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【咲SS:竜怜】竜華「…なぁ、怜。思い出して?」【ヤンデレ】

<あらすじ>
なぁ、怜。なんでわかってくれへんの?
もう、未来を見るのはやめてぇな。
それで死んでまうかもしれへんよ?

…そか。やめるつもりはないんか。
わかった。うちがなんとかするわ。

…私が監禁でもすれば、
 怜は麻雀打てへんやろ?

<登場人物>
園城寺怜,清水谷竜華,江口セーラ

<症状>
・ヤンデレ
・依存
・監禁

<その他>
以下のリクエストに対する作品です。
・竜華が怜を監禁拘束したりする奴

--------------------------------------------------------



夢を見ていた。
私はどこか寒々しい控室に居て、
試合中継のモニターを眺めている。

映っているのは怜。
映像の怜は見るからに苦しそうで、
脂汗をかきながら肩で荒い息をしている。

目の前の怜は、どこか思いつめた表情を見せた後、
かっと目を見開いた。

そして、次の瞬間怜は倒れる。
ゆっくりと、スローモーションのように
椅子から崩れ落ち、頭から地面に落下する。

先程の強いまなざしとは打って変わって、
どこか虚ろに虚空を見上げ、そのまま怜は目を閉じる。


そして、怜は動かなくなった。



--------------------------------------------------------



「ときぃぃぃいいいぃぃぃいいいいっ!!!!!!」


あまりにも不吉すぎる夢に、
私は反射的に飛び起きた。

全身にびっしょり汗をかいていた。
目からは涙が溢れていた。


「はぁーーっ……はぁーーっ……」


早すぎる鼓動を抑えることもできず、
私は荒い息を吐き続けながら、
ただ呆然と虚空を見つめる。


「まっ…また…この夢かぁ……」


私は誰に言うでもなく独り言ちた。
そう、インハイで怜が倒れてから
頻繁に見るようになった夢。
今日も、いつもの夢に苦しめられた。


「やっぱ…怜が無茶したからなんやろな…」


私はその日の出来事を思い出す。
今日は、久しぶりに怜と麻雀を打った。
別にそれ自体は楽しかったけど。
オーラスの一局。
怜は、禁じられていたダブルを使った。


『…っ』


怜の目が一瞬光を失い、
意識が飛んだかのように表情が消える。
でも、それは一瞬だった。
怜はすぐに意識を取り戻し、
にやりと口角を上げて力強く打牌した。

結果、怜はオーラスで逆転し、
最終的にトップで半荘を終えた。

半荘を終えた時怜の言った台詞が、
今でも私の頭から離れない。


『もう、ダブルやったらなんとかなるな』


私は思わず絶句した。

喉元過ぎれば熱さを忘れるとは、
まさにこのことを言うのだろう。

確かにそれは怜にとって、
試練を乗り越えて
手に入れた力なのかもしれない。

だから、それを磨きたくなるのは
仕方ないのかもしれない。

でも、その『ダブル』は
私の心配を前提に成り立つもので。
私との約束を破ることで生まれた能力だった。


『なぁ、怜…それ、
 もう使わんといてって言うたよね…?』

『か、勘忍や!でも、
 私も一皮むけたから大丈夫やって!』


『トリプルはもう絶対やらんから、な!』


私の言葉に申し訳なさそうに手を合わせるも、
ダブルを使う事は否定しなかった怜。

自分の身を顧みない怜のことだ。
きっとこの約束も破られるのだろう。
そして、怜は命を削るのだ。


目じりに浮かんだ涙をごしごしとこすり、
私は勢いよく布団をかぶる。

考えても鬱になるだけだ。
もう、寝てしまおう。

そう思って目を閉じた。


そして、また私は夢を見る。
怜が倒れて動かなくなる夢を。



--------------------------------------------------------



怜は、あの日の事をそれほど
反省していないようだった。

むしろ、自分がもっと結果を出せていれば、
千里山が負けることはなかったと。
自分の不甲斐なさに
責任を感じている発言を繰り返した。


「あの時、私がもっとコンスタントに
 ダブルを使えとったら…
 今頃千里山は優勝しとったかもしれん」


どこか遠くを見据えながら、
そう悔しそうにつぶやいた怜。

わかっている。
怜は一見ちゃらんぽらんなようでいて、
実は誰よりも責任感が強い。

そんな怜は、インターハイでの雪辱を
『全員で頑張った綺麗な思い出』
として消化することはできなかった。


「私が、もっと強ければ…」


そう考えた怜がどんな行動に出るのか。
別に私でなくとも容易に想像はつくだろう。


ちかちか、ちかちか。


怜の目が光を放つ。
刹那その目は光を失い、ふっと顔から表情が消える。
怜が光を取り戻す。


ちかちか、ちかちか。
ちかちか、ちかちか。


明滅する怜の目の光。
いずれそれはふっと消えて、
そのまま闇に沈んでしまうのでないか。
私は気が気ではなかった。


(あかん…このままじゃ、怜が死んでまう)

(何とかして、やめさせんと)


いつしか、私は怜が麻雀を打つのを
止めさせたいと思うようになっていた。



--------------------------------------------------------



「なぁ、竜華…最近なんかあったんか?」


対局の合間にできた休憩時間。
セーラが神妙な顔つきで私の顔色を伺ってきた。

こういう時のセーラには隠し事をしても無駄だ。
セーラは、何かあることを確信した上で
聞いてきているから。
私は、素直に胸の内を打ち明けることにした。


「…なぁセーラ、うちらはこれから
 どうなるんやろな」

「どうって…オレはプロ、
 お前ら二人は進学するんやろ?」

「うん…うちらがもう、一つのチームで
 打つことはないはずやんな」

「なんや、もう卒業ムードになって
 一足先に黄昏とるんか?」

「ちゃうよ…ならなんで、
 怜は練習をやめんのかって思ってな」

「もう、うちらのインターハイは終わったやん」

「今さら命を削って練習繰り返して、
 怜はどこを目指しとるん?」

「怜は…一体何がしたくて、
 あんなに命をすり減らしとるん?」

「…やっぱ怜のことか」


セーラは大きく息を吐き出して肩をすくめた。
私が気づいているのだから、
当然セーラだって気づいていたのだろう。


「怜は、まだ消化しきれとらんのやろ」

「オレらと違って、怜にとっては
 最初で最後のインターハイやったんや」

「しかも、エースとして打ち負けた…な」

「その無念は…理屈で何とかできるもんやない」


そう言ってセーラは目を伏せた。
それはエースとしてチームの未来を
託された者だけが背負う重圧。
結局私は、一度も背負うことがなかった重圧。


「じゃあ怜は…これから一生、
 そんな重荷を抱えて生きていくん?」

「いつかは、思い出として飲み込むことができるやろ。
 …少なくとも、オレはそうやった」

「でもな?それまでは、
 つらくてつらくて仕方ないんや」

「もう、腹からカッカッと怒りが湧き出してきて、
 勝手に涙がにじみ出てきて、
 居ても立っても居られんほどにな」

「心配やとは思う。でも、見守ったれ」


バンッとセーラは私の背中をはたいた。
こういう時、セーラのことをすごいと思う。

状況をわかった上で、本当は自分も心配した上で。
それでも、怜のことを信じてどっしりと見守る。
私には、たぶん一生真似できないだろう。

だって、私は。
セーラの話を聞いた、その上で…

それでも、怜が麻雀を打つのを、
やめさせたくて仕方がないのだから。



--------------------------------------------------------



現三年生が引退して、新体制になってからも。
怜は麻雀部に入り浸るのをやめなかった。

普通の三年生でも、さすがにこの段階になったら
部活動から手を引いて、他のことに目を向ける。

なのに…よりによって病弱な怜が、
この期に及んで部活動を続けることを、
私は容認できなかった。


「怜、三年がそんな邪魔したらあかんて」

「…あかんのや。自分が許せん」

「あんな、怜。団体は、みんなで戦うもんなんよ?」

「自分一人でたらればを繰り返すのはやめ」

「…私だけ、マイナスなんや」

「……」

「セーラも、竜華もプラスやった」

「…わたしだけ、まいなす、やった」

「しゃあないやん!?相手はあの宮永照やったんや!
 むしろあの失点に抑えただけで」

「ちゃう!!!」


突然声を張り上げる怜。
思わず私はビクリと体を震わせる。
私は、怜がこんな強い声を発するのを
今まで聞いたことがなかった。


「…わたしは、エースやった」

「みんなの思いを背負った、エースやったんや」

「失点、した時点で戦犯や」


歯を食いしばり、目じりに涙を浮かべ、
血がにじむほどに唇を噛みしめた後…
怜は、絞り出すようにつぶやいた。

そんな怜の様子を見て、私は怜の背中に
あまりにも重すぎる重圧を感じた。

傍で聞いてる私でさえ感じる重さ。
きっと、怜自身が感じている苦しみは、
こんなものではないのだろう。

そして、私は確信した。
このままでは、怜はその重みに潰される。

私が、怜を開放しなければならない。



--------------------------------------------------------



「セーラ、浩子、泉。先に謝っとくな。ごめん」

「うちはこれから、とんでもない犯罪を犯す」

「…謝るくらいならすんなや」

「あかん、このままじゃ怜は潰れる」

「私らが全員で支えるんじゃあきませんの?」

「あかん、それじゃ卒業後に対応できひん」

「そもそも…実現可能と思えませんけど」

「可能や。ちゅうか、実現してみせる」

「…傍から見たら、潰れそうなんはお前の方やで?」

「やったらなおさらやらせてや。
 うちは、もうこれ以上苦しむ怜を見てられへん」


「せやから、怜を…監禁する」



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なんてことのない朝だった。
私はいつも通り重いまぶたを我慢して開き、
鉛のように動かない体に鞭を打って上体を起こす。

覚醒しきらない脳をそのままに、
機械的にいつもと同じ動作で朝食をとり。

大量の薬を飲んだ後、棒のような足を引きずって
玄関から一歩を踏み出した。


「おはよ」


そこに待ち受けていたのは、
いつも通り竜華と…あれ?


「おはよーさん。セーラはおらんの?」

「うん。今日は外してもらったんや」

「外すってなんや、朝から告白でもする気か?」

「まあそんなところや」


いつも通りの受け答え。
でも、私は妙にひっかかった。

なんか、竜華の様子がおかしい。
いつもは感じないヒンヤリとした空気を
纏っているのは気のせいだろうか。


「今日からうちは、怜を監禁する」

「…何言ってんの?」


私はいつもの台詞を竜華に返した。

千里山女子高校麻雀部の元部長であり、
しっかり者として評価が高い清水谷竜華。
だが、その実おバカ系天然の側面も併せ持っている。

そんな竜華が天然発言をするたびに、
私はこの言葉を捧げてきたわけだけど…

こんな真顔で、真剣な表情で言われたのは初めてだ。
これは、何言ってんのランキングの序列を
見直す必要があるかもしれない。


「…何が目的や。金か、金なんか」

「…怜の命や」


そう言って私の手を取り歩き出す竜華。


(あかん、さっぱり意味が分からん。
 何やこれ、何かのドッキリなん?)


竜華の足は、学校とは真逆の方向に向かっている。
どうやら本気で、何かしでかすつもりのようだった。
真面目な竜華にしては珍しい。


(ま、ええか)


竜華の行動に興味がわいた私は、
特に文句も言わず素直についていくことにした。



--------------------------------------------------------



辿り着いたその先は、
なんのことはない竜華の家だった。

通された部屋も何度か入ったこともある
特に目新しくもない部屋だった。


ただ、私の目を引いたのは、
ベッドに備え付けられた手錠と足枷。

ここにきて、私は自分の認識が
甘かったことを後悔した。


(…これ、ガチやん…)


「…さ、怜。とりあえず繋がっとこか」

「マジで?」

「マジや」


半ば強引に私の手を取る竜華。
とりあえず逆らうと怖いので素直に繋がれておく。

と言ってもその辺は過保護な竜華。
手錠も足枷も私を傷つけないように
フカフカな柔らかい生地で包まれていたし、
ベッドと繋がるチェーンの長さも
かなり遊びが作られていた。


「で、どんな心境の変化があって、
 こんなSMプレイに目覚めたん?」

「…だって、怜はこうでもせんと生き急ぐやろ」

「どうせ、家でこっそりトリプルの練習とか
 しとるんちゃう?」


冷たい視線で刺すように、竜華が私をねめつける。
私は思わず言葉に詰まった。
バレていた。まぁそれはバレるだろうけど。


「…で、でも、実際ダブルにしても、
 練習しとったから大会でも使えたんや。
 今から備えとけば、トリプルも
 次の大会には間に合うかもしれん」

「次の大会ってなに?」

「そんなのインカレに決まっとるやん」

「…宮永照も、弘世菫も進学する。
 しかもご丁寧に二人とも同じ大学にや」

「リベンジや…次は絶対に私らが勝つ!」


別に、あの二人に恨みがあるというわけではない。
でも、全国一位の白糸台高校のエースと部長。
そして全国二位の千里山女子高校のエースと部長。

間違いなく話題に上るだろうし、
実際対決することにもなるだろう。
その時、また後塵を拝するつもりはない。

そんな熱い思いを秘めた私に対し、
竜華はどこまでも冷たく返事を返す。


「そんでまた倒れる気なん?」

「や、倒れんための練習やで?」

「練習では倒れるんやろ?」

「そこは筋トレみたいなもんや」

「病人が筋トレすなや」

「悪いけど、うちはこの件で
 怜と問答するつもりはないんよ。
 口で説得できるんなら
 最初からこんな手段には出とらん」

「怜が諦めるまで、ずっと監禁させてもらうからな?」


なるほど。この凶行は
私に麻雀を打たせないためらしい。

…それだけのために普通監禁までするだろうか。
知らないうちに、竜華はずいぶん
病んでしまっていたらしい。


「学校はどうするんや」

「どうせもう自由登校やん」

「病院はどうするんや」

「うちが連れてったる…リードつけて」

「こんなん周りが許すわけないやろ」

「怜の親御さんの許可はもらった。
 もちろんうちの親の分もな」

「マジで?」

「マジや」


さすがは千里山の元部長。
天然系の癖に、抑えるところは抑えてくる。
私は腕を組んで考え込んだ。
駄目だ、頭が動いてくれない。


「…とりあえず膝枕」

「はいはい」


よかった。とりあえず要求は
普通に聞いてくれるらしい。
私は膝枕に乗っかりながら考え込んだ。

トリプルを身につけたいのは事実。
でも、私がトリプルを身につけたいのは、
インカレで元白糸台の二人に勝つためだ。
…それはもちろん、竜華と二人で。

なのに、それが竜華が病むほど
追いつめるのでは本末転倒だ。
まずは竜華に認めてもらう必要がある。
トリプルを使っても問題ないのだと。

とりあえず、今は竜華の言うとおりにするべきだろう。
何より…今の竜華は、ちょっと怖い。


「…わかった。監禁されてる間は練習やめるわ」

「ホンマ?」

「ただな?竜華…私も、やめろ言われて
 そんな簡単に諦められるんなら苦労はしとらん」

「竜華が私に麻雀をやめさすんなら…
 相応の代償は払ってもらうで?」

「…ええよ。うちの命でもなんでも払う」


…や、そんな重たいものはいらない。
とりあえず、私を思いっきり
あやまかしてくれればいいのだけれど。

冗談も通じなくなった竜華との温度差に、
私は少しだけ寒気を感じた。



--------------------------------------------------------



こうして、竜華の家での監禁生活が始まった。

といっても、その生活は快適そのもの。
朝から晩まで竜華が付きっきりで面倒を見てくれる。
私は何もする必要がない。

…麻雀が一切できない点を除けば。


「なぁ竜華。ちょっとだけでええから、
 打たせてくれん?」

「怜。うちがなんで怜を監禁しとるんか、
 もう忘れたん?」

「わ、わかっとるけど…
 平打ちしかせぇへんから。
 シングルも使わんから、な?」

「あかん」


頑として譲らない竜華。未来視どころか、
牌に触れることさえ認めてもらえない。

それどころか、竜華はついに
精神攻撃まで仕掛けてくるようになった。


「怜…思い出して?」

「あっ…!?」


私を包み込むように抱き締めて。
耳元に顔を近づけて。
そっと囁くように私を責める竜華。


しまった。またやってしまった。


もう何度も行われた『それ』に、
私は反射的に背筋を凍りつかせる。


「りゅ、竜華…それ、やめてや」

「あかん。怜、全然わかってへん」

「なぁ怜…怜は、無茶したら死んでまうんよ?
 そのことを、しっかり思い出してもらわんと」

「か、かんにんや、
 もう言わんから、許したって」


その声はとても穏やかに。
でも、それでいて私のトラウマを
的確に掘り起こす。


「ほら、思い出して?」

「倒れた時の床の冷たさ」

「い、いやや」


私は駄々っ子のようにかぶりを振る。
でも竜華はやめてくれない。


「思い出して?」

「い…いや…や…」

「あの時の血の味」


前に倒れた時、私は口の中を切った。
その時の情景が、
私の頭の中に広がっていく。
口の中に鉄の味が広がっていく。


「も、もう、や、やめてやりゅーか、
 うちおかしなってまう」

「…気づいてや…怜」

「怜はな…?最初からおかしいんよ」

「自覚してないだけなんや」

「命削ってまで麻雀やるとか絶対おかしい」

「もっと、自分が狂っとるって自覚持って?」


なだめるように、
困ったような笑顔を私に向ける竜華。

その目は完全に暗く落ち込んでいて。
どちらが狂っているのかと問い詰めたくなる。

もっとも、私にそんな余裕はないけど。


「…さ、怜。続けよか」

「なぁ、怜。思い出して?」

「救急車」

「やっ…」


頭の中にサイレンが鳴り響く。


「思い出して?ストレッチャー」

「ガラガラ、ガラガラ」

「っ……」


ストレッチャーが近づいてくる。
意識が朦朧(もうろう)として、
苦しんでいる私の元に。


「思い出して?怜…
 あの時、うめき声あげとったなぁ」

「苦しかったよなぁ」

「思い出して?あの苦しみ」

「はっ…はっ…」


鼓動が早くなっていく。
本当にあの時の痛みが、苦しみが、
私の体に襲い掛かる。


「思い出して?」

「呼吸が浅くなって、息を吐くのも苦しくて、
 目から涙がにじみ出て」

「もうこれで死んでしまうんやないかと思った、
 あの苦しみ」

「はっ…やめっ…はっ…もうっ……」


やめて。このままじゃ、私、
本当に。死んでまう。


「死の苦しみ、思い出して?」

「いやぁああぁあああぁっ!!!!」


私は耐えきれず頭を振り乱した。

それでも竜華はやめることなく。
私のトラウマをかき回し続けた。



「なぁ、怜…思い出して?」



--------------------------------------------------------









--------------------------------------------------------



『なぁ竜華。うちらも怜に会いに行きたいんやけど』

「あかん。四人そろったら、
 怜が麻雀打ちたいって言い出すやん」

『…別にちょっとくらいええやん』

「…セーラ…もしかして、怜を殺したいん?」

『はぁっ!?なんでそんな話になるんや!』

「…そのちょっとの一回が、
 怜にとって最期になるかもしれんのに」

「なんで、そんな軽い口調で言えるん?」

『竜華…心配する気持ちはわかるけどな?
 いくらなんでも言い過ぎや』

『正直…オレはお前の方が心配なんや』

「大丈夫や…最近は、怜もわかってきてくれた」

「心配せんでも、あと少しで開放するわ」

「ほら、怜。セーラに言ったり」

「セーラ、心配いらんで?
 りゅーかには、大切にしてもらっとるから」

『…まぁ、それならええけど…』



--------------------------------------------------------



りゅーかは携帯の電源を切ると、
膝の上に乗る私の頭を優しくなでた。


「…セーラもわかっとらんなぁ…
 怜が雀卓に座ったら、我慢できひんのは
 わかりきっとるのに」

「なぁ、怜」

「…ま、まーじゃんのはなしするの、
 やめてくれん?もう、私、思い出したない」


まだ震えが止まらない。
雀卓。雀。まーじゃん。
いやや、私、死んでしまう。


「い、いやや、死にたない」

「…大丈夫や。打たんかったら
 死なへんから」

「いやや!思い出したない!!」


私はりゅーかにすがりつく。
りゅーかは幼い子どもをあやすように
私のことを抱き寄せると、
優しく私に口づける。


「…他のことして、気ぃまぎらわせよか」


私はこくりと頷いた。
もう、何も考えたくない。
ただ、頭の中を真っ白にしたい。

私はいつものように、りゅーかの唇を貪った。



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--------------------------------------------------------



怜を監禁した私が徹底して行ったのは、
怜に自分の行為の恐ろしさをわからせることだった。

少しでも怜が麻雀を打ちたいとせがんだら、
即座に怜が倒れた時の情景を語るようにした。


その効果は覿面(てきめん)だった。
倒れた当事者である怜は、
自分が倒れた時の状況を
ぼんやりとしか覚えていなかったから。

第三者である私の視点で詳細に説明することで、
怜は自分がどれだけ危うかったのかを
初めて把握したようだった。


私は何度も繰り返した。
怜は思い出すことを嫌がった。
それでも私は繰り返した。

わかっている。私の行為は怜を苦しめる。
怜にトラウマを植え付ける。
私だって、こんなことはしたくない。


でも、怜が調子に乗って死ぬよりはましだ。


私はひたすら繰り返した。
やがて、怜は麻雀を打ちたいとは言わなくなり。
牌を見るのすら怖がるようになった。

それでいい。少なくとも病気が治るまでは、
怜は麻雀を打つべきではないのだから。



--------------------------------------------------------






こうして、怜を監禁してから3か月半が経過した。






--------------------------------------------------------



本当のことを言えば、
私はもっと早く怜を開放するつもりだった。

私が怜を監禁したのは、
あくまで怜の体を心配してのことであり、
監禁そのものが目的ではなかったのだから。

でも、その監禁は…
怜に重大な副作用をもたらしていた。


「なあ怜、うちはもう開放してもええんよ?」

「…今さら何言ってんの?」

「私、もう外に出られんのやけど」

「……」

「マジで?」

「マジで」


確かに、狭い部屋に鎖でつながれて、
生活のほとんどを介護されて過ごした怜。

ただ、それによる筋力低下は想定済みだったから、
それなりに運動は取り入れてきたはずったのだけれど。


「ちゃうちゃう。体力の問題やない」

「…怖いんや」

「怖い?」

「…外に出たら、あ、あれ関係の何かに
 出くわすかもしれんやん」


そう言って、怜はガタガタと震え出す。
なるほど。確かに麻雀は国民的スポーツだし、
一切触れないようにするのは難しいと思う。


「もう、私、一生この部屋でええ」

「このまま、りゅーかが、私を飼ってや」

「…ええの?」

「ええも何も、私、りゅーかに捨てられたら
 もう生きていけんもん」

「私を、こんな風にした責任とってや」


そう言って、怜はすがるように私の目を見つめた。
私は怜を安心させるために、
いつものように頭をゆっくりと撫で回した。



本当のことを言えば、
私は怜を開放するつもりだった。

私が怜を監禁したのは、
あくまで怜の体を心配してのことであり、
監禁そのものが目的ではなかったのだから。

でも、怜は嫌がった。
もう、怜は外では生きていけなくなってしまった。

ごめんな。
でも、幸せにするから許してな?


「わかった。怜の一生、うちがもらうな?」

「うん。りゅーかの一生は、私がもらうわ」


私は怜を抱き起こし、その唇にキスをする。
怜は穏やかな笑みを浮かべると、
私の背中に腕を回した。



(完)
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posted by ぷちどろっぷ at 2014年12月22日 | Comment(4) | TrackBack(0) | 咲-Saki-
この記事へのコメント
これはこれは……ある意味調教と言えなくもない。
にしても責任感強いですなぁ。親友のセーラからエースの座を奪った(託された)のもい影響してるんでしょうか。

それはそうと、けいおんとゆるゆりも始動しましたね!
咲アンテナに載ってないので気付いてない人とか居そう。
Posted by at 2014年12月22日 19:06
とても面白かったです。

静かな狂気の中に竜華の母性を感じました。

little prayを聞きながら読むものですね。
Posted by ホーネット at 2014年12月22日 19:20
ときの心境の変化の過程の描写がなんか心に来る感じがして最高です
うまく言葉にできないですわ
いいエンドでした
Posted by dimo at 2014年12月23日 09:03
コメントありがとうございます!

責任感強い>
怜「ずっと憧れの親友の背中を追い続けて、
  いきなり三軍からエース
  任されたらわかんで?」
竜華「ニッチすぎやん」

けいおんとゆるゆり>
京子「告知の仕方がわからない!」
紬「まあ咲メインなので今はひっそりと」

竜華の母性>
怜「言われてみればオカンっぽいな」
竜華「いや、命かけて麻雀打っとったら
   誰でも止めるやろ」

ときの心境の変化の過程>
怜「私は普通やったんにな。
  だんだん病んでってもうた」
セーラ
 「だから、俺は竜華の方が危険や
  思ってたんや…」
竜華「え?うちの何が危険なん?」
Posted by ぷちどろっぷ(管理人) at 2014年12月27日 14:01
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