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【咲-Saki-SS:久咲】 久「お願い、お願い、お願い」【共依存】【シリアス】【頂きもの挿絵あり】

<あらすじ>
私の両親が離婚した。
咲の家庭も崩壊した。

そして私達が残された。
傷つき悲しむ私達だけが。

これは、そんな後に残された私達が
『理想の家庭』を築くまでの物語。


<登場人物>
竹井久,宮永咲

<症状>
・共依存
・ヤンデレ
・異常行動

<その他>
次のリクエストに対する作品です。
・久咲のシリアスかあまあまで、
 もし中3の頃のやさぐれてた(って設定で。)部長が、
 中1の咲さんに出会っていたらというIF。

 やさぐれてる部長をちょっと
 おどおどしながらも頼ってる咲さんとか、
 怖がらせてる事に軽くへこんで、
 逆に少しやさしくしたりとかするツンデレな部長。

※ごめんなさい、予想以上に
 重苦しい話になりました。

※今回Twitterで仲良くさせていただいてる
 いろは@よわい同盟さん(@kyklilyholic)から
 挿絵を2枚描いていただきました!
 いろはさんありがとうございます!


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親が離婚した。


醜い離婚だった。
お互いに相手を憎しみあって、
お互いに権利を主張しあって。
私はただ、その狭間で
もみくちゃにされるしかなかった。


父も母も、私を引き取る事を嫌がった。
もうお互いに次の相手の事を考えていたんだろう。
あれこれ理由をつけて、
厄介者の私を相手に押し付けようとした。

私は一人で暮らす事を主張した。
望まれてない相手に引き取られても、
その後の人生が辛くなる事は目に見えている。
そんなのは子供でも分かる事だ。

そしたら今度は、誰が
その金を出すんだっていう話になった。
お前が悪い、アンタが悪い。
お前が出せ、いやよ、何で私が。


愛すべき両親は、愛の結晶の前で
人の醜さを余す事なく見せつけてくれた。
両親から拒絶された悲しみは、
すぐさま怒りへ、やがて憎しみへと変わった。


そして私は牙をむく。


私はできるだけ両者の負担が
重くなる提案ばかりを繰り返した。
私にかかる費用は全て両者で折半して負担する。
でも私には一切干渉しない。
それを私が就職するまで続ける。
エトセトラ、エトセトラ。


皮肉にも、裁判では一番子供だったはずの
私の意見ばかりが取り入れられた。
だって、私は一番の被害者だったから。
だって、私は両者の不利な事実を一手に握っていたから。

両親からまるで仇を見るような
憎しみに燃える視線を向けられて。
私は自然に、はっ、と冷徹な笑みを返した。


あはは、もっと苦しめ。


苦しめ、苦しめ、苦しめ。



せめて、被害者の私以上は。



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空を薄暗い雲が覆い尽くしている。

その陰鬱な雰囲気を目の前にして、
私は学校を休校とする事に決めた。

とはいえ家にいるのも避けたかった。
部屋に閉じこもっていると、
どこからか両親の喧嘩する声が
聞こえてくるような気がして。

私は少し大きめの鞄を手に取ると、
ろくに身だしなみも整えず外に出る。

目的地はいつもの公園。ちょっと歩くけど、
人がめったに来ないくせに
無駄に大きな公園がある。

人が来ない理由。それは治安が悪いから。
それでも平日に繁華街をうろついて
補導されるよりはましだ。


公園に着いた。
指定席と決めたベンチに腰を掛けて
読みかけの本を開く。

これで何冊目だろうか。
一人になってから、口数が減るのに反比例して
本の数だけが増えていった。

現実は理不尽で腐ってる。
だったら逃げ込む先は
空想の世界しかない。

なんて言うくせに、わざわざ救いのない本ばかり
読み耽るあたり、私は相当病んでいるんだろう。


日がな一日そこにいた。
やがて日が暮れ、夜の帳が下り始め。
いよいよ公園が犯罪的な雰囲気を醸し出す。

さすがに活字が見えなくなってきたし、
そろそろ終わりにしよう。
そう思ってぱたんと本を閉じた時…


「……」


視界の端に、あまりにも場に
似つかわしくない子供をとらえた。


(…なんでこんなのがここに来てんのよ)


まだ幼い女の子だった。
それでも一応制服を着ている辺り、
中学一年生と言ったところだろうか。
あれで私と2歳違いとか
信じられないくらい幼く見える。

特徴のない地味なショートカット。
ただある一点だけが寝癖のように
ピンと尖って、妙に存在感を主張している。

その子はまるで、
『この世の不幸を一身に背負ってます』
とでも言わんばかりに沈んだ面持ちで、
がっくりと項垂れながら公園に現れた。

そして私の対角に位置するベンチに座り込むと、
そのままぐったりと動かなくなる。


(いやいや何のんびり休んでんのよ。
 早く帰りなさいよ)


私の思いとは裏腹に、その子は一向に
動こうとしなかった。
そうこうしているうちに、
辺りにけたたましい改造バイクの爆音が
断続的に響き渡るようになってきた。


だんだん苛立ちが募ってくる。

自分を善人だとは思ってないけれど、
あの子に『何か』あった時に
『私は知ってたけど見捨てた人間です』
なんてレッテルを
押し付けられるのはごめんだ。


「…はぁっ……」


私は大げさに溜息をつくと、
ズカズカと大股でその少女に歩み寄る。
そしてそのままの勢いで不躾な声をぶつけた。


「アンタバカなの?ここがどんだけ
 治安悪いかわかってないの?」

「ひっ…!?」


自分の口から発せられた声の低さに驚く。
これじゃまるで恫喝だ。

案の定、女の子はビクリと体を震わせて、
まるで獅子に睨まれた子兎のように
怯えた目を私に向けた。

脅かし過ぎた事に少しだけ反省しながらも、
私はそのままの口調で吐き捨てる。


「危ないからさっさと帰りなさいよ。
 ほら、行った行った」

「……っ」


私の忠告を聞いても、女の子は
椅子を立とうとはしなかった。
やがて、か細い声で躊躇いがちに
ぽそぽそと喋りはじめる。


「か、帰りたいのは
 やまやまなんですけど…」

「何よ」

「帰れなくて…えと、その…私…」


「迷子…なんです」


「はあっ!?」


私は思わず素っ頓狂な声をあげた。
その声を聞いて、また女の子が震え上がる。
その態度にイラついて、思わず
怒鳴りそうになるのを必死で堪えた。


(何この子…めんどくさっ!!)


これが、これから長い付き合いになる女の子…
宮永咲と私の、初めての出会いだった。



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「……」

「……」


おててつないで迷子の引率。
我ながら、なんでこんな事してるのか
理解に苦しむけども。

あんなところで迷子と言われて
放置するわけにもいかなかった。

一言も口を聞かず早足で
進んでいく私に対し。
短い脚で懸命に歩調を揃えながら、
迷子の子猫…宮永咲はお礼の言葉を口にする。


「わ、わざわざありがとうございます…」

「別にアンタのためじゃないわよ。
 あそこで放置したら私の夢見が悪くなるからってだけ。
 ホントいい迷惑だわ」

「ご、ごめんなさい…」


私の物言いに対していちいち怖がりながらも、
その小さな手は私の手をぎゅっと掴んでいて。

なんとなくばつが悪くなって。
私は話題そらしもかねて、さっきから
気になっていた質問をぶつけてみる事にした。


「そもそも迷子って何よ。
 制服って事は学校帰りでしょ?
 何をどうしたら町を離れて
 全力で迷子になれるわけ?」

「……」

「ちょっと。聞いてるの?」

「…わかりません。何も考えてなかったから」

「…何よそれ」


予想外の返事だった。


「考えたくなかったんです。何も」

「何かしてないとつらくて。
 押し潰されちゃいそうで。
 だから、ただ歩いて」

「気が付いたら…周りが知らない
 景色になってました」

「……っ」


私は思わず足を止めて、
咲の顔を覗き込む。

そう語る咲の目は、完全に光を失っていて。
その余りの重苦しさに、私はつい目をそらした。

その目に生気が感じられないのは、
単に迷子でくたびれていただけだと
思っていたけれど。


多分違う。これは、もっと底知れない闇。
きっと、触れてはいけない闇。


「…あっそ」


初対面で冷たく当たってしまった事を
少しだけ後悔した。
でもそれを素直に認めて、
優しい言葉をかけられるほど
私は人間ができていない。


「…ま、何があったのかはいちいち聞かないけどさ。
 最低限越えちゃいけないラインは考えなさいよ」

「あそこ、本当に危険なんだから」

「無駄話はこのくらいにして
 さっさと帰りましょうか」


私達は再び歩き始めた。
今度はちょっとだけ歩幅をせばめて。

その意図に気づいたのか否か。
咲はぎゅっと私の手を強く握りしめて、
その日初めて微笑んだ。



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今日も今日とて自主休校。
私は性懲りもなくあの治安の悪い公園で
本の虫と化していた。


(あーあ…読み終えちゃったか)


予定より随分早く読み終えてしまった。
今日はこの一冊しか持ってきてないのに。

一度帰ろうか。いや、それは嫌だ。
どうせあと数時間もすれば、
嫌でもあの寒々しい部屋に
戻らないといけないんだから。


(何か、時間の潰れるような事ないかな)


と言っても特に思いつかず。
何をするでもなく足をぶらぶらとさせながら
ぼーっと公園の入口を眺めていた。


…とそこに、どこかで見た事のある
頭に角をつけた女の子。


(…なんでまた来るのよ)


呆れてため息をつきながら、
少しずつ近づいてくる咲をじっと眺める。

そして思わず背筋が粟立った。


表情の読み取れない、空っぽの顔。


一体どんな事があったら、
ここまで表情を失ってしまうんだろう。
少なくとも私は、これまでの人生で
こんな哀しい顔を見た事はなかった。


その表情に内心気圧されながらも、
私は何気ない風を装う。

でも咲は私の姿を見つけると、
その顔に少しだけ笑顔が灯った。


「あっ…竹井さん……」


どこか救われたような顔。
それはまるで、真っ暗な絶望の中に
一縷の望みを見出したような。


(何でそんな顔するのよ。意味分かんない)


毒づきながらも、私は胸の内に
正体不明のぬくもりを感じて。
でもなぜかそれを認めたくなくて、
私は努めてぶっきらぼうな声を出した。


「ったく…来るなって言ったでしょうに」



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咲は前会った時と同じようにおどおどしながらも。
でも少しだけ慣れたように、
私の隣のベンチに座った。


「…何?また迷子ってわけ?」

「…はい」

「ありえないでしょ。あんな遠いところから
 迷って偶然またここにたどり着くとか。
 最初からここに来る気だったんじゃないの?」

「…そうかもしません」

「バッカじゃないの?
 言ったでしょ?ここは危ないって。
 何?もしかしてレイプ願望でもあるの?」

「れ…!そ、そんなのないもん!」

「あ、わかるんだ。だったら
 ここに来るのはやめときなさいよ。
 迷いたきゃ他にいくらでも
 安全な場所はあるでしょうに」


ぴしゃりと言い放つ私に、
しょんぼりとうなだれる咲。

でも次の瞬間には、意を決したように
また顔をあげて語り掛けてきた。


「……あの」

「何?」

「そ、それなら…どうして竹井さんは、
 ここにいるんですか?」

「……」


周囲を沈黙が支配する。
まあ、確かに聞かれて当然だと思う。
でも、そんなの答えは単純で。


「……別に、どうなったっていいからよ」

「私なんか」

「…そうですか」


私の回答に対して、一瞬はっと息のみながらも。
咲は肯定する事も、否定する事もせず。
ただ、一言ぽつりとそう返した。
でも…


「そっか…」


その声に、どこか安堵が混じっている気がしたのは、
私の気のせいだったのだろうか。



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それからも、咲はしばしばこの公園にやってきた。

その回数を重ねていくにつれて。
私は夕方になると、公園の入り口に
咲の姿が現れるのを
チラチラと確認するようになっていた。

そして咲の姿を目に留めると、
呆れた風を装ってこう声をかけるのだ。


「来るなって言ったでしょ」

「だって、竹井さんに会おうと思ったら、
 ここに来るしかないですから」


もう咲は私に怯えたりはしない。
気づけば私も、こうして咲と話す事が
少しだけ楽しみになっていた。

とはいえ咲の身が心配なのは本当の事で。
そもそも、咲がなんで遠い道のりを経てまで
わざわざ私に会いに来るのかわからなかった。


「…なんで私に会おうなんて思うのよ。
 頭おかしいんじゃないの?」

「…そうですね」

「……」


咲の顔から笑顔が消えて、
例の無表情が顔を出す。

いつもならここで気圧されて引いてしまうところだけど、
今日はいっそ踏み込んでみる事にした。


「アンタさ、いっつも暗い顔してるけど、
 なんか悩みでもあるわけ?」

「悩み…ですか。ありますけど」

「言っても仕方ないと思います。
 どうせ、解決なんてできっこないから」

「まどろっこしいわね…結局何なのよ。
 暇つぶしに聞いてあげるわ」

「……」


「家庭が、崩壊しました」


「……!」


「もう、戻りません」



私は二の句がつげなくなった。


思わず息を呑んだ私を前に、
咲は淡々と言葉を続ける。



「苦しいです」


「苦しいです」


「…そのうち、楽になるんでしょうか」



私はその質問に対する回答を
持ち合わせてはいなかった。

だって私も…同じように。



現在進行形で苦しんでいるのだから。



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咲から詳しく話を聞いた。


重い、重い話だった。それこそ、
私の話が喜劇にすら感じるほどに。

幸せだった家庭。不幸。狂う歯車。
誰が悪いわけでもないのに、
坂道を転がり落ちるかのように状況は悪化して。
取り返しがつかなくなって。


そして最近、ついに別居する事が決まったらしい。


「お父さんかお母さんの、どちらかに
 ついていく事になるそうです」

「お姉ちゃんとは離れ離れになります」

「二度と、会えないかもしれません」

「苦しいです」


「…もう、何も考えたくないよ」


咲がぽつりぽつりと苦しみを紡ぐ。
こぼれ出た言葉の一つ一つに、
尋常じゃない重さが籠められていた。


「……そう」


かける言葉が見つからなかった。
つい最近家庭崩壊した私だからこそわかる。
これは安直な言葉で慰められる話じゃない。


「……」


辺りを沈黙が支配する。自分の無力さを呪った。
偉そうな態度を取りながら、
こんな時に何一つ気の利いた台詞を返せない私。

なのに咲は、なぜか私にお礼を言った。


「ありがとうございました」

「…何も、できてないじゃない」

「…うん。だから」

「どうしようもないんだって、
 わかってくれたから」


ふわり、と咲の顔に笑みがこぼれる。
あまりにも薄く哀しい笑顔。
その幼い顔にはあまりにも不釣り合いな
嘲笑を浮かべながら咲が語る。


「みんな、てきとうな事言うんです」

『つらいよね、大変だね、頑張ろう』

「自分は家に帰ったら普通の家庭が待ってるくせに」

「明日の自分の居場所を
 心配した事もないくせに」


「私の苦しみなんて…わからないくせに」


声は震え、目尻には涙が浮かぶ。
それでも咲は泣き崩れる事なく、
ぐしぐしと目をこすって、涙を乱暴に払いのけた。


「でも、竹井さんは違いました」

「ありがとうございます」


そう言って頭を下げた咲を見て、
なぜか張り裂けそうな程に胸が痛んで。
私も無性に泣きたくなった。


今ならなんとなくわかる。
この子が私のもとにやってきた理由。
この子が私に懐いてきた理由。


多分、同じだったんだ。
この子と私の纏う気配が。


「……」


「…実はさ」


私も打ち明ける事にした。
私だけ言わないのはフェアじゃないと思ったから。
ううん、何よりも。
私と似た悲しみを知る咲に、
私の事を知ってほしかったから。


「少しだけ、わかるのよ。咲の気持ち」

「私も今、似たような境遇だから」

「……」


咲は少しだけ押し黙った後、
ぽそりと、確かめるように呟いた。


「やっぱり…竹井さんも同じだったんだ…」

「……うん」

「家族と生きがい。私が大切だと思ったもの、
 一気に二つとも失ったわ」

「…聞いてもいいですか」

「と言ってもそんな大した話じゃないわよ?
 よくある両親が離婚したってだけの事」

「で、私は両方から捨てられた。
 おかげで今は貧乏な一人暮らし」

「そのせいで高校の進路もおじゃん。
 私立に行くお金なんか無いからね。
 小学校の頃からずっと、
 行きたいって目指してた高校だったのに」

「…やんなっちゃうわよね……」

「……」


咲は口を挟む事なく。
でも、ただそっと私の手を握ってくれた。
その手があまりにも温かくて。
私は思わず涙ぐみながら、
その手をぎゅっと握り返した。


「…っ…ありがと」

「…こっちこそっ…
 ありがとうございますっ…」


見れば咲の目にも涙が浮かんでいて。
それを見た私は、ついに涙腺が決壊して。
咲と二人、抱きあってさめざめと泣いた。


ky_hisa_01.jpg


日が暮れても、夜が来ても、
ずっと、ずっと。


私達はただただ、涙で会話した。



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お互いの弱さを見せてから。
私達の関係は一気に親密さを増していった。


あの公園にはもう行かなくなった。
咲が部屋に来てくれるなら、
もう一人ぼっちを恐れる必要はないから。

何をしたというわけじゃない。
ただぼーっと一緒にいた。
同じ本を読んだ。
たまに一緒にご飯を食べた。
そして時々二人で泣いた。

それはひどく居心地が良かった。
きっと、咲には何も隠す必要がないからだと思う。


一人ぼっちの寒々しい部屋で、
寂しさに押し潰されそうになりながら
膝を抱えていた事も。

夜、トラウマになっている両親の怒号が
フラッシュバックして、
毎晩布団を頭までかぶって震えていた事も。

全部咲には話してしまった。
だって咲ならわかってくれる。

そしてそんな私の期待通りに、
咲は共感してくれた。


「わかります…私もふと急に寂しくなりますから。
 自分だけが、一人取り残された気分になるんです」

「うん。人に囲まれていても、
 自分だけが違うって思っちゃうのよね」

「はい…お父さんが相手でも駄目でした」


「…竹井さんが、家族だったらよかったのに」


何気無く咲が呟いた台詞。
それが妙に心に残った
だって私も同じ事を考えていたから。


「…そうね。私もそう思う」


なんとなく、それ以上言葉が続かなくて。
代わりに、私は咲を抱き寄せた。

咲は何も言わず受け入れると、
私の胸に身を委ねる。


その日はそのまま抱き合って眠った。


言葉にこそ出さなかったけど。
この日、私は一つの決意を固める。

いつか独り立ちできるようになって、
咲を家族として迎え入れよう。
そして、幸せな家庭を築く。
私達の親が与えてくれなかった、幸せな家庭を。


咲、もう少しだけ待っていて
きっと、貴方を幸せにして見せるから


夢にうなされもがく咲を抱き締めながら、
私は一人胸に誓った。



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咲と会う回数が増える度に、
生活態度は真面目になっていった。

あまりにも今さら過ぎるけど、
咲にとって少しでも
いいお姉さんになりたいと思ったから。

学校にもちゃんと行くようになった。
サボりがちだったバイト先にも、
ちゃんと顔を出すようになった。


バイト先で知り合った雀士が、
変わった私を見てしみじみ語りかけてくる。


「竹井、お前最近まともになってきたな」

「まぁね。しっかりしなきゃって思ったから」

「私が変に落ち込んでると咲も
 一緒に落ちこんじゃうし」

「私がだらだらと駄目人間を続けていったら、
 咲まで破滅する事になっちゃうもの。
 それだけは避けないと」

「まっとうに生きないとね。
 将来的には咲を養えるようになりたいし」

「私も麻雀のプロ目指してみようかしら。
 そしたら高卒でも余裕で咲を迎えられるし」

「…竹井」

「ん、なに?」


「前言撤回だ。お前、前より壊れてきてるな」


「…は?さっきまともになったって
 言ったばっかりじゃん」

「生活態度は、な…でもお前、
 その咲って子に依存してるだろ」

「行き過ぎには気を付けろ。
 …今の聞いてたら不安になったぞ?」

「はいはい、肝に銘じておくわ」


珍しく真面目な顔をした靖子の忠告。
でも私はテキトーにあしらった。

日に日に咲に依存している。
それは自分でも感じている。


でも、それの何が悪いって言うの?


咲は私を求めてる。
私も咲を求めてる。
なら別に依存したっていいじゃない。


大丈夫、これからは全部上手くいく。


事実靖子の警告とは対照的に、
周りからの評判はうなぎのぼりだった。

きっと咲という精神的な支柱ができたから。
咲という守るべき相手ができたからだと思う。

頑張った。勉強も委員会も。
気づけば私は、学生議会長なんて
柄にもない役職についていた。
皆から慕われ人の中心にいる、
そんなよくわからない状況。


不思議なものね?私には徹頭徹尾、
咲しか見えていないというのに。


まあでも今のポジションは、
咲が入学してきた時に
きっと役に立つでしょう。


生活の全てが、咲を中心に進み始めた。
それでいいと思ってた。


だって咲と私は、唯一無二の家族なんだから。



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もっとも…そう思ってたのは


私だけだったのかもしれない。


だって咲は、私を裏切ろうとしたから。


私以外の家族も手に入れようとしたから。







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私の家で、いつも通り二人で寛いでいた時の事。
咲は少しだけ固い声音でこう告げた。


「今度…お姉ちゃんに会って来ようと思います」


私の手からコーヒーカップが滑り落ちる。
部屋中に鋭い音が鳴り響いた。
咲が慌ててそれに手を伸ばそうとする。
私はそれを手で制止して問いかけた。


「……どうして」

「お、お母さんが…
 一度会ってみたらどうかって」

「あれから、時間も経ちましたし…」

「会う必要ないじゃない。
 私がいるんだから」


凍てついた声だった。それでも
取り繕う気にはならなかった。

その冷たさに咲が震え上がって、
思い直してくれるならその方がいい。


でも、咲は引き下がろうとはしなかった。


「け、けじめをつけたいんです…
 このままじゃ駄目だって」

「久さんと一緒に進むためにも、
 お姉ちゃんとの関係をはっきりしたいから」

「……」

「…もし、向こうが元通りの関係に
 戻りたいって言ったらどうするの」

「それは…それでいいと思います」

「そうなったら私はどうなるの?
 捨てられるの?」

「そ、そんなわけありません!
 久さんは久さんです!」

「……」





嘘つき。




本物のお姉さんが振り向いてくれたら、
どうせ私なんて用済みなんでしょ?


あはは。

私だけだったんだ。
一人ぼっちで、ずっと
手を伸ばして縋ってたのは。


私だけだったんだ。
咲と、本当の家族になりたいって
思ってたのは。


だって、咲はまだ、
本当の家族と切れてないもの。


私の中で、何かが壊れる。


パキッ…そんな音を立てた後、
瞬く間に亀裂が入って、
がらがらと崩れ落ちていく。

そんな私の内面を感じ取ったのか、
咲が久しぶりに、怯えた表情を私に向ける。


「……」


「ひ、久さん…?」

「ああ…ごめんなさい。
 そうね。関係が修復できるなら、
 それにこした事はないものね」

「頑張って来なさいな」

「……はい!」


私の偽りの励ましに、
咲は気づくことなく返事する。
それがまた、私の粉々になった心に追い打ちをかけた。


その後の事はもう覚えてない。


気づいたら咲はもう帰っていて。
私は一人、寒々しい部屋に残されていた。

その日はずっと、床を見つめてた。
咲が座っていた床を。

そっと床に手を置いた。冷たい。
確かにそこにあったはずの温もりは、
とうの昔に奪われて消え去っていた。


「…あはは」


靖子の言った通りだった。
依存してたのは私だけ。
咲は私を代替にして、
しっかり前に進もうとしていたんだ。
そして私は捨てられる。


「あははは…」


心が冷え切っていく。
それからぽっと黒い炎が生まれて、
私の内を焼き尽くしていく。


「……」


ky_hisa_02.jpg



ずっと、ずっと同じ事ばかり考え続けた。
祈るように。願う様に。
ただずっと考え続けた。





ああどうか、


咲がお姉さんから拒絶されますように


そして本当の意味で一人ぼっちになりますように


それで、咲が壊れてしまいますように


お願い、捨てられて


お願い、失って


お願い、壊れて









お願い、お願い、お願い






--------------------------------------------------------














--------------------------------------------------------





そして、咲は帰ってきた



私が願った通り、
捨てられて、壊れて帰ってきた





--------------------------------------------------------














--------------------------------------------------------



帰ってきた咲はまるで
糸の切れた人形のようになっていた。

咲は抑揚のない淡々とした声で、
結果だけを機械のように報告する。


「駄目でした」

「一言も、口をきいてくれなかった」

「……」


それは私にとって望む展開だったけど。
それでも咲の悲しみは、嘆きは、
私の心を激しく斬りつける。

ああ。最初から私だけ見ていてくれれば。
そんな苦しみを味わう必要もなかったのに。


「…だから言ったじゃない。
 会う必要なんてないって」

「……」

「もう、その人の事は忘れなさい。
 それとも、私だけじゃ不満?」


咲のどろりと濁った黒い瞳に、鈍く妖しい光が灯る。


「……いいんですか?」

「何が?」

「自分でも…わかってるんです。
 私、今、おかしくなってるって」

「今、手を差し伸べられたら…
 多分、もう二度と、その手を離せないって」


「…それ、でも……いいの?」


「…馬鹿ね。私は最初からそのつもりだったってば。
 咲が勝手に浮気しただけ」

「他の事は捨てて、私だけを見て?」


「家族になりましょう。二人だけの、家族に」

「…うんっ……」


私が差し出した手を、咲はゆっくり手に取って。
もう決して離すまいと、ぎゅうと強く握りしめる。

そのまま咲を引き寄せて、腕の中に抱き込むと。
咲はだらんと弛緩して、一筋の涙を流してその身を委ねた。


「見捨てちゃやだよ…?久お姉ちゃん」


それは咲が完全に壊れて、
私に依存しきった瞬間だった。


「……」


「だから、こっちの台詞だってば」



私はもう、とっくに壊れてるんだから。



--------------------------------------------------------







そして私達は今度こそ家族になった

他には誰もいない、たった二人だけの家族に







--------------------------------------------------------



咲と二人暮らしを始めた。

親御さんはもう少し反対するかと思ったけれど、
予想よりはるかに容易く承諾してくれた。

元々の原因は家庭内不和で、
それを食い止められなかった事実に
負い目があったんだと思う。


『咲が苦しんでいるから私が癒す』


その言葉だけで、あっさり咲は
私のものになった。


『すまないが、お願いする。どうか、
 咲の力になってやってほしい』

『咲が元通り、朗らかに笑えるように』


親御さんの言葉に、私は固く頷いた。
そんな事は言われるまでもない。

もっとも…この人の願う形で
叶う事はないだろうけど。


……


そして今日も、咲と一緒に朝ごはんを食べる。
二人で登校するために
ちょっと早い時間に身支度を整えて。


「じゃぁ行こっか」


なんて言いながら、
玄関のドアを開けようとする咲の手を、
そっと握って制止した。


「駄目よ咲。まだ『アレ』を
 読み上げてないでしょ?」

「えー、ちゃんとわかってるよ?
 暗記だってしてるんだから」

「だーめ。こういうのは
 日々の反復が重要なの」

「はーい。えーと」


『寄り道はしません』

『友達は作りません』

『できるだけしゃべりません』

『ずっと、久お姉ちゃんの事だけ考えて過ごします』


「…だよね?」

「よくできました!じゃぁ行きましょっか!」

「待ってよ。私がやったんだから久お姉ちゃんも言って?」

「はいはい」

『寄り道はしません』

『友達は作りません』

『できるだけしゃべりません』

『ずっと、咲の事だけ考えて過ごします』

「えへへ…よくできました」


私達は満足げに笑いあう。
そして唇に軽くキスを落として、
指を絡めながら玄関の扉を開けた。


今回の一件でわかった事がある。
それは、理想の家族の作り方。

答えは意外と簡単で、他人と一切
交流しなければいいだけだと思う。

選択肢があるから迷うんだ。
両親は不仲になった時、新しい関係を他所に求めた。
咲だってそう。なまじ
お姉さんとかお父さんがいるから、
あれもこれもと手を伸ばして、
結果的に深く傷ついた。
もちろん私も傷ついた。


だったら簡単。

咲が私以外の人と交わらなければいい。
咲に私以外の人はいらない。
もちろん、私にも咲以外は誰もいらない。


…ね?簡単でしょ?


ある交差点に差し掛かる。
私の高校と咲の中学校の分岐点。
名残惜しそうに指を離す咲の目を覗き込みながら、
私は再度念を押した。


「咲、ここでいったんお別れだけど
 わかってるわよね?」

「わかってるよ?誰とも喋らないし、
 絶対にすぐ帰ってくる」

「だから、久お姉ちゃんもそうしてね?」


今度は咲の方が、私の顔をじっと見つめてくる。
綺麗な瞳。吸い込まれそうな程に真っ黒で
一切光の灯らない瞳。

私は思わず魅入られながらも、
いつも通りの返事を返した。


「もちろんよ。私には咲以外いらない」


咲は安心したように微笑んで、
何度も何度も振り向きながら
学校の方角に消えていく。

咲の姿が消えたことを確認して、
私もぱしんと頬を叩く。

そして次の瞬間、
私の顔を偽りの笑顔が覆い尽くした。


さあここからは、咲のいない無意味な時間の始まり。
それでも、咲との輝かしい未来のために頑張りましょう。



……



こうして私は、理想の家族を手に入れた。
ああ、幸せ。
どうかこの幸せが死ぬまでずっと
続きますように。




咲と私が、一緒に死ぬまで。




(完)
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posted by ぷちどろっぷ at 2015年06月13日 | Comment(4) | TrackBack(0) | 咲-Saki-
この記事へのコメント
部長の過去、特に風越への憧れと諦めは原作でももっと描いて欲しいところですよね。もちろん前向きに(笑
Posted by at 2015年06月14日 01:26
一枚目挿絵 抱き合ってる!久咲が抱き合ってるよぉぉぉぉぉ!!
二枚目挿絵 (あかん)

家族という事は夫婦の営み的な事はやったんでしょうか。中学生で登場してる分色々と滾りますな。
Posted by at 2015年06月14日 06:41
良かったです。久さんに感情移入してしまいました
唯一無二の家族が持てるって究極な幸せじゃあないかなあ。
Posted by at 2015年06月14日 17:04
リクエストしたものです。今回も楽しませていただきました!

 重苦しい話になってごめんなさい。と管理人さんは言いましたが、むしろ一粒で二度おいしい話でしたよ。
 この二人は重くても甘くても映えますし。
Posted by at 2015年06月14日 19:13
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