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【咲SS:憧穏】憧「穏乃日記」【ヤンデレ】
<あらすじ>
私、新子憧は、ある日記をつけている。
それは、愛する人の観察日記…
通称、『穏乃日記』。
<登場人物>
高鴨穏乃,新子憧
<症状>
・ヤンデレ
・狂気
・共依存
・異常行動
<その他>
※以下のリクエストに対する作品です(実はこちらが本編)。
・穏憧。中学時代、憧がシズを観察していて、
未来日記の由乃みたいに穏乃日記をつけてて、その内容。
※ただし本作品は未来日記の世界とは無関係なので、
未来日記を知らなくても全然問題ありません。
※『穏乃「穏乃日記…?」』と対になってます。
あまあまで終わりたい人は
こちらは読まないことをおすすめします。
あ、でもハッピーエンドです。
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いきなりだけど、私の家は神社を営んでいる。
つまり私は、実は巫女だったりする。
ほとんど手伝わないし、修行もしない不良巫女だけど。
そんな実家との関係もあって、
シズは私の事を超能力者ではないかと
疑っているようだった。
『憧、もしかして私の未来が視えるの!?』
なんてシズに詰め寄られたことも、
一度や二度じゃない。
でも、それは単に中学時代にシズを観察しまくった副産物で。
しぐさや声音なんかのちょっとした情報さえあれば、
シズの考えは丸わかりってだけだったりする。
そもそも修行もしない不良巫女なんかが
神様に力を授けてもらえるはずもなく。
結局、私はただの一般人に過ぎない。
…そう思っていたのだけれど。
実際には、なぜか神様は私みたいな不良巫女にも
力を授けてくれたようだった。
ある日、私は夢を見た。
それは、ひどくおぼろげな、
それでいて生々しいという矛盾した夢。
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シズが血まみれになっている
あたりにはガラスが散らばっている
シズは動かない
血のシミが、じわりじわりと床に広がっていく
「っいやぁあああああああぁあああああっ!!!!!」
自身の絶叫と共に、私はガバッと飛び起きた。
「はッ、はッ、はッ、はッ」
あまりの衝撃に浅くなる呼吸を、
胸を抑えつつ整える。
私は直感的に、これが予知夢であることを悟った。
このままじゃ、近い未来にシズは死ぬ。
私の心の中が絶望に塗りこめられていく。
だって、肝心の情報がまるでつかめてないのだ。
これはいつ起きること?
どこで起きること?
どんな状況で?
なんでこんなことに?
何もわからないままだった。
わかるのは、シズが血を流して死ぬこと。
それだけ。
私は恐怖に震えながらも、
再度夢を見ようと布団をかぶる。
でも極度の興奮状態に陥った私は、
眠りに落ちることすらできなくて。
結局私は、ただガタガタ震えているうちに
朝を迎えてしまった。
--------------------------------------------------------
寝不足と恐怖でおぼつかない足取りのまま
部室に赴いた私。
「おつかれー」
私が顔を見せるや否や、シズが私に詰め寄ってくる。
「あ、憧!お前本当は超能力者だろ!
正体を見せろ!」
私は思わずため息をついた。
もし私にそんな能力があったなら、
私は今頃こんなに憔悴しきってないわよ。
ていうか、この話題もう何度目よ?
「逆に聞きたいんだけど、
どうしてアンタは私をそこまで超能力者にしたいの?
しかもアンタ限定の」
「…だ、だって、憧れるじゃん超能力者!」
そう言って、なぜかもじもじと頬を染めるシズ。
あー、これもしかして自分のことヒロインとか考えてる?
乙女シズかわいい。
「…その代わり私はアンタのトイレとかお風呂とか
覗き放題になるわけだけど、
それについてコメントは?」
「あ…憧なら…いいよ?」
シズがどこまでも畳み掛けてくる。
シズのこの不意打ち回答に、
反射的に涙腺がゆるんで、目の端に涙が浮かぶ。
駄目、普通の反応しないと。
「……いや、その回答はこっちが引くわ」
「…まあでも、そうね…」
「もしそんな能力があったら、
私がアンタを守ってあげるわ」
「ホント!?絶対だからな!」
そこで会話はお開きになった。
でも、この会話は私に対して一つの気づきを与えた。
『そうだ…本当に能力者になれば…!』
いつもなら、いやいや私はシズレベルか、
なんて一刀両断したくなるところだけど。
世の中には麻雀で一巡先を見るような人もいるし、
神を降ろすような巫女も実在する。
何より私は、シズが死ぬ未来を視てしまった。
このままでは、いつシズが死ぬかわからないまま、
ただその時を待ち続けるしかない。
対応するには、オカルトを身につけるしかない。
しかも、一刻も早く。
私は、旅立つことにした。
目指すは鹿児島。
そこには、神降ろしの巫女がいる。
生きて帰れるかはわからなかった。
前に会った時、園城寺さんはこう言っていた。
『死にかけてから、未来が視えるようになった』
私が能力を手に入れるためにも、
死にかける必要があるかもしれない。
場合によっては、そのまま死んでしまうかもしれない。
私は思わず身震いする。
何か、自分を勇気づける後押しが欲しかった。
「…そうだ。『穏乃日記』読もう」
夜行バスの出発時間まで、まだだいぶ時間がある。
私は、自分に気合を入れるために、
引き出しからあるノートを取り出した。
そう、それは…
私が中学校の頃から書き続けている日記…
『穏乃日記』。
私は一番最初のNo.1を手に取って、
最初のページから読み始めた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
4/3 8:00
今日から私は、シズとはなればなれになる。
さみしい。
だから私は、日記をつけようと思う。
それは、愛する人の観察日記…
通称、『穏乃日記』。
4/3 8:10
シズを観察して、10分おきにノートに記す。
将来シズと私の道が再び重なった時に、
シズと仲良く話せるように。
4/3 8:20
残念だけど、学校にいる間はシズを
観察することはできないから、
シズに対する愛を書いていこうと思う。
シズへの愛を忘れないために。
4/3 8:30
今日の朝、シズはいつもの場所にいなかった。
違う。いたのかもしれない。
ただ、私と通学時間がずれただけかもしれない。
私は阿太みねに通うことになったから。
ほんの少しのずれが、ひどく悲しい。
4/3 8:40
今までだって、別に学校にいる間
ずっと一緒だったわけじゃない。
なのになんでこんなに苦しいんだろう。
なんでこんなに泣きたくなるんだろう。
シズに会いたい。
……
4/3 15:00
放課後になった。シズに会いに行こう。
早く捕まえないと。山に行かれたらおしまいだ。
4/3 15:10
(後から書いた)
シズに会うために走る。
リアルタイムで書いてる余裕はない。
こういう時の対処を考える必要がありそう。
4/3 15:20
(後から書いた)
シズを見つけた。和、玄と話している。
なぜ私はあの輪にいないんだろう。
4/3 15:30
(後から書いた)
シズはさみしそうだった。
私がいないから、四人で卓を囲めないのだ。
シズは元気がなかった。
私がいないから。
それでもシズは、私の事を思っていてくれた。
「憧は、麻雀で強くなるために
阿太みねに行って頑張ってるんだ。
私がわがまま言ってじゃましちゃいけない」
4/3 15:40
私は何をやっているんだろう。
シズはあんなに私のことを考えてくれているのに。
シズには会わずに帰った。
……
4/7 17:10
(後から書いた)
阿太みねは平均的に強かった。
でもすごく強い人はいなかった。
しかも、ここにはハルエがいない。
私は強くなれるのだろうか。
4/7 17:20
(後から書いた)
とぼとぼ。
ぐだぐだどうでもいいことを
考えてたと思う。
4/7 17:30
(後から書いた)
シズがいた!!
4/7 17:40
(後から書いた)
シズが泣いていた。
さみしいって泣いていた。
私もさみしいって泣いた。
それでもシズは言った。
「憧の足かせになりたくない」
4/7 17:50
(後から書いた)
私は馬鹿だ。
離れても大丈夫だと思っていた。
シズと私なら大丈夫だと思っていた。
強いきずながあれば大丈夫だと思っていた。
逆だ。
私達のきずなは強い。
強すぎる。
そのせいで前に進めない。
4/7 18:00
戻りたい。卒業する前に戻りたい。
麻雀なんてどこでも打てるじゃん。
なんで私はシズを切り捨てたの?
死ね。私なんか死んじゃえ。
4/7 18:10
死にたい。もうやだ。
4/7 18:20
シズ。シズ。シズ。シズ。
4/7 18:30
今ならまだ転校できるんじゃないかな。
4/7 18:40
シズを苦しめるだけ苦しめて帰るの?
何がしたいの私。
もう死になよ。
4/7 18:50〜19:30
(後から書いた)
ごはん。食欲なかったけど
無理矢理食べた。
4/7 19:40
読み返してビビった。
ヤバい、私おかしくなってきてる。
落ち着かないと。
4/7 19:50
状況整理中。
4/7 20:00
決めたこと。
○3年後は阿知賀に転校する
×シズに会いたい
→会わない。麻雀死ぬ気で頑張る
日記を書けない時間は後でまとめて書く
シズの状況を知りたい
→とうちょうき
4/7 20:10
盗聴器について調べ中。
部屋にしかけるのは確定として、
学校にいる間はどうしよう。
制服はさすがにバレると思う。
携帯?でも、シズってよく携帯忘れるし…
4/7 20:20
盗聴器高い!私のお年玉がふっ飛ぶ!
こんなに高いんじゃ失敗したら次がない。
慎重に考えないと。
4/7 20:30
盗聴って難しいんだ…
動いている人を盗聴するなんて無理じゃん。
4/7 21:20
お風呂入ってきた。
日記を読み返して怖くなる。
なんで私、普通にシズを盗聴しようとしてるの?
どんどんおかしくなってきてる。
自分が怖い。
……
4/10 18:20
シズの部屋にWebカメラをしかけた。
部屋の中がばっちり見える。
登校中の対応はまた別に考えるとして、
しばらくはこれでがまんしよう。
4/10 18:30
シズ帰宅。私が来てたことを聞いて
しょんぼりしている。
私に会いたかったんだ。
うれしいな。
4/10 18:40
シズが泣いてる。
私に会いたいって泣いてる。
ずっと泣いてる。
4/10 18:50
まだ泣いてる。
シズ。
4/10 19:00
シズは泣きべそをかきながら
ごはんを食べに行った。
私もごはんに行こう。
泣き止まなくちゃ。
4/10 19:40
ごはんから戻ってくる。
シズは戻ってきていた。
シズは夢中でなにかを調べている。
4/10 19:50
シズ、盗聴器買おうとしてる。
シズもこわれていた。
私と同じだ。よかった。
4/10 20:00〜21:00
シズに電話した。
ものすごいビックリしてた。
さみしくなったから
電話したことにしておいた。
シズはずっと泣いてた。
それとなく盗聴器のことで
くぎをさしておいた。
だってあのメーカーのは
評判よくなかったはずから。
……
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
私は『穏乃日記 No.1』を読み終わると、
それを引き出しの中に大事にしまい込んだ。
読み返すたびに舌を巻く。我ながら、
これで中学一年生というのだから恐ろしい。
中一にしてすでに狂っているとか。
私は次にお気に入りのNo.7を手に取った。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
7/27 19:30
シズが珍しく机に向かって計画を立てている。
新子憧監禁計画らしい。
本人にバレバレなんだけど。
計画は単純。
明日私と山に遊びに行った時に、
隠れ家に私を閉じ込める。
どう考えてもうまくいくわけないんだけど、
シズの顔は真剣そのもの。
どうしたらいいんだろう。
7/27 19:40
私も真剣に考えてみた。
シズに捕まっていいのかどうか。
うまくいくなら私だって捕まりたい。
シズとずっと一緒にいたい。
でも無理だ。どう考えてもバレる。
私達が二人でいなくなったら
間違いなく山がそうさ対象になるだろうし、
そしたら隠れ家なんて絶対に探される。
7/27 19:50
どうすればシズを傷つけずに
かいひできるだろう。
シズ、私よりこわれ具合がひどい。
最近ずっと写真の私に話しかけてる。
これが失敗したら、シズが本格的に
おかしくなっちゃう気がする。
7/27 20:00
シズがおかしくなったら、
わたしのことだけ考えるようになって、
あれ、それってハッピーエンドじゃない?
7/27 20:10
こわれちゃったほうがいいんじゃないかな?
そしたらシズわたしのものになるんじゃないかな?
7/27 21:00
お風呂入ってきた。私はバカだ。
シズの幸せを考えない私はバカだ。
でも、ちょっと前の
私の気持ちも痛いくらいわかる。
そりゃそうか。自分なんだから。
7/27 21:10
シズ入眠。寝顔がかわいい。
危険な計画を机に出しっぱで寝る
おバカシズかわいい。
7/27 21:20
結論出ない。
もうつかまっちゃえば
いいんじゃないかな。
7/27 21:30
またあたまおかしくなってきた。
わけわからなくなる前に寝ちゃおう。
7/27 (全部後で書いた)
今日はシズと山に遊びに行った。
シズと遊ぶのは久しぶり。
シズは朝の5時にやってきて、
早く早くと私を急かした。
でもごはんがないと困るから
おにぎりを作って、
パンを食べてから出発した。
シズは明らかにきょどうふしんだった。
シズはあいかわらず私にうそがつけない。
隠れ家に行ってみようというシズの提案。
私はとりあえずOKした。
隠れ家に近づくたびに、
シズの目がギラギラしてくる。
こんなシズ、初めてみた。
正直ちょっとこわかった。
隠れ家に入る。隠れ家はきれいだった。
シズが掃除してたんだ。
シズ、本気でここに私を閉じ込める気なんだ。
しばらくシズと思い出をなつかしんでたら、
シズがおそいかかってきた。
こわかった。目がシズじゃなかった。
足がすくんだ。
シズが本気だしたら私がにげられるはずがない。
でもシズは泣いていた。
暗い目をして泣いていた。
私は正気に戻った。
私はシズを抱きしめた。
私はシズに言った。
「シズがしたいようにしていいよ」
って。
シズの目が元に戻った。
シズの目から涙があふれだした。
さっきとは比べ物にならない位。
シズは大泣きして私にすがりついた。
シズは結局私を開放した。
正気に戻ったんだと思う。
シズは根がいい子だから。
計画のことを話して私にあやまった。
私は許した。
シズは元に戻った。
これでよかったんだと思う。
…これでよかったんだ…
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
私はNo.7を読み終えた。
お気に入りではあるけれど、
何度読み返しても、もったいないことしたなと思う。
この日を境に、私達は少しずつ疎遠になっていく。
シズは自責の念から、私から遠ざかろうとし、
私はシズの幸せを願って身を引いた。
私から離れて正気に戻る方が、
きっとシズは幸せだと信じて。
せっかくシズが壊れかけていたのに。
私だけのものになりそうだったのに。
もし今の私がこの時に戻れるなら、
私はシズが襲い掛かってくるのを最大限利用するだろう。
そして事故を装って、一生消えない傷でも
こしらえるだろう。
そうすれば、今頃シズは私のものだったのに。
そこまで考えてふと我に返り、
醜い自分に嫌気がさす。
日記の中の純粋な自分に対して、
今の私はなんとまあドロドロに
なってしまったことだろう。
陰鬱な気持ちになりながら、私は部屋の時計を眺める。
後一冊くらいは読む時間がありそうだった。
順当にいけば2年の頃の奴だけど…
こんな気持ちの時に、2年の頃のはまずい。
本気で鬱モードに入ってしまう。
そうだ、最後の一冊は3年生のあの時の奴にしよう。
この頃ならもう私も今の私と変わらないはずだし。
私はNo.35を取り出した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
8/18
今日、シズから久しぶりに電話がかかってきた。
インターミドルの決勝を見ていたらしい。
「私もあの大会に出たい!」
なんて言いだすシズ。何言ってるのこの子。
今まさに私達の大会は全て終了したのに。
大人の態度で諭したら、
突然通話をブチ切られた。
まったくシズは変わってないんだから。
…それにしても、久しぶりにシズと話した。
なんとなく私は、一番最初の
『穏乃日記』を取り出して読み始めた。
読むんじゃなかった。
そこには、シズが大好きだった頃の私がいた。
私が大好きだった頃のシズがいた。
あれだけの苦労をして、
ようやく捨て去ったシズへの想いが、
瞬く間に蘇ってきてしまう。
だってシズ、まったく変わってないんだもの。
『穏乃日記』の冒頭には、
こんな文章が記されている。
『シズを観察して、10分おきにノートに記す。
将来シズと私の道が再び重なった時に、
シズと仲良く話せるように』
『シズへの愛を忘れないために』
中一の頃の私は、この展開を予想していたのだろうか。
ノートは見事に、本来の役目を果たすことになった。
冷静になって考えよう。今後シズが取り得る道を。
シズが晩成に来るのはありえない。
学力が足りなさすぎるから。
なら、越境してでも出場できそうな高校に入学する?
いや、それもありえない。
計算のできないシズは、阿知賀で麻雀部を再興して、
奇跡の大逆転に賭ける方を選ぶだろう。
その可能性はほぼ0%だけど。
なら、私のするべきことは一つだ。
もう一度、シズの横に立つ。
インターハイには、出られないかもしれない。
将来のキャリアを考えれば明らかに悪手かもしれない。
それでも私は、やっぱりシズの側に居たい。
今度はもう離れない。
例えシズを、壊してでも。
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8/19
シズへの想いを諦めてからは、
このノートはいつの間にか、
ただの日記になっていた。
これからはまた、シズへの愛を綴ろうと思う。
さすがに10分おきとかはやらないけど。
昔の私、漫画に影響されすぎ。
ていうか中一で未来日記の由乃に
共感するってどうなのよ。
先天的に壊れてるとしか思えないんだけど。
穏乃日記に戻ろう。
昨日会ったシズは、完全に正気を取り戻していた。
正直私はガッカリしたけど、
抱きついてきてくれたのでよしとする。
これからはできる限りシズと一緒にいよう。
大丈夫。シズもきっと、私と同じで普通じゃない。
私と一緒にいれば、またすぐあの頃に戻るはず。
……
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8/20
期待通りだった。シズは壊れてはいなかったけど、
やっぱりおかしいままだった。
『私と一緒にインターハイを目指す』
という大義名分を得たシズは、
周りの目を憚らず私にくっついてくる。
放課後。私はHRが終わってすぐ
駆け出したのに、すでに校門には
シズが待ち構えていた。
どうせ阿知賀に行くんだから
大人しく待ってればいいのに、
待ちきれないシズがかわいい。
ていうか、アンタ学校サボってない?
「遅い!阿知賀でインターハイ目指すんだから、
さっさとこっちに来なきゃダメだろ!」
言葉とは裏腹に満面の笑みで、
にっこにっこしながら私の手を引っ張るシズ。
かわいい。なにこれ。かわいい。
つい欲望を抑えきれずに、私はその指を
絡め取って、恋人繋ぎにしてしまった。
シズは何も言わなかったけど、
耳まで真っ赤にして走り出した。
ちょ、アンタが全力疾走したら
私引きずられちゃうじゃない。
……
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ふぅ」
私は満足気に息を吐くと、
No.35を引き出しに戻した。
日記のおかげで、私は幸せな気持ちで満たされる。
この幸せを継続させるために。
これからも、穏乃日記を書き続けるために。
私は目的を果たして戻ってこなければいけない。
ここでもう一度時計を見る。
時計は予定の時間を指していた。
さて、そろそろ出かけないと。
私は短い書き置きを残し、
大荷物を持って自分の部屋を抜け出した。
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--------------------------------------------------------
出迎えてくれた石戸さんは、私のお願いに対して、
明らかに難色を示した。
「新子さん…確かにあなたには、
私と同じ類の素質が見受けられるわ」
「な、なら!」
「でも、知ってるかもしれないけど…
私と同じと言うことは、
降ろせるのは神様じゃないわよ?
はっきり言ってしまえば鬼」
「目的が達成できるなら神様でも鬼でもかまいません!」
「…あなた、危ういわね…
鬼を降ろすのにもっとも大切なのは、
流水のように穏やかな心よ?」
「正直、今のあなたの精神状態では、
降ろすのは自殺行為だと思うのだけれど…」
「命を失う覚悟はできてます!
今なんとかしなかったら、シズが死んでしまうんです!
こうしてる間にも、シズは死んでるかもしれない!」
「…しかたないわね。じゃあ、これに署名してちょうだい」
不惜身命で事に臨む私に対して、
石戸さんは一枚の紙切れを差し出した。
「死亡…同意書ですか…」
「心を鎮められないなら、逆に荒ぶる心で
鬼をねじ伏せるしかないわ。
でも、その方法で生き残れる可能性は1%もない」
「できれば、考え直してほしいのだけれど…」
つまり、まず死ぬからやめとけということだ。
でも、そんな脅しで諦めるわけにはいかない。
ここで諦めたら、代わりにシズが死んでしまうのだから。
「…書きました」
「……そう。もう何も言わないわ。
生きて帰ってくるのを祈っています」
石戸さんはかぶりを振ると、
自らの装束をひるがして、
何かしら冒涜的な詞(ことば)を読み上げた。
そして、私に向かってその手を降り下ろす。
刹那、私の視界全てを稲光が支配して。
私の中に、何かがずるりと入り込んできた。
私はいきなり、おびただしい血を吐いた。
--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
結論から言えば、私は無事
能力を身につけることができた。
一人の女性を病的なまでに愛し続けるその健気さが
鬼のお気に召したらしい。
鬼と意気投合するという自分の存在に
少し疑問を感じなくもないけれど。
もっとも石戸さんいわく、
あの鬼は相当高位の神格だったらしく、
気に入られなければ一瞬で屠られていたらしいので
結果オーライとする。
私は、ほぼ希望通りの能力を手に入れた。
それは、私が中学校初期に書いていた
『穏乃日記』そのままで。
今の私は、シズの未来を
10分間隔でノートに記すことができる。
この能力があれば、シズを救うことができる。
私はさっそく穏乃日記を広げて、
鉛筆を手に取った。
私の意思とは無関係に右手が動き出し、
穏乃の未来が書き込まれていく…
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
9/19 20:10
シズがイライラしている。
私の居場所がわからなくて。
私の目的がわからなくてイライラしている。
ごめんね。でも、アンタが死ぬから
食い止める方法探してくるとか
とても本人には言えないでしょ?
9/19 20:20
シズが何かブツブツつぶやいている。
憧は私のことがわかるのに私は何で…
憧、憧、あこ、あこ…
穏乃の目から光が消えていく。
9/19 20:30
シズの目が濁っている。
やっぱり盗聴器とか仕掛けとくべきだったんだ、
とかつぶやいている。
あれ?シズ、いつの間にそんなに病んでたの?
ヤバ…嬉しすぎるかも。
9/19 20:40
シズがふらふらと外に出る。
こんな時間にどこにいくつもりなの?
9/19 20:50
シズが私の家の周りをうろうろしている。
部屋に灯りがついてないか見てるみたい。
シズがストーカーかわいい。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
予想していたのとはだいぶ違った内容が
書き上げられて、思わず頬がゆるんでしまう。
え、シズ…私がいなくなって病み始めてる?
確かに再会してからはずっと一緒に居たし、
シズは離れようとしなかったけど…
まあでも、昔Webカメラで見てた頃も
こんな感じだったし、実は家では
いつもこんな感じなのかもしれない。
私の横で日記を読んだ石戸さんが
慌てた声で私を急かした。
「…早く帰ってあげなさい。
私の経験から言うと、この子鬼に堕ちる寸前よ?
後少しで戻ってこれなくなるわ」
何それ望むところなんだけど。
とか思いながらも、私は帰り支度をすることにした。
--------------------------------------------------------
戻ってきた私は、6時間おきにひたすら
日記を書き続けた。
いつシズの死が訪れるかわからない以上、
シズの未来を24時間365日監視する必要がある。
でも、その未来は意外とすぐ予知された。
それは、お昼ごはんをたいらげて、
一人静かに部室で日記を
記録していた時のことだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
9/23 15:00
シズと一緒に廊下を歩く。
意味もなく私の周りをグルグル回るシズ。
元気があり余ってるシズがかわいい。
9/23 15:10
シズが血まみれで倒れている。
ガラスの破片。転がったボール。
シズはピクリとも動かない。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「こっ…こ、これだ!!」
明確に記されたシズの結末。
全身から一気にぶわっと嫌な汗が噴き出した。
私は鉛筆を取り落とす。手の震えが止まらない。
このままでは今日、シズは死ぬ。
何が何でも、この未来を変えなければいけない。
私が、シズの命を救うんだ!
--------------------------------------------------------
15時。私はシズを見つけると、
すぐに窓から引き離そうとした。
「し、シズ!ソフトボール部が練習してる!
窓側に居ると危ないからこっち来て!」
「へ?そんなのいつものことじゃん。
それに、ボールくらい私の動体視力なら
華麗にかわしt」
何も知らないシズは片足を上げて
身をかわす素振りを見せつつも、
窓際から離れようとしない。
バカッ!!アンタ次の瞬間死んじゃうのよ!?
「早く!!こっち来て!!
お願いだから!!」ぐいっ!
「ちょっ、なんでそんな必死n」
ぐいっと手を引かれ、
バランスを崩して前のめりになるシズ。
ガシャーンッ!!!
その瞬間、それまでシズの頭があった座標を、
ボールの弾丸が通り抜けていった。
「うわっ、あぶなっ!!」
「ほ、ほら…あ、あそこに居たら、
お、大けがしてたじゃない…
大事に至らなくてよかったわ…」
よかった。本当によかった。
私は最悪の未来を回避することができた。
気が抜けた私は、一面にガラスが
散らばっているにも関わらず、
その場にぺたんと座り込んでしまう。
「憧…お前、なんで泣いて…!」
状況が飲み込めないシズは、
ただただ、戸惑いの表情を浮かべてうろたえていた。
--------------------------------------------------------
こうして私は、未来を変えることに成功した。
しかし、私のやり方は最善とは言いがたかった。
もっと、私の能力を悟らせないで
シズを助ける方法があったはずだった。
例えばシズに前もって、
『今日は私を迎えに来ないで、
そのまま教室に留まっていてほしい』
と連絡しておくとか。
でも、極限まで緊張していた私は、
シズに能力を悟られないようにする工作にまで
思考を行き届かせることができず。
結果、シズはこの結果に対し、
おおいに疑問を抱くことになる。
「ね、ねえ、憧…もしかして本当に、
私の未来が見えてるんじゃないの…?」
私の目を覗きこむシズの目が、
そう私に問いかけていた。
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この能力をシズに明かすべきかどうか。
それは以前から悩んでいたことだった。
シズが、そのせいで悩んでいるのは知っていた。
それに、以前仮定の話で問いかけた時、
シズははにかみながら、『私ならいい』と
受け入れてくれた。
でも臆病な私は、
あと一歩を踏み出すことができなかった。
だって、仮定と現実は別物だ。
実際本当に予知できるとなったら、
気味悪がられるかもしれない。
捨てられてしまうかもしれない。
それでも、私はどこまでもシズ第一主義で。
シズが本気で知りたがっている以上、
私には隠し通すことはできない。
これ以上、シズを悩ませたくない。
シズに打ち明けよう。
それで気味悪がられたら諦めよう。
私は精一杯の虚勢を張りながら、
縮みこむ心を奮い立たせて、
努めて冷静な声を出した。
「そうよ」
「アンタの言う通り。私は本物の超能力者になった」
そう言って、私は『穏乃日記』をシズに差し出した。
--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
シズは私を受け入れてくれた。
ただ、受け入れてくれたのはいいんだけど、
ちょっと受け入れすぎて突き抜けてしまった。
「だって、もう憧には隠し事できないんでしょ?」
「だったら私は、開き直る!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
9/25 15:20
玄と話している私を見て、
シズが焼きもちを妬いている。
私以外の人と話すなよって?
無茶言わないでよ…
でも焼きもちを妬くシズもかわいい。
9/25 15:30
シズに引き離された。
無理矢理手をとって屋上に連れていかれる。
シズ以外に笑いかけた罰として
100回キスしろって?
9/25 15:40
キスが終わらない。
9/25 15:50
本当に100回キスされて
トロけて動けなくなっちゃうシズかわいい。
9/25 16:00
腰砕けにした責任とって
お姫様だっこで帰れって?
女子高生の腕力にどんだけ期待してるのよ。
でも、乙女シズかわいい。
9/25 16:10
校門前で力尽きる。復活したシズと交代。
9/25 16:20
お姫様だっこ中。これ絶対噂になるわ…
自分でやっておいて
顔が真っ赤なシズがかわいい。
……
9/27 18:10
私の部屋への監視カメラの設置、
私の携帯への盗聴アプリの
インストールを主張するシズ。
自分だけ知られているのは不公平だとのこと。
私を束縛したがるシズがかわいい。
……
9/27 20:30
お風呂へのカメラ設置を主張するシズ。
私の裸に興味津々なシズかわいい。
でもシズ、それって私だけじゃなくて
うちの家族全員の裸体を見る羽目になるのよ?
9/27 20:40
さっきメールしたのは誰だと詰問するシズ。
私以外にメールするなとかのたまうシズ。
ヤンデレるシズかわいい。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
この通り、もはや隠すものがないシズは、
遠慮することなく私を束縛するようになった。
中学時代からその片鱗はあったけど、
正直ここまでとは思ってなかった。
もしかしたら私よりも、
よっぽどシズの方が重症なのかもしれない。
もっとも、シズがどんな狂った行動に出ても、
大半を『シズかわいい』で締め括る私も同類か。
「さ、今日のシズはどんな感じで
私を縛り付けてくるのかな?」
そして今日も、私は綴る。
愛する人の未来を記す日記…『穏乃日記』を。
(完)
私、新子憧は、ある日記をつけている。
それは、愛する人の観察日記…
通称、『穏乃日記』。
<登場人物>
高鴨穏乃,新子憧
<症状>
・ヤンデレ
・狂気
・共依存
・異常行動
<その他>
※以下のリクエストに対する作品です(実はこちらが本編)。
・穏憧。中学時代、憧がシズを観察していて、
未来日記の由乃みたいに穏乃日記をつけてて、その内容。
※ただし本作品は未来日記の世界とは無関係なので、
未来日記を知らなくても全然問題ありません。
※『穏乃「穏乃日記…?」』と対になってます。
あまあまで終わりたい人は
こちらは読まないことをおすすめします。
あ、でもハッピーエンドです。
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いきなりだけど、私の家は神社を営んでいる。
つまり私は、実は巫女だったりする。
ほとんど手伝わないし、修行もしない不良巫女だけど。
そんな実家との関係もあって、
シズは私の事を超能力者ではないかと
疑っているようだった。
『憧、もしかして私の未来が視えるの!?』
なんてシズに詰め寄られたことも、
一度や二度じゃない。
でも、それは単に中学時代にシズを観察しまくった副産物で。
しぐさや声音なんかのちょっとした情報さえあれば、
シズの考えは丸わかりってだけだったりする。
そもそも修行もしない不良巫女なんかが
神様に力を授けてもらえるはずもなく。
結局、私はただの一般人に過ぎない。
…そう思っていたのだけれど。
実際には、なぜか神様は私みたいな不良巫女にも
力を授けてくれたようだった。
ある日、私は夢を見た。
それは、ひどくおぼろげな、
それでいて生々しいという矛盾した夢。
--------------------------------------------------------
シズが血まみれになっている
あたりにはガラスが散らばっている
シズは動かない
血のシミが、じわりじわりと床に広がっていく
「っいやぁあああああああぁあああああっ!!!!!」
自身の絶叫と共に、私はガバッと飛び起きた。
「はッ、はッ、はッ、はッ」
あまりの衝撃に浅くなる呼吸を、
胸を抑えつつ整える。
私は直感的に、これが予知夢であることを悟った。
このままじゃ、近い未来にシズは死ぬ。
私の心の中が絶望に塗りこめられていく。
だって、肝心の情報がまるでつかめてないのだ。
これはいつ起きること?
どこで起きること?
どんな状況で?
なんでこんなことに?
何もわからないままだった。
わかるのは、シズが血を流して死ぬこと。
それだけ。
私は恐怖に震えながらも、
再度夢を見ようと布団をかぶる。
でも極度の興奮状態に陥った私は、
眠りに落ちることすらできなくて。
結局私は、ただガタガタ震えているうちに
朝を迎えてしまった。
--------------------------------------------------------
寝不足と恐怖でおぼつかない足取りのまま
部室に赴いた私。
「おつかれー」
私が顔を見せるや否や、シズが私に詰め寄ってくる。
「あ、憧!お前本当は超能力者だろ!
正体を見せろ!」
私は思わずため息をついた。
もし私にそんな能力があったなら、
私は今頃こんなに憔悴しきってないわよ。
ていうか、この話題もう何度目よ?
「逆に聞きたいんだけど、
どうしてアンタは私をそこまで超能力者にしたいの?
しかもアンタ限定の」
「…だ、だって、憧れるじゃん超能力者!」
そう言って、なぜかもじもじと頬を染めるシズ。
あー、これもしかして自分のことヒロインとか考えてる?
乙女シズかわいい。
「…その代わり私はアンタのトイレとかお風呂とか
覗き放題になるわけだけど、
それについてコメントは?」
「あ…憧なら…いいよ?」
シズがどこまでも畳み掛けてくる。
シズのこの不意打ち回答に、
反射的に涙腺がゆるんで、目の端に涙が浮かぶ。
駄目、普通の反応しないと。
「……いや、その回答はこっちが引くわ」
「…まあでも、そうね…」
「もしそんな能力があったら、
私がアンタを守ってあげるわ」
「ホント!?絶対だからな!」
そこで会話はお開きになった。
でも、この会話は私に対して一つの気づきを与えた。
『そうだ…本当に能力者になれば…!』
いつもなら、いやいや私はシズレベルか、
なんて一刀両断したくなるところだけど。
世の中には麻雀で一巡先を見るような人もいるし、
神を降ろすような巫女も実在する。
何より私は、シズが死ぬ未来を視てしまった。
このままでは、いつシズが死ぬかわからないまま、
ただその時を待ち続けるしかない。
対応するには、オカルトを身につけるしかない。
しかも、一刻も早く。
私は、旅立つことにした。
目指すは鹿児島。
そこには、神降ろしの巫女がいる。
生きて帰れるかはわからなかった。
前に会った時、園城寺さんはこう言っていた。
『死にかけてから、未来が視えるようになった』
私が能力を手に入れるためにも、
死にかける必要があるかもしれない。
場合によっては、そのまま死んでしまうかもしれない。
私は思わず身震いする。
何か、自分を勇気づける後押しが欲しかった。
「…そうだ。『穏乃日記』読もう」
夜行バスの出発時間まで、まだだいぶ時間がある。
私は、自分に気合を入れるために、
引き出しからあるノートを取り出した。
そう、それは…
私が中学校の頃から書き続けている日記…
『穏乃日記』。
私は一番最初のNo.1を手に取って、
最初のページから読み始めた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
4/3 8:00
今日から私は、シズとはなればなれになる。
さみしい。
だから私は、日記をつけようと思う。
それは、愛する人の観察日記…
通称、『穏乃日記』。
4/3 8:10
シズを観察して、10分おきにノートに記す。
将来シズと私の道が再び重なった時に、
シズと仲良く話せるように。
4/3 8:20
残念だけど、学校にいる間はシズを
観察することはできないから、
シズに対する愛を書いていこうと思う。
シズへの愛を忘れないために。
4/3 8:30
今日の朝、シズはいつもの場所にいなかった。
違う。いたのかもしれない。
ただ、私と通学時間がずれただけかもしれない。
私は阿太みねに通うことになったから。
ほんの少しのずれが、ひどく悲しい。
4/3 8:40
今までだって、別に学校にいる間
ずっと一緒だったわけじゃない。
なのになんでこんなに苦しいんだろう。
なんでこんなに泣きたくなるんだろう。
シズに会いたい。
……
4/3 15:00
放課後になった。シズに会いに行こう。
早く捕まえないと。山に行かれたらおしまいだ。
4/3 15:10
(後から書いた)
シズに会うために走る。
リアルタイムで書いてる余裕はない。
こういう時の対処を考える必要がありそう。
4/3 15:20
(後から書いた)
シズを見つけた。和、玄と話している。
なぜ私はあの輪にいないんだろう。
4/3 15:30
(後から書いた)
シズはさみしそうだった。
私がいないから、四人で卓を囲めないのだ。
シズは元気がなかった。
私がいないから。
それでもシズは、私の事を思っていてくれた。
「憧は、麻雀で強くなるために
阿太みねに行って頑張ってるんだ。
私がわがまま言ってじゃましちゃいけない」
4/3 15:40
私は何をやっているんだろう。
シズはあんなに私のことを考えてくれているのに。
シズには会わずに帰った。
……
4/7 17:10
(後から書いた)
阿太みねは平均的に強かった。
でもすごく強い人はいなかった。
しかも、ここにはハルエがいない。
私は強くなれるのだろうか。
4/7 17:20
(後から書いた)
とぼとぼ。
ぐだぐだどうでもいいことを
考えてたと思う。
4/7 17:30
(後から書いた)
シズがいた!!
4/7 17:40
(後から書いた)
シズが泣いていた。
さみしいって泣いていた。
私もさみしいって泣いた。
それでもシズは言った。
「憧の足かせになりたくない」
4/7 17:50
(後から書いた)
私は馬鹿だ。
離れても大丈夫だと思っていた。
シズと私なら大丈夫だと思っていた。
強いきずながあれば大丈夫だと思っていた。
逆だ。
私達のきずなは強い。
強すぎる。
そのせいで前に進めない。
4/7 18:00
戻りたい。卒業する前に戻りたい。
麻雀なんてどこでも打てるじゃん。
なんで私はシズを切り捨てたの?
死ね。私なんか死んじゃえ。
4/7 18:10
死にたい。もうやだ。
4/7 18:20
シズ。シズ。シズ。シズ。
4/7 18:30
今ならまだ転校できるんじゃないかな。
4/7 18:40
シズを苦しめるだけ苦しめて帰るの?
何がしたいの私。
もう死になよ。
4/7 18:50〜19:30
(後から書いた)
ごはん。食欲なかったけど
無理矢理食べた。
4/7 19:40
読み返してビビった。
ヤバい、私おかしくなってきてる。
落ち着かないと。
4/7 19:50
状況整理中。
4/7 20:00
決めたこと。
○3年後は阿知賀に転校する
×シズに会いたい
→会わない。麻雀死ぬ気で頑張る
日記を書けない時間は後でまとめて書く
シズの状況を知りたい
→とうちょうき
4/7 20:10
盗聴器について調べ中。
部屋にしかけるのは確定として、
学校にいる間はどうしよう。
制服はさすがにバレると思う。
携帯?でも、シズってよく携帯忘れるし…
4/7 20:20
盗聴器高い!私のお年玉がふっ飛ぶ!
こんなに高いんじゃ失敗したら次がない。
慎重に考えないと。
4/7 20:30
盗聴って難しいんだ…
動いている人を盗聴するなんて無理じゃん。
4/7 21:20
お風呂入ってきた。
日記を読み返して怖くなる。
なんで私、普通にシズを盗聴しようとしてるの?
どんどんおかしくなってきてる。
自分が怖い。
……
4/10 18:20
シズの部屋にWebカメラをしかけた。
部屋の中がばっちり見える。
登校中の対応はまた別に考えるとして、
しばらくはこれでがまんしよう。
4/10 18:30
シズ帰宅。私が来てたことを聞いて
しょんぼりしている。
私に会いたかったんだ。
うれしいな。
4/10 18:40
シズが泣いてる。
私に会いたいって泣いてる。
ずっと泣いてる。
4/10 18:50
まだ泣いてる。
シズ。
4/10 19:00
シズは泣きべそをかきながら
ごはんを食べに行った。
私もごはんに行こう。
泣き止まなくちゃ。
4/10 19:40
ごはんから戻ってくる。
シズは戻ってきていた。
シズは夢中でなにかを調べている。
4/10 19:50
シズ、盗聴器買おうとしてる。
シズもこわれていた。
私と同じだ。よかった。
4/10 20:00〜21:00
シズに電話した。
ものすごいビックリしてた。
さみしくなったから
電話したことにしておいた。
シズはずっと泣いてた。
それとなく盗聴器のことで
くぎをさしておいた。
だってあのメーカーのは
評判よくなかったはずから。
……
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
私は『穏乃日記 No.1』を読み終わると、
それを引き出しの中に大事にしまい込んだ。
読み返すたびに舌を巻く。我ながら、
これで中学一年生というのだから恐ろしい。
中一にしてすでに狂っているとか。
私は次にお気に入りのNo.7を手に取った。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
7/27 19:30
シズが珍しく机に向かって計画を立てている。
新子憧監禁計画らしい。
本人にバレバレなんだけど。
計画は単純。
明日私と山に遊びに行った時に、
隠れ家に私を閉じ込める。
どう考えてもうまくいくわけないんだけど、
シズの顔は真剣そのもの。
どうしたらいいんだろう。
7/27 19:40
私も真剣に考えてみた。
シズに捕まっていいのかどうか。
うまくいくなら私だって捕まりたい。
シズとずっと一緒にいたい。
でも無理だ。どう考えてもバレる。
私達が二人でいなくなったら
間違いなく山がそうさ対象になるだろうし、
そしたら隠れ家なんて絶対に探される。
7/27 19:50
どうすればシズを傷つけずに
かいひできるだろう。
シズ、私よりこわれ具合がひどい。
最近ずっと写真の私に話しかけてる。
これが失敗したら、シズが本格的に
おかしくなっちゃう気がする。
7/27 20:00
シズがおかしくなったら、
わたしのことだけ考えるようになって、
あれ、それってハッピーエンドじゃない?
7/27 20:10
こわれちゃったほうがいいんじゃないかな?
そしたらシズわたしのものになるんじゃないかな?
7/27 21:00
お風呂入ってきた。私はバカだ。
シズの幸せを考えない私はバカだ。
でも、ちょっと前の
私の気持ちも痛いくらいわかる。
そりゃそうか。自分なんだから。
7/27 21:10
シズ入眠。寝顔がかわいい。
危険な計画を机に出しっぱで寝る
おバカシズかわいい。
7/27 21:20
結論出ない。
もうつかまっちゃえば
いいんじゃないかな。
7/27 21:30
またあたまおかしくなってきた。
わけわからなくなる前に寝ちゃおう。
7/27 (全部後で書いた)
今日はシズと山に遊びに行った。
シズと遊ぶのは久しぶり。
シズは朝の5時にやってきて、
早く早くと私を急かした。
でもごはんがないと困るから
おにぎりを作って、
パンを食べてから出発した。
シズは明らかにきょどうふしんだった。
シズはあいかわらず私にうそがつけない。
隠れ家に行ってみようというシズの提案。
私はとりあえずOKした。
隠れ家に近づくたびに、
シズの目がギラギラしてくる。
こんなシズ、初めてみた。
正直ちょっとこわかった。
隠れ家に入る。隠れ家はきれいだった。
シズが掃除してたんだ。
シズ、本気でここに私を閉じ込める気なんだ。
しばらくシズと思い出をなつかしんでたら、
シズがおそいかかってきた。
こわかった。目がシズじゃなかった。
足がすくんだ。
シズが本気だしたら私がにげられるはずがない。
でもシズは泣いていた。
暗い目をして泣いていた。
私は正気に戻った。
私はシズを抱きしめた。
私はシズに言った。
「シズがしたいようにしていいよ」
って。
シズの目が元に戻った。
シズの目から涙があふれだした。
さっきとは比べ物にならない位。
シズは大泣きして私にすがりついた。
シズは結局私を開放した。
正気に戻ったんだと思う。
シズは根がいい子だから。
計画のことを話して私にあやまった。
私は許した。
シズは元に戻った。
これでよかったんだと思う。
…これでよかったんだ…
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
私はNo.7を読み終えた。
お気に入りではあるけれど、
何度読み返しても、もったいないことしたなと思う。
この日を境に、私達は少しずつ疎遠になっていく。
シズは自責の念から、私から遠ざかろうとし、
私はシズの幸せを願って身を引いた。
私から離れて正気に戻る方が、
きっとシズは幸せだと信じて。
せっかくシズが壊れかけていたのに。
私だけのものになりそうだったのに。
もし今の私がこの時に戻れるなら、
私はシズが襲い掛かってくるのを最大限利用するだろう。
そして事故を装って、一生消えない傷でも
こしらえるだろう。
そうすれば、今頃シズは私のものだったのに。
そこまで考えてふと我に返り、
醜い自分に嫌気がさす。
日記の中の純粋な自分に対して、
今の私はなんとまあドロドロに
なってしまったことだろう。
陰鬱な気持ちになりながら、私は部屋の時計を眺める。
後一冊くらいは読む時間がありそうだった。
順当にいけば2年の頃の奴だけど…
こんな気持ちの時に、2年の頃のはまずい。
本気で鬱モードに入ってしまう。
そうだ、最後の一冊は3年生のあの時の奴にしよう。
この頃ならもう私も今の私と変わらないはずだし。
私はNo.35を取り出した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
8/18
今日、シズから久しぶりに電話がかかってきた。
インターミドルの決勝を見ていたらしい。
「私もあの大会に出たい!」
なんて言いだすシズ。何言ってるのこの子。
今まさに私達の大会は全て終了したのに。
大人の態度で諭したら、
突然通話をブチ切られた。
まったくシズは変わってないんだから。
…それにしても、久しぶりにシズと話した。
なんとなく私は、一番最初の
『穏乃日記』を取り出して読み始めた。
読むんじゃなかった。
そこには、シズが大好きだった頃の私がいた。
私が大好きだった頃のシズがいた。
あれだけの苦労をして、
ようやく捨て去ったシズへの想いが、
瞬く間に蘇ってきてしまう。
だってシズ、まったく変わってないんだもの。
『穏乃日記』の冒頭には、
こんな文章が記されている。
『シズを観察して、10分おきにノートに記す。
将来シズと私の道が再び重なった時に、
シズと仲良く話せるように』
『シズへの愛を忘れないために』
中一の頃の私は、この展開を予想していたのだろうか。
ノートは見事に、本来の役目を果たすことになった。
冷静になって考えよう。今後シズが取り得る道を。
シズが晩成に来るのはありえない。
学力が足りなさすぎるから。
なら、越境してでも出場できそうな高校に入学する?
いや、それもありえない。
計算のできないシズは、阿知賀で麻雀部を再興して、
奇跡の大逆転に賭ける方を選ぶだろう。
その可能性はほぼ0%だけど。
なら、私のするべきことは一つだ。
もう一度、シズの横に立つ。
インターハイには、出られないかもしれない。
将来のキャリアを考えれば明らかに悪手かもしれない。
それでも私は、やっぱりシズの側に居たい。
今度はもう離れない。
例えシズを、壊してでも。
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8/19
シズへの想いを諦めてからは、
このノートはいつの間にか、
ただの日記になっていた。
これからはまた、シズへの愛を綴ろうと思う。
さすがに10分おきとかはやらないけど。
昔の私、漫画に影響されすぎ。
ていうか中一で未来日記の由乃に
共感するってどうなのよ。
先天的に壊れてるとしか思えないんだけど。
穏乃日記に戻ろう。
昨日会ったシズは、完全に正気を取り戻していた。
正直私はガッカリしたけど、
抱きついてきてくれたのでよしとする。
これからはできる限りシズと一緒にいよう。
大丈夫。シズもきっと、私と同じで普通じゃない。
私と一緒にいれば、またすぐあの頃に戻るはず。
……
--------------------------------------------
8/20
期待通りだった。シズは壊れてはいなかったけど、
やっぱりおかしいままだった。
『私と一緒にインターハイを目指す』
という大義名分を得たシズは、
周りの目を憚らず私にくっついてくる。
放課後。私はHRが終わってすぐ
駆け出したのに、すでに校門には
シズが待ち構えていた。
どうせ阿知賀に行くんだから
大人しく待ってればいいのに、
待ちきれないシズがかわいい。
ていうか、アンタ学校サボってない?
「遅い!阿知賀でインターハイ目指すんだから、
さっさとこっちに来なきゃダメだろ!」
言葉とは裏腹に満面の笑みで、
にっこにっこしながら私の手を引っ張るシズ。
かわいい。なにこれ。かわいい。
つい欲望を抑えきれずに、私はその指を
絡め取って、恋人繋ぎにしてしまった。
シズは何も言わなかったけど、
耳まで真っ赤にして走り出した。
ちょ、アンタが全力疾走したら
私引きずられちゃうじゃない。
……
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ふぅ」
私は満足気に息を吐くと、
No.35を引き出しに戻した。
日記のおかげで、私は幸せな気持ちで満たされる。
この幸せを継続させるために。
これからも、穏乃日記を書き続けるために。
私は目的を果たして戻ってこなければいけない。
ここでもう一度時計を見る。
時計は予定の時間を指していた。
さて、そろそろ出かけないと。
私は短い書き置きを残し、
大荷物を持って自分の部屋を抜け出した。
--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
出迎えてくれた石戸さんは、私のお願いに対して、
明らかに難色を示した。
「新子さん…確かにあなたには、
私と同じ類の素質が見受けられるわ」
「な、なら!」
「でも、知ってるかもしれないけど…
私と同じと言うことは、
降ろせるのは神様じゃないわよ?
はっきり言ってしまえば鬼」
「目的が達成できるなら神様でも鬼でもかまいません!」
「…あなた、危ういわね…
鬼を降ろすのにもっとも大切なのは、
流水のように穏やかな心よ?」
「正直、今のあなたの精神状態では、
降ろすのは自殺行為だと思うのだけれど…」
「命を失う覚悟はできてます!
今なんとかしなかったら、シズが死んでしまうんです!
こうしてる間にも、シズは死んでるかもしれない!」
「…しかたないわね。じゃあ、これに署名してちょうだい」
不惜身命で事に臨む私に対して、
石戸さんは一枚の紙切れを差し出した。
「死亡…同意書ですか…」
「心を鎮められないなら、逆に荒ぶる心で
鬼をねじ伏せるしかないわ。
でも、その方法で生き残れる可能性は1%もない」
「できれば、考え直してほしいのだけれど…」
つまり、まず死ぬからやめとけということだ。
でも、そんな脅しで諦めるわけにはいかない。
ここで諦めたら、代わりにシズが死んでしまうのだから。
「…書きました」
「……そう。もう何も言わないわ。
生きて帰ってくるのを祈っています」
石戸さんはかぶりを振ると、
自らの装束をひるがして、
何かしら冒涜的な詞(ことば)を読み上げた。
そして、私に向かってその手を降り下ろす。
刹那、私の視界全てを稲光が支配して。
私の中に、何かがずるりと入り込んできた。
私はいきなり、おびただしい血を吐いた。
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--------------------------------------------------------
結論から言えば、私は無事
能力を身につけることができた。
一人の女性を病的なまでに愛し続けるその健気さが
鬼のお気に召したらしい。
鬼と意気投合するという自分の存在に
少し疑問を感じなくもないけれど。
もっとも石戸さんいわく、
あの鬼は相当高位の神格だったらしく、
気に入られなければ一瞬で屠られていたらしいので
結果オーライとする。
私は、ほぼ希望通りの能力を手に入れた。
それは、私が中学校初期に書いていた
『穏乃日記』そのままで。
今の私は、シズの未来を
10分間隔でノートに記すことができる。
この能力があれば、シズを救うことができる。
私はさっそく穏乃日記を広げて、
鉛筆を手に取った。
私の意思とは無関係に右手が動き出し、
穏乃の未来が書き込まれていく…
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
9/19 20:10
シズがイライラしている。
私の居場所がわからなくて。
私の目的がわからなくてイライラしている。
ごめんね。でも、アンタが死ぬから
食い止める方法探してくるとか
とても本人には言えないでしょ?
9/19 20:20
シズが何かブツブツつぶやいている。
憧は私のことがわかるのに私は何で…
憧、憧、あこ、あこ…
穏乃の目から光が消えていく。
9/19 20:30
シズの目が濁っている。
やっぱり盗聴器とか仕掛けとくべきだったんだ、
とかつぶやいている。
あれ?シズ、いつの間にそんなに病んでたの?
ヤバ…嬉しすぎるかも。
9/19 20:40
シズがふらふらと外に出る。
こんな時間にどこにいくつもりなの?
9/19 20:50
シズが私の家の周りをうろうろしている。
部屋に灯りがついてないか見てるみたい。
シズがストーカーかわいい。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
予想していたのとはだいぶ違った内容が
書き上げられて、思わず頬がゆるんでしまう。
え、シズ…私がいなくなって病み始めてる?
確かに再会してからはずっと一緒に居たし、
シズは離れようとしなかったけど…
まあでも、昔Webカメラで見てた頃も
こんな感じだったし、実は家では
いつもこんな感じなのかもしれない。
私の横で日記を読んだ石戸さんが
慌てた声で私を急かした。
「…早く帰ってあげなさい。
私の経験から言うと、この子鬼に堕ちる寸前よ?
後少しで戻ってこれなくなるわ」
何それ望むところなんだけど。
とか思いながらも、私は帰り支度をすることにした。
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戻ってきた私は、6時間おきにひたすら
日記を書き続けた。
いつシズの死が訪れるかわからない以上、
シズの未来を24時間365日監視する必要がある。
でも、その未来は意外とすぐ予知された。
それは、お昼ごはんをたいらげて、
一人静かに部室で日記を
記録していた時のことだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
9/23 15:00
シズと一緒に廊下を歩く。
意味もなく私の周りをグルグル回るシズ。
元気があり余ってるシズがかわいい。
9/23 15:10
シズが血まみれで倒れている。
ガラスの破片。転がったボール。
シズはピクリとも動かない。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「こっ…こ、これだ!!」
明確に記されたシズの結末。
全身から一気にぶわっと嫌な汗が噴き出した。
私は鉛筆を取り落とす。手の震えが止まらない。
このままでは今日、シズは死ぬ。
何が何でも、この未来を変えなければいけない。
私が、シズの命を救うんだ!
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15時。私はシズを見つけると、
すぐに窓から引き離そうとした。
「し、シズ!ソフトボール部が練習してる!
窓側に居ると危ないからこっち来て!」
「へ?そんなのいつものことじゃん。
それに、ボールくらい私の動体視力なら
華麗にかわしt」
何も知らないシズは片足を上げて
身をかわす素振りを見せつつも、
窓際から離れようとしない。
バカッ!!アンタ次の瞬間死んじゃうのよ!?
「早く!!こっち来て!!
お願いだから!!」ぐいっ!
「ちょっ、なんでそんな必死n」
ぐいっと手を引かれ、
バランスを崩して前のめりになるシズ。
ガシャーンッ!!!
その瞬間、それまでシズの頭があった座標を、
ボールの弾丸が通り抜けていった。
「うわっ、あぶなっ!!」
「ほ、ほら…あ、あそこに居たら、
お、大けがしてたじゃない…
大事に至らなくてよかったわ…」
よかった。本当によかった。
私は最悪の未来を回避することができた。
気が抜けた私は、一面にガラスが
散らばっているにも関わらず、
その場にぺたんと座り込んでしまう。
「憧…お前、なんで泣いて…!」
状況が飲み込めないシズは、
ただただ、戸惑いの表情を浮かべてうろたえていた。
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こうして私は、未来を変えることに成功した。
しかし、私のやり方は最善とは言いがたかった。
もっと、私の能力を悟らせないで
シズを助ける方法があったはずだった。
例えばシズに前もって、
『今日は私を迎えに来ないで、
そのまま教室に留まっていてほしい』
と連絡しておくとか。
でも、極限まで緊張していた私は、
シズに能力を悟られないようにする工作にまで
思考を行き届かせることができず。
結果、シズはこの結果に対し、
おおいに疑問を抱くことになる。
「ね、ねえ、憧…もしかして本当に、
私の未来が見えてるんじゃないの…?」
私の目を覗きこむシズの目が、
そう私に問いかけていた。
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この能力をシズに明かすべきかどうか。
それは以前から悩んでいたことだった。
シズが、そのせいで悩んでいるのは知っていた。
それに、以前仮定の話で問いかけた時、
シズははにかみながら、『私ならいい』と
受け入れてくれた。
でも臆病な私は、
あと一歩を踏み出すことができなかった。
だって、仮定と現実は別物だ。
実際本当に予知できるとなったら、
気味悪がられるかもしれない。
捨てられてしまうかもしれない。
それでも、私はどこまでもシズ第一主義で。
シズが本気で知りたがっている以上、
私には隠し通すことはできない。
これ以上、シズを悩ませたくない。
シズに打ち明けよう。
それで気味悪がられたら諦めよう。
私は精一杯の虚勢を張りながら、
縮みこむ心を奮い立たせて、
努めて冷静な声を出した。
「そうよ」
「アンタの言う通り。私は本物の超能力者になった」
そう言って、私は『穏乃日記』をシズに差し出した。
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シズは私を受け入れてくれた。
ただ、受け入れてくれたのはいいんだけど、
ちょっと受け入れすぎて突き抜けてしまった。
「だって、もう憧には隠し事できないんでしょ?」
「だったら私は、開き直る!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
9/25 15:20
玄と話している私を見て、
シズが焼きもちを妬いている。
私以外の人と話すなよって?
無茶言わないでよ…
でも焼きもちを妬くシズもかわいい。
9/25 15:30
シズに引き離された。
無理矢理手をとって屋上に連れていかれる。
シズ以外に笑いかけた罰として
100回キスしろって?
9/25 15:40
キスが終わらない。
9/25 15:50
本当に100回キスされて
トロけて動けなくなっちゃうシズかわいい。
9/25 16:00
腰砕けにした責任とって
お姫様だっこで帰れって?
女子高生の腕力にどんだけ期待してるのよ。
でも、乙女シズかわいい。
9/25 16:10
校門前で力尽きる。復活したシズと交代。
9/25 16:20
お姫様だっこ中。これ絶対噂になるわ…
自分でやっておいて
顔が真っ赤なシズがかわいい。
……
9/27 18:10
私の部屋への監視カメラの設置、
私の携帯への盗聴アプリの
インストールを主張するシズ。
自分だけ知られているのは不公平だとのこと。
私を束縛したがるシズがかわいい。
……
9/27 20:30
お風呂へのカメラ設置を主張するシズ。
私の裸に興味津々なシズかわいい。
でもシズ、それって私だけじゃなくて
うちの家族全員の裸体を見る羽目になるのよ?
9/27 20:40
さっきメールしたのは誰だと詰問するシズ。
私以外にメールするなとかのたまうシズ。
ヤンデレるシズかわいい。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
この通り、もはや隠すものがないシズは、
遠慮することなく私を束縛するようになった。
中学時代からその片鱗はあったけど、
正直ここまでとは思ってなかった。
もしかしたら私よりも、
よっぽどシズの方が重症なのかもしれない。
もっとも、シズがどんな狂った行動に出ても、
大半を『シズかわいい』で締め括る私も同類か。
「さ、今日のシズはどんな感じで
私を縛り付けてくるのかな?」
そして今日も、私は綴る。
愛する人の未来を記す日記…『穏乃日記』を。
(完)
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何故か未来日記+エニグマを思い出したのは私以外にもいると思いたいです
今度はもっと2人が堕ちていく感じのドロドロした憧穏ヤンレズssお願いします。
束縛しちゃう系女子シズちゃんかわいい
とろけそう
前作で元気なノーマルシズだと思っていたのに病んでた。でも病んでるシズもかわいい。
そしてシズ大好きな憧ちゃんもかわいい。
穏憧大好き!
未来日記+エニグマ>
憧「未来日記はリクエスト元だしねー」
穏乃「ちなみに書いた本人は両方読んでない!」
憧「でも、どっちも面白そうね。
時間ができたら読んでみようかな?」
お互いがお互いを縛り付けて>
穏乃「なんか私達だと片方が
縛り付けるって感じしないよね」
憧「原作だとどっちかというと
アンタが振り回してるけどね」
憧「リクも了解だけど、具体性があると
投稿が早くなるわ!」
普通にハッピーエンド>
憧「心配させてごめんね!」
穏乃「今後も片方Sideで出した結論が
大どんでん返しになることはないので
ご安心ください!」
憧「ちなみにオリさん鋭い!最初は
私は『シズの代わりに死ぬ予定だった』わ!」
穏乃「気づく人は気づくんだね」
あまあま>
憧「かもねー。注釈いらなかったかも」
ノーマルだと思ってた>
憧「そうそう。これでガッカリしちゃう
人が出るかと思ったのよね」
穏乃「実はどっちもドロドロだった、みたいな」
憧「ちなみに穏憧は好きなんだけど、なんか
ネタが出てこないわ」
穏乃「これからも気が向いたらリク
していただけるとうれしいです!」