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【咲SS:照菫】照「一生、二人ぼっちでいよう」【ヤンデレ】

<あらすじ>
その圧倒的な強さから、部内で孤立する宮永照。
弘世菫は、ふとしたきっかけから、
宮永照の孤立を解消しようと考える。
しかし、宮永照はそれを望んではいなかった。

<登場人物>
宮永照,弘世菫

<症状>
・ヤンデレ
・依存
・孤立

<その他>
※照が性格的にちょっとキツイ

以下のリクエストに対する作品です。
・(シリアス)菫を病ませて、
 そのことに悦に入ってる照
※照を思ったより悪い子にできなかった。

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白糸台高校において、宮永照は絶対的な存在だ。

インターハイ初出場で
団体戦でも個人戦でも優勝を飾り。
白糸台高校を一気に
チャンピオンまで押し上げた彼女。

愛想がよく容姿にも恵まれており、
今では広告塔の役目も果たしている。

そのため、もはや上層部も
彼女には頭が上がらないようで。

私が、そんな彼女の世話係に任命されたのは、
1年生の秋方の頃だった。


「宮永照の世話係を務めてほしい」


監督に言われたその内容は、
私に首を傾げさせた。

何だそれは?そもそも、なぜ私なんだ?

疑問符が頭に浮かぶが、
質問することは許されなかった。


「とりあえず、彼女の個人ルームに行ってくれ」


その一言で、会話は打ち切られたからだ。



--------------------------------------------------------



「本日をもって、お前の
 世話係になった弘世菫だ。よろしく頼む」


言われるがままに個人ルームに行き、
私は自己紹介をした。

だが、正直私はこういった特別待遇は気に入らなかった。
個人ルームだとかの設備を与えるのはかまわないさ。
だが、結局は成績がよかっただけで、
私たちは同じ部員だろう?
私は麻雀を打つために部活に入ったのであって、
同級生の下僕になりに来たんじゃない。
メイドが欲しいなら素直に
メイドでも雇ったらどうだ。

そんな考えが態度に出ていたのだろう。
宮永は若干硬い声で私にこう告げた。


「一応言っておくけど…
 『世話係』を要求したのは私じゃない。
 監督たちが勝手に作った」

「だったら断ればいいだろう」

「うん。あなたが嫌なら、私は断るつもり」

「……」


なるほど、一応私にも選択権はあるということか。
ならば、遠慮なく断らせてもらおうじゃないか。
そう思って、口を開いたその時。


「……っ」


私はあるものを見て、
その口をつぐんでしまう。

私の返事を悟った宮永が、一瞬見せた表情。
それは、まるで捨てられた子犬のようだった。

なんで、ご主人様側のお前が
そんな顔をするんだ。

何とも言えない理不尽感に晒されながらも、
その表情が目に焼き付いた私。
気づけば、こんなことを
口にしてしまっていた。


「とりあえず、お試し期間だ。
 一か月だけ付き合ってやる」


こうして、宮永照の世話係の仕事が始まった。



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自分でも、なんであんなことを
言ってしまったのか。
敢えて答えを見つけるとすれば、
それは同情なのだろう。

思い返してみれば私は、
宮永が他の部員と一緒に居る姿を見たことがなかった。

あいつは、いつも一人でぽつんと佇んでいた。


自分で言うのもなんだが、
私は意外と世話焼きだ。
ここまでお膳立てされては、
ほおっておくことはできない。


そして、実際に世話係を始めると、
なるほど確かに、これは必要な仕事だと思った。


「おい!そっちは東だ!全く逆の方角じゃないか!!」

「ちゃんと箸を持つ方に曲がった」

「幼稚園児か!?左右なんて
 お前の向きで変わるんだよ!」



「おい、宮永!お菓子ばっかり食べるな!」

「私は食べても太らない体質」

「体型のことを言ってるんじゃない!
 栄養不足になると言ってるんだ!」


「たまには携帯で電話する」

「ドヤ顔でプッシュするのはいいがな…
 家電の子機は携帯しても使えないんだよ」


そう、宮永照は、麻雀以外はポンコツだったのだ。


「お前、そんなんでよく今まで生活して来れたな…」

「今までは監督が何とかしてくれた」


なるほど。確かに監督のやる仕事じゃないな。
そりゃ、世話係も頼みたくもなるだろう。
私は心の中で監督に謝罪した。


そんなわけで、こいつが何かやらかすたびに、
私は火消しに奔走する…
しばらくは、そんな日々が毎日続いた。


気づけば、当初のお試し期間だった
一か月は過ぎ去っており…

自分が、正式な世話係になったことに
気づいた時には三か月が過ぎていた。



--------------------------------------------------------



そんなふうに世話係を続けていて、
少し気になったことがある。

私がこいつの世話役を引き受けたのは
同情からだったわけだが…

実際にこうして接してみると、
言うほどこいつは暗くないし、
付き合いにくいわけでもないのだ。

なぜ、こいつは一人で居たんだろうか?


「お前、なんでぼっちだったんだ?」

「菫、言葉はもう少し選ぶべき」

「今さら気を遣う仲でもないだろう」

「まあそうだけど」

「……」

「…私が一人ぼっちだったのは、
 みんなが私を色眼鏡で見るから」

「私は、麻雀がちょっと強いだけの、
 ただの一高校生」

「でも周りは、そうは見てくれない」

「自分勝手に私を脚色して、
 勝手に恐れたり、尊敬したり、妬んだりする」

「そんなのに付き合うくらいなら、
 一人の方がよっぽど楽だった」

「菫も、そのうちわかるようになる」


そう言った宮永の顔からは、
いつもの、のほほんとしたポンコツ顔はなりを潜めて。
驚くほど無表情で冷たい笑みが浮かんでいた。

私はそれを見て、なぜか背筋が泡立つのを感じた。



--------------------------------------------------------



宮永の言っている意味が本当にわかったのは、
春季大会を間近に迎えた頃だった。

連日白糸台には報道陣が押し掛け、
宮永と私はその対応に追われることになった。


「宮永選手!ついに、春季大会が始まりますが、
 調子のほどはいかがでしょうか?」

「対戦相手の中で気になっている選手はいますか?」

「大会に向けた意気込みをどうぞ!」


なるほど、これは孤立するわけだ。


確かに、宮永はインターハイ優勝の立役者だから、
記者たちが殺到するのもわかる。
だが…団体戦のインタビューなのに、
一人だけ注目されて、他のメンバーは
一切触れられない…

こんな扱いを受けては、
他のメンバーとしては面白くないだろうな。

そして、そんな私の推測は、
明確な形となって私の前に現れた。
ある時、特に親しいわけでもない部員が、
私に話しかけてきたのだ。


「弘世さん。あなたは悔しくないの?」

「何がだ?」

「決まってるでしょ!自分の扱いについてよ!
 あなただって、団体戦のメンバーなのに…
 まるで宮永さんの付き人扱いじゃない」


そこには確かに、宮永に対する
敵意が見え隠れしていた。

もっとも私は、その敵意を目の当たりにして、
逆に宮永に同情した。

別に、世話役もインタビューも、
宮永から申し出たのではないのだから。
あいつからしたらいい迷惑だろう。

ただ、彼女がそう思うのも無理はない。
私自身、この役目を言い渡された時には
まったく同じことを考えたのだから。


せめてあいつがもう少し弁解すればいいんだが、
基本言葉が少ないからな。

せめて、私だけでも宮永を理解してやろう…
そんな決意を胸に秘めたところで、
事態は急展開を迎える。

宮永の奴が、こんな爆弾発言をしたからだ。


「これからは、菫と一緒じゃなければ
 インタビューは受けません」


それは、一人ぼっちが
二人ぼっちに変わり始めた瞬間だった。



--------------------------------------------------------



『弘世菫は、宮永照に取り入ることで
 そのおこぼれに与ろう(あずかろう)としている』


部員の大方は、私のことをそう判断したようだ。

私の境遇について憤ってくれた
あの部員も同じ感想を抱いたらしい。

廊下ですれ違った時、
彼女は私を一瞥(いちべつ)すると、
ふんっ、と鼻を鳴らして立ち去った。


「なんであんなことを言ったんだ!?」


インタビューの後、私は宮永に詰め寄った。
だが、当の本人は涼しい顔で一言。


「私と同じ扱いになるのは嫌?」


私は、これまた二の句を継げなくなった。


「これから菫が浴びる視線は、
 私がずっと一人で浴びてきた視線」

「私は今までずっと、望んでもいない脚光と、
 それに比例した嫉妬を受けてきた」

「菫が私に同情してくれるというのなら、
 どうか一緒に浴びてほしい」

「でも、無理強いはしない」

「その時は、私はまた一人ぼっちに戻るだけ」


そう言った宮永の顔には、
冷ややかな笑みが張り付いていた。
私はその顔に、これまでは抑え込まれていた
宮永の狂気を垣間見た気がした。


「お前…頭おかしいんじゃないのか!?」

「世間一般の基準ではそうかもしれない。
 でも、単に価値観が違うだけ」

「菫も、そのうちわかるようになる」


いつぞや聞いたような言葉で、
宮永は会話を締めくくる。

もっとも私には、こいつの考えが
わかる日が来るとは到底思えなかった。



--------------------------------------------------------



白糸台のシステムは少し変わっている。
一定以上の実力を持つ部員は、
それぞれ性質の異なる『チーム』に所属し、
もっぱらそのチーム単位で練習を行う。

ゆえに、チームが違えばライバル同士。
時には、蹴落とす蹴落とされるなどという
醜い争いも起きる。

おそらくはこれが、
宮永を今の状態に至らしめた一因なのだろう。

宮永に取り入って同じチームに入れば、
公式大会に出場できる確率が飛躍的に上がる。

実力は足りないが大会に出たいものは宮永に媚び、
気概のある者は宮永を敵視する。

そんな醜いやり取りに、
ほとほと嫌気がさしていたのだろう。


そして私は、実力が伴わないが
公式試合に出たいがために
宮永に取り入ったと思われているわけだ。

それまで懇意にしていた部員でも、
チームが変わり、かつ宮永のあの発言があった後は、
私にとげとげしい態度を取るようになった。

これは、少なからず私の心を磨り減らした。


そんな状況を知った宮永は、にこやかに語りかける。


「どう?環境が少し変わったんじゃない?」

「おかげさまでな」

「次の大会頑張って。じゃないと、
 菫は本当に私の腰巾着扱いになるよ」

「言われなくてもわかっているさ」


もちろん、お前のせいだろうが、
と言ってやりたい気持ちもあった。

だが、宮永に怒りをぶつけても何も変わらない。
それなら、この怒りをバネにして、
少しでも練習に励むべきだろう。

腰巾着なんて思った奴らに
目にものを見せてやるさ。



--------------------------------------------------------



死に物狂いで練習を続けた私は、
部内選抜において、宮永との直接対決を除く
全ての試合でトップを取った。

特に、私を罵った奴は念入りに狙い撃ちした。
我ながら大人げないとは思ったが。

結果、私は宮永と揃って公式試合の
選抜選手として選ばれることになる。

選抜発表を受けた場で、私はこんなことを語った。


「私を宮永の腰巾着と嘲る(あざける)人がいます。
 大会に出るために宮永に取り入ったと。
 勘違いも甚だしい。
 私にとって、宮永は倒すべきライバルです」

「宮永に対する評価も同様です。
 皆、宮永を特別扱いしすぎだと思います。
 宮永はそんなことを望んじゃいない。
 こいつは、ちょっと麻雀が強いだけで
 私たちと同じ部員に過ぎない」

「私は、白糸台高校の部員として
 皆と仲良くやっていきたい。
 健全に切磋琢磨していきたい。
 もちろん、そこには宮永も含みます」

「今回の大会で、
 その足がかりが築けたらと思います」


挨拶の終わりとともに、
どこからともなく拍手がわいた。

普通なら一言程度ですます挨拶で
突然演説を始めたわけだが、
それでも好意的に受け取られたようだった。

これで、状況が好転してくれるといいのだが。


余談だが、その後開催された春季大会でも、
宮永と私は終始トップを守った。

結果、春季大会も白糸台高校の優勝で幕を閉じた。



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この一件から、私に対する風当たりは弱まった。
だが、宮永に関しては、
状況が好転したとは言い難かった。


宮永は、常に私の側を離れなかった。
そして、それによって腰巾着と揶揄された私も、
春季大会で結果を出した。

そんな私たちは、どんな風に見られるのか。
ある雑誌の一面が、私たちの今の扱いを
端的に示していた。


『白糸台黄金時代!
 宮永照、弘世菫のツートップに死角なし!』


どうやら、私達は揃って神格化されてしまい、
より近寄りにくい存在になってしまったらしい。


「菫も、私と同じ扱いになったね」

「お前な…少しは自分から歩み寄ろうとしないのか?」

「しない」

「それじゃいつまでたってもぼっちだぞ?」

「菫と二人で、二人ぼっちなら悪くない」


肝心の宮永はこの調子。
やっぱりこいつはどこかおかしい。


「いや、そもそも私はぼっちになる気はないが」

「でも、確実にぼっちの道を歩み始めている」

「嫌な言い方をするな」

「菫はまだわかってない。
 周囲の反応が不快になるのはこれから」

「そう、これから」


そう言って、例の張り付いた笑顔を浮かべた宮永。
私はその薄気味悪さに身震いしながら、
なんとなく将来に不安を持った。

そして、宮永の発言は当たっていた。



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周りの反応が、妙によそよそしい、
へりくだったものに変わってきた。

今の私に対する反応は、大きく二種類。
一つは、私を恐怖し、委縮するもの。
一つは、私を崇拝し、媚びへつらうもの。

どちらも、結局は『私』を
見ていないという点では同じだ。


なるほど、これは確かに
気分のいいものではないな。


例の腰巾着扱いの時のように、
明確な敵意をぶつけてくる方が
まだ反応しがいがある。


「どう?いちいち相手する気が
 起きなくなってきたんじゃない?」

「まあ、否定はしないが」

「多分菫は勘違いしているけど、
 私は別に率先して一人になりたいわけじゃない」

「ただ、上辺しか見ない
 たくさんの人と付き合うより、
 自分を見てくれる人と
 深く関わっていきたいというだけ」

「それが、私にとっては
 菫しかいないというだけのこと」


同じ立場に立った今、
宮永の言葉には確かに納得できるものがあった。

同じ立場に立った時、
私はそれでも交流を続けようと、
周囲の意識を変えるべく努力する。

宮永は、周りを変えることを諦め、
最初から自分に適合する人間だけと
交流しようとする。

それは生き方の違いであって、
どちらが間違っているという
ものではない気がしてきた。

問題があるとすれば…
宮永は自分だけではなく、
私までも同じ道に
引っ張り込もうとしていることだ。

そして、そのやり口は
徐々に露骨になってきた。



--------------------------------------------------------



宮永は、私が同卓しない時には
麻雀を打たなくなった。

私以外の人物とは、
必要事項の連絡以上の会話をしなくなった。

それでいて、私といる時は
私にべったりとなり。

私と会話したものを、
麻雀で狙い撃つようになった。

やがて、宮永と私が
付き合っているという噂が、
まことしやかに語られるようになり。

私と関わると宮永に狙われるという事実は、
部員中の知るところとなった。

これにより、私はいろんな意味で
孤立することになる。


「お前な!私まで孤立させてどうするつもりだ!」

「言ったはず。私は菫と二人ぼっちでいい」

「お前がよくても私が困るんだよ!!」

「本当に?」


いつものごとく詰め寄る私に、
涼しげな顔で答える宮永。
予想外の反論に、私はつい言葉に詰まる。


「本当に、私以外の人って必要?」

「よく考えてみて。
 菫が具体的に大切だと思う人は誰?」

「その人は、私よりも大切?」

「いないと、本当に困るの?」


私は、具体的な人物を挙げることができなかった。
いつの間にか真剣な顔になっていた宮永は、
私をまっすぐ見据えて語り続ける。


「菫が、社交性を失いたくないという
 気持ちはわかる」

「でも、私はしばらくの間頑張ってみた上で、
 それは必要ないと判断した」

「だから菫も、私を間違っていると断じる前に、
 まずは私と同じようにしてみて」

「その上で、菫が私よりも上辺だけの
 社交性を取るというのなら、私はもう諦める」


あまりにも真剣なその表情。

自分の考えに自信が持てなくなってきていた私は、
ついにそれに頷いてしまった。


その後の宮永の行動は異常に早かった。


次の日にはある申請書を提出し、
申請が受理されたことを伝えてきた。

こうして、宮永と二人っきりの
強化合宿が幕を開けた。



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朝から晩まで二人っきりだった。

建物内には他の部員どころか、
人の姿はまったくなかった。

初日はひたすら麻雀を打ち、
お腹が減ったら二人で食事を協力して作った。

風呂なども自分たちで入れて、
貸し切り状態の風呂を堪能した。

夜はだだっ広い部屋に二人分の布団を並べて、
無駄話をしながら寝た。


そしてそれは、殊の外(ことのほか)
快適なものだった。


「ね、菫」

「なんだ」

「楽でしょ」

「…まあな」


宮永は、あるがままの私を見て、
取り繕うことなく思ったことを話してくる。

それを私が呑み込めるかは別として、
気兼ねしなくていいのは事実だった。



次の日はずっと麻雀を打つわけではなく、
のんびりと休憩を挟むようにした。

畳の間で座ってくつろいでいると、
宮永はまるでそうするのが普通と言わんばかりに、
私の膝に頭を乗せて寝そべった。


「おい、どけ」

「断る」

「重いんだよ」

「初日に負け越した罰ゲームだから諦めて」

「そんなルールなかっただろ!」

「じゃあ、これから打つ麻雀で勝つから
 その罰ゲームでいい」

「言ってくれるじゃないか…!
 さっさと卓につけ!」

「いいけど…負けたら夜は抱き枕だよ?」

「どこからそんなルール湧いてきた!?」

「今執行中の罰ゲームを放棄する代わり」

「むちゃくちゃすぎるだろ…」


もっともこの宣言は不愉快なことに
成立してしまったのだが。


この一件で気づかされたのは、
私たちはもう既に、かなり距離が近かったということだ。

思い返してみれば、
手を繋いだり肩に寄り掛かってきたりくらいは
日常茶飯事だった。
この膝枕でさえ、実際にやられるまで
なすがままだった。

そんな私たちだから、
こんな罰ゲームも成立してしまうわけで。


「というわけで、菫は今晩私の抱き枕」


その夜私は、あられもない姿の宮永に
がっちりホールドされることになった。


もちろん最初は拒否したのだが、
最終的には押し切られてしまうあたり、
やはり私の中でもどこか
気を許してしまっているのだろう。



そんなこんなで、あっという間に最終日。
私を抱き締めた宮永が、私に問いを投げかける。


「ね、菫」

「なんだ」

「どうだった?」

「……」

「この合宿で、菫は気づいたはず。
 私との距離が、思った以上に近かったことに。
 そしてそれが、苦にならなかったことに」

「明日から、菫は元の世界に戻る」

「そこは、菫の上辺だけしか見ない人が、
 たくさんいる世界」

「その人たちに割く労力は、
 本当に必要なのか考えてみてほしい」

「その人たちに割いている時間を、
 私が切望していることを思い出してほしい」

「その上で…どちらを選ぶのか、
 もう一度判断してほしい」

「私は、やっぱり菫がいれば他はいらないと思った」


そう言って、宮永は私の胸に頬ずりした。
私には、そんな宮永を
払いのけることはできなかった。



--------------------------------------------------------



二人だけの強化合宿は、私の意識を大きく変えた。


日常に戻ってきた後も宮永の猛アタックは続いたが、
そちらはまったく気にならず。

むしろ、その間に挟まってくる
他の部員とのやり取りの方が
無駄に思えるようになってきた。

相も変わらず上辺だけの会話で、
深く立ち入ってこようとしない連中。
今後、私が時間を割いても、
それはきっと対して変わらないのだろう。

そう考えると、さっさと関係を断ち切って、
宮永と二人で過ごしている方が
よほど有意義なように思えた。


そして、そんな私の姿を見て、
機は熟したと思ったのか。

ついに、宮永がその本性を現した。



--------------------------------------------------------



「菫。これからは私以外の人と話さないで」

「私以外の人を見ないで」

「私以外に、笑顔を向けないで」


さも当然とでも言わんばかりにそう告げる宮永。
もちろん、私は即座に反論した。


「無茶言うな」


…しかし。それを見越していただろう宮永は、
表情を変えることなくこう続ける。


「だったら、私はもう菫と口を利かない」

「もう菫を見ない」

「私と、それ以外。きっぱり
 どちらかを選んでほしい」

「なっ…!?」


この宣言に、私は自分でも驚くくらいに狼狽した。
なぜなら…


『そんなの、お前を選ぶしかないじゃないか!』


などと、さも当然のように
考えている自分がいたからだ。


「ね、菫。気づいたでしょ?」

「私と、それ以外。どちらが大切か」

「さ、選んで。どちらか片方だけを」

「私を選んだら、私の全てをあげる」

「私を拒んだら、私はもう菫のもとを去る」


「さ、選んで?」


宮永は、まるで無邪気な子供のように、
楽しそうに問いかけた。



--------------------------------------------------------











--------------------------------------------------------




「そっか。じゃぁ、これから私は菫のもの」


「そして、菫は私のもの」


「これからも、よろしくね?」




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私は、照以外の人間と極力話さなくなった。
照以外の人間を極力視界に入れないようになった。

そしてそれは、照も同じ。
むしろ照は私以上に徹底していて、
必要事項すら聞こうとせず何を言われても


「菫に話しておいて」


で会話を打ち切るものだから。
しまいには、監督でさえ
照に話しかけることはなくなった。

結果、私たちは完全に
対公式試合要員として割り切られることになる。

普段は個人ルームから出てくることはなく。
試合の時のみ傭兵のように駆り出されるようになった。


こうして、私たちは完全に孤立した。


もっとも、だからといって
特に困ることもなかった。


私には照がいる。


むしろ、照以外に
できるだけ時間を割きたくなかった。

将来プロになるために、
部活をやめることこそなかったが…

他のものは生きるために
最小限の接触にとどめたい。


個人ルームで抱きあいながら、
照が薄い笑みを浮かべて話しかける。


「ねえ、菫、覚えてる?」

「何をだ?」

「私が、菫が一緒じゃなければ
 インタビューは受けないって
 宣言した時のこと」

「あの時、菫は…私のこと、
 狂ってるって言ったよね」

「…ああ」

「今でも、私のことを狂ってるって思う?」

「……」

「ああ」

「お前は、狂っている」

「……」

「おかげで、私も狂ってしまった」

「狙い通りなんだろう?
 責任はちゃんと取ってくれよ?」

「もちろん」


満面の笑みで照が答える。
その目はやはり狂気を宿している。

でも、きっと私も、
同じ目をしているのだろう。
我ながら、もう手遅れだ。


「一生、二人ぼっちでいようね」

「ああ」


そう言って、照は私に口づけた。
私は、抵抗もせず受け入れた。


こうして、私たちの世界は幕を閉じた。



(完)
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posted by ぷちどろっぷ at 2014年10月30日 | Comment(7) | TrackBack(0) | 咲-Saki-
この記事へのコメント
よし!!今回もハッピーエンドだな!
Posted by 上上 at 2014年10月30日 16:02


お疲れ様です!
孤立ものは読んでてワクワクしますよねー(笑)
Posted by at 2014年10月30日 16:08
テルテルかわいい!
Posted by at 2014年10月30日 16:46
リクエスト応えてくれてありがとうございますー!
照菫のヤンデレはやっぱり最高ですわ
Posted by at 2014年10月31日 00:14
こ、この後あわあわが出てきて救われるんだろ(震え声)
Posted by at 2014年10月31日 10:21
コメントありがとうございます!

ハッピーエンド>
菫「これをハッピーエンドと思うなら
  君は毒されすぎている。目を覚ませ」
照「そう?普通に幸せでしょ。主観では」

孤立もの>
菫「でも、本編だと意外と孤立しそうにないよな」
淡「普段はお菓子狂いのカピバラみたいだもんね」
照「なんでそこでカピバラ」

テルテルかわいい>
菫「この照がかわいいと思うなら(以下略)」

照菫>
淡「意外と人気ないんだけどね!」
照「それでも私は書き続ける。
  この永遠に続く照菫を…」

あわあわ>
照「淡が出てくる前に二人ぼっちになったので
  私は淡を勧誘しに行かない」
淡「さりげなく私もぼっちじゃん!?」
Posted by ぷちどろっぷ(管理人) at 2014年11月09日 20:53
この孤立感とシリアス感がたまりません。何度も見てしまいます。
Posted by at 2016年07月18日 20:54
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