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【咲SS:久咲】咲「部長、早く帰ってこないかな」【異常】
<あらすじ>
ある日、部長の部屋で読書会を開いていた時の事。
部長が突然、問いかけてきました。
「ねえ、咲は囲い女(め)って知ってる?」
「ええ。意味なら知ってますけど」
「…やってみない?」
こうして、私達の『囲い女ごっこ』が始まりました。
<登場人物>
竹井久,宮永咲
<症状>
・異常行動
・異常性癖
<その他>
次のリクエストに対する作品です。
・飴と鞭が絶妙なドSの久に溺れる咲さん
※ド直球のSMです。苦手な方はご注意を。
咲「こ、コメントで普通に『18禁じゃない?』
というツッコミをもらっちゃったので、
じゅ、18歳未満閲覧禁止という事で…」
久「作品自体そのうち隔離するかもしれないわ」
--------------------------------------------------------
ある気だるげな昼下がり。
ベッドの上で寝転がりながら本を読んでいた部長は、
読んでいた本をぱたりと閉じて。
同じくベッドに背をもたれて本を読んでいた私に、
唐突な問いを投げかけてきました。
「ねえ、咲は囲い女(め)って知ってる?」
「ええ。意味なら知ってますけど」
部長と私は本の虫。
読書が趣味という人はそれなりにいますが、
私達ほどの活字中毒はなかなか珍しいと思います。
本の趣味も似通っている私達は、
よくこうやって読書会を開いているのです。
そして、本を読み終わった部長が
こうやって突然質問してくるのも、
初めての事ではありませんでした。
「さすが文学系少女。一応、
意味を聞いてもいいかしら?
解釈が違うかもしれないし」
「いろんな意味はありますけど…
一般的にはお金で買われて、
隠れ家に囲われてる…
しょ、娼婦みたいな人ですよね?」
とはいえ今回問われたそれは、
少し色を含んだ内容で。
私は少なからず動揺しながらも、
なんとか辞書的な回答を返しました。
「大正解。まあ、現代では
あまりいない存在でしょうけど」
「その囲い女がどうしたんですか?」
「んー、今読んでた本に出てきてね?
まあ、話自体はありがちな妾の悲恋だったわけだけど」
「なんか、囲い女って雰囲気がいいなーって思ってね?」
「は、はぁ…」
「お金で買われるとか、娼婦とかは置いておいてさ。
誰か一人に自分の全てを支配されて、
何もない部屋でただ一人、
ご主人さまを待ち続けるの」
「そう言うのってなんだかゾクゾクしない?」
部長は時にこうやって、私に共感を求めます。
厄介なのは、そのほとんどが
自然と共感できてしまうことです。
これも、本の嗜好が似ているせいなのでしょうか。
今回も私はその光景を想像して、
少し胸の鼓動が早くなるのを感じました。
「ふふ、咲もやっぱりそうなんだ」
「あ、あくまで想像の上では、ですよ…」
「ねえ?その想像、誰と誰でしたのかしら?」
今度は、ドクンと心臓が跳ね上がりました。
そう、私は、囲い女の想像を…
目の前の人でしてしまったのです。
しかも、自分が囲われる側で。
「ちなみに、私は咲で想像したわ」
『咲はね、狭い檻のような小屋で、
あられもない格好で私に囲われているの』
『もちろんそれは強制されて。
咲は私に、強引な手で奪われて、
そこに縛りつけられている』
語り部のような部長の口調。
ささやくようなその声は、
私の脳内にするりと抵抗なく入り込んできて。
私はつい、その情景を頭に思い浮かべてしまいます。
『でも、咲に助けは来ない。
私がみーんな排除しちゃったから。
生きるためには、もう私に縋るしかないの』
やがて頭がふわふわしてきて。
思考と現実の境界があいまいになって。
私の思考は、現実から切り離されて。
私は、その物語の主人公になっていました。
『悔しくて仕方がない。惨めで仕方がない。
それでも咲には、私しかいないの』
いつの間にか部長は、ベッドから身を乗り出して。
私のすぐ隣まで近寄っていました。
『そして咲は、私を待つの。
格子のついた窓の外を眺めながら、
毎日、毎日』
目の前の部長が、物語の世界のご主人さまと重なります。
『自分をなぶる、私をね?』
そう言って、部長は耳元で囁きました。
「んぅっ……!」
私は、思わず身体をわななかせました。
部長は、ぞくぞくと震える私を
包み込むように抱きしめながら、
熱のこもった声で問いかけます。
「ねぇ…咲は、誰をご主人さまにしたの?」
熱に浮かされた私は、促されるまま、
素直に答えてしまいました。
「…ぶ、部長です」
「ふふ、そっか…私達って、やっぱり相性抜群ね」
私の返事を聞いて、私を見つめる部長の目が
さらに熱を帯びた気がしました。
「ねぇ、咲…ごっこ遊びしない?」
「…ごっこ、遊び…?」
「そ。咲は、私の囲い女」
「私は、咲のご主人さま」
「ね?」
ひどく甘ったるくって、熱っぽい声。
魅了の魔法でもかかっているかのようなその声に、
まともな思考力を奪われた私は、
もう何も考えられなくなって。
「は…はい…」
私は、その言葉の意味を深く考えることもできないまま、
ただ木偶人形のように頷きました。
こうして、部長と私の『囲い女ごっこ』が始まったんです。
一人の女が、一人の女を支配する。
そんな、背徳的で退廃的なごっこあそびが。
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「じゃ、まずは軽めの内容でいきましょうか」
「というわけで、手錠で拘束させてもらうわね!」
言い終わるや否や、部長はいつの間にか手にしていた手錠を
手際よく私の左手にはめました。
「えぇ!?な、なんで手錠!?」
「ごっことはいえ、どうせやるなら本格的に
縛りつけたいからねー」
「でも、さすがに隠れ家を用意するのは無理だし…
だからってここに閉じ込めるだけだと、
いつもとあんまり変わらないでしょ?」
「だから、せめて少しでも囚われてる感を
演出したくてねー。だから、手錠」
「で、もう一個手錠を使って、
このチェーンと連結して、と…」
話しながらも、部長はもう一つ取り出した手錠を
これまた何故か持っていたチェーンと連結して、
ベッドのパイプに固定しました。
カチャリッ…
その冷たい金属が鳴らした音は、
私の心をにわかにざわつかせます。
「というか、なんでそんなの持ってるんですか…!?」
「サプライズ部長の名は伊達じゃないわよー?
ジョークグッズなら大体持ってるわ!」
ジョークグッズ。その単語のおかげで
私はいくらかの余裕を取り戻します。
(そ、そっか…ジョークなんだ。
ごっこなんだし、そうだよね…)
私は、自分にかけられた手錠を眺めます。
ジョークグッズにしては、
やけに作りがしっかりしているような気がするのは、
もうこの際考えないでおくことにしました。
「ねー咲?」
「は、はい?」
「今、私たちがやっているのはごっこ遊び。
もちろん、終わったら普通に解放してあげるわ」
「はい」
「でも、せっかくだから想像してみて?」
「そ、想像…ですか?」
「うん」
「…もしも」
「もしも…私が心変わりして。
このままあなたを、本当に
囲っちゃおうと思っちゃったら…」
「あなた、もう逃げられないわよ?」
ぞくりっ…!
部長の、低くて冷たいその言葉は…
私の背筋を一瞬で凍りつかせます。
「じょ…冗談、ですよね?」
「ふふ、もちろんこれは、あくまで空想の世界の話よ?」
「だから、安心して想像してみて。
手伝ってあげるから」
そう言って部長は私の肩に手をおいて、
また例の、心に直接溶け込むような口調で語りかけます。
『咲は、私に捕らえられてしまった』
『油断しちゃったのね。
たいして警戒もせず手錠をはめられて、
決して動かないベッドに固定された』
「あ、あ…」
『実はね?この手錠の鍵、この部屋には置いてないの。
だからもう、咲は逃げられない』
『ここから逃れるためにはね?
私の機嫌をうかがうしかないの』
『…ここまではわかってくれる?』
「は…はい…」
部長は満足げに頷くと、私をぺたんと座らせて。
後ろから腰に手を回して私を抱きかかえました。
『もっと言うとね?実は逃げなかったとしても駄目なのよ』
『ごはんも私におねだりしないともらえないし、
お風呂にも入れてもらえない。
…トイレだってもう自由に行けないんだもの』
『もうね、咲は何をするにも…
私に許しを得ないといけないの』
『自分の立場、わかってくれた?』
『は…はい…』
またです。妄想の世界の話のはずが、
いつの間にか境界があやふやになっていて…
まるで本当に、現実の私が…
部長に、支配されている気分になってきます。
『いい子ね…じゃあ、試しに命令しましょうか』
『私に、もたれかかりなさい』
部長の『命令』は、たいした内容ではありませんでした。
私はさしたる抵抗もなくその命令に従います。
丸まっていた上体を起こして、
そのまま…後ろにいる部長の体に体重を預けます。
『ふふ…いい子ね…命令、ちゃんと聞けたわね』
熱っぽい声で囁きながら、
部長は私の頭を撫でてくれました。
頭に乗せられた手の重みが心地よくて、
私は思わず目を細めました。
『じゃあ、もう一個命令聞きましょうね?
今度は…そうね、顔をこっちに向けて、
私の目を見つめてちょうだい』
『こ…こうですか?』
少し身をよじって、私は顔だけ部長の方に向けました。
目と鼻の先に部長の顔。
部長の顔は、火照っているかのように上気していました。
その目はどこか潤んでいて…どこまでも色っぽくて。
そんな、部長の目を見た私は…
ずくんっ
なぜか下腹部のもっと下のあたりに強い衝撃を感じて、
じわじわと体の奥から熱が噴き出してきます。
『はい、二つ目の命令も聞けたわね…よくできました』
『じゃあ次が、最後の命令』
そう言って、部長が近づいてきます。
もうすでに、息づかいが伝わるほどに近いのに。
それでもまだ、近づいてきます。
『そのまま、ゆっくりと目を閉じて?』
どくんっ…!!
胸の鼓動が、痛いくらいに激しくなりました。
目を閉じたら、どうなってしまうのでしょうか。
何をされてしまうのでしょうか。
いえ、わかっています。
たぶん、私が想像したままの結果になるでしょう。
心臓が早鐘のように鳴り響きます。
熱が、どんどん高くなっていきます。
『この命令は聞いてはいけない』
理性がそう警鐘を鳴らしてはいるものの。
どんどん頭に血が上っていって、
ぼーっとして、考えるのがおっくうになって…
私はつい、目を閉じてしまいました。
『いい子ね、咲』
『本当に、いい子』
部長の上擦った声が聞こえた、すぐその後…
私は、唇にやわらかい何かが
押し付けられたのを感じました。
『ごちそうさま』
目と鼻の先の部長が、ぺろりと
舌なめずりをしながら言いました。
それが私の、生まれて初めてのキスでした。
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『ごっこ』が終わった後。
部長は約束通り、
私を解放してくれました。
「も、もう!ひどいですよ部長!
私、初めてだったんですよ!?」
とはいえ、その『ごっこ』で大切なものを奪われた私は、
興奮冷めやらず部長に詰め寄りました。
今でも、その、思い起こすだけで…
頬に熱が溜まっていきます。
「えー…咲だって、とろけきった顔で
ずっと私のこと見つめてたじゃない」
「そ、それは…だって…」
「そもそも、無理矢理でもなんでもなかったじゃない?
まあ、ファーストは不意打ちだったとしても、
セカンドとサードまで受け入れちゃったのは
言い訳できないわよ?」
「あ、あれはもうほとんど洗脳ですよ!」
「まあまあ、そうカリカリしないの」
「私のファーストと、セカンドと、サードも…
おあいこで咲にあげたんだから…ね?」
「え…?」
そう言って、部長は片目をつぶりました。
その言葉を頭の中で反芻して…
やがて私は、ボンッ!っとオーバーヒートしてしまいます。
わ、わたしが…部長の、初めての人…!?
2回目も、3回目も…!?
私はその言葉に、瞬く間に心を乱されてしまいました。
そして結局なんだかうやむやのまま、
その日はお開きになってしまいました。
--------------------------------------------------------
その後も、『ごっこ』は継続されました。
そう、少しずつ少しずつ。
その内容をエスカレートさせながら。
まず、手錠がいつの間にか首輪になりました。
「はい、咲!今日からはこれね!」
「こ、コスプレですか!?
もう囲い女全然関係ないじゃないですか!!」
猫耳とセットで差し出されたので、
正直そういうネタかなと思ったんです。
でも、実際には違いました。
「あ、猫耳はつけてもつけなくてもいいわよ?
重要なのは首輪だから」
「…首輪が…ですか?」
部長の言った通りでした。
首輪をつけて、リードに繋がれると。
自分が、人間という枠から
はみ出してしまったような錯覚に陥りました。
それは、手錠で拘束された時には感じなかった感覚で。
飼われる、支配される側に
堕ちてしまったような感覚を味わいました。
ちなみにその日は、なにか
特別なことをされたわけではありませんでした。
前と同じように、部長に簡単な命令をされて。
私はそれに従って。
最後には唇を奪われるだけ。
ただ…命令の内容が違っただけ。
『咲…私のキスを受け入れなさい』
『…は……い………』
2回目だから慣れた、というのもあるのかもしれません。
でも、明確に宣言されたのに。しかも命令されたのに。
『支配』された私は、その命令にどこか
妖しい悦びすら感じてしまって…
『んっ…っ…はぁっ……』
なすがままに、部長の唇を受け入れていました。
--------------------------------------------------------
エスカレートしたのは行為の内容だけではありません。
例えば最初の頃は、『ごっこ』が終わったら
その時点で即座に解放されていました。
手錠にしても首輪にしても、
すぐに外してもらっていました。
でも、行為がエスカレートするに従って。
『ごっこ』の終わりが、
あいまいになっていきました。
『はあっ…はあっ…』
「ふふ…咲、すごい乱れっぷりだったわね」
『ぶ、ぶちょ……』
「あ、無理に覚醒しなくていいわ。
そのまま余韻に浸ってなさい?」
『は、はい…』
こうして私は、『ごっこ』の余韻がさめるまで…
首輪をつけたまま過ごすようになりました。
終わりがそうなら、始まりもそうです。
次第に、始まりの境界もあやふやになっていきました。
「あ、咲いらっしゃい!」
「こんにちは。お邪魔しますね?」
「あいよー。はい、首輪」
「えぇ!?いきなりですか!?」
「あ、違う違う。今日は不意打ちで『ごっこ』を
始めるつもりだから、先につけておいてもらおうと思って」
「えぇー…怖いなぁ…」
最初は、こんな風に理由があったはずでした。
でも、いつの間にかそれは習慣になっていって。
気づけば私は部長の家にお邪魔すると、
言われるでもなく自分から
首輪をつけるようになっていました。
--------------------------------------------------------
境界は、どんどんあいまいになっていきました。
そのうちそれは、部長の家という境界も踏み越えて。
学校という、日常の一部にまで侵食していきました。
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「あれ?咲ちゃん、それチョーカーか?」
「あ、うん…ちょっと、いろいろあってね?」
「咲さんにチョーカー…アリだとは思いますが…」
「普通に校則違反で没収されんか?」
「あ、教室ではつけてないので…」
「…どうしてチョーカーなんですか?
もっと他に扱いやすくて、
おしゃれなものはあると思いますけど…」
「え、えーと」
ガチャッ!
「そりゃ安くてかわいいからよ」
「あ、ぶ、部長…」
「チョーカーって安いのか?」
「安いわよ?だって、ぶっちゃけ時計で言えば
バンドの部分だけ売ってるようなものじゃない」
「そう言われてみると確かに安そうだじぇ」
「咲が、おしゃれしたいって言うからねー」
「だからっていきなり服とか揃えだすのも大変じゃない。
そこで、簡単に始められるチョーカーをあげたのよ。
目立って、安くて、それでいてかわいい!」
「言われてみると、アリな気がしてきました」
「あ、あはは…」
『ま、裏には私の名前が入ってるんだけどね』ボソッ
『ぶ、部長!?聞かれちゃいますってば!』ボソッ
「?咲ちゃん、どうしたんだじぇ?」
「な、何でもないよ、あはは…」
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こうして、私たちの『囲い女ごっこ』は
確実に異常さを増していきました。
この時点ですら、事情を知られたら
激しく引かれるほどだったと思います。
もっとも私は、その危うさに気づかないまま。
少しずつ、少しずつ調教されていきました。
そして、私が気づいた時にはもう。
もう後戻りができない段階にまで、
躾けられてしまっていたのです。
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日曜日。
私は生まれたままの姿で布団に包まれながら、
部長のベッドでまどろんでいました。
一足先に眠りから覚めていたのでしょう。
部長は、すでに服を着込んで
どこかに出かける準備をしています。
私がぼんやりと起きていたことに気づいた部長は、
柔らかい笑顔を向けてくれました。
「あ、おはよう咲」
「…おはようございます…」
「…どこか…行くんですか…?」
「うん。コーヒー飲もうと思ったんだけど、
牛乳切らしてるのに気づいちゃって。
ちょっとひとっ走りコンビニまで行ってくるわ」
「すぐ戻ってくるから、咲はまだ寝てなさい?」
「…はい……」
そう言うと、部長は足早に部屋を出ていきます。
玄関の方でバタンと扉が閉まる音と、
ガチャリと鍵の閉まる音が聞こえました。
一人取り残された私は、寝起きのけだるさも手伝って、
何をするでもなくぼんやりと天井を眺めていました。
ブーーーー、ブーーーー
「わわっ!?」
突然の振動音にびくりと体を震わせます。
音のする方を見ると、そこには携帯電話がありました。
おずおずと手に取ると…
ディスプレイには『咲へ』と表示されています。
留守中に連絡が取れるように、
わざわざ携帯を置いていったのでしょうか。
しばらく回らない頭で理由を考えてから、
私は電話を取ることにしました。
「…もしもし」
『あー、ごめん、寝てた?』
「いえ、起きてましたけど…どうしたんですか?」
『……』
「部長?」
『…今、買い物終わったんだけど、
咲は何か欲しいものある?
あれば、ついでに買ってくるわよ?』
どうやら、買うものがないかの確認のようでした。
私は少しだけ考えて部長に返事をします。
「いえ、大丈夫です」
『そっかー』
『……っ』
『あはっ、あははははははっ!!』
突然、電話の先で部長が笑い始めました。
いきなりのことにびっくりした私は、
戸惑いながらも部長に問いかけました。
「ど、どうしたんですか?」
『あはっ…いや、だって、咲…
本当に普通の反応なんだもん』
まだ笑い続けている部長。
私には、部長の言葉の意味がよくわかりません。
「あ、もしかして部長、
私に何か悪戯したんですか!?」
『悪戯かー、まあ、悪戯と言えば悪戯よね』
「も、もう…何したんですか…
顔に落書きとかしてませんよね!?」
『だったら確かめればいいじゃない』
「確かめるって…この部屋、
鏡ないじゃないですか」
『あー、あるある。ベッドの横に引き出しがあるでしょ?
中に化粧用の卓上ミラーが入ってるから』
『それで、確認してみて?』
「って、本当に落書きしたんですか…」
私は呆れながらも、部長に指示されるままに
引き出しを開けます。
中には確かに円状の鏡が入っていました。
私は、鏡を立てて覗き込み…
「〜〜っ!」
激しく体を波打たせました。
『……ね、気づいた?』
部長が、からかうような声音で問いかけます。
その時になって、ようやく私は気づいたんです。
そこには、はしたなく素肌を露わにした
雌の姿が映っていました。
服と呼べるものは何一つ身にまとわず。
支配されていることを示す赤い首輪だけが、
白い首と対比して、鮮やかに映えています。
首輪にはリードがつけられていて。
リードはベッドに固定されています。
その姿はどう見ても、
愛玩動物にしか見えませんでした。
ふと唐突に、いつか聞いた部長のセリフが
頭に思い浮かびます。
−ねえ、咲は囲い女って知ってる?−
−お金で買われるとか、娼婦とかは置いておいてさ−
−ただ誰か一人に支配されて、
それ以外何もない部屋で、
ただ一人ご主人さまを待ち続けるの−
ちょっと前までは、まるで現実感のなかった空想。
でも今は。今の私は…
『今の咲、完全に…
あの時話してた囲い女そのものよ?』
「……っ!!」
妖しい含みを持った部長の声が、
私を現実に引き戻します。
その言葉に、私の身体が一気に熱を帯びました。
その内容は、まるで私が今
何を思い浮かべていたのかを
知っていたかのようでした。
『実際に堕ちちゃうと、なかなか
気づかないものなのかしらねぇ?』
『とんでもなくいやらしい格好で放置されてるのに』
『部屋からも出られないのに』
『それが当然だと言わんばかりに、
平然とご主人さまを待てちゃうものなのねぇ?』
「ぶ、ぶちょう…」
『せっかくだから、命令しておこうかしら』
「め、めいれい…?」
『どうせ咲のことだから、
自分の今の境遇を思い知って…
火照ってきちゃってるんでしょう?』
『戻るまで、後10分くらいあるわ』
『その間…自分で慰めてなさい』
『戻ったら…可愛がってあげるから』
『ね?私のかわいい囲い女さん?』
『は…はい……』
プツッ…ツーーーーッ…
そこで、通話は途切れました。
私は、ぺたりと床にへたり込みました。
『ひゃっ…』
その冷たさに、私は思わず身をよじります。
肌に触れた床が、やけにひんやりと冷たく感じました。
それは多分、私が火照ってるから。
一度、気づいてしまうと、
もう目を背けることはできなくて。
チリチリと焼けるような疼きを、
無視することができなくて。
『んっ…』
私は囲い女として、ご主人さまに命令された通り。
自らの指で、疼きを鎮め始めました…
--------------------------------------------------------
部長が帰ってきました。
『…あっ!……ぶ…ぶちょう……』
囲いの部屋のドアを開けた部長は、
私の姿を見てにんまりと笑顔を浮かべました。
部長には、今の私の姿はどう映ったのでしょうか。
かたや、外に出ても問題ないように
ちゃんと服を着込んだ部長。
かたや、まるで獣のように、
すっぱだかで首輪だけ身に着けた私。
身体は朱に染まって、色欲にまみれて汗ばんだ私。
その対比は、私の心をひどく揺り動かしました。
支配する側とされる側。飼う側と飼われる側。
立場の違いを、明確に見せつけられた気がしたんです。
私のそんな私の心境を読み取ったのか。
部長は立ったまま、座り込む私を見下ろすと、
にやにやと意地の悪い笑みを浮かべて話しかけてきます。
「ふふ…ずいぶん一気にやらしくなっちゃったわねー」
「自分が堕ちたってわかったら、
理性のタガが外れちゃったのかしら?」
『うぅ…』
「あ、そうだ…せっかくだから」
「一度やって見たかった、アレやってもらおうかしら」
そう言って部長は、私の前に足を差し出しました。
「はい」

それが、何を意味するのか…
私には、なんとなくわかりました。
「舐めて?今の咲なら、
簡単にできちゃうはずだから」
にやにやと笑いながら、部長が私に命令します。
私はぞくぞくと鳥肌が立つのを感じながら、
おずおずと部長の足に近づいて…
部長の足に顔を近づけて…舌を突き出して…
ちろりっ…
命令に従いました。
部長は、こみ上げる何かを堪えるように
恍惚とした笑みを浮かべながら唇を震わせました。
「…っ…何も四つん這いになれ、
とまでは言わなかったんだけどなー♪」
「でも、よくできました」
「ご褒美に…可愛がってあげるわね?」
--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
『部長、まだかなぁ…』
何もない部屋で、ただ一人。
私は扉につけられた、
小さな格子付きの窓を眺めていました。
あれからも、部長との囲い女ごっこは続きました。
その異常性に気づいた時にはもう手遅れで。
私は心の芯まで支配されていて。
もう、ごっこはごっこじゃなくなっていて。
部長の卒業を機に、私は正式に
部長に囲われることになりました。
プロの世界に身を投じた部長は、
いきなり借金をして大きな家を建てました。
それは、囲い女用の寝屋があるおうち。
その部屋に窓はなく、扉に申し訳程度の
覗き窓がついています。
そこが、私の住む世界。
別に、外に出ることを
禁じられているわけではありません。
服を着ることを
禁じられているわけでもありません。
ただ、今の私にとっては、
『こっち』の方が普通というだけなんです。
……一体いつからおかしくなっていたのでしょう?
確かに最初は、ごっこ遊びだったはずなんです。
でも、そのごっこは、いつの間にか
境界があいまいになって。
ごっこは、いつのまにか普段の日常を侵食して。
気づけばごっこは、現実と
すり替わってしまっていました。
今日もまた、私は部屋で一人、
部長の帰りを待ち続けます。
ただ、何をするわけでもなく。
はしたない格好でベッドに寝転がって。
ただ部長を想って一人自分を慰めて。
部長が帰ってきたら、いっぱい可愛がってもらうんです。
それが、私の日課です。
『部長、早く帰ってこないかな…』
私はその身を劣情にくねらせながら、
その日何度目かわからない独り言をつぶやきました。
(『Side-久』)
ある日、部長の部屋で読書会を開いていた時の事。
部長が突然、問いかけてきました。
「ねえ、咲は囲い女(め)って知ってる?」
「ええ。意味なら知ってますけど」
「…やってみない?」
こうして、私達の『囲い女ごっこ』が始まりました。
<登場人物>
竹井久,宮永咲
<症状>
・異常行動
・異常性癖
<その他>
次のリクエストに対する作品です。
・飴と鞭が絶妙なドSの久に溺れる咲さん
※ド直球のSMです。苦手な方はご注意を。
咲「こ、コメントで普通に『18禁じゃない?』
というツッコミをもらっちゃったので、
じゅ、18歳未満閲覧禁止という事で…」
久「作品自体そのうち隔離するかもしれないわ」
--------------------------------------------------------
ある気だるげな昼下がり。
ベッドの上で寝転がりながら本を読んでいた部長は、
読んでいた本をぱたりと閉じて。
同じくベッドに背をもたれて本を読んでいた私に、
唐突な問いを投げかけてきました。
「ねえ、咲は囲い女(め)って知ってる?」
「ええ。意味なら知ってますけど」
部長と私は本の虫。
読書が趣味という人はそれなりにいますが、
私達ほどの活字中毒はなかなか珍しいと思います。
本の趣味も似通っている私達は、
よくこうやって読書会を開いているのです。
そして、本を読み終わった部長が
こうやって突然質問してくるのも、
初めての事ではありませんでした。
「さすが文学系少女。一応、
意味を聞いてもいいかしら?
解釈が違うかもしれないし」
「いろんな意味はありますけど…
一般的にはお金で買われて、
隠れ家に囲われてる…
しょ、娼婦みたいな人ですよね?」
とはいえ今回問われたそれは、
少し色を含んだ内容で。
私は少なからず動揺しながらも、
なんとか辞書的な回答を返しました。
「大正解。まあ、現代では
あまりいない存在でしょうけど」
「その囲い女がどうしたんですか?」
「んー、今読んでた本に出てきてね?
まあ、話自体はありがちな妾の悲恋だったわけだけど」
「なんか、囲い女って雰囲気がいいなーって思ってね?」
「は、はぁ…」
「お金で買われるとか、娼婦とかは置いておいてさ。
誰か一人に自分の全てを支配されて、
何もない部屋でただ一人、
ご主人さまを待ち続けるの」
「そう言うのってなんだかゾクゾクしない?」
部長は時にこうやって、私に共感を求めます。
厄介なのは、そのほとんどが
自然と共感できてしまうことです。
これも、本の嗜好が似ているせいなのでしょうか。
今回も私はその光景を想像して、
少し胸の鼓動が早くなるのを感じました。
「ふふ、咲もやっぱりそうなんだ」
「あ、あくまで想像の上では、ですよ…」
「ねえ?その想像、誰と誰でしたのかしら?」
今度は、ドクンと心臓が跳ね上がりました。
そう、私は、囲い女の想像を…
目の前の人でしてしまったのです。
しかも、自分が囲われる側で。
「ちなみに、私は咲で想像したわ」
『咲はね、狭い檻のような小屋で、
あられもない格好で私に囲われているの』
『もちろんそれは強制されて。
咲は私に、強引な手で奪われて、
そこに縛りつけられている』
語り部のような部長の口調。
ささやくようなその声は、
私の脳内にするりと抵抗なく入り込んできて。
私はつい、その情景を頭に思い浮かべてしまいます。
『でも、咲に助けは来ない。
私がみーんな排除しちゃったから。
生きるためには、もう私に縋るしかないの』
やがて頭がふわふわしてきて。
思考と現実の境界があいまいになって。
私の思考は、現実から切り離されて。
私は、その物語の主人公になっていました。
『悔しくて仕方がない。惨めで仕方がない。
それでも咲には、私しかいないの』
いつの間にか部長は、ベッドから身を乗り出して。
私のすぐ隣まで近寄っていました。
『そして咲は、私を待つの。
格子のついた窓の外を眺めながら、
毎日、毎日』
目の前の部長が、物語の世界のご主人さまと重なります。
『自分をなぶる、私をね?』
そう言って、部長は耳元で囁きました。
「んぅっ……!」
私は、思わず身体をわななかせました。
部長は、ぞくぞくと震える私を
包み込むように抱きしめながら、
熱のこもった声で問いかけます。
「ねぇ…咲は、誰をご主人さまにしたの?」
熱に浮かされた私は、促されるまま、
素直に答えてしまいました。
「…ぶ、部長です」
「ふふ、そっか…私達って、やっぱり相性抜群ね」
私の返事を聞いて、私を見つめる部長の目が
さらに熱を帯びた気がしました。
「ねぇ、咲…ごっこ遊びしない?」
「…ごっこ、遊び…?」
「そ。咲は、私の囲い女」
「私は、咲のご主人さま」
「ね?」
ひどく甘ったるくって、熱っぽい声。
魅了の魔法でもかかっているかのようなその声に、
まともな思考力を奪われた私は、
もう何も考えられなくなって。
「は…はい…」
私は、その言葉の意味を深く考えることもできないまま、
ただ木偶人形のように頷きました。
こうして、部長と私の『囲い女ごっこ』が始まったんです。
一人の女が、一人の女を支配する。
そんな、背徳的で退廃的なごっこあそびが。
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「じゃ、まずは軽めの内容でいきましょうか」
「というわけで、手錠で拘束させてもらうわね!」
言い終わるや否や、部長はいつの間にか手にしていた手錠を
手際よく私の左手にはめました。
「えぇ!?な、なんで手錠!?」
「ごっことはいえ、どうせやるなら本格的に
縛りつけたいからねー」
「でも、さすがに隠れ家を用意するのは無理だし…
だからってここに閉じ込めるだけだと、
いつもとあんまり変わらないでしょ?」
「だから、せめて少しでも囚われてる感を
演出したくてねー。だから、手錠」
「で、もう一個手錠を使って、
このチェーンと連結して、と…」
話しながらも、部長はもう一つ取り出した手錠を
これまた何故か持っていたチェーンと連結して、
ベッドのパイプに固定しました。
カチャリッ…
その冷たい金属が鳴らした音は、
私の心をにわかにざわつかせます。
「というか、なんでそんなの持ってるんですか…!?」
「サプライズ部長の名は伊達じゃないわよー?
ジョークグッズなら大体持ってるわ!」
ジョークグッズ。その単語のおかげで
私はいくらかの余裕を取り戻します。
(そ、そっか…ジョークなんだ。
ごっこなんだし、そうだよね…)
私は、自分にかけられた手錠を眺めます。
ジョークグッズにしては、
やけに作りがしっかりしているような気がするのは、
もうこの際考えないでおくことにしました。
「ねー咲?」
「は、はい?」
「今、私たちがやっているのはごっこ遊び。
もちろん、終わったら普通に解放してあげるわ」
「はい」
「でも、せっかくだから想像してみて?」
「そ、想像…ですか?」
「うん」
「…もしも」
「もしも…私が心変わりして。
このままあなたを、本当に
囲っちゃおうと思っちゃったら…」
「あなた、もう逃げられないわよ?」
ぞくりっ…!
部長の、低くて冷たいその言葉は…
私の背筋を一瞬で凍りつかせます。
「じょ…冗談、ですよね?」
「ふふ、もちろんこれは、あくまで空想の世界の話よ?」
「だから、安心して想像してみて。
手伝ってあげるから」
そう言って部長は私の肩に手をおいて、
また例の、心に直接溶け込むような口調で語りかけます。
『咲は、私に捕らえられてしまった』
『油断しちゃったのね。
たいして警戒もせず手錠をはめられて、
決して動かないベッドに固定された』
「あ、あ…」
『実はね?この手錠の鍵、この部屋には置いてないの。
だからもう、咲は逃げられない』
『ここから逃れるためにはね?
私の機嫌をうかがうしかないの』
『…ここまではわかってくれる?』
「は…はい…」
部長は満足げに頷くと、私をぺたんと座らせて。
後ろから腰に手を回して私を抱きかかえました。
『もっと言うとね?実は逃げなかったとしても駄目なのよ』
『ごはんも私におねだりしないともらえないし、
お風呂にも入れてもらえない。
…トイレだってもう自由に行けないんだもの』
『もうね、咲は何をするにも…
私に許しを得ないといけないの』
『自分の立場、わかってくれた?』
『は…はい…』
またです。妄想の世界の話のはずが、
いつの間にか境界があやふやになっていて…
まるで本当に、現実の私が…
部長に、支配されている気分になってきます。
『いい子ね…じゃあ、試しに命令しましょうか』
『私に、もたれかかりなさい』
部長の『命令』は、たいした内容ではありませんでした。
私はさしたる抵抗もなくその命令に従います。
丸まっていた上体を起こして、
そのまま…後ろにいる部長の体に体重を預けます。
『ふふ…いい子ね…命令、ちゃんと聞けたわね』
熱っぽい声で囁きながら、
部長は私の頭を撫でてくれました。
頭に乗せられた手の重みが心地よくて、
私は思わず目を細めました。
『じゃあ、もう一個命令聞きましょうね?
今度は…そうね、顔をこっちに向けて、
私の目を見つめてちょうだい』
『こ…こうですか?』
少し身をよじって、私は顔だけ部長の方に向けました。
目と鼻の先に部長の顔。
部長の顔は、火照っているかのように上気していました。
その目はどこか潤んでいて…どこまでも色っぽくて。
そんな、部長の目を見た私は…
ずくんっ
なぜか下腹部のもっと下のあたりに強い衝撃を感じて、
じわじわと体の奥から熱が噴き出してきます。
『はい、二つ目の命令も聞けたわね…よくできました』
『じゃあ次が、最後の命令』
そう言って、部長が近づいてきます。
もうすでに、息づかいが伝わるほどに近いのに。
それでもまだ、近づいてきます。
『そのまま、ゆっくりと目を閉じて?』
どくんっ…!!
胸の鼓動が、痛いくらいに激しくなりました。
目を閉じたら、どうなってしまうのでしょうか。
何をされてしまうのでしょうか。
いえ、わかっています。
たぶん、私が想像したままの結果になるでしょう。
心臓が早鐘のように鳴り響きます。
熱が、どんどん高くなっていきます。
『この命令は聞いてはいけない』
理性がそう警鐘を鳴らしてはいるものの。
どんどん頭に血が上っていって、
ぼーっとして、考えるのがおっくうになって…
私はつい、目を閉じてしまいました。
『いい子ね、咲』
『本当に、いい子』
部長の上擦った声が聞こえた、すぐその後…
私は、唇にやわらかい何かが
押し付けられたのを感じました。
『ごちそうさま』
目と鼻の先の部長が、ぺろりと
舌なめずりをしながら言いました。
それが私の、生まれて初めてのキスでした。
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『ごっこ』が終わった後。
部長は約束通り、
私を解放してくれました。
「も、もう!ひどいですよ部長!
私、初めてだったんですよ!?」
とはいえ、その『ごっこ』で大切なものを奪われた私は、
興奮冷めやらず部長に詰め寄りました。
今でも、その、思い起こすだけで…
頬に熱が溜まっていきます。
「えー…咲だって、とろけきった顔で
ずっと私のこと見つめてたじゃない」
「そ、それは…だって…」
「そもそも、無理矢理でもなんでもなかったじゃない?
まあ、ファーストは不意打ちだったとしても、
セカンドとサードまで受け入れちゃったのは
言い訳できないわよ?」
「あ、あれはもうほとんど洗脳ですよ!」
「まあまあ、そうカリカリしないの」
「私のファーストと、セカンドと、サードも…
おあいこで咲にあげたんだから…ね?」
「え…?」
そう言って、部長は片目をつぶりました。
その言葉を頭の中で反芻して…
やがて私は、ボンッ!っとオーバーヒートしてしまいます。
わ、わたしが…部長の、初めての人…!?
2回目も、3回目も…!?
私はその言葉に、瞬く間に心を乱されてしまいました。
そして結局なんだかうやむやのまま、
その日はお開きになってしまいました。
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その後も、『ごっこ』は継続されました。
そう、少しずつ少しずつ。
その内容をエスカレートさせながら。
まず、手錠がいつの間にか首輪になりました。
「はい、咲!今日からはこれね!」
「こ、コスプレですか!?
もう囲い女全然関係ないじゃないですか!!」
猫耳とセットで差し出されたので、
正直そういうネタかなと思ったんです。
でも、実際には違いました。
「あ、猫耳はつけてもつけなくてもいいわよ?
重要なのは首輪だから」
「…首輪が…ですか?」
部長の言った通りでした。
首輪をつけて、リードに繋がれると。
自分が、人間という枠から
はみ出してしまったような錯覚に陥りました。
それは、手錠で拘束された時には感じなかった感覚で。
飼われる、支配される側に
堕ちてしまったような感覚を味わいました。
ちなみにその日は、なにか
特別なことをされたわけではありませんでした。
前と同じように、部長に簡単な命令をされて。
私はそれに従って。
最後には唇を奪われるだけ。
ただ…命令の内容が違っただけ。
『咲…私のキスを受け入れなさい』
『…は……い………』
2回目だから慣れた、というのもあるのかもしれません。
でも、明確に宣言されたのに。しかも命令されたのに。
『支配』された私は、その命令にどこか
妖しい悦びすら感じてしまって…
『んっ…っ…はぁっ……』
なすがままに、部長の唇を受け入れていました。
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エスカレートしたのは行為の内容だけではありません。
例えば最初の頃は、『ごっこ』が終わったら
その時点で即座に解放されていました。
手錠にしても首輪にしても、
すぐに外してもらっていました。
でも、行為がエスカレートするに従って。
『ごっこ』の終わりが、
あいまいになっていきました。
『はあっ…はあっ…』
「ふふ…咲、すごい乱れっぷりだったわね」
『ぶ、ぶちょ……』
「あ、無理に覚醒しなくていいわ。
そのまま余韻に浸ってなさい?」
『は、はい…』
こうして私は、『ごっこ』の余韻がさめるまで…
首輪をつけたまま過ごすようになりました。
終わりがそうなら、始まりもそうです。
次第に、始まりの境界もあやふやになっていきました。
「あ、咲いらっしゃい!」
「こんにちは。お邪魔しますね?」
「あいよー。はい、首輪」
「えぇ!?いきなりですか!?」
「あ、違う違う。今日は不意打ちで『ごっこ』を
始めるつもりだから、先につけておいてもらおうと思って」
「えぇー…怖いなぁ…」
最初は、こんな風に理由があったはずでした。
でも、いつの間にかそれは習慣になっていって。
気づけば私は部長の家にお邪魔すると、
言われるでもなく自分から
首輪をつけるようになっていました。
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境界は、どんどんあいまいになっていきました。
そのうちそれは、部長の家という境界も踏み越えて。
学校という、日常の一部にまで侵食していきました。
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「あれ?咲ちゃん、それチョーカーか?」
「あ、うん…ちょっと、いろいろあってね?」
「咲さんにチョーカー…アリだとは思いますが…」
「普通に校則違反で没収されんか?」
「あ、教室ではつけてないので…」
「…どうしてチョーカーなんですか?
もっと他に扱いやすくて、
おしゃれなものはあると思いますけど…」
「え、えーと」
ガチャッ!
「そりゃ安くてかわいいからよ」
「あ、ぶ、部長…」
「チョーカーって安いのか?」
「安いわよ?だって、ぶっちゃけ時計で言えば
バンドの部分だけ売ってるようなものじゃない」
「そう言われてみると確かに安そうだじぇ」
「咲が、おしゃれしたいって言うからねー」
「だからっていきなり服とか揃えだすのも大変じゃない。
そこで、簡単に始められるチョーカーをあげたのよ。
目立って、安くて、それでいてかわいい!」
「言われてみると、アリな気がしてきました」
「あ、あはは…」
『ま、裏には私の名前が入ってるんだけどね』ボソッ
『ぶ、部長!?聞かれちゃいますってば!』ボソッ
「?咲ちゃん、どうしたんだじぇ?」
「な、何でもないよ、あはは…」
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こうして、私たちの『囲い女ごっこ』は
確実に異常さを増していきました。
この時点ですら、事情を知られたら
激しく引かれるほどだったと思います。
もっとも私は、その危うさに気づかないまま。
少しずつ、少しずつ調教されていきました。
そして、私が気づいた時にはもう。
もう後戻りができない段階にまで、
躾けられてしまっていたのです。
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日曜日。
私は生まれたままの姿で布団に包まれながら、
部長のベッドでまどろんでいました。
一足先に眠りから覚めていたのでしょう。
部長は、すでに服を着込んで
どこかに出かける準備をしています。
私がぼんやりと起きていたことに気づいた部長は、
柔らかい笑顔を向けてくれました。
「あ、おはよう咲」
「…おはようございます…」
「…どこか…行くんですか…?」
「うん。コーヒー飲もうと思ったんだけど、
牛乳切らしてるのに気づいちゃって。
ちょっとひとっ走りコンビニまで行ってくるわ」
「すぐ戻ってくるから、咲はまだ寝てなさい?」
「…はい……」
そう言うと、部長は足早に部屋を出ていきます。
玄関の方でバタンと扉が閉まる音と、
ガチャリと鍵の閉まる音が聞こえました。
一人取り残された私は、寝起きのけだるさも手伝って、
何をするでもなくぼんやりと天井を眺めていました。
ブーーーー、ブーーーー
「わわっ!?」
突然の振動音にびくりと体を震わせます。
音のする方を見ると、そこには携帯電話がありました。
おずおずと手に取ると…
ディスプレイには『咲へ』と表示されています。
留守中に連絡が取れるように、
わざわざ携帯を置いていったのでしょうか。
しばらく回らない頭で理由を考えてから、
私は電話を取ることにしました。
「…もしもし」
『あー、ごめん、寝てた?』
「いえ、起きてましたけど…どうしたんですか?」
『……』
「部長?」
『…今、買い物終わったんだけど、
咲は何か欲しいものある?
あれば、ついでに買ってくるわよ?』
どうやら、買うものがないかの確認のようでした。
私は少しだけ考えて部長に返事をします。
「いえ、大丈夫です」
『そっかー』
『……っ』
『あはっ、あははははははっ!!』
突然、電話の先で部長が笑い始めました。
いきなりのことにびっくりした私は、
戸惑いながらも部長に問いかけました。
「ど、どうしたんですか?」
『あはっ…いや、だって、咲…
本当に普通の反応なんだもん』
まだ笑い続けている部長。
私には、部長の言葉の意味がよくわかりません。
「あ、もしかして部長、
私に何か悪戯したんですか!?」
『悪戯かー、まあ、悪戯と言えば悪戯よね』
「も、もう…何したんですか…
顔に落書きとかしてませんよね!?」
『だったら確かめればいいじゃない』
「確かめるって…この部屋、
鏡ないじゃないですか」
『あー、あるある。ベッドの横に引き出しがあるでしょ?
中に化粧用の卓上ミラーが入ってるから』
『それで、確認してみて?』
「って、本当に落書きしたんですか…」
私は呆れながらも、部長に指示されるままに
引き出しを開けます。
中には確かに円状の鏡が入っていました。
私は、鏡を立てて覗き込み…
「〜〜っ!」
激しく体を波打たせました。
『……ね、気づいた?』
部長が、からかうような声音で問いかけます。
その時になって、ようやく私は気づいたんです。
そこには、はしたなく素肌を露わにした
雌の姿が映っていました。
服と呼べるものは何一つ身にまとわず。
支配されていることを示す赤い首輪だけが、
白い首と対比して、鮮やかに映えています。
首輪にはリードがつけられていて。
リードはベッドに固定されています。
その姿はどう見ても、
愛玩動物にしか見えませんでした。
ふと唐突に、いつか聞いた部長のセリフが
頭に思い浮かびます。
−ねえ、咲は囲い女って知ってる?−
−お金で買われるとか、娼婦とかは置いておいてさ−
−ただ誰か一人に支配されて、
それ以外何もない部屋で、
ただ一人ご主人さまを待ち続けるの−
ちょっと前までは、まるで現実感のなかった空想。
でも今は。今の私は…
『今の咲、完全に…
あの時話してた囲い女そのものよ?』
「……っ!!」
妖しい含みを持った部長の声が、
私を現実に引き戻します。
その言葉に、私の身体が一気に熱を帯びました。
その内容は、まるで私が今
何を思い浮かべていたのかを
知っていたかのようでした。
『実際に堕ちちゃうと、なかなか
気づかないものなのかしらねぇ?』
『とんでもなくいやらしい格好で放置されてるのに』
『部屋からも出られないのに』
『それが当然だと言わんばかりに、
平然とご主人さまを待てちゃうものなのねぇ?』
「ぶ、ぶちょう…」
『せっかくだから、命令しておこうかしら』
「め、めいれい…?」
『どうせ咲のことだから、
自分の今の境遇を思い知って…
火照ってきちゃってるんでしょう?』
『戻るまで、後10分くらいあるわ』
『その間…自分で慰めてなさい』
『戻ったら…可愛がってあげるから』
『ね?私のかわいい囲い女さん?』
『は…はい……』
プツッ…ツーーーーッ…
そこで、通話は途切れました。
私は、ぺたりと床にへたり込みました。
『ひゃっ…』
その冷たさに、私は思わず身をよじります。
肌に触れた床が、やけにひんやりと冷たく感じました。
それは多分、私が火照ってるから。
一度、気づいてしまうと、
もう目を背けることはできなくて。
チリチリと焼けるような疼きを、
無視することができなくて。
『んっ…』
私は囲い女として、ご主人さまに命令された通り。
自らの指で、疼きを鎮め始めました…
--------------------------------------------------------
部長が帰ってきました。
『…あっ!……ぶ…ぶちょう……』
囲いの部屋のドアを開けた部長は、
私の姿を見てにんまりと笑顔を浮かべました。
部長には、今の私の姿はどう映ったのでしょうか。
かたや、外に出ても問題ないように
ちゃんと服を着込んだ部長。
かたや、まるで獣のように、
すっぱだかで首輪だけ身に着けた私。
身体は朱に染まって、色欲にまみれて汗ばんだ私。
その対比は、私の心をひどく揺り動かしました。
支配する側とされる側。飼う側と飼われる側。
立場の違いを、明確に見せつけられた気がしたんです。
私のそんな私の心境を読み取ったのか。
部長は立ったまま、座り込む私を見下ろすと、
にやにやと意地の悪い笑みを浮かべて話しかけてきます。
「ふふ…ずいぶん一気にやらしくなっちゃったわねー」
「自分が堕ちたってわかったら、
理性のタガが外れちゃったのかしら?」
『うぅ…』
「あ、そうだ…せっかくだから」
「一度やって見たかった、アレやってもらおうかしら」
そう言って部長は、私の前に足を差し出しました。
「はい」

それが、何を意味するのか…
私には、なんとなくわかりました。
「舐めて?今の咲なら、
簡単にできちゃうはずだから」
にやにやと笑いながら、部長が私に命令します。
私はぞくぞくと鳥肌が立つのを感じながら、
おずおずと部長の足に近づいて…
部長の足に顔を近づけて…舌を突き出して…
ちろりっ…
命令に従いました。
部長は、こみ上げる何かを堪えるように
恍惚とした笑みを浮かべながら唇を震わせました。
「…っ…何も四つん這いになれ、
とまでは言わなかったんだけどなー♪」
「でも、よくできました」
「ご褒美に…可愛がってあげるわね?」
--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
『部長、まだかなぁ…』
何もない部屋で、ただ一人。
私は扉につけられた、
小さな格子付きの窓を眺めていました。
あれからも、部長との囲い女ごっこは続きました。
その異常性に気づいた時にはもう手遅れで。
私は心の芯まで支配されていて。
もう、ごっこはごっこじゃなくなっていて。
部長の卒業を機に、私は正式に
部長に囲われることになりました。
プロの世界に身を投じた部長は、
いきなり借金をして大きな家を建てました。
それは、囲い女用の寝屋があるおうち。
その部屋に窓はなく、扉に申し訳程度の
覗き窓がついています。
そこが、私の住む世界。
別に、外に出ることを
禁じられているわけではありません。
服を着ることを
禁じられているわけでもありません。
ただ、今の私にとっては、
『こっち』の方が普通というだけなんです。
……一体いつからおかしくなっていたのでしょう?
確かに最初は、ごっこ遊びだったはずなんです。
でも、そのごっこは、いつの間にか
境界があいまいになって。
ごっこは、いつのまにか普段の日常を侵食して。
気づけばごっこは、現実と
すり替わってしまっていました。
今日もまた、私は部屋で一人、
部長の帰りを待ち続けます。
ただ、何をするわけでもなく。
はしたない格好でベッドに寝転がって。
ただ部長を想って一人自分を慰めて。
部長が帰ってきたら、いっぱい可愛がってもらうんです。
それが、私の日課です。
『部長、早く帰ってこないかな…』
私はその身を劣情にくねらせながら、
その日何度目かわからない独り言をつぶやきました。
(『Side-久』)
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あとイラストの部長カッコいい。
イラストの部長の目がすごいゾクゾクしました(^ω^)
やっぱり咲さんは虐められてるのが似合いますね、個人的に。
いつにも増して久サイドが予想できませんわあ
一体何があってこんな作品が(驚愕)
ヤンデレとSMって相性良いよね>
久「相性いいわよね!一緒に楽しみましょう!」
咲「ここ、全年齢対象ですから!」
すばらです!>
姫子「花田が壊れよった!?」
煌「愛する女性の一生にきちんと責任を取る…
その潔さ、すばらです!」
姫子「そいでもなかった」
イラストの部長>
咲「部長は可愛いですけど、やっぱり
ドSの方が似合いますね」
久「いや、咲が小動物なのは認めるけど、
私はSじゃないんだけど…」
久サイド>
久「今回はど直球で落としに行ったから
そんなに謀略してないわよー」
咲「部長サイドは明日公開です」
一回落ち着いた方が良いのでは>
久「りっ、リクエストが悪いのよ!?
こんなリクエストじゃ
こうなるしかないじゃない!?」
咲「ちなみに、これ書いたの
実は二週間以上前だったりします」
久「今はもう落ち着いてるはず!」
ではなく素晴らしい作品をさらにイラストまで……
ありがとうございました!久サイドだけでなく
これからの作品楽しみにしています!
久「勝手に18禁前提だと思ってたけど
期待とずれてたらごめんね!」
咲「精神面でもいくらでも書きようは
あったんですけどね」