現在リクエスト消化中です。リクエスト状況はこちら。
【咲SS:怜竜】怜「はい、竜華。怜ちゃんドリンクや」【共依存】
<あらすじ>
インターハイを終えた私の身体は、
ひどく衰弱してしまっていた。
それは、発作で倒れて死にかけた、
あの頃の感覚に酷似していて。
このままでは、いつ死ぬかわからないと思った。
どうせ死んでしまうなら、
私はやりたいことがある。
それは、未来を視るこの力を…
竜華に移植すること。
<登場人物>
園城寺怜,清水谷竜華,船久保浩子,その他
<症状>
・ヤンデレ
・共依存
・異常行動
<その他>
以下のリクエストに対する作品です。
・竜華&怜(ヤンデレ共依存ドロドロ)
※頭おかしいです。ご注意を。
※グロ描写はしませんが、
血とかに弱い人はご注意ください。
※作中で怜が取る行為は
現実では絶対に実行しないでください。
--------------------------------------------------------
私にとって、最初で最後のインターハイ。
私達は、準決勝で敗れ去った。
私は命を賭して闘った。にも関わらず結果は大敗。
直後に倒れて、ストレッチャーで
病院に搬送されるというおまけつきで。
そして私が失った点差がそのまま、
私達の敗退に繋がった。
それだけじゃない。
酷使された私の身体は、
あの頃に戻ってしまっていた。
そう、病弱で倒れてばかりで、
いつ死んでしまうかわからないと
囁かれていたあの頃に。
竜華といたい一心で、意地で通学は続けているけれど。
このまま悪くなれば、入院せざるを得ないだろう。
そんなわけで、私の将来は真っ暗闇だった。
でも、得たものもあった。
枕神怜ちゃん。竜華と私を繋いだ絆。
それは単なる綺麗事の空想に終わらず、
明確な形となって表れて、竜華に私の力を与えた。
愛する人に能力を分け与えることができる。
下手したらノーベル賞ものの発見じゃないだろうか。
できる人は私しかいないかもしれないけど。
私はこの結果に歓喜した。
ただ、表れた形には三つの問題があった。
一つ目は、能力自体が竜華に適さないこと。
私が竜華に与えた力は、上がれる時の
最短ルートを教えるというもの。
でもそれは、竜華でなくても
誰でも同じ結果になるわけで。
せっかくの竜華の持ち味を殺すことになる。
二つ目は、注ぎ込める量に限界があること。
準決勝で竜華が怜ちゃんを使えたのは数回だった。
もし、後一回分使えていたら。
オーラスまで残っていたら。
結果は、また違っていたかもしれないのに。
やはり、回数制限があるのは好ましくない。
三つ目は…とりあえず置いておこう。
「なあフナQ。なんとかできん?」
「いやなんとかて言われても…
そんな簡単に能力の追加や改造ができるんなら、
うちが真っ先に自分に能力追加しとりますて」
「でも、これって先天的な能力ちゃうやん?
やったら力の渡し方次第で、
能力を変えることもできるんちゃう?」
「渡し方か…今は膝に力を貯めよるんですよね?」
「枕神怜ちゃんやで」
「…胸とかはどないですか?」
「微妙やな…貯められるかもしれんけど、
膝枕より強い能力になるとは思えん」
「そもそも、『貯める』っちゅうのがもう駄目や。
ガス欠になる問題が解決しないんやから」
「貯めるのが駄目となると、そもそも
能力の移植くらいしか手がないんとちゃいます?」
「移植…」
「言った私自身、何言うてるねん、ですけどね」
へへ、とフナQは軽く笑い飛ばした。
でも私は、その提案に活路を見出す。
そうか…移植。貯めるんじゃなくて、移植。
私の力を、そのまま竜華に渡すことができれば。
私とは違って健康体の竜華なら、
トリプルでもクアドラプルでも平気かもしれない。
問題は、言うまでもなく移植する方法。
どうやれば移植できるのか。
(移植か…)
私は、思いついた方法を一つ
試してみることにした。
--------------------------------------------------------
私達のインターハイは準決勝敗退で幕を閉じた。
もちろんそれ自体は悲しいことだと思うし、
今でも悔しくて夢に見ることがある。
でも、私にはそれ以上に考えるべきことがあった。
そう、それは怜の健康。
インターハイで無茶をした怜は、
明らかに以前より衰弱していた。
ひどく疲れやすくなり、
倒れることもしばしばだった。
今日だってそうだ。
怜は部室に向かう途中でうずくまり、
私に抱えられて保健室で休んでいる。
…せっかくベッドがあるのに、
膝枕を選ぶくらいには元気みたいだけど。
「病院、行かんでええの?」
「そこまでではないなあ。軽い貧血や。心配いらんよ」
「でも、麻雀打てんかったなぁ」
「しゃあないて。今はともかく休養が第一や」
「ま、私の代わりに竜華に打ってきてもらおか」
「うちも打てんよ?怜から離れんから」
そう言いながら、膝に寝転ぶ怜の頭をそっと撫でる。
怜はうれしそうに、でもどこか悲しそうに薄く笑った。
「せや、竜華。私、特性ドリンク作ってきたんや」
「特性ドリンク?栄養ドリンクみたいなもん?今飲むん?」
「あー、私のちゃうよ?竜華用や」
突然思い出したかのように頭を上げて、
そのままくらくらと倒れそうになる怜。
「い、いきなり動いたらあかんて!
どれ?うちが取ったるから」
「バッグに入っとる赤色のマグや」
言われるままに怜のカバンの中を漁ると、
確かに小さなステンレスマグが入っていた。
「これ?」
「せや。飲んでみたって?」
「気持ちは嬉しいけど…
うちの事より、自分の事を心配してや?」
「ええからええから。はよ飲んで?悪なってまう」
「はいはい」
ステンレスのマグをあおり、その液体を口に含む。
味自体はただのトマトジュース。
でもその瞬間、私は自分に力がみなぎるのを感じた。
「わっ!?何やのこれ!?」
「怜ちゃんドリンクや!」
「すごっ!?力がみなぎってくる!」
飲めば飲むほど、活力があふれてくる。
そして何より私は、この感覚に覚えがあった。
「これ…もしかして、『枕神怜ちゃん』か!?」
「せや!膝枕やと貯めとけるパワーに限度があるし、
そもそも竜華のスタイルと合致せえへんやろ?」
「だから、飲み物にパワーを籠めてみたんや。
これなら全身にいきわたるし、
効果も変わるかもしれん」
「なるほどなぁ。うちのためにありがとな?」
私はまた、膝の上の怜を撫でる。
今度の怜は、心から満足気に笑った。
私もその笑顔を見てうれしくなった。
--------------------------------------------------------
移植。
そう言われて私が一番に思いついたのは臓器だった。
とはいえ、さすがに臓器移植するわけにはいかないし、
なんかちょっと違う気がする。
次に思い浮かべたのは血液だった。
これは、私のイメージにぴたりと符合した。
私の血液に力を乗せて。
それを竜華に飲ませ続ければ。
私の能力を、竜華に移植できるのではないだろうか。
そして私は、特性ドリンクを作り出した。
成分は主にトマトジュース、
後は力と血が少し。
できるだけ警戒されないように、
コップに注がなくても飲めるマグも用意した。
「これええなぁ…全身に怜を感じるわ」
人を疑う事を知らない竜華は、
うまいうまいと飲み干した。
--------------------------------------------------------
『怜ちゃんドリンク』は
すさまじい効果を持っていた。
「ほれ、せっかくパワーを得たんやから
一局打ってきてや」
「や、でも怜が心配やし」
「私なら大丈夫や。ちゅうか、そのドリンクが
枕神と似たような効果を持つなら、
多分普通に私と話せるはずやで?
今回は枕神おらんし」
そう怜に促され、半ば追い出されるように
私は保健室を後にした。
気が進まないまま部室に歩みを進めると、
途中の廊下で泉と出くわす。
「あ、清水谷先輩。園城寺先輩は
もう大丈夫なんですか?
今様子を見に行こうとしてたんですけど」
「あー、一応は。心配やし、
看病しようと思ってたけど追い出されたわ」
『本人が大丈夫言うてるんやから大丈夫やって』
「って怜!?来たらあかんやん!」
突然聞こえた怜の声。
私は驚いて後ろを振り向く。
でも、そこには誰もいなかった。
「あ…あれ?」
「…どうしたんですか?」
状況を飲み込めない泉が
きょとんとした顔を浮かべている。
おかしい、確かに怜の声が聞こえたはずなのに。
気のせいだったんだろうか。
『気のせいちゃうよ?』
「わわっ!?」
またも聞こえた怜の声。
でも、私は今度は異変に気づいた。
その声は…私の脳に直接響くような声だった。
「あー…これ、もしかして怜ちゃんドリンク効果か?」
『せや。とりあえずテレパシーは成功みたいやな』
言われてみれば、インターハイのあの怜も。
私は普通に怜と脳内で会話していたし、
周りにそれを聞かれることもなかった。
これもきっと、そういうことなのだろう。
『さ、とりあえず半荘打ちに行こうや』
「せやな」
「え…ええと、清水谷先輩?
誰と会話してるんですか?」
事情を知らない泉が、若干引き気味で私に問いかけた。
私は思わず噴き出した。
……
怜ちゃんドリンクは、枕神怜ちゃんとは
だいぶ勝手が違っていた。
まず違うのは、本人と直接会話できること。
そして、もう一つは…能力の違い。
『おー、さすが優良健康児。
普通にダブルができるんやな』
未来が見える。それは怜の能力そのもので。
かつ、私自体の『ゾーン』もそのまま使えた。
二巡先まで見える。それだけでも圧倒的有利なのに、
未来を覆してしばらく未来が見えなくなっても、
ゾーンがあればその間の危機察知はできる。
その日、私はあのセーラを2回飛ばした。
「み、未来が見えるようになった!?」
「怜ちゃんドリンクでな!」
「枕神の次はドリンクか…
あんたら本当に人間かいな?」
「そのドリンクまだあるん?
誰が飲んでも使えるなら、もう千里山は無敵やで?」
「あーごめん、全部飲んでしまったわ」
セーラに言われて初めて気づく。
枕神怜ちゃんならともかく、
確かにドリンクなら誰でも飲める。
他の人にも怜ちゃんパワーを分けることは
できるのではないだろうか?
『あー、それは無理や。これ、哩姫と同じ類の力やし。
いつも膝枕してくれる竜華だけの特権やで?』
「というわけで、無理らしいわ」
「いや、というわけってなんや」
「あ、そか。今怜と話せるんはうちだけやった」
「テレパシーも使えるん!?」
「あー、さっきは園城寺先輩と話してたんですね?」
「あんたら本当に人間ちゃうやろ」
さすが千里山女子。
テレパシーが使えるとわかっても、
大して驚かれなかった。
いくら何でも適応力高すぎだと思うけど。
でも、おかげでこの件で
不気味がられる心配はなさそうだった。
ただ一つ、気になったのは。
「な、なあ浩子?なんでそんな目でうちを見るん?」
「…なんでもないですわ」
浩子が、すごい目でこちらを睨んでいた。
データ収集が趣味の浩子。
浩子なら、こんな奇妙奇天烈なことが起きたら
真っ先にデータを取り始めるはずなのに。
その浩子が、青白い顔をして、
私をただ見つめていた。
「園城寺先輩に言っといてください。
後で、二人で話がしたいと」
「ん?わかった」
その日、浩子はそれ以上しゃべらなかった。
--------------------------------------------------------
「…で、話ってなんや?」
「もちろん、怜ちゃんドリンクのことや」
保健室に来たフナQは、
鋭い目で私をにらみつけた。
「…あれの『材料』を教えてください」
「ん?ああ、さすが研究者やな。
大量生産しようっちゅうんか?」
「ええから早く」
「せっかちは嫌われるで?
ちゅうても、成分はトマトジュースと私のパワー。
それだけy」
「嘘つきなや」
フナQが鋭く私の言葉を制した。
「…血、混ぜたんやろ」
「……フナQも、別の方向で化けモンやな…
なんであれだけでわかってしまうん?」
「移植の話をした次の日、本人が貧血で倒れる。
謎のジュースの登場。能力が移っとる。
主成分がトマトジュース。満貫ですやん」
「名探偵フナQ爆誕やな」
「うち、本気で怒っとるんやけど?」
「なんで、こんな無茶するんや!?
ただでさえ、衰弱しとるこんな時に!!」
フナQはまたも私の軽口を一刀両断した。
そして、まるで掴みかからんとばかりの勢いで
私に詰め寄った。
「…弱っとるからこそや」
「まさか、死ぬ前に能力だけでも移しとことか、
そういうアレちゃいますよね?」
「ビンゴや」
「……!?」
枕神怜ちゃんの問題は三つある。
一つ目は、竜華の能力と噛みあわないこと。
二つ目は、利用制限があること。
そして、一番の問題は…
私がいないと使えないことだ。
いつ死ぬかもわからない、この私が。
「私な?昔は本当にいつ死ぬかわからんかったんや」
「昔っちゅうのも変やな。
去年も死にかけたわけやし」
「最近は、あの頃の感覚に近いもんを感じる」
「だから」
「私は、いつ死んでもおかしないんよ」
「や…やったら、余計に安静にせなあかんやん!?」
フナQの言うことももっともだ。
でも、安静にしていても、
それでも、ある日突然死んでしまうかもしれない。
そしたら私は、死んでも死にきれない。
「血をな?竜華に移植する」
「繰り返せば、竜華の中に私が息づくかもしれん」
「そしたらな?私が死んでも、
私は竜華の中で生き続けられるんよ」
「園城寺先輩、いつの間にそんな狂ったんや」
「私ん中に役に立つ力がある。
それが竜華に移植できる可能性がある。
なら、死ぬ前に移植しとこう。ごく自然な流れやろ?」
大きくため息をつきながらフナQが肩をすくめた。
「そんなことしてあんたが早死にしたら、
清水谷先輩は喜ぶんか?」
「そもそも、あんたが死んだら
どうなるか考えたことあるんか?」
「うちの見立てでは、あんたが死んだら、
清水谷先輩は間違いなく後を追うで?」
「やったらなおのこと移植が必要やん。
竜華の中に私がおれば、
竜華は後を追わずに生きられるかもしれん」
「死なんことを考えろゆうてんのや!!」
「だったら今すぐ私の病気治してや?
私は別に治りたないわけやないで?」
「……っ!?」
フナQは押し黙った。そりゃそうだ。
生まれた時から、ずっと医者の世話になってきた。
ずっと治療を受け続けた。
それでも病気は治らない。
私がいつ死ぬかわからないという事実は、
結局変えようがないのだ。
「なあ、フナQ。頼みがある」
「…お断りや」
「この通りや。聞いたって」
「…やめてください。体に障ります」
「私はいつ死ぬかわからん。
これは本当で、かつどうしようもないんや」
「ずっと病気と闘ってきたからわかる。
安静にして治るとかそういうもんやない」
「突然改善されるかもしれんし、
逆にある日突然発作を起こして、
いきなりポックリ逝くかもしれん」
「だから…手伝ってくれん?」
フナQは唇を噛み締める。
やがて、唇から血が滲み出す。
長い沈黙の後、フナQは絞り出すようにこう答えた。
「清水谷先輩に全部話して、
合意が取れたら考えますわ」
「それ、遠回しに駄目って言うてない?」
「死に急ぐんやったら、
相方の許可くらい取れ言うとるんや」
こうなっては仕方ない。
私は諦めてかぶりを振った。
「了解や。まずは竜華の許可をもらうわ」
先に竜華を説得するしかないだろう。
ここでフナQを抱きこめなければ、
どの道フナQは竜華にチクるだろうから。
私は竜華を携帯で呼び出した。
--------------------------------------------------------
「というわけで…竜華には、
私の血を飲んでほしいんや」
怜から聞かされた内容は、
予想以上にショッキングな内容だった。
トマトジュースに血が混じっていた。
そして私はそれを飲まされた。
そして怜は、それを続けてほしいと言う。
私は頭を抱えながら考え込んだ。
悩みに悩んで、私が出した結論は。
「わかった。飲むわ」
「ちょ、頭湧いてんちゃいますかダニ先輩!」
「ひどない!?」
辛辣すぎる浩子の糾弾がグサリと突き刺さる。
でも、私にも私なりの考えがあった。
「うちだって、これが最善とは思ってへんよ。
本当は、怜に無茶はしてほしない」
「だったらなんで」
「でもな、うちわかったんや」
「…何を?」
「怜は、どんなに駄目や言うても、
絶対隠れてやるっちゅうことが」
「…あー…」
そもそも衰弱の原因になったダブルにしても、
私は思いっきり禁止していたのだ。
でも、怜はやめなかった。
やめないどころか、密かに練習を続けて、
挙句最後にはトリプルまでやってしまった。
文字通り、自らの命を削ってまで。
結局のところ、怜が心を決めてしまったら、
もう覆すことはできないのだ。
私はそれを、あのインターハイで
嫌というほど思い知った。
「さすが竜華。よくわかっとるやん」
「開き直らんといてな?」
「はっきり言うで?
怜、あんたは頭おかしい。狂っとる」
「だから、言ってもきかんやろ。
うちがどんだけ泣いて止めても、
血を抜いてくるはずや」
「そしたらうちは、飲むしかない。
怜が命を削って作ったドリンクを、
無駄にするわけにはいかへんし」
「やったら、せめてうちらが管理して、
怜に無理させへんようにした方がまだましやろ」
「それは…そうかもしれんけど…」
煮え切らない態度の浩子。
まあ、普通はそうだと思う。
引き下がりきれない浩子は、
視点を変えて私を説得にかかった。
「そもそも、血を飲むことに抵抗はないんですか?」
「竜華、うまいうまい言うてたけど?」
「何も知らんのと、正体知っとるのとでは違うやん?」
「なあ、清水谷先輩?」
浩子の視線に、私はビクリを身を震わせた。
考えを、見透かされたような気がしたから。
「……」
「正直に言うわ。あのドリンク、
めっちゃ美味しかった」
「きっと…怜の血が入っとったからやと思う」
「多分、次飲んだら…もっと美味しいと思うわ」
浩子はうんざりとした顔を隠そうともせず
ぶっきらぼうに吐き捨てた。
「なんや、清水谷先輩…
結局、あんたも狂っとるんやないですか」
浩子の言う通りだ。多分、私も狂っている。
怜の事が心配というのは本当。
怜なら、止めても隠れてやるだろうから、
仕方なく許可するというのも本当。
でも…心の中では、期待している自分がいる。
怜が、私の中で生き続ける。
そしたらいつも、一緒に居られる。
そんな夢のような提案に、心を躍らせる自分もいる。
それでも怜が逝ってしまったら、
私は追いかけるだろうけど。
だから。
「浩子…頼んだで。うちらがおかしなったら、
あんたが止めたってや?」
浩子は大きくため息をついて。
呆れたようにまた吐き捨てた。
「だから今、必死で止めてますやん」
--------------------------------------------------------
意外にも、竜華はあっさりと認めてくれた。
これにより、怜ちゃんドリンクはフナQ主導の元
厳正に管理されながら作成されることになった。
「一般的に、50kg以上ある人なら、
1回の献血で400ccまで献血できるようになっとります」
「体重が満たない場合は200ccになります」
「ccとmLはだいたい同じなんで、
200mLは献血できる言うわけです」
「ほへー。そんだけ取ってええなら、
別に普通に1Lの特性ドリンクとか
作っても平気なんちゃう?」
「アホ言いなや」
「フナQ、何か私に厳しなってない?」
「命削って血ぃ抜くような先輩には、
こんくらい厳しくせんとあかんのですよ」
「言うまでもあらへんかと思っとりましたけど。
さっきの数値はあくまで健常者の話です」
「時々輸血されとるような園城寺先輩では話が全然ちゃいます」
「ならなんで献血の話したん?」
「献血の話を知って『なんや一杯とれるやん』とか言って
無茶されんように釘刺すためですわ」
「読まれとるなぁ、怜」
「あんたもやダニ先輩」
「ひどない!?」
「うちが出した結論は、1cc。
これを必ず守ってください」
「少なっ!?」
「多い鼻血でそのくらいです。
さすがに鼻血くらいの量なら何とかなるでしょう」
「料理とかする清水谷先輩なら、5ccってわかりますよね?
要は小さじ1杯ですわ。
その5分の1を想像してもらえば、
それが少なないちゅうことがわかると思いますよ?」
「ともかく、1回1cc。
これは絶対守ること。返事は?」
「はーい」
「……はーい」
「…はぁ。次は、血の抜き方です。
園城寺先輩は前回どうやったんで?」
「普通に切ったで?ほらコレ」
「アホかあんたは」
「念入りに焼いて消毒した針で、指に針を刺してください。
それでも感染症の可能性は残りますが、
もうこればっかりは諦めるしかありません」
「わかったら返事」
「はーい」
「はーい」
「…最後に言うときますけど、
うちはあんたらの結論を認めたわけやありません」
「もし、ルールを守らんかった時は、
即座に監督にチクるんで、そこんとこ頼んます」
そう言ってフナQは説明を締めくくった。
有無を言わせないその態度に、
私はつい言いそびれてしまった。
(前の怜ちゃんドリンク…
15ccくらい使ったんやけどな…)
--------------------------------------------------------
「怜ー。これ、なんか薄ない?」
「おー、さすが違いのわかる竜華さんや。
実際前回の15分の1やしなぁ」
「そか…ま、味は問題やない。
問題は能力が移るかや」
「アカンな…実はさっきからずっと
テレパシー送っとるつもりなんやけど」
「ホンマ!?全然届いてへんよ!?」
「やっぱり量が少なすぎるんやな…
せめて5ccは必要な気がするわ」
「浩子に相談しよか」
「ちょい待ち竜華。
フナQに伝えるのはまだ早いで?」
「とりあえず続けてみる言うこと?」
「ちゃう。問題は、
5ccで足りるかどうかっちゅうことや」
「必死こいて頼み込んで5ccにしてもらって、
それでも足りませんでした、は避けたいやろ」
「フナQとの交渉の前に、
能力を移せる最低限の量を探るべきや」
「…なあ、怜。浩子はな?
壊れとるうちらの
ストッパーをやってくれとるんやで?」
「ストッパー無視したら意味ないやん」
「でも…私は怖いんや。
明日には死んでしまうかもしれんのに」
「怜…」
「だから、私は止められてもやるで?
明日は10ccや」
「…怜、それで駄目やったら、諦めるん?」
「そん時は最低ラインが15ccになるだけや」
「…そか」
「怜。覚えといてな?」
「何をや?」
「もし、それで怜が死んでしまったら…
うち、追いかけるからな?」
「怜は、うちの命も握っとること、
忘れんといてな?」
--------------------------------------------------------
怜は、さっそく浩子とのルールを破ろうとした。
まあ、私の涙ながらの約束をあっさり破っていたあたり、
口約束で怜を止めることができないのはわかっていた。
「怜、次血を抜く時はうちと一緒の時や。
そうじゃなきゃ、うちはもうドリンク飲まんで?」
「…ま、しゃあないな」
だから私は、現場を抑えることにした。
もし怜が無茶をしそうなら、私が身体を張ってでも止める。
でもこれが、私達をさらに狂わせることになる。
目の前で怜が針を火であぶっている。
焼けた針を自らの指に突き刺している。
ぷつりと血の玉が指に浮かぶ。
怜はそれを計量スプーンに移す。
血はなかなか溜まらない。
少しずつ、ぽたぽたと血が溜まっていく様は、
私に底知れない恐怖をもたらした。
同時に、ぞくぞくと表面を駆け巡る興奮も。
「…地道な作業やな」
「縫い針やしな。1cc貯めるのでも
途中で止まってまうから、
こうやってぐっ、ぐっ、と」
「あ、アカンて。うちそういう話駄目なんよ」
「なら、向こうで休んでてええで?
まだまだ時間がかかるし」
「…それこそアカンて。
怜が無茶するかもしれんやん」
「信用ないなあ」
「前科持ちやからなぁ」
膨大な時間をかけて、ようやく計量スプーンに
5ccの血液が貯められた。
「怜、ストップや」
「まだ半分やで?」
「5ccで済むならそれにこしたことないやろ」
「竜華、わかってへんな」
「前回それで、1cc無駄にしてるんやで?」
「…ともかく、5cc試そうや。
それで駄目なら、追加すればええやろ?」
「んー…じゃあこれ、飲んで?
パワーはもう籠めといたから」
怜はさも当然とばかりに、
血がたたえられた計量スプーンを差し出した。
「えぇ!?このまま飲むん!?」
「混じりっ気なし100%怜ちゃんドリンクやで?」
「いや、それ単なる血やん!?」
「元々トマトジュースに入れたんは
単なるカモフラージュやしな。
竜華がわかって飲んでくれんなら不要やろ?」
怜は意地悪い笑みを浮かべた。
私の背中を、冷や汗がつたう。
怖かった。当然のように血を飲むことを提案する怜が。
でも、それより怖いのは。
『もしかしたら、美味しいかも』
なんて考えている自分がいること。
もしこれを『美味しい』と思えてしまったら。
私はその事実に、正気を保っていられるだろうか。
「な、りゅーか…飲んでや?」
「あ、うん…」
怜は私にしなだれかかり、潤んだ目で私を見つめる。
私はその異様な雰囲気に流されて、
つい反射的に頷いてしまった。
私の手にある、スプーンの中の赤黒い液体。
見る度に、思わず鳥肌が立つけれど。
私はもう覚悟を決めて、えいとばかりに
スプーンをくわえこむ。
口の中に流れる、どろどろとした液体。
私はそれを、そのまま勢いよく飲み込んだ。
「ふあぁっ…!?」
瞬間、私の身体がガクガクと痙攣する。
あふれんばかりの多幸感に私は我を失う。
自分がとろけて流れ出てしまいそうな感覚に、
私は無意識に自らの身体を両腕でかき抱いた。
「あっ…あっ…あっ…!」
それでも、幸せが止まらない。
怜が、喉を通って、身体の中心に流れていく。
怜が、身体に沁み渡っていく。
怜が、全身に広がって、じんわりと浸透していく。
「あ、かん…これ、あかん…!!」
こんなの…幸せすぎておかしくなってしまう!
「なあ、りゅーか…どや?」
「私の血…うまかった?」
「あっ…はっ…」
目の焦点が合わない私。
ぼんやりと歪んだ怜が語りかける。
私は答えられなかった。
まだ、戻ってこれなかった。
「はは…りゅーか、トロけすぎや…
これじゃ、テレパシー成功しとるのかわからへん」
言葉とは裏腹にうれしそうな怜の声とともに、
私は温かい何かに包まれる。
どうやら抱きしめられたらしい。
私はもう、幸せに抗う事はやめて、
ぬくもりに浸ることにした。
--------------------------------------------------------
血を飲んだ竜華の反応は凄かった。
スプーンを口にくわえたその刹那、
目から一気に意思の光が消えて。
口がだらしなく半開きになって。
全面にとろけきった表情を浮かべた。
そして次の瞬間、びくんっ、びくんっと
激しく身体を震わせた。
その非現実的な反応に驚きながらも、
でも私は、どこかでこれと
似たような反応を見たことを思い出した。
そうだ、前に見たいかがわしいDVDで、
こんな風になった女を見た気がする。
でも、それはつまり。
(え、何これ。竜華、イッてんのと違う?)
くったりと力が抜けて、それでもなお
竜華の震えは止まらない。
竜華は腕をかき抱き、荒い息を吐きながら、
うわ言のようにつぶやいた。
「あ、かん…これ、あかん…!」
言葉とは真逆に、その表情はうっとりと恍惚している。
私は自分の血が竜華にもたらした反応に
驚き、とまどい、そして…喜んだ。
結局、竜華が戻ってこられるまでには、
数分を必要とした。
ようやく息が整ってきた竜華に、
私は説明を要求する。
「で、うまかったん?」
「…うまいとかそういう次元やないで。
正直、味を感じたかも覚えとらんもん」
「なんか、『幸せ』ってのがあふれてきて、
頭ん中ぐちゃぐちゃになってわからんかった」
「ふふ…そか。りゅーかは変態さんやなぁ」
「へ、変態とかそういうのちゃうて!
多分あれ、怜ちゃんパワーの副産物やから!」
慌てて否定する竜華。その反論もどうかと思う。
だって、竜華の言葉をまとめるとこうなるのだから。
『私はあなたの血を飲んでパワーを感じて幸せです』
変態を通り越して完全に気違いの領域だ。
「ま、喜んでもらえて冥利に尽きるで。
でも、実験としては失敗やな」
「へ?」
「や、だってりゅーか。テレパシー受け取ってへんやん」
「…あー…」
一転して竜華の表情が罪悪感に囚われる。
別に竜華は悪くないんだけれど。
「なんでやろ…飲んだ時の衝撃は前回の比やなかったのに」
「単純に絶対量が足りんのやろ。
最高級ステーキを一口だけ食ったようなもんちゃう?
味はうまいけどそれじゃ腹はふくれん、みたいな。
…やっぱり次は10ccやな」
「あ、アカンて!5ccでもあんなんなったのに、
その倍とか、うちおかしなってまう!!」
「なればええやん」
「と…とき?」
「おかしなればええやん。私は嬉しいで?」
それは、偽りのない私の本音だった。
竜華が、私の血を飲んでおかしくなってくれる。
気が違うほどに悦んで、達してくれる。
こんなに嬉しいことはない。
「おかしなっても、私が見とったるから…
遠慮なく、おかしなって?」
竜華の目が、とまどいに大きく揺れる。
でもその目に、期待の色が隠れていることを
私は見逃さなかった。
--------------------------------------------------------
結局、怜ちゃんパワーの発現に必要な血液量は
9ccだった。
当初の15ccよりはまだましで、
私は人知れず安堵した。
とはいえ、9cc飲まされた時の私の反応は、
あまりにも恥ずかしくて思い出したくない。
『まさかお漏らしするとは思わんかったわ』
くすくすと笑いながら私をからかう怜。
笑い声まで聞こえるとは、
ずいぶん無駄に精巧なテレパシーである。
私が真っ赤になって恥じらう様子も、
怜には伝わっているようだった。
こうして二度目の成功は、私達に大きな期待をもたらした。
なぜなら、一度目よりも確実に、
繋がっているという実感が得られたから。
それは単なる主観ではなく、
持続時間の長さという
定量的な結果としても表れていた。
もっとも、いいことばかりでもない。
9ccという量は、怜にとって
負担になることも判明したからだ。
怜の顔色は明らかに青ざめ、
立つのすら億劫そうだった。
『なぁ怜…これ、やっぱり多用したらあかんで』
『や、逆やろ。多用して定着させんと
ただの一時的なドーピングで終わってまうやん』
『それは…そうかもしれんけど…』
怜との会話は平行線だった。
身体に負担になると明確に分かった以上、
頻繁に作るべきではないと主張する私。
定着を求める以上、
継続して飲むべきだと主張する怜。
怜の言い分もわかるけど…
でも私にはもう一つ、続けたくない理由があった。
それは怜にも言えない、あまりにも情けない理由。
このまま続けても、私の中に
怜が定着するかはわからない。
でも、このまま続けたら。
私は間違いなく、怜の血液におぼれるだろう。
あれを飲むと、私はおかしくなってしまう。
幸せに支配されて、何も考えられなくなってしまう。
それだけじゃない。効果が切れた後、
どうしようもなく寂しくなる。
怜の声が聞きたい。
怜の温もりを感じたい。
ずっと怜と一緒に居たい。
そんな気持ちに支配されて、狂いそうになる。
私にとって、怜の血液は完全に麻薬だった。
私を怜に依存させる、最高の麻薬。
--------------------------------------------------------
私の身体を気遣う竜華は、
ドリンク作成の継続に難色を示した。
明確に負担になるとわかった以上、
続けるべきではないという考え方だ。
でも、私はやめるつもりはなかった。
負担になるのは前からわかっていたことだし、
それでやめるくらいなら最初から始めていない。
何より私は、その効果の虜になっていた。
私の血を飲んで、だらしなく身体をひくつかせる竜華。
私はそれを見て、ひどく興奮するようになっていた。
それが終わって、竜華と繋がると、
私は泣きそうなほどの安心感に包まれるようになった。
だって、いつでも竜華と話せる。
いつでも竜華を感じられる。
いつでも竜華と側に居られる。
そして、それが途切れた時。
私は、耐えがたい絶望感を感じてしまう。
それこそ本当に、発狂してしまうほどに。
私は、ずっと竜華と繋がっていたいと思った。
繋がりを絶対に切らしたくないと思った。
たとえ、定着しなくてもいい。
ずっと、ずっと竜華に血を飲ませ続けたい。
そのためなら、私は死んでしまってもいい。
どうせ私が死んだところで、
竜華はついてきてくれるのだから。
--------------------------------------------------------
怜は、怜ちゃんドリンクを作り続けた。
私は、飲まざるを得なかった。
私は、どんどんおぼれていった。
怜は、そんな私を嬉々として受け入れた。
私はどんどん怜に依存する。
狂っていく。でも止められない。
--------------------------------------------------------
竜華が私に依存すればするほど、
私達の考え方は一致するようになってきた。
私の血が浸透するにしたがって、
竜華の考え方にも影響が出てきたのかもしれない。
だとしたら嬉しい。
『なあ、怜。うち、もう完全に
駄目になってしまったから白状するけど…
実は、怜ちゃんドリンクが切れた後は、
完全に頭おかしくなっとるんよ』
『あ、心配せんでも、それ私もやから大丈夫や』
『ホンマ!?』
『うん。りゅーかとのリンクが切れるとな、
正気保てんようになる。絶叫して頭かきむしっとる』
『うちもうちも!なんかもう怖くて仕方なくなって、
真夜中なのに怜の家の前まで行ってしまった時あるわ』
『入ってこればよかったやん』
『扉閉しまっとったやん。開け方わからんくて、
ドンドン叩きまくって、爪でかきむしりまくって…
そのうち正気に戻って、自分が怖くなって逃げ帰ったわ』
『あー、あれりゅーかやったん?
ごめんな。私あの時完全に発狂して暴れとったから』
『これはもうアレやな。ドリンクは常に携帯が必要やな』
『せやな。でも、そんなんしとったら怜、死んでまうよ?』
『りゅーか、追っかけてくれるんやろ?
やったら別に死んでもええよ?』
『そか』
フナQが知ったら、きっとこう言っただろう。
『アホかあんたら、そんなの携帯で事足りるやろ』とか、
『だったら同棲でもしとけや』とか。
でも、それは違うのだ。
もちろん身体も欲しいし、卒業したら同棲するつもりだ。
でも、心が直接繋がるあの安心感は、
この方法でしか得られない。
--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
ぶっちゃけてしまえば、この件に関しては、
私はあの二人の先輩をまったく信用してなかった。
かたや、親友が涙ながらに訴えても、
チームのために命を削った頑固な先輩。
かたや、その親友が死んだら当然後を追うと
公言して憚らない甘々の先輩。
健康状態とかの都合で見え方が違うだけで、
結局二人とも、一途で滅私奉公な点では共通している。
なら、このまま二人をほおっておけば、
その結果がどうなるかなんて
火を見るよりも明らかだろう。
私が24時間365日監視できない以上は、
あんな口約束は無きに等しいと考えるべきだ。
とはいえ、なら最初からおばちゃんに
チクってしまえばいいかというと、
そんな単純な話でもなかった。
おばちゃんに二人を引き離す権限がない以上
口約束する人数が増えるだけ。
仮に強制的に引き離したとしても、
あの二人の精神がそれに耐えられるとも思えない。
一見普通に見えるけど、
あの二人はすでに頭がおかしいから。
だとすれば私がすべきことは、
監視をすることじゃない。
あの二人が生きたまま目的を達成できるように、
あの二人を分析して、根金際しゃぶり尽して、
打開策を見つけることだ。
それがこの私、船久保浩子に課せられた使命。
--------------------------------------------------------
「お二人は、HIVって知っとりますか?」
「ん?エイズの元になるウィルスの事やろ?」
「そうです。じゃ、HIVの感染経路は知っとりますか?」
「エッチや!」
「怜、大声で言うのやめ!…後は血液やっけ?」
「も少し詳しく言えば、精液、愛液、母乳なんかもアウトですね」
「って、なんでエイズ講座しとんねん」
「エイズの話がしたいんちゃいます。
要はHIVと同じで、怜ちゃんウィルスの感染経路も
血液だけとは限らんちゅう話ですよ」
「私はウィルス扱いなん?」
「…そか!もし、汗とか唾液とか、
普通に出るもんでも感染できるんなら…」
「そういうことです。無理して、
血液なんて危険な手段を取らんでも
目的は達成できるわけです」
「私はウィルス扱いなん?」
「ずばっと聞いてしまいますけど、
お二人は、エロいことはしたことあるんですか?」
「あっ、あるわけないやろ!?
うら若き乙女やで!?」
「ボケ。乙女が自分の血を
飲み物に混入させて飲ませたりするかい」
「フナQが厳しい」
「え、えと…それって、キスも含まれるん?」
「ちょ、りゅーか!?」
「唾液、粘膜接触という点でありですな」
「んー…でも、あの時は別に
怜ちゃんパワーを感じたりはせえへんかったな」
「なら唾液は除外なんかな?」
「そう考えるのは早計です。
単純に量が足りんだけの可能性もありますし」
「血だって、1ccじゃ効かんかったんでしょ?」
「……っ」
「……っ」
「うちの観察眼甘く見んなや。
あんたらが早速言いつけ破っとるのは
看過しとるだけやで?」
「じゃあ、監督も…」
「教えとらん。監督に話して解決する問題でもないし」
「その代わり、もううちに隠し事するのやめてください。
もう無理に止めたりしませんし、
状況はしっかり把握しときたいんで」
「で、今は何cc使っとるんですか?」
「…17や」
「ちょ、怜!なんで増やしとるん!?
9ccでいけるはずやろ!?」
「量増やすとな、りゅーかのトロけ具合が増すんや」
「りゅーかがな?私におぼれてくれるのが嬉しいんや」
「と…とき…恥ずかしいやんっ……」
「あー…まあ、そういった倒錯的なアレも
影響するかもしれんので一応話は聞いときますけど」
「自分ら、狂っとる自覚はあるんで?」
「あるな」
「あるで」
「自覚しとるんか…性質悪いな。
ま、とりあえず手軽に試せる唾液からいきましょか?」
--------------------------------------------------------
人体から排出されるありとあらゆるものを試した。
汗、涙、唾液は言うに及ばず。
尿、果ては愛液や生理の時のアレも試した。
正直真人間の私にとっては、
身の毛もよだつ行為ではあった。
あの二人は特に気にしなかったけど。
結論から言ってしまえば、
血液の代替になる体液はなかった。
ただ、併用することで必要な血液の量を
減らすことは可能になった。
「できた!これが怜ちゃんドリンクミックスや!」
「見るからに気持ち悪い液体やな…配分は?」
「血が4cc、汗と唾液がいっぱいや!」
「はぁ…完全に気違いやな。
あ、飲むのは向こうでやってや。
うち、今吐きそうなんで」
「心配せんでも、りゅーかが狂うのは誰にも見せんで?」
「ほら、りゅーか。怜ちゃんドリンクミックスやで〜」
目の前の先輩の狂いっぷりには頭を抱えるものの。
当初17ccだったのが4ccになったのは、
劇的な改善と喜んでいいだろう。
後は同棲でも何でもして、
少しでもドリンクへの依存を軽減すれば…
なんとか健康に影響を与えすぎずに
続けていくことができるだろう。
(…もっとも、当初の目的はまるで
達成できとらんのやけどな)
そう、本当の目的は、清水谷先輩に
園城寺先輩の能力を移植することだったはず。
(…でも、もうええんちゃうかな?
どうせ、普段からドリンク飲みまくっとるし、
園城寺先輩が死んだら、
清水谷先輩も死ぬんやろ?
一緒に死ねばええやん)
(なら、移植できてもできんでも結果は同じや)
私は、それ以上の分析を中止した。
これ以上あの狂人二人に付き合っていたら、
私までおかしくなってしまう。
いや…『一緒に死ねばええやん』とか
平気で思っている辺り、もう影響を受けてるか。
(うちも、リハビリせんとあかんな…
精神病院にでも通おかな?)
--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
『リーチ』
『き、来ました、清水谷プロのリーチ!』
『膝枕ちゃんのチームが逆転するには
まだ3飜足りないけどー。
一発、ツモ、裏ドラがつくの前提なんかねぃ』
『ツモ!リーチ一発ツモ、三色同順、裏ドラ1!!』
『12000!』
『うげ。やっぱそうくるかー』
『試合終了です!清水谷プロ、華麗な逆転勝ちで
見事チームの窮地を救いました!!』
『…ところで三尋木プロ。最後の清水谷プロの
リーチについては、どうお考えですか?』
『あー、ありゃアレじゃね?
相方の能力パクってるねぃ』
『相方…と言うと?』
『ほら、千里山に居たじゃん。一巡先を見る者』
『園城寺選手ですか?』
『そ。もっとも、膝枕ちゃんは
一巡どころか二巡くらい見てそうだけどさ』
『いやいや…能力を渡すとか
できるわけないじゃないですか』
『能力自体オカルトだろ?何ができても不思議じゃなくね?
実際、悪待ちちゃんも後輩の能力パクッてるし』
『ま、どーやってんのかは知らんけど?』
……
卒業後、私はプロの世界に身を投じた。
怜が与えてくれた力は、
私をはるか高みに押し上げた。
なら、私はその力を使う義務がある。
怜を養う以上は、お金もいっぱいあった方がいいし。
「りゅーか、お疲れ様。
はい、疲れた時は怜ちゃんドリンクや!」
「ありがと、怜」
怜は私のマネージャーになった。
と言っても体に障るから事務仕事は何もしてないけれど。
こうして対局が終わると、
私に怜ちゃんドリンクを持ってきてくれる。
さすがに外で狂うわけにはいかんから、
トマトジュースの混ぜ物入りやけど。
「今日も華麗に圧勝やったな」
「まー未来視あるしな。
そこら辺の敵にはそうそう負けへんよ」
「なら、さっさとチャンピオンも倒してや」
「うっ…チャンピオンは…
未来わかっててもどうしようもないこと多いし、
なんか新技使ってくるんやもん…」
「あ、後は竹井さんもな」
「あの人はあの人でやらしいやん…
嶺上コンボされたら
最悪四巡くらい先まで見んとあかんし」
元々の雀力に未来予知が加わって、
私はトッププロとも肩を並べることができた。
もっとも、なぜかチャンピオンも
同じように新能力を引っ提げてきた上に、
清澄の竹井さんまで化けていて、
ぶっちぎりの新人トップとはいかないのが歯がゆいけれど。
「まあ、とりあえず家に帰って休も?
膝枕成分が切れてきたわ」
相変わらずふらふらした怜が、
私の手を引っ張った。
--------------------------------------------------------
フナQの尽力のおかげもあって、
私が抜く血液の量は大幅に減らすことができた。
同時に、私は麻雀をやめた。
麻雀は体力を使ってしまうし、
竜華とリンクしていれば、
二人で打っているようなものだから。
おかげで私は、高校を卒業した今も、
なんとか生きることができている。
少しずつ、体調も戻りつつあった。
もっとも引き換えに失ったものもある。
一番大きいのは『正気』だろうか。
お互いへの依存は末期レベルに悪化した。
貪欲な私達は、心だけじゃなく体の繋がりも求めた。
結果、ドリンクによるリンクを切らさないのはもちろん、
物理的にも片時も離れることをいやがった。
さすがに対局の時は仕方ないけど。
それ以外の時は、私達はたとえトイレでも離れない。
二人で個室に入っていく私達を見て、
フナQが呆れ顔を見せたのは記憶に新しい。
「ふう、ようやく平常運転や」
私は竜華の太ももに頭を乗せて、
ひといき安堵の溜息をついた。
「で、さっきの話の続きやけど。
なんなんやろなー、チャンピオンと竹井さん」
「うちらと同じで、ドリンク飲んどるんちゃう?」
「でも、その割には飲み物持ちこんどらんしなぁ」
「なんとなく雰囲気的に同類のにおい感じるから、
なんかやっとるとは思うんやけどな」
二人の事が妙に気にかかった。
もし、二人が私達と違う方法で
能力を分け合っていたらなら。
それが私達にも適用できるなら。
私達は、もっともっと一つに近づけるかもしれない。
「直接聞いてみよか?」
「教えてくれるかなぁ。
完全にトップシークレットやろ。
商売敵的にもプライベート的にも」
「でも、向こうもうちらと同じで壊れてたら、
こっちの情報欲しがるんちゃう?」
「あー…そうかもなぁ」
「というわけで聞いてみるわ……
あ、竹井さん?ちょっと話があるんやけど」
「……」
『……』
「…ホンマ!?そんなんできんの!?」
竹井さんと話していた竜華が、
驚きのあまり声をあげる。
「あ、ありがとなー。できるかどうかわからんけど、
また今度話聞かせたってや」
「……」
「りゅーか?」
「…上には、上がおるもんやなぁ」
「……竹井さん、なんて?」
「……言わんと駄目?」
「隠しても心覗き見るで?」
「…えーと」
竜華が珍しく言いよどむ。
その様子を見て、私は期待に胸をふくらませる。
つまりそれは、私の身体への負担と引き換えに、
さらに関係を進展させられる方法ということだから。
「な、なあ、怜…もし、お互いの魂をちぎって
分けられるとしたら、どうする?」
どうやら、私達の次の目標は決まったようだ。
(完)
インターハイを終えた私の身体は、
ひどく衰弱してしまっていた。
それは、発作で倒れて死にかけた、
あの頃の感覚に酷似していて。
このままでは、いつ死ぬかわからないと思った。
どうせ死んでしまうなら、
私はやりたいことがある。
それは、未来を視るこの力を…
竜華に移植すること。
<登場人物>
園城寺怜,清水谷竜華,船久保浩子,その他
<症状>
・ヤンデレ
・共依存
・異常行動
<その他>
以下のリクエストに対する作品です。
・竜華&怜(ヤンデレ共依存ドロドロ)
※頭おかしいです。ご注意を。
※グロ描写はしませんが、
血とかに弱い人はご注意ください。
※作中で怜が取る行為は
現実では絶対に実行しないでください。
--------------------------------------------------------
私にとって、最初で最後のインターハイ。
私達は、準決勝で敗れ去った。
私は命を賭して闘った。にも関わらず結果は大敗。
直後に倒れて、ストレッチャーで
病院に搬送されるというおまけつきで。
そして私が失った点差がそのまま、
私達の敗退に繋がった。
それだけじゃない。
酷使された私の身体は、
あの頃に戻ってしまっていた。
そう、病弱で倒れてばかりで、
いつ死んでしまうかわからないと
囁かれていたあの頃に。
竜華といたい一心で、意地で通学は続けているけれど。
このまま悪くなれば、入院せざるを得ないだろう。
そんなわけで、私の将来は真っ暗闇だった。
でも、得たものもあった。
枕神怜ちゃん。竜華と私を繋いだ絆。
それは単なる綺麗事の空想に終わらず、
明確な形となって表れて、竜華に私の力を与えた。
愛する人に能力を分け与えることができる。
下手したらノーベル賞ものの発見じゃないだろうか。
できる人は私しかいないかもしれないけど。
私はこの結果に歓喜した。
ただ、表れた形には三つの問題があった。
一つ目は、能力自体が竜華に適さないこと。
私が竜華に与えた力は、上がれる時の
最短ルートを教えるというもの。
でもそれは、竜華でなくても
誰でも同じ結果になるわけで。
せっかくの竜華の持ち味を殺すことになる。
二つ目は、注ぎ込める量に限界があること。
準決勝で竜華が怜ちゃんを使えたのは数回だった。
もし、後一回分使えていたら。
オーラスまで残っていたら。
結果は、また違っていたかもしれないのに。
やはり、回数制限があるのは好ましくない。
三つ目は…とりあえず置いておこう。
「なあフナQ。なんとかできん?」
「いやなんとかて言われても…
そんな簡単に能力の追加や改造ができるんなら、
うちが真っ先に自分に能力追加しとりますて」
「でも、これって先天的な能力ちゃうやん?
やったら力の渡し方次第で、
能力を変えることもできるんちゃう?」
「渡し方か…今は膝に力を貯めよるんですよね?」
「枕神怜ちゃんやで」
「…胸とかはどないですか?」
「微妙やな…貯められるかもしれんけど、
膝枕より強い能力になるとは思えん」
「そもそも、『貯める』っちゅうのがもう駄目や。
ガス欠になる問題が解決しないんやから」
「貯めるのが駄目となると、そもそも
能力の移植くらいしか手がないんとちゃいます?」
「移植…」
「言った私自身、何言うてるねん、ですけどね」
へへ、とフナQは軽く笑い飛ばした。
でも私は、その提案に活路を見出す。
そうか…移植。貯めるんじゃなくて、移植。
私の力を、そのまま竜華に渡すことができれば。
私とは違って健康体の竜華なら、
トリプルでもクアドラプルでも平気かもしれない。
問題は、言うまでもなく移植する方法。
どうやれば移植できるのか。
(移植か…)
私は、思いついた方法を一つ
試してみることにした。
--------------------------------------------------------
私達のインターハイは準決勝敗退で幕を閉じた。
もちろんそれ自体は悲しいことだと思うし、
今でも悔しくて夢に見ることがある。
でも、私にはそれ以上に考えるべきことがあった。
そう、それは怜の健康。
インターハイで無茶をした怜は、
明らかに以前より衰弱していた。
ひどく疲れやすくなり、
倒れることもしばしばだった。
今日だってそうだ。
怜は部室に向かう途中でうずくまり、
私に抱えられて保健室で休んでいる。
…せっかくベッドがあるのに、
膝枕を選ぶくらいには元気みたいだけど。
「病院、行かんでええの?」
「そこまでではないなあ。軽い貧血や。心配いらんよ」
「でも、麻雀打てんかったなぁ」
「しゃあないて。今はともかく休養が第一や」
「ま、私の代わりに竜華に打ってきてもらおか」
「うちも打てんよ?怜から離れんから」
そう言いながら、膝に寝転ぶ怜の頭をそっと撫でる。
怜はうれしそうに、でもどこか悲しそうに薄く笑った。
「せや、竜華。私、特性ドリンク作ってきたんや」
「特性ドリンク?栄養ドリンクみたいなもん?今飲むん?」
「あー、私のちゃうよ?竜華用や」
突然思い出したかのように頭を上げて、
そのままくらくらと倒れそうになる怜。
「い、いきなり動いたらあかんて!
どれ?うちが取ったるから」
「バッグに入っとる赤色のマグや」
言われるままに怜のカバンの中を漁ると、
確かに小さなステンレスマグが入っていた。
「これ?」
「せや。飲んでみたって?」
「気持ちは嬉しいけど…
うちの事より、自分の事を心配してや?」
「ええからええから。はよ飲んで?悪なってまう」
「はいはい」
ステンレスのマグをあおり、その液体を口に含む。
味自体はただのトマトジュース。
でもその瞬間、私は自分に力がみなぎるのを感じた。
「わっ!?何やのこれ!?」
「怜ちゃんドリンクや!」
「すごっ!?力がみなぎってくる!」
飲めば飲むほど、活力があふれてくる。
そして何より私は、この感覚に覚えがあった。
「これ…もしかして、『枕神怜ちゃん』か!?」
「せや!膝枕やと貯めとけるパワーに限度があるし、
そもそも竜華のスタイルと合致せえへんやろ?」
「だから、飲み物にパワーを籠めてみたんや。
これなら全身にいきわたるし、
効果も変わるかもしれん」
「なるほどなぁ。うちのためにありがとな?」
私はまた、膝の上の怜を撫でる。
今度の怜は、心から満足気に笑った。
私もその笑顔を見てうれしくなった。
--------------------------------------------------------
移植。
そう言われて私が一番に思いついたのは臓器だった。
とはいえ、さすがに臓器移植するわけにはいかないし、
なんかちょっと違う気がする。
次に思い浮かべたのは血液だった。
これは、私のイメージにぴたりと符合した。
私の血液に力を乗せて。
それを竜華に飲ませ続ければ。
私の能力を、竜華に移植できるのではないだろうか。
そして私は、特性ドリンクを作り出した。
成分は主にトマトジュース、
後は力と血が少し。
できるだけ警戒されないように、
コップに注がなくても飲めるマグも用意した。
「これええなぁ…全身に怜を感じるわ」
人を疑う事を知らない竜華は、
うまいうまいと飲み干した。
--------------------------------------------------------
『怜ちゃんドリンク』は
すさまじい効果を持っていた。
「ほれ、せっかくパワーを得たんやから
一局打ってきてや」
「や、でも怜が心配やし」
「私なら大丈夫や。ちゅうか、そのドリンクが
枕神と似たような効果を持つなら、
多分普通に私と話せるはずやで?
今回は枕神おらんし」
そう怜に促され、半ば追い出されるように
私は保健室を後にした。
気が進まないまま部室に歩みを進めると、
途中の廊下で泉と出くわす。
「あ、清水谷先輩。園城寺先輩は
もう大丈夫なんですか?
今様子を見に行こうとしてたんですけど」
「あー、一応は。心配やし、
看病しようと思ってたけど追い出されたわ」
『本人が大丈夫言うてるんやから大丈夫やって』
「って怜!?来たらあかんやん!」
突然聞こえた怜の声。
私は驚いて後ろを振り向く。
でも、そこには誰もいなかった。
「あ…あれ?」
「…どうしたんですか?」
状況を飲み込めない泉が
きょとんとした顔を浮かべている。
おかしい、確かに怜の声が聞こえたはずなのに。
気のせいだったんだろうか。
『気のせいちゃうよ?』
「わわっ!?」
またも聞こえた怜の声。
でも、私は今度は異変に気づいた。
その声は…私の脳に直接響くような声だった。
「あー…これ、もしかして怜ちゃんドリンク効果か?」
『せや。とりあえずテレパシーは成功みたいやな』
言われてみれば、インターハイのあの怜も。
私は普通に怜と脳内で会話していたし、
周りにそれを聞かれることもなかった。
これもきっと、そういうことなのだろう。
『さ、とりあえず半荘打ちに行こうや』
「せやな」
「え…ええと、清水谷先輩?
誰と会話してるんですか?」
事情を知らない泉が、若干引き気味で私に問いかけた。
私は思わず噴き出した。
……
怜ちゃんドリンクは、枕神怜ちゃんとは
だいぶ勝手が違っていた。
まず違うのは、本人と直接会話できること。
そして、もう一つは…能力の違い。
『おー、さすが優良健康児。
普通にダブルができるんやな』
未来が見える。それは怜の能力そのもので。
かつ、私自体の『ゾーン』もそのまま使えた。
二巡先まで見える。それだけでも圧倒的有利なのに、
未来を覆してしばらく未来が見えなくなっても、
ゾーンがあればその間の危機察知はできる。
その日、私はあのセーラを2回飛ばした。
「み、未来が見えるようになった!?」
「怜ちゃんドリンクでな!」
「枕神の次はドリンクか…
あんたら本当に人間かいな?」
「そのドリンクまだあるん?
誰が飲んでも使えるなら、もう千里山は無敵やで?」
「あーごめん、全部飲んでしまったわ」
セーラに言われて初めて気づく。
枕神怜ちゃんならともかく、
確かにドリンクなら誰でも飲める。
他の人にも怜ちゃんパワーを分けることは
できるのではないだろうか?
『あー、それは無理や。これ、哩姫と同じ類の力やし。
いつも膝枕してくれる竜華だけの特権やで?』
「というわけで、無理らしいわ」
「いや、というわけってなんや」
「あ、そか。今怜と話せるんはうちだけやった」
「テレパシーも使えるん!?」
「あー、さっきは園城寺先輩と話してたんですね?」
「あんたら本当に人間ちゃうやろ」
さすが千里山女子。
テレパシーが使えるとわかっても、
大して驚かれなかった。
いくら何でも適応力高すぎだと思うけど。
でも、おかげでこの件で
不気味がられる心配はなさそうだった。
ただ一つ、気になったのは。
「な、なあ浩子?なんでそんな目でうちを見るん?」
「…なんでもないですわ」
浩子が、すごい目でこちらを睨んでいた。
データ収集が趣味の浩子。
浩子なら、こんな奇妙奇天烈なことが起きたら
真っ先にデータを取り始めるはずなのに。
その浩子が、青白い顔をして、
私をただ見つめていた。
「園城寺先輩に言っといてください。
後で、二人で話がしたいと」
「ん?わかった」
その日、浩子はそれ以上しゃべらなかった。
--------------------------------------------------------
「…で、話ってなんや?」
「もちろん、怜ちゃんドリンクのことや」
保健室に来たフナQは、
鋭い目で私をにらみつけた。
「…あれの『材料』を教えてください」
「ん?ああ、さすが研究者やな。
大量生産しようっちゅうんか?」
「ええから早く」
「せっかちは嫌われるで?
ちゅうても、成分はトマトジュースと私のパワー。
それだけy」
「嘘つきなや」
フナQが鋭く私の言葉を制した。
「…血、混ぜたんやろ」
「……フナQも、別の方向で化けモンやな…
なんであれだけでわかってしまうん?」
「移植の話をした次の日、本人が貧血で倒れる。
謎のジュースの登場。能力が移っとる。
主成分がトマトジュース。満貫ですやん」
「名探偵フナQ爆誕やな」
「うち、本気で怒っとるんやけど?」
「なんで、こんな無茶するんや!?
ただでさえ、衰弱しとるこんな時に!!」
フナQはまたも私の軽口を一刀両断した。
そして、まるで掴みかからんとばかりの勢いで
私に詰め寄った。
「…弱っとるからこそや」
「まさか、死ぬ前に能力だけでも移しとことか、
そういうアレちゃいますよね?」
「ビンゴや」
「……!?」
枕神怜ちゃんの問題は三つある。
一つ目は、竜華の能力と噛みあわないこと。
二つ目は、利用制限があること。
そして、一番の問題は…
私がいないと使えないことだ。
いつ死ぬかもわからない、この私が。
「私な?昔は本当にいつ死ぬかわからんかったんや」
「昔っちゅうのも変やな。
去年も死にかけたわけやし」
「最近は、あの頃の感覚に近いもんを感じる」
「だから」
「私は、いつ死んでもおかしないんよ」
「や…やったら、余計に安静にせなあかんやん!?」
フナQの言うことももっともだ。
でも、安静にしていても、
それでも、ある日突然死んでしまうかもしれない。
そしたら私は、死んでも死にきれない。
「血をな?竜華に移植する」
「繰り返せば、竜華の中に私が息づくかもしれん」
「そしたらな?私が死んでも、
私は竜華の中で生き続けられるんよ」
「園城寺先輩、いつの間にそんな狂ったんや」
「私ん中に役に立つ力がある。
それが竜華に移植できる可能性がある。
なら、死ぬ前に移植しとこう。ごく自然な流れやろ?」
大きくため息をつきながらフナQが肩をすくめた。
「そんなことしてあんたが早死にしたら、
清水谷先輩は喜ぶんか?」
「そもそも、あんたが死んだら
どうなるか考えたことあるんか?」
「うちの見立てでは、あんたが死んだら、
清水谷先輩は間違いなく後を追うで?」
「やったらなおのこと移植が必要やん。
竜華の中に私がおれば、
竜華は後を追わずに生きられるかもしれん」
「死なんことを考えろゆうてんのや!!」
「だったら今すぐ私の病気治してや?
私は別に治りたないわけやないで?」
「……っ!?」
フナQは押し黙った。そりゃそうだ。
生まれた時から、ずっと医者の世話になってきた。
ずっと治療を受け続けた。
それでも病気は治らない。
私がいつ死ぬかわからないという事実は、
結局変えようがないのだ。
「なあ、フナQ。頼みがある」
「…お断りや」
「この通りや。聞いたって」
「…やめてください。体に障ります」
「私はいつ死ぬかわからん。
これは本当で、かつどうしようもないんや」
「ずっと病気と闘ってきたからわかる。
安静にして治るとかそういうもんやない」
「突然改善されるかもしれんし、
逆にある日突然発作を起こして、
いきなりポックリ逝くかもしれん」
「だから…手伝ってくれん?」
フナQは唇を噛み締める。
やがて、唇から血が滲み出す。
長い沈黙の後、フナQは絞り出すようにこう答えた。
「清水谷先輩に全部話して、
合意が取れたら考えますわ」
「それ、遠回しに駄目って言うてない?」
「死に急ぐんやったら、
相方の許可くらい取れ言うとるんや」
こうなっては仕方ない。
私は諦めてかぶりを振った。
「了解や。まずは竜華の許可をもらうわ」
先に竜華を説得するしかないだろう。
ここでフナQを抱きこめなければ、
どの道フナQは竜華にチクるだろうから。
私は竜華を携帯で呼び出した。
--------------------------------------------------------
「というわけで…竜華には、
私の血を飲んでほしいんや」
怜から聞かされた内容は、
予想以上にショッキングな内容だった。
トマトジュースに血が混じっていた。
そして私はそれを飲まされた。
そして怜は、それを続けてほしいと言う。
私は頭を抱えながら考え込んだ。
悩みに悩んで、私が出した結論は。
「わかった。飲むわ」
「ちょ、頭湧いてんちゃいますかダニ先輩!」
「ひどない!?」
辛辣すぎる浩子の糾弾がグサリと突き刺さる。
でも、私にも私なりの考えがあった。
「うちだって、これが最善とは思ってへんよ。
本当は、怜に無茶はしてほしない」
「だったらなんで」
「でもな、うちわかったんや」
「…何を?」
「怜は、どんなに駄目や言うても、
絶対隠れてやるっちゅうことが」
「…あー…」
そもそも衰弱の原因になったダブルにしても、
私は思いっきり禁止していたのだ。
でも、怜はやめなかった。
やめないどころか、密かに練習を続けて、
挙句最後にはトリプルまでやってしまった。
文字通り、自らの命を削ってまで。
結局のところ、怜が心を決めてしまったら、
もう覆すことはできないのだ。
私はそれを、あのインターハイで
嫌というほど思い知った。
「さすが竜華。よくわかっとるやん」
「開き直らんといてな?」
「はっきり言うで?
怜、あんたは頭おかしい。狂っとる」
「だから、言ってもきかんやろ。
うちがどんだけ泣いて止めても、
血を抜いてくるはずや」
「そしたらうちは、飲むしかない。
怜が命を削って作ったドリンクを、
無駄にするわけにはいかへんし」
「やったら、せめてうちらが管理して、
怜に無理させへんようにした方がまだましやろ」
「それは…そうかもしれんけど…」
煮え切らない態度の浩子。
まあ、普通はそうだと思う。
引き下がりきれない浩子は、
視点を変えて私を説得にかかった。
「そもそも、血を飲むことに抵抗はないんですか?」
「竜華、うまいうまい言うてたけど?」
「何も知らんのと、正体知っとるのとでは違うやん?」
「なあ、清水谷先輩?」
浩子の視線に、私はビクリを身を震わせた。
考えを、見透かされたような気がしたから。
「……」
「正直に言うわ。あのドリンク、
めっちゃ美味しかった」
「きっと…怜の血が入っとったからやと思う」
「多分、次飲んだら…もっと美味しいと思うわ」
浩子はうんざりとした顔を隠そうともせず
ぶっきらぼうに吐き捨てた。
「なんや、清水谷先輩…
結局、あんたも狂っとるんやないですか」
浩子の言う通りだ。多分、私も狂っている。
怜の事が心配というのは本当。
怜なら、止めても隠れてやるだろうから、
仕方なく許可するというのも本当。
でも…心の中では、期待している自分がいる。
怜が、私の中で生き続ける。
そしたらいつも、一緒に居られる。
そんな夢のような提案に、心を躍らせる自分もいる。
それでも怜が逝ってしまったら、
私は追いかけるだろうけど。
だから。
「浩子…頼んだで。うちらがおかしなったら、
あんたが止めたってや?」
浩子は大きくため息をついて。
呆れたようにまた吐き捨てた。
「だから今、必死で止めてますやん」
--------------------------------------------------------
意外にも、竜華はあっさりと認めてくれた。
これにより、怜ちゃんドリンクはフナQ主導の元
厳正に管理されながら作成されることになった。
「一般的に、50kg以上ある人なら、
1回の献血で400ccまで献血できるようになっとります」
「体重が満たない場合は200ccになります」
「ccとmLはだいたい同じなんで、
200mLは献血できる言うわけです」
「ほへー。そんだけ取ってええなら、
別に普通に1Lの特性ドリンクとか
作っても平気なんちゃう?」
「アホ言いなや」
「フナQ、何か私に厳しなってない?」
「命削って血ぃ抜くような先輩には、
こんくらい厳しくせんとあかんのですよ」
「言うまでもあらへんかと思っとりましたけど。
さっきの数値はあくまで健常者の話です」
「時々輸血されとるような園城寺先輩では話が全然ちゃいます」
「ならなんで献血の話したん?」
「献血の話を知って『なんや一杯とれるやん』とか言って
無茶されんように釘刺すためですわ」
「読まれとるなぁ、怜」
「あんたもやダニ先輩」
「ひどない!?」
「うちが出した結論は、1cc。
これを必ず守ってください」
「少なっ!?」
「多い鼻血でそのくらいです。
さすがに鼻血くらいの量なら何とかなるでしょう」
「料理とかする清水谷先輩なら、5ccってわかりますよね?
要は小さじ1杯ですわ。
その5分の1を想像してもらえば、
それが少なないちゅうことがわかると思いますよ?」
「ともかく、1回1cc。
これは絶対守ること。返事は?」
「はーい」
「……はーい」
「…はぁ。次は、血の抜き方です。
園城寺先輩は前回どうやったんで?」
「普通に切ったで?ほらコレ」
「アホかあんたは」
「念入りに焼いて消毒した針で、指に針を刺してください。
それでも感染症の可能性は残りますが、
もうこればっかりは諦めるしかありません」
「わかったら返事」
「はーい」
「はーい」
「…最後に言うときますけど、
うちはあんたらの結論を認めたわけやありません」
「もし、ルールを守らんかった時は、
即座に監督にチクるんで、そこんとこ頼んます」
そう言ってフナQは説明を締めくくった。
有無を言わせないその態度に、
私はつい言いそびれてしまった。
(前の怜ちゃんドリンク…
15ccくらい使ったんやけどな…)
--------------------------------------------------------
「怜ー。これ、なんか薄ない?」
「おー、さすが違いのわかる竜華さんや。
実際前回の15分の1やしなぁ」
「そか…ま、味は問題やない。
問題は能力が移るかや」
「アカンな…実はさっきからずっと
テレパシー送っとるつもりなんやけど」
「ホンマ!?全然届いてへんよ!?」
「やっぱり量が少なすぎるんやな…
せめて5ccは必要な気がするわ」
「浩子に相談しよか」
「ちょい待ち竜華。
フナQに伝えるのはまだ早いで?」
「とりあえず続けてみる言うこと?」
「ちゃう。問題は、
5ccで足りるかどうかっちゅうことや」
「必死こいて頼み込んで5ccにしてもらって、
それでも足りませんでした、は避けたいやろ」
「フナQとの交渉の前に、
能力を移せる最低限の量を探るべきや」
「…なあ、怜。浩子はな?
壊れとるうちらの
ストッパーをやってくれとるんやで?」
「ストッパー無視したら意味ないやん」
「でも…私は怖いんや。
明日には死んでしまうかもしれんのに」
「怜…」
「だから、私は止められてもやるで?
明日は10ccや」
「…怜、それで駄目やったら、諦めるん?」
「そん時は最低ラインが15ccになるだけや」
「…そか」
「怜。覚えといてな?」
「何をや?」
「もし、それで怜が死んでしまったら…
うち、追いかけるからな?」
「怜は、うちの命も握っとること、
忘れんといてな?」
--------------------------------------------------------
怜は、さっそく浩子とのルールを破ろうとした。
まあ、私の涙ながらの約束をあっさり破っていたあたり、
口約束で怜を止めることができないのはわかっていた。
「怜、次血を抜く時はうちと一緒の時や。
そうじゃなきゃ、うちはもうドリンク飲まんで?」
「…ま、しゃあないな」
だから私は、現場を抑えることにした。
もし怜が無茶をしそうなら、私が身体を張ってでも止める。
でもこれが、私達をさらに狂わせることになる。
目の前で怜が針を火であぶっている。
焼けた針を自らの指に突き刺している。
ぷつりと血の玉が指に浮かぶ。
怜はそれを計量スプーンに移す。
血はなかなか溜まらない。
少しずつ、ぽたぽたと血が溜まっていく様は、
私に底知れない恐怖をもたらした。
同時に、ぞくぞくと表面を駆け巡る興奮も。
「…地道な作業やな」
「縫い針やしな。1cc貯めるのでも
途中で止まってまうから、
こうやってぐっ、ぐっ、と」
「あ、アカンて。うちそういう話駄目なんよ」
「なら、向こうで休んでてええで?
まだまだ時間がかかるし」
「…それこそアカンて。
怜が無茶するかもしれんやん」
「信用ないなあ」
「前科持ちやからなぁ」
膨大な時間をかけて、ようやく計量スプーンに
5ccの血液が貯められた。
「怜、ストップや」
「まだ半分やで?」
「5ccで済むならそれにこしたことないやろ」
「竜華、わかってへんな」
「前回それで、1cc無駄にしてるんやで?」
「…ともかく、5cc試そうや。
それで駄目なら、追加すればええやろ?」
「んー…じゃあこれ、飲んで?
パワーはもう籠めといたから」
怜はさも当然とばかりに、
血がたたえられた計量スプーンを差し出した。
「えぇ!?このまま飲むん!?」
「混じりっ気なし100%怜ちゃんドリンクやで?」
「いや、それ単なる血やん!?」
「元々トマトジュースに入れたんは
単なるカモフラージュやしな。
竜華がわかって飲んでくれんなら不要やろ?」
怜は意地悪い笑みを浮かべた。
私の背中を、冷や汗がつたう。
怖かった。当然のように血を飲むことを提案する怜が。
でも、それより怖いのは。
『もしかしたら、美味しいかも』
なんて考えている自分がいること。
もしこれを『美味しい』と思えてしまったら。
私はその事実に、正気を保っていられるだろうか。
「な、りゅーか…飲んでや?」
「あ、うん…」
怜は私にしなだれかかり、潤んだ目で私を見つめる。
私はその異様な雰囲気に流されて、
つい反射的に頷いてしまった。
私の手にある、スプーンの中の赤黒い液体。
見る度に、思わず鳥肌が立つけれど。
私はもう覚悟を決めて、えいとばかりに
スプーンをくわえこむ。
口の中に流れる、どろどろとした液体。
私はそれを、そのまま勢いよく飲み込んだ。
「ふあぁっ…!?」
瞬間、私の身体がガクガクと痙攣する。
あふれんばかりの多幸感に私は我を失う。
自分がとろけて流れ出てしまいそうな感覚に、
私は無意識に自らの身体を両腕でかき抱いた。
「あっ…あっ…あっ…!」
それでも、幸せが止まらない。
怜が、喉を通って、身体の中心に流れていく。
怜が、身体に沁み渡っていく。
怜が、全身に広がって、じんわりと浸透していく。
「あ、かん…これ、あかん…!!」
こんなの…幸せすぎておかしくなってしまう!
「なあ、りゅーか…どや?」
「私の血…うまかった?」
「あっ…はっ…」
目の焦点が合わない私。
ぼんやりと歪んだ怜が語りかける。
私は答えられなかった。
まだ、戻ってこれなかった。
「はは…りゅーか、トロけすぎや…
これじゃ、テレパシー成功しとるのかわからへん」
言葉とは裏腹にうれしそうな怜の声とともに、
私は温かい何かに包まれる。
どうやら抱きしめられたらしい。
私はもう、幸せに抗う事はやめて、
ぬくもりに浸ることにした。
--------------------------------------------------------
血を飲んだ竜華の反応は凄かった。
スプーンを口にくわえたその刹那、
目から一気に意思の光が消えて。
口がだらしなく半開きになって。
全面にとろけきった表情を浮かべた。
そして次の瞬間、びくんっ、びくんっと
激しく身体を震わせた。
その非現実的な反応に驚きながらも、
でも私は、どこかでこれと
似たような反応を見たことを思い出した。
そうだ、前に見たいかがわしいDVDで、
こんな風になった女を見た気がする。
でも、それはつまり。
(え、何これ。竜華、イッてんのと違う?)
くったりと力が抜けて、それでもなお
竜華の震えは止まらない。
竜華は腕をかき抱き、荒い息を吐きながら、
うわ言のようにつぶやいた。
「あ、かん…これ、あかん…!」
言葉とは真逆に、その表情はうっとりと恍惚している。
私は自分の血が竜華にもたらした反応に
驚き、とまどい、そして…喜んだ。
結局、竜華が戻ってこられるまでには、
数分を必要とした。
ようやく息が整ってきた竜華に、
私は説明を要求する。
「で、うまかったん?」
「…うまいとかそういう次元やないで。
正直、味を感じたかも覚えとらんもん」
「なんか、『幸せ』ってのがあふれてきて、
頭ん中ぐちゃぐちゃになってわからんかった」
「ふふ…そか。りゅーかは変態さんやなぁ」
「へ、変態とかそういうのちゃうて!
多分あれ、怜ちゃんパワーの副産物やから!」
慌てて否定する竜華。その反論もどうかと思う。
だって、竜華の言葉をまとめるとこうなるのだから。
『私はあなたの血を飲んでパワーを感じて幸せです』
変態を通り越して完全に気違いの領域だ。
「ま、喜んでもらえて冥利に尽きるで。
でも、実験としては失敗やな」
「へ?」
「や、だってりゅーか。テレパシー受け取ってへんやん」
「…あー…」
一転して竜華の表情が罪悪感に囚われる。
別に竜華は悪くないんだけれど。
「なんでやろ…飲んだ時の衝撃は前回の比やなかったのに」
「単純に絶対量が足りんのやろ。
最高級ステーキを一口だけ食ったようなもんちゃう?
味はうまいけどそれじゃ腹はふくれん、みたいな。
…やっぱり次は10ccやな」
「あ、アカンて!5ccでもあんなんなったのに、
その倍とか、うちおかしなってまう!!」
「なればええやん」
「と…とき?」
「おかしなればええやん。私は嬉しいで?」
それは、偽りのない私の本音だった。
竜華が、私の血を飲んでおかしくなってくれる。
気が違うほどに悦んで、達してくれる。
こんなに嬉しいことはない。
「おかしなっても、私が見とったるから…
遠慮なく、おかしなって?」
竜華の目が、とまどいに大きく揺れる。
でもその目に、期待の色が隠れていることを
私は見逃さなかった。
--------------------------------------------------------
結局、怜ちゃんパワーの発現に必要な血液量は
9ccだった。
当初の15ccよりはまだましで、
私は人知れず安堵した。
とはいえ、9cc飲まされた時の私の反応は、
あまりにも恥ずかしくて思い出したくない。
『まさかお漏らしするとは思わんかったわ』
くすくすと笑いながら私をからかう怜。
笑い声まで聞こえるとは、
ずいぶん無駄に精巧なテレパシーである。
私が真っ赤になって恥じらう様子も、
怜には伝わっているようだった。
こうして二度目の成功は、私達に大きな期待をもたらした。
なぜなら、一度目よりも確実に、
繋がっているという実感が得られたから。
それは単なる主観ではなく、
持続時間の長さという
定量的な結果としても表れていた。
もっとも、いいことばかりでもない。
9ccという量は、怜にとって
負担になることも判明したからだ。
怜の顔色は明らかに青ざめ、
立つのすら億劫そうだった。
『なぁ怜…これ、やっぱり多用したらあかんで』
『や、逆やろ。多用して定着させんと
ただの一時的なドーピングで終わってまうやん』
『それは…そうかもしれんけど…』
怜との会話は平行線だった。
身体に負担になると明確に分かった以上、
頻繁に作るべきではないと主張する私。
定着を求める以上、
継続して飲むべきだと主張する怜。
怜の言い分もわかるけど…
でも私にはもう一つ、続けたくない理由があった。
それは怜にも言えない、あまりにも情けない理由。
このまま続けても、私の中に
怜が定着するかはわからない。
でも、このまま続けたら。
私は間違いなく、怜の血液におぼれるだろう。
あれを飲むと、私はおかしくなってしまう。
幸せに支配されて、何も考えられなくなってしまう。
それだけじゃない。効果が切れた後、
どうしようもなく寂しくなる。
怜の声が聞きたい。
怜の温もりを感じたい。
ずっと怜と一緒に居たい。
そんな気持ちに支配されて、狂いそうになる。
私にとって、怜の血液は完全に麻薬だった。
私を怜に依存させる、最高の麻薬。
--------------------------------------------------------
私の身体を気遣う竜華は、
ドリンク作成の継続に難色を示した。
明確に負担になるとわかった以上、
続けるべきではないという考え方だ。
でも、私はやめるつもりはなかった。
負担になるのは前からわかっていたことだし、
それでやめるくらいなら最初から始めていない。
何より私は、その効果の虜になっていた。
私の血を飲んで、だらしなく身体をひくつかせる竜華。
私はそれを見て、ひどく興奮するようになっていた。
それが終わって、竜華と繋がると、
私は泣きそうなほどの安心感に包まれるようになった。
だって、いつでも竜華と話せる。
いつでも竜華を感じられる。
いつでも竜華と側に居られる。
そして、それが途切れた時。
私は、耐えがたい絶望感を感じてしまう。
それこそ本当に、発狂してしまうほどに。
私は、ずっと竜華と繋がっていたいと思った。
繋がりを絶対に切らしたくないと思った。
たとえ、定着しなくてもいい。
ずっと、ずっと竜華に血を飲ませ続けたい。
そのためなら、私は死んでしまってもいい。
どうせ私が死んだところで、
竜華はついてきてくれるのだから。
--------------------------------------------------------
怜は、怜ちゃんドリンクを作り続けた。
私は、飲まざるを得なかった。
私は、どんどんおぼれていった。
怜は、そんな私を嬉々として受け入れた。
私はどんどん怜に依存する。
狂っていく。でも止められない。
--------------------------------------------------------
竜華が私に依存すればするほど、
私達の考え方は一致するようになってきた。
私の血が浸透するにしたがって、
竜華の考え方にも影響が出てきたのかもしれない。
だとしたら嬉しい。
『なあ、怜。うち、もう完全に
駄目になってしまったから白状するけど…
実は、怜ちゃんドリンクが切れた後は、
完全に頭おかしくなっとるんよ』
『あ、心配せんでも、それ私もやから大丈夫や』
『ホンマ!?』
『うん。りゅーかとのリンクが切れるとな、
正気保てんようになる。絶叫して頭かきむしっとる』
『うちもうちも!なんかもう怖くて仕方なくなって、
真夜中なのに怜の家の前まで行ってしまった時あるわ』
『入ってこればよかったやん』
『扉閉しまっとったやん。開け方わからんくて、
ドンドン叩きまくって、爪でかきむしりまくって…
そのうち正気に戻って、自分が怖くなって逃げ帰ったわ』
『あー、あれりゅーかやったん?
ごめんな。私あの時完全に発狂して暴れとったから』
『これはもうアレやな。ドリンクは常に携帯が必要やな』
『せやな。でも、そんなんしとったら怜、死んでまうよ?』
『りゅーか、追っかけてくれるんやろ?
やったら別に死んでもええよ?』
『そか』
フナQが知ったら、きっとこう言っただろう。
『アホかあんたら、そんなの携帯で事足りるやろ』とか、
『だったら同棲でもしとけや』とか。
でも、それは違うのだ。
もちろん身体も欲しいし、卒業したら同棲するつもりだ。
でも、心が直接繋がるあの安心感は、
この方法でしか得られない。
--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
ぶっちゃけてしまえば、この件に関しては、
私はあの二人の先輩をまったく信用してなかった。
かたや、親友が涙ながらに訴えても、
チームのために命を削った頑固な先輩。
かたや、その親友が死んだら当然後を追うと
公言して憚らない甘々の先輩。
健康状態とかの都合で見え方が違うだけで、
結局二人とも、一途で滅私奉公な点では共通している。
なら、このまま二人をほおっておけば、
その結果がどうなるかなんて
火を見るよりも明らかだろう。
私が24時間365日監視できない以上は、
あんな口約束は無きに等しいと考えるべきだ。
とはいえ、なら最初からおばちゃんに
チクってしまえばいいかというと、
そんな単純な話でもなかった。
おばちゃんに二人を引き離す権限がない以上
口約束する人数が増えるだけ。
仮に強制的に引き離したとしても、
あの二人の精神がそれに耐えられるとも思えない。
一見普通に見えるけど、
あの二人はすでに頭がおかしいから。
だとすれば私がすべきことは、
監視をすることじゃない。
あの二人が生きたまま目的を達成できるように、
あの二人を分析して、根金際しゃぶり尽して、
打開策を見つけることだ。
それがこの私、船久保浩子に課せられた使命。
--------------------------------------------------------
「お二人は、HIVって知っとりますか?」
「ん?エイズの元になるウィルスの事やろ?」
「そうです。じゃ、HIVの感染経路は知っとりますか?」
「エッチや!」
「怜、大声で言うのやめ!…後は血液やっけ?」
「も少し詳しく言えば、精液、愛液、母乳なんかもアウトですね」
「って、なんでエイズ講座しとんねん」
「エイズの話がしたいんちゃいます。
要はHIVと同じで、怜ちゃんウィルスの感染経路も
血液だけとは限らんちゅう話ですよ」
「私はウィルス扱いなん?」
「…そか!もし、汗とか唾液とか、
普通に出るもんでも感染できるんなら…」
「そういうことです。無理して、
血液なんて危険な手段を取らんでも
目的は達成できるわけです」
「私はウィルス扱いなん?」
「ずばっと聞いてしまいますけど、
お二人は、エロいことはしたことあるんですか?」
「あっ、あるわけないやろ!?
うら若き乙女やで!?」
「ボケ。乙女が自分の血を
飲み物に混入させて飲ませたりするかい」
「フナQが厳しい」
「え、えと…それって、キスも含まれるん?」
「ちょ、りゅーか!?」
「唾液、粘膜接触という点でありですな」
「んー…でも、あの時は別に
怜ちゃんパワーを感じたりはせえへんかったな」
「なら唾液は除外なんかな?」
「そう考えるのは早計です。
単純に量が足りんだけの可能性もありますし」
「血だって、1ccじゃ効かんかったんでしょ?」
「……っ」
「……っ」
「うちの観察眼甘く見んなや。
あんたらが早速言いつけ破っとるのは
看過しとるだけやで?」
「じゃあ、監督も…」
「教えとらん。監督に話して解決する問題でもないし」
「その代わり、もううちに隠し事するのやめてください。
もう無理に止めたりしませんし、
状況はしっかり把握しときたいんで」
「で、今は何cc使っとるんですか?」
「…17や」
「ちょ、怜!なんで増やしとるん!?
9ccでいけるはずやろ!?」
「量増やすとな、りゅーかのトロけ具合が増すんや」
「りゅーかがな?私におぼれてくれるのが嬉しいんや」
「と…とき…恥ずかしいやんっ……」
「あー…まあ、そういった倒錯的なアレも
影響するかもしれんので一応話は聞いときますけど」
「自分ら、狂っとる自覚はあるんで?」
「あるな」
「あるで」
「自覚しとるんか…性質悪いな。
ま、とりあえず手軽に試せる唾液からいきましょか?」
--------------------------------------------------------
人体から排出されるありとあらゆるものを試した。
汗、涙、唾液は言うに及ばず。
尿、果ては愛液や生理の時のアレも試した。
正直真人間の私にとっては、
身の毛もよだつ行為ではあった。
あの二人は特に気にしなかったけど。
結論から言ってしまえば、
血液の代替になる体液はなかった。
ただ、併用することで必要な血液の量を
減らすことは可能になった。
「できた!これが怜ちゃんドリンクミックスや!」
「見るからに気持ち悪い液体やな…配分は?」
「血が4cc、汗と唾液がいっぱいや!」
「はぁ…完全に気違いやな。
あ、飲むのは向こうでやってや。
うち、今吐きそうなんで」
「心配せんでも、りゅーかが狂うのは誰にも見せんで?」
「ほら、りゅーか。怜ちゃんドリンクミックスやで〜」
目の前の先輩の狂いっぷりには頭を抱えるものの。
当初17ccだったのが4ccになったのは、
劇的な改善と喜んでいいだろう。
後は同棲でも何でもして、
少しでもドリンクへの依存を軽減すれば…
なんとか健康に影響を与えすぎずに
続けていくことができるだろう。
(…もっとも、当初の目的はまるで
達成できとらんのやけどな)
そう、本当の目的は、清水谷先輩に
園城寺先輩の能力を移植することだったはず。
(…でも、もうええんちゃうかな?
どうせ、普段からドリンク飲みまくっとるし、
園城寺先輩が死んだら、
清水谷先輩も死ぬんやろ?
一緒に死ねばええやん)
(なら、移植できてもできんでも結果は同じや)
私は、それ以上の分析を中止した。
これ以上あの狂人二人に付き合っていたら、
私までおかしくなってしまう。
いや…『一緒に死ねばええやん』とか
平気で思っている辺り、もう影響を受けてるか。
(うちも、リハビリせんとあかんな…
精神病院にでも通おかな?)
--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
『リーチ』
『き、来ました、清水谷プロのリーチ!』
『膝枕ちゃんのチームが逆転するには
まだ3飜足りないけどー。
一発、ツモ、裏ドラがつくの前提なんかねぃ』
『ツモ!リーチ一発ツモ、三色同順、裏ドラ1!!』
『12000!』
『うげ。やっぱそうくるかー』
『試合終了です!清水谷プロ、華麗な逆転勝ちで
見事チームの窮地を救いました!!』
『…ところで三尋木プロ。最後の清水谷プロの
リーチについては、どうお考えですか?』
『あー、ありゃアレじゃね?
相方の能力パクってるねぃ』
『相方…と言うと?』
『ほら、千里山に居たじゃん。一巡先を見る者』
『園城寺選手ですか?』
『そ。もっとも、膝枕ちゃんは
一巡どころか二巡くらい見てそうだけどさ』
『いやいや…能力を渡すとか
できるわけないじゃないですか』
『能力自体オカルトだろ?何ができても不思議じゃなくね?
実際、悪待ちちゃんも後輩の能力パクッてるし』
『ま、どーやってんのかは知らんけど?』
……
卒業後、私はプロの世界に身を投じた。
怜が与えてくれた力は、
私をはるか高みに押し上げた。
なら、私はその力を使う義務がある。
怜を養う以上は、お金もいっぱいあった方がいいし。
「りゅーか、お疲れ様。
はい、疲れた時は怜ちゃんドリンクや!」
「ありがと、怜」
怜は私のマネージャーになった。
と言っても体に障るから事務仕事は何もしてないけれど。
こうして対局が終わると、
私に怜ちゃんドリンクを持ってきてくれる。
さすがに外で狂うわけにはいかんから、
トマトジュースの混ぜ物入りやけど。
「今日も華麗に圧勝やったな」
「まー未来視あるしな。
そこら辺の敵にはそうそう負けへんよ」
「なら、さっさとチャンピオンも倒してや」
「うっ…チャンピオンは…
未来わかっててもどうしようもないこと多いし、
なんか新技使ってくるんやもん…」
「あ、後は竹井さんもな」
「あの人はあの人でやらしいやん…
嶺上コンボされたら
最悪四巡くらい先まで見んとあかんし」
元々の雀力に未来予知が加わって、
私はトッププロとも肩を並べることができた。
もっとも、なぜかチャンピオンも
同じように新能力を引っ提げてきた上に、
清澄の竹井さんまで化けていて、
ぶっちぎりの新人トップとはいかないのが歯がゆいけれど。
「まあ、とりあえず家に帰って休も?
膝枕成分が切れてきたわ」
相変わらずふらふらした怜が、
私の手を引っ張った。
--------------------------------------------------------
フナQの尽力のおかげもあって、
私が抜く血液の量は大幅に減らすことができた。
同時に、私は麻雀をやめた。
麻雀は体力を使ってしまうし、
竜華とリンクしていれば、
二人で打っているようなものだから。
おかげで私は、高校を卒業した今も、
なんとか生きることができている。
少しずつ、体調も戻りつつあった。
もっとも引き換えに失ったものもある。
一番大きいのは『正気』だろうか。
お互いへの依存は末期レベルに悪化した。
貪欲な私達は、心だけじゃなく体の繋がりも求めた。
結果、ドリンクによるリンクを切らさないのはもちろん、
物理的にも片時も離れることをいやがった。
さすがに対局の時は仕方ないけど。
それ以外の時は、私達はたとえトイレでも離れない。
二人で個室に入っていく私達を見て、
フナQが呆れ顔を見せたのは記憶に新しい。
「ふう、ようやく平常運転や」
私は竜華の太ももに頭を乗せて、
ひといき安堵の溜息をついた。
「で、さっきの話の続きやけど。
なんなんやろなー、チャンピオンと竹井さん」
「うちらと同じで、ドリンク飲んどるんちゃう?」
「でも、その割には飲み物持ちこんどらんしなぁ」
「なんとなく雰囲気的に同類のにおい感じるから、
なんかやっとるとは思うんやけどな」
二人の事が妙に気にかかった。
もし、二人が私達と違う方法で
能力を分け合っていたらなら。
それが私達にも適用できるなら。
私達は、もっともっと一つに近づけるかもしれない。
「直接聞いてみよか?」
「教えてくれるかなぁ。
完全にトップシークレットやろ。
商売敵的にもプライベート的にも」
「でも、向こうもうちらと同じで壊れてたら、
こっちの情報欲しがるんちゃう?」
「あー…そうかもなぁ」
「というわけで聞いてみるわ……
あ、竹井さん?ちょっと話があるんやけど」
「……」
『……』
「…ホンマ!?そんなんできんの!?」
竹井さんと話していた竜華が、
驚きのあまり声をあげる。
「あ、ありがとなー。できるかどうかわからんけど、
また今度話聞かせたってや」
「……」
「りゅーか?」
「…上には、上がおるもんやなぁ」
「……竹井さん、なんて?」
「……言わんと駄目?」
「隠しても心覗き見るで?」
「…えーと」
竜華が珍しく言いよどむ。
その様子を見て、私は期待に胸をふくらませる。
つまりそれは、私の身体への負担と引き換えに、
さらに関係を進展させられる方法ということだから。
「な、なあ、怜…もし、お互いの魂をちぎって
分けられるとしたら、どうする?」
どうやら、私達の次の目標は決まったようだ。
(完)
この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/105794488
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。
この記事へのトラックバック
http://blog.sakura.ne.jp/tb/105794488
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。
この記事へのトラックバック
他サイトの怜竜ssでは怜の病みは見れるんですけど、
竜華の病みは見れないのでマジ感謝です!!!!!
次は竜華が怜を監禁拘束したりする奴お願いします。
最後になりましたが、ぷちどろっぷさんのヤンレズss
は引き込まれる作品が多くて好きですこれからも頑張って下さい。
魂をちぎるって、前(照菫)にも出てきたよね。
そのうち、久咲のきっかけ話も見たいです。
リク受けありがとうございます!
いやーみんな可愛くて大満足です(笑)
これからも楽しみに待ってます!
怜の病みは見れるんですけど>
竜華「そのサイトの情報詳しく!」
怜「まとめやと竜華の方が病んでる気がするな」
竜華「あ、リクもたまわったで」
魂をちぎる>
照「魂分割は宮永家の秘術(当ブログ限定)」
菫「覚えていてくれる人がいるとは…感無量だ」
久「私達の話もそのうち出てくるかもね!」
みんな可愛くて>
浩子「可愛い奴なんておったか?
気違いは約二名おったけど」
竜華「ひどない!?」
フナQ>
怜「千里山の最後の砦…それがフナQ」
浩子「先輩なんやからしっかりしろや」
行為は異常だが、思いは極上なギャップが怖愛しい。
行為は異常だが、思いは極上>
怜「まさにそれが書きたかったらしいわ」
竜華「原作でも最上級に愛しあっとるから
狂った時の異常さも強めにしてみたわ」
いつも更新を楽しみにしてます。
愛のある狂気ってとても良いなぁって思います。
出来ればこの話の続きが見たいなぁなんて、
この二人が魂をちぎって共有したらどうなるのか少し知りたくなりました。
これからも頑張ってください。応援しています。