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【咲-Saki-SS:憧穏】憧「取り戻したい、心の距離を」【悲恋】

<あらすじ>
私は、この想いをシズに伝えるつもりはなかった。
でも、ひょんな事から
シズに知られてしまった。

ノーマルなシズは、最初普通に引いたけど。
秘密を暴いた罪悪感と同情から、
私の事を許してくれた。

そして、泥沼の展開が始まる。


<登場人物>
高鴨穏乃,新子憧

<症状>
・悲恋
・依存
・狂気

<その他>
※以下のリクエストに対する作品です。
・もっと2人が堕ちていく感じのドロドロした憧穏ヤンレズss

※全体的に重苦しいです。
 ご注意を。

※軽い性描写があります。
 苦手な方はご注意を。


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私にとって新子憧は、唯一無二の親友だ。

一度は中学校で疎遠になってしまったけど、
中三の夏に電話したら、またすぐ元の関係に戻れた。
それはきっと、それまで築いていた私達の絆が
深かったからだと思ってる。

だから、これからもずっと、
憧との関係は続いていくと思ってた。
ずっと、親友でいられると思ってた。


そう思ってたのは私だけだった。
憧はそうじゃなかったんだ。



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「あれ?憧の奴いないんですか?」


その日憧を訪ねた私は、
本人じゃなくて望さんに出迎えられた。


「まだ戻ってきてないね、まあ上がって待ってなよ」

「はい、お邪魔しまーす!」


勝手知ったる憧の家。
私は促されるままにお邪魔する。

携帯で電話できればよかったんだけど、
あいにくその日は充電し忘れてて。

どうせすぐ帰ってくるだろうと思って、
憧の部屋で待つことにしたんだ。


「うーん…暇だ!」


特にやることもないから、
憧の部屋をぼーっと眺める。
相変わらずこざっぱりと整理された部屋だ。
女の子女の子してる憧とは
ちょっとイメージがあわないなーと思う。


「帰ってこないな…本でも読もうかな?」


退屈してきた私は、本を物色し始める。
と言っても、憧の部屋にある漫画なんて
もう読み飽きてるんだけど。


「何か読んだことない奴ないかな…
 あ、あった!」


本棚の隅っこに新刊を発見。
こいつで退屈を紛らわせることにしよう。

そう思って本棚から抜き出そうとするも、
なかなか漫画は抜けてくれない。
詰め込みすぎてキツキツになっている。


「…むむ、こいつ、手ごわ…い!
 ならば…どりゃぁっ!!」


勢いをつけて一気に漫画を引き抜いた。
そして…


ズルッ!

「わわっ!あぶなっ!!」


巻き添えをくらって、
一冊の本が本棚からずり落ちる。
なんとか空中でキャッチしたけど、
中身が少しこぼれ落ちてしまった。


(あちゃー…やっちゃった。
 ごめん、憧)


心の中で憧に謝りながら、
私は落ちたものを拾い上げようとして…


「え…」


そして、そのまま固まった。


床に落ちていたのは私の写真だった。
それ自体は、別に変なものでもないのだけれど。


「…どういうこと?」


問題は、私自身にその写真を撮られた覚えがないことだ。
あれも、これも、それも、全部。
全然、身に覚えがない。


「……」


私はつい、手に持った本を開いてしまった。
中身が目に入った瞬間、私は目を見開いた。


そこには一面に…私の写真、写真、写真。


私は開いた本のページをめくる。
やっぱり一面に私の写真。
またページをめくる。やっぱり私。
次のページも、また次のページも、全部。


結局、全ページが私の写真で埋め尽くされていた。


「な…なんだよ、これ…」


背中に嫌な汗をかく。
私はその本…というかアルバムを、
元あった場所に乱暴に押し付けた。

なぜ、憧がこんなアルバムを持っているのか。
私は頭がよくないから、そんなの
一つの可能性しか思いつかない。
それは…

憧が、私を盗撮していたという可能性。


今度は、全身に嫌な汗が噴き出した。


『逃げなきゃ』


本能的にそう思った。ここにいちゃいけない。
だって憧は、私の事を…『そういう』目で見てる。

床に置かれたカバンを乱暴に拾い上げ、
私は慌ただしく憧の家を後にする。


「あれ?穏乃ちゃん帰っちゃうの?」

「よ、用事思い出しちゃったので!
 すいません!」


突然かけられた声に私は思いっきりキョドりながらも、
一目散に駆け出した。



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「ただいまー、シズ来てるー?」

「来てたけど…なんか用事があるって帰っちゃったよ」

「むむ、シズの奴…さては逃げたか」


学校の委員会で遅くなった私は、
お姉ちゃんの話を聞いて顔をしかめた。
まったくシズったら、
自分から勉強教えてって泣きついてきたくせに。

ため息をつきながら自分の部屋に戻り、
カバンを置いてベッドにダイブする。


「……っ」


そして私は異変に気づいた。
本の配置が、いつもと少しずれている。

しかも、ずれているのは…


「…もしかして!!」


私はベッドから飛び起きると、
『その』アルバムを取り出した。
そして、私は背筋が凍る。


「…見ら…れてる……!」


アルバムが埋まったから、
とりあえず最後のページに挟んでおいた写真。
それが、ページを移動している。

つまりそれは、このアルバムが
何者かに開かれた事を意味していた。

家族には勝手に私の部屋に入らないように
日ごろから言ってるから、
考えられる可能性は一つしかない。


「見られた…シズに、見られた……」


私はその場にへたり込む。

どうすればいい?
どんな言い訳をすればいい?

私の頭の中は、そればかりが
グルグルとまわっていた。



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戻ってきた私は、何をする気にもなれないで
ベッドに寝転がっていた。

目を閉じれば、あのアルバムの光景が
視界一面に広がってくる。
思わず私は目を閉じて、
頭をブンブンと振り回した。


「あれって…そういうことだよね」


あそこまでされれば、
その手の話には疎い私でもさすがにわかる。

私は憧の事を親友だと思っていた。
でも憧は私の事を、そういう目では見てなかった。
私の事を、恋愛対象として見てたんだ。

それだけでも、どうすればいいのかわからないのに…
あれは、あまりにもショックが大きすぎた。


プルルルーッ、プルルルーッ、


「うわぁっ!?」


突然鳴り響いた携帯電話。
私は震える手でそれを手に取った。
画面に映し出された相手の名前は…


新子憧。


「…ごめん。今は話すの無理だよ…」


私は一人つぶやきながら、
プツッと電源ボタンを押した。



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シズは電話に出てくれなかった。

これで確定だ。シズはあのアルバムを見て、
ドン引きして私から逃げた。


涙で自然と視界がぼやける。
せめてメールだけでもとボタンを叩く。
でも、なんて送ればいいんだろう。


『気持ち悪くてごめんなさい?』

『もうしないから許してください?』


シズは優しいから許してくれるかもしれない。
友達のままでいてくれるかもしれない。
でも、いくら取り繕っても…


心の距離は、もう戻らない。


「……っ」


どうして、こんな事になってしまったんだろう。
気持ちを伝えるつもりなんてなかった。
ただ、私はシズの側に居られればそれでよかった。

ただ、それだけだったのに。


「どうして……どうしてっ……!」


私は携帯電話を握り締めた腕を胸に抱いて、
嗚咽を繰り返す事しかできなかった。



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次の日、憧は学校を休んだ。

私は少しだけほっとした。
我ながらひどいとは思ったけど。

まだ、心の整理はついてなかった。
憧とどう向き合えばいいのかわからない。


頭のいい憧の事だ。きっと、
私があのアルバムを見たことに
気づいたんだろう。

じゃなかったら、昨日勝手に帰った上に
電話にも出なかった私に対して、
メールで文句の一つくらい
入れてくるはずだから。


私は携帯電話の画面を眺める。
憧からの連絡は来ていない。

一晩寝て思い返してみれば、
そこまでドン引きするほどのことでも
ないような気もしてきた。

あれが仮に盗撮だったとしても、
別に見られて困るような写真はなかったと思う。
写真の中の私は全て、
どれも楽しそうに笑っていたから。

憧は、純粋に私のことを好きでいてくれる。
それがひしひしと伝わってくる
アルバムだったと思う。

でも、だからといって同性の親友に
恋愛対象として見られていた事実は変わらず。
私は、まだそれを飲み込めていない。

どうすれば、憧を傷つけないで
元の関係に戻れるんだろう。

どうすれば私は、憧に抱いた複雑な嫌悪感を
拭い去ることができるんだろう。
考えても、答えは出てこない。

もっとも、その答えはすぐに出す必要はなかった。


だって、憧は…


三日経っても、一週間経っても。
学校に登校してくることはなかったのだから。



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怖かった。
シズに、嫌われるのが怖かった。

ううん、違うか。
きっと、もう嫌われているのだろう。

長期間休んだ私に対して、
あのシズが何のアクションも
取ってこない事がその証明だった。

シズに嫌われている以上、
現状を打開するには私から
何かしなければいけない。
それは、わかってはいるんだけれど。


でも、シズに会った時の事を考えるだけで。


シズに気持ち悪いものを見るような目で
見られる事を想像するだけで。

私は、独りでに足が震えて、
前に進む事ができなくなってしまう。


その日も私は、玄関の前にうずくまり。
外に出る事はできなかった。



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憧がいない日が過ぎ去っていくにつれて。

憧に対する嫌悪感を、自分に対する嫌悪感が
上回るようになっていった。

憧は、私にバレないように隠していた。
憧だって、私に知られたくなかったはずなんだ。

それを偶然とはいえ、
無理やり暴いたのは私の方なんだ。


悪いのは私の方なのに、
なぜか私は一方的に憧を拒絶している。


憧はあれだけ私の事を好きでいてくれたのに。
その想いを隠して、普通の友達として
接してくれていたのに。


私が、それをぶち壊したんだ。


憧は、今日も来ていない。
メールも、電話も来ていない。

それだけショックだったんだろう。
私から何とかしなくちゃいけない。
私が、憧を傷つけたんだから。


明日は、憧の家に行こう。
憧と、正面から向き合おう。


憧の気持ちは…そのままは
受け止められないかもしれないけれど。
少なくとも、今までの関係には戻りたい。


私はそう決意して、久しぶりに
憧にメールを打った。



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『From:シズ
 --------------------------------------------
 このままじゃいけないと思う。
 明日、憧の家に行く。
 二人でちゃんと話し合おう。         』


久しぶりに届いたシズからのメール。

その短いメールを読んだ私は、
声をあげて泣きじゃくった。
それには二つの理由があった。

少なくとも、シズは私達の関係を
修復したいと思っていてくれる。
まだ、元通りになれる可能性がある。

でも、それは同時に…
明日、私の恋が終わる事も意味していた。

もちろん、元の関係に戻れるなら。
友達としてでも、そばにいさせてもらえるなら。
私の恋心なんてどうでもいい。

でも、そう考えるのは結局、
私がシズを好きだからなんじゃないだろうか。
私は、シズへの想いを
捨て去る事はできるのだろうか。

ともかく、今日は思いっきり泣こう。
そして、きっぱりシズを諦めよう。

また、シズと普通に話せるようになるために。



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「ん。いらっしゃい、シズ」

「お邪魔します」


玄関のチャイムを鳴らした私を、
憧は至って普通に出迎えた。


「ちょっと飲み物とか持ってくるから、
 先に私の部屋で休んでて」

「あ、うん…」


まるで何事もなかったかのようにふるまう憧。
その様子に、私は胸が締めつけられた。


だって、何事もないはずがないから。


実際憧が普通なのは態度だけで。
目は真っ赤に腫れていた。
目の下には真っ黒なクマができていた。
それが、私にはたまらなくつらい。


お茶とお菓子を持って部屋に入ってきた憧は、
私が何かを言い出す前に、
単刀直入に話を切り出した。


「いろいろ言いたいこと、
 聞きたいことはあると思うけど…」

「まずは先に、私に話させてくれない?」


私は頷いた。


「まず最初に言っとくわ。
 私は、アンタのことが好き。
 愛してる」

「アンタが見た写真は、
 私がこっそり撮ったもの」

「昔からずっと好きだった。
 でも受け入れられないのはわかってた」

「だから、写真で我慢してた」

「気持ち悪いと思ったでしょ。
 ケーベツしたでしょ」

「アンタがそう思うのは当然。
 一方的に私が悪い。ごめん」

「私は、これからアンタが言うこと、
 全て受け入れるわ」

「だから、思ったことを言って」


そう言って、憧は私の顔をじっと見つめた。
決意を秘めた眼差しだった。
それを見て、私は胸が張り裂けそうなほどに痛む。
だって、憧のその強い視線とは反対に…


憧の手が、震えていることに気づいたから。


今よどみなく話した台詞は、
きっと昨日からずっと考えていたんだろう。

自分が振られるための言葉を、
泣きながら、徹夜して考えたんだろう。

自分の想いを振り切って、
元の関係に戻るためだけに。


自分が情けなくなった。
憧は、ただ私を愛してくれただけなのに。
なんで、憧がこんなに
傷つかないといけないんだろう。


私たちの関係を、
ぐしゃぐしゃに壊したのは私の方なのに。


胸が、耐えられないくらい痛くなって。
目頭が、じわっと熱くなって。


私は、思いつくまましゃべりだした。


「正直、怖いって思った」

「身に覚えのない写真がいっぱいあって、
 それでアルバムが埋め尽くされてて」

「本能的に、気持ち悪いって思った」

「憧にそういう目で見られてるって知って、
 鳥肌が立った」

「…ま、そりゃそうよね…ごめん。
 自分でもキモいと思うわ」


憧は、あはは…と乾いた声で笑う。
目は、ひどく悲しそうだった。

違う、私は憧にこんな目をさせたいんじゃない。


「で、でも!!」

「憧が、本当に私のことを
 好きでいてくれるって言うのは伝わった!」

「後から考えたら、悪いのは私の方だと思った!」

「だから、私は憧に謝ってほしくない!!」


憧の目が驚きに見開かれる。
でも、それは私の本心だった。
悪いのは憧じゃない。私だ!


「私は、今まで女同士の恋愛とか
 考えたことなかった」

「だから、最初はつい
 気持ち悪いって思っちゃったけど」

「でも、人を好きだっていう気持ちが、
 憧の気持ちが、悪いことだなんて思えない!」

「だから、憧は悪くない!」


憧の目からみるみるうちに涙があふれ出して。
憧は顔を両手で覆う。
嗚咽しながら肩を震わせる。


「あ、り…がとっ……」


震える声でそう返した憧。
でも。


「でもねっ…シズっ…気を、
 遣わなくて、いいの……
 はっきり、言って…くれていいわ…」
 
「私は…恋愛のっ…対象、外だって……」

「…もう、覚悟は…できてるから……」


涙に濡れた顔を上げると、
憧はしゃくりあげながら笑みを浮かべた。

その笑顔が、あまりにも悲しすぎて。
私は、私の方が耐えられなくなって。


つい、最悪の間違いを犯してしまった。


「ま…まだわかんない!」

「…え?」

「だ、だって私…恋愛なんてしたことないし。
 憧のことが、好きかどうかもわかんない!」

「ただ、ここで今、憧のこと振るのは
 なんかいやだ!!」


それは、確かに本心だった。
でも、最悪の返事だった。


だって、その返事を聞いた憧は。
わずかな希望に、目を輝かせてしまったから。



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シズが出した答えは、私の予想の外だった。


『ただ、ここで今、憧のこと振るのは
 なんかいやだ!!』


なんと、私は振られなかった。

それどころかシズは、まだ私にも
チャンスが残っているような言い方をした。


ううん、本当はわかってる。


シズは優しいから、私の事を
振り切れなかっただけだって。
本当は、脈なんか無いんだってわかってる。

これだけの事をしておいて、
元の関係に戻れるだけでも奇跡。
余計な欲なんて出すべきじゃない。


でも、それでも。


醜くてあさましい私は、
そのシズが見せた優しい隙に
食いついてしまった。


「じゃ、じゃぁ、私…諦めなくていいの?」

「これからも、シズのこと好きでいていいの?」

「う…うん」


戸惑いながらもシズは頷く。
言質は取った。取れてしまった。


「言ったわね?」

「あ、ああ。言ったよ!!」

「全部ばれちゃったんだから、
 私、今後はもう隠さないわよ?」

「す、好きにすればいいじゃん」

「ふーん、そういうこと言っちゃうんだ。
 じゃ、さっそく好きにするわ」


そう言って、私はシズに抱きついた。


「わ、わわ!いきなり過ぎだろ!!
 ちょ、離せって…」


驚きの声を上げたシズは、
とっさに抵抗しようとして、
すぐにそれをやめてしまう。

きっとそれは…私が、
泣いていることに気づいたから。


「…ごめん。少しだけ…このままでいさせて」

「……わかった」


こんな風に、シズを抱き締められるなんて
思わなかった。
想いを知られた上で、拒絶されずに
受け入れてもらえる日が来るなんて思わなかった。

私はシズを抱き締めながら涙を流す。
シズは、そんな私を
優しく抱き締め返してくれる。


私にとって、この日は一生忘れられない
大切な一日になった。


この日は、シズが私の想いを受け止めてくれた日。


そして、私達が…狂い始めた日。



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次の日から、憧は私に付き纏うようになった。


そんな風に感じるのは、単に私の心境が
変化しただけなのかもしれないけど。


憧は、私の一挙手一投足に
いちいち大げさに反応した。

例えばそれは、放課後に
帰り道を歩いていた時のこと。


「あ、あのさ、シズ…ちょっとだけ、
 手を繋いでもいいかな…?」

「…え?」

「あ、いいの、ごめん!
 ちょっとした思いつきだから」

「……ごめん」


私がちょっと冷たい態度を取っただけで
打ちひしがれたように悲しい顔になって。


「…ん!」

「え?」

「手くらい、勝手に繋げばいいじゃん。
 別に許可なんか取らなくてもさ」

「…ありがと」


私がちょっと優しくするだけで、
ものすごく幸せそうな顔をする。

でもそれは、多分憧が変わったわけじゃなくて、
きっと前からそうだったんだと思う。
今までは憧が隠していただけで。


その事実が、また私に罪悪感を抱かせる。


私は今まで知らないうちに、
憧をどれだけ傷つけてきたんだろう。

憧の気持ちも知らないで、
無神経な発言をして。

そのたびに、憧は心の中で
泣いていたのかもしれない。


そう思うと、私は憧を無下にはできず。
つい、憧に甘くなってしまうのだった。



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私は気づいてしまった。

シズが、私を傷つけた罪悪感から
優しくしてくれている事を。

私は気づいてしまった。

私が悲しめば、シズは大抵の事なら
折れてくれるという事を。

わかっている。
それは、シズの優しさにつけこむ行為だって。
そんな事をしたって、誰も幸せになれないって。


それでも、私はその優しさに溺れてしまう。


帰り道、私はシズと手を繋いだ。
それは、お互いの指を大雑把に握る繋ぎ方。

私は、指を絡ませた。
シズは驚いたように手を振りほどく。

そこで、私は涙ぐむ。

すると、シズはまるで自分が傷つけられたように
痛みに顔を歪めながら、
やがて私に手を差し出して。
自分から、指を絡めてくれる。

それは、私にこの上ない喜びを与えてくれた。


私は気づいてしまった。

勇気を出して踏み出せば。
一度、傷つく事さえ厭わなければ。

その後、シズは受け入れてくれるって。


気づいてしまった。



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慣れっていうのは恐ろしい。

気づけば私は、憧といつも一緒に居ることにも、
恋人繋ぎで手を繋ぐことにも、
それほど抵抗を感じなくなっていた。

少しずつ、自分が変えられているって思う。
憧の方に引きずりこまれているって思う。


今でも、恋愛的な意味では、憧のことが
好きだという気持ちはわいてこない。

でも…例えば、今の憧にキスをせがまれたとしたら。
私は、散々悩みながらも…
最後には、受け入れてしまうような気がする。


ずぶずぶと、底なし沼にはまっていくような感覚。
こんな関係、やめなくちゃって思うのに。

でも私は、もう憧が傷つく顔を見たくなくて。
抵抗もできず沈んでいった。



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シズの目が少しずつ濁っていく。
あんなにきらきらしていたシズの目から、
徐々に光が消えていく。

それにつれて、だんだん言動もおかしくなってきてる。
ある事件が私にその事を気づかせてくれた。


それは、私達がいつも通り手を繋いで
下校しようとした時の事。

通り過ぎた見知らぬ生徒が
私たちの手を見て、にやにやと
生暖かい笑みを浮かべた。

そこには、別に嫌悪の色は含まれてなかったと思う。
どちらかと言えば、肯定とも
受け取れる感じだったと思う。


でもシズは、その生徒の事を
ものすごい目で睨んだ。


びくりと体を震わせて
足早に去って行った生徒を尻目に、
シズは優しく私に語り掛ける。


「あんなの気にする必要ないよ」


そう言って、ぎゅっと手を握りしめながら
シズは薄い笑みを浮かべた。


ごめん、ごめんね。


私は、心の中で何度も謝った。
気にしているのはシズの方だ。
やっぱりシズは、本当はこんな関係は望んでない。

でも、どこまでも優しいシズは、
私を傷つけないために。
自分はひどく傷つきながらも、
少しずつ壊れながらも、
私の茶番に付き合ってくれている。


こんな関係、もうやめよう。


私はようやく決心がついた。

でも、どうすればいいだろう。
今さら私がやめようと言っても、
きっとシズは聞き入れない。

罪悪感にとらわれたシズは、
自分が我慢すればいいと思ってる。
そして意地っ張りなシズは、
そう簡単にはその考えを曲げないだろう。


だったら、方法は一つしかない。


シズが、罪悪感なんか微塵も感じなくなるくらい。
私の事を遠慮なく攻撃できるくらい、
酷い事をすればいい。

そして、シズに嫌われて。
シズとの関係を終わりにしよう。

そうすれば、シズはまた前みたいに、
きらきらした目を取り戻す事ができるはずだから。



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憧に、奪われた。

初めてを、全部。


















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シズは、抵抗しなかった。

ううん、全く抵抗しなかったわけではないけれど。
でも、私が涙ぐんだのを見ただけで、
あっさり抵抗をやめてしまった。


私の予定では、私がシズに襲い掛かって。
無理矢理キスをしようとして。

我慢の限界を迎えたシズが、
私を乱暴に払いのけて。

私はシズに嫌われて。
それで、私達の関係は
終わりを迎えるはずだったのに。


シズは、私を受け入れてしまった。

キスも、抱擁も、破瓜も、全部。



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憧と肉体関係を持つようになった。

キスなんかはもう普通にするし、
それ以上のことも
週2回くらいのペースでしている。

世間一般の基準で言えば、
私と憧は恋人関係となるのかもしれない。


…もっとも私は、今の憧は大きらいだ。


私をむりやり襲ったくせに。
私の純潔を散らしたくせに。
私の身体に、今まで知らなかった感覚を
むりやり教え込んだくせに。

それでいて、当の自分は完全に冷めていて。
いつも泣きそうな顔をして、
許しを請うような目で私を見る。


私は、そんな憧がきらいだ。


加害者なら加害者らしくしてほしい。
奪う気なら全部奪ってほしい。


もういっそ…完全に私を壊してほしい。



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シズの目は完全に光を失った。
もうきっと、あのきらきらした目は戻らない。

心の距離も戻らない。
体の距離はゼロ距離なのに。

自分のした事をひどく後悔した。
取り返しのつかない事をしてしまった。
後悔の念に押し潰されそうになる。


でも、それでも。


それでも私は、自分からはシズを手放せない。
本当に、なんて私は醜いんだろう。


私は一糸まとわぬ姿のまま、
同じベッドで眠るシズを見る。

私に背中を向けて小さく丸まって眠るシズは、
とても、とても弱って見えた。

私は、シズの背中を指でなぞりながら呟いた。


ああ、シズ。
どうか、目を覚まして私から逃げて。



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私は我慢の限界だった。


『ああ、シズ。
 どうか、目を覚まして私から逃げて』


その言葉を聞いた瞬間、完全に我慢が出来なくなって。
私は憧に襲い掛かった。


「しっ…シズ!?」

「うるさい!うるさいうるさいうるさい!!」


今さら何を言ってるんだと思った。
私のことを、こんな風にしておいて。
もう、後戻りができないくらいに壊しておいて。


「今さら手放そうとするなよ!!」


私は乱暴に憧を押し倒すと、
憧の両足を強引に押し広げた。

もう、憧の事を無茶苦茶にしてやろうと思った。
憧が私の事を壊したように。
もう私から逃げようなんて思わないくらいに。

私は憧の顔を見た。
恐怖に怯えていればいい。
涙を流していればいい。
そんなことを思いながら、憧の顔を覗き見た。


でも、憧は…笑っていた。
予想外のその表情に、私は完全に虚をつかれる。


「ごめん、シズ…」

「私、本当にダメだわ…」

「シズが、こんなに苦しんでるのに」

「私に、怒りをぶつけたいってわかってるのに」

「どんな形でも、シズにもらってもらえるなら
 嬉しいって思えちゃう」

「ごめん…」


憧は私に両手を広げて。
涙を浮かべながら微笑んだ。


「……」

「だったらお望み通りもらってあげるよ!!」


私は、憧の初めてを乱暴に奪った。


憧は何度も悲鳴を上げた。
私の手は血にまみれた。


憧は、ずっと泣いていた。
涙の意味は、わからない。



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こうして、私たちは二人とも壊れた。

でも、これでよかったのかもしれない。

どうせ、二人とも手遅れだったんだから。



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結局、憧との関係は今も続いている。
気づけば私は、憧とのそういった関係に、
もう違和感を感じなくなっていた。


憧が、私を傷つける。
私が、憧を傷つける。


お互いに相手に最悪の傷を刻んだ。
そこまでしてようやく私は、元通り憧と
対等に会話できるようになった気がした。


でもそのせいか、最近は別の理由で
チリチリと胸が痛むことが多い。


「ねえ憧ちゃん、これどうしたらいいかな?」

「ん、あーこれ?これはこうした方が…」

「憧、部長会の資料作成ちょっと手伝ってほし…」

「りょーかい」

「……」


憧と私の関係が対等になった時。

私は、憧が自分よりもいろんな人に囲まれていて、
いろんな人に頼られていることが気になり始めた。


「…あー!じゃあ私は帰ろっかなー!」

「…!待ってよシズ!すぐ終わらせるから!」


気づけば、私達の関係は逆転していた。
今では、私が加害者側。

慌てて用事を片付けた憧は、
頬を膨らませる私に対して、
苦笑しながら詫びを入れる。


「…もう、ごめんってばシズ」

「憧が、私のことをこんな風にしたんだからさ。
 責任取ってよ」

「…誰よりも私を優先してよ。
 じゃないと許さないからな」


私の言葉に、憧は少しだけ身を震わせて。


「もちろんよ」


でも、次の瞬間満面の笑顔になった。


自分でも、私達の関係はいびつだと思う。

心より、先に身体が繋がって。
せっかく心が繋がったと思ったら、
もうお互いに狂ってしまっていて。


こんな風に、歪んだ形でしか愛情を表現できない。


でもそれは、全部憧が悪いんだ。
憧に責任取ってもらおう。



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その昔、幼い私が夢見た恋は。

きらきら目を輝かせたシズと
初々しくも愛を語り合うような、
そんな甘酸っぱい純愛だった。


それに引き換え、実際の私が歩んだ道は。
なんて退廃的な結末だろう。

シズの目は輝くどころか真っ暗に沈み。
純愛どころか心が通ってるかすら怪しい、
身体で繋がったドロドロの関係。


どうして、こうなっちゃったんだろう。
なんて、自分に問いかけた事もあった。

もし、やり直せるなら…
なんて、考えてしまった事もあった。


でも、どんな形であれ、
今私はシズと結ばれて。

誰よりも近く、
シズのそばにいる事ができる。


だったらもう、これでいい。


私と一緒になったシズは、
私を縛るようになっていた。

シズ曰く、自分がおかしくなったのは
私のせいだから、責任を取れという事らしい。

もちろん、私にもその自覚はあるし、
責任も取るつもり。

シズが望むんなら、私は何でもして見せる。


だからシズ。
どうか、ずっとこれからも。


あなたの、そばにいさせてください。




そして、私達は今日も。
互いに光を失った目をして交わりあう。



(完)
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posted by ぷちどろっぷ at 2014年12月26日 | Comment(6) | TrackBack(0) | 咲-Saki-
この記事へのコメント
罪悪感で縛りつけるって良いね……結果的でも意図的でも。
Posted by at 2014年12月26日 16:30
さいごにあこちゃんがしずのとむすばれてよかったです(病目)
Posted by 130@まゆたんイェイ〜 at 2014年12月26日 17:59
罪悪感で縛りつける>
灼「憧は、ただ側に居たかっただけ」
玄「でも、それが穏乃ちゃんを苦しめる」
宥「それをみて、憧ちゃんも苦しむ」
灼「悲恋」
穏乃「憧ってすごく純情だと思うんだ」

むすばれてよかった>
穏乃「最初は身体だけ結ばれて
   終わりだったんだよね」
憧「心は繋がらないまま…みたいなね。
  書いてるこっちの心が折れてやめたけど」
Posted by ぷちどろっぷ(管理人) at 2014年12月27日 14:17
ベクトルの違う好意の方向を、無理やりに合わせるうちにこのような関係なってしまったのかなと
こういう互いが相手を想いつつ、状況に流され、最後はストレートとは違う関係で想いが噛み合うというのが、なんかこうすごくドキドキしました
Posted by オリ at 2014年12月27日 14:26
とても面白かったです!

またこういう感じのお願いします!
Posted by at 2014年12月27日 16:09
ベクトルの違う好意>
憧「実際同性愛ってこのくらいの
  重さがあると思うのよ」
穏乃「だから悲恋なんだけど…
   個人的にはハッピーエンドだと思ってます」
憧「拒絶されて終わりよりは、ね」

またこういう感じの>
憧「が、頑張るわ」
穏乃「正直ものすごい難産だったので
   次がいつになるかはわかりません!」
Posted by ぷちどろっぷ(管理人) at 2014年12月29日 22:52
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