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【咲SS:憧穏】穏乃「穏乃日記…?」【あまあま】
<あらすじ>
私、高鴨穏乃は新子憧のことで、
一つ疑っていることがある。
それは、憧が…超能力者ではないかという事だ!
<登場人物>
高鴨穏乃,新子憧,鷺森灼,松実玄,松実宥
<症状>
・こっちはただのあまあま
<その他>
※(『Side−憧』2014 11/23 15:00から公開)と対になってますが、
あまあまで終わりたい人は
憧編は読まないことをおすすめします。
--------------------------------------------------------
私高鴨穏乃は、親友である新子憧のことで
一つだけ疑っていることがある。
それは、憧が…実は超能力者ではないかという事。
しかも、私限定で発動する能力の。
なぜなら憧は、まるで私の行動を
予知しているような言動をとることがあるからだ。
例えばそれは、今私が降りしきる雨の中
全力疾走している件についても関与している。
『あ、シズ?コンビニ行くなら
傘持って行った方がいいわよ?』
『へ?なんで私がコンビニ
行こうとしてるってわかったの?』
『どうせ小腹が空いたんでしょ?
アンタの考えてることなんてお見通しなのよ』
『むむむ、憧…エスパーなんじゃないの?』
『アンタがわかりやすすぎなだけよ』
もちろん私は、憧に
コンビニに行くことを伝えていなかった。
そして、傘を持っていくつもりがなかったことも。
しかも、この手の憧の忠告に逆らうと、
決まってろくな目にあわないのだ。
「ま、まさか本当に雨が降るとは…!」
「……なんか、憧に負けたみたいで悔しい…」
「……」
「くっそー!どうせなら思いっきり濡れてやる!」
なんとなくもやっとした私は、
もういっそのこと濡れて帰ることにした。
雨宿りすることもなく、ただひたすら帰路を突き進む。
「うぉぉぉー!!これはこれで気持ちいい!!
テンション上がってきたー!!!」
そんなわけで、私は見事に濡れネズミになって帰ってきた。
水も滴るいい女状態の私を見て、
憧があきれ果てた顔をして一言。
「だから言ったじゃない…しかもどうせ、
『くっそー!どうせなら思いっきり濡れてやる!
テンション上がってきたー!!』
とか言ってたんじゃないの?
まったくおバカなんだから」
「なんでそこまでバレてんの!?」
「だから、アンタの考える事なんてお見通しだってば…
ほら、拭いてあげるからこっち来なさいよ」
「あっ、ちょっと、ジャージは脱がさなくていいって!?
全裸になっちゃうじゃん!」
「そこを恥じらう前に、ジャージの上一枚で
外に出てることを恥じらいなさいよ…」
「ちょ、そこはいいって!そこは自分で拭くから…!
…ひゃんっ!」
「ちょ、ちょっと、変な声出さないでよ!
こっちまで恥ずかしくなるじゃない!」
「あ、憧が触るから悪いんじゃん!」
すっぽんぽんになった私を、
隅々まで念入りにタオルで拭きながら、
憧は顔を赤らめつつ私を見つめた。
--------------------------------------------------------
「というわけでですね!憧は私の未来を
予知できるんじゃないかと思うんですよ!」
ある日の放課後。
私は憧が掃除当番で遅い時を狙って、
持論をみんなにぶちまけてみることにした。
もっとも、息荒く語る私に対して、
みんなの反応は微妙だったんだけど。
「ありえな…」
「それは、憧ちゃんが穏乃ちゃんの行動を
予測してるだけじゃないかな?」
「憧ちゃん、穏乃ちゃんのこと、本当に大切にしてるから…」
口々にのぼる反論の声。
え、憧ってそんなに私のこと大切にしてくれてるかな…
な、なんかそれって、すっごく嬉しいかも…
って、駄目だ駄目だ話がずれてる!
「で、でも、予測で何とかできる範囲を超えてますよ!
この前も私が町で迷子になってたら、
当然のように迎えに来てくれたんですから!
行先なんて教えてないのに!」
私がさらに持論を展開しようとした瞬間。
部室の扉がガチャリと音を立てて開き、
話の張本人が顔を出した。
「おつかれー」
ああ、もうめんどくさい!直接本人に聞いちゃえ!
「あ、憧!お前本当は超能力者だろ!正体を見せろ!」
「シズ?そういう発言はアンタのおバカ加減に
いっそう磨きがかかるからやめた方がいいわよ?」
「そうやってごまかすつもりだな!?
名探偵穏乃は騙されないぞ!」
「はぁ…じゃあ名探偵に質問するけど…
私がアンタの未来を視れるなら、
私はアンタに麻雀で100%勝てるはずよね?
そこはどう説明するの?」
「…あ」
またも呆れ顔で息を吐く憧。
そっか…言われてみればそうだ。
「先に言っとくけど、私が手を抜いてるとかいう
論理展開はなしよ?いつもちゃんと全力で打ってるから」
「むぅ…憧は超能力者じゃなかったのか…!
実家が神社の癖に…」
思わず納得してしまった私。
でも、持論を取り下げようと思ったところで、
思いがけない方向から物言いがつく。
「ちょっと待ってほし…」
「ん?どしたの灼?」
「そもそも穏乃は、憧に『未来が視れる』
という話をしてないはず…
憧がそれを知っているのはおかし…」
「…あ!?灼さんの言うとおりだ!
憧、お前やっぱり超能力者だろ!」
「灼がその指摘をするのは自然だけど、
シズはちょっとかばえないわね。
アンタ、前にもその話したの覚えてないの?」
「…へ?」
「この前迷子になった時にアンタ言ってたじゃない。
『憧、もしかして私の未来が視えるの!?』って。
私は一笑に付したけどね」
そうでした。というかそもそも私、
けっこう何度もこの疑いを憧にぶつけてるや。
「穏乃…」
「穏乃ちゃん…」
「ちょ、ちょっと忘れてただけですよ!?
そんな目で見ないでください!」
うぅ…でも、そもそも悪いのは、
はっきりと答えない憧だと思う。
私はただ真実を知って、すっきりしたいだけなのに。
「憧…本当に超能力者じゃないの?」
「逆に聞きたいんだけど、
どうしてアンタは私をそこまで超能力者にしたいの?」
「…だ、だって、憧れるじゃん超能力者!」
人知れずその能力で未来を予知して、
人知れずみんなの危険を回避する…
そんなヒーロー新子憧!
…ヒロインは私!なんて恥ずかしくて言えないけど。
「アンタは小学生男子か」
「それに、憧が私の未来を視れるなら、
私はもうテスト勉強しなくていい!」
「…その代わり私はアンタのトイレとかお風呂とか
覗き放題になるわけだけど、
それについてコメントは?」
「…あ」
そっか…私の未来が見れるってことは、
そういうのも見られちゃうのか…
で、でも…
「あ…憧なら…いいよ?」
「……いや、その回答はこっちが引くわ」
引かれてしまった。
真剣に考えて答えてやったのに、
なんてひどいやつなんだ。
「…まあでも、そうね…」
「もしそんな能力があったら、
私がアンタを守ってあげるわ」
「ホント!?絶対だからな!」
それで、この話は終わりになった。
憧が雀卓の電源を入れて、
いつも通りの麻雀が始まる。
ちなみにその日、憧と私の戦績は2勝1敗だった。
--------------------------------------------------------
それから憧は、二週間行方不明になった。
--------------------------------------------------------
もぬけになった憧の部屋には、
書き置きが残されていた。
と言っても、そこに記されていたのはたったの一行。
『一か月以内には必ず戻るから、
心配しないでください 憧』
それ以上の情報はなく、憧の家は大騒ぎになった。
もちろん、部内も騒然となった。
筆跡は憧の文字で間違いないから、
自分から出て行ったのは確かなんだけど…
「あ、憧ちゃんどうしたんだろうね…」
「心配しなくてもいいと思いますよ?
憧はしっかりしてるし、心配するなって
書き置きだってあったんだし」
「だからって、この状況で心配しない方がおかし…」
「憧ちゃん、確か皆勤だったはずなんだよ?
それを捨ててまで、一体何があったんだろ…」
「だから、大丈夫ですってば!」
「……穏乃も、いつもより気が立って…」
「あっ…すいません…」
思わず語気が荒くなってしまった。
部室にどこか気まずい雰囲気が流れる。
灼さんの言う通り、私は確かにイライラしていた。
憧の心配をしているわけじゃない。
書き置きもしてたんだし、
本当に何か用事があるだけなんだろう。
そこは問題じゃないと思う。
でも、私がイライラするのは…
私には、その憧の用事が何か、
まったく見当もついていないこと。
玄さんの言う通り、皆勤賞だった憧が
学校を長期で休んでまで優先するほどの用事なのに。
つまり私は、憧の事を何もわかってないということで、
それがひどく悔しかった。
逆の状況だったなら、憧は当然のように
私が何をしているのかを言い当てただろう。
ガチャッ…
「そうね、例えばシズが、私の目的が分からなくて
イライラしてるとかね?」
「あ…憧!?」
私の心の声に返事したのは、他でもない憧だった。
開口一番で軽口を叩いて入ってきた憧は、
すっと真剣な表情になると、謝罪の言葉を口にして。
深々と私達に頭を下げた。
「みんな、心配させてごめんなさい。
この通りです」
憧らしくない…ううん、
要所要所ではしっかり締める憧らしい。
みんなはほっと一息つくと、
さっそく戻ってきた憧に質問を始めた。
「あ、憧ちゃん…今までどこに行ってたの?」
「ごめん、ちょっとそれは言えないわ」
「何をしてたのかは…」
「ごめん、それも言えない」
「……」
「ただ、これだけは言っておく。
何か悪いことをしてたわけじゃないし、
私は自分の中の正義に従って行動した。
…でも、もう二度とやらない。
…それで許してもらえないかな?」
「…別に、怒ってはないけど…
せめて、もう少し説明を残してから
行くべきだと思…」
「それ含めて理由があって、
説明もできなかったのよ」
「……」
「ともかく、二度とやらない。
だから、今回の事はこれ以上
何も聞かないでくれない?」
そう言って、また憧は頭を下げた。
そこまで言われてしまうと、私達はこれ以上
この話題を取りあげるわけにもいかなくて。
結局私達には、憧が何を目的に行方不明になって、
何をしたのかもわからずじまいだった。
私は、ただでさえ憧の事をわかってないのに、
またわからないことが増えて。
心の中に、もんもんと何かが
くすぶるのを感じざるをえなかった。
--------------------------------------------------------
憧からは納得いく説明を受けることはできなかったけど。
私はなんとなく漠然と、憧が姿を消したのは
自分が関係しているのではないかと思った。
だって、憧が戻ってきた次の日から。
憧は私を、いっぱい助けてくれたから。
例えば今日だけでも、私は三回も憧に助けられた。
「いってきまーs」
プルルルーップルルルーッ
「憧から電話?なんだろ」
『おはよ、シズ。なんか急に気になったから聞いとくけど、
アンタちゃんとお弁当持った?』
「へ?お弁当?…あ、忘れてた!」
『お昼抜きにならなくてよかったわね。じゃ、また後で』
ガチャッ
「…どんな超能力持ってると、
そこがピンポイントで気になるんだよ…」
……
「あ、シズ。次の数学、アンタの列当たる気がするから、
この問題解いておきなさいよ」
「えー?なんで別のクラスの憧がそんなのわかるんだよ。
そもそも私、昨日も当たったばっかりなんだけど?」
「あの先生ボケてるから、もう一回
同じ列を指定するかもしれないじゃない」
「その可能性に懸けろっての?」
「外れたらラーメンおごってあげるから」
「ラーメン!ラーメン!!」
…
「じゃあ、今日はこの列の人にお願いしようか」
「センセー、私達昨日も当たりましたよ」
「あ、そうだったか…?まあ別に、
宿題やってきてるなら問題ないだろう?」
(…ホントに当たるし…)
……
「し、シズ!ソフトボール部が練習してる!
窓側に居ると危ないからこっち来て!」
「へ?そんなのいつものことじゃん。
それに、ボールくらい私の動体視力なら
華麗にかわしt」
「早く!!こっち来て!!
お願いだから!!」ぐいっ!
「ちょっ、なんでそんな必死n」
ガシャーンッ!!!
「うわっ、あぶなっ!!」
「ほ、ほら…あ、あそこに居たら、
お、大けがしてたじゃない…
大事に至らなくてよかったわ…」
「憧…お前、なんで泣いて…!」
……
助けられるというだけなら、
私は今までも憧にたくさん助けられてきた。
でも、最近の内容は、以前とは比べ物にならないくらい正確で、
超常的な力を感じさせるものだった。
しかも今回は、本当に死ぬかも知れなかったし…
これは、本当に超能力なんじゃないだろうか。
「そうよ」
私は思わず身体を震わせる。
いつになく張りつめた憧の声。
「アンタの言う通り。私は本物の超能力者になった」
そう言って、憧は一冊のノートを私に差し出した。
表紙には『穏乃日記 No.52』と書かれている。
「しずの…にっき?」
「それが何なのかは、
最後のページを見ればわかるわ」
私は憧の真意がわからないまま、
言われるがままにそのノートをめくり始めた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
9/23 8:00
いつもの待ち合わせ場所でシズと合流。
シズはお弁当を忘れていた。
取りに帰ろうか迷うシズ。
行きなさいよ、アンタなら5分かからないでしょ。
少しでも私と長くいたいから、
とか言い出すシズ。
本気にしちゃうからやめてほしい。
9/23 8:10
シズは本当に5分で帰ってきた。
麻雀止めて陸上に転向した方がいいんじゃないの?
私がいないからいや?
だからそういうのやめてよ。
泣きそうになっちゃうから。
9/23 8:20
シズ、数学の宿題を忘れる。
合流した時に忘れ物チェックすればよかったわ。
まあ当日気づいても手遅れか。
9/23 8:30
教室の前でシズと別れる。
寂しそうに何度も振り向きながら
去っていくシズがかわいい。
……
9/23 10:40
シズが数学の授業で当てられて困っている。
そういえば、宿題忘れてたんだっけ。
普段からやっとかないからこういう時困るのよ。
でもオロオロしているシズもかわいい。
9/23 10:50
シズ、ふてくされて入眠。
寝顔がかわいい。
9/23 11:00
シズ、チャイムと共に起床。
なにその便利機能。私もそれほしい。
寝起きでボケッとしたシズがかわいい。
9/23 11:10
休み時間にやってきた私にはしゃぐシズが
たいそうかわいい。
……
9/23 15:00
シズと一緒に廊下を歩く。
意味もなく私の周りをグルグル回るシズ。
元気があり余ってるシズがかわいい。
9/23 15:10
シズが血まみれで倒れている。
ガラスの破片。転がったボール。
シズはピクリとも動かない。
9/23 15:20
頭を打っているから動かせない。
救急車はまだ来ない。
殺してやる。シズにボールを当てた奴を、
絶対に殺してやる。
9/23 15:30
シズが死んだ。
救急車が来る前に。
待っててシズ。今行くから。
9/23 15:40
新子憧は自殺した。
DEAD END
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ノートを持つ手が自然と小刻みに震え出す。
目から涙が滲みだす。
私は反射的に携帯の時計を確認する。
今の時間は16時13分。
よかった…これは、現実の話じゃない。
でも。
「こ、こ、これ…なな、なんなの?」
「だから、穏乃日記よ。その日にシズに『起こる』出来事を、
10分単位で記してるの」
「私が未来を変えなければ、
そのノートに書かれた通りになってたわ」
「わ、私…本当はあの時死んでたってこと?」
「私もね?どうせなら、ちゃんとボールぶつけた奴を殺して
有言実行してから死んで欲しかったところだけど」
「な、なんでそんな平気なんだよ!?
死んじゃうところだったんだぞ!」
「私は平気な顔してたかは、
アンタもあの時見てたはずだけど?」
言われてはっと思い出す。
あの時憧が、どうしていたか。
いつもからは想像できない位うろたえて、
真っ青になって、鬼気迫る表情で。
私を窓際から必死に引き離そうとしていた。
そうか…あれは、
こうなることを知っていたからなんだ。
「落ち着いたのはついさっきよ。
本当についさっきまで、
心臓がバクバクいいっぱなしだった」
私は戸惑いながら憧の顔を見つめる。
よく見たら、憧の目は真っ赤に充血して。
涙の跡が少し残っていた。
「この日記の事は言うつもりなかったの」
「もしかしたら、気持ち悪いって
思われちゃうかもしれない。
嫌われちゃうかもしれない」
「そうでなくても、私の本音てんこ盛りだしね」
「でもアンタ、私のせいで最近悩んでるみたいだったから」
「私が…?」
「そのノートの18ページ目」
憧はノートを指さして、ページ数を指定した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
9/21 21:50
お風呂上がりでぽっかぽかのシズが
たいそうかわいい。
9/21 22:00
シズが裸のままでベッドに寝転んでいる。
ヤバい、これは犯罪級にかわいい。
食べたい。
9/21 22:10
シズが悩んでいる。私の力で悩んでいる。
優しいシズは、私を気味悪がったりはしない。
でも、私はシズのことを何でも知ってるのに、
自分は何も知らないことを悩んでいる。
違う、私はズルをしているだけ。
シズが悩む必要はないんだってば。
9/21 22:20
シズはまだ悩んでいる。
打ち明けるべきだろうか。
ううん、でも。さすがに未来を
全部見られてるなんて知られたら。
いくら優しいシズでも、
私の事を気味悪がるんじゃないだろうか。
9/21 22:30
シズ就寝。裸のまま寝た。
寝顔のシズがかわいい。
でも、風邪ひくわよ?
私はもう少し悩み続けよう。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ゾクッ……
思わずぞくりと背筋が凍る。
憧の言っている意味が肌で理解できた。
確かにこの日記は、私を助けることができる。
でも、私の情報は全て憧に筒抜けで。
私は、憧に囚われたも同然だった。
…でも。
『穏乃日記』はどのページも、憧の愛にあふれている。
私への愛にあふれている。
そうか、これは…このノートを見せたのは…
憧なりの、私への告白なんだ。
「一応言っておくわね。この日記は、
私がノートを開いて、未来を見ようと思って
鉛筆を握らないとスタートしない」
「未来を記せるのは10分間隔で最大6時間分。
でも、今日私は死ぬはずだったから、
それ以降の未来はまだ知らない」
「だから、これからどうなるのか、私は知らない…
ノートを持てば書けただろうけど、
怖かったから見れなかった」
「ねえ、シズ…こんな私だけど、受け入れてくれる?」
憧の目が、私の目をじっと見据える。
まだ充血した憧の瞳。
その顔はやっぱり青白くて、
よく見たら少しだけ震えている。
憧…そんな心配する必要ないんだよ。
だって…
「受け入れるも何も…憧に超能力者になってほしいって
願ったのは私じゃん?」
「そもそも私も、憧のこと大好きだし」
「あ…憧になら、全部見られていい」
「これ、前にも言ったと思うけどなぁ?」
「……っ!!」
みるみるうちに、憧の目から涙があふれ出して。
まぶたは涙をためきれずに、涙は頬をつたっていく。
憧は顔を両手で覆って、震えながらこう言った。
「ばかっ…せっかくの、告白、なんだから…
もっと…気の、きいた…言い方、しなさいよっ……」
思いっきり泣きじゃくってるくせに、
それでもなお悪態をつく憧。
憧は、私の事をかわいいかわいいって書いてたけど…
憧の方がよっぽど健気でかわいいと思う。
「じゃあ、もっかいちゃんと言う」
「憧…好きです。私と付き合ってください」
「……」
「はい……」
私は憧に抱きついた。身長があるから、
私は憧の腕の中にすっぽりおさまる。
「これからも、私のこと守ってね?」
「うん…守るわ…ずっと、一生…」
憧は私をいつくしむように抱きしめると、
私の頭に頬ずりした。
これから私がどうなるかは、私にはわからない。
でも、憧がいるなら大丈夫。
だからきっと、『穏乃日記』の終わりはこうだ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
X/Y 00:00
新子憧は、高鴨穏乃と結ばれた。
HAPPY END
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(完)
(『Side−憧』2014 11/23 15:00から公開)
私、高鴨穏乃は新子憧のことで、
一つ疑っていることがある。
それは、憧が…超能力者ではないかという事だ!
<登場人物>
高鴨穏乃,新子憧,鷺森灼,松実玄,松実宥
<症状>
・こっちはただのあまあま
<その他>
※(『Side−憧』2014 11/23 15:00から公開)と対になってますが、
あまあまで終わりたい人は
憧編は読まないことをおすすめします。
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私高鴨穏乃は、親友である新子憧のことで
一つだけ疑っていることがある。
それは、憧が…実は超能力者ではないかという事。
しかも、私限定で発動する能力の。
なぜなら憧は、まるで私の行動を
予知しているような言動をとることがあるからだ。
例えばそれは、今私が降りしきる雨の中
全力疾走している件についても関与している。
『あ、シズ?コンビニ行くなら
傘持って行った方がいいわよ?』
『へ?なんで私がコンビニ
行こうとしてるってわかったの?』
『どうせ小腹が空いたんでしょ?
アンタの考えてることなんてお見通しなのよ』
『むむむ、憧…エスパーなんじゃないの?』
『アンタがわかりやすすぎなだけよ』
もちろん私は、憧に
コンビニに行くことを伝えていなかった。
そして、傘を持っていくつもりがなかったことも。
しかも、この手の憧の忠告に逆らうと、
決まってろくな目にあわないのだ。
「ま、まさか本当に雨が降るとは…!」
「……なんか、憧に負けたみたいで悔しい…」
「……」
「くっそー!どうせなら思いっきり濡れてやる!」
なんとなくもやっとした私は、
もういっそのこと濡れて帰ることにした。
雨宿りすることもなく、ただひたすら帰路を突き進む。
「うぉぉぉー!!これはこれで気持ちいい!!
テンション上がってきたー!!!」
そんなわけで、私は見事に濡れネズミになって帰ってきた。
水も滴るいい女状態の私を見て、
憧があきれ果てた顔をして一言。
「だから言ったじゃない…しかもどうせ、
『くっそー!どうせなら思いっきり濡れてやる!
テンション上がってきたー!!』
とか言ってたんじゃないの?
まったくおバカなんだから」
「なんでそこまでバレてんの!?」
「だから、アンタの考える事なんてお見通しだってば…
ほら、拭いてあげるからこっち来なさいよ」
「あっ、ちょっと、ジャージは脱がさなくていいって!?
全裸になっちゃうじゃん!」
「そこを恥じらう前に、ジャージの上一枚で
外に出てることを恥じらいなさいよ…」
「ちょ、そこはいいって!そこは自分で拭くから…!
…ひゃんっ!」
「ちょ、ちょっと、変な声出さないでよ!
こっちまで恥ずかしくなるじゃない!」
「あ、憧が触るから悪いんじゃん!」
すっぽんぽんになった私を、
隅々まで念入りにタオルで拭きながら、
憧は顔を赤らめつつ私を見つめた。
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「というわけでですね!憧は私の未来を
予知できるんじゃないかと思うんですよ!」
ある日の放課後。
私は憧が掃除当番で遅い時を狙って、
持論をみんなにぶちまけてみることにした。
もっとも、息荒く語る私に対して、
みんなの反応は微妙だったんだけど。
「ありえな…」
「それは、憧ちゃんが穏乃ちゃんの行動を
予測してるだけじゃないかな?」
「憧ちゃん、穏乃ちゃんのこと、本当に大切にしてるから…」
口々にのぼる反論の声。
え、憧ってそんなに私のこと大切にしてくれてるかな…
な、なんかそれって、すっごく嬉しいかも…
って、駄目だ駄目だ話がずれてる!
「で、でも、予測で何とかできる範囲を超えてますよ!
この前も私が町で迷子になってたら、
当然のように迎えに来てくれたんですから!
行先なんて教えてないのに!」
私がさらに持論を展開しようとした瞬間。
部室の扉がガチャリと音を立てて開き、
話の張本人が顔を出した。
「おつかれー」
ああ、もうめんどくさい!直接本人に聞いちゃえ!
「あ、憧!お前本当は超能力者だろ!正体を見せろ!」
「シズ?そういう発言はアンタのおバカ加減に
いっそう磨きがかかるからやめた方がいいわよ?」
「そうやってごまかすつもりだな!?
名探偵穏乃は騙されないぞ!」
「はぁ…じゃあ名探偵に質問するけど…
私がアンタの未来を視れるなら、
私はアンタに麻雀で100%勝てるはずよね?
そこはどう説明するの?」
「…あ」
またも呆れ顔で息を吐く憧。
そっか…言われてみればそうだ。
「先に言っとくけど、私が手を抜いてるとかいう
論理展開はなしよ?いつもちゃんと全力で打ってるから」
「むぅ…憧は超能力者じゃなかったのか…!
実家が神社の癖に…」
思わず納得してしまった私。
でも、持論を取り下げようと思ったところで、
思いがけない方向から物言いがつく。
「ちょっと待ってほし…」
「ん?どしたの灼?」
「そもそも穏乃は、憧に『未来が視れる』
という話をしてないはず…
憧がそれを知っているのはおかし…」
「…あ!?灼さんの言うとおりだ!
憧、お前やっぱり超能力者だろ!」
「灼がその指摘をするのは自然だけど、
シズはちょっとかばえないわね。
アンタ、前にもその話したの覚えてないの?」
「…へ?」
「この前迷子になった時にアンタ言ってたじゃない。
『憧、もしかして私の未来が視えるの!?』って。
私は一笑に付したけどね」
そうでした。というかそもそも私、
けっこう何度もこの疑いを憧にぶつけてるや。
「穏乃…」
「穏乃ちゃん…」
「ちょ、ちょっと忘れてただけですよ!?
そんな目で見ないでください!」
うぅ…でも、そもそも悪いのは、
はっきりと答えない憧だと思う。
私はただ真実を知って、すっきりしたいだけなのに。
「憧…本当に超能力者じゃないの?」
「逆に聞きたいんだけど、
どうしてアンタは私をそこまで超能力者にしたいの?」
「…だ、だって、憧れるじゃん超能力者!」
人知れずその能力で未来を予知して、
人知れずみんなの危険を回避する…
そんなヒーロー新子憧!
…ヒロインは私!なんて恥ずかしくて言えないけど。
「アンタは小学生男子か」
「それに、憧が私の未来を視れるなら、
私はもうテスト勉強しなくていい!」
「…その代わり私はアンタのトイレとかお風呂とか
覗き放題になるわけだけど、
それについてコメントは?」
「…あ」
そっか…私の未来が見れるってことは、
そういうのも見られちゃうのか…
で、でも…
「あ…憧なら…いいよ?」
「……いや、その回答はこっちが引くわ」
引かれてしまった。
真剣に考えて答えてやったのに、
なんてひどいやつなんだ。
「…まあでも、そうね…」
「もしそんな能力があったら、
私がアンタを守ってあげるわ」
「ホント!?絶対だからな!」
それで、この話は終わりになった。
憧が雀卓の電源を入れて、
いつも通りの麻雀が始まる。
ちなみにその日、憧と私の戦績は2勝1敗だった。
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それから憧は、二週間行方不明になった。
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もぬけになった憧の部屋には、
書き置きが残されていた。
と言っても、そこに記されていたのはたったの一行。
『一か月以内には必ず戻るから、
心配しないでください 憧』
それ以上の情報はなく、憧の家は大騒ぎになった。
もちろん、部内も騒然となった。
筆跡は憧の文字で間違いないから、
自分から出て行ったのは確かなんだけど…
「あ、憧ちゃんどうしたんだろうね…」
「心配しなくてもいいと思いますよ?
憧はしっかりしてるし、心配するなって
書き置きだってあったんだし」
「だからって、この状況で心配しない方がおかし…」
「憧ちゃん、確か皆勤だったはずなんだよ?
それを捨ててまで、一体何があったんだろ…」
「だから、大丈夫ですってば!」
「……穏乃も、いつもより気が立って…」
「あっ…すいません…」
思わず語気が荒くなってしまった。
部室にどこか気まずい雰囲気が流れる。
灼さんの言う通り、私は確かにイライラしていた。
憧の心配をしているわけじゃない。
書き置きもしてたんだし、
本当に何か用事があるだけなんだろう。
そこは問題じゃないと思う。
でも、私がイライラするのは…
私には、その憧の用事が何か、
まったく見当もついていないこと。
玄さんの言う通り、皆勤賞だった憧が
学校を長期で休んでまで優先するほどの用事なのに。
つまり私は、憧の事を何もわかってないということで、
それがひどく悔しかった。
逆の状況だったなら、憧は当然のように
私が何をしているのかを言い当てただろう。
ガチャッ…
「そうね、例えばシズが、私の目的が分からなくて
イライラしてるとかね?」
「あ…憧!?」
私の心の声に返事したのは、他でもない憧だった。
開口一番で軽口を叩いて入ってきた憧は、
すっと真剣な表情になると、謝罪の言葉を口にして。
深々と私達に頭を下げた。
「みんな、心配させてごめんなさい。
この通りです」
憧らしくない…ううん、
要所要所ではしっかり締める憧らしい。
みんなはほっと一息つくと、
さっそく戻ってきた憧に質問を始めた。
「あ、憧ちゃん…今までどこに行ってたの?」
「ごめん、ちょっとそれは言えないわ」
「何をしてたのかは…」
「ごめん、それも言えない」
「……」
「ただ、これだけは言っておく。
何か悪いことをしてたわけじゃないし、
私は自分の中の正義に従って行動した。
…でも、もう二度とやらない。
…それで許してもらえないかな?」
「…別に、怒ってはないけど…
せめて、もう少し説明を残してから
行くべきだと思…」
「それ含めて理由があって、
説明もできなかったのよ」
「……」
「ともかく、二度とやらない。
だから、今回の事はこれ以上
何も聞かないでくれない?」
そう言って、また憧は頭を下げた。
そこまで言われてしまうと、私達はこれ以上
この話題を取りあげるわけにもいかなくて。
結局私達には、憧が何を目的に行方不明になって、
何をしたのかもわからずじまいだった。
私は、ただでさえ憧の事をわかってないのに、
またわからないことが増えて。
心の中に、もんもんと何かが
くすぶるのを感じざるをえなかった。
--------------------------------------------------------
憧からは納得いく説明を受けることはできなかったけど。
私はなんとなく漠然と、憧が姿を消したのは
自分が関係しているのではないかと思った。
だって、憧が戻ってきた次の日から。
憧は私を、いっぱい助けてくれたから。
例えば今日だけでも、私は三回も憧に助けられた。
「いってきまーs」
プルルルーップルルルーッ
「憧から電話?なんだろ」
『おはよ、シズ。なんか急に気になったから聞いとくけど、
アンタちゃんとお弁当持った?』
「へ?お弁当?…あ、忘れてた!」
『お昼抜きにならなくてよかったわね。じゃ、また後で』
ガチャッ
「…どんな超能力持ってると、
そこがピンポイントで気になるんだよ…」
……
「あ、シズ。次の数学、アンタの列当たる気がするから、
この問題解いておきなさいよ」
「えー?なんで別のクラスの憧がそんなのわかるんだよ。
そもそも私、昨日も当たったばっかりなんだけど?」
「あの先生ボケてるから、もう一回
同じ列を指定するかもしれないじゃない」
「その可能性に懸けろっての?」
「外れたらラーメンおごってあげるから」
「ラーメン!ラーメン!!」
…
「じゃあ、今日はこの列の人にお願いしようか」
「センセー、私達昨日も当たりましたよ」
「あ、そうだったか…?まあ別に、
宿題やってきてるなら問題ないだろう?」
(…ホントに当たるし…)
……
「し、シズ!ソフトボール部が練習してる!
窓側に居ると危ないからこっち来て!」
「へ?そんなのいつものことじゃん。
それに、ボールくらい私の動体視力なら
華麗にかわしt」
「早く!!こっち来て!!
お願いだから!!」ぐいっ!
「ちょっ、なんでそんな必死n」
ガシャーンッ!!!
「うわっ、あぶなっ!!」
「ほ、ほら…あ、あそこに居たら、
お、大けがしてたじゃない…
大事に至らなくてよかったわ…」
「憧…お前、なんで泣いて…!」
……
助けられるというだけなら、
私は今までも憧にたくさん助けられてきた。
でも、最近の内容は、以前とは比べ物にならないくらい正確で、
超常的な力を感じさせるものだった。
しかも今回は、本当に死ぬかも知れなかったし…
これは、本当に超能力なんじゃないだろうか。
「そうよ」
私は思わず身体を震わせる。
いつになく張りつめた憧の声。
「アンタの言う通り。私は本物の超能力者になった」
そう言って、憧は一冊のノートを私に差し出した。
表紙には『穏乃日記 No.52』と書かれている。
「しずの…にっき?」
「それが何なのかは、
最後のページを見ればわかるわ」
私は憧の真意がわからないまま、
言われるがままにそのノートをめくり始めた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
9/23 8:00
いつもの待ち合わせ場所でシズと合流。
シズはお弁当を忘れていた。
取りに帰ろうか迷うシズ。
行きなさいよ、アンタなら5分かからないでしょ。
少しでも私と長くいたいから、
とか言い出すシズ。
本気にしちゃうからやめてほしい。
9/23 8:10
シズは本当に5分で帰ってきた。
麻雀止めて陸上に転向した方がいいんじゃないの?
私がいないからいや?
だからそういうのやめてよ。
泣きそうになっちゃうから。
9/23 8:20
シズ、数学の宿題を忘れる。
合流した時に忘れ物チェックすればよかったわ。
まあ当日気づいても手遅れか。
9/23 8:30
教室の前でシズと別れる。
寂しそうに何度も振り向きながら
去っていくシズがかわいい。
……
9/23 10:40
シズが数学の授業で当てられて困っている。
そういえば、宿題忘れてたんだっけ。
普段からやっとかないからこういう時困るのよ。
でもオロオロしているシズもかわいい。
9/23 10:50
シズ、ふてくされて入眠。
寝顔がかわいい。
9/23 11:00
シズ、チャイムと共に起床。
なにその便利機能。私もそれほしい。
寝起きでボケッとしたシズがかわいい。
9/23 11:10
休み時間にやってきた私にはしゃぐシズが
たいそうかわいい。
……
9/23 15:00
シズと一緒に廊下を歩く。
意味もなく私の周りをグルグル回るシズ。
元気があり余ってるシズがかわいい。
9/23 15:10
シズが血まみれで倒れている。
ガラスの破片。転がったボール。
シズはピクリとも動かない。
9/23 15:20
頭を打っているから動かせない。
救急車はまだ来ない。
殺してやる。シズにボールを当てた奴を、
絶対に殺してやる。
9/23 15:30
シズが死んだ。
救急車が来る前に。
待っててシズ。今行くから。
9/23 15:40
新子憧は自殺した。
DEAD END
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ノートを持つ手が自然と小刻みに震え出す。
目から涙が滲みだす。
私は反射的に携帯の時計を確認する。
今の時間は16時13分。
よかった…これは、現実の話じゃない。
でも。
「こ、こ、これ…なな、なんなの?」
「だから、穏乃日記よ。その日にシズに『起こる』出来事を、
10分単位で記してるの」
「私が未来を変えなければ、
そのノートに書かれた通りになってたわ」
「わ、私…本当はあの時死んでたってこと?」
「私もね?どうせなら、ちゃんとボールぶつけた奴を殺して
有言実行してから死んで欲しかったところだけど」
「な、なんでそんな平気なんだよ!?
死んじゃうところだったんだぞ!」
「私は平気な顔してたかは、
アンタもあの時見てたはずだけど?」
言われてはっと思い出す。
あの時憧が、どうしていたか。
いつもからは想像できない位うろたえて、
真っ青になって、鬼気迫る表情で。
私を窓際から必死に引き離そうとしていた。
そうか…あれは、
こうなることを知っていたからなんだ。
「落ち着いたのはついさっきよ。
本当についさっきまで、
心臓がバクバクいいっぱなしだった」
私は戸惑いながら憧の顔を見つめる。
よく見たら、憧の目は真っ赤に充血して。
涙の跡が少し残っていた。
「この日記の事は言うつもりなかったの」
「もしかしたら、気持ち悪いって
思われちゃうかもしれない。
嫌われちゃうかもしれない」
「そうでなくても、私の本音てんこ盛りだしね」
「でもアンタ、私のせいで最近悩んでるみたいだったから」
「私が…?」
「そのノートの18ページ目」
憧はノートを指さして、ページ数を指定した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
9/21 21:50
お風呂上がりでぽっかぽかのシズが
たいそうかわいい。
9/21 22:00
シズが裸のままでベッドに寝転んでいる。
ヤバい、これは犯罪級にかわいい。
食べたい。
9/21 22:10
シズが悩んでいる。私の力で悩んでいる。
優しいシズは、私を気味悪がったりはしない。
でも、私はシズのことを何でも知ってるのに、
自分は何も知らないことを悩んでいる。
違う、私はズルをしているだけ。
シズが悩む必要はないんだってば。
9/21 22:20
シズはまだ悩んでいる。
打ち明けるべきだろうか。
ううん、でも。さすがに未来を
全部見られてるなんて知られたら。
いくら優しいシズでも、
私の事を気味悪がるんじゃないだろうか。
9/21 22:30
シズ就寝。裸のまま寝た。
寝顔のシズがかわいい。
でも、風邪ひくわよ?
私はもう少し悩み続けよう。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ゾクッ……
思わずぞくりと背筋が凍る。
憧の言っている意味が肌で理解できた。
確かにこの日記は、私を助けることができる。
でも、私の情報は全て憧に筒抜けで。
私は、憧に囚われたも同然だった。
…でも。
『穏乃日記』はどのページも、憧の愛にあふれている。
私への愛にあふれている。
そうか、これは…このノートを見せたのは…
憧なりの、私への告白なんだ。
「一応言っておくわね。この日記は、
私がノートを開いて、未来を見ようと思って
鉛筆を握らないとスタートしない」
「未来を記せるのは10分間隔で最大6時間分。
でも、今日私は死ぬはずだったから、
それ以降の未来はまだ知らない」
「だから、これからどうなるのか、私は知らない…
ノートを持てば書けただろうけど、
怖かったから見れなかった」
「ねえ、シズ…こんな私だけど、受け入れてくれる?」
憧の目が、私の目をじっと見据える。
まだ充血した憧の瞳。
その顔はやっぱり青白くて、
よく見たら少しだけ震えている。
憧…そんな心配する必要ないんだよ。
だって…
「受け入れるも何も…憧に超能力者になってほしいって
願ったのは私じゃん?」
「そもそも私も、憧のこと大好きだし」
「あ…憧になら、全部見られていい」
「これ、前にも言ったと思うけどなぁ?」
「……っ!!」
みるみるうちに、憧の目から涙があふれ出して。
まぶたは涙をためきれずに、涙は頬をつたっていく。
憧は顔を両手で覆って、震えながらこう言った。
「ばかっ…せっかくの、告白、なんだから…
もっと…気の、きいた…言い方、しなさいよっ……」
思いっきり泣きじゃくってるくせに、
それでもなお悪態をつく憧。
憧は、私の事をかわいいかわいいって書いてたけど…
憧の方がよっぽど健気でかわいいと思う。
「じゃあ、もっかいちゃんと言う」
「憧…好きです。私と付き合ってください」
「……」
「はい……」
私は憧に抱きついた。身長があるから、
私は憧の腕の中にすっぽりおさまる。
「これからも、私のこと守ってね?」
「うん…守るわ…ずっと、一生…」
憧は私をいつくしむように抱きしめると、
私の頭に頬ずりした。
これから私がどうなるかは、私にはわからない。
でも、憧がいるなら大丈夫。
だからきっと、『穏乃日記』の終わりはこうだ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
X/Y 00:00
新子憧は、高鴨穏乃と結ばれた。
HAPPY END
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(完)
(『Side−憧』2014 11/23 15:00から公開)
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ヒロインなシズかわいい。穏乃日記も憧ちゃんぽくてグッド!そして憧ちゃんが何してたのか、すごい気になる!!
『Side-憧』も楽しみに待ってます!!
憧もかわいい
幸せ(小並感)
気になる、、、、
P.s 怜がヤンデレになる奴だったら、えすえす咲チャンネルというサイトに怜「、、、、うちヤンデレやし」
っていうのがありますよ。このサイトのヤンレズss
だと絹恵「お姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃん、、、、、、、」っていう奴がオススメです。
この気持ちのまま、side憧は読まずにいたい…けど読んでしまいそうだ^_^;
※返事が若干ネタバレなので気にする方は
本作と憧編を読んでからをお勧めします。
リクエスト>
穏乃「こちらこそネタ提供ありがとうございます!」
憧「リクエスト成分の大半は憧編だから
こっちはただのあまあまだけどね」
どう繋がるか>
穏乃「憧編をどうぞ!」
憧「中学校時代からスタートだから
ちょっと長いけどね!」
シズ&憧かわいい>
穏乃「実はヒロインは憧!」
憧「い、いや…シズでしょ…もう…」
未来日記>
憧「知ってる人は知ってるんだ。実は有名なのかな」
穏乃「書いた本人は知らなかった!」
憧「あ、ちなみに真相は憧編をどうぞ!」
いい感じ、不穏>
穏乃「大丈夫ですよ!ハッピーエンドの結末は
変わりませんから!」
憧「わかりにくい書き方だったかも。
憧編はヤンデレ要素満載ってだけで
結末は変わらないわ。
ここから鬱展開に転ぶことはないから
その点は安心してね」
穏乃「私もそういうの苦手だからね!」
巴&霞>
霞「向こうでもコメントしたけど承りました!」
巴「ちょっとリクエストたまってるので
気長にお待ちください」
怜竜>
竜華「見逃しとった…怜が病むとかええなあ」
絹恵「私が病む話は大好きです。
定期的に読みに行ってます!」