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【咲-Saki-SS:憧宥】憧「今日も、二人の毒が混ざる」【共依存】【ヤンデレ】
<あらすじ>
宥姉は私を監禁した。
期間は夏休みが終わる二週間。
それまでに宥姉の毒が回りきれば、
宥姉の勝ち。
回りきらなくても…私の負け。
勝ち目のないゲームが始まった。
<登場人物>
新子憧,松実宥,高鴨穏乃
<症状>
・ヤンデレ
・共依存
・狂気
・監禁
・調教
<その他>
・文量の割には小ネタです。
「宥姉がアコチャーを好きになるとしたらどんなケースか」
を考えただけの小ネタ。
→の憧視点続編です。
・それなりに性的な描写があります。
苦手な人はご注意を。
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私にとって、宥姉は猛毒
その毒は宥姉自身を壊しながら
私の奥へ奥へと染み込んでいく
互いの毒が混ざり合って
やがてそれは致死量に達する
果たしてどっちの毒が強いのかしら?
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宥姉と初めて言葉を交わしたのは、
確か阿知賀こども麻雀クラブの前だったと思う。
登下校のバスとかでは一緒だったから、
玄のお姉ちゃんだという事は知っていたけど。
それまでは話した事もなく、
異常に厚着をしているちょっと
変わった人という印象しかなかった。
あの時も厚着をした宥姉は、
クラブの教室の前でひしめくお子様たちに
何もできずただおろおろと戸惑っていて。
なんだかほっとけないな
って感じたのを覚えてる。
とりあえずすぐに交通整理して、
みんなを一列に並ばせて。
廊下をふさいでいたことを謝った。
そしたら宥姉はやっぱりあわあわと
慌てながら。
「あ、ありがとう」
ってお礼の言葉と一緒にお辞儀した。
変だよね。迷惑をかけたのはこちら側で、
宥姉は単なる被害者。
なのに、その相手に頭まで下げてお礼を言う。
しかもこっちは小学生で、向こうは中学生だよ?
でも悪い気はしなかった。
なんだか可愛い人だなって、
確か2つも年上の人に変なことを考えたと思う。
それが、宥姉と私の出会い。
私にとっての、大切な思い出。
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そんなわけで、宥姉と私の起源を辿れば
小学生時代まで遡る事になるわけだけど。
だからといって、すぐに
深い関係になるという事もなかった。
宥姉は結局麻雀クラブには顔を出さなかったから。
「ねえ、玄。玄のお姉さんは、
麻雀クラブ来ないの?」
「うーん。行きたいって聞いた事ないから
特に誘ってはいないなぁ」
「そうなんだ…麻雀好きじゃないとか?」
「おうちでは打つよ?私と同じくらいかな」
「え、何それ普通に強いじゃん!
来ればいいのに!」
「んー…麻雀クラブができた時にはもう
お姉ちゃん中学生だったからねぇ」
「もしかしたら、子どもばっかりで
入りにくいのかも」
「あー…確かに前、クラブの前で
子供相手にわたわたしてたなぁ」
来ればいいのにな、と思った。
打ってみたいな、って思った。
正直な気持ちを吐露してしまえば、
心配する気持ちもあったと思う。
夏でもマフラーをして、
メガネとマスクまでしてるから、
宥姉に近づく子は少なくて。
たまに近づくとしたら、
からかおうとするアホガキばっかり。
そんな宥姉に友達はいるんだろうか。
一緒に卓を囲んで笑いあえるような友達が。
もしいないなら、私が友達になってあげたい。
なんて、傲慢なことを考えていた。
でも、大きく外れてはいなかったと思うんだ。
だって宥姉やたらチョロかったから。
ただちょっと顔を合わせた時に
挨拶するだけで、まるで救われたように
表情が明るくなる。
ちょっと呼び方を変えただけで、
まるで泣きそうなくらいに心を動かす。
そんな宥姉はひどく儚げで。
気になって仕方なかった。
大丈夫かな?私の助けはいらないかなって。
結局、その関係が大きく変わる事はなかったけれど。
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実際に付き合いらしい付き合いができたのは
中学生も終わりが見えた三年の夏ごろだった。
麻雀部を復活させよう!
なんてシズの思い付きから始まったその試みで、
私は晩成行きを蹴り飛ばし。
部員集めに乗り出した時の事。
中学に上がって、シズとすら疎遠になっていた私は、
当然宥姉と出会う機会なんてなく。
顔を合わせるのは本当に数年ぶりになる。
少しだけ緊張しながら玄の家を歩く私は、
こたつの向こうで手を振る宥姉を見て
ある意味ほっと肩を撫で下ろした。
あ、この人何も変わってないわ
緊張が解けると今度は呆れてきて、
私はあーって感じで手をあげる。
私達の存在に気づいた宥姉は
慌ててがばりと起き上がって
身だしなみを整えようとする。
いやいや、今さら取り繕っても
完全にアウトだから。
「まったく…変わってないなぁ宥姉は」
なんて言葉をかけると、
宥姉はさらに真っ赤になりながら。
えへへ…なんて苦し紛れの笑みを浮かべた。
ああ、本当に変わってない。
この人はあの時のまま、かわいいままだ。
って、呆れながらも私は
少しだけ嬉しかったのを覚えている。
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まぁそんなわけだから、私にとって宥姉は
『かわいい人』であり、そして
『守ってあげないといけない人』だった。
だから、まさかその宥姉が、
私を監禁するとか思いもしなかったわけで。
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宥姉の部屋でいつものように勉強会をして、
出された飲み物とお菓子に
何の疑問を抱かず手を付けた。
気が付いたら眠くなって。
宥姉に促されるままに一眠りして。
起きたらベッドに
拘束されていると気づいた時には、
『あ、こりゃ夢だな』
なんて現実逃避してしまったくらいだった。
五体不自由な中、わずかに自由を許された顔を
きょろきょろと動かすと。
視界に宥姉の姿が入った。
私は少しだけ安心して…
すぐにぎょっと目を見張る。
目に映った宥姉は、にっこにっこと
見たことがないくらい満面の笑みを浮かべていた。
この状況で。
「えーと…宥姉?宥姉だよね?」
「そうだよ。おはよう憧ちゃん」
「おはよ…じゃなくて、
この状況の説明を要求したいんだけど」
「えっとね、憧ちゃんには今日から
ここで生活してもらおうと思うんだ」
「はぁ?いやいや全然説明になってないから」
まるで頭のねじが外れてしまったかのような
宥姉の発言に、私は思わず頭を抱える。
いや、頭を抱える手は
ベッドに拘束されたままだけど。
忍耐強く話を続けていくと、
つまりはこういう事だった。
宥姉はずっと前から私の事が好きだった。
けど、シズがいたから勝ち目がないと諦めていた。
でも、私達の行動をよく見ていたら、
私がシズに尽くしてばかりで、
シズは私に何もしてくれてない事に気づいた。
だったら、宥姉の方が私に相応しいと思った。
「…その結果が、この監禁ってわけだ」
「うん。だってこうでもしないと、
憧ちゃんは穏乃ちゃんから離れられないから」
「穏乃ちゃん中毒の憧ちゃんを治すには、
荒療治が必要なんだよ」
言いたい事はわかったけど、正直ちょっと驚いた。
宥姉って、そんなに私の事好きだったんだ。
いや、まったく予想してなかったわけじゃないけどさ。
ヤバい、ちょっと嬉しいかも…
なんて、ここまで犯罪じみたことをされてるのに
ちょっと舞い上がっちゃうくらいには、
私も宥姉の事を大事には思っているらしい。
「…宥姉がそこまで私にお熱だったとは思わなかったわ」
「ふふ…憧ちゃんみたいに鋭い人でも、
気づかない事ってあるんだね」
「昔から好きだったよ?そう…
ずっと、ずっと、ずっと前から」
「私は、憧ちゃんっていう毒に苦しめられてる」
「…そっか」
今度はずきりと胸が痛んだ。
やっぱり予想は当たってたんだ。
宥姉は、あの時麻雀クラブで会った時から、
やっぱりきっと友達はいなくて。
時折声をかけただけの私に、
本当は縋り付きたかったのかもしれない。
なのに私は、宥姉に何もしてあげなかった。
「でも今は、別にそれでいいと思うんだ」
「だって憧ちゃんは私を支えてくれる。
私だって憧ちゃんを支えてあげる」
「それは穏乃ちゃんが与えてくれなかったもの」
「だったら…こっちの方が
憧ちゃんにもいいはずだよね?」
今度の言葉は私を鋭く貫いた。
それは少しだけ脳裏によぎってはいた事。
でも、そんな事はないと必死に蓋をしていた事。
シズは、私が思っている程、
私を必要としていないって
自分で想像していたのと、
他人から指摘される事は全然重さが違う。
私は内心大きく動揺しながらも、
悟ったような体を装ってなんとか口を開いた。
「……うーん」
「シズが私に何をくれるかってのは、
宥姉が決める事じゃないと思うけどなぁ」
目に見えて何かをしてくれなくても、
シズは私と一緒に楽しんでいてくれて、
私に笑いかけてくれる。
私は必要とされている。
…それはずっと、自分に言い聞かせてきた台詞。
ヤバい、感情があふれそうになってきた。
落ち着いて。相手は狂人。
感情論になったら何をされるかわからない。
私はぐっと言葉を飲み込んだ。
努めて冷静を装わないと。
「ま。説得とかしても無意味よね?
それが効くくらいなら、そもそも
こんな事になってないだろうし」
「気がすむまで監禁して頂戴な。
どうせ長続きするとは思えないし」
まあ夏休み中は何とかなるにしても、
二学期が始まればそれでおしまい。
隠し通すとか無理がある。
そもそも口下手な宥姉じゃ、
私が突然音信不通になった理由すら
うまく説明できずに終わるかもしれない。
なのに。
「…うん。頑張るね?」
宥姉は私の態度にひるむ事なく。
まっすぐ私を見すえながら
にっこりとほほ笑んだ。
予想外の反応に、私は思わず気圧されて。
ついその目を背けてしまう。
その時私は気づくべきだった。
宥姉が頼りないのは、どこか決心がつかなくて
いつも迷ってばかりいるからだって。
心を決めた宥姉は、いつだって強かった。
麻雀だってそうだったじゃない。
でも動揺した私は宥姉の本気を見誤って…
心の準備をする好機を逸してしまった。
そんな私は…その後の宥姉の本気の調教を、
無防備な状態で受け止める事になる。
私が、無意識のうちに宥姉にあげたという猛毒。
その毒がどれほどの猛毒だったのか。
私は身をもって味わう事になる。
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先に結論を言ってしまえば、
この監禁調教は夏休み中続くことになった。
それも予想できたことだった。
宥姉はシズと違って、その場の思い付きで
事を起こすタイプじゃない。
最大でもたった2回しかない、
しかも本当にあるかわからない
弘世さんの対局に向けて、
動画を数百回も見て映像を
暗記するような人なんだから。
だから私の周囲に対しては、
当然のように根回ししてあった。
二週間ほど宥姉と勉強合宿で缶詰するって。
私の携帯からメールもしてあったし、
宥姉からも直接連絡したから、
両親も特に心配しなかったらしい。
まぁよく勉強会開いてたし、
時々泊まる事もあったからね。
監禁と言っても、肉体的な苦痛はなかった。
ベッドでの拘束は最初だけですぐに解いてもらえた。
もっとも完全には逃げられないように、
一方を部屋に固定された長いチェーンをつけられたけど。
部屋自体はもともと客室だった部屋らしく、
トイレも洗面台も完備で全然問題ない。
服だってそこは旅館なだけあって、
パリッと折り目のついた清潔な浴衣が
毎日ちゃんと用意される。
そんな快適な住環境で、
一体私が何をされるのかと言えば。
滔々(とうとう)と、
いかに私がシズに依存していて、
それが無意味かを講義されるのだった。
「ねえ憧ちゃん。本当は気づいてるんじゃない?」
「…何が」
「穏乃ちゃんって、けっこう憧ちゃんに冷たいよ?」
「……」
「晩成高校に行ってたら、将来も安泰だったよね。
麻雀だってレギュラーになれたかは別として、
そもそも大会に出られるかの心配なんてする必要はなかった」
「そんな晩成高校を蹴ってまで
穏乃ちゃんを追いかけたのに…
穏乃ちゃんは和ちゃん和ちゃんって、
居もしない人の事ばかり」
「…そうね」
「そもそもさ、これずっと
言っていいのかわからなかったけど。
結局今回のって、
原村さんと遊べた事になるの?」
「麻雀クラブのメンバーは、
誰も原村さんと麻雀できなかったよ?」
「穏乃ちゃんは決勝で原村さんと
会えただけで大喜びだったけど…
憧ちゃんはそれでよかったの?」
「…いいわけないでしょ」
「だよね…そういう点でも、
穏乃ちゃんと憧ちゃんって
相性よくないと思うよ?」
「結局、わがままな穏乃ちゃんに、
憧ちゃんが付き合ってあげただけだもん」
「準決勝の時もそうだよ」
「憧ちゃんは震えが止まらないくらい
緊張してたのに、誰も助けてくれなかった」
「でも、それって普通の感情だと思うんだ」
「なのに、穏乃ちゃんは
100速がどうとか言って
盛り上がってたよね?」
「それって結構普通じゃないよ?」
「タイプが違い過ぎるよ。
穏乃ちゃんじゃ憧ちゃんの気持ち、
わかってあげられない。
それは憧ちゃんも一緒」
「幼馴染だから表に出てこないだけだよ」
「…それは宥姉から見た私達でしょ?」
「そうだね。でも、
大きく外れてないんじゃないかな」
「ほら、2回戦の時思い出して?
穏乃ちゃんがオーラスで逆転手作った時の事」
「上がれないタイミングで
最後の高目を処理された時」
「あの時、穏乃ちゃんを信じてたのは、
玄ちゃんだけだった」
「…憧ちゃんは信じてなかった」
「違う?」
「……」
「憧ちゃんは穏乃ちゃんの事心配しすぎてるけど、
穏乃ちゃんはそんなに弱くない。
そして、憧ちゃんの保護を求めてもいないよ?」
「憧ちゃん、本当に穏乃ちゃんの事わかってる?」
「…ねえ、宥姉は何がしたいの?」
「私とシズの仲を引き裂きたいわけ?」
「うん」
「……!」
「だって、憧ちゃんは穏乃ちゃんには
もったいないんだもん」
「私は憧ちゃんが欲しいよ。
他の何よりも」
「私は憧ちゃんがいれば、
他の人なんていらない」
「憧ちゃんがそばにいるのに、
遠くにいる原村さんを
追いかけたりなんてしない」
「憧ちゃんがいい。憧ちゃんじゃなきゃいや」
「なのに、その憧ちゃんを手に入れてる
穏乃ちゃんは、憧ちゃんをほったらかしなんだもん」
「許せないよ」
宥姉はちくちくと嫌らしく、
聞きたくもない事実ばかりを
淡々と私に突きつける。
それでいて私が怒りはじめる寸前のところで、
それと比較して『自分ならこう』すると、
いかに自分が私を求めているのかを切々と語る。
気づけば宥姉の目には涙が溜まっていた。
「…なんで宥姉が泣くのよ」
「泣きたくもなるよ?私は、
ずっと憧ちゃんが好きだった」
「ずっと、ずっと好きだった」
「その好きな人がないがしろにされてて、
なのにその人は私の方は向いてくれない」
「教えてよ。憧ちゃんはなんで
そこまで穏乃ちゃんに尽くすの?」
「穏乃ちゃんがそうしてほしいって言ったの?」
「言ってないよね?」
「私は言ってるよ?」
「憧ちゃんに私の方を向いてほしい。
穏乃ちゃんに尽くすくらいなら、
私に尽くしてほしい」
「もちろん私だって憧ちゃんに尽くすよ?
憧ちゃんが望むならなんだってする」
「だから、私の方を向いてください…」
「お願いします…お願いします……!」
やがて涙は決壊して頬を伝う。
宥姉は縋るように私を抱き締めて、
何度も何度も懇願する。
ぶつけるだったはずの怒りは、
とうの昔に霧散して。
気づけば私の手は宥姉を抱き寄せていた。
「……!」
宥姉は涙をきらきら光らせながら、
それでも救われたような笑顔を浮かべて。
そのまま、何もかもを委ねるように、
私にそっと体重を預けた。
ふと思う。シズはこうして、
私に体重を預けたことはあっただろうか。
くっついた事は何度でもある。
でもこんな風に、自分をさらけ出して、
私を求めて身をゆだねたことはあっただろうか。
…多分、ない。
それに気づいた時、私にのしかかる宥姉が
より重くなった気がした。
でもその重みは、ひどく心地よかった。
毒が、少しずつ私を蝕んでいくのを感じた。
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朱に染まれば赤くなる。
病は密かに伝染する。
弱みを穿り返され、かと言って泣きじゃくられては
怒りを発散する事もできず。
それを毎日24時間繰り返されて、
私は少しずつ壊れていった。
宥姉のやり方は一本調子だ。
まずシズがいかに駄目かを伝えて、
自分ならこうすると主張する。
ただただそれの繰り返し。
もう少しアレンジ加えなさいよ。
なんて思ったけど、これが存外効果的だって言うのは、
身をもって経験した。
確かこんな拷問あったよね。
身体を動かせないようにして
一定間隔で額に水滴を落とすんだっけ?
あはは、宥姉どんだけ残酷なのよ。
ただその拷問と違うのは、私にそれをやめさせる
選択肢が用意されている事。
それも、それはとっても簡単。
そう、宥姉の主張を認めるだけでいい。
例えば宥姉がシズのことを話している時。
私がそれをさっさと認めてしまえば、
宥姉はシズの事を話すのはやめる。
そしてただ、私を抱き寄せて愛を囁き続ける。
誰だって、痛いところを突かれるよりは
愛される方がいいでしょ。
そのうち私は、宥姉がシズの事を話し始めただけで
話をさえぎるようになった。
「ああもう、シズの話はいいから。
宥姉がどれだけ私の事を好きかを教えてよ」
「でも、穏乃ちゃんと比較しないと、
私の方がいいって説明できないもん」
「もう耳タコだってば。言われなくっても、
シズがそこまで私に
固執してないのはわかってるから」
「うん、わかったよ…じゃあ、
憧ちゃんの事好きなところお話しするね?」
そうして宥姉は私への愛を語りはじめる。
代わり映えしない調教の中で、
ここだけが唯一毎回違う部分。
宥姉が私を好きだと語る時、
同じ言葉で語る事はない。
そこに恐怖じゃなくて深い愛を感じてしまうのは、
私が毒されてきているからだろうか。
「憧ちゃんは覚えてるかな…
まだ灼ちゃんがメンバーに入る前に、
おうちで会議したことあるよね?」
「あの時、私達おふとんにも入らずに寝ちゃって…
私はおふとんかぶってたけど、
寝てる間にはだけちゃって」
「寒さで震えて起きた時、
ちょうど誰かがおふとんかけ直してくれたんだ」
「あれ、憧ちゃんだよね?」
「…まぁね」
「私ね、そういう憧ちゃんの優しさが大好きなんだ」
「憧ちゃんはいつも何も言わない」
「だから穏乃ちゃんを始めとして、
みんな気づかないけど…
本当は、すごい憧ちゃんに助けられてる」
「でもね、私は気づいてるよ」
「だって、いつも憧ちゃんの事
目で追ってるから」
「いつもありがとう。大好きだよ」
宥姉は私を抱き締めながら、耳元でそう囁いて。
優しく私の首筋に唇を落とす。
私はその感触にぞくりと身を震わせながら、
それでも抵抗する事無く受け入れた。
思考力が低下している私には、
宥姉の行動がエスカレートしている事に気づかなかった。
むしろ、心地よさすら感じた。
ぬるま湯に浸かっているような調教。
でもそれは確実に私を駄目にしていく。
宥姉の存在を拒めなくなっていく。
ううん、拒むという考えすら
頭に浮かべられなくなっていく。
調教が始まって一週間が経った頃。
もはや私は、その生活に完全に
苦痛を感じなくなっていた。
そして、逃げる意志も失った。
毒が、どんどん回っていく。
そして、抜け出る事もなく溜まっていく。
もうその毒を摘出する気力は…
私にはない。
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宥姉は私をどんどん変えていった。
それは心だけにとどまらず。
宥姉は、私のカラダの方も変えていった。
その時のやり方も同じ。
最初はただ抱き締めるところから始まって。
少しずつ密着度合いが増していって。
やがて、その手が動き始める。
それも、最初はただ慈しむように優しく。
私が気づかない程度に、
でも少しずつ色を含んでいく。
夏に浴衣なんて着てるから。
そして二人で絡みあって寝てるから。
当然、浴衣なんてすぐはだけてしまう。
最初こそ肌を直接重ねる事にひどく抵抗があったのに。
気づけば朝起きて、肌が擦れ合っていても。
秘めるべき場所すら重なっていても。
もはや嫌悪感は湧いてはくれず、
下腹部にどこか妖しい疼きを覚えるようになっていた。
宥姉の手が、故意に私の性的な場所に触れる。
私がそれに気づいた時にはもう手遅れで。
私の体は熱に浮かされて、声は完全に上擦っていて。
拒絶するだけの力なんて残されていなかった。
「抵抗、してもいいんだよ?」
「できなくなってるの…
わかってから言ってるでしょ…!」
「本当に?」
「…ぇ」
「本当に嫌なら、抵抗できるはずだよ?」
「それとも憧ちゃん、嫌いな人に犯されても
気持ちよかったら抵抗しない人なの?」
「そ、そんなわけないでしょ!!」
「えへへ。よかった」
「じゃあ、受け入れてもらえるくらいには…
私も愛されてるんだぁ…」
「……!」
「うれしいなぁ…」
「すごく、うれしい…!」
私のそれから手を放すと、宥姉は私を抱き締めて
ボロボロと涙をこぼす。
ああ、本当に宥姉はズルい。
こんなの拒めるわけないじゃない。
「ああもう…やるなら早くやっちゃってよ」
「う、うん…私、頑張るからね」
「い、いや…頑張らなくていいってば」
そう言って宥姉は再び私の秘部に手を伸ばし…
すぐに、部屋中にはしたない水音が響き渡る。
私は消え入りたい気分に襲われながら、
いっそ溺れてしまえと宥姉の指に身を委ねた。
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夏休みも終わりに差し掛かり。
そろそろこの監禁も終わりが見えてきた頃。
私の横で一糸まとわぬ姿で眠っていた宥姉は、
まるでふと思い出したとばかりに笑顔で告げた。
「ねえ憧ちゃん。一つ言っておくことがあるんだー」
「なに?」
「私ね?この夏休みで…
憧ちゃんが私を選んでくれなかったら…」
「この世を去るからね?」
それは完全に脅迫だった。
しかもそれが冗談でない事は、
ここまでの行動から明らかで。
私は狼狽しながらも、
久しぶりに抗議の声を上げる。
「…そういうのはズルくない?」
「ズルいよ?でも、手段なんて選んでられないよ」
「ていうかそれなら、最初から
そう言えばいいじゃない」
「最初からそう言ったら、憧ちゃんは私と
義務で付き合っちゃうよ」
「…今だってそうじゃない」
「ううん、違うよ?
やっぱり憧ちゃん、気づいてないんだね」
「…何に?」
「憧ちゃんの足の鎖だけど…」
「もう、鍵かかってないよ?」
宥姉の言葉に愕然として、私は足枷を確認する。
鍵は……確かに外れていた。
「…いつから?」
「5日目からだよ?わかりやすいように、
憧ちゃんの目の前で足枷弄ってたはずだけど」
「私がいつも一緒にいたっていうのもあるけど…
でも私が寝てて、憧ちゃんが
自由だった時間もあったよね?」
「だから、憧ちゃんが逃げようと思えば…
いつだって逃げられたんだよ?」
「でも、憧ちゃんは逃げなかった」
「だからね?ちょっとだけ鎖を変える事にしたんだ」
宥姉は私の足首にそっと触れると、
冷たい金属の塊から解放する。
「この鎖はもう外すね?その代わり…」
そして繋がっていた鎖を手に取ると…
鎖の先を、自分の胸のあたりに押し当てた。
「私の命を鎖に繋げるの」
「でも、大して違いないよね?
だって憧ちゃん、逃げなかったもの」
たおやかな笑みを浮かべながら、
宥姉が私に絡みつく。
鎖がなくなったせいか、今まで以上に
宥姉はしっくりと私になじんだ。
そして私は反射的に…
そんな宥姉の体を慈しむように
抱き締めてしまった。
その時私は思い知った。
ああ、毒が完全に回りきってる。
だって、私はそれを吐き出すどころか…
もっと、もっとと、
求めてしまっているのだから。
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「憧ー。夏休み後半どこ行ってたのさ!
せっかく一緒に遊ぼうと思ってたのに!」
「いやいや言ってたでしょ。宥姉と勉強合宿するって」
「だったら私を混ぜてくれてもいいじゃん!」
「アンタが混ざって宥姉に何が教えられるのよ」
「ぐっ、それは憧だって一緒でしょ」
「残念でした。私はもう2年生の範囲まで勉強してるもの。
1〜2年の範囲なら宥姉の復習に付き合えるのよ」
「むむむむむ!でももう終わったんだよね!?
だったらこれからは私に付き合ってよ!」
「ごめんね、穏乃ちゃん」
「あ…宥さん」
「まだ私、受験中だから…もう少しだけ、
憧ちゃん貸してくれるかな?」
「この通りです」
「うぐっ…宥さんにそう言われると弱いなぁ…
わかった!好きなだけこき使ってやってください!」
「……」
「別に私はアンタのものじゃないんだけど?」
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夏休みが終わって新学期。
監禁調教こそ解かれた私だったけど、
結局は宥姉の部屋にいた。
表向きは勉強会。
テーブルの上では一応
教科書が開かれている。
「…断ってくれてありがとう」
「宥姉が横から入って拒絶しただけじゃない」
「でも、反対もしなかったでしょ?」
「……まあね」
でも、勉強会なんて名ばかりで。
私達は必要以上に寄り添って、
ただお互いのぬくもりを感じていた。
「ちょっと考えちゃったのよ」
「…何を?」
「もし、シズが今回の私と同じように、
2週間も姿を消したら」
「私は冷静でいられたのかなって」
「…無理だったんじゃないかな」
「うん」
「…やっぱりシズと私って、
温度差激しかったなって思い知らされたわ」
一度離れて冷静になったからわかる。
宥姉の私に対する執着っぷりも異常だけど、
私のシズに対する執着も異常だった。
「宥姉の言った通りだった」
「ただの思い付きで麻雀部を
復活したいって言われただけで
偏差値70の常勝高校を蹴るとか、
フツーじゃありえないもの」
「それ自体に後悔があるかっていうと、
全然ないけどさ」
「でも、やっぱりシズの私に対する思いと
つりあってたかっていうと…
私の方だけが重すぎたと思う」
「うん」
シズが悪いわけじゃない。
私や宥姉が余計な感情を持ち出さなければ、
これは綺麗な青春物語で終わっていたはずで。
二週間会えなくても、
「先輩のために勉強合宿で缶詰だ」
なんて聞かされてれば、
邪魔しないように連絡を
控えようと考えるのも普通。
ただ、私の愛を受け止めるには、
シズは普通過ぎた。それだけの事。
「…その異常性は治せそう?」
「…ううん。無理だと思うわ」
「私もそう思う。だからね、
私は憧ちゃんがいいの」
「好きになったきっかけはそこじゃないけど…
憧ちゃんが穏乃ちゃんに執着するのを見て」
「私は余計に、憧ちゃんが好きになった」
「…多分、同類だからだと思う」
「この人なら、一度目を向けてくれれば、
一生離さないでいてくれるって思ったから」
「…玄じゃ駄目だったの?」
「私が言うのなんだけど、
玄もちょっと病気だと思うけど」
「…玄ちゃんは駄目だよ。誰にでも優しいから」
「私だからじゃないんだよ。玄ちゃんは、
分け隔てなく全員に愛を注げるから」
「そっか」
そこまで聞いて、ああ私も狂ってるなって実感した。
私は実の妹である玄すら、
当然のように嫉妬の対象にしてる。
玄が宥姉の対象から外れてほっとしてる。
「不安?」
「ちょっとね」
「大丈夫だよ?言ったでしょ?
私は憧ちゃんが選んでくれなかったら、
もう生きていけないから」
「私の体の中には、
もう憧ちゃんの毒が回りきってる。
それはもう取り除けないし、
取り除く気もないよ」
「憧ちゃんには…私の毒、回ってくれた?」
わかってるくせに。
本当に宥姉は意地悪だ。
私の中にたまった宥姉の毒も、
私の一番深いところにまで届いてる。
なのに、まだ足りないとすら思ってる。
私達二人は、完全に壊れてしまった。
「責任、取ってよね?」
「…逆だよ。憧ちゃんが責任を取るんだよ?」
「だって、私が先に…」
「憧ちゃんから毒をくらったんだから」
宥姉は微笑むと、
私の目の前でそっと目を閉じた。
ここまでしておいて、
最後はされる側を選ぶんだ。
まあ、どっちからするかなんて、
私達には大して関係ない。
どうせ、どっちもお互いに
堕ちきっているんだから。
泥沼の共依存。喜んで
飛び込ませてもらおうじゃない。
私は薄く微笑むと、身を震わせて待つ
宥姉の肩を優しく抱いて…
その唇に、自らの唇を重ねた。
そして今日も、二人の毒が混ざる。
(完)
宥姉は私を監禁した。
期間は夏休みが終わる二週間。
それまでに宥姉の毒が回りきれば、
宥姉の勝ち。
回りきらなくても…私の負け。
勝ち目のないゲームが始まった。
<登場人物>
新子憧,松実宥,高鴨穏乃
<症状>
・ヤンデレ
・共依存
・狂気
・監禁
・調教
<その他>
・文量の割には小ネタです。
「宥姉がアコチャーを好きになるとしたらどんなケースか」
を考えただけの小ネタ。
→の憧視点続編です。
・それなりに性的な描写があります。
苦手な人はご注意を。
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私にとって、宥姉は猛毒
その毒は宥姉自身を壊しながら
私の奥へ奥へと染み込んでいく
互いの毒が混ざり合って
やがてそれは致死量に達する
果たしてどっちの毒が強いのかしら?
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宥姉と初めて言葉を交わしたのは、
確か阿知賀こども麻雀クラブの前だったと思う。
登下校のバスとかでは一緒だったから、
玄のお姉ちゃんだという事は知っていたけど。
それまでは話した事もなく、
異常に厚着をしているちょっと
変わった人という印象しかなかった。
あの時も厚着をした宥姉は、
クラブの教室の前でひしめくお子様たちに
何もできずただおろおろと戸惑っていて。
なんだかほっとけないな
って感じたのを覚えてる。
とりあえずすぐに交通整理して、
みんなを一列に並ばせて。
廊下をふさいでいたことを謝った。
そしたら宥姉はやっぱりあわあわと
慌てながら。
「あ、ありがとう」
ってお礼の言葉と一緒にお辞儀した。
変だよね。迷惑をかけたのはこちら側で、
宥姉は単なる被害者。
なのに、その相手に頭まで下げてお礼を言う。
しかもこっちは小学生で、向こうは中学生だよ?
でも悪い気はしなかった。
なんだか可愛い人だなって、
確か2つも年上の人に変なことを考えたと思う。
それが、宥姉と私の出会い。
私にとっての、大切な思い出。
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そんなわけで、宥姉と私の起源を辿れば
小学生時代まで遡る事になるわけだけど。
だからといって、すぐに
深い関係になるという事もなかった。
宥姉は結局麻雀クラブには顔を出さなかったから。
「ねえ、玄。玄のお姉さんは、
麻雀クラブ来ないの?」
「うーん。行きたいって聞いた事ないから
特に誘ってはいないなぁ」
「そうなんだ…麻雀好きじゃないとか?」
「おうちでは打つよ?私と同じくらいかな」
「え、何それ普通に強いじゃん!
来ればいいのに!」
「んー…麻雀クラブができた時にはもう
お姉ちゃん中学生だったからねぇ」
「もしかしたら、子どもばっかりで
入りにくいのかも」
「あー…確かに前、クラブの前で
子供相手にわたわたしてたなぁ」
来ればいいのにな、と思った。
打ってみたいな、って思った。
正直な気持ちを吐露してしまえば、
心配する気持ちもあったと思う。
夏でもマフラーをして、
メガネとマスクまでしてるから、
宥姉に近づく子は少なくて。
たまに近づくとしたら、
からかおうとするアホガキばっかり。
そんな宥姉に友達はいるんだろうか。
一緒に卓を囲んで笑いあえるような友達が。
もしいないなら、私が友達になってあげたい。
なんて、傲慢なことを考えていた。
でも、大きく外れてはいなかったと思うんだ。
だって宥姉やたらチョロかったから。
ただちょっと顔を合わせた時に
挨拶するだけで、まるで救われたように
表情が明るくなる。
ちょっと呼び方を変えただけで、
まるで泣きそうなくらいに心を動かす。
そんな宥姉はひどく儚げで。
気になって仕方なかった。
大丈夫かな?私の助けはいらないかなって。
結局、その関係が大きく変わる事はなかったけれど。
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実際に付き合いらしい付き合いができたのは
中学生も終わりが見えた三年の夏ごろだった。
麻雀部を復活させよう!
なんてシズの思い付きから始まったその試みで、
私は晩成行きを蹴り飛ばし。
部員集めに乗り出した時の事。
中学に上がって、シズとすら疎遠になっていた私は、
当然宥姉と出会う機会なんてなく。
顔を合わせるのは本当に数年ぶりになる。
少しだけ緊張しながら玄の家を歩く私は、
こたつの向こうで手を振る宥姉を見て
ある意味ほっと肩を撫で下ろした。
あ、この人何も変わってないわ
緊張が解けると今度は呆れてきて、
私はあーって感じで手をあげる。
私達の存在に気づいた宥姉は
慌ててがばりと起き上がって
身だしなみを整えようとする。
いやいや、今さら取り繕っても
完全にアウトだから。
「まったく…変わってないなぁ宥姉は」
なんて言葉をかけると、
宥姉はさらに真っ赤になりながら。
えへへ…なんて苦し紛れの笑みを浮かべた。
ああ、本当に変わってない。
この人はあの時のまま、かわいいままだ。
って、呆れながらも私は
少しだけ嬉しかったのを覚えている。
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まぁそんなわけだから、私にとって宥姉は
『かわいい人』であり、そして
『守ってあげないといけない人』だった。
だから、まさかその宥姉が、
私を監禁するとか思いもしなかったわけで。
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宥姉の部屋でいつものように勉強会をして、
出された飲み物とお菓子に
何の疑問を抱かず手を付けた。
気が付いたら眠くなって。
宥姉に促されるままに一眠りして。
起きたらベッドに
拘束されていると気づいた時には、
『あ、こりゃ夢だな』
なんて現実逃避してしまったくらいだった。
五体不自由な中、わずかに自由を許された顔を
きょろきょろと動かすと。
視界に宥姉の姿が入った。
私は少しだけ安心して…
すぐにぎょっと目を見張る。
目に映った宥姉は、にっこにっこと
見たことがないくらい満面の笑みを浮かべていた。
この状況で。
「えーと…宥姉?宥姉だよね?」
「そうだよ。おはよう憧ちゃん」
「おはよ…じゃなくて、
この状況の説明を要求したいんだけど」
「えっとね、憧ちゃんには今日から
ここで生活してもらおうと思うんだ」
「はぁ?いやいや全然説明になってないから」
まるで頭のねじが外れてしまったかのような
宥姉の発言に、私は思わず頭を抱える。
いや、頭を抱える手は
ベッドに拘束されたままだけど。
忍耐強く話を続けていくと、
つまりはこういう事だった。
宥姉はずっと前から私の事が好きだった。
けど、シズがいたから勝ち目がないと諦めていた。
でも、私達の行動をよく見ていたら、
私がシズに尽くしてばかりで、
シズは私に何もしてくれてない事に気づいた。
だったら、宥姉の方が私に相応しいと思った。
「…その結果が、この監禁ってわけだ」
「うん。だってこうでもしないと、
憧ちゃんは穏乃ちゃんから離れられないから」
「穏乃ちゃん中毒の憧ちゃんを治すには、
荒療治が必要なんだよ」
言いたい事はわかったけど、正直ちょっと驚いた。
宥姉って、そんなに私の事好きだったんだ。
いや、まったく予想してなかったわけじゃないけどさ。
ヤバい、ちょっと嬉しいかも…
なんて、ここまで犯罪じみたことをされてるのに
ちょっと舞い上がっちゃうくらいには、
私も宥姉の事を大事には思っているらしい。
「…宥姉がそこまで私にお熱だったとは思わなかったわ」
「ふふ…憧ちゃんみたいに鋭い人でも、
気づかない事ってあるんだね」
「昔から好きだったよ?そう…
ずっと、ずっと、ずっと前から」
「私は、憧ちゃんっていう毒に苦しめられてる」
「…そっか」
今度はずきりと胸が痛んだ。
やっぱり予想は当たってたんだ。
宥姉は、あの時麻雀クラブで会った時から、
やっぱりきっと友達はいなくて。
時折声をかけただけの私に、
本当は縋り付きたかったのかもしれない。
なのに私は、宥姉に何もしてあげなかった。
「でも今は、別にそれでいいと思うんだ」
「だって憧ちゃんは私を支えてくれる。
私だって憧ちゃんを支えてあげる」
「それは穏乃ちゃんが与えてくれなかったもの」
「だったら…こっちの方が
憧ちゃんにもいいはずだよね?」
今度の言葉は私を鋭く貫いた。
それは少しだけ脳裏によぎってはいた事。
でも、そんな事はないと必死に蓋をしていた事。
シズは、私が思っている程、
私を必要としていないって
自分で想像していたのと、
他人から指摘される事は全然重さが違う。
私は内心大きく動揺しながらも、
悟ったような体を装ってなんとか口を開いた。
「……うーん」
「シズが私に何をくれるかってのは、
宥姉が決める事じゃないと思うけどなぁ」
目に見えて何かをしてくれなくても、
シズは私と一緒に楽しんでいてくれて、
私に笑いかけてくれる。
私は必要とされている。
…それはずっと、自分に言い聞かせてきた台詞。
ヤバい、感情があふれそうになってきた。
落ち着いて。相手は狂人。
感情論になったら何をされるかわからない。
私はぐっと言葉を飲み込んだ。
努めて冷静を装わないと。
「ま。説得とかしても無意味よね?
それが効くくらいなら、そもそも
こんな事になってないだろうし」
「気がすむまで監禁して頂戴な。
どうせ長続きするとは思えないし」
まあ夏休み中は何とかなるにしても、
二学期が始まればそれでおしまい。
隠し通すとか無理がある。
そもそも口下手な宥姉じゃ、
私が突然音信不通になった理由すら
うまく説明できずに終わるかもしれない。
なのに。
「…うん。頑張るね?」
宥姉は私の態度にひるむ事なく。
まっすぐ私を見すえながら
にっこりとほほ笑んだ。
予想外の反応に、私は思わず気圧されて。
ついその目を背けてしまう。
その時私は気づくべきだった。
宥姉が頼りないのは、どこか決心がつかなくて
いつも迷ってばかりいるからだって。
心を決めた宥姉は、いつだって強かった。
麻雀だってそうだったじゃない。
でも動揺した私は宥姉の本気を見誤って…
心の準備をする好機を逸してしまった。
そんな私は…その後の宥姉の本気の調教を、
無防備な状態で受け止める事になる。
私が、無意識のうちに宥姉にあげたという猛毒。
その毒がどれほどの猛毒だったのか。
私は身をもって味わう事になる。
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先に結論を言ってしまえば、
この監禁調教は夏休み中続くことになった。
それも予想できたことだった。
宥姉はシズと違って、その場の思い付きで
事を起こすタイプじゃない。
最大でもたった2回しかない、
しかも本当にあるかわからない
弘世さんの対局に向けて、
動画を数百回も見て映像を
暗記するような人なんだから。
だから私の周囲に対しては、
当然のように根回ししてあった。
二週間ほど宥姉と勉強合宿で缶詰するって。
私の携帯からメールもしてあったし、
宥姉からも直接連絡したから、
両親も特に心配しなかったらしい。
まぁよく勉強会開いてたし、
時々泊まる事もあったからね。
監禁と言っても、肉体的な苦痛はなかった。
ベッドでの拘束は最初だけですぐに解いてもらえた。
もっとも完全には逃げられないように、
一方を部屋に固定された長いチェーンをつけられたけど。
部屋自体はもともと客室だった部屋らしく、
トイレも洗面台も完備で全然問題ない。
服だってそこは旅館なだけあって、
パリッと折り目のついた清潔な浴衣が
毎日ちゃんと用意される。
そんな快適な住環境で、
一体私が何をされるのかと言えば。
滔々(とうとう)と、
いかに私がシズに依存していて、
それが無意味かを講義されるのだった。
「ねえ憧ちゃん。本当は気づいてるんじゃない?」
「…何が」
「穏乃ちゃんって、けっこう憧ちゃんに冷たいよ?」
「……」
「晩成高校に行ってたら、将来も安泰だったよね。
麻雀だってレギュラーになれたかは別として、
そもそも大会に出られるかの心配なんてする必要はなかった」
「そんな晩成高校を蹴ってまで
穏乃ちゃんを追いかけたのに…
穏乃ちゃんは和ちゃん和ちゃんって、
居もしない人の事ばかり」
「…そうね」
「そもそもさ、これずっと
言っていいのかわからなかったけど。
結局今回のって、
原村さんと遊べた事になるの?」
「麻雀クラブのメンバーは、
誰も原村さんと麻雀できなかったよ?」
「穏乃ちゃんは決勝で原村さんと
会えただけで大喜びだったけど…
憧ちゃんはそれでよかったの?」
「…いいわけないでしょ」
「だよね…そういう点でも、
穏乃ちゃんと憧ちゃんって
相性よくないと思うよ?」
「結局、わがままな穏乃ちゃんに、
憧ちゃんが付き合ってあげただけだもん」
「準決勝の時もそうだよ」
「憧ちゃんは震えが止まらないくらい
緊張してたのに、誰も助けてくれなかった」
「でも、それって普通の感情だと思うんだ」
「なのに、穏乃ちゃんは
100速がどうとか言って
盛り上がってたよね?」
「それって結構普通じゃないよ?」
「タイプが違い過ぎるよ。
穏乃ちゃんじゃ憧ちゃんの気持ち、
わかってあげられない。
それは憧ちゃんも一緒」
「幼馴染だから表に出てこないだけだよ」
「…それは宥姉から見た私達でしょ?」
「そうだね。でも、
大きく外れてないんじゃないかな」
「ほら、2回戦の時思い出して?
穏乃ちゃんがオーラスで逆転手作った時の事」
「上がれないタイミングで
最後の高目を処理された時」
「あの時、穏乃ちゃんを信じてたのは、
玄ちゃんだけだった」
「…憧ちゃんは信じてなかった」
「違う?」
「……」
「憧ちゃんは穏乃ちゃんの事心配しすぎてるけど、
穏乃ちゃんはそんなに弱くない。
そして、憧ちゃんの保護を求めてもいないよ?」
「憧ちゃん、本当に穏乃ちゃんの事わかってる?」
「…ねえ、宥姉は何がしたいの?」
「私とシズの仲を引き裂きたいわけ?」
「うん」
「……!」
「だって、憧ちゃんは穏乃ちゃんには
もったいないんだもん」
「私は憧ちゃんが欲しいよ。
他の何よりも」
「私は憧ちゃんがいれば、
他の人なんていらない」
「憧ちゃんがそばにいるのに、
遠くにいる原村さんを
追いかけたりなんてしない」
「憧ちゃんがいい。憧ちゃんじゃなきゃいや」
「なのに、その憧ちゃんを手に入れてる
穏乃ちゃんは、憧ちゃんをほったらかしなんだもん」
「許せないよ」
宥姉はちくちくと嫌らしく、
聞きたくもない事実ばかりを
淡々と私に突きつける。
それでいて私が怒りはじめる寸前のところで、
それと比較して『自分ならこう』すると、
いかに自分が私を求めているのかを切々と語る。
気づけば宥姉の目には涙が溜まっていた。
「…なんで宥姉が泣くのよ」
「泣きたくもなるよ?私は、
ずっと憧ちゃんが好きだった」
「ずっと、ずっと好きだった」
「その好きな人がないがしろにされてて、
なのにその人は私の方は向いてくれない」
「教えてよ。憧ちゃんはなんで
そこまで穏乃ちゃんに尽くすの?」
「穏乃ちゃんがそうしてほしいって言ったの?」
「言ってないよね?」
「私は言ってるよ?」
「憧ちゃんに私の方を向いてほしい。
穏乃ちゃんに尽くすくらいなら、
私に尽くしてほしい」
「もちろん私だって憧ちゃんに尽くすよ?
憧ちゃんが望むならなんだってする」
「だから、私の方を向いてください…」
「お願いします…お願いします……!」
やがて涙は決壊して頬を伝う。
宥姉は縋るように私を抱き締めて、
何度も何度も懇願する。
ぶつけるだったはずの怒りは、
とうの昔に霧散して。
気づけば私の手は宥姉を抱き寄せていた。
「……!」
宥姉は涙をきらきら光らせながら、
それでも救われたような笑顔を浮かべて。
そのまま、何もかもを委ねるように、
私にそっと体重を預けた。
ふと思う。シズはこうして、
私に体重を預けたことはあっただろうか。
くっついた事は何度でもある。
でもこんな風に、自分をさらけ出して、
私を求めて身をゆだねたことはあっただろうか。
…多分、ない。
それに気づいた時、私にのしかかる宥姉が
より重くなった気がした。
でもその重みは、ひどく心地よかった。
毒が、少しずつ私を蝕んでいくのを感じた。
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--------------------------------------------------------
朱に染まれば赤くなる。
病は密かに伝染する。
弱みを穿り返され、かと言って泣きじゃくられては
怒りを発散する事もできず。
それを毎日24時間繰り返されて、
私は少しずつ壊れていった。
宥姉のやり方は一本調子だ。
まずシズがいかに駄目かを伝えて、
自分ならこうすると主張する。
ただただそれの繰り返し。
もう少しアレンジ加えなさいよ。
なんて思ったけど、これが存外効果的だって言うのは、
身をもって経験した。
確かこんな拷問あったよね。
身体を動かせないようにして
一定間隔で額に水滴を落とすんだっけ?
あはは、宥姉どんだけ残酷なのよ。
ただその拷問と違うのは、私にそれをやめさせる
選択肢が用意されている事。
それも、それはとっても簡単。
そう、宥姉の主張を認めるだけでいい。
例えば宥姉がシズのことを話している時。
私がそれをさっさと認めてしまえば、
宥姉はシズの事を話すのはやめる。
そしてただ、私を抱き寄せて愛を囁き続ける。
誰だって、痛いところを突かれるよりは
愛される方がいいでしょ。
そのうち私は、宥姉がシズの事を話し始めただけで
話をさえぎるようになった。
「ああもう、シズの話はいいから。
宥姉がどれだけ私の事を好きかを教えてよ」
「でも、穏乃ちゃんと比較しないと、
私の方がいいって説明できないもん」
「もう耳タコだってば。言われなくっても、
シズがそこまで私に
固執してないのはわかってるから」
「うん、わかったよ…じゃあ、
憧ちゃんの事好きなところお話しするね?」
そうして宥姉は私への愛を語りはじめる。
代わり映えしない調教の中で、
ここだけが唯一毎回違う部分。
宥姉が私を好きだと語る時、
同じ言葉で語る事はない。
そこに恐怖じゃなくて深い愛を感じてしまうのは、
私が毒されてきているからだろうか。
「憧ちゃんは覚えてるかな…
まだ灼ちゃんがメンバーに入る前に、
おうちで会議したことあるよね?」
「あの時、私達おふとんにも入らずに寝ちゃって…
私はおふとんかぶってたけど、
寝てる間にはだけちゃって」
「寒さで震えて起きた時、
ちょうど誰かがおふとんかけ直してくれたんだ」
「あれ、憧ちゃんだよね?」
「…まぁね」
「私ね、そういう憧ちゃんの優しさが大好きなんだ」
「憧ちゃんはいつも何も言わない」
「だから穏乃ちゃんを始めとして、
みんな気づかないけど…
本当は、すごい憧ちゃんに助けられてる」
「でもね、私は気づいてるよ」
「だって、いつも憧ちゃんの事
目で追ってるから」
「いつもありがとう。大好きだよ」
宥姉は私を抱き締めながら、耳元でそう囁いて。
優しく私の首筋に唇を落とす。
私はその感触にぞくりと身を震わせながら、
それでも抵抗する事無く受け入れた。
思考力が低下している私には、
宥姉の行動がエスカレートしている事に気づかなかった。
むしろ、心地よさすら感じた。
ぬるま湯に浸かっているような調教。
でもそれは確実に私を駄目にしていく。
宥姉の存在を拒めなくなっていく。
ううん、拒むという考えすら
頭に浮かべられなくなっていく。
調教が始まって一週間が経った頃。
もはや私は、その生活に完全に
苦痛を感じなくなっていた。
そして、逃げる意志も失った。
毒が、どんどん回っていく。
そして、抜け出る事もなく溜まっていく。
もうその毒を摘出する気力は…
私にはない。
--------------------------------------------------------
宥姉は私をどんどん変えていった。
それは心だけにとどまらず。
宥姉は、私のカラダの方も変えていった。
その時のやり方も同じ。
最初はただ抱き締めるところから始まって。
少しずつ密着度合いが増していって。
やがて、その手が動き始める。
それも、最初はただ慈しむように優しく。
私が気づかない程度に、
でも少しずつ色を含んでいく。
夏に浴衣なんて着てるから。
そして二人で絡みあって寝てるから。
当然、浴衣なんてすぐはだけてしまう。
最初こそ肌を直接重ねる事にひどく抵抗があったのに。
気づけば朝起きて、肌が擦れ合っていても。
秘めるべき場所すら重なっていても。
もはや嫌悪感は湧いてはくれず、
下腹部にどこか妖しい疼きを覚えるようになっていた。
宥姉の手が、故意に私の性的な場所に触れる。
私がそれに気づいた時にはもう手遅れで。
私の体は熱に浮かされて、声は完全に上擦っていて。
拒絶するだけの力なんて残されていなかった。
「抵抗、してもいいんだよ?」
「できなくなってるの…
わかってから言ってるでしょ…!」
「本当に?」
「…ぇ」
「本当に嫌なら、抵抗できるはずだよ?」
「それとも憧ちゃん、嫌いな人に犯されても
気持ちよかったら抵抗しない人なの?」
「そ、そんなわけないでしょ!!」
「えへへ。よかった」
「じゃあ、受け入れてもらえるくらいには…
私も愛されてるんだぁ…」
「……!」
「うれしいなぁ…」
「すごく、うれしい…!」
私のそれから手を放すと、宥姉は私を抱き締めて
ボロボロと涙をこぼす。
ああ、本当に宥姉はズルい。
こんなの拒めるわけないじゃない。
「ああもう…やるなら早くやっちゃってよ」
「う、うん…私、頑張るからね」
「い、いや…頑張らなくていいってば」
そう言って宥姉は再び私の秘部に手を伸ばし…
すぐに、部屋中にはしたない水音が響き渡る。
私は消え入りたい気分に襲われながら、
いっそ溺れてしまえと宥姉の指に身を委ねた。
--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
夏休みも終わりに差し掛かり。
そろそろこの監禁も終わりが見えてきた頃。
私の横で一糸まとわぬ姿で眠っていた宥姉は、
まるでふと思い出したとばかりに笑顔で告げた。
「ねえ憧ちゃん。一つ言っておくことがあるんだー」
「なに?」
「私ね?この夏休みで…
憧ちゃんが私を選んでくれなかったら…」
「この世を去るからね?」
それは完全に脅迫だった。
しかもそれが冗談でない事は、
ここまでの行動から明らかで。
私は狼狽しながらも、
久しぶりに抗議の声を上げる。
「…そういうのはズルくない?」
「ズルいよ?でも、手段なんて選んでられないよ」
「ていうかそれなら、最初から
そう言えばいいじゃない」
「最初からそう言ったら、憧ちゃんは私と
義務で付き合っちゃうよ」
「…今だってそうじゃない」
「ううん、違うよ?
やっぱり憧ちゃん、気づいてないんだね」
「…何に?」
「憧ちゃんの足の鎖だけど…」
「もう、鍵かかってないよ?」
宥姉の言葉に愕然として、私は足枷を確認する。
鍵は……確かに外れていた。
「…いつから?」
「5日目からだよ?わかりやすいように、
憧ちゃんの目の前で足枷弄ってたはずだけど」
「私がいつも一緒にいたっていうのもあるけど…
でも私が寝てて、憧ちゃんが
自由だった時間もあったよね?」
「だから、憧ちゃんが逃げようと思えば…
いつだって逃げられたんだよ?」
「でも、憧ちゃんは逃げなかった」
「だからね?ちょっとだけ鎖を変える事にしたんだ」
宥姉は私の足首にそっと触れると、
冷たい金属の塊から解放する。
「この鎖はもう外すね?その代わり…」
そして繋がっていた鎖を手に取ると…
鎖の先を、自分の胸のあたりに押し当てた。
「私の命を鎖に繋げるの」
「でも、大して違いないよね?
だって憧ちゃん、逃げなかったもの」
たおやかな笑みを浮かべながら、
宥姉が私に絡みつく。
鎖がなくなったせいか、今まで以上に
宥姉はしっくりと私になじんだ。
そして私は反射的に…
そんな宥姉の体を慈しむように
抱き締めてしまった。
その時私は思い知った。
ああ、毒が完全に回りきってる。
だって、私はそれを吐き出すどころか…
もっと、もっとと、
求めてしまっているのだから。
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「憧ー。夏休み後半どこ行ってたのさ!
せっかく一緒に遊ぼうと思ってたのに!」
「いやいや言ってたでしょ。宥姉と勉強合宿するって」
「だったら私を混ぜてくれてもいいじゃん!」
「アンタが混ざって宥姉に何が教えられるのよ」
「ぐっ、それは憧だって一緒でしょ」
「残念でした。私はもう2年生の範囲まで勉強してるもの。
1〜2年の範囲なら宥姉の復習に付き合えるのよ」
「むむむむむ!でももう終わったんだよね!?
だったらこれからは私に付き合ってよ!」
「ごめんね、穏乃ちゃん」
「あ…宥さん」
「まだ私、受験中だから…もう少しだけ、
憧ちゃん貸してくれるかな?」
「この通りです」
「うぐっ…宥さんにそう言われると弱いなぁ…
わかった!好きなだけこき使ってやってください!」
「……」
「別に私はアンタのものじゃないんだけど?」
--------------------------------------------------------
夏休みが終わって新学期。
監禁調教こそ解かれた私だったけど、
結局は宥姉の部屋にいた。
表向きは勉強会。
テーブルの上では一応
教科書が開かれている。
「…断ってくれてありがとう」
「宥姉が横から入って拒絶しただけじゃない」
「でも、反対もしなかったでしょ?」
「……まあね」
でも、勉強会なんて名ばかりで。
私達は必要以上に寄り添って、
ただお互いのぬくもりを感じていた。
「ちょっと考えちゃったのよ」
「…何を?」
「もし、シズが今回の私と同じように、
2週間も姿を消したら」
「私は冷静でいられたのかなって」
「…無理だったんじゃないかな」
「うん」
「…やっぱりシズと私って、
温度差激しかったなって思い知らされたわ」
一度離れて冷静になったからわかる。
宥姉の私に対する執着っぷりも異常だけど、
私のシズに対する執着も異常だった。
「宥姉の言った通りだった」
「ただの思い付きで麻雀部を
復活したいって言われただけで
偏差値70の常勝高校を蹴るとか、
フツーじゃありえないもの」
「それ自体に後悔があるかっていうと、
全然ないけどさ」
「でも、やっぱりシズの私に対する思いと
つりあってたかっていうと…
私の方だけが重すぎたと思う」
「うん」
シズが悪いわけじゃない。
私や宥姉が余計な感情を持ち出さなければ、
これは綺麗な青春物語で終わっていたはずで。
二週間会えなくても、
「先輩のために勉強合宿で缶詰だ」
なんて聞かされてれば、
邪魔しないように連絡を
控えようと考えるのも普通。
ただ、私の愛を受け止めるには、
シズは普通過ぎた。それだけの事。
「…その異常性は治せそう?」
「…ううん。無理だと思うわ」
「私もそう思う。だからね、
私は憧ちゃんがいいの」
「好きになったきっかけはそこじゃないけど…
憧ちゃんが穏乃ちゃんに執着するのを見て」
「私は余計に、憧ちゃんが好きになった」
「…多分、同類だからだと思う」
「この人なら、一度目を向けてくれれば、
一生離さないでいてくれるって思ったから」
「…玄じゃ駄目だったの?」
「私が言うのなんだけど、
玄もちょっと病気だと思うけど」
「…玄ちゃんは駄目だよ。誰にでも優しいから」
「私だからじゃないんだよ。玄ちゃんは、
分け隔てなく全員に愛を注げるから」
「そっか」
そこまで聞いて、ああ私も狂ってるなって実感した。
私は実の妹である玄すら、
当然のように嫉妬の対象にしてる。
玄が宥姉の対象から外れてほっとしてる。
「不安?」
「ちょっとね」
「大丈夫だよ?言ったでしょ?
私は憧ちゃんが選んでくれなかったら、
もう生きていけないから」
「私の体の中には、
もう憧ちゃんの毒が回りきってる。
それはもう取り除けないし、
取り除く気もないよ」
「憧ちゃんには…私の毒、回ってくれた?」
わかってるくせに。
本当に宥姉は意地悪だ。
私の中にたまった宥姉の毒も、
私の一番深いところにまで届いてる。
なのに、まだ足りないとすら思ってる。
私達二人は、完全に壊れてしまった。
「責任、取ってよね?」
「…逆だよ。憧ちゃんが責任を取るんだよ?」
「だって、私が先に…」
「憧ちゃんから毒をくらったんだから」
宥姉は微笑むと、
私の目の前でそっと目を閉じた。
ここまでしておいて、
最後はされる側を選ぶんだ。
まあ、どっちからするかなんて、
私達には大して関係ない。
どうせ、どっちもお互いに
堕ちきっているんだから。
泥沼の共依存。喜んで
飛び込ませてもらおうじゃない。
私は薄く微笑むと、身を震わせて待つ
宥姉の肩を優しく抱いて…
その唇に、自らの唇を重ねた。
そして今日も、二人の毒が混ざる。
(完)
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前回の憧ちゃんは穏乃ちゃんが好きなのかと思ってましたが、宥姉と両想いでかなり嬉しいです!宥姉の依存具合や憧ちゃんが落ちてく過程がとても良かったです。
某絵師さんの影響で阿知賀では宥姉が一番エロいイメージが……
憧ちゃーの堕ちていく過程がたまらなかったです。宥姉マジ策士!かわいい!
憧がずぶずぶと堕ちるのがいいですね
ありがとうございました‼
こういうSSすごく好きです。
すばらしいくらいの宥姉の調教力。穏乃に依存していた憧を自分の方に向けさせるために色々な画策をしてそれを実行する宥姉の芯の強さ、憧への強すぎる愛情がすごく伝わってきて……本当によかったです!!
キャラを壊すことなく、ここまで濃密な物が書けるのは素晴らしい!
玄憧も見たいなぁチラチラ
珍しい組み合わせだけど、ピッタリだった。
すばらすぎる!
宥姉の監禁調教は一見異常ですが、彼女にとっては命懸けの求愛であり、相手の事を第一に考えながらも、独占欲が見え隠れしてるところが好きです。