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【咲SS:霞小】小蒔「私達は、二人で一つです!」【依存】

<あらすじ>
幼い頃から、神の依代を宿命づけられた神代小蒔。
同様に、悪しきものから彼女を守ることを
運命づけられた石戸霞。

似た者同士の二人は、お互いに依存しあうようになる。

<登場人物>
石戸霞,神代小蒔

<症状>
・共依存(弱)

<その他>
以下のリクエストに対する作品ですが…どうしてこうなった。
・小蒔さんと、霞さんの共依存系の話

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私は小蒔ちゃんの生ける天倪(あまがつ)。

神の依巫(よりまし)である小蒔ちゃんを守るため。
その身に、悪しきものを纏う(まとう)定めにある。

でも、私は天命だからではなく。
ただ、小蒔ちゃんを守りたいと思うから。

自らの意思で、喜んで彼女の身代わりとなるの。



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初めて小蒔ちゃんに出会ったのは、まだ八歳だった頃。

祖母上様に手を引かれて、神境に参上した私を出迎えたのは、
同じく年端もいかない小蒔ちゃんだった。

尤も(もっとも)、初めて見た小蒔ちゃんは、
小蒔ちゃんではなく。


そこに居たのは、まごうことなき女神。


まだ修行前の幼い私にもはっきりわかるほどの、
神々しい気を纏った彼女。

彼女は、気圧されて声も出ない私に
穏やかな声で一言告げると、
元いた場所に還っていった。


『私達の娘を頼みますよ』と。


刹那、私を圧倒した気配がぷつりと途切れ、
小蒔ちゃんはがくりと崩れ落ちる。
私は思わず駆け寄った。

全身は汗びっしょりで、それでいて
顔色は死人のように血の気がなくて。
それでも、彼女は弱々しい笑顔を見せた。


「え、えへへ…初めまして…
 見てくれました?」


そこに居たのは、小蒔ちゃん。
頑張り屋さん…ううん、
頑張りすぎな小蒔ちゃんだった。



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小蒔ちゃんのことは、祖母上様から聞いていた。
人の世を守るため、その身に女神を降ろす姫。
それが、神代(じんだい)。神代小蒔。

あまりにも重すぎる宿命を背負った彼女は、
物心ついた頃には、大人顔負けの修練を積んでいたらしい。

それでも、頑張り屋さんな小蒔ちゃんは、
泣き言一つ言わず。

私との出会いにあわせて、
初めての『降臨』に挑戦した。


それは、確かに神秘的で
素晴らしい成果だったのだろうけど。

まだ幼い私にはその素晴らしさはよくわからず、
むしろその後の小蒔ちゃんの憔悴ぶりの方が
ひどく心に残った。

このまま、この世を去ってしまうのではないか。

そう思えるくらい、小蒔ちゃんは衰弱していたから。

なぜ、周りは止めなかったのか。
なぜ、こんな惨いことをするのか。
私は子供心に憤った。



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周りは皆、小蒔ちゃんのことを「姫様」と呼ぶ。


まだ小さな子供に過ぎない小蒔ちゃんを、
神の化身として、別の生き物のように扱う。
普通の子供にすれば、間違いなく
児童虐待と罵られるような行動を
平然と小蒔ちゃんに行う。

私には、それがどうしても正しいこととは思えなかった。


せめて私だけは、小蒔ちゃんと呼ぼう。
等身大の感情で接して、彼女と友達になろう。
そして…できることなら、彼女を守ろう。
幼心にそう決めたのを覚えている。


それは、まだ幼い私からの、
大人達への挑戦状だった。



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私は、生きた依代(よりしろ)です。
その身に善い神様を降ろし、人々を守るための存在です。

人は皆、私を神の化身として崇め奉ります。
その命を引き換えにしてでも、私を守ろうとします。

でも、私自身は、そんなに大それた者ではないのです。


だから、どうか…
「姫様」なんて、呼ばないでください。



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私が初めて霞ちゃんと出会ったのは、
確か私が七歳の時のことです。

私の代わりに、悪いものをその身に宿すための存在。
霞ちゃんのことは、そう聞かされていました。
初めてそれを聞いた時、ひどく驚いたのを覚えています。

だって、生まれながらにして身代わりだなんて。
そんなことが、許されていいのでしょうか。


霞ちゃんとの出会いに向けて、
私は降臨の試練を課されました。
私はそれを、二つ返事で受け入れました。

それは今思えば、私自身が厳しい運命に
翻弄されていることを印象付けることで、
霞ちゃんに文句を言わせない意図があったのでしょう。


でも、私は。私自身は。


そのくらいしなければ、
霞ちゃんに申し訳が立たないと思ったのです。
霞ちゃんの背負うものは、
私なんかよりもはるかに重いものなのですから。



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初めて霞ちゃんと出会った日。
崩れ落ちた私を見て、霞ちゃんは泣いてくれました。


「なんで、こんなひどいことをするんですか!?」


と、自分のことのように怒ってくれました。
私は、泣かせてしまったことを申し訳なく思いながらも、
嬉しかったのを覚えています。


霞ちゃんは、初めて現れた私の味方でした。
自分だって厳しい修行を課されているのに、
少ない時間を見つけては、
私を遊びに誘ってくれました。


「小蒔ちゃん…三十分お休みをもらえたから、遊びましょ?」


霞ちゃんは、私と二人っきりの時は、
「小蒔ちゃん」と呼んでくれました。
それは、私が密かに切望していたことで。
思わず、私は泣き出してしまいました。


その時、私は思ったんです。
霞ちゃんは、私のために悪いものをその身に宿す。
だったら私は、霞ちゃんのために
善いものをその身に宿そうと。
人の世ではなく、霞ちゃんのために。


誰かを贔屓するのは、巫女として失格だと思いますが、
せめてそのくらいは、許してほしいと思ったのです。
どうか、どうか。



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初めてその身を悪しきものに奪われた時。
視界は真っ赤に染まって。
意識が真っ黒に染まって。
耐えがたい苦痛に、いっそこのまま、
この世を去ってしまいたいと思った。


そんな私を踏み止まらせたのは
他でもない小蒔ちゃんの涙だった。


「霞ちゃん!逝かないでください!
 私を一人にしないでください!!」


泣きじゃくりながら私をゆする小蒔ちゃんを見て、
このまま逝くわけにはいかないと思った。

だって、こんなに小さい小蒔ちゃんを残して。
お姉ちゃんである私が、
先に楽になっていいはずがないから。


「だい…じょうぶ…
 わた…しは…だ…い…じょ…う…ぶ……」


おかげで、後一歩のところで私は
この世にとどまることができた。

尤も、身体が完治するまでには
数か月の月日が必要だったけど。
それでも私は、生き残ることができた。
そう、それは、小蒔ちゃんのおかげ。


小蒔ちゃんは、私によく懐いてくれた。
遊ぶ時間なんてほとんどなかったけれど、
それでも短い自由時間には、私と一緒に遊ぶことを望んだ。


私が耐えられたのは、
小蒔ちゃんがいてくれたからだと思う。


私を生かしてくれた小蒔ちゃん。
だから、私は小蒔ちゃんのためにその身を捧げる。

それは、宿命だからではなく。私自身の意思。



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霞ちゃんは、いつも死と隣り合わせでした。


私が宿す神様は、私を乗っ取ろうとはしません。
私を殺そうともしませんし、身を案じてもくれます。
私が苦痛を感じるとすれば、
それは単に私の身体が未熟なために、
神様の力に耐えきれないだけのことです。


でも、霞ちゃんは違います。
それは、自ら出て行くことはありませんし、
隙あらば霞ちゃんを乗っ取ろうとします。
そして、乗っ取れないとわかると、
腹いせに霞ちゃんを殺そうとするのです。


初めて霞ちゃんが悪いものを降ろした時のことは
今でも鮮明に覚えています。


いつもは水面(みなも)のように
きらきらと輝く霞ちゃんの瞳が、
どろりと濁った、墨汁のような黒に変わり。

首を掻き毟ってもだえ苦しんだ霞ちゃんは、
やがて喀血(かっけつ)して倒れ伏しました。

霞ちゃんの中の神気がみるみるうちに弱まっていき、
比喩ではなく、このままでは霞ちゃんが、
本当に死の境を越えてしまうだろうことがわかりました。


「霞ちゃん!逝かないでください!
 私を一人にしないでください!!」


思わず私は、声を張り上げていました。
霞ちゃんは、私の、たった一人の味方なんです。
霞ちゃんがいなくなったら、
私は生きていけません。

なのに私は、苦しんでいる霞ちゃんに対して、
何一つ助けになることもできず。
ただ身勝手なお願いをして、
縋りつくことしかできないのです。
自分の無力さを恨めしく思いました。


それでも霞ちゃんは、私を案じてくれたのです。


夥しい(おびただしい)血を流し、自らは
今際の際(いまわのきわ)にあるにもかかわらず。
霞ちゃんは、泣きじゃくる私の頭を
ぽんぽんと撫でてくれました。


「だい…じょうぶ…
 わた…しは…だ…い…じょ…う…ぶ……」


そう言って、涙でぐしゃぐしゃの笑顔を、
私に向けてくれたんです。


その時、私は思いました。

もし、霞ちゃんが逝ってしまったら、
その時は私もついていこうって。

私は、霞ちゃんのために生きて、
霞ちゃんと一緒に逝こうと決めたんです。



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小蒔ちゃんが、私に依存していることは気づいていた。
でも、私はそれを咎めようとはしなかった。
だって、私も小蒔ちゃんに依存しているのだから。

私が死んだら、小蒔ちゃんは
後を追うだろうことも気づいていた。
だって、私だって同じことをするから。

私達がそんな狂気に染まっていっても、
大人達は特に止めようとはしなかった。

いいえ、そもそも気づいてすら
いなかったのかもしれない。


要は、身体さえ無事ならそれでいい。
私達は、所詮器に過ぎないのだから。
暗にそう言われているような気がした。

そして、私達はより依存する。



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思春期を迎える頃。私の身体は大きな変化を迎えていた。

体つきは丸みを帯び、
母性の象徴である胸はたわわに実った。
それ自体は、悪いことではないのだけれど、
そうなった原因は決して好ましいものではなかった。


悪しきものによる影響。劣情をそそる身体への変貌。


時を同じくして、私は小蒔ちゃんに対して
邪な感情を抱くようになった。
自分がひどく、醜くて浅ましいものになったと感じた。


このままでは、私自身の手で
小蒔ちゃんを穢してしまうかもしれない。
そうなる前に去るべきか。
でも、私が居なくなったら、
小蒔ちゃんはきっとついてくる。


どうすればいいのかわからず、悶々と過ごす日々。
それは、少しずつ私の精神を蝕んでいった。


そしてそれは、悪しきもの達にとって、
つけいる格好の隙だった。



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ある時から、霞ちゃんの様子が変わってきました。
時折、ひどく余所余所しい
態度をとるようになったのです。

同時に、霞ちゃんの神気が、
少しずつ濁り始めていることにも気づきました。
それは、霞ちゃんが悪いものを
降ろしている時と同じ感覚で。

霞ちゃんが、少しずつ
『混ざってきている』と思いました。
そしてそれに気づいているのは、
私だけのようでした。

でも、私はそれを周りに告げることはできません。
以前、母上様に聞いたことがあったからです。


「母上様。天倪となった巫女は、
 天寿を全うできるのですか?」

「巫女によりますが…
 その多くは、短命でこの世を去ります」

「母上様の時はどうでしたか?」

「私の時は…一度天倪を『取り替え』ました」

「取り替えるだなんて…!」

「悪しきものを降ろし続けた巫女は、
 少しずつそれと同化していきます」

「そのまま放置すれば、巫女そのものが
 悪しきものに変貌してしまうのです」

「そうなる前に、巫女はこの世を去ります」

「それが定めなのです」


つまり、このことが周りに知られれば、
霞ちゃんは『取り替え』られてしまいます。

私には、口をつぐむことしかできませんでした。



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自分が、変わってきていることに気づいた。

悪しきものを降ろしているはずなのに、
身体に大した負荷がかからない。
それでいて、祓ってもらったはずなのに、
身体から穢れが取れない。
何より、考え方が自分本位になってきている。


心の中で、自分と戦うことが多くなった。


(ねえ、もう楽になってしまわない?
 いい加減、疲れたでしょう?)

(いいえ、私はまだ頑張れます)

(小蒔ちゃんのこと、食べてしまわない?
 それで二人で、一緒に逃げるの)

(小蒔ちゃんまで穢すつもり?)

(穢れるって悪いこと?この息苦しい世界で
 二人きりで身を寄せあうことが正しいこと?
 小蒔ちゃんは本当にそれで幸せなの?)

(それは…)

(二人で穢れればいい。二人で逃げればいい。
 その方が、小蒔ちゃんも幸せなはず)

(そうだとしても、できないわ。
 それは、小蒔ちゃんの
 今までの頑張りを否定することになる)

(でも、だからといってどうするの?
 私の身体は、もう長くはもたないのに)

(自尽する?そしたらもれなく、
 小蒔ちゃんがついてくるけど)


戦いは、終始悪しき側が優勢だった。
私は、自分が『取り替え』時期に差し掛かったと思った。



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「小蒔。貴方に一つ、伝えておくことがあります」

「母上様…?」

「石戸霞の、『取り替え』が決定しました」

「!?」

「明後日には、石戸霞は幽閉されるでしょう」

「今のうちに、別れの挨拶を済ませておきなさい」

「そんな…そんな!何かの間違いではないのですか!?」

「小蒔…貴方は気づきませんでしたか?」

「……」

「石戸霞を連れてきたのは、彼女の祖母です。
 …母ではありません」

「まさか!?」

「…取り替えは、厳正に行われるのです。
 彼女の母は、自らを言霊で縛り、
 潔く自刃しましたよ?」

「いいですか?決起は明後日の夜です。
 明日中にけじめをつけておきなさい」

「明日中…」



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突然押しかけてきた小蒔ちゃんは、
鬼気迫る表情で私にこう捲し(まくし)立てた。


「霞ちゃん!逃げましょう!」

「このままでは、『取り替え』られてしまいます!」

「え…!?」


どうして、あなたがそのことを…!?


「母上様から聞いたんです!
 このままでは、明後日には追手が来ます!」

「今のうちに、逃げないと!」


そう言って、手を引こうとする小蒔ちゃん。
私はその手を振り払う。


「霞ちゃん!?」


冷静になりなさい、霞。
私は、確かに悪しきものに近づいている。
それに、小蒔ちゃんと一緒に逃げられたらどれだけいいか。
毎日そう考えてきたのも事実。

でも、それでも私は霧島の巫女。
小蒔ちゃんを穢すわけにはいかない。
だってそれは、小蒔ちゃんの努力を
全否定することになるのだから。


問題は、小蒔ちゃんが私の後を追うことだけど…
それも、解決する簡単な方法を見つけ


「霞ちゃん!あなたがこの世を去るなら、
 私も必ず後を追います!
 『これは、言霊です!!』」

「私はもう『この言霊を覆しません』!
 覆す時は身罷る(みまかる)時です!!
 『これも、言霊です!!』」


…たのだけど先に使われちゃった。


「小蒔ちゃん…今、自分がどれだけ
 大変なことをしたのかわかっているの!?」

「わかっています!でも…私が使わなければ、
 霞ちゃんが使うつもりだったのでしょう?」

「私達は…二人で一つじゃないですか!!」

「霞ちゃんを取り替えるというのなら…
 私も、取り替えるべきです!」


強い意志を籠めた瞳。
そうだった、この子はこういう子だった。
泣き虫で、弱虫で。でも、頑張り屋さんで。


それでいて、一度決めたことは絶対に譲らない。


「仕方ないわね。じゃあ、二人で逃げましょうか」

「はい!!」


今度こそ、私は小蒔ちゃんの手を取った。



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『大変です!霞が姿を消しています!』

『それだけではありません!
 姫様の御姿も!』

『もしかして、気づかれたのでは…』

『そして、姫様を攫われた…』

『そんな馬鹿な!?誰が漏らしたというのですか!?』

『今は責任を追及している場合ではありません!』


『何よりもまず、神境を封鎖するのです!』



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闇夜を二人で駆け抜ける。
一時は出し抜いたと言っても、ここは神境。
人里まで降りなければ、安心はできない。

そして、おそらく唯一の出入口は封鎖されている。
相手が態勢を整える前に、
そこを突破できるかが私達の分水嶺になる。


「小蒔ちゃん、ごめんなさいね」

「私は、今から悪しきものを纏う」

「そして、それはもう祓われることはない」

「私はきっと、小蒔ちゃんを食べてしまうでしょう」

「でも、逃げるためには必要なの」

「許してちょうだいね?」


小蒔ちゃんは怖がるどころか、握り拳を作って発起した。


「わ、私も戦います!」

「小蒔ちゃん、意識を変えなければ駄目よ?
 あなたには、もう神様は降りてきてくださらない」

「あなたは神の住居から、悪しきものと
 手を繋いで逃げようとしているのだから」



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私が思っていた以上に、神境の守りは堅かった。
もしかしたら、私が逃亡することは
予見されていたのかもしれない。


「石戸霞が来ました!すでに『降ろして』います!!」

「姫様もご一緒です!」

「油断してはなりませんよ!何しろあの石戸です!
 破魔矢を絶対切らさないように!」

「で、でも…姫様に当ててしまったら…!」

「致し方ありません!破魔矢であれば、
 神様のご加護で姫様はある程度お耐えになるはずです!」


「あらあら、これは困ったわね…」

「攻撃は、苦手なのだけど…」


呑気なことを言いながらも、私は焦っていた。
悪しきものを纏うと言っても、
それはあくまで自身を身代わりにして
悪しきものから小蒔ちゃんを守るためのもの。
護身は本来の目的ではない。

しかも、相手が私を殺す気でかかってくるのなら、
退魔の準備ができているあちらの方が断然有利。

…それでも。


「苦手分野、いかせてもらおうかしら!」


これまで一応は身内と信じてきた方達に
牙をむくのは忍びないけれど。
状況は圧倒的に不利だけど。
それでも今は、やるしかない。

私は、小蒔ちゃんの命も預かっているのだから。


「さあ、私の身体、好きになさい!」


私は、闇を身にまとう。制御を完全に取り払い、
悪しきものに明け渡す。
これで、私はもう戻れない。


破魔矢が一斉に放たれる。
それらは一瞬のうちに、私の闇にかき消される。


「ひっ…ばっ、化け物!!」

「ひ、ひるむな!射れ!射れ!!」

「小蒔ちゃん、行くわよ!!」

「は…はい!」


小蒔ちゃんの手を取って、矢の雨の中を駆け抜ける。
矢は全て私達の元に届く前に、闇に消える。
これなら案外楽にいけるかもしれない。


なんて、現実はそんなに甘くはないのだけれど。


「火矢を放つのです!!」


どこからともなく聞こえた声。
同時に、私達の前面に火が放たれる。

すでに油がひいてあったのか、
地面はすさまじい熱量を持って燃え盛る。


荒ぶる炎は、私の闇をも打ち消した。


「あうっ!」

「こ、小蒔ちゃん!!」


薄れた闇を貫いた矢が、守りが薄い小蒔ちゃんに突き刺さる。
破魔矢とはいえ、矢には変わりない。
受け続ければ、普通に命に関わる。

私は、反射的に小蒔ちゃんを
かばって覆いかぶさってしまった。

足を止めた私に、矢が一斉に突き刺さる。


「うっ…」

「か、霞ちゃん!離してください!
 こうなったら、霞ちゃんだけでも!!」

「お…お馬鹿さんね…私達は、
 二人で一つなのでしょう?」

「だからって…私をかばってなんて…!」

「私は…元々…天倪でしょう?」


話している間にも、私には矢が突き刺さる。
人をやめていなければ、とうに事切れていただろう。


でも、どうやらここまでみたい。


せめて、小蒔ちゃんの巻き添えは避けなくちゃ…
たとえ後を追うにしても、
今この場で命を落とすよりは長く生きられるはず…


「神様!助けてください!!」

「私は、どうなっても構いません!!」

「どうか、霞ちゃんを!助けてください!!」



「神様ぁ!!」



私の腕の中で、小蒔ちゃんが神頼みを始める。
それは巫女としては正しい姿なのだけれど。
私には、それがひどく場違いな行動に見えた。

だって、私達はその神の使いに
殺されそうになっているのだから。


「もう…お馬鹿…さん…」


思わず視界が涙で滲んだ。

ああ、私はなんて。
なんて惨いことをしてしまったのだろう。


神の化身である小蒔ちゃんをかどわかし。
小蒔ちゃんから神様を奪った。
もう、いくら小蒔ちゃんが叫んでも。
いくら希って(こいねがって)も。



もう、小蒔ちゃんに神様なんて降りてこない。



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『必ずしも、そうとは限りませんよ?』







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一瞬にして火が消えた。


辺りは神々しい気に満ちて、
その場にいる者皆を圧倒した。


周囲がしんと静まり返る中、
凛と響くのは小蒔ちゃん…いいえ、神様の声。


『嘆かわしい事です…元来この国は、八百万の神に護られた国』


『善きものも、悪しきものも…
 お前達が決めた理(ことわり)に過ぎません』


『なぜ、受け入れてやらないのですか』


『私達は、我が娘が愛したこの娘を愛します』


神様はそう告げると、血まみれの私に手をかざす。
その瞬間、傷はたちまちに癒え、衣装すら元通りになる。


しかも、私の闇はそのままに。


『さあ、行きましょう?』


「よ、よろしいのですか…?」


『娘があなたを愛したように、私達もあなたを愛しています』


『いっそ、あなたも神になってはいかが?』


『この国は、そういう国でしょう?』


神様は私の手を取ると、ゆったりとした所作で歩き出す。
そこには遮るものはなく。
私達は、悠然と神境の関門までたどり着いた。


『私は、ここでお別れです。
 そして今後は、小蒔に降りることはできないでしょう』


『私達の娘を…頼みますよ』


「はい…!この命に代えても…!!」


『烏滸事を。あなたが果てれば、
 娘もこの世を去るのでしょう?』


『天寿を全うなさい。
 そして、同胞(はらから)となりなさい』


『高天原で待っていますよ』


ふっと、神聖な気はなりを潜め。
あの時と同じように、小蒔ちゃんの身体が崩れ落ちる。
私が咄嗟に抱きかかえると…
小蒔ちゃんは、申し訳なさそうな顔でこう言った。


「す、すいません…寝てました」



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神境を抜けた私達は、遠野に逃げこんだ。


とはいえ、神様からのお墨付きをいただいた私達に、
もはや追手が迫ることもなく。

私達は、悠々自適の生活を満喫している。


「霞ちゃん、見てください!私にも角が生えました!!」

「あらあら…可愛い角。
 でも、これじゃ撫でられないわねぇ」

「あ、それは駄目です!今引っ込めます!」


完全に悪しきものと同化した私は、
もはや小蒔ちゃんを散らすことにためらいもなく。

それこそ、寝る間も惜しんで小蒔ちゃんを食い漁った。

そしてそれは期せずして、
私の神格を高める効果を生んだようで。
角やら黒い翼やら、いかにも
人間をやめた姿になってしまった。


「神様じゃ…生神(いきがみ)様じゃぁ…」

「神様だよー!真っ黒な神様だよー!
 サイン欲しいよー!」


さらには、それを目ざとく見つけた地域の方々に、
なぜか神様と崇め奉られる始末。
…神様だとしても、思いっきり悪神だと思うのだけれど…
遠野の人は心が広いのね。
ああ、もうすでに前例がいるからかしら?


……


これで大団円なのかというと、
きっとそうではないのだと思う。


私達がいなくなった神境はどうなってしまったのか。
どれだけの人に迷惑をかけてしまったのか。

私の理性がどこまで持つのか。
小蒔ちゃんをどこまで蝕んでしまうのか。


悔い改めること、将来への不安は沢山あるけれど。
それでも今は、この生活に幸せを感じずにはいられない。


「小蒔ちゃん…もう一回、しましょ?」

「は、はい…霞ちゃん色で、染めてください…」

「…!も、もう…そんな言葉、
 どこで覚えてきたのかしら?」

「え、えへへ…姉帯さんが…」


ふんふむ。いい仕事をした…と言いたいところだけど、
私の小蒔ちゃんに変なことを教えたのはいただけないわね。
後でしっかりくぎを刺しておきましょう…物理的に。


そして、私はまた。
『悪しきもの』の名に恥じず、小蒔ちゃんを穢す。


いっそ、このまま悪神として名を馳せてみましょうか。
そして、いずれは霧島に粉をかけてみましょうか?


あの神様達なら、意外とあっさり
受け入れてくれるかもしれませんからね?


小蒔ちゃんの嬌声に聞き入りながら、
私はそんなことを考えるのだった。



(完)
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posted by ぷちどろっぷ at 2014年10月12日 | Comment(4) | TrackBack(0) | 咲-Saki-
この記事へのコメント


更新ありがとうございます!
こんな神様になら食べられたい(笑)
Posted by at 2014年10月12日 13:17
永水と宮守…なにかと相性良さそうですね
Posted by at 2014年10月12日 16:38
二人が逃亡の末、追い詰められる場面は、切なかった(涙
その分、土壇場での神様降臨によるカタルシスときたら!
そして、冒険後のサービスシーンはお約束ですね(≧∇≦)
Posted by at 2014年10月12日 17:03
コメントありがとうございます!

食べられたい>
霞「神境へどうぞ…あ、今は遠野ですね」
小蒔「霞ちゃんに食べられるのは私だけです!」

永水と宮守>
霞「原作ではなんでこの二校が?
  と思ったのだけれど…意外に理由があるのかもしれないわね」
小蒔「神様とか鬼とか妖怪については
  かなり深い裏事情がありそうですしね」

逃亡劇>
小蒔「ありがとうございます!
   こういった感想はすごく嬉しいです!」
霞「サービスは…全年齢ブログだから書けないのが残念ね」
Posted by ぷちどろっぷ(管理人) at 2014年10月24日 19:38
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