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【咲SS:咲久】咲「これからも、ずっとごはんを作らせてくださいね?」【あまあま】

<あらすじ>
どうやら部長は、他人の心の機微には異常に鋭い癖に、
自分の心の変化には異常に鈍いみたいです。

自分では平然としているつもりみたいですけど…
部長、どう見ても私のこと好きですよ?

<登場人物>
竹井久,宮永咲,その他清澄

<症状>
・あまあま砂吐き
・異常人格
・依存

<その他>
以下のリクエストに対する作品でしたが…
なんかずいぶん違うものになったような。ごめんなさい!
・自分に好意を持っている咲を言いなりにしていた黒久が、
 咲の一途な姿に徐々に惹かれて浄化していくあまあま久咲

『久「咲のごはんが食べたいな」』と対になってます。
 こっちは糖度200%。


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部長はとにかく、不思議な人です。

特にそんな兆しを見せたつもりもないのに
いつの間にかこちらの考えを読み取って、
さりげなくフォローを入れてきます。

自分の意思で動いていたはずが、
実は部長の掌の上で転がされていて、
いいように操られていたということもあります。

最たる例は京ちゃんだと思います。
どちらかと言えば人を動かすタイプの京ちゃんが、
いつの間にか部長の言いように動く
雑用係になっていたことは、
私にとって少なからず驚きを与えました。


でも、一番不思議なのは。


そんな妖怪みたいな部長なのに、
自分の心の変化については、
全然わかっていないということです。



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きっかけは、お姉ちゃんのことでした。
インターハイの決勝で、明らかに落ち込んでいた私を見て、
部長は説得に失敗したと気づいたのでしょう。
部長は私を抱き寄せて、私を慰めてくれました。


でも、部長は気づいていたのでしょうか。
私を慰める部長の方が、
よっぽど打ちのめされた表情をしていたことに。


「咲は、何も悪くないのよ?」

「あんなに頑張ったんだもの。
 受け入れない、お姉さんが悪いの」

「なんで…報われないの、かしらね?
 あんなに…あんなに…頑張って…たのに……!」

「もうっ…いっそのこと…私の、妹に…なっちゃわない?」


今にも泣きそうな顔で、震える声で私を慰める部長。
最後の方は、もうほとんどかすれ声で。
その様に、私は強く心を動かされて、
気づけば「はい」と頷いていました。

そしたら部長は、泣きながら。
私の頭をぎゅっと強く抱え込むように、
腕で包み込んでくれたんです。



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部長の擬似妹になった私が、初めて部長にしたことは、
お弁当を作って持っていくことでした。

私のお弁当を受け取った部長は、
いつも通りマイペースな笑顔でそれを受け取って。


「どうせなら一緒に食べましょ?」


と言って、私を屋上に連れ出しました。
私は、その時起きたことを一生忘れないと思います。


部長は私のお弁当を食べるなり、
突然涙をこぼし始めたのです。


「え、ぶ、部長…!そ、そんなにまずかったですか!?」

「へ?いやいや、ものすごくおいしいけど?
 何これ、咲、あなたお店開けるんじゃない?」


いつも通りの平然とした笑顔で、
いつも通り軽い口調で返す部長。
でも、その瞳からは、次から次へと
涙が零れ落ちていきます。


「じゃ、じゃぁ…なんで、そんなに…
 泣いてるんですか?」

「へ?…うわ、何これ!私マジ泣きしてる!?」


なんと、部長自身泣いていることに
気づかなかったのです。

部長本人が気づいていなかった以上、
泣いている理由はわかりませんでした。

でも部長は、おいしいおいしいと言って食べてくれたので、
とりあえず悪い涙ではないと、
自分を言い聞かせることにしたんです。



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なぜ、部長はあの時泣いたのか。
そして、なぜそれを本人が認識できなかったのか。
私はそれを知りたいと思いました。

そもそも付き合いの長さという点では、
私と部長は大した歴史を持ちません。

だから、もっと部長の事を知っていそうな人に
聞いてみることにしました。


「…心当たりがあるっちゃある」

「そうなんですか?」


染谷先輩は私の話を聞いて、
複雑な表情を浮かべました。


「久の奴はな…もう親がおらんのじゃ。
 中学の時に離婚して、今は一人暮らししとる」

「じゃけぇ、最後に手料理なんて食ったんは、
 もうずいぶん昔のことになるんじゃろう」

「あれで、久は寂しがり屋じゃ…
 相当、傷ついとったんじゃろうなぁ…」

「自分で、そういった感情を
 封印してしもうたのかもしれん…」


気づけんかった自分が情けのうなるな…
そう言って、染谷先輩は天を仰ぎました。

染谷先輩が言った事は推測の域を出ていません。
でも私は、それが真実ではないかと思いました。

それならば、インターハイの決勝で部長が見せた涙も、
私のお弁当で見せた涙も、容易に説明ができるからです。

そして、もしそれが真実ならば。
もはやそれは、大した問題ではないとすら思えました。

だって、これからは私がいます。
部長の妹になった私が。
部長はもう、一人ではないんです。

とりあえず私は今日から、
部長の夕食を用意することに決めました。



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次第に部長は、私にあまえるようになってきました。


「ねぇ咲ー、私って実は朝弱いのよねー。
 朝起こしに来てくれない?」

「いいですよ?ついでにごはんも作りましょうか?」

「ホント!?すっごい助かる!!」


本当にうれしそうに、満面の笑みで
キラキラと目を輝かせる部長。

正直最初は「早起きできるかな?」とも思ったのですが、
実際にやってみたら、むしろ待ち遠しくて
勝手に目が覚めるようになりました。


「部長…朝ですよー。ごはんできてますよー」

「んにゅ…むにゃ…さきー?」

「はい、宮永咲です。起こしに来ましたよ」

「わぁー…えへへ…さきだぁー…
 あさからさきがいるー…♪」


幼い子供みたいに舌ったらずなしゃべり方で、
部長はぎゅーっとしがみついてきます。
いつもの部長からは想像もつかない光景です。


合宿の時やインターハイのホテルで同室した時。
部長は、誰よりも早く起きていて、
私が起きた時にはもうしゃっきりとした顔で
バナナを食べていました。

でも、実際にはこっちの姿が、
本当の部長なのかもしれません。
もし、インターハイの時に見せた姿は偽りで、
こちらが本当の姿だとしたら。

部長は、私にだけ本当の姿を見せてくれたんだなって。
部長に受け入れてもらえたんだなって、
嬉しくて仕方なくなりました。



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ちなみにもう一つ、部長が私を
虜にした出来事があります。

部長は私のごはんをいつも本当に
美味しそうに食べてくれるのですが、
私はそれを疑ってしまったことがあるのです。

人心を掌握することに長けている部長ですから、
もしかしたら単なるお世辞なのかもしれないと。

その日の晩、私は同じ料理を
宮永家の食卓にも出しました。


「ねえ、お父さん。私のごはんっておいしい?」

「ん?ああ、普通にうまいと思うぞ」


そう、これが普通の反応だと思います。
確かに、年の割には料理歴は長い方だと思いますけど。
だからって本格的に学んだわけでもないですし
「普通においしい」くらいが
妥当な評価だと思うのです。

でも、同じ質問を部長にしたら、こうなりました。


「部長。私のごはんっておいしいですか?」

「そりゃあもう!ぶっちゃけ
 おいしすぎてちょっと太ったわ!」

「あ、あはは…そうですか…」


全く曇りのない笑顔で即答する部長。
私は思わず頬をゆるませながらも、
それでも信じ切ることができなくて。
ちょっとだけ、意地悪をしてみたんです。

それは、お弁当の中身を一部だけ、
コンビニのお弁当と入れ替えることでした。


いつものように笑顔でお弁当を受け取った部長は、
一口分のおかずを箸で掴んで、口にほおりこみます。
そして、もぐもぐと咀嚼して…


みるみる顔が曇っていきました。


そのまま無言で飲み込むと、
別のおかずを警戒するように少しだけ箸に取り、
おずおずと緊張した面持ちで噛みしめます。


そして今度は、こぼれんばかりの笑顔を見せました。


それで、もう十分でした。


「す、すいません、部長!
 私、お弁当を間違えちゃったみたいで…」

「へ、間違えた?」

「は、はい…実は計算を間違えちゃって、
 おかずがちょっと足りなかったんです。
 それで、私の分は買い置きのおかずで代用したんですけど…」

「あ、あー!そういうこと!?
 一口目、異常にまずくてびっくりしたわ!」

「ご、ごめんなさい…こっちは全部私が作ったおかずなんで、
 取り替えさせてください」

「でも、そういう事ならせっかくだし、
 利き咲弁当しましょうか!」

「き、利き咲弁当!?」

「そ。どれが咲の作ったおかずで、どれが既製品か。
 ばっちり完璧に当てて見せるわ!」


そう言って、部長はすべてのおかずを
少しだけつまんで味を確認しました。


「ふむふむ。既製品は、これとこれとこれとこれね!
 どう、当たってる?」

「は、はい…全問正解です…
 でも、どうしてわかったんですか?」

「一言でいえば、大量生産の味だから、かしら?
 まぁ自分でもよくわからないけどね!」

「はい、というわけで、これは食べられません。
 ちゃんとした咲のお弁当をください!」


そう言って、部長は私のお弁当を催促したのです。
正直この結果に、私は舌を巻きました。

だって、いかにコンビニ弁当とはいえ、
バレにくいおかずをすり替えたはずなのです。
まさか、全部当てられるとは思いませんでした。

でもそれは、部長は本当に味の違いが分かっていて。
その上で、私のごはんを求めてくれている、ということで。

私はもう本当に、部長が好きで
仕方なくなってしまいました。



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もっともこうなると、それはそれで
心配になることもありました。

もちろん私としても、部長のごはんを365日3食全て
用意したいと思いますけど…
時には、それが無理な場合も出てくるからです。


「あ、部長…私、明日は用事があって
 丸一日潰れちゃうので…
 ごはんとか用意できません。
 ごめんなさい」

「あー、だいじょぶだいじょぶ。
 咲に作ってもらう前はちゃんと自炊してたんだし、
 心配しなくても自分で作るわよ」


言葉とは裏腹に、部長は表情が固まりました。
こういう時の部長は信用してはいけません。

だって部長は、自分の心の変化には驚くほど鈍いから。
いつも私といる時は表情豊かな部長が、
突然ひょうひょうとした顔を見せる時。
それは、決まって間違いなく危険信号です。


「あ、あの…部長、明日の分作り置きしておきましょうか?」

「いーのいーの。丸一日用事なんでしょ?
 だったら今日だって早く帰った方がいいくらいじゃない」

「そ、それはそうですけど…」


結局私は、部長の言葉にあまえてしまいました。
コンビニ弁当が駄目でも、
自炊したごはんなら大丈夫かもしれない。
そんな憶測もありました。

でも、会えなかった次の日に。
部長は、しょんぼりした顔でこう告げたのです。


「自分で料理作ってみたけど駄目だったわ」


私は、一昨日の自分の決断をちょっぴり後悔しました。
そのせいで、部長を一日
しょんぼりさせてしまったことを、
申し訳なく思いました。


でも。


「やっぱり、咲のごはんじゃないとねー」

「そ、そうですか…えへへ」


申し訳ないと思いながらも。
私はこの言葉を聞いて、こみあげる喜びを
抑えることができませんでした。

よく言いますよね?
彼氏をゲットするには胃袋をつかめって。
正直この時の私に、
そういった気持ちがあったのは否定できません。

だって、この頃には私はもう、
部長の事が本気で好きになっていましたから。


ただ、この辺はさすがに部長の怖いところです。


「…ん?咲、もしかして私の事、好きなの?」


突然の一言に、ドクンと心臓が跳ね上がりました。
浮き足立っていた気持ちが一気に縮みこんで、
身体が自然に震え出しました。


え…なんで、どうして…わかっちゃったの!?


真っ白になった頭で一生懸命考えてもわかりません。
部長の読心術としか思えません。
そして、何よりも私を怖がらせたことは。

ここで適当に言いつくろっても、
部長は真実を見抜くだろうということです。

結局私は、告白する勇気も覚悟も用意できないまま、
震える声で肯定するしかありませんでした。


「は、はい…」

「部長の事、好き、です…」


言った…言ってしまった…
私は恐怖に囚われて、
部長の顔を見ることができませんでした。


怖い…怖いよ…


だって、私は部長の妹のはずで、
恋愛感情で見られてたかは正直微妙だし。

いくら部長が私のごはんを褒めてくれたからって、
結局それはごはんのことなわけで。

『あ、そういう事ならごめん、断るわ』

とか普通に言われちゃいそうd


「わかったわ、咲。私達、つきあいましょ?」

「えぇ!?」


でも、部長は軽い感じで受け入れてくれました。
そのあまりの口調の軽さに、
思わず私は聞き直してしまいます。


「…ぶ、部長…本当ですか!?」

「さすがにこんな嘘はつかないわよ?
 これからもよろしくね!」


そう言って、部長はにっこりと微笑みかけました。



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あまりの口調の軽さに、
正直私は、部長の愛を疑っていました。
でも、それはすぐに
杞憂だとわかることになりました。


「え、えへへ…愛情、こめてみました」


恋人という関係になった次の日。
これまでになく全力で作ったお弁当。
部長はそれを食べて、また号泣したのです。


「なっ…なにこれ…さ、
 催涙成分とかっ…入ってるん…じゃないのっ?」

「そ、そんなもの入れませんよ!?」

「だ、だったら…なんでっ…こんなっ…
 なみだが…でてくるのよぉっ…」

「そ、それっておいしくないからですか!?」

「ちっ…がっ…その、ぎゃく…」


泣きながらお弁当を食べて。
それでまたひとしきり嗚咽して。
最後に言った部長の言葉は、
いちいち私の心をわしづかみにしました。


「愛のこもったお弁当って、こんなにおいしいのね!!」


もちろん私が愛を確信したのは、
これだけではありません。
部長は他にも、ことあるごとに
可愛い姿を私に見せてくれました。


例えばそれは、初めてキスをした時のこと。


夕焼けに照らされた見晴らしのいい丘の上で、
部長はそっと私に口づけました。

私は緊張してぎゅっと目を閉じてしまって、
キスもすごく短いものだったので…
なんだか実感がわきませんでした。


(あ、あれ…終わったのかな?)


みたいな。狐につままれたような、
不思議な気持ちで目を開けた私。
そして、そこで見たものは。


これ以上ないくらい幸せそうに、
ふにゃあ〜っと頬を緩ませる部長の笑顔でした。


もう完全に筋肉が弛緩しきって、
とろーんと目が潤んじゃって。
脳内物質でも出ちゃってるような、
とろけきった笑顔を浮かべる部長。


その笑顔を見た私は初めて、
キスしたんだって実感が持てて。
何より、それで部長が
これだけ幸せそうな顔をしてくれるのを見て。

ああ、本当に愛されてるなぁって、
全身で感じることができたんです。


面白いのは、部長がそんな自分の変化に
気づいていないことでした。


「さ、帰りましょっか!」


なんて、凛々しい口調で言い放った部長。
きっと、自分ではしゃっきりと
しているつもりなのでしょう。

でも、その顔はにっこにっこと
だらしなく弛緩しきっていて。
歩き方も、なんだかふわふわ
地に足がついてない感じです。


(あれ、もしかして私達って…
 私が、リードした方がいいんじゃないかな…?)


それは、頼れる先輩とあまえる後輩という、
私達の立場が逆転した瞬間でもありました。



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ただ、私達のそういった関係は、
傍目からはだいぶ違って見えたようです。

他人から見た私達の関係は、
『会長が部活の後輩をいいように使っている』
ように見えるようでした。

京ちゃんの例もあるので、
それと同じように見られたのかもしれません。
染谷先輩にも、関係が変わる前後で
何度か質問されたことがあります。


「なあ、咲。お前さんは、
 今の自分の扱いに疑問を持たんのか?」


染谷先輩視点では、私が小間使いのように
見えたのかもしれません。

部長は私と付き合っていることを
公言しませんでしたし。

私もそれなりに独占欲が強いので、
他の人に部長の可愛い姿を見られたくなくて、
表に出さないようにしてましたから。


でも、実際には。


部長が私の事を好きすぎて、
可愛すぎて困るくらいだったんですよ?



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もっともそんなことを考えていたら、
本当に困る事態になってしまいました。

ある日突然、二週間清澄を
留守にすることになってしまったからです。


『お母さんが今後のことについて
 ちゃんと話したいらしい』

『離婚するという方向ではなく、
 やり直すという方向で』

『決勝で私と麻雀を打つ咲の姿を見て、
 このままでは駄目だと思ったらしい』


電話の向こうで、静かに語るお姉ちゃん。
でも、その声は確かにはずんでいました。

インターハイの決勝戦のあの日。
確かに私は、お姉ちゃんと
仲直りすることはできませんでした。

でも、私を受け入れなかった理由は、
お姉ちゃん自身にあったのではなく。

どうやら、最後に残されたお母さんを
気にしてのことだったようなのです。

そしてそのお母さんが動き出した以上、
もうお姉ちゃんが私を
拒絶する理由はありませんでした。


この知らせが嬉しかったのは事実です。
思わず受話器を抱きかかえて、
涙してしまったのも事実です。


でも、幸せに浸りつつ受話器を置いた私に、
ある一つの心配が襲い掛かってきました。


「部長…私なしでも、ちゃんと生活できるのかな?」



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3日後。





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『さ、咲ちゃんか!?一大事だじぇ!!』

「ど、どうしたの優希ちゃん」

『ぶ、部長がおかしいじぇ!!』

「お、おかしいって…どんな風に?」

『いっぱいありすぎてアレなんだけど…
 とりあえず一番ひどいのだと、
 『咲ちゃんのごはん以外味がしない』
 って言ってるじぇ…』

「えぇ!?何それ!?」

『他にも、事あるごとに咲ちゃんに話しかけて、
 『そっか。咲、いないんだ…』とか
 ぽつりと言って儚げな笑みを浮かべるとか…
 正直見てるこっちが参りそうだじょ!』

「わ、わかったよ。できるだけ
 早くそっちに戻るようにする」

『頼んだじょ…正直、部室の空気がお通夜モードで
 このままじゃ皆にまで鬱が伝染しちゃうじょ…!』


ガチャッ…


「お母さん、お姉ちゃん!
 私、もう帰っていいかな!?」

「却下する」

「えぇ!?なんで!?もう普通に
 仲直りできそうなんだからいいでしょ!?」

「私は元々怒ってなかった。
 むしろ咲を愛でたくてしかたなかった」

「この数年得られなかった咲分を
 補給しなければやってられない」

「何それ!?そんな素振り全然なかったじゃん!
 前会った時もすごい顔してたじゃん!」

「見えないところで太ももをがっつりつねってた」

「あれ痛み堪えてたの!?
 知りたくなかったよそんな事実!」


結局、私は二人の(主にお姉ちゃんの)
強引な引き止めのせいで、
きっかり二週間戻ることができませんでした。

このせいで後に起きたことを考えると、
正直お姉ちゃんに殺意が芽生えました。



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清澄に帰ってきた私は、自分の家に戻るよりも先に、
まずは部長の家を訪ねました。

勝手知ったる部長の家。
インターホンを押しても反応がなかったので、
もらっていた合鍵を使って中に入ります。


そして、私が見たものは。


病的なまでに真っ白な肌になって、
まるで衰弱死する寸前の動物のように、
小さく縮こまって布団にくるまる部長の姿でした。


「ぶ、ぶ…ぶちょう!?」


異変はそれだけではありません。

普段は身の回りをきっちり整頓する部長。
そんな部長の部屋のそこここに、
夥しい量のごみがそのまま打ち捨てられています。

特にゼリー飲料や保存食の容器が
大量に捨てられていました。

震える手で冷蔵庫のドアを開けると、
中身は完全に空っぽで、
飲み物すら入っていません。


それは部長がここ数日、まともな食事を
取っていないことを示していました。


「と、と、と、とにかくごはんを作らないと」


大至急持ってきた食材で簡単に作れるごはんを作り、
私は部長を揺り動かします。
でも、部長はなかなか目覚めませんでした。

正確には、本当に少しだけですが
目は開いているので、
起きてはいるはずなのです。
でも、呼びかけても反応がなくて。
その異常な様相が、私をより追い詰めました。


「起きてください!部長、起きて!」


私は半狂乱になりながら、部長を乱暴に揺り動かしました。



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ようやく目を覚ました部長は、
ものすごい勢いで私のごはんをたいらげると、
ぽつりぽつりと事の経緯を話し始めました。


私が居なくなった後、
ごはんが食べられなくなったこと。

夜も眠れなくなったこと。

手足が勝手に震えて、寒くて体を丸めたこと。

そのうち、涙が止まらなくなって、
何もする気力が起きなくなって。

ずっと何もしないで布団にくるまっていたら、
ようやく眠れそうだったこと。


それを聞いて、思わず身体が
ガクガクと震えました。

もしかしたら、部長は本当に
眠ってしまっていたかもしれないのです。
そう、それは永遠に。

本当に、間一髪だったのです。


驚くことに、それでも部長は
自分の気持ちを理解していませんでした。


「ねえ、咲。私ね、わからないことだらけなの」

「咲が帰ってこないかもって考えたら、
 何もする気が起きなくなった」

「咲が戻ってきたら。
 今度は涙が止まらなくなった」

「これって、どうしてなのかしら」


勘のいい部長なら、それだけ提示されてれば、
答えなんて想像できるはずなのに。

それでも部長は、子供のようにしゃくりあげて、
目をこすりながら私に質問するのです。


「そんなの、決まってるじゃないですか…」

「部長が、私の事を、好きだからですよ…!」


そう言って、私は部長を強く抱き締めました。
ああ、この人はほおっておけない。
私が、ずっと側に居てあげないと。



--------------------------------------------------------



「まあそんなわけで、どうやら私、
 咲の事が好きだったみたいなのよね」


私をその腕に抱きながら、あっけらかんと告げる部長。
この告白に、部員全員がため息をつきました。

もっとも事情を知らなかったとはいえ、
悪戯に部長を不安がらせた染谷先輩は
正直同類だと思いますけど。


「じゃあ、部長は本当に
 自分の気持ちに気づいてなかったのか?」

「いやだって身体の変調はあったけど、
 感情の変化はなかったのよ」

「そんなことありえるのかー?」

「…味覚障害という病気があります。
 亜鉛不足という栄養素的な要因の場合もありますが、
 過度のストレスが原因で起きることも多いようです」

「マジでか!でもそれだけストレスを感じてたなら、
 感情に変化なしって余計にありえないじぇ?」

「ま、自分で言うのもなんだけど。
 私ってけっこう変だからねー」

「いやいや、笑いごとじゃないですよ…
 今回は本当に死にかけてたんですから…」


それを聞いて、けらけらと笑う部長。
いや、本当に全然笑い事ではないと思うんですけど。
それでも部長は


「そこは、咲が何とかしてくれるでしょ?」


なんて、ふにゃりと笑いかけてきます。
これが、今回の一件で大きく変わってしまったこと。
部長は、人前でも遠慮しないで
私にあまえてくるようになりました。
これは危険な兆候です。


今の可愛い部長を見て、部長に落とされる人が
出てこないといいんですけど…


当の本人は、そんな私の心配なんてどこ吹く風で。
平気で、歯が浮くようなセリフを私に投げかけるのです。


「咲、私から一生離れないでね?」

「えぇ!?…なんでいきなりプロポーズするんですか!?」

「え、これってプロポーズになるの?」

「いやだって、ずっと一緒にいるって…
 結婚するのと同義じゃないですか…」

「あー、そうなんだ。じゃあ、言いかえるわ。
 咲、私と結婚してちょうだい!!」

「も、もう!!部長、ホントはちゃんと
 わかってるんじゃないですか!?」


もっとも、部長が本当にわかってるかどうかについては、
大した意味はありません。
私からすれば、部長が私を
大好きだということはまるわかりですし。
だから、私はこう返しました。


「これからも、ずっとごはんを作らせてくださいね?」

「さ、咲ちゃんがプロポーズを承諾したじぇ!」

「え、これはOKってことでいいの?
 せっかくだから私みたいに言い直してくれる?」

「い、いやですよ!」


だって、それはあまりにも恥ずかしすぎるから。
だから、心の中で言わせてください。


(部長、私と…結婚してください)



(完)
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posted by ぷちどろっぷ at 2014年12月09日 | Comment(11) | TrackBack(0) | 咲-Saki-
この記事へのコメント
良かったわ。とても素敵なお話ね。


なんてクールに感想を書いてますが、今の自分の顔は作中の部長並みに緩みきっているのだろうと思います。
 やばい!そろそろ会社行かなきゃだから緩みきった顔をどうにかしないと!
Posted by at 2014年12月09日 16:04
無意識の依存とはすばらですねぇ‥何よりこの久さん可愛すぎ(笑)
リク受け大感謝です!しっかり糖分補給させて頂きましたm(__)m

そしてテルーはやっぱりテルーだった
Posted by 130 at 2014年12月09日 16:31
照……シスコン照って何気に珍しい?
Posted by at 2014年12月09日 16:50
やっぱり咲さんは天使だなあ。知ってた知ってた。

愛し愛され、互いが互いを求める。この久咲さんにはぜひドロドロにならず甘い青春を送っていただきたい
Posted by オリ at 2014年12月09日 23:57
あまーーーーーい!!!

冬のメルティキッスの如くとろけそうです。
Posted by at 2014年12月10日 12:33
結婚おめでとうございます末長くお幸せに(笑い)
これは咲さんが嫁だよね
Posted by at 2014年12月10日 17:33
甘えん坊な久さんほど可愛いものはない!

この相思相愛感が良いですね!

Posted by at 2014年12月11日 09:32
コメントありがとうございます!

緩みきった顔>
咲「そのまま行けばいいと思いますよ?
  きっとみんな笑顔になれますから」
久「…本人は恥ずかしくて仕方ないのよ!」

リク受け大感謝>
咲「お題を消化できたかちょっと不安でしたが…
  よろこんでいただけてよかったです」
照「数年来の妹なんだからこのくらいは
  許してほしい」
咲「お姉ちゃんは反省してね?」

シスコン照>
照「シスコンじゃない。
  数年来の妹なんだからこのくらいは普通」
咲「普通のお姉ちゃんは補給とかしないよ?」

甘い青春を>
久「言われてみると、黒→白って
  初めてのパターンね」
咲「逆はいっぱいありますけどね」
久「まぁ、期待通りこの後も
  あまあまで生きていくわ!」

メルティキッス>
咲「あー、まさにそれです!
  そんな感じのとろけっぷりでした!」
久「うぅー…」

咲さんが嫁>
咲「かわいさでは部長もお嫁さんだと思います」
久「二人とも嫁ということで!」

相思相愛感>
久「まだ私の方は実感がないんだけどね」
咲「どう見ても部長の方がベタぼれですよ?」
Posted by ぷちどろっぷ(管理人) at 2014年12月12日 22:38
あ〜素晴らしい甘々。後読感でこれだけニヤけられるのはヤンデレとは違った幸せな気分です。
Posted by 名無し at 2014年12月29日 06:17
ヤンデレとは違った幸せ>

咲「あまあまはあまあまでいいですよね!」
久「たまにすっごいあまいのを書きたくなるのよね。
  喜んでもらえてうれしいわ」
Posted by ぷちどろっぷ(管理人) at 2015年01月02日 22:57
久さんかわいいいい〜ッ!
Posted by at 2018年01月09日 16:58
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