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【咲SS:淡照菫】淡「私達で菫先輩を救ってあげよー!」【狂気】
<あらすじ>
なし。冒頭があらすじ代わりです。
<登場人物>
宮永照,大星淡,弘世菫(白糸台)
<症状>
・狂気
・ヤンデレ
<その他>
※以下のリクエストに対する作品です。
思ったよりそれっぽくならなかったですけど!
・(シリアス)菫さんが照さんとあわあわによって
徐々に堕とされていく物
--------------------------------------------------------
かつて、ある魔物に挑んだ人間がいた。
人間は、倒されても簡単には諦めず。
倒されるたびに歯を食いしばり、
その魔物に立ちはだかった。
だが、それでも人間は勝てなかった。
やがて、人間は自問し始める。
本当に、自分はこの魔物に勝てるのか?
これはそんな、
魔物に挑んだ人間の葛藤の物語。
--------------------------------------------------------
麻雀における『強さ』を決定づけるものは何か。
それは、ツキ…
つまりは運の強さだという者もいるだろう。
中には、技術…
確率と期待値を計算し、論理的に勝率を高める
技術力があるかどうかだという者もいるだろう。
だが、私の答えはそのどちらでもない。
私の答えは、能力…
すなわち、場を支配できる能力があるかどうか。
なぜなら、能力の前には。
ツキも、技術力も大した意味を持たないのだから。
--------------------------------------------------------
全国屈指の強豪校と名高い白糸台高校は、部員数も多い。
そして、部員たちの質も高い。
覚悟して名門の門をたたく彼女達は、
生半可な気持ちで麻雀を打っているわけではないからだ。
にも関わらず、ここ2年。
やめる部員の数が飛躍的に増加していた。
それは、明らかな異常事態だった。
今日も一人、有望な部員が退部した。
「自分の限界に気づいたんです」
そう言った彼女は、目に涙を浮かべながら
私に退部届を提出した。
彼女は努力家だった。
毎日のように牌譜をあさり、牌効率について研究していた。
デジタルの打ち手としてはかなりのもので、
他の学校であれば間違いなく一軍として活躍できただろう。
だが彼女は今、退部届を提出した。
そして私は、何も言わずそれを受理した。
それは、何も知らない者から見れば、
冷たいと思われる行為だったかもしれない。
だが私は、彼女に何か
言ってやることができただろうか?
「諦めるな!諦めなければ、努力は実る!」
とでも言ってやればよかったか?
それはあまりにも残酷だ。
努力は、必ずしも報われないのだから。
「今まで、よく頑張った」
とでも言ってやればよかったか?
志半ばで諦めた人間に。それは
『私もお前じゃここまでだと思うよ』
と断言するようなものだ。
かける言葉など見つからなかった。
彼女も、それ以上言葉を紡がず部屋を去った。
こんなやりとりも、一度や二度ではない。
どれだけ努力しても勝てず、
涙を流す部員をたくさん見てきた。
努力では埋まらない才能の壁。
だが、どうしてやることもできない。
私自身、その壁に阻まれて、
今ももがき苦しんでいるのだから。
--------------------------------------------------------
「ねえテルー。この学校って、なんで菫先輩が部長なの?」
「菫が部長だと不満?」
「いや、そう言うわけじゃないけど…
どう考えてもテルの方が強いじゃん。
部長って、一番強い人がやるもんじゃないの?」
「淡…それは違う。私では、
部をまとめることはできない」
「なんで?」
「だって、私は魔物だから。
人間の考えなんてわからない」
「例えば…聴牌気配がオーラから読み取れない人に、
淡はアドバイスできる?」
「無理だねー。麻雀止めたら?としか言えないよ」
「…さすがにそこまでは言わないけど…
正直、私達からしたら自然にできることを、
できないと言われても教えようがない」
「だから、菫みたいな人が必要。
菫なら、オーラじゃなくて
牌効率の論理性から聴牌気配の説明ができるから」
「菫は、いわば人間代表。
だからこそ、部長に相応しい」
「なるほどなるほど!つまり…」
「菫先輩は、弱いから部長なんだね!!」
--------------------------------------------------------
無論、私とてただ無策に辛酸を
なめ続けているわけではない。
魔物に勝つためにはどうすればいいか。
人間が取れる対策で、勝つ方法はないのか。
毎日のように模索し続けてきた。
「はい、ダブリー!そこの山に来たら
12000持ってくから頑張って阻止してね!」
だが、どうしようもなかった。
確率と統計に支配された通常の人間に、
こんなものをどう防げというのか。
そもそもこれは、麻雀と呼べるのか?
「はい、ツモ!12000よろしく!」
結局のところ、私だって。
涙を流しつつやめていった部員たちと
何一つ変わらない。
それでも、私が麻雀をやめないのは、
単に私の往生際が悪いだけに過ぎない。
勝ちたい。ただ、勝ちたい。
勝って、こいつらと、対等に…
その儚い夢を諦めることができず、
私は今日も、麻雀を打ち続ける。
--------------------------------------------------------
「ねえテルー。菫先輩って、なんであんなに弱いの?」
「別に菫は弱くない」
「だって、私のダブリー防げないじゃん」
「…ずいぶん、菫のことを気にするんだね」
「べ、別に気にしてなんかいないよ?」
「ダブリーを防げないのは菫だけじゃない。
むしろ、私以外は防げてない」
「なんで、菫にだけ言及するの?」
「……」
「だって」
「だって、菫先輩。諦めないじゃん。
あんだけ負けても、諦めないじゃん」
「あんなに強い気持ちを持ってるのに…
どうしてそれがオーラに反映されないの?」
「あの執念は、充分魔物レベルだと思うんだけど」
「……」
「…菫は、頑固だから」
「あくまで、人間として私達に勝とうとしている。
人間にできる対策で、私達に勝とうとしている」
「でもそれが…菫の、魔物としての成長を阻害している」
「なるほどー」
「ねえねえ、じゃあ私が、菫先輩壊しちゃっていい?」
「…淡?」
「人間の癖に折れないで立ち向かってくる菫先輩も、
確かにゾクゾクするけどー」
「もったいないよ!あれだけ強い思いを持ってるのに!
こっちに来てもらおうよ!」
「淡…やっぱり菫の事、気にしてる」
「うっ!そ、そういうテルはどうなの?」
「…私は、今の菫も好きだから」
「でもさ、それだと菫先輩、ずっと苦しみ続けるよ?」
「…それは…そうだけど…」
「はい決まり!私達で菫先輩を救ってあげよー!」
--------------------------------------------------------
恐れていたことが起きた。
それは、魔物による部活のボイコット。
「私、これからはテルとだけ打つね!」
「ふざけるな!部活に参加する以上、
部の規律は守れ!」
「えー、文句を言いたいのはこっちだよー?
だって、皆弱いじゃん」
「なっ…!?」
「練習って、強くなるためにするんでしょ?
100%勝てる相手とやっても
練習になんないじゃん。
むしろそっちが弱いのをなんとかしてよ」
「ぐっ…」
「そもそもさー、こっちは一年生だよ?
あーだーこーだ言ってないで、
黙って実力でねじ伏せてよ」
「それが、部長ってもんじゃないの?」
返す言葉がなかった。
「文句があるなら、実力でねじ伏せろ」
そう言っている部員に、
正論を吐いたところで空しいだけだ。
結局淡は宣言通り、
照としか打たなくなった。
だが、私はそれを止めることはできなかった。
--------------------------------------------------------
この一件は、部内に大きな軋轢を生んだ。
「部長、もう大星さんは退部させましょう。
いくら強かろうと、和を乱す者は不要です」
「そうですよ!強かったら、
何をしてもいいんですか?」
それは、これまで魔物に苦しめられてきた
部員たちの本音だった。
そして、私にはその気持ちが
痛いくらいによくわかった。
だが、だからといって、
安易に彼女達の意見を採用する事もできなかった。
なぜなら、これで淡を退部させてしまったら
それは、
「実力で叶わなかった部員を、権力で止めさせた」
ということだ。それはそれで、
部活としていいのだろうか?
何より、私の思いはもっと純粋だった。
淡の言う通り、実力で淡をねじ伏せたい。
その上で、淡を規律に従わせたい。
「…この件は、私に預からせてくれ」
そう言った私に対して、
部員たちは少なからず落胆の色を見せた。
きっと、彼女達はこう思ったに違いない。
−部長は、大星さんの前に屈したのだ−
私が勝つとは微塵も思っていない。
だからこそ勝てない上で、
部の秩序よりも淡の強さを優先したのだと。
だが、そう思われても仕方ないのだろう。
私だって、淡に勝つイメージを
想像することができないのだから。
--------------------------------------------------------
屋上に来ていた。
そこには他に何もなく、ただ広がるのは空ばかり。
空は、私を癒してくれる。
その広大さが、私の悩みなんて
ちっぽけなものだと錯覚させてくれるから。
もっとも今日は、程なくして客が訪れた。
「照か」
「ずいぶん、参ってるね」
「…まあな」
照は言葉少なに、私の横にやってきた。
こういう時、照の存在はありがたい。
ただ、何も言わず。
それでいて、側に居てくれるから。
「…どうして、私なんだろうな」
「…何が?」
「部長だよ。最初から、お前がやればよかった。
そうすれば、誰も…淡だって、
文句は言わなかったろうに」
「…菫」
今回の件だってそうだ。
もし照が部長なら、問題を解決するのはたやすい事。
一言、「規律を乱すな」と言うだけで
解決する事なんだろう。
「照…頼みがある」
「何?」
「淡に、言ってくれないか?規律を乱すなと」
私では、淡を御すことができない。
だから、同じ魔物に頼む。
それは、事実上の敗北宣言だった。
「菫…諦めるの?」
「仕方ないだろう!
私一人が屈辱を味わうだけなら問題ない!
でも、このままでは、
部全体がバラバラになってしまう!」
「自分が勝って言う事を聞かせる…とは考えないの?」
「それができればそうしている!
だが、無理だった!
努力なんて、才能の前には意味がない!
なかったんだ!!」
気づけば私は、今まで胸の内に
抑え込んでいた思いを吐露していた。
そして、それを聞いた照は。
…照は一筋の涙を流していた。
「…なんで、お前が泣くんだ…」
「菫が、諦めたから」
「私は、諦めない菫が好きだった。
どれだけ負けても、
それでも立ち向かってくる菫が好きだった」
「でも、菫は諦めた」
私は、言葉を紡ぐことができなかった。
普段は表情を見せない照。
その照が、泣いている。
私のせいで。私が弱かったせいで。
「菫が諦めるなら、この部にいる意味はない。
私はもう、麻雀部をやめる」
「なっ…どうしてそうなるんだ!?」
「淡と二人でプロにでも行く」
「さようなら」
そう言って、照は私の元を去った。
残されたのは私一人。
そう、私、一人…
私は、地べたにへたり込んで。
恥も外聞もなく泣き出してしまった。
なあ、照。私よりも、淡の方がいいのか?
築き上げてきた絆よりも、
魔物としての仲間意識の方が強いのか?
なあ、淡。お前にとっては、
麻雀だけが全てなのか?
麻雀が弱い奴は、
お前にとって何の価値もないのか?
違う。そんなのは全部言い訳だ。
私が弱かったから。勝つのを諦めたから。
だから、皆、私の元を去る。
私が強ければよかったんだ。
私が諦めなければよかったんだ。
私が、私が、私が、私が
--------------------------------------------------------
「あははは、いい顔してるじゃん!」
地べたに這いつくばる私に対し、
淡は笑いながら話しかけた。
「ねー菫先輩、どうしてそこまで苦しむの?」
「お前がっ…お前がそれを聞くのか!?」
悲しみが即座に怒りに変わる。
私は、咄嗟に立ち上がり、
淡の胸倉をつかんで壁に叩きつけていた。
「だってさー、勝ちたいなら勝てばいいじゃん?」
「ふざけるな!願って勝てるくらいなら、
とっくに私は勝っている!!」
「うっそだー。菫先輩は、願ってもいないよー」
「なっ…なんだと!?」
思いもかけない淡の台詞に、思わず私は気圧される。
その刹那、淡の髪の毛が私に巻き付き、
私は自由を奪われていた。
く、そ…化け物め!!
「テルもだけどさー。根本から間違ってるよ」
「なんで、人間のまま勝とうとするの?
勝てるわけないじゃん」
「なんで、魔物になろうとしないの?
対策なんてまどろっこしいこと言ってないでさ」
「魔物になりたい」
「なんでそう願わないの?」
そう言って、淡は私の顔を覗きこむ。
その目は、妖しい光を宿していた。
「だからね?かわいい後輩が
手助けしてあげようと思うんだ」
「具体的には、このまま
菫先輩を襲っちゃいます!」
「魔物になれなかったら、
菫先輩の初めて、もらっちゃうよ!」
--------------------------------------------------------
目の座った淡は、私を捕えたまま
カチャカチャとベルトを外し始める。
怒りは、恐怖へとすり替わり。
私は、全身をガクガクと震わせていた。
「やめろ!淡…やめろ!!」
「だーかーらー、ピーチク
口で鳴くんじゃなくて、
実力で黙らせてってば」
「ほーら、スカート降ろしちゃうよー?」
宣言通り、淡は私のスカートをずり降ろした。
その手つきには、一切の遠慮がない。
「あはっ…菫先輩、きれーな肌してるねー」
「お、お前…頭おかしいんじゃないのか!?」
「ほえ?今更何言ってんの?
魔物に人間の思考なんてあるはずないじゃん」
「言っとくけど私、やるって言ったらやるよ?
菫先輩と違って、私は有言実行だもん」
「ま、諦めるなら諦めるでそれでもいいよ?
菫先輩の純潔を、私の手で散らしちゃうってのも、
それはそれで楽しみだし!」
そう言って、淡はニタリと笑った。
淡が来る前から限界を迎えていた私は、
その笑みの前に、
ついに本当におかしくなってしまう。
− プツリッ −
「あっ…」
「あああああああああああああっ!!!!!!」
自分の中で、何かがちぎれた気がした。
次の瞬間、私は絶叫していた。
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目を覚ました私は、
自分の身体が変化していることに気づいた。
身体中から迸る、薄暗い紫色の光。
視界すら遮るほどの、どす黒い光。
にちゃりっ。
自らの右手に違和感を感じて視線を落とす。
その手は、血にまみれていた。
次に、前方に目をやると。
そこには、あられもない恰好で転がっている淡。
足の付け根からは…同じく赤色の液体。
淡は、私が意識を取り戻したことに気づくと、
蕩けるような笑みを浮かべてこう言った。
「えへへぇ…魔物の、世界へようこそ…」
--------------------------------------------------------
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「テルー、うまくいったよー」
「…うん。菫の力のうねりを感じる」
「これで、これからは白糸台トリオだね!」
「…うん、でも、淡…その血は何?」
「ああ、これ?スミレに奪われちゃった!」
「…どういうこと?」
「私が、スミレのを奪おうとしてー、
返り討ちにあっちゃってー、
破られちゃいました!」
「…その割には、ずいぶん嬉しそうだね」
「えへへー。獣みたいになったスミレ、
とっても怖かったよ?
それだけで果てちゃうくらい」
「……淡。一つ言っておくことがある」
「なにー?」
「過ぎたことはもう仕方がない。
でも、菫の純潔は私のもの」
「いいよ?私にテルのをくれれば」
「…初めては菫にもらってほしい」
「それはわがままだよー。
ここは三匹仲良くトライアングルしようよ!」
「……」
「…まあ、淡が頑張ってくれなかったら、
この結果もなかったわけだし…いいよ?」
「やったぁ!」
--------------------------------------------------------
淡に、勝てるようになった。
淡の力の奔流が見える。
淡がダブリーを仕掛けてくる時、
淡の全身から光が卓上に放たれる。
その光を、私の色で上書きしてやればいい。
光を上書きされた淡は、
驚いたように目を見張り。
次の瞬間、無邪気な笑みを浮かべた。
そして、今までの生意気っぷりがまるで嘘のように、
私に懐くようになった。
照にも勝てるようになってきた。
さすがに、淡ほど簡単にはいかないが。
でも、それよりも驚いたのは、
私が思っていた以上に、
照が私に執着していたということ。
オーラが見えるようになって初めて、
私は自分が照のオーラで
雁字搦め(がんじがらめ)にされていることに気づいた。
前から不思議に思っていた。
方向音痴の照が、私のもとにだけは
真っ直ぐ辿りつくことができる理由。
それは、こういう事だったのだ。
「ずっと、もどかしかった」
そう言いながら私を抱き寄せる照。
私は照の抱擁を受けながら、
苦しんでいたのは
自分だけではなかったことを知った。
魔物側は魔物側で、凡庸な人間に
思うところがあったのだろう。
やがて私達三人は、白糸台の魔物トリオとして
名を馳せることになる。
--------------------------------------------------------
そんなこんなで、めでたく?
魔物の仲間入りを果たした私だったが、
やはり悩み事は尽きなかった。
私が魔物になって以来、私に続こうとして、
経緯の説明をせがむ者が続出したのだ。
「ん?素直に言えばいいんじゃないの?
『壊れるまで思いつめて、
その後にレイプされなさい』てさ」
「馬鹿なのか?そんな事言えるわけないだろう」
「うん…それに、菫がそれを言ったら、
普通に望んで抱かれる子が出てくる」
「じゃあ、私が破ろっか?片っ端から」
「それは…その、自殺する子が出るかもしれない」
「その違いは何!?」
「人徳」
私を挟んだ魔物達が、能天気に狂った会話を繰り広げる。
だが、実際人間が魔物になるには、
そのくらいの覚悟が必要だと私も思う。
もちろん、他人に勧められるわけもないが。
何より私自身、今の展開がベストだとは思えなかった。
自身の牌譜を顧みる。
そこには、素直に役作りしていく他家からこぼれる牌を
非常識な形で狙い打った結果が記されていた。
照の牌譜を眺める。
鳴いてずらしても、何をしてもあがる結果が記されていた。
そして、淡の牌譜を見る。
ダブリーした後に既定のポイントで
必ずあがる結果が記されていた。
どれ一つ取っても、
確率と統計を無視した異常な牌譜ばかり。
私は、その結果を見て嘆息する。
果たして、これは麻雀なのか?
私が今までやってきたことは、何だったのか?
自問せずにはいられない。
「じゃあ、戻りたい?」
いつの間にか、口に出していたのだろうか?
物思いにふけっていた私に、照からの横槍が入る。
なら、戻りたいのか?
それは、自問するまでもない。
「まさか」
あんな地獄に、戻りたいはずがない。
「だったら、いい加減諦めて。
全員が納得行く答えなんて出せるわけがない」
「見込みのある人間だけ魔物に変えて、
後はさっくり捨てちゃえばいいんだよ」
「まったくお前らは…もしかして、
本当に他の部員にも
同じことをする気じゃないだろうな?」
「それこそまさか。私が好きなのは菫と淡だけ。
正直他はどうでもいい」
「淡もか?」
「うーん、仲間は多い方がいいと思うけど?
あ、でも、もちろん
『する』のは二人とだけだよ?」
「ほら、この二人とかどうかな?
痛めつけたら化けるかも」
「渋谷と亦野か…確かに、
打ち筋に違和感を感じるな」
「じゃあ、精神的に追い詰めてみる?」
「お任せあれ!」
相も変わらず、のほほんとした雰囲気で
剣呑な会話を続ける二匹。
だが、止めようという気がしない辺り…
やはり私も壊れてしまっているのだろう。
--------------------------------------------------------
かつて、魔物に挑んだ人間がいた。
彼女は、何度倒されても諦めず。
倒されるたびに立ち上がり、魔物の前に立ちはだかった。
やがて、そんな姿は魔物を魅了し。
魔物は、彼女を求めるようになる。
そして、魔物対人間の戦いは、
最終的には魔物に軍配が上がる。
なぜなら、魔物に立ちはだかったその人間も、
いつしか魔物になってしまったのだから。
結局、人間は魔物には勝てない。
これはそんな、絶望の物語。
(完)
なし。冒頭があらすじ代わりです。
<登場人物>
宮永照,大星淡,弘世菫(白糸台)
<症状>
・狂気
・ヤンデレ
<その他>
※以下のリクエストに対する作品です。
思ったよりそれっぽくならなかったですけど!
・(シリアス)菫さんが照さんとあわあわによって
徐々に堕とされていく物
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かつて、ある魔物に挑んだ人間がいた。
人間は、倒されても簡単には諦めず。
倒されるたびに歯を食いしばり、
その魔物に立ちはだかった。
だが、それでも人間は勝てなかった。
やがて、人間は自問し始める。
本当に、自分はこの魔物に勝てるのか?
これはそんな、
魔物に挑んだ人間の葛藤の物語。
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麻雀における『強さ』を決定づけるものは何か。
それは、ツキ…
つまりは運の強さだという者もいるだろう。
中には、技術…
確率と期待値を計算し、論理的に勝率を高める
技術力があるかどうかだという者もいるだろう。
だが、私の答えはそのどちらでもない。
私の答えは、能力…
すなわち、場を支配できる能力があるかどうか。
なぜなら、能力の前には。
ツキも、技術力も大した意味を持たないのだから。
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全国屈指の強豪校と名高い白糸台高校は、部員数も多い。
そして、部員たちの質も高い。
覚悟して名門の門をたたく彼女達は、
生半可な気持ちで麻雀を打っているわけではないからだ。
にも関わらず、ここ2年。
やめる部員の数が飛躍的に増加していた。
それは、明らかな異常事態だった。
今日も一人、有望な部員が退部した。
「自分の限界に気づいたんです」
そう言った彼女は、目に涙を浮かべながら
私に退部届を提出した。
彼女は努力家だった。
毎日のように牌譜をあさり、牌効率について研究していた。
デジタルの打ち手としてはかなりのもので、
他の学校であれば間違いなく一軍として活躍できただろう。
だが彼女は今、退部届を提出した。
そして私は、何も言わずそれを受理した。
それは、何も知らない者から見れば、
冷たいと思われる行為だったかもしれない。
だが私は、彼女に何か
言ってやることができただろうか?
「諦めるな!諦めなければ、努力は実る!」
とでも言ってやればよかったか?
それはあまりにも残酷だ。
努力は、必ずしも報われないのだから。
「今まで、よく頑張った」
とでも言ってやればよかったか?
志半ばで諦めた人間に。それは
『私もお前じゃここまでだと思うよ』
と断言するようなものだ。
かける言葉など見つからなかった。
彼女も、それ以上言葉を紡がず部屋を去った。
こんなやりとりも、一度や二度ではない。
どれだけ努力しても勝てず、
涙を流す部員をたくさん見てきた。
努力では埋まらない才能の壁。
だが、どうしてやることもできない。
私自身、その壁に阻まれて、
今ももがき苦しんでいるのだから。
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「ねえテルー。この学校って、なんで菫先輩が部長なの?」
「菫が部長だと不満?」
「いや、そう言うわけじゃないけど…
どう考えてもテルの方が強いじゃん。
部長って、一番強い人がやるもんじゃないの?」
「淡…それは違う。私では、
部をまとめることはできない」
「なんで?」
「だって、私は魔物だから。
人間の考えなんてわからない」
「例えば…聴牌気配がオーラから読み取れない人に、
淡はアドバイスできる?」
「無理だねー。麻雀止めたら?としか言えないよ」
「…さすがにそこまでは言わないけど…
正直、私達からしたら自然にできることを、
できないと言われても教えようがない」
「だから、菫みたいな人が必要。
菫なら、オーラじゃなくて
牌効率の論理性から聴牌気配の説明ができるから」
「菫は、いわば人間代表。
だからこそ、部長に相応しい」
「なるほどなるほど!つまり…」
「菫先輩は、弱いから部長なんだね!!」
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無論、私とてただ無策に辛酸を
なめ続けているわけではない。
魔物に勝つためにはどうすればいいか。
人間が取れる対策で、勝つ方法はないのか。
毎日のように模索し続けてきた。
「はい、ダブリー!そこの山に来たら
12000持ってくから頑張って阻止してね!」
だが、どうしようもなかった。
確率と統計に支配された通常の人間に、
こんなものをどう防げというのか。
そもそもこれは、麻雀と呼べるのか?
「はい、ツモ!12000よろしく!」
結局のところ、私だって。
涙を流しつつやめていった部員たちと
何一つ変わらない。
それでも、私が麻雀をやめないのは、
単に私の往生際が悪いだけに過ぎない。
勝ちたい。ただ、勝ちたい。
勝って、こいつらと、対等に…
その儚い夢を諦めることができず、
私は今日も、麻雀を打ち続ける。
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「ねえテルー。菫先輩って、なんであんなに弱いの?」
「別に菫は弱くない」
「だって、私のダブリー防げないじゃん」
「…ずいぶん、菫のことを気にするんだね」
「べ、別に気にしてなんかいないよ?」
「ダブリーを防げないのは菫だけじゃない。
むしろ、私以外は防げてない」
「なんで、菫にだけ言及するの?」
「……」
「だって」
「だって、菫先輩。諦めないじゃん。
あんだけ負けても、諦めないじゃん」
「あんなに強い気持ちを持ってるのに…
どうしてそれがオーラに反映されないの?」
「あの執念は、充分魔物レベルだと思うんだけど」
「……」
「…菫は、頑固だから」
「あくまで、人間として私達に勝とうとしている。
人間にできる対策で、私達に勝とうとしている」
「でもそれが…菫の、魔物としての成長を阻害している」
「なるほどー」
「ねえねえ、じゃあ私が、菫先輩壊しちゃっていい?」
「…淡?」
「人間の癖に折れないで立ち向かってくる菫先輩も、
確かにゾクゾクするけどー」
「もったいないよ!あれだけ強い思いを持ってるのに!
こっちに来てもらおうよ!」
「淡…やっぱり菫の事、気にしてる」
「うっ!そ、そういうテルはどうなの?」
「…私は、今の菫も好きだから」
「でもさ、それだと菫先輩、ずっと苦しみ続けるよ?」
「…それは…そうだけど…」
「はい決まり!私達で菫先輩を救ってあげよー!」
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恐れていたことが起きた。
それは、魔物による部活のボイコット。
「私、これからはテルとだけ打つね!」
「ふざけるな!部活に参加する以上、
部の規律は守れ!」
「えー、文句を言いたいのはこっちだよー?
だって、皆弱いじゃん」
「なっ…!?」
「練習って、強くなるためにするんでしょ?
100%勝てる相手とやっても
練習になんないじゃん。
むしろそっちが弱いのをなんとかしてよ」
「ぐっ…」
「そもそもさー、こっちは一年生だよ?
あーだーこーだ言ってないで、
黙って実力でねじ伏せてよ」
「それが、部長ってもんじゃないの?」
返す言葉がなかった。
「文句があるなら、実力でねじ伏せろ」
そう言っている部員に、
正論を吐いたところで空しいだけだ。
結局淡は宣言通り、
照としか打たなくなった。
だが、私はそれを止めることはできなかった。
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この一件は、部内に大きな軋轢を生んだ。
「部長、もう大星さんは退部させましょう。
いくら強かろうと、和を乱す者は不要です」
「そうですよ!強かったら、
何をしてもいいんですか?」
それは、これまで魔物に苦しめられてきた
部員たちの本音だった。
そして、私にはその気持ちが
痛いくらいによくわかった。
だが、だからといって、
安易に彼女達の意見を採用する事もできなかった。
なぜなら、これで淡を退部させてしまったら
それは、
「実力で叶わなかった部員を、権力で止めさせた」
ということだ。それはそれで、
部活としていいのだろうか?
何より、私の思いはもっと純粋だった。
淡の言う通り、実力で淡をねじ伏せたい。
その上で、淡を規律に従わせたい。
「…この件は、私に預からせてくれ」
そう言った私に対して、
部員たちは少なからず落胆の色を見せた。
きっと、彼女達はこう思ったに違いない。
−部長は、大星さんの前に屈したのだ−
私が勝つとは微塵も思っていない。
だからこそ勝てない上で、
部の秩序よりも淡の強さを優先したのだと。
だが、そう思われても仕方ないのだろう。
私だって、淡に勝つイメージを
想像することができないのだから。
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屋上に来ていた。
そこには他に何もなく、ただ広がるのは空ばかり。
空は、私を癒してくれる。
その広大さが、私の悩みなんて
ちっぽけなものだと錯覚させてくれるから。
もっとも今日は、程なくして客が訪れた。
「照か」
「ずいぶん、参ってるね」
「…まあな」
照は言葉少なに、私の横にやってきた。
こういう時、照の存在はありがたい。
ただ、何も言わず。
それでいて、側に居てくれるから。
「…どうして、私なんだろうな」
「…何が?」
「部長だよ。最初から、お前がやればよかった。
そうすれば、誰も…淡だって、
文句は言わなかったろうに」
「…菫」
今回の件だってそうだ。
もし照が部長なら、問題を解決するのはたやすい事。
一言、「規律を乱すな」と言うだけで
解決する事なんだろう。
「照…頼みがある」
「何?」
「淡に、言ってくれないか?規律を乱すなと」
私では、淡を御すことができない。
だから、同じ魔物に頼む。
それは、事実上の敗北宣言だった。
「菫…諦めるの?」
「仕方ないだろう!
私一人が屈辱を味わうだけなら問題ない!
でも、このままでは、
部全体がバラバラになってしまう!」
「自分が勝って言う事を聞かせる…とは考えないの?」
「それができればそうしている!
だが、無理だった!
努力なんて、才能の前には意味がない!
なかったんだ!!」
気づけば私は、今まで胸の内に
抑え込んでいた思いを吐露していた。
そして、それを聞いた照は。
…照は一筋の涙を流していた。
「…なんで、お前が泣くんだ…」
「菫が、諦めたから」
「私は、諦めない菫が好きだった。
どれだけ負けても、
それでも立ち向かってくる菫が好きだった」
「でも、菫は諦めた」
私は、言葉を紡ぐことができなかった。
普段は表情を見せない照。
その照が、泣いている。
私のせいで。私が弱かったせいで。
「菫が諦めるなら、この部にいる意味はない。
私はもう、麻雀部をやめる」
「なっ…どうしてそうなるんだ!?」
「淡と二人でプロにでも行く」
「さようなら」
そう言って、照は私の元を去った。
残されたのは私一人。
そう、私、一人…
私は、地べたにへたり込んで。
恥も外聞もなく泣き出してしまった。
なあ、照。私よりも、淡の方がいいのか?
築き上げてきた絆よりも、
魔物としての仲間意識の方が強いのか?
なあ、淡。お前にとっては、
麻雀だけが全てなのか?
麻雀が弱い奴は、
お前にとって何の価値もないのか?
違う。そんなのは全部言い訳だ。
私が弱かったから。勝つのを諦めたから。
だから、皆、私の元を去る。
私が強ければよかったんだ。
私が諦めなければよかったんだ。
私が、私が、私が、私が
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「あははは、いい顔してるじゃん!」
地べたに這いつくばる私に対し、
淡は笑いながら話しかけた。
「ねー菫先輩、どうしてそこまで苦しむの?」
「お前がっ…お前がそれを聞くのか!?」
悲しみが即座に怒りに変わる。
私は、咄嗟に立ち上がり、
淡の胸倉をつかんで壁に叩きつけていた。
「だってさー、勝ちたいなら勝てばいいじゃん?」
「ふざけるな!願って勝てるくらいなら、
とっくに私は勝っている!!」
「うっそだー。菫先輩は、願ってもいないよー」
「なっ…なんだと!?」
思いもかけない淡の台詞に、思わず私は気圧される。
その刹那、淡の髪の毛が私に巻き付き、
私は自由を奪われていた。
く、そ…化け物め!!
「テルもだけどさー。根本から間違ってるよ」
「なんで、人間のまま勝とうとするの?
勝てるわけないじゃん」
「なんで、魔物になろうとしないの?
対策なんてまどろっこしいこと言ってないでさ」
「魔物になりたい」
「なんでそう願わないの?」
そう言って、淡は私の顔を覗きこむ。
その目は、妖しい光を宿していた。
「だからね?かわいい後輩が
手助けしてあげようと思うんだ」
「具体的には、このまま
菫先輩を襲っちゃいます!」
「魔物になれなかったら、
菫先輩の初めて、もらっちゃうよ!」
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目の座った淡は、私を捕えたまま
カチャカチャとベルトを外し始める。
怒りは、恐怖へとすり替わり。
私は、全身をガクガクと震わせていた。
「やめろ!淡…やめろ!!」
「だーかーらー、ピーチク
口で鳴くんじゃなくて、
実力で黙らせてってば」
「ほーら、スカート降ろしちゃうよー?」
宣言通り、淡は私のスカートをずり降ろした。
その手つきには、一切の遠慮がない。
「あはっ…菫先輩、きれーな肌してるねー」
「お、お前…頭おかしいんじゃないのか!?」
「ほえ?今更何言ってんの?
魔物に人間の思考なんてあるはずないじゃん」
「言っとくけど私、やるって言ったらやるよ?
菫先輩と違って、私は有言実行だもん」
「ま、諦めるなら諦めるでそれでもいいよ?
菫先輩の純潔を、私の手で散らしちゃうってのも、
それはそれで楽しみだし!」
そう言って、淡はニタリと笑った。
淡が来る前から限界を迎えていた私は、
その笑みの前に、
ついに本当におかしくなってしまう。
− プツリッ −
「あっ…」
「あああああああああああああっ!!!!!!」
自分の中で、何かがちぎれた気がした。
次の瞬間、私は絶叫していた。
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目を覚ました私は、
自分の身体が変化していることに気づいた。
身体中から迸る、薄暗い紫色の光。
視界すら遮るほどの、どす黒い光。
にちゃりっ。
自らの右手に違和感を感じて視線を落とす。
その手は、血にまみれていた。
次に、前方に目をやると。
そこには、あられもない恰好で転がっている淡。
足の付け根からは…同じく赤色の液体。
淡は、私が意識を取り戻したことに気づくと、
蕩けるような笑みを浮かべてこう言った。
「えへへぇ…魔物の、世界へようこそ…」
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「テルー、うまくいったよー」
「…うん。菫の力のうねりを感じる」
「これで、これからは白糸台トリオだね!」
「…うん、でも、淡…その血は何?」
「ああ、これ?スミレに奪われちゃった!」
「…どういうこと?」
「私が、スミレのを奪おうとしてー、
返り討ちにあっちゃってー、
破られちゃいました!」
「…その割には、ずいぶん嬉しそうだね」
「えへへー。獣みたいになったスミレ、
とっても怖かったよ?
それだけで果てちゃうくらい」
「……淡。一つ言っておくことがある」
「なにー?」
「過ぎたことはもう仕方がない。
でも、菫の純潔は私のもの」
「いいよ?私にテルのをくれれば」
「…初めては菫にもらってほしい」
「それはわがままだよー。
ここは三匹仲良くトライアングルしようよ!」
「……」
「…まあ、淡が頑張ってくれなかったら、
この結果もなかったわけだし…いいよ?」
「やったぁ!」
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淡に、勝てるようになった。
淡の力の奔流が見える。
淡がダブリーを仕掛けてくる時、
淡の全身から光が卓上に放たれる。
その光を、私の色で上書きしてやればいい。
光を上書きされた淡は、
驚いたように目を見張り。
次の瞬間、無邪気な笑みを浮かべた。
そして、今までの生意気っぷりがまるで嘘のように、
私に懐くようになった。
照にも勝てるようになってきた。
さすがに、淡ほど簡単にはいかないが。
でも、それよりも驚いたのは、
私が思っていた以上に、
照が私に執着していたということ。
オーラが見えるようになって初めて、
私は自分が照のオーラで
雁字搦め(がんじがらめ)にされていることに気づいた。
前から不思議に思っていた。
方向音痴の照が、私のもとにだけは
真っ直ぐ辿りつくことができる理由。
それは、こういう事だったのだ。
「ずっと、もどかしかった」
そう言いながら私を抱き寄せる照。
私は照の抱擁を受けながら、
苦しんでいたのは
自分だけではなかったことを知った。
魔物側は魔物側で、凡庸な人間に
思うところがあったのだろう。
やがて私達三人は、白糸台の魔物トリオとして
名を馳せることになる。
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そんなこんなで、めでたく?
魔物の仲間入りを果たした私だったが、
やはり悩み事は尽きなかった。
私が魔物になって以来、私に続こうとして、
経緯の説明をせがむ者が続出したのだ。
「ん?素直に言えばいいんじゃないの?
『壊れるまで思いつめて、
その後にレイプされなさい』てさ」
「馬鹿なのか?そんな事言えるわけないだろう」
「うん…それに、菫がそれを言ったら、
普通に望んで抱かれる子が出てくる」
「じゃあ、私が破ろっか?片っ端から」
「それは…その、自殺する子が出るかもしれない」
「その違いは何!?」
「人徳」
私を挟んだ魔物達が、能天気に狂った会話を繰り広げる。
だが、実際人間が魔物になるには、
そのくらいの覚悟が必要だと私も思う。
もちろん、他人に勧められるわけもないが。
何より私自身、今の展開がベストだとは思えなかった。
自身の牌譜を顧みる。
そこには、素直に役作りしていく他家からこぼれる牌を
非常識な形で狙い打った結果が記されていた。
照の牌譜を眺める。
鳴いてずらしても、何をしてもあがる結果が記されていた。
そして、淡の牌譜を見る。
ダブリーした後に既定のポイントで
必ずあがる結果が記されていた。
どれ一つ取っても、
確率と統計を無視した異常な牌譜ばかり。
私は、その結果を見て嘆息する。
果たして、これは麻雀なのか?
私が今までやってきたことは、何だったのか?
自問せずにはいられない。
「じゃあ、戻りたい?」
いつの間にか、口に出していたのだろうか?
物思いにふけっていた私に、照からの横槍が入る。
なら、戻りたいのか?
それは、自問するまでもない。
「まさか」
あんな地獄に、戻りたいはずがない。
「だったら、いい加減諦めて。
全員が納得行く答えなんて出せるわけがない」
「見込みのある人間だけ魔物に変えて、
後はさっくり捨てちゃえばいいんだよ」
「まったくお前らは…もしかして、
本当に他の部員にも
同じことをする気じゃないだろうな?」
「それこそまさか。私が好きなのは菫と淡だけ。
正直他はどうでもいい」
「淡もか?」
「うーん、仲間は多い方がいいと思うけど?
あ、でも、もちろん
『する』のは二人とだけだよ?」
「ほら、この二人とかどうかな?
痛めつけたら化けるかも」
「渋谷と亦野か…確かに、
打ち筋に違和感を感じるな」
「じゃあ、精神的に追い詰めてみる?」
「お任せあれ!」
相も変わらず、のほほんとした雰囲気で
剣呑な会話を続ける二匹。
だが、止めようという気がしない辺り…
やはり私も壊れてしまっているのだろう。
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かつて、魔物に挑んだ人間がいた。
彼女は、何度倒されても諦めず。
倒されるたびに立ち上がり、魔物の前に立ちはだかった。
やがて、そんな姿は魔物を魅了し。
魔物は、彼女を求めるようになる。
そして、魔物対人間の戦いは、
最終的には魔物に軍配が上がる。
なぜなら、魔物に立ちはだかったその人間も、
いつしか魔物になってしまったのだから。
結局、人間は魔物には勝てない。
これはそんな、絶望の物語。
(完)
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弘世様>
照「白糸台ロードは菫を讃えるために自発的にできた」
菫「適当な嘘をつくな!」
対等>
照「これは私もそう思う。菫には頑張ってほしい」
菫「…準決勝までは様子見だから大丈夫さ」
せつない>
淡「でも、やっぱり扱い的に菫先輩って
人間枠だと思うんだよねー」
照「他人の不要牌を狙い打てる人が
人間とは思わないけど」
面白かった>
淡「ありがとうございます!
今回のはちょっと私がいつになく
やんちゃしてるから受け入れられるか
不安だったんだー!よかった!」
吸血鬼を倒せるのは吸血鬼と人間の子供だけだけど、その子供も死んだら吸血鬼になってしまう。