現在リクエスト消化中です。リクエスト状況はこちら。
欲しいものリスト公開中です。
(amazonで気軽に支援できます。ブログ継続の原動力となりますのでよろしければ。
『リスト作成の経緯はこちら』)

【咲SS:咲久】咲「…ぶ、部長が怖い」【ヤンデレ】

<あらすじ>
私は部長のことが苦手でした。
だって、私に執拗に付きまとうから。
だって、私の事を何でも知っているから。
私は部長を避けていました。

でも、部長が私を助けてくれるのは事実で…

<登場人物>
竹井久,宮永咲,その他清澄

<症状>
・異常行動
・共依存
・狂気

<その他>
※けっこうドロドロしてます。ご注意を。
※部長編と対になってます。
 両方読まないと全貌は明らかになりません。

--------------------------------------------------------



正直に言えば、私は最初、部長のことが苦手でした。


あ、いえ、何かされたとかいうわけじゃないんですけど…
なんとなく、怖かったんです。

考えてることを、全部
見透かされているような気がしました。
それでいて、部長が何を考えているのかは
わかりませんでした。
きっと、その得体のしれなさが
怖かったんだと思います。

だから…最初のころは部長のことを、
露骨に避けちゃってました。
ごめんなさい。


例えば、こんなことがありました。
今借りている本を読み終わって、
次の本を借りようとして図書館に行った時のこと。
私は、そこでばったり部長と出会いました。


「お、咲じゃない、もうあの本読み終わったんだ?」

「あ、はい…」

「じゃあはい、次の本」


そう言って、部長はノータイムで
ある本を渡してきました。
…それは確かに、私が次に
借りようと思っていた本でした。


「…!?え、あの…どうして?」

「あれ?これじゃなかった?」

「い、いえ…あってますけど…
 ど、どうしてわかったんですか?」

「ん?そりゃわかるわよ。咲のことだもん」


「あなたって、気に入った著者ができると、
 その著者の作品を古い順に借りていくから!」


当たり前のようにそう語って、
にっこりと笑う部長。


ゾクッ…


背筋が泡立ちました。

確かに、その分析はあたっています。
でも、その分析には、
私が借りた本のタイトルはもちろん、
借りた順番まで正確に把握することが必要で。
なぜ…部長はそれらの情報を知っているのでしょうか。

私は部長の笑顔に対して、ひきつった笑みしか
返せませんでした。



--------------------------------------------------------



他には、こんなこともありました。
それは、私が部活帰りに薬局に寄った時のこと。

いつも行ってる最寄りの薬局に欲しいものがなくて、
それでちょっと遠出して。
道に迷った私が、おろおろしながら彷徨っていると
突然部長が話しかけてきたのです。


「やっほー」

「ぶ、部長!?どうしてここに!?」

「いやー、もしかして、
 咲が迷ってるかなーと思ってね?」

「えぇ!?」

「さ、あっちの薬局行くんでしょ?
 連れてってあげるから、行きましょ?」


ゾクッ…


鳥肌が立ちました。

私は、部長に薬局に行くことを伝えていませんでした。
そもそも、薬局に行くにしても、
最寄りの薬局じゃなくて、なぜ
もう一つの遠い薬局に行こうとしていると
わかったのでしょうか。


「ん?咲っていつもリップ使ってるけど、
 今日使ってなかったでしょ?」

「あ、はい…切らしちゃって」

「よね。でも、あのリップって学校近くの薬局では
 取り扱うのやめちゃったから、
 きっと向こうまで買いに行くだろうなーって」


平然と語りながら私の手をひく部長。
部長にとって、後輩のリップの残量や
リップの販売元、そして販売しているお店を
把握しておくことは
普通のことなのでしょうか?
少なくとも、私にとっては普通ではありません。


部長、あなたは私のことをどこまで知っているんですか?


私は手をひかれながらも、
頭の中で何度も何度も、その問いかけを
投げかけずにはいられませんでした。



--------------------------------------------------------



「え?部長に知られすぎてる?」

「う、うん…みんなもそうなのかなって…」


限界が近くなってきた私は、部長がいない時を選んで
部員の皆に質問を投げかけました。
自分だけじゃなくて皆も同じなら、
まだ少しは安心できるかなと、そう思ったのです。


「うーん…私はそんなこともないじょ?」

「私も…ですね。別に普通だと思います」

「…わしも…まぁ、ないな」


質問の意図がよくわからない、
という反応を示した原村さんと優希ちゃん。
対して、染谷先輩は何か
考え込むような表情になって腕を組みました。
とはいえ、三人とも心当たりがないという回答には変わらず、
それは、私の恐怖を上塗りしました。

私だけが、部長に見透かされている。
その事実が、重くのしかかってきたのです。


もっとも、だからと言って
気弱な私にはどうすることもできませんでした。

部長が私のことを調べつくしているのは
間違いなく事実だと思います。
ですが、それによって
私が何らかの危害を受けているかというと、
そんなことはなく…
むしろ、助けられてばかりだったからです。


「咲、傘忘れてきたでしょ?
 私の傘を貸してあげるわ!」

「咲、今週は体調悪いでしょ…?
 ちょっと休んでおきなさい」

「咲、制服の第三ボタンがそろそろ取れるから
 繕ってあげるわ!ちょっと貸しなさい?」


部長は、調べつくした情報を駆使して、
どこまでも献身的に私を助けてくれました。

だから、情報が筒抜けなことに
嫌悪感を抱かなければ、何も問題はないのです。


それでも、私は…どうしても、
本能的な抵抗感を拭い去ることができませんでした。


そして、ある情報を知られていると理解した時。
私はついに、耐えきれなくなりました。



--------------------------------------------------------



「ぶ、部長…お話があります」

「ん?どったの咲。真剣な顔して」

「も、もう…私のこと…調べるのやめてくれませんか?」

「え…?」


珍しく部長の顔に、動揺の色が見えました。
わかってはいたことだけど…やっぱり調べてたんだ…!


「な、何のことかしら?」

「い、今さらしらばっくれないでください…
 ぶ、部長は、いくらなんでも、やりすぎだと思います」

「だ、だってあなたが心配で」

「だからそれが迷惑なんです!!」


思わず私は声を荒げてしまいました。


「部長にはわかりますか!?知らないうちに
 隅々まで調べられている気持ち悪さが!」

「お手洗いの間隔まで把握されて、
 トイレに付き添われる私の気持ちが!」

「いつの間にかアレの周期とかまで
 細かく知られてたりするし!」

「一体何が目的で、私のことばかり
 そんなに調べてるんですか!?」


部長が、私のことを考えてくれているのは
痛いくらいにわかります。そう痛いくらいに。
でも、もう痛すぎるんです。

きっぱりと否定して、やめてもらわないと…
私は、そればかり考えていました。


でも…元々薄弱な私の意志は、
次の瞬間、あっさりと揺らいでしまいます。


「わ、わた、わたし、そんな、つもりじゃ」


こちらが気の毒になるくらいうろたえて、
しどろもどろに弁解しようとする部長。
足はがくがくと震え、顔色は蒼白となって。
いつもの凛とした姿は影も形もありません。

私はその姿に、妙な既視感を覚えました。


そう、それは、あの時の私。
一人でお姉ちゃんに会いに行って、
にべもなく拒絶されて、
それでも縋りつこうとする私。

そこには確かに、あの時の私がいました。
それに気づいた私は、ついたじろいでしまいます。


「ご、ごめんなさい…もう…しないから。
 もう…関わらないから」


やがて目に涙を浮かべながら、目を伏せて
諦めの言葉を口にする部長。

それは、私が望んでいた言葉のはずで。
願ってもない結末のはずだったのに。


なのに。


それを聞いた私は、まるで胸が引き裂かれるような
痛みに襲われました。


まるで…自分が拒絶された時のように。


部長は、沈黙を守り続ける私に
ひたすら謝罪の言葉を繰り返しながら、
ふらふらと去っていきました。

一人残された私の頭の中では、
ある疑念がこびりついて離れませんでした。


『本当に…これでよかったのかな…?』



--------------------------------------------------------



如才がない部長は、次の日には
いつも通りの飄々とした態度を取り戻していました。

私とも普通に挨拶をかわし、笑顔を見せてくれます。
冗談も振ってきます。
そこには、いつも通りの部長がいました。


…その目が真っ赤になっていることを除けば。


そして、その目は一日過ぎても、
二日過ぎても元の色を
取り戻すことはありませんでした。

部長の観察からは逃れられたかもしれませんが、
今度は自責の念が私を苦しめるようになりました。

きっと部長は毎日泣いている。
何もないようなふりをして気丈に振舞いながら、
家では一人で泣き続けている。


そして、部長を泣かせたのは私。


繰り返しになりますが、
部長の行為は善意からくるものでした。

私がどう感じたかはさておき、
私は間違いなく部長に助けられていました。

そんな部長に私がしたことは、
お礼を言うどころか、
迷惑だと吐き捨てた上での拒絶です。

ひどく、自分が醜い生き物に思えてきました。
良心の呵責に苛まれて、夜も眠れなくなりました。


そして。


一週間経っても部長の目から
朱の色が引かなかったの確認した時、
私はついに音をあげました。

気づけば部長に駆け寄って、
その肩を抱いていたんです。


「ごめんなさい!ごめんなさい!!」


私は、謝罪の言葉を繰り返しました。
立場は完全に逆転していました。


「ごめんなさい…部長は、
 私のことを助けてくれてたのに…
 ひどいこと言って…」

「ち、違うの、私が間違ってたのよ。
 咲は私の助けなんか必要としてなかった」

「違います!私は確かに助かってたんです!
 私が間違ってたんです」

「じゃ、じゃあ…私、続けていいの?
 咲のこと、助けていいの?」

「はい…これからも私のことを、
 助けてください…!」


こうして結局、私は部長を
拒絶しきることはできませんでした。

中途半端に拒絶して部長を傷つけておきながら、
それでいて手を差し伸べてしまったんです。



--------------------------------------------------------



次の日から、部長は私のサポートを再開しました。

それは、相も変わらず普通じゃないレベル…
ううん、むしろ。
中断する前よりも、さらにレベルが上がっていました。

朝、家の前で待ち構えているところから始まり、
お昼になれば二人分のお弁当を持って私の教室にやってきます。
放課後は一緒に麻雀を打ち、
帰りは私を送り届けてから帰路につくのです。

それでも、お互いの胸の内をさらけ出したせいか…
以前あれほど部長に感じていた、
生理的な抵抗感は感じませんでした。


蓋を開けてみれば単純明快で。
部長は、表裏なく私の事を案じていてくれて…
単にそれが『重すぎた』だけのことだったんです。

人間というのは不思議なもので。
その行動に裏がなく、純粋な愛情からくるものだと思えば、
その重さすら軽減されるような気がしました。

もちろん、負担にならないと言うと
嘘になっちゃいますが…


「あ、また部長からのメールだ」

「また?部長、議会の真っ最中じゃないのか?」

「さっきもメール来てましたよね?」

「うん、でも私のことが心配みたい。ほら」


『From:竹井久(部長)
 ---------------------------------------------------
 咲、大丈夫?生きてる?なんかあったらすぐ呼んでね? 』


「生きてる?って…咲ちゃん実は病気なのか!?」

「さあ…少なくとも私自身は健康だと思ってるけど」

「ちゅうか、お前さんいつの間に携帯持ったんじゃ?」

「あ、これ部長から借りてるんです…
 2台持ってるからって」

「とんでもない過保護ですね…」

「なんでそんなに守られてるんだ?
 咲ちゃん部長になんかしたのか?」

「そがあなん、咲のことが好きじゃからに
 決まっちょるじゃろ」

「す、好き…!?そ、そんなことは…
 うーん…どうなんだろ」

「でも、逆に恋愛感情なしに
 ここまでされているとしたら
 その方が異常だと思いますよ?」

「そ、そうなんだよね…」


そう、それは私自身も知りたいところで。

部長は、ここまで献身的に
私に尽くしてくれながら…
その理由だけは私に教えてくれないのです。

仮に染谷先輩の言う通り、私を、その…
好きだからだとしても、
私の何がそんなに気に入ったのか。
そこだけは、わからないままでした。



--------------------------------------------------------



そんな曖昧な状態のまま、それでも
私達は月日を消化していきました。

一か月が過ぎ、二か月が過ぎ…いつの間にか、
あれだけ感じていた部長の『重さ』が、
まったく気にならなくなっていました。


『咲、今からお風呂入るから
 20分連絡取れなくなるわ』

「あ、あと5分待ってください。
 私も今から入ります。その方が
 連絡取れない時間短くなりますし」

『りょーかい』


……


プルルルーップルルルーッガチャッ


『あー、咲の方が早かったかー』

「えへへ…なんか待ちきれなくなっちゃって」

『ちゃんと体拭いたー?』

「拭きながら話してます」

『どうやって…あー、なるほど!
 スピーカーホンね!今思ったんだけど、
 お互いスピーカーホンにすれば、
 お風呂入ってる間も話せるんじゃないかしら!』

「あ、そうですね…これからはそうしましょうか」

『バッテリーの残量に気をつけないといけないけどね』


……


「部長…まだ起きてますか?」

『起きてるわよー。咲は眠くならないの?』

「私はまだ大丈夫です」

『ふーん、じゃあ我慢比べね!』

「昨日は負けちゃったんで…今日は勝ちますよ」

『無理無理。私、けっこう夜強いもの』

「寝ないのも困るんですけどね…」

『まあねー。同時にふっと
 寝られるのが一番いいわよねー』

「もう、3時ですか…」

『いっそ、寝るのを諦めるというのもありかも』

「さすがに体が持ちませんよ…」

『朝早く学校に行って、部室で一緒に寝るとか』

「あ、いいかも…」

『じゃ、今日はもうずっと起きてましょうか』

「そうですね…5時になったら
 おうち出ますね?」


毎日が部長尽くしの生活。

重たさも、最初のころより
はるかに増しているはずなのに。

むしろ、その重たさに
心地よさを感じるようになっていました。


そして、そんな時に事件は起こったのです。



--------------------------------------------------------



もっとも、事件というのは言い過ぎかもしれません。
ただ、私にとってはそれくらい
インパクトがあるはずの出来事でした。


清澄高校、地区予選敗退。


そう、それはすなわち、麻雀を通して
お姉ちゃんとの仲を復縁するという私の目論見が、
完全に断たれた事を意味していました。


優希ちゃんがわんわん泣いていました。
染谷先輩が涙を滲ませていました。
和ちゃんが、肩を震わせてうつむいていました。


それは、全て私のせいで。


確かに、あと一歩だったはずなんです。
三槓子までは予定通りで…それで最後に
嶺上開花すれば、まくれるはずで。

でも、上がり切れなかった。
上がり切れなかったんです。


ただ、誤解を恐れず言えば…
私が問題にしたのは、
負けたことではありませんでした。

だって、私にとってインターハイは、
お姉ちゃんとの絆を取り戻すための、
唯一残された蜘蛛の糸で。

それを断ち切られたら、
私は正気を保っていられるはずがなくて。
狂ってしまうと確信していたのに。


なぜ、私は…普通でいられるんでしょうか?


なぜ、涙すら流さず、
平然としていられるのでしょうか?


私は部長に抱き締められながら、
ただそれを自問自答していました。



--------------------------------------------------------



インターハイが終わってやることがなくなった私は、
もっぱら部長の家に入り浸っていました。

全国に行けなかった私を心配したのか、
部長はこれまで以上に過保護になりました。
それこそ、片時も離れないくらいの勢いで。

ただ、当の私はというと、
それほどショックを受けているわけでは
ありませんでした。


「咲…本当に大丈夫なの?」

「はい…不思議ですけど、
 ああ、負けちゃったー、くらいの感じなんです」

「でも、あなたにとってインターハイは
 特別な意味を持っていたはずなのに…」

「…そうなんですよね…
 自分でも、よくわからないです」

「お姉ちゃんと仲直りしたいっていう気持ちは
 今でもあるんですけど…
 前ほどでもないっていうか…」

「まあ、また今度考えよう、
 くらいの軽いノリになっちゃってるんですよね…」

「それよりも、部長。
 この部屋、ちょっと寒いです」

「ああ、冷房効きすぎかしら。
 温度上げるわね?」

「温度はこのままでいいです」

「あー、はいはい」

「はい」


部長は私の言いたいことを正確に理解して、
私のことを抱き寄せてくれました。


「……♪」

「ふふっ…咲はあまえんぼさんねぇ」


私は、部長の腕にくるまりながら、
その胸にすり寄りました。


悲願が絶たれたのに、なぜそれほど
ダメージを受けていないのか。

その問いに対して、私は
まだ解答を導き出せていません。

でも、今はその問題を考えるよりも。
ただ、部長とくっついてたいなって、
そう思いました。


もっとも、その問題に対する答えは、
割とすぐにわかることになります。

なぜなら、あの大事件が起こったからです。



--------------------------------------------------------



部長が、部室に来ないことになりました。
理由はとても単純で、引退する日が来たからです。


「えー、というわけで、残念ながら
 私は今日をもって麻雀部を引退します」

「でも、最後の年にこんなに部員が来てくれて、
 大会にも出ることができて、とっても幸せでした!」

「今年はあと一歩ってところで全国に届かなかったけど、
 来年は全国に行くあなた達を応援したいと思うので、
 なんとか部員をもう一人捕まえてね!」


なんて、晴れやかな顔をして挨拶する部長。
周りのみんなも、寂しそうにしながらも
澄み切った笑顔を浮かべています。


濁っているのは私だけでした。


ぐるぐる、ぐるぐると、答えの出ない問答が
私の脳内を駆け巡ります。

え?部長がいなくなる?なんで?引退するから。
もう来なくなるの?部長が?え?なんで?
私はどうしたらいいの?部長がいないなんて。
無理だよ。ずっと一緒だったのに。え?なんで?
え?部長が?いなくなるの?本当に?そんな、
なんで、なんで、なんで、なんで


「ふざけないでください!!!」


しぃ…ん。


瞬く間に、辺りが静寂に包まれました。


「さ…咲ちゃ」

「うそですよね!?私を置いていくなんて!」

「あんなに付きまとっておいて!」

「本当に私を捨てる気なんですか!?」

「捨てませんよね!?」

「部長!!」


想いがあふれて、止まりませんでした。
その時、私は理解しました。
インターハイに負けても、平気でいられた理由。
お姉ちゃんと復縁できなくても問題なかった理由。
それは…


部長が、お姉ちゃんを越えたからだったんです。


部長は、例のごとく動揺しながら
私を抱き締めました。
それでも、私は止まりませんでした。


「許しませんから…
 捨てたら、許しませんから…!」

「す、捨てないわよ?別に引退したからって
 全く来なくなるわけじゃないし」

「毎日来てください!」

「い、いやいや、引退した先輩が
 いつまでも居座ってたら世代交代が」

「部長が来ないなら、私も来ません!」

「なっ…」

「部長が来る時だけ来ます。
 部長が来ないなら、麻雀部やめます」

「わ、わかったから。ね?」

「さ、咲ちゃん…急に、どうしちゃったんだじょ…?」


立ち位置が逆転していました。
縛り付けられているはずが、
いつの間にか縛り付ける側に回っていました。

和やかな雰囲気は一転して、
重苦しい雰囲気が辺りを支配します。

結局、部長は卒業まで残留することに決まりました。



--------------------------------------------------------



この引退事件は、私にとって
三つの大きな気づきを与えてくれました。

一つ目は、私にとって部長はもう
なくてはならない存在であるということ。

二つ目は、今ここで引退を引き延ばしても、
半年後には部長が卒業してしまうということ。

そして最後の三つ目は…
いつの間にか、部長よりも私の方が
『重たくなっている』という事実です。


特に問題なのは三つ目でした。
このままでは、私の方が『重い』と言われて
捨てられてしまう可能性があります。
現に今回の引退事件で、部長はその徴候を見せました。


「部長が、重くなる方法…重くなる方法…」


気づけばそればかりを考えていました。
今みたいに、私が縛り付けているだけでは
いずれ限界が来てしまうでしょう。

部長側が重くなって、自発的に私を縛り付けるように
持っていかなければいけません。


そして、私は意外に簡単な方法をひらめきました。


「そっか。私が、目を離せないくらい
 駄目な子になればいいんだ!」


さっそく私は、その瞬間から、
絶食することに決めました。



--------------------------------------------------------



「というわけで、部長。私、
 部長が一緒に居ない時はもうごはんを食べませんから」


お昼ご飯。部長と二人でお弁当を並べながら、
私は昨日の決意を部長に伝えました。
部長は、持っていた箸をカランッ…と取り落しました。


「ちょっと!?それ、死んじゃうじゃない!?」

「そうですね…部長が見捨てたら死んじゃいますね」

「あ、朝ごはんは!?ちゃんと食べた!?」

「もちろん食べてませんよ?」

「お、おかしいとは思ったのよ…
 いつもよりちょっと顔色悪いし…!」


思った通り、目に見えて狼狽える部長。
それにしても、一食抜いただけで
体調の変化がわかるなんて、
やっぱり部長も異常だなと思いました。


「あ、そうそう。部長がいなかったら勉強もしませんよ?
 本当に何もしないのでよろしくお願いしますね?」

「そ、そんなの、一緒に住むしかないじゃない!?」


部長の回答に、思わず顔がにやけます。
そうです。私の狙いは、まさにそこにあります。

どうせ部長は一人暮らしなんですから、
同棲すればすむ話なのです。

そして、私の決意表明に対して、
糾弾よりも先にその考えが出てくるあたり、
思ったより話は早く進むかもしれません。


もっとも、早急に決着させなければ…
私は、死んでしまいますけど。



--------------------------------------------------------



「夜分遅くすいません…
 私、清澄高校の竹井久と言って、
 宮永さんと同じ部活動に所属する者ですが…」

「大切なお話がありまして…
 少しだけ、お時間いただいてもよろしいでしょうか…」



--------------------------------------------------------



部長と私の話を聞いたお父さんは、
終始戸惑ってばかりでした。

無理もないと思います。
突然、なじみのない学生が家にやってきて、
娘を連れていく。
それを承諾しなければ娘は断食する、
なんて言われて動揺しない親がいたら
逆に見てみたいものです。


『えーと、何も完全に家出しなくても、
 ご飯の時だけうちに来てもらうとかは駄目なのか?』

『あ、それはありかもしれませんね。
 どうせ私、登下校も咲と一緒にしてますし』

『やだよ、部長の家がいい』

『咲、頭を冷やせ!自分がどれだけ
 おかしなことを言ってるのかわからないのか?』

『わかってるよ。私は狂ってる。
 だからこそ、部長がいないと駄目なんだよ』

『それに、お父さん勘違いしてるよ。
 元々狂ってたのは部長の方だからね?
 むしろ私は、狂わされた被害者なんだよ?』

『…咲の言う通りです。咲を
 こんな風にしてしまったのは、私です…』

『だ、だからと言って…
 よその人に迷惑をかけるわけには…』

『部長をよその人って考えるのが
 すでに間違ってるよ』

『ともかく、私は部長と一緒に住む。
 認められないならもうごはん食べないよ』

『だったら、断食でもなんでも勝手にしろ!』

『だ、駄目です!咲は、今の咲は
 本当に断食しちゃいますから!
 咲が死んじゃう!!』

『私はそれでいいよ?
 私の覚悟を見てもらいたいし』


結局、話し合いは平行線で終わりました。
でも、こうなれば私に負けはありません。
だって、ごはん食べなければいいだけだもの。


勝負はたった二日でつきました。


「お願い!咲!食べて!お願いだから!!」


部長が半狂乱になって私にスプーンを近づけます。
せっかくのはい、あーんがもったいないけど、
ここは我慢。どうせ後でいくらでもできるんだから。

一日経っても、二日経っても。
私はごはんを食べませんでした。
部長の目がどんどん濁って、光を失っていきます。


そして部長は、お父さんを激しく糾弾しました。


「お願いです!咲を私に下さい!
 今日も一口も食べなかったんですよ!?」

「あ、後一日もすれば我慢できなくな」

「昨日もそう言ったじゃないですか!?
 あなたは自分の娘を殺したいんですか!?」

「だ、だが」

「ごはんだけじゃないんです!水も飲んでないんです!
 今日は、反応も鈍くなって…
 人間、水も飲まなければ3日で死にます!
 もう限界なんです!!」

「お願いです…咲を…殺さないで…!!」


肩を震わせながら嗚咽する部長。
こうなれば、お父さんに勝ち目なんかありません。
だって、実際このままなら、
私は死んでしまうのですから。

意識が薄れる中、部長とお父さんの問答が続きます。
部長が何か言ったのが引き金となって、
お父さんの体が大きくビクリと揺れました。

やがて、お父さんの動きが完全に静止して…


「わ、わかった…咲の…好きにしなさい…」


力なく肩を落として、
ついにお父さんが敗北を宣言しました。
それは、私が竹井家の者になった瞬間でした。



--------------------------------------------------------



こうして私は、部長との同棲生活を勝ち取りました。
そしてこの試練はそれだけではなく、
私にとって望外の結果をもたらしたのです。

なぜなら…私の衰弱よりも、部長が壊れる
スピードの方が圧倒的に早かったからです。


「咲?そろそろ水分補給した方がいいわ」

「え?もうそんな時間?」

「ええ。ほら、こっち向いて…」


コクコク


「んっ…」

「んっ…」


コクッコクッ


「…はぁっ…まだいる?」

「はい、もう少し」


同棲を始めた部長は、私から言い出さずとも
私の健康管理を始めました。
それは、時間単位で強制的に
水を与えてくる徹底っぷりです。


「でも…なんで口移しなの?」

「あなたがまた断食とか言い出した時のためよ。
 こうやって口移しで飲む癖をつけておけば、
 あなたの意識がない時にやっても
 多分飲んでくれるでしょうし」

「液体を摂取させられるならどうとでもなるしね。
 今度同じ手を取っても死なせてあげないわよ?」


だそうです。
もちろん、部長の管理はこれだけにとどまりません。


……


「こーら、咲。今私から60cm以上離れたでしょ」

「あ、ごめんなさい…うっかり…」

「駄目よ?そういう気のゆるみがいつ
 死に結びつくかわからないんだから」

「この日本でそんな簡単に死なないよ…」

「いきなり餓死しそうになった
 人間が言っても説得力ゼロよ?」


移動管理。私は、部長から60cm以上離れると
こんな感じで怒られるようになりました。
ちなみに、60cmというのは部長が手を伸ばして
無理なく私をつかめる上限だとのことです。


ちなみに、他にもあります。

……


「ぶ、ぶちょう…もう、むり」


私の体を限界まで弄り回した部長が、
寸止めで私を焦らします。


「…なら、いつもの言葉を繰り返しなさい?
 ちゃんと言えたら、ご褒美あげるから」

「わ、私はもう、ぶちょうに、さからいません。
 ぶちょうに、さからい、ませんっ!
 ぶちょうにっ…さからい、ませんっ!!
 い、言えたから、はやく!!」

「よくできました。じゃ、楽にしてあげる」

「ふぁああああっ!!!」


夜、部長は私を調教するようになりました。
私がまた突拍子もないことを言って
自殺まがいのことをしないように、だとのことです。

もっとも私は部長が私の側に居てくれれば、
私のことを一番に考えていてくれればそれでよくて。

それさえ守られるのであれば
部長に逆らう気もないのですが。

これはこれで気持ちいいので文句は言いません。


ちなみに、これらの管理はほんの一例にすぎません。
部長の管理は、他にもまだまだたくさんあります。

そんなわけで、壊れた部長の『重さ』は、
私の重さをはるかに上回っていて、
私は心から安堵しました。

もっとも、それで安堵しているあたり、
またすぐに釣り合って、
私の方に傾いてしまうかもしれませんけど。



最初は、部長のことが苦手でした。
得体がしれなくて、私の事、何でも知っていて。

でも気が付いたら、部長に支えられていて。
部長がいるのが当たり前になっていて。

最後には、部長がいないと
生きられないようになってました。

これらは全部、部長のせいなので…
一生責任を取ってもらわないといけません。


「咲?もう私から離れちゃ駄目よ?」

「言われなくても離れないよ…
 そもそも、先に離そうとしたのは部長じゃない」

「あー、あれは私の人生で
 ワースト1の間違いだったわ。
 そのせいで誰かさんが断食するし」

「悪いと思ってるなら行動で示してよ」

「はいはい、これからは離さないから」


そう言って、生まれたままの姿の部長が、
私の体を抱き寄せます。
私も負けないように、部長の背中に手をまわして…
強く、強く抱き締めました。


もう、一生、離れないように。

(完)

(部長編『Side-久』)
 Yahoo!ブックマーク
posted by ぷちどろっぷ at 2014年11月01日 | Comment(7) | TrackBack(0) | 咲-Saki-
この記事へのコメント


素晴らしい
Posted by at 2014年11月01日 14:13
素晴らしい…いや、スバラです!
Posted by at 2014年11月01日 14:59
開き直りの攻め攻め咲さん可愛いです
夜の調教は何管理なんでしょう(笑
Posted by at 2014年11月01日 21:01
こわいよおこわいよお
Posted by at 2014年11月02日 04:33
素晴らしい、、、、
感動しました!!
Posted by at 2014年11月02日 08:59
おおぉ同じヤンデレというテーマの中で毎回変わったアプローチでドキドキしてしまいます…これは部長sideも楽しみですね!
いつも部長を簀巻きにしちゃう咲さんですが、咲さんが菫さんとヤンデレな中というのも想像してしまいます。菫さんの共依存はレアっぽいので難しそうですが。
Posted by 名無し at 2014年11月02日 11:40
コメントありがとうございます!

素晴らしい、すばらです!>
姫子「花田が壊れよった!?」
煌「結末はどうあれ、壊れるほど人を愛せる
  その純粋さ、すばらです!」
姫子「そいでもなかった」

調教>
久「性欲かんr」
咲「言わせませんよ!」

こわいよぉ>
久「怖がらせてごめんね!
  次はもっとソフトなのにするからね!」
咲「あ、ごめんなさい…次のはもっとひどいです」

感動>
久「こういう感想は素直に嬉しいわね!」
咲「ベクトルはどうあれ、心を動かして
  もらえると嬉しいです」

部長サイド>
久「もう公開してあるけどお楽しみに!」
菫「咲ちゃんと私がヤンデレか…
  とりあえずリクとしては受け取った」
咲「ギャグになっちゃいそうですけどね。
  シリアスがいい場合は事前にコメントを
  いただけるとうれしいです」

Posted by ぷちどろっぷ(管理人) at 2014年11月09日 21:01
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/105129419
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。

この記事へのトラックバック
 なんかブログランキング参加してみました。
 押してもらえると喜びます(一日一回まで)。
 
人気ブログランキング