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【咲-Saki-SS:豊白】豊音「け…結婚、しよっか…」【駆け落ち】【共依存】
<あらすじ>
トヨネの手を取り逃げ出した。
それはさながら逃避行。
二人きりで身を寄せ合って。
私達は生きてきた。
時間が私達を自由にしてからも、
私達は離れる事無く。
気づけば10年経っていた。
私はだんだん迷い始める。
このまま二人で生きていくのか、それとも…
トヨネを手放すべきなのか。
その答えはまだでない。
<登場人物>
姉帯豊音,小瀬川白望,臼沢塞,鹿倉胡桃,エイスリン・ウィッシュアート
<症状>
・共依存
・あまあま?
<その他>
以下のリクエストに対する作品です。
・豊白で同棲して十年くらい→
そろそろプロポーズしよう みたいなお話
・現実にも存在する地名が出てきますが
あくまでフィクションなので
現実と違っていてもご容赦願います。
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トヨネと二人になって、10年の年月が過ぎた。
宮守女子を卒業して、関東に引っ越して。
ルームシェアから始まったこの生活。
大都会で二人きり。私達は、
お互い寄り添いあう様に生きてきた。
「あー、シロ、見て見て。
テレビで宮守が映ってるよー」
街中を二人で歩いていると、
突然その歩みを止めたトヨネ。
そのまま私の手を引いて、
頭上のスクリーンを指さした。
大画面のスクリーンに映るのは…
私達の遠い後輩。と言っても、
顔も名前も知らないけれど。
正直トヨネも、テロップに『宮守女子高校』と
表示されていなければ
それが宮守だとわからなかっただろう。
それでもトヨネは、
嬉しそうに表情を緩ませる。
「こうやって繋がってるのって、
何かいいねー」
「…そうかもね」
でもその笑みには陰りがあった。
私達はそれ以上話を膨らませることなく、
何事もなかったように歩き始めた。
……
宮守女子高校。学校自体はまだ存在する。
でも、今存在するそれは、
もはや私達にとっては別物だった。
トヨネと私が過ごした学び舎は、
老朽化によって取り壊されて移設された。
私達が一緒に袖を通した制服は、
校舎を移設するタイミングで刷新された。
私達の宮守女子は、もう私達の
記憶の中にしかない。
トヨネの笑顔にどこか寂しさの色が
混じっていたのは、きっとそういう事だろう。
家に帰ってインターハイの結果を見た。
新生宮守女子高校は善戦むなしく、
一回戦で消えていった。
ある部員は大声で号泣し、
ある部員は気丈にこらえ。
ある部員はひっそりと
カメラから隠れるように涙をぬぐった。
皮肉とはこういう事を言うんだろう。
何もかも違うのに、
そこだけは私達と同じだった。
テレビのリモコンを操り、
まだ戦績を伝え続けるアナウンサーの
息の根を止めるトヨネ。
そしてトヨネは、
努めて笑顔でこう言った。
「来年に期待だねー…じゃあ寝よっか」
でも、その声は悲しみに沈んでいた。
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最近こうやって、周りが変わっていくことを
痛感する事が多くなった。
そしてどこか、自分達がその流れに
取り残されているような気がした。
そう感じてしまうのは、
私自身が『変わる事』を極端に
嫌がる性分だからなのかもしれない。
トヨネと二人きりで都会に引っ越してきたのも、
その性分が原因だった。
卒業後、トヨネは村に帰ることが決まっていて。
村ではすでに、結婚の日取りまでが決まっていて。
トヨネ自身、それを受け入れているようだった。
「あはは…仕方ないよー…人不足だもん」
そう言ってトヨネは力なく笑った。
まるでもう、何もかも諦めたかのように。
意外だったのは、私の方がそれを
受け入れられなかった事だ。
その話を聞いた次の瞬間には、
トヨネを連れて逃げ出す計画を考えていて。
その数日後、実際にトヨネを村から奪い去った。
姉帯豊音が、姉帯じゃなくなるのが嫌だった。
しかもそれを、トヨネ自身が本心では
望んでいないというのならなおさらだ。
かくして私は戸惑うトヨネの手を引いて、
強引に岩手を抜け出す事になる。
行くあてもなく。
それはさながら駆け落ちのように。
生きる糧すらなく路頭に迷うのはダルいけど…
それでも、ダルがってはいられなかった。
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「駆け落ちしよう」
突然呼び出された挙句、
そうシロに言われた時は本当に驚いた。
だってあのダルがりのシロから、まさか
そんな言葉が出てくるとは思わなかったから。
戸惑う私の手を引っ張って、
電車に乗り込もうとするシロ。
私は大量の疑問符に襲われながら、
とりあえず思いついた事を問いかける。
「誰か知り合いとかいるのー?」
「…いない」
「じゃあ、行くあてはあるのー?」
「…ない」
「…それって、生きていけるのー?」
「…わからない」
ないないだらけの逃避行。
明日すら見えない逃避行。
その先には、ただ闇だけが広がっていて。
見えるのは、私の手をひっぱるシロだけだ。
私が乗り気じゃないと感じたのか。
シロはちょっと伏し目がちに、
呟くようにぽつりと言った。
「…無理強いはしない。…嫌なら、
ここで手を振りほどいてくれていい…」
そして、私の手を掴む力が緩まる。
私は慌ててもう片方の手で、
シロの手をぎゅっと掴んだ。
「…ほどかないよー」
「…ほどくわけないよー…」
普通に考えれば断った方がいいと思う。
だって、生きて行けるかわからないんだもの。
まだ、素直に村に戻った方が賢明だとすら思う。
それでも私は、シロに希望の光を見た。
例えそれで、死んでしまう事になるとしても。
ううん、むしろシロと一緒に逝けるなら、
なんて幸せなことだろうって思った。
そのくらい、本当は追いつめられていたんだ。
シロの申し出が、嬉しすぎて
涙が止まらなくなるほどに。
「ずっと、シロについてくよー」
そして私はシロと一緒に電車に乗り込む。
たった一つ、小さなカバンだけ携えて。
まだちょっとだけ肌寒い季節。
東京に降り立った私達を迎えたのは冷たい風。
思わず身震いする私の手を、
シロの綺麗な手がそっと握る。
それが、とってもあったかくて。
シロと二人なら、どこにでも行けると思ったんだ。
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事情を知っている熊倉先生が
知り合いのつてを辿って仕事を斡旋してくれて。
私達は住み込みで働きながら、
時間が解決してくれるのを待った。
何年も、何年も経てば。
約束も何もかも風化して、
忘れてもらえることを期待して。
ちょうど5年が経った頃。
一つの転機が訪れた。
当初挙がっていた縁談が期待通りに破談して。
熊倉先生やみんなの尽力もあって、
私達は自由の身になった。
この時岩手に戻る事もできた。
でも、ここでも変化を恐れた私は、
そのままだらだらと同棲を続けて。
…それからさらに、5年が流れて今に至る。
私達も、もう青春なんて時代は通り越して、
アラサーだ、婚期がヤバい、
なんて冗談交じりの言葉を交わす年齢になった。
ちらほらと高校時代の友人から、
結婚の知らせが届くようになった。
それでも、私達の関係は変わらない。
契りを結んだわけでもなく、
籍を入れたわけでもなく。
ただそこに、あの時のまま。
高校時代の友達として、姉帯と小瀬川が二人いる。
二人いる。
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シロは私の事を大切に扱ってくれた。
まるで壊れ物を扱う様に、
大事に大事にしてくれた。
あのダルがりだったシロが、
額に汗して働いて。
毎日の重労働に、本当は声を出すのも億劫なくらい
芯まで疲れ果てているくせに。
それでも、
「…ダル」
なんて、わざわざ『ちょっとダルい』
感じを演出して見せた。
そんなシロを見るたびに。
私は身が千切れそうなほどの悲しみと、
狂いそうなほどの愛おしさを感じたんだ。
そんな日々を繰り返し、
私はどんどんシロに依存していったけれど。
それでも、最後の一線を越える事はできなかった。
だって、シロのそれはきっと、
恋愛感情からくるものじゃなくて。
困っている友達を助けたいって言う友情からで。
もし立場が同じなら、
シロはさえやくるみ、エイスリンさんでも
きっと同じようにしたと思うから。
…私の方は、シロに死ねって言われたら
すぐに喉首を掻き切るくらい、
シロの事が好きなんだけどねー。
でも、自分から言い出すことが
できない臆病な私は。
言ってしまって、今の関係まで
壊れてしまう事を恐れる私は。
そこに触れることなく、
ただ盲目にシロにあまえ続けて。
気づいたら、10年の年月が流れていたんだ。
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重ねた歳月が長すぎた。
いっそ、駆け落ちしたその時に籍を入れておけば。
その時にトヨネの全てを奪ってしまっていれば。
今、こんな事で悩まなくても済んだのに。
10年間友達。
その事実は、元々腰が重い私にとって、
次の関係に踏み出す際の重荷となるに十分すぎた。
迷いに迷いながらも答えが出せない私は、
昔ながらの親友たちに思いの丈を打ち明けた。
「…というわけなんだけどどう思う?」
「トヨネとの付き合い方を
どうしたらいいか、ねぇ…今更過ぎでしょ」
「シロも随分変わったよね!」
「ホントだわ。私達に黙って
トヨネと駆け落ちした頃とは大違い」
「…その節はごめん」
「別に今更そこを責めるつもりはないよ。
むしろ、あの頃の方がよかったって言ってんの」
「……どういう事?」
「昔のシロだったら、こんな事で
いちいち悩まなかったよね!」
「…自分では、特に変わったつもりは
ないんだけどなぁ…」
「いーや、変わったね」
「……」
「駆け落ち同然で他人の花嫁を奪い去って、
10年間ずっと一緒に暮らしてきた」
「で、これからも別に別れるつもりはない…
それって結婚してるのと何が違うの?
さっさとくっついちゃえばいいじゃん」
「…でも、正直駆け落ちした時、
私に恋愛感情はなかったと思う」
「それ、10年前のシロの話でしょ!」
「……」
「私も胡桃と同意見。10年前に
トヨネを連れ出したのが
友情や同情からきた行動だとしても…」
「10年も一緒に連れ添って、
それが愛情に変わらないって方が
よっぽど難しいだと思うけどね」
「……だとしても、私とくっついたら
子供は産めない」
「…そこは確かにそうだけど…」
「でもそれこそ、二人がどうしたいかじゃないの?」
「まあトヨネ子供好きだからね。
シロがそれで悩む気持ちも
わからなくもないけど…」
「でも、そのためにシロと別れて
別の男とくっつくとかも違うと思うけどなぁ」
その後も二人は、あれこれと
私にエールを送ってくれた。
でも私はそれを聞きながら、
その言葉が決定的な後押しにならないと感じていた。
二人が悪いんじゃない。
結局は私がどうしたいか。
それをしっかり決めないと始まらないのだ。
なのに私は…まだ答えが出せないでいる。
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私はシロが出かけたのを見計らって、
電話をかけることにした。
いい時代だよねー。今や国際電話だろうと、
インターネットを経由すれば
無料で電話できるんだから。
「…というわけで…いい加減シロとの関係を
何とかしないといけないと思うんだー」
『フムフム』
「でも、シロが私に恋愛感情
持ってるかは怪しいしー…
というか、そもそもシロって、
その手の感情があるのかすら
怪しいんだよねー…」
『カンガエルダケ、ムダ!』
「えぇ!?一刀両断!?」
『プロポーズ!!』
「む、無理だよー!?
それができてたら苦労しないよー!」
『シロ、ゼッタイコトワラナイ!!』
「…そうかもしれないけど…
同情で結婚までされちゃったら逆につらいよー…」
『……』
『……』
『……』
「…な…何か言ってよー…」
『トヨネガ、イワナイナラ…
ワタシガ、シロニ、コクハクスル!』
「えぇ!?」
『トヨネ、ナニモシナケレバ、マケルヨ?』
「う、うう、うぅー!」
『タイムリミット、ライシュウノゲツヨウビ!!』
「えぇ!?期限まで区切るのー!?」
『ケントウヲイノル!!』
正直、半分くらいは愚痴を
聞いてもらうだけのつもりだったのに。
エイスリンさんから返ってきたのは、
励ましどころかとんでもないカウンターパンチで。
通話が終わった後も、
私は携帯を握ったままの体勢を崩すことができず
呆然とするしかなかった。
…え?エイスリンさんが、シロを狙ってる?
その事実だけが、私の頭を埋め尽くして。
ぐるぐる、ぐるぐる世界が回転して。
私はそのまま、
その場にどたんと倒れ込んだ。
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好き放題言われた私は、
もやもやした思いを抱えながら帰ってきた。
事実婚状態なのは確か。
今後、トヨネを誰かに譲る気があるかと
言われれば、特に予定はないのも確か。
でもそれは、トヨネが私に懐いているからで。
もしトヨネ自身が、私よりいい人を見つけて
結婚したいと言い出したら…
その限りではないと思う。
「私が…どうしたいかぁ…」
あえて言うなら、これからもずっと。
トヨネと一緒に暮らしていきたい。
でもそれは、トヨネの幸せを考えたら
ありなんだろうか。
夢を見られる年はもう過ぎた。
女二人、いつまでこうして
生きていけるだろうか。
女として子をもうける幸せも与えられず、
ただ二人で幕を閉じるためだけに生きる。
今はよくても、いつかそれは、
トヨネを悲しませることになるのではないか。
迷う。
迷う。
迷う。
布団の中でトヨネを抱き締めながら、
今日も私はぐるぐると考え続ける。
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どうしようどうしようどうしよう。
このままじゃ、エイスリンさんに
シロを取られちゃう。
エイスリンさんはとっても綺麗で、
私みたいな厄介物件じゃなくて、
海外留学しちゃうくらいの才女で。
今だって、通訳として
世界中を飛び回って活躍してる。
そんなエイスリンさんがシロに告白したら、
シロだって喜ぶに違いない。
やだ、そんなのやだ。
シロを取られたくないよー。
枕を抱いて「やだやだやだ」を繰り返す。
そんな私は…
とある事実に気づいて身を震わせた。
(…でも……)
(シロにとって見たら…)
(そっちの方が…いいんじゃないかなー…)
私がエイスリンさんに感じる不安。
それは、私よりエイスリンさんの方が
魅力的だからこそ感じるもので。
でもそれは裏を返せば、
シロにとっては嬉しい事と言えるはず。
ふと考える。私は、エイスリンさんより
シロを幸せにできるんだろうか。
私は自分の事ばっかり考えて。
シロにああしてほしいこうしてほしいって考えて。
シロはその通りにしてくれるけど。
そのせいで、シロはこれまで
散々な目に遭ってきた。
私がいなければ、
シロは普通に大学に行って。
今頃普通にOLでもしてたかもしれない。
または、麻雀のプロにだって
なれたかもしれない。
ひょっとしたら、もう結婚だって
してたかもしれない。
そんなシロの、将来を奪ったのは私。
(シロの事を考えたら…)
(いっそエイスリンさんと結ばれた方が…)
(幸せに…なれるんじゃないかなー…)
一度思いついたその考えは、
私の頭の中を離れてくれなくて。
どうしようもない自己嫌悪と、
でもシロを手放したくない
醜い気持ちで揺れ動く。
どうすればいいんだろう…
シロ、助けてよ…
もんもんと考えながらも、
何か行動を起こすことはできない私。
その間にも、月日はどんどん過ぎていって。
気づけば…エイスリンさんが
シロに告白するのを待つ期限まで、
後一日というところまで迫っていた。
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起きた時、横にトヨネの姿がなかった。
「…トヨネ…?」
寝ぼけ眼をこすりながら
緩慢な動きであたりを見回すけれど、
トヨネの姿はどこにもない。
お手洗いかな?と思ったけど、
トイレの電気もついてなかった。
お風呂にもいない。というか、
玄関を確認したら靴が無くなっている。
どうやらトヨネは、
外に出かけたらしい。
「…ダルッ…」
気が落ち着かなくなった。
こんな事は初めてだ。
もちろん、いくら私達だって、
365日四六時中一緒というわけじゃない。
でも、離れる時はいつも
事前に示し合わせていたわけで。
連絡もないにトヨネがいなくなるなんて
前代未聞の大事件だった。
何か痕跡はないのかと部屋をうろうろしていると、
机の上に一片のメモを見つけた。
なんだ、ちゃんと言伝があるじゃないか。
幾分安心してそのメモを見る。
『 シロへ
ちょっと一人で考えたいことがあるので
今日は一日外に出ます。
ご飯とかは作ってあるから
レンジで温めて食べてください。
トヨネ 』
簡潔な文章。一見違和感のない文章。
でもそれを見た瞬間。今度こそ、
私の心は一気にざわついた。
あまりにもトヨネらしくない。
いつものトヨネなら、
私が一人になる事をひどく嫌う。
トヨネが一人で考えたいことがあるのはいいとして、
私の行動を制限しないのはありえない。
いつものトヨネなら、
『外に出る時は連絡してねー?』
『どこに行くのかなー?何のためにー?』
『何時から出かけて、
どのくらいで戻ってくるのー?』
くらいのことは聞いてくるわけで。
こんな風に、私の行動について何も触れないで、
一人知らないうちに消えるなんてありえない。
「…ダル……ダル………」
とにかくトヨネと連絡を取ろう。
私は携帯を取り出すと、
トヨネの番号を呼び出した。
トヨネの明るい声の代わりに私の耳に届いたのは、
携帯の電源がOFFになっている事を告げる
無機質なアナウンス。
耐えがたい虚無感に襲われながらも、
ならばと別の番号を呼び出した。
プルルルー、プルルルー、
プルルルー、プルルルー、
ガチャッ
『どうしたの?こんな時間に珍しい』
「トヨネを知らない?」
『は?』
「トヨネが消えた」
『消えたって…連絡もなしに?』
「言伝はあった。一日戻ってこないって」
『なんだ…全然消えてないじゃん。
なんでそんなに焦ってるの』
「トヨネらしくない」
「トヨネが私を放置して
どこかに行くなんてありえない」
「……」
「誰かにそそのかされたとしか思えないんだよね…」
「知らない?犯人」
『い、いやいやテンパりすぎでしょ…
というか、シロが知らないのに
私が知るわけないってば』
「…何か企んでない?」
『トヨネ関係で何を企めって言うのよ』
「私からトヨネを奪おうとか…」
『はぁ…既婚者に向かって何言ってんの』
『ま、事情は分かんないけどさ…
トヨネがいなくなったとしたら、
それは間違いなくシロがらみだよ?』
「私…?」
『そ。私らを疑うより、もっと自分の行動を
省みた方がいいんじゃない?』
『そうすれば、トヨネの行先も見えてくるかもよ?』
「……ダル」
結局トヨネの行方は分からずじまい。
私は失意の念を抱きながら通話を打ち切った。
胡桃やエイスリンにも電話したけど
やっぱりトヨネの失踪については
何も知らなくて。
私はいよいよ冷静ではいられなくなって、
身だしなみもそこそこに家を飛び出した。
トヨネが行きそうなところ…
全てをしらみつぶしに探すために。
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あえて、シロと一日離れてみる事にした。
私はシロの事が好きすぎるから、
側にいるとどうしても
シロの事しか考えられなくて。
シロの幸せより自分の幸せを優先して、
シロを独り占めする事ばかり考えちゃうから。
だから、離れてみる事にした。
シロの幸せについてゆっくり考えてみるために。
後は、自分がシロを手放せるのか試すために。
もっとも、結果は散々だったけど。
シロから離れた私は、余計に
シロの事しか考えられなくなった。
今シロは何をしているんだろう。
私に束縛されない事なんて初めてだから、
解放感とともに羽を伸ばしているかもしれないよね。
これ幸いと、誰かに会いに行って、
浮気でも始めているかもしれないなぁ。
怖くて怖くて仕方なかった。
自分から手放したくせに。
そもそも別に付き合ってるわけでもないくせに。
身体の震えが止まらなくて、
自分の腕で自分をぎゅっと押さえつける。
ああ、やっぱり無理なんだ。
私はシロを手放せない。
それでシロが不幸になったとしても。
ごめんなさい。
自分勝手でごめんなさい。
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こうなって気づいたことがある。
私は、思った以上にトヨネに依存していた。
正直逆だと思っていた。
トヨネが私を縛り付けて、
私は別にそれが苦にならないから
されるがままにされているだけだと思っていた。
実際は違った。10年という長い年月は、
私達の関係を少しずつ変えていて。
私は、トヨネに束縛されていないと
安心できない生き物になっていた。
(……)
自然と震え出す体を抑え込みながら、
私は一人電車に乗り込む。
もし塞の言う通り、トヨネが私の事を考えて
一人になったのだとしたら…
一か所だけ、思い当たる場所があった。
電車でたっぷり一時間。
私は東京駅に降り立つと、
まっすぐとある公園を目指す。
和田倉噴水公園。
公園というには整備され過ぎた、
都会の洗練された空気と、
冷たさを感じる公園。
岩手から出てきた時。
何も知らない私達は、
とりあえず都会というだけで、
東京駅までやってきて。
そこでどうしたらいいかわからずに、
途方にくれながらこの公園にやってきた。
春先とはいえまだ外で
一晩過ごすには寒すぎる季節。
寒さに震えながら身を寄せ合った私達は、
煌びやかにライトアップされた噴水に
少しだけ希望の光を見た気がした。
もし、トヨネが私がらみで思い悩んでいるなら…
きっとこの公園に来るはずだった。
「…トヨネ」
思い出の噴水を見渡せるベンチに、
ぽつんと座る見覚えのある黒い影。
やはり、トヨネはここにいた。
「シロ…?」
私の声に顔を上げたトヨネの目には、
うっすらを涙が浮かんでいた。
でも、私の姿を認めた途端、
その目はあっという間に涙を溢れさせて。
「シロぉっ……!!」
かすれた声をあげながら、
トヨネは私に抱き付いた。
「…ダル……」
のしかかる重圧に耐えきれず
倒れ込みながらも。
私はそのまま…トヨネの背中に手を回した。
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「…ほら、私達ってもういい年でしょー?」
「普通の道に戻ろうと思ったら、
そろそろこの辺がラストチャンスだなーって」
「思えば私はシロに迷惑かけっぱなしで、
ずっとシロを苦しめてきたから」
「だから…シロの幸せを考えたら、
そろそろ身を引いた方がいいのかなって思ったんだー」
「…全く同じことを考えてた…」
「いくら科学が進歩したとはいえ、
同性の結婚が認められたとはいえ」
「まだ、現実的に子供を作る事は難しい」
「私と一緒に居たら、トヨネは女としての
大切な幸せを、一つ放棄する事になる」
「それをトヨネに強制するだけの覚悟が、
自分にあるのかずっと迷ってた」
「…で、トヨネはどうだった?」
「無理だったよー」
「元々シロの事しか考えてなかったけど、
離れたらもっとひどくなって」
「怖くて怖くて怖くて怖くて」
「動けなくなっちゃった」
「やっぱり私、シロがしないと駄目みたい」
「…シロは?」
「…私も駄目だった」
「朝起きてトヨネがいないってわかった時、
目の前が真っ暗になった」
「帰ってくるってわかってるのに。
それでも居ても立っても居られなくなって」
「気がついたら、一目散にここに来てた」
「どうやら私には、トヨネを手放すことはできない」
「……」
「……」
「じゃあ」
「…じゃあ…?」
「…け」
「…け?」
「結婚…しよっかー……」
「……うん」
「私もトヨネと…結婚したい」
「あ、あはは……」
「……っ」
「一日っ…早いけどっ……」
「最高の、ぐすっ…誕生日、プレゼント…だよーっ………」
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「そっちも来た?」
『来たけど…これ本当なの?
ドッキリとかじゃなくて?』
『まだ例の相談に乗ってから
2週間も経ってないんだけど…』
「一応本人に確認したけど本当らしいよ?
もう籍も入れたってさ」
『えぇ!?それホント!?あれだけ
うじうじ悩んでたくせに!』
「まぁ元々こっちがドン引きするくらい
べったりだったんだから、
シロが自覚すればすぐでしょ」
『エイちゃんの作戦がばっちり効いたってわけだ』
「あはは…効きすぎで怖かったけどねー。
あんなどすのきいたシロの声初めて聴いたわ」
『電話越しじゃなかったら泣いてたかも!』
「まったくもって。今まで散々
ハラハラさせられたわけだし…」
「晴れ舞台、しっかり見せてもらいましょっか!」
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一か月後。
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教会の鐘が鳴り響き、主役の二人が姿を現す。
満開の拍手で迎えられたその二人は、
ゆっくりとぎこちなく礼をした。
そこに居たのは、ひどくアンバランスな二人。
背の高い方が純白のドレスに身を包みながらも、
漆黒を思わせる黒髪をたたえている。
背の低い方はぱりっとお堅い
黒のタキシードを纏いながらも。
その頭には真冬の雪を思わせる
ふわふわした銀髪がなびいており、
どこかぼんやりとした印象を受ける。
バージンロードを通り抜けた二人は、
特に神父も居ない祭壇まで辿り着くと、
ゆっくりと参列者の方に向き直り再度一礼した。
マイクを渡された新郎は、
いかにも気だるそうに口を開いた。
「…ダル」
どっと笑いに包まれる教会。
その声に新婦が慌てて口をはさむ。
「ひ、一言目にそれはないよー!?」
「…失礼。ここまでの準備が
予想以上にダルかったからもう疲れた…」
「…ええと…この度は…私達の結婚式に
お集まりいただきありがとうございます…」
「…私達は結婚します…」
「…以上…」
「以上じゃないよー!?
もっと他に言う事ないの!?」
「…パス」
「え、ええええ!?」
「え、えと、その、あの」
「ほ、本日はお日柄もよく」
「仏滅だけど」
「も、もー!ツッコミ入れてないで
なんとかしてよー!新郎でしょー!?」
厳かな雰囲気の教会で繰り広げられる
夫婦漫才に、参列者はみな笑い出す。
ひとしきり笑いの渦が巻き起こり鎮まった後…
ようやく新郎はマイクを持って、
再度ゆったりと語り始めた。
「…私達二人は敬虔なクリスチャンでもないし、
でもウェディングドレスを着てみたいってだけで
教会を選ぶくらいのミーハー」
「だから、結婚式だと言っても…
特に神様仏様に私達の愛を誓うつもりもないし、
そんな強固な意志なんて持ってない」
「むしろ、私達は迷ってばかりだった…
私なんか、自分の愛を自覚できたのすら
本当にここ最近の事だったりするし…」
「きっと、これからも迷い続ける。
というか、今でも迷ってる」
「本当にこれでいいのか。
もっとトヨネを幸せにできる道が
他にあったんじゃないのかって」
「今でも、迷ってる」
「……」
「…でも、これだけは言える」
「私はトヨネがいないと生きていけない」
「トヨネを手放す事はできない」
「だから…迷ったけど…
トヨネを独り占めすることにした」
「でも…私は心が弱いから。
きっと、また同じように迷う日が来ると思う」
「もし私が道を見失って、迷ってる時。
どうか、今までと同じように支えてほしい」
「トヨネを、できるだけ幸せにするために」
そこでスピーチを締めくくり、
新郎はゆっくり頭を下げた。
その言葉はあまりにも頼りなく。
節々に逡巡が色濃く表れていて。
それでも、花嫁への愛にあふれていた。
参列した全員拍手をもって新郎を受け入れた。
これからも、二人を支えていこうという思いと共に。
新郎は花嫁に向き直る。
もは早嫁の顔は涙でぐしゃぐしゃに決壊していた。
新郎はそんな花嫁のヴェールに
手をかけながらこう言った。
「…ダルいから泣かないで。
…私まで、泣きそうになる…」
そしてそのまま…その唇に口づけた。
(完)
トヨネの手を取り逃げ出した。
それはさながら逃避行。
二人きりで身を寄せ合って。
私達は生きてきた。
時間が私達を自由にしてからも、
私達は離れる事無く。
気づけば10年経っていた。
私はだんだん迷い始める。
このまま二人で生きていくのか、それとも…
トヨネを手放すべきなのか。
その答えはまだでない。
<登場人物>
姉帯豊音,小瀬川白望,臼沢塞,鹿倉胡桃,エイスリン・ウィッシュアート
<症状>
・共依存
・あまあま?
<その他>
以下のリクエストに対する作品です。
・豊白で同棲して十年くらい→
そろそろプロポーズしよう みたいなお話
・現実にも存在する地名が出てきますが
あくまでフィクションなので
現実と違っていてもご容赦願います。
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トヨネと二人になって、10年の年月が過ぎた。
宮守女子を卒業して、関東に引っ越して。
ルームシェアから始まったこの生活。
大都会で二人きり。私達は、
お互い寄り添いあう様に生きてきた。
「あー、シロ、見て見て。
テレビで宮守が映ってるよー」
街中を二人で歩いていると、
突然その歩みを止めたトヨネ。
そのまま私の手を引いて、
頭上のスクリーンを指さした。
大画面のスクリーンに映るのは…
私達の遠い後輩。と言っても、
顔も名前も知らないけれど。
正直トヨネも、テロップに『宮守女子高校』と
表示されていなければ
それが宮守だとわからなかっただろう。
それでもトヨネは、
嬉しそうに表情を緩ませる。
「こうやって繋がってるのって、
何かいいねー」
「…そうかもね」
でもその笑みには陰りがあった。
私達はそれ以上話を膨らませることなく、
何事もなかったように歩き始めた。
……
宮守女子高校。学校自体はまだ存在する。
でも、今存在するそれは、
もはや私達にとっては別物だった。
トヨネと私が過ごした学び舎は、
老朽化によって取り壊されて移設された。
私達が一緒に袖を通した制服は、
校舎を移設するタイミングで刷新された。
私達の宮守女子は、もう私達の
記憶の中にしかない。
トヨネの笑顔にどこか寂しさの色が
混じっていたのは、きっとそういう事だろう。
家に帰ってインターハイの結果を見た。
新生宮守女子高校は善戦むなしく、
一回戦で消えていった。
ある部員は大声で号泣し、
ある部員は気丈にこらえ。
ある部員はひっそりと
カメラから隠れるように涙をぬぐった。
皮肉とはこういう事を言うんだろう。
何もかも違うのに、
そこだけは私達と同じだった。
テレビのリモコンを操り、
まだ戦績を伝え続けるアナウンサーの
息の根を止めるトヨネ。
そしてトヨネは、
努めて笑顔でこう言った。
「来年に期待だねー…じゃあ寝よっか」
でも、その声は悲しみに沈んでいた。
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最近こうやって、周りが変わっていくことを
痛感する事が多くなった。
そしてどこか、自分達がその流れに
取り残されているような気がした。
そう感じてしまうのは、
私自身が『変わる事』を極端に
嫌がる性分だからなのかもしれない。
トヨネと二人きりで都会に引っ越してきたのも、
その性分が原因だった。
卒業後、トヨネは村に帰ることが決まっていて。
村ではすでに、結婚の日取りまでが決まっていて。
トヨネ自身、それを受け入れているようだった。
「あはは…仕方ないよー…人不足だもん」
そう言ってトヨネは力なく笑った。
まるでもう、何もかも諦めたかのように。
意外だったのは、私の方がそれを
受け入れられなかった事だ。
その話を聞いた次の瞬間には、
トヨネを連れて逃げ出す計画を考えていて。
その数日後、実際にトヨネを村から奪い去った。
姉帯豊音が、姉帯じゃなくなるのが嫌だった。
しかもそれを、トヨネ自身が本心では
望んでいないというのならなおさらだ。
かくして私は戸惑うトヨネの手を引いて、
強引に岩手を抜け出す事になる。
行くあてもなく。
それはさながら駆け落ちのように。
生きる糧すらなく路頭に迷うのはダルいけど…
それでも、ダルがってはいられなかった。
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「駆け落ちしよう」
突然呼び出された挙句、
そうシロに言われた時は本当に驚いた。
だってあのダルがりのシロから、まさか
そんな言葉が出てくるとは思わなかったから。
戸惑う私の手を引っ張って、
電車に乗り込もうとするシロ。
私は大量の疑問符に襲われながら、
とりあえず思いついた事を問いかける。
「誰か知り合いとかいるのー?」
「…いない」
「じゃあ、行くあてはあるのー?」
「…ない」
「…それって、生きていけるのー?」
「…わからない」
ないないだらけの逃避行。
明日すら見えない逃避行。
その先には、ただ闇だけが広がっていて。
見えるのは、私の手をひっぱるシロだけだ。
私が乗り気じゃないと感じたのか。
シロはちょっと伏し目がちに、
呟くようにぽつりと言った。
「…無理強いはしない。…嫌なら、
ここで手を振りほどいてくれていい…」
そして、私の手を掴む力が緩まる。
私は慌ててもう片方の手で、
シロの手をぎゅっと掴んだ。
「…ほどかないよー」
「…ほどくわけないよー…」
普通に考えれば断った方がいいと思う。
だって、生きて行けるかわからないんだもの。
まだ、素直に村に戻った方が賢明だとすら思う。
それでも私は、シロに希望の光を見た。
例えそれで、死んでしまう事になるとしても。
ううん、むしろシロと一緒に逝けるなら、
なんて幸せなことだろうって思った。
そのくらい、本当は追いつめられていたんだ。
シロの申し出が、嬉しすぎて
涙が止まらなくなるほどに。
「ずっと、シロについてくよー」
そして私はシロと一緒に電車に乗り込む。
たった一つ、小さなカバンだけ携えて。
まだちょっとだけ肌寒い季節。
東京に降り立った私達を迎えたのは冷たい風。
思わず身震いする私の手を、
シロの綺麗な手がそっと握る。
それが、とってもあったかくて。
シロと二人なら、どこにでも行けると思ったんだ。
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事情を知っている熊倉先生が
知り合いのつてを辿って仕事を斡旋してくれて。
私達は住み込みで働きながら、
時間が解決してくれるのを待った。
何年も、何年も経てば。
約束も何もかも風化して、
忘れてもらえることを期待して。
ちょうど5年が経った頃。
一つの転機が訪れた。
当初挙がっていた縁談が期待通りに破談して。
熊倉先生やみんなの尽力もあって、
私達は自由の身になった。
この時岩手に戻る事もできた。
でも、ここでも変化を恐れた私は、
そのままだらだらと同棲を続けて。
…それからさらに、5年が流れて今に至る。
私達も、もう青春なんて時代は通り越して、
アラサーだ、婚期がヤバい、
なんて冗談交じりの言葉を交わす年齢になった。
ちらほらと高校時代の友人から、
結婚の知らせが届くようになった。
それでも、私達の関係は変わらない。
契りを結んだわけでもなく、
籍を入れたわけでもなく。
ただそこに、あの時のまま。
高校時代の友達として、姉帯と小瀬川が二人いる。
二人いる。
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シロは私の事を大切に扱ってくれた。
まるで壊れ物を扱う様に、
大事に大事にしてくれた。
あのダルがりだったシロが、
額に汗して働いて。
毎日の重労働に、本当は声を出すのも億劫なくらい
芯まで疲れ果てているくせに。
それでも、
「…ダル」
なんて、わざわざ『ちょっとダルい』
感じを演出して見せた。
そんなシロを見るたびに。
私は身が千切れそうなほどの悲しみと、
狂いそうなほどの愛おしさを感じたんだ。
そんな日々を繰り返し、
私はどんどんシロに依存していったけれど。
それでも、最後の一線を越える事はできなかった。
だって、シロのそれはきっと、
恋愛感情からくるものじゃなくて。
困っている友達を助けたいって言う友情からで。
もし立場が同じなら、
シロはさえやくるみ、エイスリンさんでも
きっと同じようにしたと思うから。
…私の方は、シロに死ねって言われたら
すぐに喉首を掻き切るくらい、
シロの事が好きなんだけどねー。
でも、自分から言い出すことが
できない臆病な私は。
言ってしまって、今の関係まで
壊れてしまう事を恐れる私は。
そこに触れることなく、
ただ盲目にシロにあまえ続けて。
気づいたら、10年の年月が流れていたんだ。
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重ねた歳月が長すぎた。
いっそ、駆け落ちしたその時に籍を入れておけば。
その時にトヨネの全てを奪ってしまっていれば。
今、こんな事で悩まなくても済んだのに。
10年間友達。
その事実は、元々腰が重い私にとって、
次の関係に踏み出す際の重荷となるに十分すぎた。
迷いに迷いながらも答えが出せない私は、
昔ながらの親友たちに思いの丈を打ち明けた。
「…というわけなんだけどどう思う?」
「トヨネとの付き合い方を
どうしたらいいか、ねぇ…今更過ぎでしょ」
「シロも随分変わったよね!」
「ホントだわ。私達に黙って
トヨネと駆け落ちした頃とは大違い」
「…その節はごめん」
「別に今更そこを責めるつもりはないよ。
むしろ、あの頃の方がよかったって言ってんの」
「……どういう事?」
「昔のシロだったら、こんな事で
いちいち悩まなかったよね!」
「…自分では、特に変わったつもりは
ないんだけどなぁ…」
「いーや、変わったね」
「……」
「駆け落ち同然で他人の花嫁を奪い去って、
10年間ずっと一緒に暮らしてきた」
「で、これからも別に別れるつもりはない…
それって結婚してるのと何が違うの?
さっさとくっついちゃえばいいじゃん」
「…でも、正直駆け落ちした時、
私に恋愛感情はなかったと思う」
「それ、10年前のシロの話でしょ!」
「……」
「私も胡桃と同意見。10年前に
トヨネを連れ出したのが
友情や同情からきた行動だとしても…」
「10年も一緒に連れ添って、
それが愛情に変わらないって方が
よっぽど難しいだと思うけどね」
「……だとしても、私とくっついたら
子供は産めない」
「…そこは確かにそうだけど…」
「でもそれこそ、二人がどうしたいかじゃないの?」
「まあトヨネ子供好きだからね。
シロがそれで悩む気持ちも
わからなくもないけど…」
「でも、そのためにシロと別れて
別の男とくっつくとかも違うと思うけどなぁ」
その後も二人は、あれこれと
私にエールを送ってくれた。
でも私はそれを聞きながら、
その言葉が決定的な後押しにならないと感じていた。
二人が悪いんじゃない。
結局は私がどうしたいか。
それをしっかり決めないと始まらないのだ。
なのに私は…まだ答えが出せないでいる。
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私はシロが出かけたのを見計らって、
電話をかけることにした。
いい時代だよねー。今や国際電話だろうと、
インターネットを経由すれば
無料で電話できるんだから。
「…というわけで…いい加減シロとの関係を
何とかしないといけないと思うんだー」
『フムフム』
「でも、シロが私に恋愛感情
持ってるかは怪しいしー…
というか、そもそもシロって、
その手の感情があるのかすら
怪しいんだよねー…」
『カンガエルダケ、ムダ!』
「えぇ!?一刀両断!?」
『プロポーズ!!』
「む、無理だよー!?
それができてたら苦労しないよー!」
『シロ、ゼッタイコトワラナイ!!』
「…そうかもしれないけど…
同情で結婚までされちゃったら逆につらいよー…」
『……』
『……』
『……』
「…な…何か言ってよー…」
『トヨネガ、イワナイナラ…
ワタシガ、シロニ、コクハクスル!』
「えぇ!?」
『トヨネ、ナニモシナケレバ、マケルヨ?』
「う、うう、うぅー!」
『タイムリミット、ライシュウノゲツヨウビ!!』
「えぇ!?期限まで区切るのー!?」
『ケントウヲイノル!!』
正直、半分くらいは愚痴を
聞いてもらうだけのつもりだったのに。
エイスリンさんから返ってきたのは、
励ましどころかとんでもないカウンターパンチで。
通話が終わった後も、
私は携帯を握ったままの体勢を崩すことができず
呆然とするしかなかった。
…え?エイスリンさんが、シロを狙ってる?
その事実だけが、私の頭を埋め尽くして。
ぐるぐる、ぐるぐる世界が回転して。
私はそのまま、
その場にどたんと倒れ込んだ。
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好き放題言われた私は、
もやもやした思いを抱えながら帰ってきた。
事実婚状態なのは確か。
今後、トヨネを誰かに譲る気があるかと
言われれば、特に予定はないのも確か。
でもそれは、トヨネが私に懐いているからで。
もしトヨネ自身が、私よりいい人を見つけて
結婚したいと言い出したら…
その限りではないと思う。
「私が…どうしたいかぁ…」
あえて言うなら、これからもずっと。
トヨネと一緒に暮らしていきたい。
でもそれは、トヨネの幸せを考えたら
ありなんだろうか。
夢を見られる年はもう過ぎた。
女二人、いつまでこうして
生きていけるだろうか。
女として子をもうける幸せも与えられず、
ただ二人で幕を閉じるためだけに生きる。
今はよくても、いつかそれは、
トヨネを悲しませることになるのではないか。
迷う。
迷う。
迷う。
布団の中でトヨネを抱き締めながら、
今日も私はぐるぐると考え続ける。
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どうしようどうしようどうしよう。
このままじゃ、エイスリンさんに
シロを取られちゃう。
エイスリンさんはとっても綺麗で、
私みたいな厄介物件じゃなくて、
海外留学しちゃうくらいの才女で。
今だって、通訳として
世界中を飛び回って活躍してる。
そんなエイスリンさんがシロに告白したら、
シロだって喜ぶに違いない。
やだ、そんなのやだ。
シロを取られたくないよー。
枕を抱いて「やだやだやだ」を繰り返す。
そんな私は…
とある事実に気づいて身を震わせた。
(…でも……)
(シロにとって見たら…)
(そっちの方が…いいんじゃないかなー…)
私がエイスリンさんに感じる不安。
それは、私よりエイスリンさんの方が
魅力的だからこそ感じるもので。
でもそれは裏を返せば、
シロにとっては嬉しい事と言えるはず。
ふと考える。私は、エイスリンさんより
シロを幸せにできるんだろうか。
私は自分の事ばっかり考えて。
シロにああしてほしいこうしてほしいって考えて。
シロはその通りにしてくれるけど。
そのせいで、シロはこれまで
散々な目に遭ってきた。
私がいなければ、
シロは普通に大学に行って。
今頃普通にOLでもしてたかもしれない。
または、麻雀のプロにだって
なれたかもしれない。
ひょっとしたら、もう結婚だって
してたかもしれない。
そんなシロの、将来を奪ったのは私。
(シロの事を考えたら…)
(いっそエイスリンさんと結ばれた方が…)
(幸せに…なれるんじゃないかなー…)
一度思いついたその考えは、
私の頭の中を離れてくれなくて。
どうしようもない自己嫌悪と、
でもシロを手放したくない
醜い気持ちで揺れ動く。
どうすればいいんだろう…
シロ、助けてよ…
もんもんと考えながらも、
何か行動を起こすことはできない私。
その間にも、月日はどんどん過ぎていって。
気づけば…エイスリンさんが
シロに告白するのを待つ期限まで、
後一日というところまで迫っていた。
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起きた時、横にトヨネの姿がなかった。
「…トヨネ…?」
寝ぼけ眼をこすりながら
緩慢な動きであたりを見回すけれど、
トヨネの姿はどこにもない。
お手洗いかな?と思ったけど、
トイレの電気もついてなかった。
お風呂にもいない。というか、
玄関を確認したら靴が無くなっている。
どうやらトヨネは、
外に出かけたらしい。
「…ダルッ…」
気が落ち着かなくなった。
こんな事は初めてだ。
もちろん、いくら私達だって、
365日四六時中一緒というわけじゃない。
でも、離れる時はいつも
事前に示し合わせていたわけで。
連絡もないにトヨネがいなくなるなんて
前代未聞の大事件だった。
何か痕跡はないのかと部屋をうろうろしていると、
机の上に一片のメモを見つけた。
なんだ、ちゃんと言伝があるじゃないか。
幾分安心してそのメモを見る。
『 シロへ
ちょっと一人で考えたいことがあるので
今日は一日外に出ます。
ご飯とかは作ってあるから
レンジで温めて食べてください。
トヨネ 』
簡潔な文章。一見違和感のない文章。
でもそれを見た瞬間。今度こそ、
私の心は一気にざわついた。
あまりにもトヨネらしくない。
いつものトヨネなら、
私が一人になる事をひどく嫌う。
トヨネが一人で考えたいことがあるのはいいとして、
私の行動を制限しないのはありえない。
いつものトヨネなら、
『外に出る時は連絡してねー?』
『どこに行くのかなー?何のためにー?』
『何時から出かけて、
どのくらいで戻ってくるのー?』
くらいのことは聞いてくるわけで。
こんな風に、私の行動について何も触れないで、
一人知らないうちに消えるなんてありえない。
「…ダル……ダル………」
とにかくトヨネと連絡を取ろう。
私は携帯を取り出すと、
トヨネの番号を呼び出した。
トヨネの明るい声の代わりに私の耳に届いたのは、
携帯の電源がOFFになっている事を告げる
無機質なアナウンス。
耐えがたい虚無感に襲われながらも、
ならばと別の番号を呼び出した。
プルルルー、プルルルー、
プルルルー、プルルルー、
ガチャッ
『どうしたの?こんな時間に珍しい』
「トヨネを知らない?」
『は?』
「トヨネが消えた」
『消えたって…連絡もなしに?』
「言伝はあった。一日戻ってこないって」
『なんだ…全然消えてないじゃん。
なんでそんなに焦ってるの』
「トヨネらしくない」
「トヨネが私を放置して
どこかに行くなんてありえない」
「……」
「誰かにそそのかされたとしか思えないんだよね…」
「知らない?犯人」
『い、いやいやテンパりすぎでしょ…
というか、シロが知らないのに
私が知るわけないってば』
「…何か企んでない?」
『トヨネ関係で何を企めって言うのよ』
「私からトヨネを奪おうとか…」
『はぁ…既婚者に向かって何言ってんの』
『ま、事情は分かんないけどさ…
トヨネがいなくなったとしたら、
それは間違いなくシロがらみだよ?』
「私…?」
『そ。私らを疑うより、もっと自分の行動を
省みた方がいいんじゃない?』
『そうすれば、トヨネの行先も見えてくるかもよ?』
「……ダル」
結局トヨネの行方は分からずじまい。
私は失意の念を抱きながら通話を打ち切った。
胡桃やエイスリンにも電話したけど
やっぱりトヨネの失踪については
何も知らなくて。
私はいよいよ冷静ではいられなくなって、
身だしなみもそこそこに家を飛び出した。
トヨネが行きそうなところ…
全てをしらみつぶしに探すために。
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あえて、シロと一日離れてみる事にした。
私はシロの事が好きすぎるから、
側にいるとどうしても
シロの事しか考えられなくて。
シロの幸せより自分の幸せを優先して、
シロを独り占めする事ばかり考えちゃうから。
だから、離れてみる事にした。
シロの幸せについてゆっくり考えてみるために。
後は、自分がシロを手放せるのか試すために。
もっとも、結果は散々だったけど。
シロから離れた私は、余計に
シロの事しか考えられなくなった。
今シロは何をしているんだろう。
私に束縛されない事なんて初めてだから、
解放感とともに羽を伸ばしているかもしれないよね。
これ幸いと、誰かに会いに行って、
浮気でも始めているかもしれないなぁ。
怖くて怖くて仕方なかった。
自分から手放したくせに。
そもそも別に付き合ってるわけでもないくせに。
身体の震えが止まらなくて、
自分の腕で自分をぎゅっと押さえつける。
ああ、やっぱり無理なんだ。
私はシロを手放せない。
それでシロが不幸になったとしても。
ごめんなさい。
自分勝手でごめんなさい。
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こうなって気づいたことがある。
私は、思った以上にトヨネに依存していた。
正直逆だと思っていた。
トヨネが私を縛り付けて、
私は別にそれが苦にならないから
されるがままにされているだけだと思っていた。
実際は違った。10年という長い年月は、
私達の関係を少しずつ変えていて。
私は、トヨネに束縛されていないと
安心できない生き物になっていた。
(……)
自然と震え出す体を抑え込みながら、
私は一人電車に乗り込む。
もし塞の言う通り、トヨネが私の事を考えて
一人になったのだとしたら…
一か所だけ、思い当たる場所があった。
電車でたっぷり一時間。
私は東京駅に降り立つと、
まっすぐとある公園を目指す。
和田倉噴水公園。
公園というには整備され過ぎた、
都会の洗練された空気と、
冷たさを感じる公園。
岩手から出てきた時。
何も知らない私達は、
とりあえず都会というだけで、
東京駅までやってきて。
そこでどうしたらいいかわからずに、
途方にくれながらこの公園にやってきた。
春先とはいえまだ外で
一晩過ごすには寒すぎる季節。
寒さに震えながら身を寄せ合った私達は、
煌びやかにライトアップされた噴水に
少しだけ希望の光を見た気がした。
もし、トヨネが私がらみで思い悩んでいるなら…
きっとこの公園に来るはずだった。
「…トヨネ」
思い出の噴水を見渡せるベンチに、
ぽつんと座る見覚えのある黒い影。
やはり、トヨネはここにいた。
「シロ…?」
私の声に顔を上げたトヨネの目には、
うっすらを涙が浮かんでいた。
でも、私の姿を認めた途端、
その目はあっという間に涙を溢れさせて。
「シロぉっ……!!」
かすれた声をあげながら、
トヨネは私に抱き付いた。
「…ダル……」
のしかかる重圧に耐えきれず
倒れ込みながらも。
私はそのまま…トヨネの背中に手を回した。
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「…ほら、私達ってもういい年でしょー?」
「普通の道に戻ろうと思ったら、
そろそろこの辺がラストチャンスだなーって」
「思えば私はシロに迷惑かけっぱなしで、
ずっとシロを苦しめてきたから」
「だから…シロの幸せを考えたら、
そろそろ身を引いた方がいいのかなって思ったんだー」
「…全く同じことを考えてた…」
「いくら科学が進歩したとはいえ、
同性の結婚が認められたとはいえ」
「まだ、現実的に子供を作る事は難しい」
「私と一緒に居たら、トヨネは女としての
大切な幸せを、一つ放棄する事になる」
「それをトヨネに強制するだけの覚悟が、
自分にあるのかずっと迷ってた」
「…で、トヨネはどうだった?」
「無理だったよー」
「元々シロの事しか考えてなかったけど、
離れたらもっとひどくなって」
「怖くて怖くて怖くて怖くて」
「動けなくなっちゃった」
「やっぱり私、シロがしないと駄目みたい」
「…シロは?」
「…私も駄目だった」
「朝起きてトヨネがいないってわかった時、
目の前が真っ暗になった」
「帰ってくるってわかってるのに。
それでも居ても立っても居られなくなって」
「気がついたら、一目散にここに来てた」
「どうやら私には、トヨネを手放すことはできない」
「……」
「……」
「じゃあ」
「…じゃあ…?」
「…け」
「…け?」
「結婚…しよっかー……」
「……うん」
「私もトヨネと…結婚したい」
「あ、あはは……」
「……っ」
「一日っ…早いけどっ……」
「最高の、ぐすっ…誕生日、プレゼント…だよーっ………」
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「そっちも来た?」
『来たけど…これ本当なの?
ドッキリとかじゃなくて?』
『まだ例の相談に乗ってから
2週間も経ってないんだけど…』
「一応本人に確認したけど本当らしいよ?
もう籍も入れたってさ」
『えぇ!?それホント!?あれだけ
うじうじ悩んでたくせに!』
「まぁ元々こっちがドン引きするくらい
べったりだったんだから、
シロが自覚すればすぐでしょ」
『エイちゃんの作戦がばっちり効いたってわけだ』
「あはは…効きすぎで怖かったけどねー。
あんなどすのきいたシロの声初めて聴いたわ」
『電話越しじゃなかったら泣いてたかも!』
「まったくもって。今まで散々
ハラハラさせられたわけだし…」
「晴れ舞台、しっかり見せてもらいましょっか!」
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一か月後。
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教会の鐘が鳴り響き、主役の二人が姿を現す。
満開の拍手で迎えられたその二人は、
ゆっくりとぎこちなく礼をした。
そこに居たのは、ひどくアンバランスな二人。
背の高い方が純白のドレスに身を包みながらも、
漆黒を思わせる黒髪をたたえている。
背の低い方はぱりっとお堅い
黒のタキシードを纏いながらも。
その頭には真冬の雪を思わせる
ふわふわした銀髪がなびいており、
どこかぼんやりとした印象を受ける。
バージンロードを通り抜けた二人は、
特に神父も居ない祭壇まで辿り着くと、
ゆっくりと参列者の方に向き直り再度一礼した。
マイクを渡された新郎は、
いかにも気だるそうに口を開いた。
「…ダル」
どっと笑いに包まれる教会。
その声に新婦が慌てて口をはさむ。
「ひ、一言目にそれはないよー!?」
「…失礼。ここまでの準備が
予想以上にダルかったからもう疲れた…」
「…ええと…この度は…私達の結婚式に
お集まりいただきありがとうございます…」
「…私達は結婚します…」
「…以上…」
「以上じゃないよー!?
もっと他に言う事ないの!?」
「…パス」
「え、ええええ!?」
「え、えと、その、あの」
「ほ、本日はお日柄もよく」
「仏滅だけど」
「も、もー!ツッコミ入れてないで
なんとかしてよー!新郎でしょー!?」
厳かな雰囲気の教会で繰り広げられる
夫婦漫才に、参列者はみな笑い出す。
ひとしきり笑いの渦が巻き起こり鎮まった後…
ようやく新郎はマイクを持って、
再度ゆったりと語り始めた。
「…私達二人は敬虔なクリスチャンでもないし、
でもウェディングドレスを着てみたいってだけで
教会を選ぶくらいのミーハー」
「だから、結婚式だと言っても…
特に神様仏様に私達の愛を誓うつもりもないし、
そんな強固な意志なんて持ってない」
「むしろ、私達は迷ってばかりだった…
私なんか、自分の愛を自覚できたのすら
本当にここ最近の事だったりするし…」
「きっと、これからも迷い続ける。
というか、今でも迷ってる」
「本当にこれでいいのか。
もっとトヨネを幸せにできる道が
他にあったんじゃないのかって」
「今でも、迷ってる」
「……」
「…でも、これだけは言える」
「私はトヨネがいないと生きていけない」
「トヨネを手放す事はできない」
「だから…迷ったけど…
トヨネを独り占めすることにした」
「でも…私は心が弱いから。
きっと、また同じように迷う日が来ると思う」
「もし私が道を見失って、迷ってる時。
どうか、今までと同じように支えてほしい」
「トヨネを、できるだけ幸せにするために」
そこでスピーチを締めくくり、
新郎はゆっくり頭を下げた。
その言葉はあまりにも頼りなく。
節々に逡巡が色濃く表れていて。
それでも、花嫁への愛にあふれていた。
参列した全員拍手をもって新郎を受け入れた。
これからも、二人を支えていこうという思いと共に。
新郎は花嫁に向き直る。
もは早嫁の顔は涙でぐしゃぐしゃに決壊していた。
新郎はそんな花嫁のヴェールに
手をかけながらこう言った。
「…ダルいから泣かないで。
…私まで、泣きそうになる…」
そしてそのまま…その唇に口づけた。
(完)
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10年たっても同性での子作りは難しいですか……頑張れ原村博士!
とても素敵なお話ありがとうございます!
よかったよかった……(泣)>
豊音「やっぱりハッピーエンドだよね!」
白望「…まぁダルいのは苦手」
依存されていると思ったら依存してた>
白望「まさか私が依存するとは…」
豊音「え、でもシロって結構
その気あると思うよー?」
頑張れ原村博士>
和「できなくはないのですが…まだ倫理の壁と
安全性の壁が厚いですね…」
白望「早くして」
豊音「待ちきれないよー」
とよしろはやっぱいいよな>
豊音「いいよねー!どうしても
綺麗な話になっちゃうけど!」
素敵なお話ありがとうございます>
豊音「こちらこそ読んでくれてありがとうだよー」
白望「ややMって…もうMでいいじゃない」