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【咲SS:久咲】咲「私達は病気のペット」【依存】
<あらすじ>
原村和は、生まれつき稀有な能力の持ち主である。
それは、動物と会話できるという能力。
そんな彼女は、動物の心をケアする
動物カウンセラーを営む傍ら、
同時にペットショップも経営している。
これは、そこに住む二匹の心に傷を持った動物…
『サキ』と『ヒサ』の物語。
<登場人物>
宮永咲,竹井久,原村和,清水谷竜華,園城寺怜
<症状>
・共依存
・狂気
・後追い
<その他>
※『管理人が夢で見た』シリーズ。
ほぼ夢日記に近いので
整合性とか咲でやる必要性なんかは
気にしたらダメだぞ☆
※全体的に重苦しいです。
苦手な方はご注意を。
気にする方は先に結末を見るとよろしいかと。
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ここは、場末のペットショップ。
その華やかな内装、
姦しい動物達の鳴き声で賑やかな店内の片隅に、
一か所だけ異様な空気を放つ空間がある。
売り場には違いない。だが、
その売り場はどこか暗く落ち込んでおり、
他の和やかなブースの雰囲気とは
明らかに一線を画している。
おそらく、店主はこのペット達が
売れるとは思っていないのだろう。
なぜなら、その売り場のペット達の
紹介カードには値札すらついておらず。
『病気』
の二文字が殊更大きく印字されているのだから。
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『サキ』はこの墓場のような売り場の、
左上のケージを住みかにしている。
物心ついた時にはこのケージの中だった気がするから、
おそらく生まれた時から
このケージで過ごしてきたのだろう。
そして、おそらく最期も
このケージで迎えるのだろう。
そんなサキの日課は、同じ病気仲間と話す事、
店員の原村に餌をもらって食べる事、
後は定期的に散歩に連れて行ってもらう事である。
それ以外にやる事はほとんどない。
もっともサキは己の境遇を儚んだ事はない。
生まれつきこうだったから、
それに違和感を覚える事もないのだ。
むしろ、どこか臆病で人間付き合いが
苦手なサキからすれば。
華やかなケージに飾られて、
人々の好奇の視線に晒される
『エリート』達に同情を禁じ得なかった。
ああ、自分は『病気』でよかった。
絶対にああはなりたくない、と。
そんなわけで、サキは何をするでもなく、
ぼんやりとケージの外を眺めていた時の事だった。
トコトコと、規則的な足音を立てて
近づいてくる人がいる。
サキは経験上、それが店員の
原村のものであると気づいた。
何だろうか。
まだ餌の時間にはずいぶん早い。
ほどなくして現れた原村は、
ペット達に微笑みかけながらも、
どこか悲しい雰囲気を漂わせていた。
サキは、その原村の表情を知っていた。
過去に、何度も見た事がある表情だから。
ああ、また『病室』に『患者』が増える。
原村は、目を伏せてため息をついていた。
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原村和は、生まれつき稀有な能力の持ち主である。
それは、動物と会話できるという能力。
彼女は他の人間と同様に、動物達と会話する事ができる。
理屈はよくわからない。ただ、動物の言葉が
人間の言葉に翻訳されて聞こえてくるのである。
それは一般の人間からしたら『ありえない』と
眉を潜めざるを得ない『オカルト』的な能力であった。
もっとも彼女自身からすれば、
それはごく当たり前の機能であって。
『オカルト』と呼ばれる事を、
ひどく嫌ってはいるのだが。
そんな彼女の生業は二つある。
一つは、動物カウンセリングである。
それは彼女特有の力を生かして、
人間とペットの橋渡しを行う仕事。
いわば、動物の精神病院のようなものであった。
もう一つは、ペットショップ。
故あって主人と離れざるを得なくなったペットを
格安で提供している。
こちらの儲けはほとんどない。
元々、利益目的ではないからだ。
ペットショップという形態をとっているのも、
他のペットショップに対する
便宜以外の何物でもない。
ここにいるペットは、原村が『救えなかった』ペット達。
主人との関係を修復できなかったか、
何らかの理由で主人を失ってしまったペット達だった。
だから、新しい主人が見つかればよし、
そうでないなら原村が一生面倒を見るつもりで飼っている。
飼われているペットの経緯は多種多様である。
単に主人との相性が合わなかった、
主人側に問題がありすぎたようなペットも多い。
そういったペットは比較的
新しい主人がすぐ見つかるため、
華やかなケージで飼っている。
でも、中にはペット側に問題があったり、
どうしようもない悲劇的な理由から
ここに来なければならなくなったケースもある。
そう言ったペットは『病気』のケージに入れられる。
これらのケージはあえて寒々しいものにしている。
動物達がそれを好むという事もあるが、
もし彼らを飼おうとする主人がいるとしたら、
その主人には相応の『覚悟』をしてもらいたいからだ。
もっとも、そんな主人が現れた事は一度もないが。
今日、そんな原村のペットショップに、
新たな住人が加わる事になる。
彼女の名前は『福路ヒサ』。
彼女は『悲劇的な理由』から、
『病気』ケージに入れられる予定になっていた。
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サキの右隣に引っ越してきたのは、
『ヒサ』と呼ばれた赤毛の動物であった。
原村が言うには、本来ならとても人気があるペットで、
普通のペットショップに卸せば
その日のうちに買い手がつくだろうとの事だった。
だが、サキにはとてもそうは思えなかった。
隣のケージに蹲る(うずくまる)ヒサには、
そんな華やかな雰囲気は全く
期待できなかったからである。
それでもサキはいつものように、
お隣さんに向けて初めましての挨拶を投げかける。
『こ…こんにちは』
控えめにかけた声。
だが返事が返ってくる事はなかった。
サキは若干気圧されながらも、
もう一度声をかけてみることにした。
『あ…あの』
『ごめんなさい。今は独りにしてくれる?』
今度は明確な拒絶が返ってきた。
それでサキは委縮して、
ついそのまま押し黙ってしまう。
だが、サキが沈黙したのは、
単に痛烈な拒絶だけが理由ではなかった。
なぜなら、サキはわかってしまったのだ。
彼女がここに来た理由を。
彼女の声音を聞いただけで、
理解してしまったのだ。
サキは前にも一度、
似たような声を聞いた事があったから。
そう、あれは…『リューカ』の声。
今彼女が発した声は、リューカの
『あの時』の声音にそっくりだった。
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『トキ』と『リューカ』は、サキと同じで
この『病気』エリアの古株だった。
トキがここに来た理由は単純に病気。
あまりにも病弱すぎる彼女に飼い主が根をあげた。
リューカには問題がなかったのだけれど、
彼女はトキから離れようとしなかったから、
セットでこのペットショップにやってきた。
身体が弱いとはいえ、
性格的には明るくてやんちゃなトキと、
その面倒を見る優しいリューカは、
サキにとって数少ない大切な友達だった。
もっとも、今はもういない。
トキは、病気でこの世を去ってしまったから。
リューカは、その後を追ってしまったから。
サキはあの時の事を思い出す。
それは、トキが先に逝ってしまって、
二匹で残された時の事だった。
『リューカさん…』
『気にせんでええよ。
いずれこうなるのはわかっとったし』
リューカはサキを気遣って笑みを見せた。
もっともその目は真っ赤に染まり、
頬には涙の跡がくっきりと残っている。
『ごめんな?サキちゃんかて、
トキの最期見届けたかったやろ?』
『いえ…最期のひと時くらい、二匹で
ゆっくり過ごしてほしかったですから』
『…おおきに』
『……』
『……』
『トキはな。救われたんやと思う』
『…え?』
『ずっと、苦しんどった。痛い痛い言うとった。
こんなつらいんならもう死にたいって言うとった』
『それでも、頑張って残っとったんは…
やっぱりうちのせいなんやろな』
『うちを一匹にしたない…ただそれだけのために、
トキは痛みと戦っとった』
『だから…これでよかったんや。
うちは、トキに苦しんでほしないから』
『……』
『…サキちゃん。ごめんな』
『…え?』
『……』
『…何が、ですか…?』
『…サキちゃんを、一匹にしてまう』
『……』
『…そう、ですか……』
『ごめんな……』
『…私の、事は…き、気にしないでください。
トキさんと、向こうで…
し、幸せに、なってください』
『……っ』
『……おおきに』
『…ごめんな。独りにしてくれる?』
その言葉を最後に、リューカはケージの寝床に籠った。
以降、一度も言葉を発する事はなく。
サキも、自分の寝床で震えながら眠った。
その後リューカがどうなったのか、
サキはその詳細を知らない。
でも、何が起きたのかは大体わかった。
「……っ!!」
原村が、いつもは見せない大粒の涙を零して、
ケージの前で崩れ落ちたから。
その後、サキの隣のケージが空室になったから。
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福路ヒサの飼い主は、理想的な飼い主だった。
プロ顔負けの手際もさることながら、
彼女はなによりもヒサを愛していた。
動物との触れ合いを生業にする自分の目から見ても、
これほど完璧な飼い主は他には居ないと原村は思う。
「私が息を引き取った後、
この子を引き取っていただけませんか」
彼女は原村にそう依頼した。
彼女は病魔に侵されていた。
そして、もう長くはなかった。
自分が逝ってしまった後のペットの事を心配する。
その愛情の深さに心を打たれた原村だったが、
だからこそ気持ちが重く沈むのを否めなかった。
「かまいませんが…彼女を救えるかはわかりません」
これまでの経験が告げている。
ヒサは、間違いなく『病気』レベルの愛情の持ち主だ。
彼女の傍らにたたずむヒサと、
つい最近喪った(うしなった)
リューカの顔がだぶって見えた。
それでもと彼女に追いすがられて、
結局原村は承諾する。
どのみち自分が関わらなければ、ヒサは命を絶つだろう。
であれば、まだ自分が手を施した方が
生き残る確率は上がるかもしれない。
原村は飼い主のそばから片時も目を離さないヒサを、
暗い気持ちで盗み見た。
自分は、彼女を救えるだろうか。
仮に可能性が残されているとしても、
その確率はごくわずかなものだろう。
原村は、その事も知っていた。
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ヒサの品種が人気な理由。
もちろん容姿の美しさもあるが、
何より人を惹きつけるのは、
その愛情の深さと突出した頭のよさだろう。
だが、そんな彼女の長所が逆に、
原村を苦しめる事になった。
飼い主が没した後に引き取られたヒサは、
原村をまっすぐ見据えて言った。
その瞳に、一切の光は灯っていなかった。
『ごめんなさい、私は美穂子の後を追うわ』
「福路さんはあなたに生きてほしいと言っていました。
あなたが死んだら彼女は悲しみますよ」
『じゃあ、あなたは死後の世界があると思う?』
「…思いません。死んだら、生き物は皆
ただの物質に変わり果てると思っています」
『だったらあなたの言い分は
ダブルスタンダードなんじゃない?』
『死後の世界がないのなら、
私が死んで悲しむ美穂子はどこにいるの?』
『自分がいないと思っているものを盾に、
あなたは私は縛りつけるの?』
『私は死後の世界はあると思う。
だから、美穂子に会いに行きたいの』
「死後の世界がないと思うからこそです。
あなたが死んだら、それはただの犬死です」
「彼女もそう思ったからこそ、
『生きてほしい』と考えて、
あなたを私に託したはずです」
「あなたが死んだら、彼女の遺志が悲しみます」
「『追わないで』」
「…そう、彼女に言われたでしょう?」
『…後追いを犬死なんて断じる割に、
遺志なんてあやふやなものには
感情を与えるのね?』
「……」
『…もっとも別に否定はしないわ。
実際今私が生きている理由は、
その遺志に対する義務感だけだもの』
『でも、それももう限界。
私は彼女のいない世界に耐えられないの』
議論は平行線だった。いや、
どちらかと言えば原村の分が悪かった。
だが、原村も引く気はなかった。
愛別離苦に耐えながらただ生き続けるよりも、
後を追わせた方が楽になる。
一度はそう思って、あの時リューカの好きにさせた。
結果、彼女が死後何を思ったのかはわからない。
でも、リューカは確実に、原村の心を抉り取っていった。
ケージの隅で小さく丸まって
動かなくなった彼女を見て、
原村は涙が止まらなかった。
自分も逝ってしまおうかとすら思った。
隣のケージに住むサキも同じだろう。
トキとリューカがいなくなってからは、
めったに笑う事が無くなった。
悲しみは連鎖する。もうこれ以上、
後追いを認めるわけにはいかない。
「…わかりました。ただ、
一つだけお願いがあります」
『…何?』
「逝く前に、あなたの隣の家に居る
サキさんと話してください」
「そして、可能なら
彼女を救ってから逝ってください」
『…なぜ私が?』
「後に残された者の苦しみを知ってもらうためです」
『その苦しさなら今嫌って言うほど味わってるわ』
「抗えない理由ならともかく、
あなたの死は回避できるじゃないですか」
「そうやって逝かれた後に残された者の気持ち、
まずは知ってみてください」
「それでも、あなたが後追いするのなら…
もう、みんなで逝きましょう」
そう言って、原村は笑った。
これにはさすがのヒサも思わず身を震わせる。
目の前の人間は、突然現れた自分のために死ぬと言った。
何がそこまで彼女を駆り立てるのか。
ヒサにはまだわからない。
『…わかったわ。そこまで言うのなら、
とりあえずそのサキって子と話してあげる』
得体の知れない恐怖と少しばかりの好奇を胸に、
ヒサは軽く頷いた。
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隣に誰かが戻ってくる気配を感じ、
サキは確かな安堵と、それを上回る恐怖を感じた。
彼女は戻ってきた。そしてまだ死んでない。
つまりそれは、サキが彼女の死に
直面する可能性が残る事を意味していた。
なぜ、トキとリューカを喪った矢先に、
こんな危険動物を隣に引っ越させるのか。
もしかして、原村は自分にも
逝ってほしいのだろうか。
サキは眼前の原村を見つめた。
そんなサキの視線に気づいたのか、
原村はヒサをケージに移した後に、
サキをケージから連れ出した。
開口一番の原村の台詞はこうだった。
「彼女は今、この世を去ろうとしています」
『…知ってるよ。雰囲気がそっくりだもん』
「彼女を思い留まらせるのが私達の役目です」
『…無理だよ。そもそもリューカさんの時、
和ちゃんは素直に逝かせたじゃない』
「そうですね。だからこれは我儘です」
「もう誰にも逝ってほしくないという、
ただの私の我儘です」
「次、誰かを喪ったら…
私はもう、耐えられる気がしませんから」
『……』
「彼女と話してみてください」
サキは原村の目をじっと見据える。
原村の目はある種の決意に満ちていた。
ひどく危うくて脆い決意。
そこには、狂気の色が潜んでいるようにも見える。
相手の顔色を伺う能力に長けているサキは、
その目を見ただけで気づいてしまった。
本人の言う通り、原村にも限界が近づいている。
ヒサを救えなかった時。
サキは同時に、原村も失うことになるのだろう。
それはサキに、後ろ暗い期待をもたらした。
もう、自分も楽になってしまって
いいのかもしれないと。
『うん、わかった』
原村の期待とは正反対の期待を胸に秘めながら、
サキは静かに頷いた。
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サキは原村の手でケージに戻された。
ただそこは、本来の自分の住処ではなく。
一つ隣の、新入りのケージの中だった。
話はすでに通したのだろう。
特に抵抗する事もなく、
ヒサはサキの訪問を受け入れた。
もっとも、自己紹介なんて悠長な事を
するつもりはないようだが。
『単刀直入に言うわ。私はもうすぐ死ぬつもり』
『…知ってます』
『和に聞いたの?』
『それもありますけど…雰囲気でわかります』
この回答に、ヒサは少なからず驚いた。
目の前の少女は、自分より幾分年下に見える。
なのに、すでに誰かの死に目に会っているのか。
そう考えてヒサは思い直す。
原村は『残された者の気持ちを知れ』
と言ったではないか。
つまりはそういう事なのだろう。
『その前に、あなたと話せと言われたわ。
だから、私はあなたに聞きたい』
『あなたは、なぜ後を追わないの?』
あまりにも不躾な質問だった。
でも、だからこそサキには、
ヒサの悲痛な思いが伝わってくる。
サキは、素直に胸の内を明かす事にした。
『追う資格がないからです』
『資格?』
『先に逝った二匹は、深く愛し合っていました』
『私は仲よくしてもらってましたけど、
一緒に逝こうとは言ってもらえませんでした』
『だから、私が逝っても邪魔になるだけです』
サキからすれば、別に同情を引こうと思って
言ったわけではなかった。
でもサキのその言葉は、
痛烈なまでにヒサを殴りつける。
本音を言えば、ヒサはこの少女を少し見下していた。
愛する者と離別したのに後を追わないのは、
単に愛情が足りないからだと思っていた。
実際にはその逆だった。
サキがその二匹を愛しているのは明白だった。
本当は自分も逝きたいと思っているのが
ありありと伺えた。
でも、サキは愛しているが故に、
歯を食いしばってこの世界に踏み止まっている。
それは、ヒサにはない強さだった。
『うらやましいな、と思います』
『…何が?』
『後を追う事が許されてるなんて』
『私には、そんな相手はいないから』
そう言ってサキは笑った。
悲しみにまみれた笑顔だった。
そんなサキの言葉と笑顔は、
ヒサの胸を突き刺した。
核心だったからだ。
『…許されてはいないわ』
『…え?』
『先に逝った人には、むしろ追うなって
明確に禁止されたもの』
なるほど。原村がサキと話せと言った理由が分かった。
大切な相手を失った上で、
後を追う事も許されず耐えているサキ。
ヒサは、サキに興味がわいた。
『でも…あなたはそれで耐えられるの?』
『正直、厳しいです』
『死んで楽になりたいとは思わないの?』
『思います。でも、私には和ちゃんもいますから』
『……そう』
『ただ…実はちょっとだけ、期待してるんです』
『…期待?』
『はい。最近は、和ちゃんも
ちょっとおかしいですから』
『あなたが死んだら、和ちゃんも
壊れてくれるんじゃないかなって』
『そしたら、私も一緒に、
逝けるんじゃないかなって』
『……』
『だから、ごめんなさい』
『和ちゃんからは、あなたの説得を
期待されているけど…』
『私は、あなたに期待してるんです』
『私を、私達を…一緒に連れて逝ってくれる事を』
そう言ってサキはまた笑った。
でも今度の笑みは、ヒサの全身の毛を逆立たせる。
それは、あの時原村から感じた狂気。
ヒサは本能的に理解した。
目の前の少女も、やはり『病気』なのだ、と。
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丑三つ時。
ヒサは一匹、寝床の中で考えこんでいた。
頭の中では、サキの言葉がグルグルと回っている。
『私は、あなたに期待してるんです』
『私を、私達を…一緒に連れて逝ってくれる事を』
ヒサは別に天邪鬼というわけではない。
だがこう言われると、素直に死ぬのはためらわれた。
なぜなら、自分の死が一人と一匹の死に直結する。
元々は善良で気のいいヒサにとって、
それはあまりにも重すぎる枷(かせ)だった。
『もう、みんなで逝きましょう』
原村の言葉も去来する。ヒサは気づいて唖然とした。
よく考えたら、登場人物みんな
死にたがっているではないか。
彼女達は自分の死を食い止めるための
牽制役ではなかったのか?
「こんなの…死ねるわけじゃない」
ヒサは思わず独り言ちた。
そもそも後追い自体強く禁じられている。
その禁を破るだけでも相当な勇気が必要なのに、
主人が自分を託した人間と、
その大切な友達を巻き添えにしてしまうのだ。
そんな暴挙を犯してついてきた自分を、
主人が笑顔で迎えてくれるとは思えなかった。
「やればいいんでしょ…やれば」
もう限界だと思っていたけれど。
同じように耐えて潰れそうになっている
サキを見ていたら、反面教師的に少し冷静になれた。
できれば、逆にサキを癒したいとすら思った。
後を追うかは、その後で考えよう。
ヒサはとりあえず耐えてみる事にした。
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サキとヒサが仲良くなるのは早かった。
毎日必ず決まった時間に、
サキはヒサのケージに入れられる。
すると、サキは何も言わずヒサの元に歩み寄り、
その肌をすり寄せた。
ヒサも特に何も言わず、サキの事を受け入れた。
もともと相性がよかったのかもしれない。
同じような悲しみを経験していた事も
大きいのかもしれない。
二匹とも、互いに傷を舐めあう相手を探していた。
二匹は何か言葉を交わすわけではない。
ただ、黙って寄り添っていた。
互いが互いを慈しむように、
ただじっと寄り添っていた。
そしてそれは、サキが帰る時間になって。
彼女がケージから取り出されるまでずっと続いた。
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ある日の事。
原村は二匹を一緒にケージから取り出して、
別の大きなケージに移し替えた。
ヒサにとっては、特に何でもない引っ越しだった。
だが、そのケージに入れられた途端、
サキはふるふると震え出す。
『さ、サキ…どうしたの?』
『…こ、この、い、家…』
『あ、あの二匹の、家、だったんです…』
そう言ってボロボロと涙を零し、
その場に蹲ってしまうサキ。
この仕打ちにヒサは激昂した。
『和!あなたは何を考えているの!?』
「特に何も。お二人は仲がいいので
二人部屋の方がいいかと思っただけですが」
『白々しい!あなたはこの家が
誰のものだったか知っているのでしょう!?』
「もちろんです」
『だったらなんで!』
「上書きしてほしいからです」
事もなげに原村は答えた。
「その家は、サキさんと私にとって、
幸せと悲しみの象徴です」
「トキさんは、その家で亡くなりました」
「その家がある限り、
私達の悲しみは癒えないでしょう」
「どうか、あなた達で上書きしてください」
「その家が、再び幸せの象徴となるように」
狂っている。
それがヒサの率直な感想だった。
悲しいなら、素直に捨ててしまえばいい。
思い出に浸りたいなら、そのまま残しておけばいい。
なぜ、わざわざ死者が出た家を引き継がせるのか。
なおも反論しようとしたヒサ。
そんな彼女を引き留めたのは、
震えて嗚咽していたサキだった。
『わ、私も…なんとなく、わかります』
『…何が』
『も、もう一度、この家を、あったかくしたい』
『あの、二匹の分、まで』
『わ、わがまま言って…すいません』
涙ながらに訴えるサキ。
そう言われてしまっては、
ヒサは押し黙るしかなかった。
その日は初めて二匹一緒に眠った。
ヒサはまだ納得していなかったが、
サキは嬉しそうに目を細めた。
『ずっと、羨ましかったんです』
『…何が?』
『こうして、二匹で一緒に眠れるのが』
『私は、ずっと孤独でしたから』
そう言って、はにかみながらヒサの胸に
頬を摺り寄せるサキ。
やっぱりこの子も狂っている。
ヒサはため息をつきながらそう思った。
彼女達の話を繋ぎ合わせれば、
トキという名の少女は、
この寝床で事切れたはずだ。
まだ、寝床にはそんな彼女達の匂いが
色濃く残っている。
なのに、なぜこんなに
安らいだ笑みを浮かべられるのか。
ヒサはそこまで考えて思い直す。
もし、自分が同じ立場ならどうだろうか。
もし、愛しいあの人の匂いがしみ込んだ
遺品がこの手にあったらどうだろうか。
なるほど、確かにそれは安らぐかもしれない。
でも、ヒサはなんとなくそれを認めたくなかった。
ヒサはサキを抱き締めながら、
突然ゴロゴロと転がり始める。
『ひ…ヒサさん?
ど、どうしたんですか?』
『なんでもないわ。ただ、
なんとなく背中が痒いだけ』
そう言いながらヒサは転がり続けた。
取り急ぎ、さっさと匂いを上書きしよう。
彼女はそう考えたのだった。
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ヒサは積極的に動き回る事にした。
自分の知らない生き物の匂いに包まれるのは
気分のいいものではなかったし、
何より、それがサキの悲しみを
助長している事が許せなかった。
そうしてケージ内を活発に動くヒサにつられて、
サキも少しずつ動くようになっていく。
この効果には原村も目を見張った。
なぜなら、サキはあの二匹が逝ってしまった後は
ほとんど動く事がなかったからだ。
二匹は少しずつ会話をするようになっていた。
それは最初こそ、重苦しい
死の匂いが付き纏うものだった。
でも、少しずつ普通の会話が増え、
親密なものに変わっていった。
やはり、相性が良かったのだろう。
やがて二匹が愛を囁くようになるまで、
さほど時間はかからなかった。
『あなた達には、感謝しないといけないわね』
『何を…ですか?』
『今でも、美穂子への愛を忘れたわけじゃないわ。
でも、別の愛がある事に気づかせてくれた』
『恋愛も、家族愛と違っていいものね』
寝床には、サキとヒサによる、
濃厚な行為の気配が充満している。
ヒサの飼い主はヒサに家族の安らぎを与えてくれた。
そしてサキは、互いの肌がぶつかり合うような
激しい情愛を与えてくれた。
それは、人間の彼女には無理だったものだ。
愛の優劣を決めるつもりはないけれど、
今はこの、狂おしいほど本能的な愛に埋もれていたい。
『もう少しだけ、生きてみようかな』
ヒサは、素直にそう思えるようになっていた。
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こうして色を伴う関係になったサキとヒサ。
そんな彼女たちの間で、
『その』話題が出てくるのは必然と言えた。
そう、それはサキの生い立ちについての話。
もっとも、ヒサはサキから
大した話を聞く事はできなかった。
『そう…じゃ、サキは物心ついた時から、
ずっとここに住んでるのね』
『はい。自分がどんな病気なのかは知りませんけど』
『うーん…そのトキとリューカって子の件で
参っていたのはわかるけど…
元々ここに来た理由は何なのかしらね』
『さあ…和ちゃんなら知ってると思いますけど』
『今度聞いてみましょうか』
『うーん…ちょっと、怖いかも』
『そう?』
『だって…それを知っちゃったら…
ヒサさんは、私を嫌っちゃうかもしれないし』
『あはは…そんな事しないわよ?約束する』
『…ほ、本当ですか?』
『ん?やけに食い下がるわね…
実は自分の病気が何か知ってるんじゃないの?』
『…本当に知りません。
でも、やっぱり怖いんです…』
『…大丈夫よ。絶対にあなたから
離れたりしないから』
ヒサがそれを知りたがったのは、
ただの興味本位からだった。
それでサキがどんな『病気』を持っていようと、
ヒサは彼女を見限るつもりはなかった。
ただ、サキの怯えようは少し気にかかった。
一体彼女は、どんな病気を抱えているのだろう。
そして、次の日ヒサは知る事になる。
サキが抱えていた、深すぎる闇の詳細を。
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「聞かない方がいいと思いますよ」
それがヒサの質問に対する原村の回答だった。
『え、なに?そんなにヤバい内容なの?』
「受け取り方は人それぞれですが…
サキさんに対する見方が
変わるかもしれませんから」
原村らしからぬ歯切れの悪い物言いに、
逆にヒサは引き下がれなくなる。
発端はただの興味本位だったが、
そんな言われ方をするのなら、
むしろ知っておかなければいけないだろう。
『教えてちょうだい。私がサキを救うなら、
そこは避けて通れない気がしてきたわ』
「…そうかもしれませんね」
ヒサの言葉に頷いた原村は、
こほんと一つ咳払いをした。
でも、なかなか二の句を継がない。
彼女なりに、言葉を選んでいるのだろう。
やがて心に決めたように、原村が言葉を紡ぎ始める。
「サキさんは…捨てられたんです」
原村の言葉に、ヒサは思わず苦笑した。
どんな大層な病気が飛び出すのかと思ったら、
大した内容ではないではないか。
だがそんなヒサの心象は、
次の原村の言葉で大きく覆る。
「それは、サキさん側に問題がありました」
「サキさんが、飼い主を
破滅一歩手前まで追い込んだからです」
ヒサは、今度は笑えなかった。
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原村の話によれば、
サキはこのペットショップで
生まれたわけではなかった。
彼女は別のペットショップで生まれ、
そして優しい飼い主に買われたらしい。
一見問題ない彼女の生い立ちが問題となったのは、
サキの生来の気質が原因だった。
サキは生まれながらに依存心が強く、
また嫉妬深かった。
主人の元を片時も離れようとせず、
無理に引き離そうとする者に噛みつきすらした。
それでも引き離されてしまった後は、
主人が帰ってくるまで延々と泣き続けた。
優しい飼い主はサキの意思を尊重し、
できるだけサキのそばにいた。
だが、そんなサキに合わせて
人間が生きるのは容易な事ではない。
人間である以上働かなければ生きていけないのだから。
朝はサキをひたすらなだめすかして、
やっとの思いで会社に向かう。
仕事が終わったら一目散に飛び帰り、
一晩中サキのご機嫌を伺う毎日だった。
そんな生活に飼い主は疲弊しきってしまった。
そして重度のノイローゼになったところで、
動物カウンセラーの原村を訪ねたのだった。
『どうして?ご主人様と
一緒にいたいと思う事の何がいけないの?』
「あなたにごはんを用意するために、
ご主人様は外に出ないといけないんですよ」
『だったら私も連れて行ってよ。
私、おとなしくしてるから』
「動物を外に連れていく事自体が
人間社会では好ましくない行為なんです」
『何それ。そんな人間の意味不明な決まりのせいで
私はご主人様と引き離されないといけないの?』
サキは聞き入れようとしなかった。
動物だから仕方がないという面はある。
ただそれを加味しても、サキの執着は異常だった。
もっとも、常に一緒に居ることを主張するサキに対し、
サキの飼い主は真逆の見解を示した。
「できれば…こちらで引き取っていただけませんか?」
『ご主人様!?』
「生き物の命を軽く見ていると思います。
責任を取らなければいけないとも思います」
「でも、このままでは…
私の方が…先に倒れてしまいます」
『そんな…!だったら一緒に死のうよ!
私、ご主人様についていくから!!』
「…わかりました。
サキさんはこちらで引き取ります」
『あなたの意見なんかどうでもいいよ!
邪魔しないで!!』
「…ありがとうございます…
……ありがとうございます…!」
『ご…ごしゅじん…さま……!』
自分を引き取ってもらえるように懇願する主人。
かつそれが受け入れられて、
本当に助かったとばかりに
感謝の言葉を繰り返す主人。
その光景に、サキの精神は耐えられなかった。
サキはぷつりと糸が切れたように動かなくなり、
自分の記憶に栓をした。
--------------------------------------------------------
「…こうして、サキさんは記憶喪失になりました」
「それからは、初対面の印象からは
まるで別人のように大人しくなったんです」
「そう言った経緯もあって、
私はサキさんをできるだけ他の子と
接触させないようにしてきました」
「私自身も、サキさんに
溺れ過ぎないようにしてきたんです」
そこで、原村は言葉を切った。
おそらくは質疑応答の時間に入ったと思い、
ヒサはいくつかの質問を投げかける。
『トキとリューカは例外だったの?』
「あの二人の愛情も病的だったので、
サキさんの愛情を受け入れられるかと思ったんです」
「結果的には、二人の愛情が深すぎて、
サキさんが遠慮してしまいましたけど」
『サキに私をあてがった理由は?』
「同じ理由です。あなたの愛の重さが
サキさんに釣り合うと思ったからです」
『私も狂っているって言いたいの?』
「正常な思考を持っているなら、
後追いなんて選択肢は出てきませんよ?」
そう言われるとヒサは反論できない。
確かに、あの時の自分が
まともな精神状態だったとは思えない。
そして、目の前のこの人間も。
「考え方を変えたらいいだけだと思います」
「あなただって、福路さんが外出して寂しいと
感じた事はありませんか?」
『…あるわ』
「ずっと、福路さんと一緒にいられたらと
思った事はありませんか?」
『…あるわ』
「だったら問題ありません。
サキさんなら、あなたが望むように
一緒にいてくれますよ?」
原村は穏やかな笑みを浮かべた。
その笑みを前に、ヒサはいつも思っている事を
臆面もなく口にした。
『和。やっぱりあなたも狂ってるわ』
原村は一切狼狽することもなく、
涼しげな笑みを浮かべてこう返した。
「私達の中で、狂っていない者がいるとでも?」
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ケージに戻ってきたヒサに、
サキは我を忘れてしがみついた。
『ヒサさんっ…!ヒサさんっ…!』
『ど、どったのサキ…』
『だ、だって、ヒサさん、聞いたんですよね!?
私の病気の事!!』
『…ええ』
『ヒサさんも、私の前から
いなくなっちゃうんですか!?』
『私を置いて、どこかに行っちゃうんですか!?』
『嫌です!一匹はもう嫌です!!』
『置いていかないでください!!』
サキは自分が捨てられた事を
完全に思い出したようだった。
鬼気迫る表情で追いすがるサキ。
その必死の様相に、思わずヒサはたじろいだ。
『お、落ち着いて、サキ。
ほら、私は戻ってきたじゃない』
『言ったでしょ?私はあなたを捨てたりしないって』
そう言ってヒサはサキを抱き締めると、
彼女の頬を舐めてやる。
サキは少しだけ落ち着いたのか、
少しだけ頬を緩ませると、
でも不安気な顔でこう言った。
『で、でも、もし…私の愛が重すぎたら
すぐ言ってください』
『わ、わたし、死にますから』
『ヒサさんに、迷惑、かけませんから』
『だ、だから、もう、捨てないで』
ヒサは思わず目を見張った。
原村からあの話を聞く前だったなら、
ずいぶん重いジョークねと軽く流したかもしれない。
でも、サキの表情は真剣そのもので。
間違いなく彼女は有言実行するだろう。
ヒサはそう確信した。
『馬鹿な事言わないで。
死ぬ時は一緒に死にましょう?』
そう言って、ヒサはサキに口づける。
今度こそ安心できたのか、
サキはようやく表情を綻ばせて、
ヒサの口づけを受け入れた。
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そこは、場末のペットショップ。
その華やかな内装、
姦しい動物達の鳴き声で賑やかな店内の片隅に、
一か所だけ異様な空気を放つ空間がある。
売り場の入り口には、大きな大きな注意書き。
それはもはや、最初から売る気なんて
ないんじゃないかとすら思わせる内容で、
思わず私は苦笑した。
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『注意書き:このエリアのペット達は
≪病気≫です!! 』
本エリアに住んでいるペット達は、
心か体(もしくは両方)に傷を抱えています。
人と同等の知能を持ち、中には自殺未遂を
経験しているペットもいます。
興味本位での立ち入りは固くご遠慮願います。
手を差し伸べる場合には、
相応の覚悟を持って臨んでください。
自身の一生を投げ打ってでも
この子達を救いたい。
そう思える方だけお入りください。
------------------------------------------------
私はつかつかと歩みを進め、
二匹が一緒に入ったケージの前で歩みを止める。
そこに書かれた彼女達の紹介カードも、
ずいぶんとハードなものだった。
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『ヒサ』≪心の病気≫
非常に頭がよく、愛情にあふれた女の子です。
前の飼い主に対する愛情が深く、
一時期は自殺未遂した経験があります。
現在は同居しているサキとつがいの関係にあり
ほとんどサキから離れません。
このため、飼い主に対しても
全く懐いてくれない可能性があります。
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これまた私は苦笑しながら、
もう一匹の紹介カードに目を通す。
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『サキ』≪心の病気≫
強すぎる愛情と依存心を持つ女の子です。
以前飼い主に執着し過ぎた結果、
飼い主から離れようとせず飼い主を
ノイローゼに追い込んだ経歴があります。
現在は同居しているヒサとつがいの関係にあり
ほとんどヒサから離れません。
引き離そうとするだけで激しく抵抗するため、
飼い主になっても全く懐いてくれない事を
覚悟する必要があります。
------------------------------------------------
もう一方のカードはさらにひどかった。
ここまで来ると、なぜ保健所行きにならないのか
首をかしげるレベルだろう。
「どぎつい書かれようやなぁ」
「でも、飼うんやろ?」
「モチや!」
怜は勝手知ったる我が家とでも言わんばかりに
スタッフルームを覗き込むと、
そこにいた店員に気軽に声を掛けた。
「おーい、のどっちー。
うちらの友達を引き取りにきたでー」
「気安すぎやろ!?」
のどっちと呼ばれた店員…和は、
戸惑いながらも立ち上がり、
当然の質問を口にした。
「あ、あの…なぜ私のあだ名をご存じなのですか?」
「ここに、トキとリューカっちゅぅ
バカップルがおったやろ?
私らアレの代理人や」
「私が病弱系女子の園城寺怜」
「んで、こっちのふとももが清水谷竜華や!」
「うちの本体ふとももなん!?」
軽い茶目っ気をきかせた挨拶を並べる怜。
その声を聞きつけて、
巣箱から飛び出してきた二匹のカップル達。
『ええと…誰?』
『トキさんとリューカさん!?』
『えぇ!?死んだんじゃなかったの!?』
「ああ、サキ…あの時はごめんな?」
「あんたらを、迎えに来たで?」
私は二匹に笑いかけた。
こうして、私達の道が再び交わる。
それは、二匹と三人。
仲良く笑いあえる日々の始まりだった。
(完)
原村和は、生まれつき稀有な能力の持ち主である。
それは、動物と会話できるという能力。
そんな彼女は、動物の心をケアする
動物カウンセラーを営む傍ら、
同時にペットショップも経営している。
これは、そこに住む二匹の心に傷を持った動物…
『サキ』と『ヒサ』の物語。
<登場人物>
宮永咲,竹井久,原村和,清水谷竜華,園城寺怜
<症状>
・共依存
・狂気
・後追い
<その他>
※『管理人が夢で見た』シリーズ。
ほぼ夢日記に近いので
整合性とか咲でやる必要性なんかは
気にしたらダメだぞ☆
※全体的に重苦しいです。
苦手な方はご注意を。
気にする方は先に結末を見るとよろしいかと。
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ここは、場末のペットショップ。
その華やかな内装、
姦しい動物達の鳴き声で賑やかな店内の片隅に、
一か所だけ異様な空気を放つ空間がある。
売り場には違いない。だが、
その売り場はどこか暗く落ち込んでおり、
他の和やかなブースの雰囲気とは
明らかに一線を画している。
おそらく、店主はこのペット達が
売れるとは思っていないのだろう。
なぜなら、その売り場のペット達の
紹介カードには値札すらついておらず。
『病気』
の二文字が殊更大きく印字されているのだから。
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『サキ』はこの墓場のような売り場の、
左上のケージを住みかにしている。
物心ついた時にはこのケージの中だった気がするから、
おそらく生まれた時から
このケージで過ごしてきたのだろう。
そして、おそらく最期も
このケージで迎えるのだろう。
そんなサキの日課は、同じ病気仲間と話す事、
店員の原村に餌をもらって食べる事、
後は定期的に散歩に連れて行ってもらう事である。
それ以外にやる事はほとんどない。
もっともサキは己の境遇を儚んだ事はない。
生まれつきこうだったから、
それに違和感を覚える事もないのだ。
むしろ、どこか臆病で人間付き合いが
苦手なサキからすれば。
華やかなケージに飾られて、
人々の好奇の視線に晒される
『エリート』達に同情を禁じ得なかった。
ああ、自分は『病気』でよかった。
絶対にああはなりたくない、と。
そんなわけで、サキは何をするでもなく、
ぼんやりとケージの外を眺めていた時の事だった。
トコトコと、規則的な足音を立てて
近づいてくる人がいる。
サキは経験上、それが店員の
原村のものであると気づいた。
何だろうか。
まだ餌の時間にはずいぶん早い。
ほどなくして現れた原村は、
ペット達に微笑みかけながらも、
どこか悲しい雰囲気を漂わせていた。
サキは、その原村の表情を知っていた。
過去に、何度も見た事がある表情だから。
ああ、また『病室』に『患者』が増える。
原村は、目を伏せてため息をついていた。
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原村和は、生まれつき稀有な能力の持ち主である。
それは、動物と会話できるという能力。
彼女は他の人間と同様に、動物達と会話する事ができる。
理屈はよくわからない。ただ、動物の言葉が
人間の言葉に翻訳されて聞こえてくるのである。
それは一般の人間からしたら『ありえない』と
眉を潜めざるを得ない『オカルト』的な能力であった。
もっとも彼女自身からすれば、
それはごく当たり前の機能であって。
『オカルト』と呼ばれる事を、
ひどく嫌ってはいるのだが。
そんな彼女の生業は二つある。
一つは、動物カウンセリングである。
それは彼女特有の力を生かして、
人間とペットの橋渡しを行う仕事。
いわば、動物の精神病院のようなものであった。
もう一つは、ペットショップ。
故あって主人と離れざるを得なくなったペットを
格安で提供している。
こちらの儲けはほとんどない。
元々、利益目的ではないからだ。
ペットショップという形態をとっているのも、
他のペットショップに対する
便宜以外の何物でもない。
ここにいるペットは、原村が『救えなかった』ペット達。
主人との関係を修復できなかったか、
何らかの理由で主人を失ってしまったペット達だった。
だから、新しい主人が見つかればよし、
そうでないなら原村が一生面倒を見るつもりで飼っている。
飼われているペットの経緯は多種多様である。
単に主人との相性が合わなかった、
主人側に問題がありすぎたようなペットも多い。
そういったペットは比較的
新しい主人がすぐ見つかるため、
華やかなケージで飼っている。
でも、中にはペット側に問題があったり、
どうしようもない悲劇的な理由から
ここに来なければならなくなったケースもある。
そう言ったペットは『病気』のケージに入れられる。
これらのケージはあえて寒々しいものにしている。
動物達がそれを好むという事もあるが、
もし彼らを飼おうとする主人がいるとしたら、
その主人には相応の『覚悟』をしてもらいたいからだ。
もっとも、そんな主人が現れた事は一度もないが。
今日、そんな原村のペットショップに、
新たな住人が加わる事になる。
彼女の名前は『福路ヒサ』。
彼女は『悲劇的な理由』から、
『病気』ケージに入れられる予定になっていた。
--------------------------------------------------------
サキの右隣に引っ越してきたのは、
『ヒサ』と呼ばれた赤毛の動物であった。
原村が言うには、本来ならとても人気があるペットで、
普通のペットショップに卸せば
その日のうちに買い手がつくだろうとの事だった。
だが、サキにはとてもそうは思えなかった。
隣のケージに蹲る(うずくまる)ヒサには、
そんな華やかな雰囲気は全く
期待できなかったからである。
それでもサキはいつものように、
お隣さんに向けて初めましての挨拶を投げかける。
『こ…こんにちは』
控えめにかけた声。
だが返事が返ってくる事はなかった。
サキは若干気圧されながらも、
もう一度声をかけてみることにした。
『あ…あの』
『ごめんなさい。今は独りにしてくれる?』
今度は明確な拒絶が返ってきた。
それでサキは委縮して、
ついそのまま押し黙ってしまう。
だが、サキが沈黙したのは、
単に痛烈な拒絶だけが理由ではなかった。
なぜなら、サキはわかってしまったのだ。
彼女がここに来た理由を。
彼女の声音を聞いただけで、
理解してしまったのだ。
サキは前にも一度、
似たような声を聞いた事があったから。
そう、あれは…『リューカ』の声。
今彼女が発した声は、リューカの
『あの時』の声音にそっくりだった。
--------------------------------------------------------
『トキ』と『リューカ』は、サキと同じで
この『病気』エリアの古株だった。
トキがここに来た理由は単純に病気。
あまりにも病弱すぎる彼女に飼い主が根をあげた。
リューカには問題がなかったのだけれど、
彼女はトキから離れようとしなかったから、
セットでこのペットショップにやってきた。
身体が弱いとはいえ、
性格的には明るくてやんちゃなトキと、
その面倒を見る優しいリューカは、
サキにとって数少ない大切な友達だった。
もっとも、今はもういない。
トキは、病気でこの世を去ってしまったから。
リューカは、その後を追ってしまったから。
サキはあの時の事を思い出す。
それは、トキが先に逝ってしまって、
二匹で残された時の事だった。
『リューカさん…』
『気にせんでええよ。
いずれこうなるのはわかっとったし』
リューカはサキを気遣って笑みを見せた。
もっともその目は真っ赤に染まり、
頬には涙の跡がくっきりと残っている。
『ごめんな?サキちゃんかて、
トキの最期見届けたかったやろ?』
『いえ…最期のひと時くらい、二匹で
ゆっくり過ごしてほしかったですから』
『…おおきに』
『……』
『……』
『トキはな。救われたんやと思う』
『…え?』
『ずっと、苦しんどった。痛い痛い言うとった。
こんなつらいんならもう死にたいって言うとった』
『それでも、頑張って残っとったんは…
やっぱりうちのせいなんやろな』
『うちを一匹にしたない…ただそれだけのために、
トキは痛みと戦っとった』
『だから…これでよかったんや。
うちは、トキに苦しんでほしないから』
『……』
『…サキちゃん。ごめんな』
『…え?』
『……』
『…何が、ですか…?』
『…サキちゃんを、一匹にしてまう』
『……』
『…そう、ですか……』
『ごめんな……』
『…私の、事は…き、気にしないでください。
トキさんと、向こうで…
し、幸せに、なってください』
『……っ』
『……おおきに』
『…ごめんな。独りにしてくれる?』
その言葉を最後に、リューカはケージの寝床に籠った。
以降、一度も言葉を発する事はなく。
サキも、自分の寝床で震えながら眠った。
その後リューカがどうなったのか、
サキはその詳細を知らない。
でも、何が起きたのかは大体わかった。
「……っ!!」
原村が、いつもは見せない大粒の涙を零して、
ケージの前で崩れ落ちたから。
その後、サキの隣のケージが空室になったから。
--------------------------------------------------------
福路ヒサの飼い主は、理想的な飼い主だった。
プロ顔負けの手際もさることながら、
彼女はなによりもヒサを愛していた。
動物との触れ合いを生業にする自分の目から見ても、
これほど完璧な飼い主は他には居ないと原村は思う。
「私が息を引き取った後、
この子を引き取っていただけませんか」
彼女は原村にそう依頼した。
彼女は病魔に侵されていた。
そして、もう長くはなかった。
自分が逝ってしまった後のペットの事を心配する。
その愛情の深さに心を打たれた原村だったが、
だからこそ気持ちが重く沈むのを否めなかった。
「かまいませんが…彼女を救えるかはわかりません」
これまでの経験が告げている。
ヒサは、間違いなく『病気』レベルの愛情の持ち主だ。
彼女の傍らにたたずむヒサと、
つい最近喪った(うしなった)
リューカの顔がだぶって見えた。
それでもと彼女に追いすがられて、
結局原村は承諾する。
どのみち自分が関わらなければ、ヒサは命を絶つだろう。
であれば、まだ自分が手を施した方が
生き残る確率は上がるかもしれない。
原村は飼い主のそばから片時も目を離さないヒサを、
暗い気持ちで盗み見た。
自分は、彼女を救えるだろうか。
仮に可能性が残されているとしても、
その確率はごくわずかなものだろう。
原村は、その事も知っていた。
--------------------------------------------------------
ヒサの品種が人気な理由。
もちろん容姿の美しさもあるが、
何より人を惹きつけるのは、
その愛情の深さと突出した頭のよさだろう。
だが、そんな彼女の長所が逆に、
原村を苦しめる事になった。
飼い主が没した後に引き取られたヒサは、
原村をまっすぐ見据えて言った。
その瞳に、一切の光は灯っていなかった。
『ごめんなさい、私は美穂子の後を追うわ』
「福路さんはあなたに生きてほしいと言っていました。
あなたが死んだら彼女は悲しみますよ」
『じゃあ、あなたは死後の世界があると思う?』
「…思いません。死んだら、生き物は皆
ただの物質に変わり果てると思っています」
『だったらあなたの言い分は
ダブルスタンダードなんじゃない?』
『死後の世界がないのなら、
私が死んで悲しむ美穂子はどこにいるの?』
『自分がいないと思っているものを盾に、
あなたは私は縛りつけるの?』
『私は死後の世界はあると思う。
だから、美穂子に会いに行きたいの』
「死後の世界がないと思うからこそです。
あなたが死んだら、それはただの犬死です」
「彼女もそう思ったからこそ、
『生きてほしい』と考えて、
あなたを私に託したはずです」
「あなたが死んだら、彼女の遺志が悲しみます」
「『追わないで』」
「…そう、彼女に言われたでしょう?」
『…後追いを犬死なんて断じる割に、
遺志なんてあやふやなものには
感情を与えるのね?』
「……」
『…もっとも別に否定はしないわ。
実際今私が生きている理由は、
その遺志に対する義務感だけだもの』
『でも、それももう限界。
私は彼女のいない世界に耐えられないの』
議論は平行線だった。いや、
どちらかと言えば原村の分が悪かった。
だが、原村も引く気はなかった。
愛別離苦に耐えながらただ生き続けるよりも、
後を追わせた方が楽になる。
一度はそう思って、あの時リューカの好きにさせた。
結果、彼女が死後何を思ったのかはわからない。
でも、リューカは確実に、原村の心を抉り取っていった。
ケージの隅で小さく丸まって
動かなくなった彼女を見て、
原村は涙が止まらなかった。
自分も逝ってしまおうかとすら思った。
隣のケージに住むサキも同じだろう。
トキとリューカがいなくなってからは、
めったに笑う事が無くなった。
悲しみは連鎖する。もうこれ以上、
後追いを認めるわけにはいかない。
「…わかりました。ただ、
一つだけお願いがあります」
『…何?』
「逝く前に、あなたの隣の家に居る
サキさんと話してください」
「そして、可能なら
彼女を救ってから逝ってください」
『…なぜ私が?』
「後に残された者の苦しみを知ってもらうためです」
『その苦しさなら今嫌って言うほど味わってるわ』
「抗えない理由ならともかく、
あなたの死は回避できるじゃないですか」
「そうやって逝かれた後に残された者の気持ち、
まずは知ってみてください」
「それでも、あなたが後追いするのなら…
もう、みんなで逝きましょう」
そう言って、原村は笑った。
これにはさすがのヒサも思わず身を震わせる。
目の前の人間は、突然現れた自分のために死ぬと言った。
何がそこまで彼女を駆り立てるのか。
ヒサにはまだわからない。
『…わかったわ。そこまで言うのなら、
とりあえずそのサキって子と話してあげる』
得体の知れない恐怖と少しばかりの好奇を胸に、
ヒサは軽く頷いた。
--------------------------------------------------------
隣に誰かが戻ってくる気配を感じ、
サキは確かな安堵と、それを上回る恐怖を感じた。
彼女は戻ってきた。そしてまだ死んでない。
つまりそれは、サキが彼女の死に
直面する可能性が残る事を意味していた。
なぜ、トキとリューカを喪った矢先に、
こんな危険動物を隣に引っ越させるのか。
もしかして、原村は自分にも
逝ってほしいのだろうか。
サキは眼前の原村を見つめた。
そんなサキの視線に気づいたのか、
原村はヒサをケージに移した後に、
サキをケージから連れ出した。
開口一番の原村の台詞はこうだった。
「彼女は今、この世を去ろうとしています」
『…知ってるよ。雰囲気がそっくりだもん』
「彼女を思い留まらせるのが私達の役目です」
『…無理だよ。そもそもリューカさんの時、
和ちゃんは素直に逝かせたじゃない』
「そうですね。だからこれは我儘です」
「もう誰にも逝ってほしくないという、
ただの私の我儘です」
「次、誰かを喪ったら…
私はもう、耐えられる気がしませんから」
『……』
「彼女と話してみてください」
サキは原村の目をじっと見据える。
原村の目はある種の決意に満ちていた。
ひどく危うくて脆い決意。
そこには、狂気の色が潜んでいるようにも見える。
相手の顔色を伺う能力に長けているサキは、
その目を見ただけで気づいてしまった。
本人の言う通り、原村にも限界が近づいている。
ヒサを救えなかった時。
サキは同時に、原村も失うことになるのだろう。
それはサキに、後ろ暗い期待をもたらした。
もう、自分も楽になってしまって
いいのかもしれないと。
『うん、わかった』
原村の期待とは正反対の期待を胸に秘めながら、
サキは静かに頷いた。
--------------------------------------------------------
サキは原村の手でケージに戻された。
ただそこは、本来の自分の住処ではなく。
一つ隣の、新入りのケージの中だった。
話はすでに通したのだろう。
特に抵抗する事もなく、
ヒサはサキの訪問を受け入れた。
もっとも、自己紹介なんて悠長な事を
するつもりはないようだが。
『単刀直入に言うわ。私はもうすぐ死ぬつもり』
『…知ってます』
『和に聞いたの?』
『それもありますけど…雰囲気でわかります』
この回答に、ヒサは少なからず驚いた。
目の前の少女は、自分より幾分年下に見える。
なのに、すでに誰かの死に目に会っているのか。
そう考えてヒサは思い直す。
原村は『残された者の気持ちを知れ』
と言ったではないか。
つまりはそういう事なのだろう。
『その前に、あなたと話せと言われたわ。
だから、私はあなたに聞きたい』
『あなたは、なぜ後を追わないの?』
あまりにも不躾な質問だった。
でも、だからこそサキには、
ヒサの悲痛な思いが伝わってくる。
サキは、素直に胸の内を明かす事にした。
『追う資格がないからです』
『資格?』
『先に逝った二匹は、深く愛し合っていました』
『私は仲よくしてもらってましたけど、
一緒に逝こうとは言ってもらえませんでした』
『だから、私が逝っても邪魔になるだけです』
サキからすれば、別に同情を引こうと思って
言ったわけではなかった。
でもサキのその言葉は、
痛烈なまでにヒサを殴りつける。
本音を言えば、ヒサはこの少女を少し見下していた。
愛する者と離別したのに後を追わないのは、
単に愛情が足りないからだと思っていた。
実際にはその逆だった。
サキがその二匹を愛しているのは明白だった。
本当は自分も逝きたいと思っているのが
ありありと伺えた。
でも、サキは愛しているが故に、
歯を食いしばってこの世界に踏み止まっている。
それは、ヒサにはない強さだった。
『うらやましいな、と思います』
『…何が?』
『後を追う事が許されてるなんて』
『私には、そんな相手はいないから』
そう言ってサキは笑った。
悲しみにまみれた笑顔だった。
そんなサキの言葉と笑顔は、
ヒサの胸を突き刺した。
核心だったからだ。
『…許されてはいないわ』
『…え?』
『先に逝った人には、むしろ追うなって
明確に禁止されたもの』
なるほど。原村がサキと話せと言った理由が分かった。
大切な相手を失った上で、
後を追う事も許されず耐えているサキ。
ヒサは、サキに興味がわいた。
『でも…あなたはそれで耐えられるの?』
『正直、厳しいです』
『死んで楽になりたいとは思わないの?』
『思います。でも、私には和ちゃんもいますから』
『……そう』
『ただ…実はちょっとだけ、期待してるんです』
『…期待?』
『はい。最近は、和ちゃんも
ちょっとおかしいですから』
『あなたが死んだら、和ちゃんも
壊れてくれるんじゃないかなって』
『そしたら、私も一緒に、
逝けるんじゃないかなって』
『……』
『だから、ごめんなさい』
『和ちゃんからは、あなたの説得を
期待されているけど…』
『私は、あなたに期待してるんです』
『私を、私達を…一緒に連れて逝ってくれる事を』
そう言ってサキはまた笑った。
でも今度の笑みは、ヒサの全身の毛を逆立たせる。
それは、あの時原村から感じた狂気。
ヒサは本能的に理解した。
目の前の少女も、やはり『病気』なのだ、と。
--------------------------------------------------------
丑三つ時。
ヒサは一匹、寝床の中で考えこんでいた。
頭の中では、サキの言葉がグルグルと回っている。
『私は、あなたに期待してるんです』
『私を、私達を…一緒に連れて逝ってくれる事を』
ヒサは別に天邪鬼というわけではない。
だがこう言われると、素直に死ぬのはためらわれた。
なぜなら、自分の死が一人と一匹の死に直結する。
元々は善良で気のいいヒサにとって、
それはあまりにも重すぎる枷(かせ)だった。
『もう、みんなで逝きましょう』
原村の言葉も去来する。ヒサは気づいて唖然とした。
よく考えたら、登場人物みんな
死にたがっているではないか。
彼女達は自分の死を食い止めるための
牽制役ではなかったのか?
「こんなの…死ねるわけじゃない」
ヒサは思わず独り言ちた。
そもそも後追い自体強く禁じられている。
その禁を破るだけでも相当な勇気が必要なのに、
主人が自分を託した人間と、
その大切な友達を巻き添えにしてしまうのだ。
そんな暴挙を犯してついてきた自分を、
主人が笑顔で迎えてくれるとは思えなかった。
「やればいいんでしょ…やれば」
もう限界だと思っていたけれど。
同じように耐えて潰れそうになっている
サキを見ていたら、反面教師的に少し冷静になれた。
できれば、逆にサキを癒したいとすら思った。
後を追うかは、その後で考えよう。
ヒサはとりあえず耐えてみる事にした。
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サキとヒサが仲良くなるのは早かった。
毎日必ず決まった時間に、
サキはヒサのケージに入れられる。
すると、サキは何も言わずヒサの元に歩み寄り、
その肌をすり寄せた。
ヒサも特に何も言わず、サキの事を受け入れた。
もともと相性がよかったのかもしれない。
同じような悲しみを経験していた事も
大きいのかもしれない。
二匹とも、互いに傷を舐めあう相手を探していた。
二匹は何か言葉を交わすわけではない。
ただ、黙って寄り添っていた。
互いが互いを慈しむように、
ただじっと寄り添っていた。
そしてそれは、サキが帰る時間になって。
彼女がケージから取り出されるまでずっと続いた。
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ある日の事。
原村は二匹を一緒にケージから取り出して、
別の大きなケージに移し替えた。
ヒサにとっては、特に何でもない引っ越しだった。
だが、そのケージに入れられた途端、
サキはふるふると震え出す。
『さ、サキ…どうしたの?』
『…こ、この、い、家…』
『あ、あの二匹の、家、だったんです…』
そう言ってボロボロと涙を零し、
その場に蹲ってしまうサキ。
この仕打ちにヒサは激昂した。
『和!あなたは何を考えているの!?』
「特に何も。お二人は仲がいいので
二人部屋の方がいいかと思っただけですが」
『白々しい!あなたはこの家が
誰のものだったか知っているのでしょう!?』
「もちろんです」
『だったらなんで!』
「上書きしてほしいからです」
事もなげに原村は答えた。
「その家は、サキさんと私にとって、
幸せと悲しみの象徴です」
「トキさんは、その家で亡くなりました」
「その家がある限り、
私達の悲しみは癒えないでしょう」
「どうか、あなた達で上書きしてください」
「その家が、再び幸せの象徴となるように」
狂っている。
それがヒサの率直な感想だった。
悲しいなら、素直に捨ててしまえばいい。
思い出に浸りたいなら、そのまま残しておけばいい。
なぜ、わざわざ死者が出た家を引き継がせるのか。
なおも反論しようとしたヒサ。
そんな彼女を引き留めたのは、
震えて嗚咽していたサキだった。
『わ、私も…なんとなく、わかります』
『…何が』
『も、もう一度、この家を、あったかくしたい』
『あの、二匹の分、まで』
『わ、わがまま言って…すいません』
涙ながらに訴えるサキ。
そう言われてしまっては、
ヒサは押し黙るしかなかった。
その日は初めて二匹一緒に眠った。
ヒサはまだ納得していなかったが、
サキは嬉しそうに目を細めた。
『ずっと、羨ましかったんです』
『…何が?』
『こうして、二匹で一緒に眠れるのが』
『私は、ずっと孤独でしたから』
そう言って、はにかみながらヒサの胸に
頬を摺り寄せるサキ。
やっぱりこの子も狂っている。
ヒサはため息をつきながらそう思った。
彼女達の話を繋ぎ合わせれば、
トキという名の少女は、
この寝床で事切れたはずだ。
まだ、寝床にはそんな彼女達の匂いが
色濃く残っている。
なのに、なぜこんなに
安らいだ笑みを浮かべられるのか。
ヒサはそこまで考えて思い直す。
もし、自分が同じ立場ならどうだろうか。
もし、愛しいあの人の匂いがしみ込んだ
遺品がこの手にあったらどうだろうか。
なるほど、確かにそれは安らぐかもしれない。
でも、ヒサはなんとなくそれを認めたくなかった。
ヒサはサキを抱き締めながら、
突然ゴロゴロと転がり始める。
『ひ…ヒサさん?
ど、どうしたんですか?』
『なんでもないわ。ただ、
なんとなく背中が痒いだけ』
そう言いながらヒサは転がり続けた。
取り急ぎ、さっさと匂いを上書きしよう。
彼女はそう考えたのだった。
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ヒサは積極的に動き回る事にした。
自分の知らない生き物の匂いに包まれるのは
気分のいいものではなかったし、
何より、それがサキの悲しみを
助長している事が許せなかった。
そうしてケージ内を活発に動くヒサにつられて、
サキも少しずつ動くようになっていく。
この効果には原村も目を見張った。
なぜなら、サキはあの二匹が逝ってしまった後は
ほとんど動く事がなかったからだ。
二匹は少しずつ会話をするようになっていた。
それは最初こそ、重苦しい
死の匂いが付き纏うものだった。
でも、少しずつ普通の会話が増え、
親密なものに変わっていった。
やはり、相性が良かったのだろう。
やがて二匹が愛を囁くようになるまで、
さほど時間はかからなかった。
『あなた達には、感謝しないといけないわね』
『何を…ですか?』
『今でも、美穂子への愛を忘れたわけじゃないわ。
でも、別の愛がある事に気づかせてくれた』
『恋愛も、家族愛と違っていいものね』
寝床には、サキとヒサによる、
濃厚な行為の気配が充満している。
ヒサの飼い主はヒサに家族の安らぎを与えてくれた。
そしてサキは、互いの肌がぶつかり合うような
激しい情愛を与えてくれた。
それは、人間の彼女には無理だったものだ。
愛の優劣を決めるつもりはないけれど、
今はこの、狂おしいほど本能的な愛に埋もれていたい。
『もう少しだけ、生きてみようかな』
ヒサは、素直にそう思えるようになっていた。
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こうして色を伴う関係になったサキとヒサ。
そんな彼女たちの間で、
『その』話題が出てくるのは必然と言えた。
そう、それはサキの生い立ちについての話。
もっとも、ヒサはサキから
大した話を聞く事はできなかった。
『そう…じゃ、サキは物心ついた時から、
ずっとここに住んでるのね』
『はい。自分がどんな病気なのかは知りませんけど』
『うーん…そのトキとリューカって子の件で
参っていたのはわかるけど…
元々ここに来た理由は何なのかしらね』
『さあ…和ちゃんなら知ってると思いますけど』
『今度聞いてみましょうか』
『うーん…ちょっと、怖いかも』
『そう?』
『だって…それを知っちゃったら…
ヒサさんは、私を嫌っちゃうかもしれないし』
『あはは…そんな事しないわよ?約束する』
『…ほ、本当ですか?』
『ん?やけに食い下がるわね…
実は自分の病気が何か知ってるんじゃないの?』
『…本当に知りません。
でも、やっぱり怖いんです…』
『…大丈夫よ。絶対にあなたから
離れたりしないから』
ヒサがそれを知りたがったのは、
ただの興味本位からだった。
それでサキがどんな『病気』を持っていようと、
ヒサは彼女を見限るつもりはなかった。
ただ、サキの怯えようは少し気にかかった。
一体彼女は、どんな病気を抱えているのだろう。
そして、次の日ヒサは知る事になる。
サキが抱えていた、深すぎる闇の詳細を。
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「聞かない方がいいと思いますよ」
それがヒサの質問に対する原村の回答だった。
『え、なに?そんなにヤバい内容なの?』
「受け取り方は人それぞれですが…
サキさんに対する見方が
変わるかもしれませんから」
原村らしからぬ歯切れの悪い物言いに、
逆にヒサは引き下がれなくなる。
発端はただの興味本位だったが、
そんな言われ方をするのなら、
むしろ知っておかなければいけないだろう。
『教えてちょうだい。私がサキを救うなら、
そこは避けて通れない気がしてきたわ』
「…そうかもしれませんね」
ヒサの言葉に頷いた原村は、
こほんと一つ咳払いをした。
でも、なかなか二の句を継がない。
彼女なりに、言葉を選んでいるのだろう。
やがて心に決めたように、原村が言葉を紡ぎ始める。
「サキさんは…捨てられたんです」
原村の言葉に、ヒサは思わず苦笑した。
どんな大層な病気が飛び出すのかと思ったら、
大した内容ではないではないか。
だがそんなヒサの心象は、
次の原村の言葉で大きく覆る。
「それは、サキさん側に問題がありました」
「サキさんが、飼い主を
破滅一歩手前まで追い込んだからです」
ヒサは、今度は笑えなかった。
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原村の話によれば、
サキはこのペットショップで
生まれたわけではなかった。
彼女は別のペットショップで生まれ、
そして優しい飼い主に買われたらしい。
一見問題ない彼女の生い立ちが問題となったのは、
サキの生来の気質が原因だった。
サキは生まれながらに依存心が強く、
また嫉妬深かった。
主人の元を片時も離れようとせず、
無理に引き離そうとする者に噛みつきすらした。
それでも引き離されてしまった後は、
主人が帰ってくるまで延々と泣き続けた。
優しい飼い主はサキの意思を尊重し、
できるだけサキのそばにいた。
だが、そんなサキに合わせて
人間が生きるのは容易な事ではない。
人間である以上働かなければ生きていけないのだから。
朝はサキをひたすらなだめすかして、
やっとの思いで会社に向かう。
仕事が終わったら一目散に飛び帰り、
一晩中サキのご機嫌を伺う毎日だった。
そんな生活に飼い主は疲弊しきってしまった。
そして重度のノイローゼになったところで、
動物カウンセラーの原村を訪ねたのだった。
『どうして?ご主人様と
一緒にいたいと思う事の何がいけないの?』
「あなたにごはんを用意するために、
ご主人様は外に出ないといけないんですよ」
『だったら私も連れて行ってよ。
私、おとなしくしてるから』
「動物を外に連れていく事自体が
人間社会では好ましくない行為なんです」
『何それ。そんな人間の意味不明な決まりのせいで
私はご主人様と引き離されないといけないの?』
サキは聞き入れようとしなかった。
動物だから仕方がないという面はある。
ただそれを加味しても、サキの執着は異常だった。
もっとも、常に一緒に居ることを主張するサキに対し、
サキの飼い主は真逆の見解を示した。
「できれば…こちらで引き取っていただけませんか?」
『ご主人様!?』
「生き物の命を軽く見ていると思います。
責任を取らなければいけないとも思います」
「でも、このままでは…
私の方が…先に倒れてしまいます」
『そんな…!だったら一緒に死のうよ!
私、ご主人様についていくから!!』
「…わかりました。
サキさんはこちらで引き取ります」
『あなたの意見なんかどうでもいいよ!
邪魔しないで!!』
「…ありがとうございます…
……ありがとうございます…!」
『ご…ごしゅじん…さま……!』
自分を引き取ってもらえるように懇願する主人。
かつそれが受け入れられて、
本当に助かったとばかりに
感謝の言葉を繰り返す主人。
その光景に、サキの精神は耐えられなかった。
サキはぷつりと糸が切れたように動かなくなり、
自分の記憶に栓をした。
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「…こうして、サキさんは記憶喪失になりました」
「それからは、初対面の印象からは
まるで別人のように大人しくなったんです」
「そう言った経緯もあって、
私はサキさんをできるだけ他の子と
接触させないようにしてきました」
「私自身も、サキさんに
溺れ過ぎないようにしてきたんです」
そこで、原村は言葉を切った。
おそらくは質疑応答の時間に入ったと思い、
ヒサはいくつかの質問を投げかける。
『トキとリューカは例外だったの?』
「あの二人の愛情も病的だったので、
サキさんの愛情を受け入れられるかと思ったんです」
「結果的には、二人の愛情が深すぎて、
サキさんが遠慮してしまいましたけど」
『サキに私をあてがった理由は?』
「同じ理由です。あなたの愛の重さが
サキさんに釣り合うと思ったからです」
『私も狂っているって言いたいの?』
「正常な思考を持っているなら、
後追いなんて選択肢は出てきませんよ?」
そう言われるとヒサは反論できない。
確かに、あの時の自分が
まともな精神状態だったとは思えない。
そして、目の前のこの人間も。
「考え方を変えたらいいだけだと思います」
「あなただって、福路さんが外出して寂しいと
感じた事はありませんか?」
『…あるわ』
「ずっと、福路さんと一緒にいられたらと
思った事はありませんか?」
『…あるわ』
「だったら問題ありません。
サキさんなら、あなたが望むように
一緒にいてくれますよ?」
原村は穏やかな笑みを浮かべた。
その笑みを前に、ヒサはいつも思っている事を
臆面もなく口にした。
『和。やっぱりあなたも狂ってるわ』
原村は一切狼狽することもなく、
涼しげな笑みを浮かべてこう返した。
「私達の中で、狂っていない者がいるとでも?」
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ケージに戻ってきたヒサに、
サキは我を忘れてしがみついた。
『ヒサさんっ…!ヒサさんっ…!』
『ど、どったのサキ…』
『だ、だって、ヒサさん、聞いたんですよね!?
私の病気の事!!』
『…ええ』
『ヒサさんも、私の前から
いなくなっちゃうんですか!?』
『私を置いて、どこかに行っちゃうんですか!?』
『嫌です!一匹はもう嫌です!!』
『置いていかないでください!!』
サキは自分が捨てられた事を
完全に思い出したようだった。
鬼気迫る表情で追いすがるサキ。
その必死の様相に、思わずヒサはたじろいだ。
『お、落ち着いて、サキ。
ほら、私は戻ってきたじゃない』
『言ったでしょ?私はあなたを捨てたりしないって』
そう言ってヒサはサキを抱き締めると、
彼女の頬を舐めてやる。
サキは少しだけ落ち着いたのか、
少しだけ頬を緩ませると、
でも不安気な顔でこう言った。
『で、でも、もし…私の愛が重すぎたら
すぐ言ってください』
『わ、わたし、死にますから』
『ヒサさんに、迷惑、かけませんから』
『だ、だから、もう、捨てないで』
ヒサは思わず目を見張った。
原村からあの話を聞く前だったなら、
ずいぶん重いジョークねと軽く流したかもしれない。
でも、サキの表情は真剣そのもので。
間違いなく彼女は有言実行するだろう。
ヒサはそう確信した。
『馬鹿な事言わないで。
死ぬ時は一緒に死にましょう?』
そう言って、ヒサはサキに口づける。
今度こそ安心できたのか、
サキはようやく表情を綻ばせて、
ヒサの口づけを受け入れた。
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--------------------------------------------------------
そこは、場末のペットショップ。
その華やかな内装、
姦しい動物達の鳴き声で賑やかな店内の片隅に、
一か所だけ異様な空気を放つ空間がある。
売り場の入り口には、大きな大きな注意書き。
それはもはや、最初から売る気なんて
ないんじゃないかとすら思わせる内容で、
思わず私は苦笑した。
------------------------------------------------
『注意書き:このエリアのペット達は
≪病気≫です!! 』
本エリアに住んでいるペット達は、
心か体(もしくは両方)に傷を抱えています。
人と同等の知能を持ち、中には自殺未遂を
経験しているペットもいます。
興味本位での立ち入りは固くご遠慮願います。
手を差し伸べる場合には、
相応の覚悟を持って臨んでください。
自身の一生を投げ打ってでも
この子達を救いたい。
そう思える方だけお入りください。
------------------------------------------------
私はつかつかと歩みを進め、
二匹が一緒に入ったケージの前で歩みを止める。
そこに書かれた彼女達の紹介カードも、
ずいぶんとハードなものだった。
------------------------------------------------
『ヒサ』≪心の病気≫
非常に頭がよく、愛情にあふれた女の子です。
前の飼い主に対する愛情が深く、
一時期は自殺未遂した経験があります。
現在は同居しているサキとつがいの関係にあり
ほとんどサキから離れません。
このため、飼い主に対しても
全く懐いてくれない可能性があります。
------------------------------------------------
これまた私は苦笑しながら、
もう一匹の紹介カードに目を通す。
------------------------------------------------
『サキ』≪心の病気≫
強すぎる愛情と依存心を持つ女の子です。
以前飼い主に執着し過ぎた結果、
飼い主から離れようとせず飼い主を
ノイローゼに追い込んだ経歴があります。
現在は同居しているヒサとつがいの関係にあり
ほとんどヒサから離れません。
引き離そうとするだけで激しく抵抗するため、
飼い主になっても全く懐いてくれない事を
覚悟する必要があります。
------------------------------------------------
もう一方のカードはさらにひどかった。
ここまで来ると、なぜ保健所行きにならないのか
首をかしげるレベルだろう。
「どぎつい書かれようやなぁ」
「でも、飼うんやろ?」
「モチや!」
怜は勝手知ったる我が家とでも言わんばかりに
スタッフルームを覗き込むと、
そこにいた店員に気軽に声を掛けた。
「おーい、のどっちー。
うちらの友達を引き取りにきたでー」
「気安すぎやろ!?」
のどっちと呼ばれた店員…和は、
戸惑いながらも立ち上がり、
当然の質問を口にした。
「あ、あの…なぜ私のあだ名をご存じなのですか?」
「ここに、トキとリューカっちゅぅ
バカップルがおったやろ?
私らアレの代理人や」
「私が病弱系女子の園城寺怜」
「んで、こっちのふとももが清水谷竜華や!」
「うちの本体ふとももなん!?」
軽い茶目っ気をきかせた挨拶を並べる怜。
その声を聞きつけて、
巣箱から飛び出してきた二匹のカップル達。
『ええと…誰?』
『トキさんとリューカさん!?』
『えぇ!?死んだんじゃなかったの!?』
「ああ、サキ…あの時はごめんな?」
「あんたらを、迎えに来たで?」
私は二匹に笑いかけた。
こうして、私達の道が再び交わる。
それは、二匹と三人。
仲良く笑いあえる日々の始まりだった。
(完)
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ユーキ、京太郎、まこの扱いが分からない。
京太郎はかつてのサキの飼い主かな?
ただ、文字通りのペットという設定にそこはかとない狂気を感じるのは気のせいでしょうか…。
頑張って書くとかなりの長文になってしまうので、いつも一言二言でやめてしまう。
とりあえずハッピーエンドでよかった。
りくが落ち着いたらで良いので久咲のパロディ物も書いてほしいです<(_ _)>
ユーキ、京太郎、まこの扱いが分からない>
咲「その三人は出てきません」
獣系なのか小人系なのか>
久「想像に任せるわ!
夢の中では答えが出てたけど
長くなったからはしょっちゃった!」
咲「こちらの世界には存在しない
不思議生物だとだけお伝えしますね」
そこはかとない狂気>
和「ひんやりと底冷えするような冷たさと、
どこか背筋を泡立たせるような
恐怖を感じていただければ幸いです」
咲「ちなみにやたらリアルな夢だったので
普通に泣きそうでした」
頑張って書くとかなりの長文になってしまう>
咲「長文感想は、作者としては冥利に尽きますよ?
論評や添削は荒れるので
ご遠慮いただきたいですが…」
久「感想が興に乗って長くなる分には大歓迎よ!
もちろん『書くのがめんどい』なら
強要する気はないけどね」
久咲のパロディ物>
久「ごめんなさいね。ちょっと
想像ができなかったんだけど
具体的には何のパロディかしら?」
咲「今回みたいなやつでいいんですかね?」