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【咲-Saki-SS:豊白】豊音「シロは、私を拒めないんだよー?」【ヤンデレ】

<あらすじ>
姉帯豊音はダルい子だ。
メンドくさいイベントを持ってきては、
ローテンションな私を振り回す。
それでも私は拒否できず。
最後には結局受け入れてしまう。

それはいったい、なぜなんだろう?


<登場人物>
姉帯豊音,小瀬川白望,その他宮守

<症状>
・ヤンデレ
・拘束(精神的)

<その他>
以下のリクエストに対する作品です。
・豊白。豊音に見つめられると逆らえなくて
 最終的に堕落するシロ。
 ≪あまあまのようなシリアスのような普通≫
 ※どうしてこうなった。

--------------------------------------------------------



世の中はダルい事に満ち溢れている。


まず朝起きるのがダルい。
せっかく一晩かけてぬくぬくにした寝床から
抜け出さなければいけないダルさは、
あえて説明する間でもないだろう。

次に、学校に行くのもダルい。
決して近くもない学校までの道のりを
毎日えっちらおっちら歩くのがダルい。

授業もダルい。教師の方々も酷いものだ。
あんな催眠の呪文を途切れることなく
唱えておきながら、それでいて寝るなとか
もう虐待の領域だと思う。
体育?そんなものは滅んでしまえばいい。
ただの女子高生がお遊びのバレーなんかやって
何の意味があるんだ。

家に帰ってからもダルい。
すんなり休めると思うなよと言わんばかりに
たんまり出された宿題が
私を机に縛り付ける。


私はこいつらの事をダルさ四天王と呼んでいる。
どれか一つでも消えてくれたら
私の人生は随分と楽になるのに。

常日頃そんな事を思っていたら、
これらのうちの一つが四天王から脱退した。
いや、残念ながら消えたわけではない。
格下げされただけだ。

新たなる四天王…それも新参の癖に
王座に上り詰めた存在によって。
見事頂点を勝ち取ったその存在は…



姉帯豊音。
何に対してもワックワクの197cm女子である。



--------------------------------------------------------



今日も放課後部室に寄ると、
トヨネが何かのパンフを持って
うきうき♪うきうき♪モードになっていた。

ああ、さっそくダルい気配が漂っている。
だが聞かないわけにもいかない。


「…何の騒ぎ?」

「ほら、駅近くに工事中の建物あったじゃん。
 あそこにデパートが入るんだってさ」


眉毛をゲジゲジにしながら尋ねた私に、
塞が状況を説明してくれた。


デパート。総合百貨店。


確か足を棒にして歩かなければいけないという
修験道の修行の一つだったはず。
ネット通販でいいじゃないか。


「で、開店セールやるみたいだから
 みんなで行ってみないかって話になったんだよ!」

「オープニングバトル!タノシミ!」


開店セール。


ただでさえダルいデパートが
物欲に正気を失ったお客様でごった返す
ダルさの究極ボーナスステージ。
体に襲い掛かる疲れはプライスレス。


「ねえねえシロ!これすっごい楽しそうだよー!
 みんなで一緒に行こうよー!」


そしてそれを満面の笑みで提案するトヨネ。
受け入れたら戦場の最前線に派遣。
ここは是が非でも拒


「ねぇ、シロー…一緒に行こうよー…
 みんなで行きたいよー」


残念。白望は逃げる前に回り込まれてしまった。
そう、これがトヨネのダルいところの一つ。

思いっきりダルいイベントを引っ張ってくる上に、
それでいて回避困難。
しかも休日という本来安息を得るための日を
荒行にリバースするという鬼畜っぷり。


「ね、シロ…行こー……?」


トヨネの目がじっと私の目を見つめる。
ああ、この目だ…この目が私から抵抗力を奪う。
この、不安に揺らぐ目が。

トヨネが何よりダルいのは…
こうして、悲しませたくないと思わせるところ。


結局、この日も私は敗北した。


「はい、じゃあ行く人は挙手!」


私達の茶番が終わったのを見届けた胡桃が決を採る。

こうして、全員で週末にデパートに
集合する決議が可決された。



--------------------------------------------------------



なぜ私はトヨネのお願いを拒否できないのか。
実は、まだわかってない。

お願いの内容がダルい事は間違いない。
同じお願いを塞や胡桃がしてきたら、
私は容赦なく断るだろう。

まあ、この二人は付き合いが長いから
そもそもあまりダルい要求をしてこないのだが。


私は幼馴染組が揃ったのを見計らって
その質問を切り出した。

今日は進路指導の日。
私は大学進学組だからあっさりと釈放された。
トヨネは就職でエイスリンは帰国だから
ちょっと特殊な例で時間がかかっている。

私の問いかけに対して、胡桃が
首をひねりながらも一応の回答を出す。


「慣れてないからじゃない?
 今まであんまりぐいぐい来る子もいなかったし!」

「ま、確かに今までいなかったタイプではあるよね」

「大半の人はシロのダルっぷりを見たら
 気を遣ってしつこくは誘わないもんね!」

「そう…私はダルい。傍目から見ても
 ダルそうなのが明らかなはず」

「なのになぜトヨネは私を誘うのか…
 私のダルオーラが効いていないのかなぁ…」

「ダルオーラって何」

「効いてはいると思うよ?というか
 効いてなかったらシロは毎日休日出勤でしょ」


さらりと恐ろしい事実を告げる塞。
何その拷問勘弁してほしい。
休みは休むためにあるのだ。
なぜ休みにあえて疲れなくてはいけないのか。

私は思わずため息をついた。


「んー、でもシロがそこまで
 嫌がってるとは思わなかったわ」

「いやって言うか…ダルい」

「それは嫌って事でしょ!」

「まあ、そういう事なら一度
 ちゃんと言った方がいいんじゃない?
 我慢しながら付き合ってストレスためていくのも
 あんまよくないからさ」

「…説得するのがダルい」

「いや、そこは頑張りなよ!」


そこまで話したところでトヨネがやってきた。
今日はここで時間切れ。
相談室はお開きとなった。

私は一人、今日もらった忠告に想いを馳せる。

トヨネを説得…説得かぁ…
正直できる気がしないなぁ…

ただ、塞の言う事ももっともだ。
麻雀部の4人とは、高校を卒業してからも…
生涯をかけて付き合っていく
可能性が高いのだから。

今度何か要求された時には
一度突っぱねてみる事にしよう。



--------------------------------------------------------



「ねえねえシロ!今度二人で遊びに行こうよー」

「断る…先週も遊びに行ったでしょ。連荘はダルい」

「えー?お休みの日に
 どこにも行かないなんて勿体ないよー」

「休みは休むためのもの…
 平日での戦いに疲れ果てた身体達に
 一時の休息を与えないと…」

「わかったよー。じゃぁシロのおうちに行くよー」

「…ん?」

「シロは寝てていいよー?私が勝手に楽しむからー」

「い、いや…それはそれでダルい…」

「えー?シロわがままだよー。
 外に出たくないっていうから譲歩したのにー」

「うーん…譲歩…譲歩かあ……譲歩かなぁ」

「ねぇ、シロぉ…ダメー……?」

「……」

「…いつ来るの?」

「やったぁ!じゃあ、土曜日の7時にお宅訪問するよー!」

「ちょ、ちょっと待った…早すぎる…」


…無理だった。トヨネが強すぎる。



--------------------------------------------------------



トヨネと自宅で遊ぶ事になってしまった。
まあ確かに外出よりは楽でいいんだけど。

ワクワク系女子のトヨネが、
この何もない部屋で一体何をするというのか…
今からダルがらずにはいられない。


「…というわけでここが私の部屋」

「お邪魔しまーす!」

「うわー!シロの匂いが充満してるよー!
 シロ臭がすごいよー!!」

「もう少し言い方なかったかなぁ…」

「えへへー…シロの匂いだーっ…♪
 いっぱいだーっ…♪」


なんて言いながらベッドにダイブして、
枕を抱きしめてすんすんと匂いを嗅ぐトヨネ。
駄目だ、開幕当初からフルスロットル過ぎる。


「変態行為はやめてくれないかなぁ…」

「えぇー?いい匂いだよー?」

「いい悪いじゃなくて…」


なんとか枕を奪い返す。

トヨネは残念そうな顔をしながらも、
次の標的を見つけようと
部屋をきょろきょろと見回した。


「何か面白そうなものはないかなっ!」

「ない。この部屋には安息しかないんだ…」

「いやいや、いくらシロが脱力系女子でも
 何か一つくらいはあるはずだよー!」


そう言いながら四つん這いになって
ベッドの下を覗き見るトヨネ。
何してるんだか…


「いや…仮にあったとしても
 わざわざそんなところに隠さないでしょ。
 何の秘密を暴くつもりなの…」

「基本かなーって思ったんだけどー」


さすがトヨネ。メンドくさい。
このままじゃ、机の引き出しとかまで
開け始めそうだ。

別に見られて困るものはないけど、
いちいち対応するのもダルい。
仕方がない…アレを出すか…


「…はい、卒業アルバム中学校編」

「おぉー!!これだよ!
 まさにこれを探し求めてたんだよっ!」


なんでベッドの下を探したんだ。
まあ、これで大人しくなるなら不問にしよう。


「じゃあ、トヨネはアルバムを楽しんでて…
 私はくたびれた体に休息を与えるから」

「えぇー!?そこは一緒に見ようよー!」

「断る。私は休日は基本14時まで寝ると
 決めているんだ…」


ちなみに今はまだ6時53分。
後たっぷり7時間は寝られるだろう。
というか7時集合じゃなかったっけ…?


「むぅ…わかったよー。おやすみ、シロ!」


トヨネもさすがにやり過ぎだと思ったのだろう。
大して抵抗せず私を解放して、
渡された卒業アルバムをめくり始める。

そんなトヨネを横目に見ながら、
私はベッドに体を横たえる。
そのまま、ゆっくり目を閉じて…


夢の世界に突入した。



--------------------------------------------------------



たっぷり眠って13時半。
私はゆっくりとまぶたを開けた。

ずいぶんぐっすり眠っていた気がする。
いつもより目覚めがいいのは
気のせいだろうか。

体を動かそうとして異変に気付いた。
何かに包み込まれている。
それなりに高身長の私を、
ここまでがっつりホールドできるのは…


言うまでもなくトヨネだった。


なぜか私をすっぽり包み込んで
安らかな寝息を立てている。
アルバムを見終わって暇になったのだろう。
こっちに来たトヨネは
当然私より早起きしたんだろうし。


「…あ、シロ起きたんだー」


それでも私がもぞもぞ動いたからだろうか。
トヨネはすぐに目を覚ました。
トヨネは私を抱きしめたまま会話を始める。


「予定より早かったねー」

「まだこれから。
 至福の二度寝タイムに突入する」

「アハハ。お供するよー」

「…というか、なんでくっついてるの…」

「シロがふわふわであったかそうだったから!」

「…ダル」


気のない返事を返す私。とはいえ、
くっついてると温かくて安心するのは事実。
このまま二人でまどろむのもありだろう。

特に抵抗せずされるがままの私に対して、
トヨネはなおも話しかける。


「…ねえ、シロ。シロって、
 いつもこんなに無防備なのー?」

「んー…?何が……?」

「だってさー。女の子を部屋にあげておいて、
 そのまま一人で眠っちゃうとか…」

「下手したら襲われちゃうよー?」

「…何言ってるんだか…
 女の子だから大丈夫なんじゃないか…
 さすがに男だったら警戒するよ」


もっとも、そもそも男だったら
家に入れないだろうけど。


「シロは危機管理能力が無さすぎだよー」

「iPS細胞って知ってるー?
 今じゃ女の子同士でも子供作れちゃうんだよ?」


「…えっちだって、できちゃうんだからー」


声のトーンが低くなる。
なぜだろう。あったかいはずのトヨネから
寒気を感じるような気がする。


「例えばさー。こんな風にがっちり拘束されてたら、
 もう逃げられないよねー」

「この状態で、すりすりされても
 逃げられないよねー」

「いろんなところ撫でまわされても
 逃げられないよねー」

「それで、こうやって…
 無理やり顔をこっちに向けさせられてー」


私を見つめるトヨネの目は、
まるで炎のように真っ赤に染まっている。


「キスされても…逃げられないよねー」


ぞくり。


今度は明確に悪寒が走った。
反射的に逃げようと体をよじる。

私をとらえるトヨネの体は、
みじんも動く気配がなかった。


「…冗談、だよね?」

「……」

「…トヨネ?」

「…もし冗談じゃないって言ったら、
 受け入れてくれるー?」

「…ちょっと悩む……」

「そっかー」

「んー…でも、やっぱり初めてだし
 無理矢理はイヤなんだよねー」


「ねえシロ…受け入れてくれないかなぁ…?」


ここに来てまさかの無限ループ。
『あの』目が私を捉えて離さない。

私は今までこの無限ループに勝てた事がない。
でも、今回のはさすがに話が別だ。
ここで勝てなければ、私のファーストキスは
トヨネに奪われてしまう。
…場合によっては、それ以上も。


「…トヨネ。さすがにこれは受け入れられない」

「…どうしてもー?」


拒絶の意志を伝える。
でもトヨネは引き下がらない。


「……うん」

「どう、してもー……?」


なおも私は拒み続ける。
トヨネの目に涙が滲み始める。


「……」

「っ…シロぉ…ねえっ…っ…ダメ…っ…?」


トヨネの声が震える。
みるみる目に涙が溜まっていく。
やばい。明らかに劣勢だ。


「……っ……っ」


トヨネは声を出さず泣き始める。
目をまばたいたその瞬間、
溜まった涙が頬を伝い落ちていく。
それを見て…


私はつい、トヨネを抱き締めてしまった。


トヨネは一瞬きょとんとした顔をして…
次の瞬間、満面の笑みを浮かべる。
その目に涙を光らせながら。

ああ。私はここが限界だ。
これ以上トヨネを拒めない。


「うれしいよ、シロー…」

「…せめて、唇だけにして」

「うんっ!今日は唇だけで十分だよー!」


涙をきらきら輝かせながら微笑むトヨネ。

今日は。唇だけ。

不安になるキーワードが飛び出したけど、
聞かなかったことにしよう。

トヨネの顔を寄せてくる。
私は観念して目を閉じる。


……


永遠のような一瞬。
トヨネと私は繋がった。


「えへへー…しちゃったー」

「シロとしちゃった!シロとしちゃったよー!」


まるで子供のように無邪気な笑顔を浮かべて
私にすり寄ってくるトヨネ。
対して私は奇妙な諦観を覚えていた。

なんとなく思う。
多分今のが分水嶺だった。
そう、きっとさっきのが…


トヨネを拒む事ができた最後のチャンス。


なのに私はトヨネを拒めなかった。
受け入れてしまった。

多分、トヨネの要求はこれからも
どんどんエスカレートしていく。
でも、私はもう拒めないだろう。

それがどうしてなのかだけは、
いまだにわからないのだけれど。



--------------------------------------------------------



なぜ私はトヨネを拒めないのだろうか。
すでに何度も自問した問いを、
私は再度繰り返した。
今更その答えがわかっても遅いけど。


前塞や胡桃と話した時は、
今までにいないタイプで慣れてないから、
という結論だった。
でも、本当にそれだけなのだろうか。

そもそもトヨネも、
最初はそれなりに遠慮していた気がする。

麻雀部に入る事すら遠慮していたくらいだった。
最終バスの時間が来て対局を切り上げる時も、
申し訳なさそうに何度も頭を下げていた。

それがいつの間にか
うっきうき女子高生に変わっていて、
気づけば私に纏わりつくようになってきて。


今では、半ば無理矢理操を奪うまでになっている。


トヨネの変わりようにも疑問を感じるけど、
そこは今は置いておこう。

重要なのは、トヨネも最初は今みたいに
積極的ではなかったという事。
なのに私は拒めなかった。

それはいったいなぜなのか。

一人ぶつぶつと考え込んでいたら、
横で寝ていたトヨネが答えを教えてくれた。


「…元々シロは拒めない子なんだよー」

「…どういう事?」

「困っている子がいるとほっとけない。
 泣いている子に手を差し伸べずにはいられない。
 根っからのヒーロー体質なんだよー」

「…ありえない。このダルダル体質の私が」

「うん。それがいいカモフラージュになってるねー。
 でも、ぼっちの目はごまかせないよー?」

「惨めでかわいそうな子ほど、
 シロは何とかしたいと思っちゃう。
 助けたいと思っちゃう。
 だから、シロは私を拒めないんだよー」


「どんな、ひどいお願いをされてもねー」


にこっ…とトヨネが静かに笑みを浮かべる。
ただ笑っているだけなのに、
その笑顔には妙な凄みがあった。


「だって、シロが拒んだら私またぼっちだもん。
 ほっとけないよねー」

「…別に体の繋がりがなくても
 ぼっちじゃないでしょ。
 それに、麻雀部のみんなもいる」

「なんでそんなに、
 直接的な関係にこだわるの…?」


「アハハ」


私の問いに、トヨネは乾いた笑いで答えた。
でも、その目は笑っていない。
あまりにも深い悲しみに囚われている。


「そういうのは心が強い人だから言えるんだよー?
 ぼっちは弱いからぼっちなんだよー…」

「もうすぐ私達卒業だよねー。
 私だけ就職なんだよねー」

「卒業しても絆は残る」
「離れ離れになっても心は繋がっている」
「絶対に忘れない」

「アハハ」


「無理だよー」


「私卒業したら村に戻っちゃうよ?
 村役場勤務だよ?
 皆は大学行くんでしょ?」

「きっと大学は楽しいよ?
 サークルとかコンパとかもあるよ?」

「そんな中、行くだけで何時間もかかるような
 山奥のさびれた村に、わざわざ
 時間を割いて何回来てくれるのかなぁ?」

「みんなは優しいから、GWとかお盆とか正月とか、
 年3回くらいは来てくれるかな?」

「アハハ」


「全然足りないよー?」


「それもいつまで続くかなー?
 いつも一緒にいる友達と、会うのにすごい苦労する友達。
 いつ優先度が逆転するかなー?」

「多分すぐだよ?私の事なんてすぐ忘れられる」


「それで、みんな来なくなるんだよー」


私は言葉を返せなかった。

正直、自信がない。
トヨネにしても出会ってまだ1年なんだ。
その後4年間続く未知の交友関係と比較した時に、
絶対にトヨネを優先すると言えるだろうか。


「一緒にいたいよ。ずっと毎日一緒にいたいよ。
 離れたくないよ。忘れられたくないよ」

「でも、それっていい子にしてたら絶対無理だよねー」

「だから、シロを縛り付けるんだよ」

「まずは体を奪うよ。シロを全部もらっちゃうよ」

「次は自由を奪うよ。シロには私の村に来てもらう」

「最後は心を奪うよ。私だけを見てもらう」

「今は、第一段階が終了だよー」


気づけば私はトヨネに抱き締められていた。
トヨネは私を絡め取りながら、
矢継ぎ早に問いかける。


「ねえシロ、拒めるー?」

「わたし、全部話したよー?」

「おかしいよねー。わたし、狂ってるよねー」

「捨てられる?捨てたらわたしは終わっちゃうけどー」

「ねえ、わたしのこと、捨てられるー?」


トヨネが私の瞳を見つめる。
赤一色に染まった瞳。狂気の色に染まった瞳。
それでも表情だけは無邪気なまま。


ああ、トヨネの言う通りだ。


私はトヨネを捨てられない。
こんな崖っぷちの目をしたトヨネを
見捨てるなんてできない。


「…ダルいけど…我慢する」


私はこぼすように返事した。

それを聞いたトヨネは満足げに頷いて、
私を強く抱き寄せた。



--------------------------------------------------------












--------------------------------------------------------



卒業後、私は就職する事になった。
就職先はトヨネと同じ村役場。

軽い面接をされただけだった。
それもほとんど世間話で終わった。

わざわざこんな限界集落に
若い娘が入ってきてくれるだけで万々歳だ、と
その場で内定をいただいた。


若い娘と言っても、よりによって
トヨネとくっついてるわけだから、
むしろ嫁候補を悪戯に一人
減らしたようなものだと思うんだけど。

そう言ったらトヨネは笑った。


「心配ご無用だよ?
 iPS細胞が何とかしてくれるよー」

「というより男の人も既婚のオジサンばっかりだよー?
 つがいで来てもらわないと相手がいないよー」


との事だった。
まあそれなら確かに
問題はないのかもしれない。


「むしろ、男女だと子供を産めるのは一人だけど
 女女なら両方産めるからねー。
 いっぱい産むことを期待されてると思うよー」

「だから、頑張ってねシロ!」


トヨネは私の服を脱がしながら無邪気に笑った。



--------------------------------------------------------












--------------------------------------------------------



事をすませた私達は、お互いの素肌を重ね合わせたまま
一つの布団にくるまっていた。

安らいだ顔で私の背(せな)を撫でるトヨネに対して、
私は一つの質問を投げかける。


「トヨネは、本当に私でよかったの?」

「え?急にどうしたのー?」

「だって、私がトヨネとこうしてる理由って、
 結局は同情じゃないかって思うんだけど」

「そうだねー」

「トヨネは、そんな関係で満足できるの?」

「今はそれでいいよー?
 私の方はちゃんとシロが好きだから」

「…私なんかのどこがいいの」

「……」


私の問いに、トヨネは少しだけ沈黙を作った。
やがて穏やかな笑みを浮かべて話し始める。


「手を、差し伸べてくれたところ」

「帰らなくちゃいけなかった私に」

「これで終わりだと思っていた私に」

「『いつ転校してくるの?』って聞いてくれたところ」

「それで…好きになっちゃったんだよー」


豊音の語りは思った以上に短いものだった。
そしてその答えは、私に新たな疑問を抱かせる。


「…それだけ?」

「うん。きっかけはそれだけ」

「でもね、ぼっちってそういうものなんだよ」

「普通の人にとっては何気ない一言でも」

「私にとっては救いの言葉だった」

「それだけで、涙が止まらなくなるくらいに」

「その言葉に、縋っちゃうくらいに」

「その一言が、嬉しかったんだよー…」

「…そっか…」

「だからね?今は十分幸せだよー」

「それに、計画もまだ第二段階だしねー」

「心まで縛るのはこれからだよー?」


そう言ってトヨネは私を見つめた。
いつも通りの狂った瞳。
もっとも、私も今更抵抗するつもりはない。

トヨネの事しか考えられなくなるのなら、
その方がいいとすら思う。


「とりあえずは半年くらい
 ずっと二人っきりで過ごそうよ。
 ご飯は用意してもらえるし」

「…村役場はどうするの」

「アハハ。私達は産むのが仕事だよー?」

「だから…ね?」


トヨネがもぞもぞと動き出す。
肌をすりつけられた部位が熱を持つ。


「トヨネ…盛りすぎ」

「それでちょうどいいんだよー。
 私達はそれが仕事なんだから。それに…」

「半年もこうしてれば…
 シロも、きっと『駄目』になれるよー?」


色にまみれた妖しい笑みを浮かべるトヨネ。
与えられる熱に身もだえながら、
私はいつも通りの言葉を返した。


「ダルいけど…我慢する」


(完)
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posted by ぷちどろっぷ at 2015年01月16日 | Comment(9) | TrackBack(0) | 咲-Saki-
この記事へのコメント
何に対してもワックワクの197cm女子
この表現がなんとなくツボにはまったwww
白は誰と絡んでも違和感ないのに豊音は白以外と絡んでるところがイマイチ想像できない件
Posted by さいふぁ at 2015年01月16日 15:27
豊音は女の子なら余裕で抱えて走り回れるぐらいの身体能力であって欲しい派。
見た目に反して非力でトロい豊音も好きだけど。つまり豊音は何でもかわいい。

そしてシロ。あの目と眉毛で読者にかっこいいと思わせるなんて凄いと思う。
Posted by at 2015年01月16日 16:24
豊音は本篇でも明るくて無邪気だけど、どこか底知れない恐ろしさを感じるとこが魅力的なキャラクターだと思ってましたが、このSSでは特にそれを感じられましたね。

相変わらず面白かったです。
Posted by マソ at 2015年01月16日 16:27
やっぱり豊音はかわいいなあ。。限界のところではダルくならずに誰よりも動き回るであろうシロがかっこいいですね。
若い女性2人が寂れた村に行ったらR18展開待ったなしじゃないかと思ったら、若い女性2人でR18展開でした本当にありがとうございます。「駄目」になったシロはいずれ自分から豊音を誘ったりするのだろうかと想像したりすると、それもありだなと思いました。
Posted by オリ at 2015年01月16日 23:03
Posted by ・・・ダルかわ at 2015年01月17日 01:12
・・・ダルかわ
Posted by at 2015年01月17日 01:13
豊音は白以外>
豊音「むしろシロが異常なんだよー。
   誰とでも違和感ないっておかしいよー」
白望「そう言われてもなぁ…」
豊音「あ、ワックワクは確か咲日和
   そのままだよー。あの人物紹介ツボるよー」

豊音は何でもかわいい>
白望「トヨネはかわいい。これは真理」

どこか底知れない恐ろしさ>
白望「怖いのは見た目だけで中身はかわいい」
白望「…そう見せかけておいて
   やっぱりどこか危ういのがトヨネ」
豊音「それ、シロにも言える事だよねー。
   見た目とのギャップっていうか。
   その辺を書きたかったからうれしいよー」

自分から豊音を誘ったりする>
白望「私はダルくなくなるためなら努力する」
豊音「つまり、誘うどころか自分から
   私を襲うよー」

ダルかわ>
白望「…ダル」
豊音「ダルがってるシロかわいいよー。
   このまま大切に飼うよー」
Posted by ぷちどろっぷ(管理人) at 2015年01月17日 10:55
ああ、どうしてこうもこの二人が番になると胸がいっぱいになるんでしょう。(途中送信雑魚しました)
二人どこまでもどこまでも深く愛し合って 堕ちていっていただきたい......。
他のシロ絡みのCPにはない崖っぷちさが本当にたまりません...w
Posted by カミングズ at 2015年01月20日 09:58
シロ絡みのCPにはない崖っぷちさ>
塞「私とだと白望が甘えるだけになっちゃうし」
胡桃「私は白望が堕落するのを許さない!」
エイ「ネテタラ、ケトバス!」
白望「そう考えると、確かに病むのは
   トヨネしかいないのかも」
豊音「私が病んだ時に助けてくれそうなのも
   やっぱりシロなんだよねー」
Posted by ぷちどろっぷ(管理人) at 2015年01月22日 00:49
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