」

「答えてない」

「保留したってこと!?」


予想通り、淡は逆上した。そうだ、それでいい。
これで、淡にとっての照が、
再び元の位置に戻ることはないだろう。

こうなれば、淡にとって照は敵でしかない。


「ねえ、スミレ先輩!?私言ったよね!?」

「私、スミレ先輩に捨てられたら、
 スミレ先輩も道連れにするってさ!?」

「それでも、私の事捨てるつもりなの!?」

「……」

「スミレ!!」


あふれる感情を押しとどめることができず、
矢継ぎ早にまくしたてる淡。

そんな淡とは対照的に、私は冷静に声をかける。


「淡。少し前まで、私達は互いに
 照に捨てられた者たちだった」

「捨てられた者同士で、傷を舐めあっていたわけだ」

「だが、今は違う」

「私は、選ぶ立場になった」

「私は照とお前、好きな方を選ぶことができる」


私の言葉を聞いた淡は愕然とし、表情をなくす。
そして、その目は…すーっと、光を失っていった。


「ふーん…そっか。それで、テルを選ぶんだね」

「そりゃ、そうだよね。
 私達、二人ともテルが好きだったんだから」

「でも、なんでそれを私に言っちゃったの?」

「そのせいで、スミレ、終わっちゃうのに」


狂気の色に染まった淡は、懐からカッターを取り出した。
驚いたな、まさか凶器を携行しているとは思わなかった。
おかげで話が早そうだ。


「淡。私はまだ、お前に結論を告げてないぞ」

「何?刃物が出てきたから命乞い?
 悪いけど、もう今更止まらないよ?」

「違う。刺したかったら刺せばいい」

「死んでも…テルの方がいいって言うんだ…」

「だったら、お望みどおりにしてあげるよ!!」


完全に壊れた淡が、私に向かって突進してくる。
かばった腕に鋭い痛み。
そして、次に感じたのは熱。
ぐっ…さすがに痛いな…


「心配しなくていいよ…私も、すぐ後を追うから」

「淡。私はまだ。お前に、結論を告げてないぞ」

「…は?」

「私は、お前を選ぶ」

「選べる立場に、なった上で…
 それでも私は、お前を選ぶ」

「なっ…」

「なんでっ…」

「なんでなんでなんで!?」

「なんでっ!!刺してから言うの!?」


わけがわからない。そんな表情を浮かべて、
泣き叫びながら淡が迫る。


「なんで…なんでって?」

「お前を、安心させるためさ」


私は、にっこりと微笑んだ。


「単に口で、お前を選ぶと言っても、
 お前は安心できないだろう?」

「だからこれは、意志表明だ」

「たとえ、どんな狂気を見せられても」

「たとえ、お前に殺されても」

「それでも私は、お前を受け入れてやる」

「私が選ぶのは、照じゃない。お前だ」



「だからお前は安心して、私だけ見てろ」



--------------------------------------------------------



もちろん、この行為はそれだけのことじゃない。


選べる立場なんて偉そうなことを言ったが、
それは、単に私が先に照と接触しただけのことで。
照が淡と接触すれば、逆のパターンだって考えられる。

そうなる前に、淡を完全に壊して。
その上で、壊れた淡を受け止めてやる必要があった。


ここまでしてやれば…お前はもう、
私から離れられないだろ?



--------------------------------------------------------



私とテルを天秤にかけて。
それでもスミレは、私を選ぶと言ってくれた。

私を安心させるため。
それだけのために、スミレは傷を負ってくれた。

もう間違いない。

きっとスミレは、何があっても、
私と一緒にいてくれる。
私はもう、悩む必要なんかないんだ。


私は、スミレだけ見ていればいい。



--------------------------------------------------------



菫と淡が、戻ってきた。

あれだけふさぎ込んでいた淡が、
完全に元通りになっていた。

菫はいったい、どんなマジックを使ったんだろう。


「ごめんね、テル。ようやく完全復活だよ!」

「私の方こそごめん…私は、
 淡に何もしてあげられなかった」

「まったくだ。しまいには、
 『…淡と私、どっちが大切なの?』
 とか言い出す始末だしな」

「す…菫!?」

「あ、それホントだったんだ。
 テルって意外と焼きもち妬きなんだね!」


私は戸惑いを隠せなかった。

だって私からすればそれは、
私達の関係性を決定的に壊しかねない、
絶対に言ってはいけない言葉だったのだから。

なのに淡は怒るどころか、
ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながら
私をからかってくる。

本当に…いったい何があったっていうの?

疑問符に囚われ始めた私。
でも、菫がそれを制止した。


「照…いろいろと心配をかけたが、
 もうあれこれ悩む必要はない」

「経緯はおいおい話してやるが…
 そんなことよりも、
 とりあえずまったり過ごさないか?」

「ただでさえ、私達が
 一緒に居られる時間はもう少ないんだ」


そう言って、穏やかに笑う菫。
その笑みを見た私は、
真相なんてどうでもよくなってしまった。

そう、菫の言う通りだ。
経緯なんて、どうでもいい。
あの頃のように、みんなで仲良く過ごせるなら。


「そうだね…とりあえず…お菓子を…食べよう」



--------------------------------------------------------



「テル、泣いてたね」

「ああ」

「最初からああやって泣いてくれれば、
 私も壊れる必要なかったんだけどな」

「それはどうだろうな」

「ん?」

「仮にあの日、お前が逆転されることもなく、
 お前達の仲が良好なままだったとしても」

「お前が『別れたくない』とすがったところで
 あいつは受け入れなかっただろう」

「『別れはいつか訪れるもの。
  でも、それでも私達は繋がっている』
 とか言ってな」

「たとえ、どれだけ悲しかろうと。寂しかろうと。
 あいつはお前の先輩として、
 その態度は崩さなかっただろう」

「あー…」

「あいつは、優等生すぎるんだよ」

「お前みたいな狂人を受け入れるのは到底無理だ」

「はっきり言うね」

「事実だからな。ま、結論を言えば…」

「お前を受け止めてやれるのは、
 最初っから、私だけだったってことだ」

「うん!これからもよろしくね、スミレ!!」




(完)
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posted by ぷちどろっぷ at 2014年09月30日 | Comment(8) | TrackBack(0) | 咲-Saki-
この記事へのコメント
傷の舐め合いって好き
Posted by 上上 at 2014年09月30日 17:32
咲のお母さんがよほど学生大会のルールを変更する権限があるなどの設定が無ければ団体戦における姉妹の対決は無いでしょう。
Posted by たぬき at 2014年09月30日 17:42


すばら!
Posted by at 2014年09月30日 19:22
三人の視点切替で描くとは……夏の高校生は侮れませんね(意味深
リクエストに応えて頂き、感謝します!
Posted by at 2014年09月30日 23:45
淡菫わっほい!
Posted by at 2014年10月01日 08:05
共依存好き
Posted by at 2014年10月02日 00:29
やっぱり淡菫は最高じゃあ〜
Posted by オリ at 2014年10月02日 01:21
コメントありがとうございます!

>傷の舐め合い
淡「喜んでもらえて何より!」
菫「淡の立ち位置は微妙だからな…
  魔物にも負け犬側にもなる」
淡「おおよそ魔物!」

>団体戦における姉妹
照「…?そうだね?」

>夏の高校生
淡「元々このネタは考えてたんだよね!」
照「その時は淡照菫だったから三人視点だった」
菫「このままだとお蔵入りするところだったから
  結果的に救ってもらえてよかった」

>共依存、淡菫
淡「淡菫いいよね!」
菫「私は疲れるから遠慮したい」
淡「残念ながら、次も淡照菫だよ!」
Posted by ぷちどろっぷ(管理人) at 2014年10月05日 12:29
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