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【咲-Saki-SS:久咲】久「あなたのためにやってるのよ?」【狂気】【R18】
<あらすじ>
超小ネタ。
咲の望みをかなえてあげる部長。
※『咲「…ぶ、部長が怖い」』のIFです。
部長が普通に怖い人だった場合のパターン。
話は独立しているのでお気軽にどうぞ。
<シリーズの趣旨>
黒久さんと黒咲ちゃんシリーズ。
<登場人物>
竹井久,宮永咲,その他清澄
<症状>
・狂気
・依存
・異常行動
・異常性癖
<その他>
・直接的な行為はありませんが、
性的なニュアンスを含むので
苦手な方はご遠慮ください。
--------------------------------------------------------
正直に言えば、私は部長のことが苦手でした。
いえ、別に何か酷い事をされたわけでもないんですけど…
なんとなく、怖かったんです。
考えを見透かされているような気がしました。
行動を読まれている気がしました。
個人情報が筒抜けになっている気がしました。
まるで、私だけ丸裸にされている気分。
それでいて私の方は部長の事が何もわからないんです。
例えば、こんなことがありました。
「咲ー、ちょっと待ってー」
「あ、部長…どうしたんですか?」
部活が終わって、さあ帰ろうとした矢先。
私は、部長に背後から呼び止められました。
「咲、今日水泳の授業あったのに
水着忘れてるでしょ?はい、これ」
振り返った私に部長が手渡したのは、
私の使用済み水着が入った水着袋。
(な…なんで部長がこれを持ってるの?)
思わず、全身に鳥肌が立ちました。
だって、私は今日水泳があった事を部長に話してません。
そしてこの水着袋は、教室の個人ロッカーに
しまっておいたはずだからです。
「まったくもう、女の子なんだから
気をつけないと駄目よ?
こんなの置いていったら、
何されるかわからないんだから」
「…そう、誰かに、使われちゃったり…ね」
まるで舌なめずりするかのように。
そう告げる部長の声音は、
どこか妖しく、艶めかしい感じがして。
私は返事を返すことはできず、
ただぞくぞくと背筋が粟立つのを
気取られないようにするので精一杯でした。
確かに助かったのは事実です。
でも…どうして今日、水泳があった事を
知っているのでしょうか?
どうして、私の水着袋がどこにあるか
知っているのでしょうか?
どうして、私のロッカーの場所を
知っているのでしょうか?
でも、部長はそのあたりには一切触れず、
ただニコニコと笑っているだけなのでした。
--------------------------------------------------------
考えが読まれている。
行動が読まれている。
個人情報を知られている。
それだけでも部長に対する恐怖は
募って(つのって)いきましたが、
やがてそこに、もう一つ恐怖の要素が加わりました。
なんだか、部長につけ狙われている気がするのです。
例えば私は、方向音痴なのでよく迷子になるのですが…
ひとしきり彷徨って、身も心も疲れ果てたころに…
タイミングよく部長が現れるのです。
「あら、咲じゃない。なんかずいぶん疲れてるわね」
なんて、ありきたりな挨拶をしながら
近寄ってくる部長。
それが1回2回ならまだ
偶然の範疇なんでしょうけど…
さすが二桁を超えてくると、
もう尾けられているとしか思えません。
「ぶ、部長…」
「もしかして、いつも通り迷ってた?」
「は、はい…図書館に行くつもりだったんですけど…」
「そっかー。じゃあ、連れてってあげるわ!」
「そ、そこまでは悪いですよ…
道順だけ教えてもらえれば…」
「駄目駄目。それで辿りつけなかったから、
今疲労困憊なんでしょ?」
有無を言わせず私の手を取る部長。
そして、その手は気づけば私の指の隙間に入り込んで、
抵抗する間もなく恋人繋ぎにされていて。
「ほら…遠慮しないで、ね?」
それだけに留まらず、肩と肩が触れ合うほどに
身体を近づけて、まるで私を誘惑するかのように、
ねっとりと甘い声で、耳元に囁きかけるのです。
それを聞いた私の身体は、
身の毛もよだつ悪寒にぞくぞくと震えあがって。
それでいて、身体の奥底から
疼くようなじれったいな熱がふくれあがってきて。
それは、私をどうしようもなく困惑させるのです。
--------------------------------------------------------
我慢できなくなった私は、
部長がいない時を狙って
皆にも相談してみることにしました。
「え?部長が怖い…ですか?」
「う、うん…考えが読まれてるって
思った事とかない?」
「あー、それ割としょっちゅうだじぇ」
「わしもじゃな」
「…言われてみれば、そう思うこともありますね」
驚いた事に、部員の全員が『読まれている』と
感じた事があるようでした。
「じゃ、じゃあ…なんでそんな事知ってるの?
って思った事は?」
「それもあるあるだじぇ!
私がお昼に何食べたとか
普通に当ててくるしな!」
「それはタコス一択だからでしょう」
「わしも時々驚かされるな…
どうやっちょるんかわからんが、
いつも店がすいとる時間を狙って
来店するところとか…」
「それは単に染谷先輩のお店が
いつもすいてるだけだじぇ」
「うっさいわ。いやでも本当に、
混んでる時間帯もあるんじゃよ。
そういう時間帯でも、ごくまれに
すいてる時にだけふらっと来るんじゃ。
どうやって把握しとるんじゃろな…」
「きっと、部長は妖怪なんだじぇ!」
「そんなオカルトありえません」
優希ちゃんの発言に和ちゃんが
いつもの突っ込みをいれるけど…
あながち間違ってなかったりして。
なんて思ってしまいます。
「まあ、得体が知れんで怖いっちゅうのは、
わからんでもないがな…
あれで久は尽くすタイプなんじゃ」
「相手を喜ばすために、よぉ観察しちょるだけ…
そう考えりゃ苦にならんよ?」
諭すようにそう語る染谷先輩。
さすがに、私たちより1年長く
部長と一緒に居るだけあって、
部長の事をよくわかっています。
「そ…そう…ですね」
確かに、それによって私が困るかというと、
別にそういうわけではないんです。
得体の知れない不気味さに目をつぶれば、
部長はいつも私を助けてくれているわけで。
むしろ、怖がるどころか感謝するべきなのでしょう。
それに、私だけじゃなくて、
皆にも同じように接しているのなら。
単に部長はそういう人なんだって、
開き直っちゃってもいいのかもしれません。
でも…そう考えても、なお。
部長に対する恐怖心は、
拭い去ることはできないのです。
そして、その理由は…意外にも
すぐ判明することになりました。
--------------------------------------------------------
皆と会話をしてから数日後。
部長と、二人っきりになる機会がありました。
「〜♪」
いつも通り、部長はひょうひょうとした
笑顔を浮かべています。
対照的に、私はおどおどしていました。
そんな私に、部長は一言。
「いやいや、そんなに怯えなくても、
私妖怪じゃないからね?」
「…っ!?」
一瞬にして背筋が凍りました。
だって、それは、まさに私の頭の中を
読んだとしか思えない発言で…
「っぶ、部長は…私の考えてることが、
わかるんですか…?」
「いやいや、今のは私じゃなくてもわかるでしょ」
「ど、どうして…わかるんですか?」
「んー、さっきも言ったけど、
別に妖怪とかじゃないわよ?」
「単にね、知ってるだけ」
「し、知ってる…だけ……?」
−だから、どうして知ってるんですか−
なんて私の胸中に浮かんだ質問すら
読み取ったかのように。
部長はよどみなく会話を続けます。
「例えばさ、前に咲は私が水着持ってきた時に
ものすごい驚いてたけど…」
「咲のクラスの時間割なんて、調べればわかるでしょ?」
「そうすれば、授業で水泳があるのなんてわかるでしょ?」
「咲のロッカーなんて、出席番号が
わかればわかるでしょ?」
「席だって、適当な理由つけて先生に聞けば教えてくれる」
「ほら、別に心なんて読めなくても
普通にわかることばかりじゃない」
「で、でも…妖怪の話をした時とか、
部長は部室に居なかったじゃないですか…」
「麻雀部ってね?打つ時の癖とか牌譜の記録自動化のために
ビデオカメラが導入されてる事が多いのよ?」
「当然、麻雀部での会話は全て確認させてもらってるわ」
そう言って、にっこりと笑う部長。
私は戦慄せざるを得ませんでした。
「ど…どうしてそんな事をするんですか…!?」
「そんなの、あなたの事が
好きだからに決まってるじゃない♪」
それは、突然の愛の告白。
でも、恐怖に染まりきった私にとって、
それはさらに胸中の恐れを
増幅させる効果しかありませんでした。
そんな私の様子を見た部長は、
悲しそうに目を伏せながらも、
じりじりと私に近づいてきます。
「うん、わかってる。
あなたが私を怖がっているのは」
「でもね、咲。あなた、
自分でもわかってない事があるわ」
「な…なんですか?」
「咲、あなた…」
「怖いの、好きでしょ?」
部長は私の両腕を掴むと、
そのままゆっくりと体を傾けて、
私の身体をロッカーに押し付けました。
ガシャンッ、と、金属的な音が鳴り、
それがまた私の胸の鼓動を早めます。
そう、それはまるで警鐘のように。
「はっ…離してください…!!」
「あ、心配しないで?
すぐに解放してあげるから」
「ただ…ちょっとだけ、教えてくれないかしら?」
私を組み伏せたまま、部長は耳元で囁いてきます。
熱い吐息が耳にかかり、私は思わず身をよじります。
「今…怖いわよね…?」
「そ、そりゃぁ…怖いですよ…!」
「ふふ…そうよね…ふるふる震えちゃって、
目は涙で潤んじゃって…
すっごく怖がってるわよね」
「なのに…」
「なんで、本気で抵抗しないの?」
「ふぇっ…?」
囁きながら部長は、私に体を押しつけます。
どんどん、逃げ道がなくなっていきます。
身体が密着して、部長の太ももが、その…
私の足の付け根を分け入って。
部長の肌から伝わる熱に呼応するように、
私の身体も内側から熱くなってきます。
「ねぇ、咲…抵抗、しないの?」
「このままじゃ…あなた…」
「食べられちゃうのよ?」
熱っぽい声で囁く部長。
わかってます、わかってるんです。
でも、体が動かなくて。
怖くて、怖くて、頭、真っ白で、
目の前がチカチカしてっ…!
「違うわ、咲…」
「あなたはね、本当は食べられたいの」
そう言って、部長は私の耳を、
はむっと甘噛みしました。
「!?」
「んっ……んんーーっ!!」
何が起きたのかわかりませんでした。
突然、目の前で黄色い光が点滅して、
何も考えられなくなって、
身体がガクガクと痙攣して…
まるで身体中の骨がどろどろに溶けて
無くなってしまったかのように、
自分では体重が支えきれなくなって…
気づけば私は、部長に支えられていました。
「はぁーっ……はぁーっ……ぁぁ…」
「ふふっ…これでわかった?」
「咲…怖い私を求めてるのは、あなたなのよ?」
「だから、私は怖がらせてあげてるの」
「あなたの事が好きだから」
「これからも、よろしくね?」
そう言って、部長は抵抗できない私に
そっと唇を押し付けました。
身体には、まださっきの強烈なうねりの余韻が
もやもやと残っていて。
やめてほしいはずなのに、
頭にもやがかかったように、
部長の事以外何も考えられなくて。
私は自分がおかしくなってしまった事実に
むせび泣きながら、
部長を受け入れるしかありませんでした。
--------------------------------------------------------
それからというもの、部長は毎日暇を見つけては
私と二人っきりになり、私を『怖がらせ』ました。
「駄目ねぇ、咲。一人でこんなところに来るなんて」
「だ、だって掃除当番だから」
「だからって、一人で焼却炉なんか来たら…
襲ってくださいって言ってるようなものよ?」
……
部長の『それ』は、時と場所を選びませんでした。
むしろ、予想できないような時にこそ
部長はやってきて、私を責めたてます。
その度に私は、恥ずかしくなって、
はしたなくなって、浅ましくなって…
その身が蕩けてしまうのです。
私には、『経験』はありませんでしたが、
それでも年相応の知識は持っています。
だから…自分の体が、部長に対して
どんな反応を示しているのかは理解していました。
「んっ…ふぅ……んん…」
「…ほら、咲。へたってないで…
もう休み時間終わっちゃうわよ?」
「た、立て、ません…」
部長は、直接的な行為はほとんどしてきません。
したとしても、せいぜいキスくらいです。
なのに、なのに…なんで、こんなに…!
「ありゃま。じゃ、保健室行きましょうか。
連れてってあげるわ」
「は、はい…」
「まあ、保健室なんて行ったら、
今より悪化しちゃうんだけどね?」
「…っ!ひ、ひとりで…いきますっ」
「あはは、何言ってるの。
そもそも一人で動けないから
保健室行くんでしょ?」
「大丈夫よ?心配しなくても」
「今度は腰が抜けちゃっても、
そのままベッドで休めるんだから…ね?」
「〜〜っ!!」
「ふふ…咲、廊下通る時は顔隠した方がいいわよ?」
「今あなた、すっごくやらしい顔してるから」
「は…はいぃ…」
「まったくもう…本当は
まだ物足りないんじゃないの?」
「そ、そんな事…」
気づけば私は、部長が与える恐怖に
縛られていました。
恐怖を、求めるようになってしまいました。
口では怖がりながら、それを
自分からねだるようになってしまったのです。
--------------------------------------------------------
さらに厄介なことには、部長が私に与えたのは、
恐怖だけではありませんでした。
恐怖以上の安らぎ。
そして、愛を与えてくれました。
例えば、『恐怖』が終わった後。
ひくひくと『恐怖』の余韻に体を震わせる私を、
その両腕で包み込むように抱き寄せて。
そのまま、片方の腕を背中に回しながら、
もう片方の手で慈しむように私の頭を
やさしく撫でてくれるのです。
まだ余韻が冷めやらぬ時にこれをされると、
ぬるま湯に浸かってまどろんでいるような、
どうしようもなく幸せな気持ちになって。
もう部長以外のことは、どうでもよくなってしまって。
そしてつい自分から、部長の肌に
私の肌をすり寄せてしまうのです。
もっともそうしているうちに、
また、部長が私をいじめだして…
終わらなくなってしまう事も多いのですが。
飴と鞭。それを交互に繰り返されて、
私はどっぷりと部長に嵌って(はまって)いきました。
--------------------------------------------------------
こうして、いつの間にか私は、
部長に負けず劣らず狂った人間に
なってしまっていました。
「そんなわけでね?部長ったらひどいんだよ?」
「いつの間にか私の部屋に
盗撮用のカメラ仕掛けてたみたいで、
私の行動が全部筒抜けになってて」
「何気ない時にいきなり、
『あの時、私の事考えて一人でしてたでしょ』
とか言ってくるんだから」
「え、ええと…普通に
警察に行った方がいいのでは…」
「え?なんで?」
「だ、だって盗撮ですよね…?犯罪じゃないですか!」
「え?それはそうだけど…部長は
私のためにやってくれてるんだし」
「そうよ。いつも言ってるけど、
私が好きでやってるんじゃなくて、
咲のためにやってるんだからね?」
いつの間にか部室にやってきた部長が、
まったく動じず普通に会話に参加してきます。
部長の行為は全て私のため。
そう言われてしまうと、そもそも
狂っていたのは部長ではなくて、
私の方だったのかもしれません。
部長はそれに気づいてて、
私のために狂ってくれた。
そう考えた方が正しいのかもしれません。
「じゃあ、部長は嫌々やってるということですか?」
「あ、そこはもちろん楽しんでるけど」
前言撤回です。やっぱり私達はどちらも
最初からちょっとおかしかったんだと思います。
似た者同士でお似合いだと思います。
「ほら、私ってちょっと
Sっぽいところあるでしょ?」
「だから、咲みたいに
『いじめていじめて!』っていうオーラ出されると
我慢できなくなっちゃうのよねー」
「い、今更否定はしませんけど…
部長のせいで私も悪化しちゃったんですからね?」
「そこはもちろんわかってるわよ?
ちゃんと自分がしたことの責任は取るわ」
「そうちゃんと、一生ね…?」
何気ない会話の中で。
突然部長は私の目を見据えると、
狂気に染まった笑顔で微笑みかけます。
ぞくりっ。
私はいつものように劣情を催すと、
悦びに声を震わせながらこう返すのでした。
「は、はい…一生、私の事を、
怖がらせて縛ってください…」
そんな私の艶めいた声を聞いた和ちゃんが、
怯えるように一言ぼそりと呟きました。
「あ…あなた達は…狂ってます……!」
幾ばくかの軽蔑を含んだその声すらも、
今の私には甘い疼きをもたらしたのでした。
(完)
超小ネタ。
咲の望みをかなえてあげる部長。
※『咲「…ぶ、部長が怖い」』のIFです。
部長が普通に怖い人だった場合のパターン。
話は独立しているのでお気軽にどうぞ。
<シリーズの趣旨>
黒久さんと黒咲ちゃんシリーズ。
<登場人物>
竹井久,宮永咲,その他清澄
<症状>
・狂気
・依存
・異常行動
・異常性癖
<その他>
・直接的な行為はありませんが、
性的なニュアンスを含むので
苦手な方はご遠慮ください。
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正直に言えば、私は部長のことが苦手でした。
いえ、別に何か酷い事をされたわけでもないんですけど…
なんとなく、怖かったんです。
考えを見透かされているような気がしました。
行動を読まれている気がしました。
個人情報が筒抜けになっている気がしました。
まるで、私だけ丸裸にされている気分。
それでいて私の方は部長の事が何もわからないんです。
例えば、こんなことがありました。
「咲ー、ちょっと待ってー」
「あ、部長…どうしたんですか?」
部活が終わって、さあ帰ろうとした矢先。
私は、部長に背後から呼び止められました。
「咲、今日水泳の授業あったのに
水着忘れてるでしょ?はい、これ」
振り返った私に部長が手渡したのは、
私の使用済み水着が入った水着袋。
(な…なんで部長がこれを持ってるの?)
思わず、全身に鳥肌が立ちました。
だって、私は今日水泳があった事を部長に話してません。
そしてこの水着袋は、教室の個人ロッカーに
しまっておいたはずだからです。
「まったくもう、女の子なんだから
気をつけないと駄目よ?
こんなの置いていったら、
何されるかわからないんだから」
「…そう、誰かに、使われちゃったり…ね」
まるで舌なめずりするかのように。
そう告げる部長の声音は、
どこか妖しく、艶めかしい感じがして。
私は返事を返すことはできず、
ただぞくぞくと背筋が粟立つのを
気取られないようにするので精一杯でした。
確かに助かったのは事実です。
でも…どうして今日、水泳があった事を
知っているのでしょうか?
どうして、私の水着袋がどこにあるか
知っているのでしょうか?
どうして、私のロッカーの場所を
知っているのでしょうか?
でも、部長はそのあたりには一切触れず、
ただニコニコと笑っているだけなのでした。
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考えが読まれている。
行動が読まれている。
個人情報を知られている。
それだけでも部長に対する恐怖は
募って(つのって)いきましたが、
やがてそこに、もう一つ恐怖の要素が加わりました。
なんだか、部長につけ狙われている気がするのです。
例えば私は、方向音痴なのでよく迷子になるのですが…
ひとしきり彷徨って、身も心も疲れ果てたころに…
タイミングよく部長が現れるのです。
「あら、咲じゃない。なんかずいぶん疲れてるわね」
なんて、ありきたりな挨拶をしながら
近寄ってくる部長。
それが1回2回ならまだ
偶然の範疇なんでしょうけど…
さすが二桁を超えてくると、
もう尾けられているとしか思えません。
「ぶ、部長…」
「もしかして、いつも通り迷ってた?」
「は、はい…図書館に行くつもりだったんですけど…」
「そっかー。じゃあ、連れてってあげるわ!」
「そ、そこまでは悪いですよ…
道順だけ教えてもらえれば…」
「駄目駄目。それで辿りつけなかったから、
今疲労困憊なんでしょ?」
有無を言わせず私の手を取る部長。
そして、その手は気づけば私の指の隙間に入り込んで、
抵抗する間もなく恋人繋ぎにされていて。
「ほら…遠慮しないで、ね?」
それだけに留まらず、肩と肩が触れ合うほどに
身体を近づけて、まるで私を誘惑するかのように、
ねっとりと甘い声で、耳元に囁きかけるのです。
それを聞いた私の身体は、
身の毛もよだつ悪寒にぞくぞくと震えあがって。
それでいて、身体の奥底から
疼くようなじれったいな熱がふくれあがってきて。
それは、私をどうしようもなく困惑させるのです。
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我慢できなくなった私は、
部長がいない時を狙って
皆にも相談してみることにしました。
「え?部長が怖い…ですか?」
「う、うん…考えが読まれてるって
思った事とかない?」
「あー、それ割としょっちゅうだじぇ」
「わしもじゃな」
「…言われてみれば、そう思うこともありますね」
驚いた事に、部員の全員が『読まれている』と
感じた事があるようでした。
「じゃ、じゃあ…なんでそんな事知ってるの?
って思った事は?」
「それもあるあるだじぇ!
私がお昼に何食べたとか
普通に当ててくるしな!」
「それはタコス一択だからでしょう」
「わしも時々驚かされるな…
どうやっちょるんかわからんが、
いつも店がすいとる時間を狙って
来店するところとか…」
「それは単に染谷先輩のお店が
いつもすいてるだけだじぇ」
「うっさいわ。いやでも本当に、
混んでる時間帯もあるんじゃよ。
そういう時間帯でも、ごくまれに
すいてる時にだけふらっと来るんじゃ。
どうやって把握しとるんじゃろな…」
「きっと、部長は妖怪なんだじぇ!」
「そんなオカルトありえません」
優希ちゃんの発言に和ちゃんが
いつもの突っ込みをいれるけど…
あながち間違ってなかったりして。
なんて思ってしまいます。
「まあ、得体が知れんで怖いっちゅうのは、
わからんでもないがな…
あれで久は尽くすタイプなんじゃ」
「相手を喜ばすために、よぉ観察しちょるだけ…
そう考えりゃ苦にならんよ?」
諭すようにそう語る染谷先輩。
さすがに、私たちより1年長く
部長と一緒に居るだけあって、
部長の事をよくわかっています。
「そ…そう…ですね」
確かに、それによって私が困るかというと、
別にそういうわけではないんです。
得体の知れない不気味さに目をつぶれば、
部長はいつも私を助けてくれているわけで。
むしろ、怖がるどころか感謝するべきなのでしょう。
それに、私だけじゃなくて、
皆にも同じように接しているのなら。
単に部長はそういう人なんだって、
開き直っちゃってもいいのかもしれません。
でも…そう考えても、なお。
部長に対する恐怖心は、
拭い去ることはできないのです。
そして、その理由は…意外にも
すぐ判明することになりました。
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皆と会話をしてから数日後。
部長と、二人っきりになる機会がありました。
「〜♪」
いつも通り、部長はひょうひょうとした
笑顔を浮かべています。
対照的に、私はおどおどしていました。
そんな私に、部長は一言。
「いやいや、そんなに怯えなくても、
私妖怪じゃないからね?」
「…っ!?」
一瞬にして背筋が凍りました。
だって、それは、まさに私の頭の中を
読んだとしか思えない発言で…
「っぶ、部長は…私の考えてることが、
わかるんですか…?」
「いやいや、今のは私じゃなくてもわかるでしょ」
「ど、どうして…わかるんですか?」
「んー、さっきも言ったけど、
別に妖怪とかじゃないわよ?」
「単にね、知ってるだけ」
「し、知ってる…だけ……?」
−だから、どうして知ってるんですか−
なんて私の胸中に浮かんだ質問すら
読み取ったかのように。
部長はよどみなく会話を続けます。
「例えばさ、前に咲は私が水着持ってきた時に
ものすごい驚いてたけど…」
「咲のクラスの時間割なんて、調べればわかるでしょ?」
「そうすれば、授業で水泳があるのなんてわかるでしょ?」
「咲のロッカーなんて、出席番号が
わかればわかるでしょ?」
「席だって、適当な理由つけて先生に聞けば教えてくれる」
「ほら、別に心なんて読めなくても
普通にわかることばかりじゃない」
「で、でも…妖怪の話をした時とか、
部長は部室に居なかったじゃないですか…」
「麻雀部ってね?打つ時の癖とか牌譜の記録自動化のために
ビデオカメラが導入されてる事が多いのよ?」
「当然、麻雀部での会話は全て確認させてもらってるわ」
そう言って、にっこりと笑う部長。
私は戦慄せざるを得ませんでした。
「ど…どうしてそんな事をするんですか…!?」
「そんなの、あなたの事が
好きだからに決まってるじゃない♪」
それは、突然の愛の告白。
でも、恐怖に染まりきった私にとって、
それはさらに胸中の恐れを
増幅させる効果しかありませんでした。
そんな私の様子を見た部長は、
悲しそうに目を伏せながらも、
じりじりと私に近づいてきます。
「うん、わかってる。
あなたが私を怖がっているのは」
「でもね、咲。あなた、
自分でもわかってない事があるわ」
「な…なんですか?」
「咲、あなた…」
「怖いの、好きでしょ?」
部長は私の両腕を掴むと、
そのままゆっくりと体を傾けて、
私の身体をロッカーに押し付けました。
ガシャンッ、と、金属的な音が鳴り、
それがまた私の胸の鼓動を早めます。
そう、それはまるで警鐘のように。
「はっ…離してください…!!」
「あ、心配しないで?
すぐに解放してあげるから」
「ただ…ちょっとだけ、教えてくれないかしら?」
私を組み伏せたまま、部長は耳元で囁いてきます。
熱い吐息が耳にかかり、私は思わず身をよじります。
「今…怖いわよね…?」
「そ、そりゃぁ…怖いですよ…!」
「ふふ…そうよね…ふるふる震えちゃって、
目は涙で潤んじゃって…
すっごく怖がってるわよね」
「なのに…」
「なんで、本気で抵抗しないの?」
「ふぇっ…?」
囁きながら部長は、私に体を押しつけます。
どんどん、逃げ道がなくなっていきます。
身体が密着して、部長の太ももが、その…
私の足の付け根を分け入って。
部長の肌から伝わる熱に呼応するように、
私の身体も内側から熱くなってきます。
「ねぇ、咲…抵抗、しないの?」
「このままじゃ…あなた…」
「食べられちゃうのよ?」
熱っぽい声で囁く部長。
わかってます、わかってるんです。
でも、体が動かなくて。
怖くて、怖くて、頭、真っ白で、
目の前がチカチカしてっ…!
「違うわ、咲…」
「あなたはね、本当は食べられたいの」
そう言って、部長は私の耳を、
はむっと甘噛みしました。
「!?」
「んっ……んんーーっ!!」
何が起きたのかわかりませんでした。
突然、目の前で黄色い光が点滅して、
何も考えられなくなって、
身体がガクガクと痙攣して…
まるで身体中の骨がどろどろに溶けて
無くなってしまったかのように、
自分では体重が支えきれなくなって…
気づけば私は、部長に支えられていました。
「はぁーっ……はぁーっ……ぁぁ…」
「ふふっ…これでわかった?」
「咲…怖い私を求めてるのは、あなたなのよ?」
「だから、私は怖がらせてあげてるの」
「あなたの事が好きだから」
「これからも、よろしくね?」
そう言って、部長は抵抗できない私に
そっと唇を押し付けました。
身体には、まださっきの強烈なうねりの余韻が
もやもやと残っていて。
やめてほしいはずなのに、
頭にもやがかかったように、
部長の事以外何も考えられなくて。
私は自分がおかしくなってしまった事実に
むせび泣きながら、
部長を受け入れるしかありませんでした。
--------------------------------------------------------
それからというもの、部長は毎日暇を見つけては
私と二人っきりになり、私を『怖がらせ』ました。
「駄目ねぇ、咲。一人でこんなところに来るなんて」
「だ、だって掃除当番だから」
「だからって、一人で焼却炉なんか来たら…
襲ってくださいって言ってるようなものよ?」
……
部長の『それ』は、時と場所を選びませんでした。
むしろ、予想できないような時にこそ
部長はやってきて、私を責めたてます。
その度に私は、恥ずかしくなって、
はしたなくなって、浅ましくなって…
その身が蕩けてしまうのです。
私には、『経験』はありませんでしたが、
それでも年相応の知識は持っています。
だから…自分の体が、部長に対して
どんな反応を示しているのかは理解していました。
「んっ…ふぅ……んん…」
「…ほら、咲。へたってないで…
もう休み時間終わっちゃうわよ?」
「た、立て、ません…」
部長は、直接的な行為はほとんどしてきません。
したとしても、せいぜいキスくらいです。
なのに、なのに…なんで、こんなに…!
「ありゃま。じゃ、保健室行きましょうか。
連れてってあげるわ」
「は、はい…」
「まあ、保健室なんて行ったら、
今より悪化しちゃうんだけどね?」
「…っ!ひ、ひとりで…いきますっ」
「あはは、何言ってるの。
そもそも一人で動けないから
保健室行くんでしょ?」
「大丈夫よ?心配しなくても」
「今度は腰が抜けちゃっても、
そのままベッドで休めるんだから…ね?」
「〜〜っ!!」
「ふふ…咲、廊下通る時は顔隠した方がいいわよ?」
「今あなた、すっごくやらしい顔してるから」
「は…はいぃ…」
「まったくもう…本当は
まだ物足りないんじゃないの?」
「そ、そんな事…」
気づけば私は、部長が与える恐怖に
縛られていました。
恐怖を、求めるようになってしまいました。
口では怖がりながら、それを
自分からねだるようになってしまったのです。
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さらに厄介なことには、部長が私に与えたのは、
恐怖だけではありませんでした。
恐怖以上の安らぎ。
そして、愛を与えてくれました。
例えば、『恐怖』が終わった後。
ひくひくと『恐怖』の余韻に体を震わせる私を、
その両腕で包み込むように抱き寄せて。
そのまま、片方の腕を背中に回しながら、
もう片方の手で慈しむように私の頭を
やさしく撫でてくれるのです。
まだ余韻が冷めやらぬ時にこれをされると、
ぬるま湯に浸かってまどろんでいるような、
どうしようもなく幸せな気持ちになって。
もう部長以外のことは、どうでもよくなってしまって。
そしてつい自分から、部長の肌に
私の肌をすり寄せてしまうのです。
もっともそうしているうちに、
また、部長が私をいじめだして…
終わらなくなってしまう事も多いのですが。
飴と鞭。それを交互に繰り返されて、
私はどっぷりと部長に嵌って(はまって)いきました。
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こうして、いつの間にか私は、
部長に負けず劣らず狂った人間に
なってしまっていました。
「そんなわけでね?部長ったらひどいんだよ?」
「いつの間にか私の部屋に
盗撮用のカメラ仕掛けてたみたいで、
私の行動が全部筒抜けになってて」
「何気ない時にいきなり、
『あの時、私の事考えて一人でしてたでしょ』
とか言ってくるんだから」
「え、ええと…普通に
警察に行った方がいいのでは…」
「え?なんで?」
「だ、だって盗撮ですよね…?犯罪じゃないですか!」
「え?それはそうだけど…部長は
私のためにやってくれてるんだし」
「そうよ。いつも言ってるけど、
私が好きでやってるんじゃなくて、
咲のためにやってるんだからね?」
いつの間にか部室にやってきた部長が、
まったく動じず普通に会話に参加してきます。
部長の行為は全て私のため。
そう言われてしまうと、そもそも
狂っていたのは部長ではなくて、
私の方だったのかもしれません。
部長はそれに気づいてて、
私のために狂ってくれた。
そう考えた方が正しいのかもしれません。
「じゃあ、部長は嫌々やってるということですか?」
「あ、そこはもちろん楽しんでるけど」
前言撤回です。やっぱり私達はどちらも
最初からちょっとおかしかったんだと思います。
似た者同士でお似合いだと思います。
「ほら、私ってちょっと
Sっぽいところあるでしょ?」
「だから、咲みたいに
『いじめていじめて!』っていうオーラ出されると
我慢できなくなっちゃうのよねー」
「い、今更否定はしませんけど…
部長のせいで私も悪化しちゃったんですからね?」
「そこはもちろんわかってるわよ?
ちゃんと自分がしたことの責任は取るわ」
「そうちゃんと、一生ね…?」
何気ない会話の中で。
突然部長は私の目を見据えると、
狂気に染まった笑顔で微笑みかけます。
ぞくりっ。
私はいつものように劣情を催すと、
悦びに声を震わせながらこう返すのでした。
「は、はい…一生、私の事を、
怖がらせて縛ってください…」
そんな私の艶めいた声を聞いた和ちゃんが、
怯えるように一言ぼそりと呟きました。
「あ…あなた達は…狂ってます……!」
幾ばくかの軽蔑を含んだその声すらも、
今の私には甘い疼きをもたらしたのでした。
(完)
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お互いの深層に潜在的に惹かれあった結果…な純愛ですよね。
やっぱりぷちさんの咲久の現実感と狂気のバランスはここでしか見られない絶妙に素敵な色をしてます。
本当に咲は幸せ者。
流石文学少女。少々大人向けな文学も嗜んでるんでしょうか。言葉攻めのレパートリー凄そう。
時間が空いた時などで良いのでお願いします。
ごめんなさいー。
ブログの構造自体は
最初から用意されたものを使ってるので
その手の奴はちょっとよくわからないです…