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【咲SS:憧穏】穏「遊べなかった…!和と…!!」【ヤンデレ】

<あらすじ>
原村和との再会を夢に、
インターハイを駆け抜ける高鴨穏乃。

「遊ぶんだ!和と!」

そう言いながら、
キラキラと目を輝かせる高鴨穏乃。

でも、いつもその側に居た新子憧は、
対照的に浮かない顔をしていて…

<登場人物>
高鴨穏乃,新子憧,鷺森灼,松実玄

<症状>
依存
狂気
ヤンデレ

<その他>
※割と序盤から原作と異なる展開です。
※以下のリクエストに対する作品です。
(シリアス)穏憧で共依存、狂気などなどめっちゃどろどろなヤツ

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はっきり言ってしまおう。
私は、和の事はどうでもよかった。

もう少し正確に言うと、私にとって大切なのは、
過去の麻雀教室の友達とインターハイを目指す事で。
その先に、和がいるかいないかは、
そこまで重要な事ではなかった。

もっと言ってしまえば、
シズと一緒に居られればそれでよかったのだ。

というかこれは、私達の共通認識だと
思っていたのだけれど。

シズはそう思ってはいなかったみたい。



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首尾よく全国大会への切符を手にした私達は、
そこで驚愕の真実を知る。


なんと、和は副将だった。


つまり和と対戦するのは、
シズでもなく、私でもなく、玄ですらなく。
おそらくは一言も会話した事がないだろう
灼さんという事になる。

さらに驚愕なのは、私達は決勝まで行かないと
清澄高校とぶつかる事すらないという事。

この事実に、シズは思いっきりショックを受けた。
対する私は、シズのショックの大きさにショックを受けた。

だって、仮に最高のケースだったとしても、
団体戦じゃ和と戦えるのはたった一人じゃない。
皆で遊ぶならむしろ個人戦に出なきゃだめでしょ。


全国の舞台まで行って、
「私達も強くなったぞ!」
って胸を張って和と再会して。
後はみんなでまた遊ぼうよ、じゃないの?


でも、この事実を知った
シズの落ち込みようと言ったらなかった。
私は事あるごとに、愚痴を聞かされた。

そして、その中の愚痴には、
聞き捨てならないものがあった。


「和ー、なんで副将なんだよー!
 インターミドル優勝した和なら、
 絶対大将だと思ったのにー!」


え、それってどういう事?
シズは、最初から私抜きで、
和と遊ぶつもりだったって事?


私の中に、黒い炎が燻り出した。



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全国大会二回戦。シズは、窮地に陥った。

ダマッパネに放銃して三位に転落。
しかもそれは、四位の越谷女子による、
彼女達の敗北を決定づけるダマッパネ。

それでも、シズは諦めず。
結果的に、二位の劔谷高校に直撃を決めて逆転した。


「遊ぶんだ、和と!!」


もはやキャッチフレーズのようになった
その言葉を口にしながら、
勝利の喜びに飛び跳ねるシズ。

私は、シズの勝利を心から喜べなくなっていた。



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準決勝の対局中、会場でたまたまバッタリ和と再会。
どこまでもグダグダな展開に我ながら失笑がこみあげた。
でも、シズは目に強い意志を籠めて、


「和っ!」

「うちら必ず決勝行くから………」

「だから和もきてよ」

「決勝!!」


などと言い放つ。何なの?
あんたのその熱い和熱は一体どこからわいて来るの?


「そんな約束はできませんが………」

「私自身は、できるだけがんばるつもりです」


和は和で、大人の回答をしながらも、
どこか弾んだ声で返事を返した。


なぜだか、私は二人の輪から
切り離されたような気分になった。
腹いせに、しれっと言ってやりたくなった。


「ま、どうせ決勝に来ても、
 戦うのは面識のない灼だけどね」


これはさすがに大人げないと思って、
なんとか必死で飲み込んだけど。



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結果としては、シズと和の約束が
果たされる事はなかった。

清澄高校の準決勝は、三位敗退。
臨海女子高校の副将が、
四位だった有珠山高校を速攻で飛ばして終わったからだ。


「遊べなかった…!和と…!!」


そう言って泣き崩れるシズ。
私には、その感覚がよくわからなかった。
いや、勝っても負けても、
どの道私らは和と遊べなかったから。

それでも、和和とうるさいシズ。
私は、だんだん腹が立ってきた。


なんで、そんなに和がいいの?
和なんて私達に連絡も取ってもこなかったじゃない。

私達はいつまで和に片想いしてればいいの?
あんたのために、進学校蹴ってまで阿知賀に来た
私の事なんて、もはや眼中にないわけ?


そろそろシズには、ちょっと
わからせてあげないといけないと思った。
シズの意識を、和から私に上書きしないといけない。


いい加減、わからせてやるわ。

あんたに、本当に必要なのは誰なのかって。



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何だかよくわからないまま、私は憧にキレられた。


「和…和和和!!あんたはいつまで和を引きずってるの!
 少しは、今ここにいる人を大切にしようと思わないの!?」


「あ、憧?急にどうしたんだよ?」

「急にじゃないわよ!口さえ開けば和の事ばかり!
 私達はね、あんたが和と遊ぶために
 数合わせで集められたわけじゃないのよ!?」

「そんなに和と遊びたいなら、
 一人で会いに行けばいいじゃない!」


そう乱暴に吐き捨てると、憧は部室を飛び出した。

な、なんでそうなるの…?
私達は、みんなで、和と遊ぶために
頑張ってきたんじゃないの?

憧と、玄さんと、私と…みんなで、
和と遊ぶために


「私には、憧の気持ちが少しわかる」


訳が分からず戸惑う私に、
灼さんが静かな声で語り始めた。


「穏乃が、過去の親友と再会するために
 部員を集めたのは知ってる」

「そのために、宥さんや私が集められた事も」

「でも…今の私達では、
 その子の代わりになれないのかな?」

「なんか、ずっと除け者みたいで、少し寂し…」


バカな私は、そこまで言われてようやく、
自分の愚かさに気づいた。

そうだ…私の今までの発言は、
宥さんや灼さんを完全に無視した発言だった…!


「ご、ごめんなさい!私、そんなつもりじゃ…!!」

「私の事はいい…でも、憧は人一倍傷ついてたと思…」

「早く、追いかけてあげてほし…」


優しい灼さんは、自分の事よりも憧の事を優先した。
でも、そこだけはよくわからない。
だって、だって…憧も和の親友じゃん!


私は憧を追いかけたけど、憧はもう帰ってしまっていた。
そして、携帯にかけても応答せず…
家に行っても会う事はできなかった。


「今は、会いたくないって…
 あのシズちゃん大好きの憧が、どうしたんだか」


望さんが苦笑しながら首を傾げた。


「ま、そんなに気にする事ないよ。
 シズちゃんに、こうやって
 仲直りする気があるのなら大丈夫!」


望さんはそう言って励ましてくれたけど…
私は、何だか不安が止まらなかった。

だって、あんな憧…今まで見た事がなかったから。



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次の日、憧は学校を休んだ。

開口一番謝ろうと思っていた私は、
いきなり出鼻を挫かれた。
そして、言いようのない不安にとらわれる。


だって、過去に似たような別れを経験していたから。


最初は、なんて事のない別れ。
でも、なんとなく再会する機会をなくして、
少しずつ疎遠になって…
気づけば、いつの間にか縁が切れる。


今思えば、前に憧と切れた時もそうだった。
しかも今回は、憧が明確に私を拒絶している。


私は居ても立っても居られなくなり、
放課後になるなり憧の家に押しかけた。

憧は、やっぱり家にいた。
でも、玄関のドアを開けてはくれず。
インターホン越しに、冷たい声だけが私に伝わる。


「私なんかより、和のところに行けばいいじゃない」


これには、さすがの私もキレた。


「なんでだよ!憧だって和の親友だろ!?
 憧は和に会いたくないのかよ!」

「私達は二人とも、和と会うために
 頑張ってきたんじゃなかったのかよ!」


ヒートアップする私とは対照的に、
憧の声はどこまでも穏やかに冷たい。


「会いたかったわよ。でも、
 私は、今いる皆の方が大切だった」

「玄、ハルエ、宥姉、灼…そして、あんた」

「あんたが和和言ってる裏で、
 皆はどう思ってたのかしら」

「疎外感…仲間外れ感を感じてたんじゃない?」

「私達は、あんたが和に会うための道具じゃないのよ?」


憧の言葉は、ぐさりと私の胸を刺す。
それはまさに、灼さんに昨日言われた事だった。
私は冷や水を頭から
ぶっかけられたような気分になって、
言葉を発せなくなってしまう。


「だからね、もう嫌になったのよ」

「あんたは、どうせ和和言って、
 私達の事なんて見ないんでしょ?」

「だから、行けば?勝手に。
 遊びたければ、会いに行けばいいじゃない。
 インターハイ行くよりは簡単だと思うわよ?」


「じゃあね、さようなら」


そう言って、ブツリとインターホンは切れた。
一人残された私は、ぺたんとその場に座り込む。


ちがう、ちがうんだよ憧。
そうじゃないんだよ。


宥さんや灼さんにひどい事したのは事実だよ。
それはもう、謝るしかない。


でも、憧や玄さんをないがしろにしたんじゃなくて。


二人は、私の側にいてくれたから。
もうずっと、居てくれると思ってたから。

だから欲張って、和にまで手を出しちゃったんだ。

二人が、和より軽いなんて、
思ってたわけじゃないんだよ…!


玄関で泣き崩れている私を望さんが見つけた。
望さんは驚いた表情を見せて、


「今、憧を連れてくるから!」


って言ってくれたけど。
結局憧は、頑として出てこなかった。


それは、本気で憧が怒っている事の証明で…
その日、私は眠れなかった。



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ある日、私は玄に呼び出された。


「あ、憧ちゃん…しずちゃんと
 お話してあげてくれないかな…」


しばらくぶりに見た玄は、
ずいぶんと疲れているようだった。
きっと、心優しい玄は、
今回の件でずっと気を揉んでいるのだろう。
素直に申し訳ないなと思う。


「玄には悪い事しちゃってるわね」

「う、ううん…私の事はいいよ。
 それよりも、しずちゃんの事…」

「よかないわよ。そうやって皆が甘やかすから、
 あの子が調子に乗るの。
 玄だって、さりげに今まで傷ついてたんじゃない?」

「そ、それは…」


もっともそれは、私も同罪なんだけど。


『二人そろって、和の前に立てるでしょ?』


過去に私が言った台詞。私はこの台詞を後悔していた。
だってそれは、玄を完全無視した台詞だったから。
まぁ私は直後に謝って、二度と口にしなかったけど。


「で、でもね…しずちゃん…すごい落ち込んでて…
 いつも目が真っ赤になってて…
 本当に可愛そうなんだよ」

「はっ…どうだか。あの子、結局あれ以来
 私の家に来てないじゃん。もう、諦めたんでしょ?
 結局高鴨さんにとって、私なんてその程度なのよ」

「たか…!?」

「そう言うわけだから、高鴨さんにそう伝えて頂戴」


私は、一方的に会話を打ち切った。



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玄さんに事の顛末を聞かされた私は、
その日から憧の家に通い詰める事にした。

言われてみれば、その通りだった。
最初は、毎日泣き顔で家の前に立ってたら、
いくらなんでも迷惑だろうと思って遠慮したのだけど。

心のどこかで、諦めてしまっていたのかもしれない。
毎日泣き腫らすのも、
もう憧を諦める準備に入ってたのかもしれない。


そして、憧はそれを見抜いていた。


逆に言えば、私が諦めなければ、
憧は私を捨てるのをやめてくれるのかもしれない。


私は、もう諦めない。


来る日も来る日も、私は憧にまとわりついた。

憧は一切話しかけてくれなかったけど、
それでも私は諦めなかった。

休みの日は一日中、憧の家の前に立ち続けた。

いつか、憧が許してくれる日を信じて。



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仕掛けたのは私なんだけど、
ぶっちゃけシズのガチっぷりには舌を巻いた。

朝、起きて窓を開けると、
外にはいつもシズの姿があった。

食事をとって玄関を出ると、
シズは一目散に駆け寄ってくる。


「憧、おはよう!」


私は返事を返さない。シズはそれに、
いちいち打ちひしがれた顔をしながらも、
それでも私に話しかけるのだ。

休み時間も、お昼休みも、放課後だって。
いつだって、シズは私に付きまとった。

夜は、玄関まで私を見送ってからも。
しばらくの間はその場にとどまり続けた。


やがて、そんなシズは周りから気味悪がられ始めた。


まぁそりゃそうでしょ。
やってる事、完全にストーカーだもの。


「ねえ、憧…あの子、また来てるよ…?」

「あー、ごめんね。でも、好きにさせてあげて」

「憧は大丈夫なの?あんなのに付き纏われて」

「まあ、私は幼馴染だから」

「私がガツンと言ってあげようか?」

「ごめん、それは勘弁してあげて」


もっともシズは、そんな周りの評価は
まったく気にならないようで。

健気に、私に話しかけるのだ。
毎日目を真っ赤に腫らしながら。



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憧は、徹底的に私を無視した。
でも、私を拒絶する事はしなかった。


朝から晩まで、憧につきまとう。
反応してほしかった。怒ってでもいいから、
何かリアクションが欲しかった。
でも、憧は無反応。


でも、それでも憧は拒絶はしてないのだ。
確信させてくれたのは、憧とその友達の会話。
私はそれを盗み聞きしていた。


「憧は大丈夫なの?あんなのに付き纏われて」

「まあ、私は幼馴染だから」


私はそれを聞いて、涙が止まらなかった。
憧は、まだ私の事を幼馴染と思ってくれている。
きっと私を無視するのも、まだ許してないだけなんだ。


私が頑張り続ければ、きっと憧は許してくれる。
そう、希望を持つ事ができた。


そう、私が頑張れば…


ずっと、ずっと、頑張れば…
頑張って、頑張って、頑張って。


頑張って、頑張って、頑張って。
頑張って、頑張って、頑張って。
頑張って、頑張って、頑張って。
頑張って、頑張って、頑張って。
頑張って、頑張って、頑張って…



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そして、シズは倒れた。






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シズが倒れた原因は、過労。
加えて、重度のストレスも影響しているとの事。


まぁそりゃそうでしょ。
前に、試しに一度6時くらいに家を出た事があって。
それからシズは5時くらいには
家の前に立つようになってたし。

夜だってずっと泣き腫らして、
ほとんど寝てなかったんじゃない?

それでいて、ずっと私に無視されていたんだから。
むしろ、ここまで持った事にビックリだわ。


シズが思った以上に頑丈だったから、
予想以上に時間がかかったけど、まあ大筋では予定通り。
そろそろ頃合いでしょ。


三日三晩寝続けたシズが、
目を覚ますなり言った言葉。


「い、今何時!?
 憧、もう登校しちゃったんじゃ…!」


私はその言葉に満足しながら、
優しくシズに声をかける。


「もういいわよ。そこまで頑張らなくて」

「あ、憧!?」

「よく頑張ったわね…シズ。許してあげる」

「あ、あこ…あこ…!!」


私の言葉を聞くなり、シズの目からは涙があふれ出し。
ぐしゃぐしゃの顔のまま私に抱きついてくる。


「あこぉ…ごめんよぉ!…あこぉ!!」

「いいのよ…でも、一つだけ言っておくわね?」

「……?」

「もしあんたが今度、私より誰かを優先したら…」

「私はもう、あんたとは一生口を利かないからね?」

「…!しないよ!誰よりも憧を優先する!」

「何なら、もう憧以外の人とは口を利かないよ!!」


「だから、もう…捨てないでよ…!!」


そう言って、シズは私にしがみついた。
私は、予想以上にうまくいった事に満足しながら、
シズの背中に手を回してあげた。



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憧が許してくれた!
私の努力が実を結んだんだ!


今回の件で、私は思い知った。
今一緒に居てくれる人だって、
ずっと一緒に居てくれるとは限らない。

一緒に居続けるためには、努力して
関係を繋ぎとめる事が必要なんだって。


よく考えてみれば、私はもうそれを何度も経験したはずだ。

赤土先生の時も、憧の時も、和の時だって。
なんで、また同じ過ちを繰り返してしまったんだろう。


今度はもう繰り返さない。
憧だけは、絶対に離さない!



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こうして、私達の関係は修復された。
ううん、前よりもずっとずっと強くなった。

さすがに、朝の5時から
出待ちするような事はなくなったけど、
朝起きて窓を開けるとシズがいるのは変わりがない。

休み時間、お昼休み、放課後。
どんな時でも、私が教室の外に出る時にはもうシズがいる。


「シズ、もう許したから
 そこまでしなくていいのよ?」

「へ?何が?」

「いや、だから…頑張って
 出待ちしなくていいんだってば」

「ああ、そういう事!でも、これは
 私が好きでやってる事だから!」

「むしろ、憧から離れてる方が嫌なんだよ」


そう言って、満面の笑みを浮かべるシズ。
その笑顔には、嘘偽りは一切なく。
本当に心からそう思っているんだろう。


「だからってまた倒れたら本末転倒じゃない」

「大丈夫!今は夜ちゃんと寝てるし、
 そもそもこうなる前は、
 朝も晩も山に行って駆け回ってたんだから!」


むしろ負荷は下がったくらいだよ!
なんて語るシズ。ああうん、そうだった。
そう言えばあんた、元々結構化け物だったわ。


まあ、シズの健康に問題がなくて
私に纏わりついてくるだけだったら
特に問題はない。


でも、実際には。


私がした事の影響は、もっと深刻なものだった。



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「おひさしー」

「あ、憧ちゃん!!
 よ、よかった…仲直りしたんだ…!」


久しぶりに部活を訪れると、私達の姿を見て取った玄が
あからさまな安堵の溜息をついた。
ホント、玄には心配かけたなぁ…


「ごめんね、心配かけて。ようやく元通りだから」

「灼も、宥姉もごめん」

「気にしなくてい…」

「うん、二人が仲直りしたならそれで解決だよ」


皆、自分勝手な理由で迷惑をかけた私達を
快く許してくれた。
こうして、この問題は終わりになった。


…かと思いきや、実際にはまだ継続していたわけで。


「ほら、シズ。あんたも何か言いなさい」

「え?あ、私、喋っていいの?」


なんて事を、素面でのたまうものだから。
三人の表情が、たちまち怪訝なものに変わってしまう。


「えと、説明がほし…」

「あ、はい。私は今後、
 憧だけの事を考える事にしたんで、
 憧以外の人と喋らないって約束したんです!」

「だから、憧が許可した時だけ
 喋るって事でいいのかな?どうなの憧?」

「いやいや、別に私と以外話すなとか言ってないでしょ」


確かにそんなような事は言ってたけど、
まさか本気だとは思ってなかった。


「でもさ、憧以外の人と話してる時は、
 やっぱり憧から意識外れちゃうじゃん?」

「そしたら、その人の事を
 憧より優先してる事になる」

「それって、憧に対する裏切りじゃん」

「うん、決めた!やっぱり私は、
 憧以外の人とは、もう一生話さない!」


超理論を展開させたシズは、
うんうんと満足したように頷いた。
もちろん、このシズ理論についていける人はいないわけで、
辺りには何とも言えない沈黙が訪れる。


そうだった。シズは元々ちょっとおかしいんだった。
何しろ、離れた友達と遊ぶためだけに、
思いつきでインターハイの全国大会を
目指しちゃうような子だ。


よく言えば一途。悪く言えば自閉。


そして、私は今回。そんなシズに対して、
シズの一生でも過去に例を見ないレベルの強烈さで
シズの意識を上書きしてしまった。

これ、再上書きできるのかしら…



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結論だけ言ってしまえば、上書きはできなかった。
シズは、私以外の人間とは本当に話さなくなってしまった。

そしてそれは、教師や肉親についても対象だったらしく。
すぐに、問題は顕在化した。


「あ、憧ちゃん…穏乃について、何か知らない?」


シズの両親に相談されて、私はシズの家を訪れた。
聞けば、シズは家に帰るとすぐ
自分の部屋に引きこもってしまうらしい。

呼びかけても一切返事をする事はなく。
部屋の扉を開けてくれる事もない。

そして、耳をそばだててみると、
部屋の中からは話し声。
それも、いつも私と話しているみたいだと。


「え、と…私、この時間にシズと電話って、
 最近した覚えがないんですけど…」


そんな私の回答に、おばさんはさらに青ざめる。
じゃあ、誰と話しているのか。
うん、まあ大体想像はつくよね。


シズの部屋の前にたどり着く。
そして、そっとドアに耳を寄せると、
確かにシズは誰かと話していた。


『えへへ…今日も憧といっぱい喋れたな』

『憧はどうだった?私と話してて楽しかった?』

『ねえ憧、話しかけてよ』

『もう、写真の憧はいっつも無口だなぁ』


うん、聞かなきゃよかった。
とりあえず埒が明かないので、突入する事にする。


トントン


「シズー?ちょっといいー?
 話したい事があってお邪魔したんだけどー」

『あ、憧!?本物の憧!?』

「どこに私の偽者がいるのよ」

『ちょ、ちょっと待って!今開けるから!!』


ドタドタと慌ただしい音を立てながら、
部屋の鍵が開けられる。
次の瞬間、飛び出してきたのは超笑顔のシズ。


「憧!!」


そんな、ご主人様を見つけた犬みたいな
シズは確かに可愛かったんだけど。

残念ながら、私の意識はそちらよりも、
視界に入ったシズの部屋の方に向いていた。

だって、そこには…


一面に、私の写真が貼り巡らされていたから。



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病院に連れていかれたシズは、
そこで重度の依存症であるという診断を受けた。
あえて詳細な病名をつけるなら、『新子憧依存症』。
いやまあわかってはいたけれど。

そもそもこの診断だって、
私が付き添って、私がお医者さんの質問を
シズに繰り返さないと成立しなかったんだから。


この結果には特に驚きもしなかったんだけど、
驚いたのは、私の方にも病名がついた事。
それは、同じく依存症。え、私が?なんで?


「現在の高鴨さんに対応できている時点で、
 貴方にも重篤な依存性があると判断せざるを得ません」


との事。まぁ確かに否定はできない。
とはいえ、私の方は普通に受け答えできている事や、
状況証拠的な側面が強い事から、
特に入院などの処置は必要なしと判断された。


問題なのは、シズの方。
このままでは、シズは入院になりかねない。
そしてそうなれば、
依存の対象である私とは隔離されるに違いない。


だから、私はこう打診した。


「まずは、私達の方で依存を克服するように
 努力してみますので、
 通院という形から始めませんか?」


もちろんシズは言わずもがな。
おばさんだって、自分の娘がいきなり
閉鎖病棟なんて事態は避けたいところだろう。

病院に来たのも事件を起こしたからではなし、
通院の意思もあるなら強制入院まではいかないはず。


「では、まずは週二回通院を行う事にしましょうか」


私の狙い通り、提案は受け入れられた。



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よくわからないうちに、私は病院に連れていかれた。
そして、診断された結果は、対人関係依存症、だったかな?
まぁともかく、憧に依存しているという事らしい。

でも、そんな事よりも嬉しかったのは、
憧も私に依存しているという診断を受けた事!
言うなれば、『高鴨穏乃依存症』!
私は思わず小躍りしそうになった。というか、した。


でも、その診断を受けた憧は浮かない顔で。
辺りは、重苦しい雰囲気に包まれた。
え、憧…私に依存するの、嫌なの?
私だったら、全然依存されても問題ないのに。


「まずは、私達の方で依存を克服するように
 努力してみますので、
 通院という形から始めませんか?」


なんて、依存を治す方向で話を進める憧。
私は、思わず怒りそうになったけど、
その直後に憧が私に向けた目を見て静かにした。


『ここは大人しくしておきなさい』


憧は、そうアイコンタクトしていたから。


結局通院する事に決まって、
家に戻ってきた後、憧から状況を説明された。


「こういった精神的な病気の場合は、
 医療保護入院って言って、
 本人の同意なしでも入院させられる制度があるのよ」

「な、何それ!?」

「だから、あの場で病気と診断された私達が暴れたりしたら、
 それこそ即強制入院なんて可能性もあったわけ」

「しかも、入院って言っても普通の病院じゃないから、
 閉鎖病棟っていう所に、本当の意味で隔離される」

「そしたら、あんたと私は、
 長い間会う事ができなくなってたわよ?」

「ま、さすがに可能性としては
 限りなく低かったでしょうけど」


危なかった…憧が機転をきかせてくれなかったら、
私達は離れ離れにさせられてたかもしれないんだ…


「で、でもさ!?私達、お互いに依存症なんでしょ?
 それって、誰も困らないじゃん!」

「あんたが私以外の人との会話を遮断するからでしょうが」

「そりゃそうだけど…でも、
 やっぱり別に迷惑はかけてないじゃん!」

「私達が外界との交流を遮断して
 二人っきりで暮らすなら、ね…」


そう言って、憧が苦笑する。
ん?何気に憧、今さらっと解決策出してない?
つまり、私達が二人っきりで暮らせばいいんじゃん。



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シズの部屋に戻ってきた私達は、
今後の方針について相談する事にした。


それにしても、どこを見ても真っピンク。
いや、私の髪の毛の色なんだけど、
さすがにこれは異常でしょ。
天井にまでびっしり貼り巡らされてるんだけど、
ちっちゃくて可愛いシズが
どうやって貼ったのかが気にかかる。


「で、でもさ!?私達、お互いに依存症なんでしょ?
 それって、誰も困らないじゃん!」


私の説明に対して、シズが予想通りの反応を示す。
この子、本気で人間社会からリタイアする気なのかしら。
なんて訝しんでたら、


「それだよそれ!
 私達が二人っきりで暮らせばいいんじゃん!」


はい、解決!みたいな顔で話すもんだから。
やっぱりシズは病気なんだな、としみじみ思った。


とはいえ、じゃあどうすれば二人きりで暮らせるだろうか、
なんて即座に考えている辺り、
私も壊れてしまっているのかもしれない。


でも、現実問題。シズはもう治らないと思う。
そして、私から隔離されたシズは、
暴れるか、命を絶つかの二択だろう。

閉鎖病棟なんかに行ったらどちらも許されないわけで、
そうなれば薬漬けの「シズだったもの」にされかねない。

何より、仮に病院が完璧な治療をして、
元のシズに戻ったとしても…


私はきっと、もう一度同じ事をするだろう。


あ、やっぱり私もおかしいわ。狂ってる。


結局は、シズの言う通り、
二人っきりで暮らすしかない気がした。

学校はやめればいいとして、
問題は退学後どうやって生きていくか。

あれ?でも別に体力は有り余ってるんだし、
私が居れば普通に意思疎通できるんだから…


普通に和菓子屋継げばいいんじゃない?



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「いらっしゃいませ!」


今日も私は、愛想よくお客さんに挨拶する。
私は売り子。シズは職人として今日も頑張っている。

面倒なので、シズはもう声が出ないという設定にした。
喋らない点を除けば、シズは
普通に愛想がよくて可愛いので、
同情も相まって人気者になった。


もっとも、その実その目は
私以外を映してはいないんだけど。



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憧と二人で、家を継ぐ事にした!
まあ、将来的には元々その選択肢も考えていたし、
ちょっと時期が早まっただけで
落ち着くところに落ち着いたんじゃないかな?

お父さんもお母さんも、
私の憧への依存が治ってない点は
不安に思ったみたいだけど。

実際、二人で仕事について、
その仕事ぶりと明るさを見たら納得してくれた。


といっても、私は憧と以外喋る気はないから、
憧が「私は喋れない」という設定を追加した。
ただ、喋らなくてもいいからお辞儀とか
愛想笑いくらいはしろと言われたけど。

正直、憧以外の人に視線を移したり、
笑いかけたりするのは嫌なんだけど、
まぁそのくらいは譲歩する事にする。


こうして、私はほぼ理想の生活を手に入れた。



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最初は、ただの焼きもちだったんだと思う。
近くにいる私より、遠くの和。
和の事ばかり口にするシズに焼きもちを妬いただけだった。


それだって、本当はわかってた。
シズは、私はそばに居る前提で、
その上でオプションとして和を求めていたんだって。


でも、私はそれすら許せなかった。
どんな時も、私を最優先で見てほしかった。


そう考えると、やっぱり先に壊れたのは私の方で、
私がシズを壊した、というのが正しいのかもしれない。


今日も、私はシズと抱き合う。
そして、シズと語り合う。


「ね、憧…そろそろ、私達も子供が欲しいな」

「あんた…子供には話しかけるの?」

「あ、そっか…私が子供作っても話せないや」

「うーん、でも憧の子供、可愛いんだろうなあ」

「自分達の子供くらい例外にしてもいいんじゃない?」

「あ、それはやだ。
 私は憧以外とは話さない。話したくない。
 というか、そもそも無理」


「私は、もう憧以外の人との話し方忘れちゃった!」


なんて、無邪気な笑顔で笑うシズ。
うんうん、やっぱり頭おかしいわ。

でも…そんなシズを見て、
どうしようもなく嬉しくなっちゃう辺り、
やっぱり、私も頭がおかしい。


「…私も、シズ以外と話すのやめようかな」

「えー、嬉しいけど、店が潰れるよ?」

「冗談冗談。せっかく手に入れた理想の生活、
 そうそう潰す気はないわよ」


でも、もし。例えばデイトレードとか。
本当の意味で、シズとだけで生きていける道を見つけたら。
その時は。

私も、シズとだけ話すようにしようかな?


そう考えれば、まだ今の生活も改善の余地がある。
まだまだ、私達の挑戦は始まったばかりだ。


(完)
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posted by ぷちどろっぷ at 2014年10月05日 | Comment(6) | TrackBack(0) | 咲-Saki-
この記事へのコメント
いつもおつかれさまです。
Posted by at 2014年10月05日 13:40
単純かわいい。小躍りかわいい。
Posted by at 2014年10月05日 18:25


リクエストに応えて頂きありがとうございます!
めちゃくちゃ面白かったです!
これからも楽しみに待ってます
Posted by at 2014年10月05日 19:51
他の阿知賀メンバーの反応がリアルな分、2人の異常性が浮き彫りになりますねー。
私たちの挑戦はこれからだとか…少し怖いです。
Posted by at 2014年10月05日 22:21
すばらしいですわ
Posted by at 2014年10月05日 23:41
コメントありがとうございます!

>かわいい
憧「シズは意外とかわいい」
穏乃「意外ってなんだよ」
憧「いやなんか変に男らしいというか…
  そういうフィルタ取っ払うと実はかわいい!
  ちっちゃいし!」
穏乃「あ、う…もう、バカ!」

>リク
いえいえー。こちらこそネタ提供ありがとうございます!

>少し怖い
憧「まぁリクエストの内容がドロドロだしね」
穏乃「むしろ阿知賀って憧が緩衝役っぽいから
    憧が壊れちゃうとこうなっちゃうよね」

>おつかれさま、すばら
こういう何気ないコメントうれしいです。
ありがとうございます!
Posted by ぷちどろっぷ(管理人) at 2014年10月15日 17:24
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