現在リクエスト消化中です。リクエスト状況はこちら。
【咲-Saki-SS:久咲】咲「その一枚に、とびっきりの愛をこめて」【健全】【いただきものイラスト有】
<あらすじ>
ある日竹井久が下駄箱にたどり着くと、
そこには淡いピンク色の手紙が安置されていた。
「またかー」
少し辟易しながらも
手紙を手にした竹井久は、
その筆跡を見て目を見張る。
取り立てて特徴のない地味な筆跡。
でも見覚えのある筆跡。
そう、その筆跡は…
同じ麻雀部の後輩の、
宮永咲のものだった。
<登場人物>
宮永咲,竹井久
<症状>
・なし
<その他>
※いただきもののイラストに
添えたSSです。
描いたご本人が原作準拠になるように
こだわったとのことなので
白久白咲です。
ヤンデレしか受け付けない方はご注意を。
--------------------------------------------------------
部長の事が好き。
いつから好きだったのかは、
正直よくわからない。
気づいたら好きになっていたから。
でも気づいたきっかけは覚えてる。
それは部長が麻雀部を引退して、
学生議会も引退した後の事。
肩書を失って、ただの
「竹井久」になったにも関わらず。
部長はやっぱり人に囲まれていて、
なんだか胸がズキズキ痛んだ。
それでようやく気付いたんだ。
私は、部長の事が好きなんだって。
気づいてからは後悔の連続だった。
なんでもっと早く気づけなかったんだろうって。
なんで、部長が部長のうちに気づけなかったんだろうって。
物事にはそれをするべきタイミングってものがあると思う。
絶対に逃しちゃいけないタイミングが。
そのことを私はお姉ちゃんの件で、
痛いくらいに思い知らされたはずなのに。
なのに、私はまたタイミングを逃してしまった。
まだインターハイ終了直後だったら、
今よりは望みがあったかもしれないのに。
自分の鈍感さ加減には本当に嫌気がさす。
(でも)
そんな進歩のない私だけど、
それでも成長した部分もある。
今の私は知ってるんだ。
自分から動かなきゃ何も変わらないという事。
そして何もしなければ、
後で絶対に後悔が待っているという事。
だから、この想いを部長に
打ち明けてみる事にした。
季節はもう桜舞う春。
部長が卒業する前に、この想いを告げるんだ。
卒業式じゃ多分遅い。
きっと人気者の部長は、皆に囲まれて
そんな余裕はないだろうから。
面と向かって愛を語る勇気なんてないけれど、
手紙に綴って届けようと思う。
とどのつまりはラブレター。
私はそれを、部長の下駄箱にひそませた。
その一枚に、とびっきりの愛をこめて。
--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
その日いつも通りにやってきた私を、
下駄箱で待ち受けていたのは
一通のお手紙だった。
上履きの上にそっと乗せられたそれは、
シンプルな桜色。
いいセンスしてるわね。
桜の季節と相まってなかなか風流。
なんて、書いた本人がそこまで
考えたかはわからないけど。
もっともプラスの感情を抱いたのはそこまで。
次の瞬間、私は眉をへの字に曲げて肩をすくめた。
自分で言うのもなんだけど、
正直私はかなりモテる。
そんな私は、卒業が近くなったこの季節、
最後のラストスパートだと言わんばかりの
告白ラッシュに襲われていて。
ラブレターをもらった喜びよりも、
できればほっといてほしいな、
なんて残酷な感想が頭に浮かぶ今日この頃だった。
(…なんて断ろうかしら)
って、手に取る前から
断る算段を考えたりする私。
ダメダメせめて中身を見てからね?
そしてようやくそれを手に取った私は、
今度は思わず目を見開く。
封筒には差出人の名前こそ書いてなかったけど、
私にはその筆跡に見覚えがあった。
この、特徴のない地味な感じの文字…
でも、何度も目にしたことがある文字。
一人だけ心あたりがある。
そう、それは…
宮永咲。
--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
ああ、どうしてこう私はいつも。
ここぞというところで
やらかしてしまうんだろう。
差出人の名前を書き忘れた。
おまけに返事のもらい方についても書いてない。
一週間悩みに悩んで書いたのに、
あれじゃただの怪文書だ。
あわてて回収しに行ったけど、
部長はもう手紙を手に取っていて。
私は出ていくこともできず、
そそくさと下駄箱の裏に隠れた。
部長は手に取ったものの封を開ける事はなく、
そのままそれを鞄にしまい込む。
それを見届けて、私は思わず天を仰いだ。
(ああ、終わった…もう回収不可能だよ…)
あの手紙は諦めよう。
せっかく一生懸命考えた手紙だけど、
こうなったらやり直すしかない。
生まれて初めての告白くらい、失敗なしで
完璧な形で届けたいから。
失意にがっくりと肩を落としながらも、
私は部長に気づかれないように、
そろりそろりとその場を離れた。
--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
…と思ったら…背後から呼びかける声。
--------------------------------------------------------
「ねえ咲。これ、読んでから返事した方がいい?」
--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
廊下によく通る部長の声。
私はびくりと身を震わせる。
でも振り向く勇気は出なかった。
聞こえなかったふりをして、
そのまま足早に立ち去ろうとする。
「こらこら逃げないの。気づいてるでしょ?」
もっとも部長は逃がしてはくれなくて。
私は観念して、歩みを止めて振り向いた。
そこにあったのは、いつも通りの…
ううん、ちょっと意地悪な
笑みを浮かべた部長の姿。
私は絞首台にのぼる死刑囚のような
絶望感を味わいながらも、
気になった事を口にした。
「ど…どうして私だってわかったんですか」
「筆跡」
「筆跡!?私の字って、そんなに
特徴ないですよね!?」
「まぁね。だから逆にわかっちゃったのよ」
平然と答える部長。でも、それって結構
人間離れしてるような気が…
それに!
「どうして私がいるってわかったんですか?」
「オーラ」
言われて初めて自分のうかつさに気がつく私。
そうだった…私達は、ちょっと普通とは違うんだった。
筆跡の方はともかくとして…
下駄箱にラブレターが入ってて、
近くに私が隠れてたらそりゃわかっちゃうよ。
顔を真っ赤にして、すでにこれ以上ないくらい
打ちのめされている私を前にして。
なのに部長は、さらに私を追い詰める。
「まあでもせっかく本人がいるんだから、
ここは本人に読んでもらいましょっか!」
「えぇ!?それどんなイジメですか!?」
「だって手紙って、密かに相手に
想いを伝えるための物でしょ?
本人がいるならいらないじゃない」
「とはいえ、咲が頑張って寝ずに書いてくれた
ラブレターを不意にするのもねー」
なんてラブレターを取り出して、
わざわざ私の前でひらひらするものだから。
私はもう恥ずかしさの頂点に達して、
思わず部長に掴みかかる。
「や、やっぱり返してください部長」
「ふふ、いやよ。せっかく咲がくれたラブレターだもの」
部長は満面の笑みを浮かべながら、
私の攻撃をひらりひらりとかわす。
ああもう、本当にもどかしい。
その様はまるで部長の心のようで。
すぐそこにあるのに、
でも捕まえる事はできなくて。
気づけば私は涙腺がじわりと緩むのを感じた。
なんだか急に悲しくなって、
どうしてもそれを捕まえたくて、
私は思い切って弾みをつけて部長に飛びかかる。
そしたら…
逆に、部長に抱き締められた。
「…ちょっといじめすぎちゃったかな」
なんて優しい声音で囁きながら、
私の頭を撫でる部長。
私は何が起きたのかわからなくて、
ただ頭から湯気を立ち昇らせることしかできない。
「えと、あの…どういうことですか?」
「あはは、察しが悪いわねぇ。
ラブレターを届けた。そしたら抱き締められた。
他に言葉は必要ある?」
「…わ、わかりません」
思い浮かんだのは都合のいい想像。
でも、正直あまりにも現実味がなさ過ぎて。
自分の中でそれを飲み込むことができない。
「んー、ダメかぁ…じゃぁ仕方ないわね」
呆れたように溜息をついた部長は、
少しだけ私の体を引き離す。
でもすぐに私の肩に手をおいて、
その顔を私に近づける。
そして…
「咲。私もあなたが好きよ」
そう耳元で囁いて、部長は頬にキスをした。
--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
咲の事が好き。
多分、きっかけはあの時の事だと思う。
「いつもと部長の様子が違うから…
気になってたんです」
咲は私自身気づいていない異変に気づいていた。
無意識に心の奥底にしまい込んだ弱さを見抜いて、
一人心配してくれていた。
なんだか私より咲の方が、
私の事をよくわかっているような気がして。
今度は、出陣前に咲に私を見てもらう事にした。
「あっ」「かわいいですっ」
「おっ」「かわいいかーー」
「はい」「とても!」
私の緊張をほぐすためだったのかもしれない。
いつもは伏し目がちな癖に、
直球で正面から目を見すえて
かわいいなんて言い出すから。
つい、舞い上がっちゃった。
それからはここぞという勝負どころの前には、
必ず咲に見てもらう事にした。
ちょっと辛いことがあると、
すぐ咲に甘えることにした。
もちろん咲がつらい時には私が支える。
そんな関係が心地よかった。
でも…
(結局は私は、咲にあまえてばかりなのかもね)
もちろん最後には想いを告げるつもりだった。
狙いはオーソドックスに卒業式。
でも、考えてみれば卒業式に
私がフリーになれるとは思えない。
咲はきっと、それを見抜いていたんでしょう。
やっぱりここでも、
私は咲に助けられちゃったみたい。
でも、それを素直に認めるのは
ちょっとだけ悔しいかなって思った。
ならせめて、言葉だけでも、
私が先に届けたい。
「咲。私もあなたが好きよ」
そっと頬に唇を落とす。
その頬は完全に朱に染まって、
熱くて火傷してしまいそう。
熱が移っちゃう前に唇を離して咲を覗き見ると、
咲はまだあっけにとられた顔をしていた。
「…ほ、本当なんですか?」
「どんだけ疑り深いのよ。
いくら私でも、冗談でキスなんかしないってば」
「でも、ほっぺだったし」
「ファーストキスはお互いの合意が
取れてからにしたいじゃない?」
できればそれをする前に、
咲の口から直接、その言葉を告げてほしい。
「…さあ、咲も教えて」
「私のこと、どう思っているのかを」
咲は潤んだ瞳で私の目を見つめると、
やがて意を決したように口をぎゅっと結んで。
その後、ゆっくりとその言葉を絞り出した。
「好きです…」
「部長の事が…」
「好きです」
あまりにも熱意の籠った言葉と眼差しに、
思わず熱が伝染する。
私は頬に熱が溜まっていくのを感じながらも、
上擦った声で返事をして。
「よくできました。じゃぁ…」
「今度は本当にもらっちゃうわよ?」
「……はいっ」
そのまま、小刻みに体を震わせる咲を
ぎゅっと抱きしめて…
その唇に口づけた。
--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
「…結局これ、読む前に用済みなっちゃったわねー」
「…そうですね」
ひとしきり愛を語り合って、
お互いのぬくもりを確かめ合った後。
部長は思い出したように、
あのラブレターを取り出した。
「今思い返してみると、
結構恥ずかしい事書いてた気がします」
「そうなんだ?読み上げてもらっていい?」
「ぜ、絶対に嫌です!というか
もういらないから返してください!」
「やーよ?」
私は部長に抱かれたまま、
その左手に手を伸ばす。
でも部長も腕を伸ばして、私から手紙を遠ざけた。
「ちゃーんと家でじっくり読んで、
その後は私の宝物として管理するわ」
「さらには観賞用にコピーして
肌身離さず持ち歩いてあげるから!」
「もう、部長のいじわる!
もう絶対に部長には手紙書きません!」
なんて涙交じりに怒ってみても、
部長はとっても涼しい顔で。
「ふふ、それでいいわよ?」
「大切な思いは、数を重ねると薄まっちゃうから」
「私は、この最初の一枚を大切にしていくわ」
なんて蕩けるような笑顔で言うものだから。
私は結局何も言えずに、
頬を赤らめて黙るしかなった。
まあでも、それでいいのかもしれない。
敢えて読む必要はないけれど、
それでもあれには、私の想いが詰まってる。
それを読んだ部長が、少しでも
心を動かしてくれるといい。
…とびっきりの愛をこめた手紙。
いまだ読まれてはいないけど。
(ありがとう。おかげで私は、
部長と結ばれることができました)
私は一人心の中で。
未読の手紙に感謝した。
(完)
--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
というわけで恵野さんからもらった
イラストでぷちSSでした。
最初にリクエストした時は
「竹井久、ちょっと悪戯っぽい感じで」
のように久単体でお願いしたのですが、
できあがってみたらまさかの久咲に昇華。
「この人私の事すごいわかってる!」
みたいな感じで悶えてました。
当ブログとは違って病み成分は一切含まれてませんが
原作久咲もいいよね!
恵野さん本当にありがとうございました!
ぜひこの調子で久咲を愛でてくれるとうれしいです!
ある日竹井久が下駄箱にたどり着くと、
そこには淡いピンク色の手紙が安置されていた。
「またかー」
少し辟易しながらも
手紙を手にした竹井久は、
その筆跡を見て目を見張る。
取り立てて特徴のない地味な筆跡。
でも見覚えのある筆跡。
そう、その筆跡は…
同じ麻雀部の後輩の、
宮永咲のものだった。
<登場人物>
宮永咲,竹井久
<症状>
・なし
<その他>
※いただきもののイラストに
添えたSSです。
描いたご本人が原作準拠になるように
こだわったとのことなので
白久白咲です。
ヤンデレしか受け付けない方はご注意を。
--------------------------------------------------------
部長の事が好き。
いつから好きだったのかは、
正直よくわからない。
気づいたら好きになっていたから。
でも気づいたきっかけは覚えてる。
それは部長が麻雀部を引退して、
学生議会も引退した後の事。
肩書を失って、ただの
「竹井久」になったにも関わらず。
部長はやっぱり人に囲まれていて、
なんだか胸がズキズキ痛んだ。
それでようやく気付いたんだ。
私は、部長の事が好きなんだって。
気づいてからは後悔の連続だった。
なんでもっと早く気づけなかったんだろうって。
なんで、部長が部長のうちに気づけなかったんだろうって。
物事にはそれをするべきタイミングってものがあると思う。
絶対に逃しちゃいけないタイミングが。
そのことを私はお姉ちゃんの件で、
痛いくらいに思い知らされたはずなのに。
なのに、私はまたタイミングを逃してしまった。
まだインターハイ終了直後だったら、
今よりは望みがあったかもしれないのに。
自分の鈍感さ加減には本当に嫌気がさす。
(でも)
そんな進歩のない私だけど、
それでも成長した部分もある。
今の私は知ってるんだ。
自分から動かなきゃ何も変わらないという事。
そして何もしなければ、
後で絶対に後悔が待っているという事。
だから、この想いを部長に
打ち明けてみる事にした。
季節はもう桜舞う春。
部長が卒業する前に、この想いを告げるんだ。
卒業式じゃ多分遅い。
きっと人気者の部長は、皆に囲まれて
そんな余裕はないだろうから。
面と向かって愛を語る勇気なんてないけれど、
手紙に綴って届けようと思う。
とどのつまりはラブレター。
私はそれを、部長の下駄箱にひそませた。
その一枚に、とびっきりの愛をこめて。
--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
その日いつも通りにやってきた私を、
下駄箱で待ち受けていたのは
一通のお手紙だった。
上履きの上にそっと乗せられたそれは、
シンプルな桜色。
いいセンスしてるわね。
桜の季節と相まってなかなか風流。
なんて、書いた本人がそこまで
考えたかはわからないけど。
もっともプラスの感情を抱いたのはそこまで。
次の瞬間、私は眉をへの字に曲げて肩をすくめた。
自分で言うのもなんだけど、
正直私はかなりモテる。
そんな私は、卒業が近くなったこの季節、
最後のラストスパートだと言わんばかりの
告白ラッシュに襲われていて。
ラブレターをもらった喜びよりも、
できればほっといてほしいな、
なんて残酷な感想が頭に浮かぶ今日この頃だった。
(…なんて断ろうかしら)
って、手に取る前から
断る算段を考えたりする私。
ダメダメせめて中身を見てからね?
そしてようやくそれを手に取った私は、
今度は思わず目を見開く。
封筒には差出人の名前こそ書いてなかったけど、
私にはその筆跡に見覚えがあった。
この、特徴のない地味な感じの文字…
でも、何度も目にしたことがある文字。
一人だけ心あたりがある。
そう、それは…
宮永咲。
--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
ああ、どうしてこう私はいつも。
ここぞというところで
やらかしてしまうんだろう。
差出人の名前を書き忘れた。
おまけに返事のもらい方についても書いてない。
一週間悩みに悩んで書いたのに、
あれじゃただの怪文書だ。
あわてて回収しに行ったけど、
部長はもう手紙を手に取っていて。
私は出ていくこともできず、
そそくさと下駄箱の裏に隠れた。
部長は手に取ったものの封を開ける事はなく、
そのままそれを鞄にしまい込む。
それを見届けて、私は思わず天を仰いだ。
(ああ、終わった…もう回収不可能だよ…)
あの手紙は諦めよう。
せっかく一生懸命考えた手紙だけど、
こうなったらやり直すしかない。
生まれて初めての告白くらい、失敗なしで
完璧な形で届けたいから。
失意にがっくりと肩を落としながらも、
私は部長に気づかれないように、
そろりそろりとその場を離れた。
--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
…と思ったら…背後から呼びかける声。
--------------------------------------------------------
「ねえ咲。これ、読んでから返事した方がいい?」
--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
廊下によく通る部長の声。
私はびくりと身を震わせる。
でも振り向く勇気は出なかった。
聞こえなかったふりをして、
そのまま足早に立ち去ろうとする。
「こらこら逃げないの。気づいてるでしょ?」
もっとも部長は逃がしてはくれなくて。
私は観念して、歩みを止めて振り向いた。
そこにあったのは、いつも通りの…
ううん、ちょっと意地悪な
笑みを浮かべた部長の姿。
私は絞首台にのぼる死刑囚のような
絶望感を味わいながらも、
気になった事を口にした。
「ど…どうして私だってわかったんですか」
「筆跡」
「筆跡!?私の字って、そんなに
特徴ないですよね!?」
「まぁね。だから逆にわかっちゃったのよ」
平然と答える部長。でも、それって結構
人間離れしてるような気が…
それに!
「どうして私がいるってわかったんですか?」
「オーラ」
言われて初めて自分のうかつさに気がつく私。
そうだった…私達は、ちょっと普通とは違うんだった。
筆跡の方はともかくとして…
下駄箱にラブレターが入ってて、
近くに私が隠れてたらそりゃわかっちゃうよ。
顔を真っ赤にして、すでにこれ以上ないくらい
打ちのめされている私を前にして。
なのに部長は、さらに私を追い詰める。
「まあでもせっかく本人がいるんだから、
ここは本人に読んでもらいましょっか!」
「えぇ!?それどんなイジメですか!?」
「だって手紙って、密かに相手に
想いを伝えるための物でしょ?
本人がいるならいらないじゃない」
「とはいえ、咲が頑張って寝ずに書いてくれた
ラブレターを不意にするのもねー」
なんてラブレターを取り出して、
わざわざ私の前でひらひらするものだから。
私はもう恥ずかしさの頂点に達して、
思わず部長に掴みかかる。
「や、やっぱり返してください部長」
「ふふ、いやよ。せっかく咲がくれたラブレターだもの」
ぷちさん(@puchi_drop)に先月リクしてもらったやつ pic.twitter.com/ms84a5oGs9
— 恵野@照淡大好きマン (@wmegane) 2015, 4月 16
「や、やっぱり返してください部長」
「ふふ、いやよ。せっかく咲がくれたラブレターだもの」
部長は満面の笑みを浮かべながら、
私の攻撃をひらりひらりとかわす。
ああもう、本当にもどかしい。
その様はまるで部長の心のようで。
すぐそこにあるのに、
でも捕まえる事はできなくて。
気づけば私は涙腺がじわりと緩むのを感じた。
なんだか急に悲しくなって、
どうしてもそれを捕まえたくて、
私は思い切って弾みをつけて部長に飛びかかる。
そしたら…
逆に、部長に抱き締められた。
「…ちょっといじめすぎちゃったかな」
なんて優しい声音で囁きながら、
私の頭を撫でる部長。
私は何が起きたのかわからなくて、
ただ頭から湯気を立ち昇らせることしかできない。
「えと、あの…どういうことですか?」
「あはは、察しが悪いわねぇ。
ラブレターを届けた。そしたら抱き締められた。
他に言葉は必要ある?」
「…わ、わかりません」
思い浮かんだのは都合のいい想像。
でも、正直あまりにも現実味がなさ過ぎて。
自分の中でそれを飲み込むことができない。
「んー、ダメかぁ…じゃぁ仕方ないわね」
呆れたように溜息をついた部長は、
少しだけ私の体を引き離す。
でもすぐに私の肩に手をおいて、
その顔を私に近づける。
そして…
「咲。私もあなたが好きよ」
そう耳元で囁いて、部長は頬にキスをした。
--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
咲の事が好き。
多分、きっかけはあの時の事だと思う。
「いつもと部長の様子が違うから…
気になってたんです」
咲は私自身気づいていない異変に気づいていた。
無意識に心の奥底にしまい込んだ弱さを見抜いて、
一人心配してくれていた。
なんだか私より咲の方が、
私の事をよくわかっているような気がして。
今度は、出陣前に咲に私を見てもらう事にした。
「あっ」「かわいいですっ」
「おっ」「かわいいかーー」
「はい」「とても!」
私の緊張をほぐすためだったのかもしれない。
いつもは伏し目がちな癖に、
直球で正面から目を見すえて
かわいいなんて言い出すから。
つい、舞い上がっちゃった。
それからはここぞという勝負どころの前には、
必ず咲に見てもらう事にした。
ちょっと辛いことがあると、
すぐ咲に甘えることにした。
もちろん咲がつらい時には私が支える。
そんな関係が心地よかった。
でも…
(結局は私は、咲にあまえてばかりなのかもね)
もちろん最後には想いを告げるつもりだった。
狙いはオーソドックスに卒業式。
でも、考えてみれば卒業式に
私がフリーになれるとは思えない。
咲はきっと、それを見抜いていたんでしょう。
やっぱりここでも、
私は咲に助けられちゃったみたい。
でも、それを素直に認めるのは
ちょっとだけ悔しいかなって思った。
ならせめて、言葉だけでも、
私が先に届けたい。
「咲。私もあなたが好きよ」
そっと頬に唇を落とす。
その頬は完全に朱に染まって、
熱くて火傷してしまいそう。
熱が移っちゃう前に唇を離して咲を覗き見ると、
咲はまだあっけにとられた顔をしていた。
「…ほ、本当なんですか?」
「どんだけ疑り深いのよ。
いくら私でも、冗談でキスなんかしないってば」
「でも、ほっぺだったし」
「ファーストキスはお互いの合意が
取れてからにしたいじゃない?」
できればそれをする前に、
咲の口から直接、その言葉を告げてほしい。
「…さあ、咲も教えて」
「私のこと、どう思っているのかを」
咲は潤んだ瞳で私の目を見つめると、
やがて意を決したように口をぎゅっと結んで。
その後、ゆっくりとその言葉を絞り出した。
「好きです…」
「部長の事が…」
「好きです」
あまりにも熱意の籠った言葉と眼差しに、
思わず熱が伝染する。
私は頬に熱が溜まっていくのを感じながらも、
上擦った声で返事をして。
「よくできました。じゃぁ…」
「今度は本当にもらっちゃうわよ?」
「……はいっ」
そのまま、小刻みに体を震わせる咲を
ぎゅっと抱きしめて…
その唇に口づけた。
--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
「…結局これ、読む前に用済みなっちゃったわねー」
「…そうですね」
ひとしきり愛を語り合って、
お互いのぬくもりを確かめ合った後。
部長は思い出したように、
あのラブレターを取り出した。
「今思い返してみると、
結構恥ずかしい事書いてた気がします」
「そうなんだ?読み上げてもらっていい?」
「ぜ、絶対に嫌です!というか
もういらないから返してください!」
「やーよ?」
私は部長に抱かれたまま、
その左手に手を伸ばす。
でも部長も腕を伸ばして、私から手紙を遠ざけた。
「ちゃーんと家でじっくり読んで、
その後は私の宝物として管理するわ」
「さらには観賞用にコピーして
肌身離さず持ち歩いてあげるから!」
「もう、部長のいじわる!
もう絶対に部長には手紙書きません!」
なんて涙交じりに怒ってみても、
部長はとっても涼しい顔で。
「ふふ、それでいいわよ?」
「大切な思いは、数を重ねると薄まっちゃうから」
「私は、この最初の一枚を大切にしていくわ」
なんて蕩けるような笑顔で言うものだから。
私は結局何も言えずに、
頬を赤らめて黙るしかなった。
まあでも、それでいいのかもしれない。
敢えて読む必要はないけれど、
それでもあれには、私の想いが詰まってる。
それを読んだ部長が、少しでも
心を動かしてくれるといい。
…とびっきりの愛をこめた手紙。
いまだ読まれてはいないけど。
(ありがとう。おかげで私は、
部長と結ばれることができました)
私は一人心の中で。
未読の手紙に感謝した。
(完)
--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
というわけで恵野さんからもらった
イラストでぷちSSでした。
最初にリクエストした時は
「竹井久、ちょっと悪戯っぽい感じで」
のように久単体でお願いしたのですが、
できあがってみたらまさかの久咲に昇華。
「この人私の事すごいわかってる!」
みたいな感じで悶えてました。
当ブログとは違って病み成分は一切含まれてませんが
原作久咲もいいよね!
恵野さん本当にありがとうございました!
ぜひこの調子で久咲を愛でてくれるとうれしいです!
この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/125282521
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。
この記事へのトラックバック
http://blog.sakura.ne.jp/tb/125282521
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。
この記事へのトラックバック
ラブレターの内容はどんなもんか。国広君バリのポエマーなのだろうか。
せっかく癒されたので咲久逃避行でまたいつもとは違う感覚で読めそう!行ってきます!
それとイラストが失敗しても前に進もうとしている咲を受け止める部長って感じな自分的に理想的な久咲で素晴らしいです。ありがとうございます
読まれなかったラブレターの想いが一番伝わるというのがロマンチックだんあと思いました。