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【咲-Saki-SS:久咲】久「二人きりの読書会」【あまあま依存】

<あらすじ>
ここ最近ちょっとハマっているものがある。
それは、咲と二人だけの読書会。

お互いにお薦めの本を持ち寄って、
交換した上で感想を伝え合う。
そんなほのぼのまったりした目的の読書会。

でもそれは、第2回からいきなり
方向性がおかしくなって…?


<登場人物>
宮永咲,竹井久,その他清澄

<症状>
・だだあま
・依存

<その他>
以下のリクエストに対する作品です。

・久咲でまったり本の話でも…。
 あまあまなシチュエーションで…。
 
・あんまり病んでません。ご注意を。

・著作権などの都合で、文中に出てくる著書は
 架空の存在です。


--------------------------------------------------------



ここ最近ちょっとハマっているものがある。
それは、咲と二人だけの読書会。

きっかけはホントに些細な事で。
お気に入り図書トップテンなんて
話をしたのが発端だった。


「部長から借りた本、すっごく面白かったです!」

「でしょでしょ!あれは私の中でも
 お気に入りミステリートップ10に入るからねー!」

「トップ10ですか…うん、
 私の中でもランクインするかもです」

「やりっ。ちなみに咲にとってのトップは何なのかしら?」

「そうですね…その時々で移り変わりますけど、
 今だと『その時空は、どこまでも黒く』ですかね…」

「え、何それ知らない」

「あれ、部長なら読んでるかと思いましたけど…」

「いやー、私結構いろんなジャンルを
 雑食に食い漁ってるからね。
 多分知らない作品もいっぱいあるわよ?」

「そうなんだ…あ、じゃぁお互いに
 お薦めの作品を持ち寄って
 読書会とかしませんか?」

「お、いいじゃんそれ!やろやろ!」


本の虫にとっては比較的メジャーな悩み。、
それは周りに読後の喜びを
共有してくれる人がなかなかいない事。
だから私は、咲の提案に二つ返事で飛びついた。



--------------------------------------------------------



初めて開かれた読書会。会場は、
咲たっての希望で私の家に決定された。

私達は挨拶もそこそこに、
すぐ本を交換すると、
お薦めされた本を黙々と読み耽る。


『人といるのに本なんか読まないで』


なんて言われる事もなく、
私達はゆったりと二人の時間を満喫した。
楽しみ方は少しだけ特殊だけど。
うん、こういうのも悪くない。

ぺらりっ…ぺらりっ…

静まり返った部屋に、ページを
めくる音だけが優しく広がる。


「……」


咲が渡してくれた本。

その本には、ある平凡な少女の家庭が、
ゆっくりと崩壊していく様を克明に描いていた。

救いなんて一切ない。
それでも少女は助けを求めて、ただひたすらに手を伸ばす。
その手は何度も空を切り。
そして結局、少女はそのまま。

たった一人、誰にも見つけられることもなく、
暗闇の中で生を終えた。


「……っ」


咲が渡してくれた本。
さすがはお薦めだけあって、
それは確かに私の琴線に触れた。

ただちょっと困った事に、
あまりにも強く触れられ過ぎた。


私は咲に気取られないように、そっと目頭を指で押さえる。
それでも滲み出した涙を留める事はできなくて。


「っ…あ、咲、喉っ、乾いてない?
 ちょっとっ、取ってくるわっ……」


さも思いついたかのように用事を作って、
その場を離れようとした…


「行かないでください」


…のだけれど。立ち上がろうとする腕を、
咄嗟に咲に掴まれてしまう。


「読み終えたんですよね。
 部長の感想を聞かせてください」

「え、えっと。後じゃっ、だめ?」

「とりあえず二択でいいです。
 どちらか、近い方を選んでください」

「…選択肢は?」

「かわいそうだって、同情しましたか?」

「それとも…」


「あの子に、共感しましたか?」


咲の目が、私の腫れた目を正面から覗き込む。
まるでその目は、私の中の全てを
見通しているような気がして。

ああ、これは取り繕っても駄目だなって、
なんとなく素直にそう悟った。


「……はいはい、私の負けよっ…」

「共感…した、わっ…」

「…えへへ。だったら、素直に泣いてください」


「…私は、初めて読んだ時
 一晩涙が止まりませんでしたから」


咲は私が逃げられないように、
がっちりと両腕で私をホールドしながらそう言った。

私はそれで観念して脱力すると。
そのまま咲にその身を委ねて、
静かに肩を震わせた。



--------------------------------------------------------



自分の心を強く揺り動かした本。

それを相手に教えると言うのは、
自分の深い部分をさらけ出すような
不思議な感覚を覚える。

相手に共感してもらえると、
心が密接に繋がったような奇妙な一体感を覚える。


この前の咲の本がまさにそんな感じ。
私は見事にしてやられた。

なんだか、自分が隠してた内面を
無理矢理こじ開けられたような気がして。
嬉しいやら恥ずかしいやら、
何とも言えない気持ちになった。

しかも咲の方は泣いてなくて、
始終私をあやしていたのも気に入らない。


(…咲がそうくるなら、
 こっちにだって考えがあるわ)


復讐を胸に誓った私。
本棚から取り出したるは秘蔵の一冊。

もちろん普通にお薦めの本なんだけど、
ちょっとだけ普通じゃない要素がある。


咲が反応しないならそれでもよし。
でも、もし反応したら…


思う存分、可愛がってあげちゃうんだから!



--------------------------------------------------------



第二回目の読書会。

私は部長のニヤニヤした顔を見て、
少し嫌な予感がしました。


『仕返ししてあげるから覚悟なさい?』


部長の顔には、そんな言葉が
隠しもせずでかでかと書かれていて。
私は少し戸惑いながらも、
部長の本を受け取りました。

警戒しながらも本を読み始めます。
そして私は、不思議な違和感を覚えました。


(…あれ?普通に…面白い)


そう、その本はごく普通に、
物語として面白かったのです。

ちょっとだけその本の中身を説明するとしたら。

舞台は地球。ただ、
その地球は滅亡の危機に瀕していて。

世界は宇宙に逃げる人間と、
滅びゆく世界に見捨てられる人間を分ける
選別の真っただ中。
言うなれば、ノアの箱舟の現代版。

これは、そんな『選別』の末、
箱舟に見捨てられた女の子の物語でした。


「……」


私は思わず惹き込まれて、
そのまま世界に没頭していきます。
次へ、そして次へ。
ページをめくるたびに視界は狭くなっていき、
その代わりに本の世界が脳内に広がっていきます。


それが、部長の罠であるとも知らず。


結局女の子は新世界に旅立つ事はできず。
近い将来に必ず訪れる死を待ちながら
廃墟の中で細々と生きる事を強いられました。

ただ彼女にとっての救いは、
自分と死を共にしてくれる女性がいた事。
もはや生殖する必要もない彼女達は、
愛のままにお互いを貪りあいます。


「……」


夢中になって読み進めた私は、
話がにわかに色を帯び始めても
すんなりそれを受け入れてしまい。

いつもだったら頬を紅潮させて
拒絶してしまうような直接的な描写ですら、
食い入るように読み耽ってしまっていました。


結局愛する二人は愛し合ったまま。
互いに手を取り合って、眠るように息を引き取ります。

そして生存競争に生き残ったはずの箱舟の民は
内部欠陥が見つかり醜く全滅するという、
少しだけ胸のすくおまけも添えて、
物語は幕を閉じました。


「……」


読み終えた後も物語への没入感が抜けず、
ほぉっ…とどこか熱い吐息を吐いた私。
そんな私は、そこでようやく…


部長に後ろから抱き締められている事に気づきました。


「ぶ、ぶ、ぶ、部長!?」

「ふーん…咲ったら随分熱心に読んでたわねー」

「え、えと、それは」

「途中から私に抱き締められたのも
 気づかなかったしー?
 なのにやたら色っぽく
 しなだれかかってくるしさー」

「それ、正直ちょっとアレだから。
 途中で恥ずかしがって
 読むのやめちゃうかと思ったんだけどねー」

「ふふーん、そっかー。
 咲は女の子同士もありなんだー?」

「ち、ちがっ、これは、
 本の世界!本の世界の話ですから!」

「あはは、わかってるわかってる!
 ちょっとからかい過ぎちゃったわね!」


「でもー」


部長は私を抱き締めたまま、
その体重を後ろに預けて倒れ込みます。

そして、一緒に倒れ込んだ私ごと、
ごろんと横に転がって…

瞬く間に私の上に覆いかぶさって、
耳元でこう囁きました。


「こんな本を薦めてくる人の前で、
 抱き締められたまま熱心に読み耽って」

「あまつさえ、読んだ後もとろんと
 目を潤ませて放心しちゃうとか…」


「…襲われても、文句は言えないわよ?」


部長の、妙に火照った吐息が
私の首筋をくすぐるたびに。

正体不明の熱が全身を駆け巡って。
熱に浮かされて、頭がうまく
回らなくなっていきます。


「…ふふ」


肌を這いずる息が少しずつ正面に移動します。
首筋に、頬に、そして…
唇にかかるのを感じた時。


私は思わず、ぎゅっと目を閉じてしまいました。
そして……












『パシャッ』



突然鳴り響いたシャッター音。
私は反射的に目をぱちりと開きました。
目の前には馬乗りになったまま、
携帯を両手で構える部長の姿。


「ごちそうさまでした♪」


なんて声を弾ませて携帯をしまおうとする部長。
その手に飛びかかる私。


「け、消してください!消して!!」

「アハハ、ジョーダンジョーダン。
 最初から保存してないわよ」

「…本当ですか?」

「疑り深いわねぇ。ほらデータフォルダ。
 入ってないでしょ?」

「あ、ホントだ…!ならなんで撮ったんですか!?」

「いやぁ咲があんまり可愛い反応するから、
 ついいじめたくなっちゃって」

「も…もう!もう!!」

「咲だって前回私にやってくれたじゃない。
 これでプラマイゼロって事で!」

「…ていうか私が何か企んでるってのは
 表情から読み取ったと思ってたんだけど?」


してやったりと言わんばかりに満面の笑みで微笑む部長。
そんな顔を見せられたら、私はただ沈黙するしかありません。

思い切りほっぺたを膨らませて黙り込む私に、
部長は苦笑しながら頭を撫でて。


「…それとも、『しちゃった』方がよかった?」


なんて、いきなり真顔で言うものだから。


「部長のバカッ!もう知らない!!」


私はまた、ぼっと顔から火を出して。

近場にあったクッションを
投げつけるしかありませんでした。



--------------------------------------------------------



そんなわけで、まんまと部長にしてやられた私は、
自然と復讐する事を考えていました。

もちろん人にお薦めするわけですから、
半端な本を選ぶつもりはありませんけど。

でも、単に自分のお薦めを選ぶんじゃなくて。

この本だったら部長が悶えるかな?とか、
この本だったら部長は泣いちゃうかな?とか。

そんなちょっと邪推が入った選び方になっていました。


それは部長も同じだったようで。
気づけば平穏なはずの読書会は、
お互いがお互いの腹を探りあう
殴り合いへと変貌を遂げて。

私達はお薦めされた本に没頭する振りをして、
互いの様子を伺いあうようになっていました。

それがまた、なんだかとってもおかしくて。
つい、毎週のように読書会を開いてしまうんです。



--------------------------------------------------------



「部長、今週もやりますよね?」

「もち。でも咲は大丈夫なのかしら?」

「…何がですか?」

「いやほら、ストックが尽きてきたとかさ?
 …私を攻撃するための」

「…まだまだいっぱいありますよ?
 先週みたいに、部長が泣きじゃくっちゃう奴」

「…ふーん、そういう事言っちゃうんだー?
 先々週、官能小説読んでとろーんとした顔で
 私にすり寄ってきた宮永さん?」

「あ、あれは部長が知らないうちに
 私を抱き寄せてただけじゃないですか!
 私は悪くないです!」

「いやでも毎回のように抱かれてるのに
 気づかないとかありえなくない?
 もしかしてもう当たり前になっちゃった?」

「…っ!わっかりました!
 その宣戦布告受けて立ちます!!
 部長なんかもう絶対
 ボロボロ泣かせちゃうんだから!」

「その台詞覚えておきなさい?
 いつもみたいに咲があまえんぼうになって
 すり寄ってきた時に、
 一字一句違わず唱えてあげるから」

「あ、それはちょっと本気でいやです」

「うん。私もムード削がれるからやだわ」


「……」

「……」

「……」

「……」


「ん?どったのみんな?」

「…お前さんら、つきあっちょるんか?」

「へ?いやいやなんでそうなるの」

「だ、だって…二人っきりで
 抱き合ったりとか
 官能小説読んだりしてるんだじょ?」

「別に付きあってなくても
 そのくらいするでしょ」

「いえ、付きあっててもしないと思いますが」

「それ以上咲をいじめないであげて?」

「なっ、なんで私の話になるんですか」

「そもそも私は本を読んでるだけで、
 絡みついてくるのは部長の方でしょ!?」

「あんな熱っぽく目を潤ませて
 すりっ…すりっ…って
 体を擦りつけてきておいて
 そんな事言われましても」


「もっ、もう部長はしゃべっちゃダメ!」

「わぷっ」


「カップルだな」

「カップルだじょ」

「カップルですね」

「カップルじゃな」



--------------------------------------------------------



なんてやりとりをするくらい、
咲と私は仲がよくなっていた。

お互いの腹を探り合うたびに。
そして心の扉をこじ開けられて、
お互いの深いところをさらけ出すうちに。

私は、咲の事を特別な存在と
感じるようになっていた。

多分咲も同じように想ってくれていると思う。
でもそれを言葉にしたことは一度もなくて。

私達は両想いなのかそうでもないのか、
あやふやな位置で揺蕩い続ける。


「……ふむ」


そんな生ぬるい関係も嫌いじゃないけれど。
そろそろ前に進みたい。
というより、日に日に可愛く、
色っぽくなってくる咲に対して、
これ以上我慢ができそうにないから。


そして私は、一冊の本を手に取った。

一般受けする本じゃない。
正直言って人気はなかった。
でも、私が一番大好きな本。

この本に共感できる人と結婚したい。
なんて思っちゃうくらい完璧に、
私の心を代弁してくれる本。


この本で、もし咲が感動してくれたなら。
私は咲に、この想いを伝えようと思う。



--------------------------------------------------------



いつも通りの読書会。会場は部長のお部屋。
いつもと違ったのは私だけ。

その日私は、ちょっとした賭けをするつもりでした。
いい加減部長にはぐらかされるのが耐えられなくて。
いっそひと思いに奪ってほしくて。


だから私は、勝負の一冊を持ってきたんです。


その本は私が一番大好きな本で、
一生大切にしていきたいと思っている本。
あまりに何度も読み過ぎて、
もうところどころ
痛んでしまっているくらいの。

この本に共感してくれる人がいたら、
私はその人になら何をされてもいい。
もし部長がその人なら…
私は、全てを捧げようと思います。


「じゃあ、交換しましょっか」


部長が自分の本を手に取ると、
同時に私の本を受け取ろうと手を伸ばします。

私は微かに震えながら、
その手に本を乗せました。

そして、部長の本を受け取ろうして…


思わずその目を見開きました。


部長も異常事態に気づいたのか、
少しだけ驚いたように目を広げて…
やがて、目を細めて笑います。


「…これ、交換する意味ないわね」


部長の言うとおりでした。
だって、部長の手に乗っていた本は…


両方とも、同じ本だったから。


部長は苦笑しながらも、私に本を手渡しました。
私の手元にやってきたのは部長の本。
私の本と同じように、何度も読み返した末に、
開き癖がついてしまっている本。

それを見た時、私は胸がかっかと熱くなって。
じわりと涙腺が緩んでこぼれそうになって。

目を背けようとしたところを、
部長に優しく包み込まれました。


「…まさか同じ本とはねー」

「…っ、そうですね…」

「ねえ、聞いて咲」

「私ね、この本を咲が読んで、
 もし共感してくれたなら」

「ちょっとした告白をするつもりだったんだけど」

「咲は、どういう思いで
 この本を持ってきたのかしら?」

「……」

「多分、同じだと思います」

「私にとって、この本は…
 一番大切な本ですから」

「そっか」

「好きよ、咲。…とっくにバレてたかもだけど」

「私も…部長の事が、好きです…だいすきっ」


目と鼻の先で囁く部長に、
涙交じりの言葉を返します。

部長はふわっと温かく微笑んで、
そのまま私の目の前で瞳を閉じました。
だから、私もそれにならいます。
そして…


…やがて、唇に伝わる優しい温もり。


小鳥がついばむように、何度も何度も。
試すかのように触れられて、
そのうち部長が私の中に入ってきます。

それで、私はもうわけがわからなくなって。


ただ一心不乱に、部長に貪られ、
部長を貪りました。



--------------------------------------------------------



その本の内容はとてもシンプル。
ただただ、一人の女性が
ある女性を愛しぬく本。


ただその愛し方は尋常ではなくて。
その人が持てる全ての力を、
愛する彼女に注ぐというものだった。

ゆえに周りは皆彼女を怖がり疎んだ。
それは、愛する彼女も同じこと。

それでも女性は諦めず、
何もかもを犠牲にして彼女に尽くした。

やがてその想いは彼女に伝わり、
二人は結ばれる。

その頃には彼女の方も壊れてしまっていて、
もう日常生活を営むことは困難で。

二人は生きる事すら忘れて愛し合い…
程なくして、二人の世界は二人で閉じた。


初めて読んだ時は涙が止まらなかった。
こんなに美しくて、切なくて、
凄惨な恋をしてみたいと思った。


「ま、だからって共感してくれる人が
 居るとは思わなかったけどね?」

「…この本、人気無くて再版すら
 されませんでしたからね…」

「うん。さすがにボロボロになっちゃったから
 買い直したいと思ったりもしたんだけどねー」

「……」

「一応古本屋とか探し回って、
 わりかし状態のいい本も見つけたんだけどさ」

「…取り換えなかったんでしょ?」

「正解」

「なんか、この傷ついて傷ついて、
 ボロボロになっちゃったのがね。
 また、愛おしいって言うか」

「…わかるかも。それもまた、
 この本らしいって思っちゃうんだよね」

「うん」

「…ま、そんなわけだから
 覚悟しときなさい?
 今さらだけど、私相当重いわよ?」

「…あの本を渡してきた時点でお互い様だよ?」


「ふふ」「あはは」


「よろしくね、咲」

「…はい!」


私達は再び抱き合って、二人の世界に没頭する。
今まで散々焦らしたたせいか、
咲はもう恥じらう事なく私に痴態を曝け出す。
それはさながら、今日読むはずだった
あの本の彼女のように。


こうしてこの日の読書会は、
本の世界をなぞって
実体験することで幕を閉じた。



--------------------------------------------------------



「…そんなわけで、この前婚姻届出してきたわ!」

「何言ぅちょるんじゃわりゃぁ」

「受理されませんでしたけどね」

「役所の人をいじめるのはやめるじょ」

「お金ためないと駄目ねー」

「物価とかどこの国が一番安いのかな?」

「に、日本を去るつもりですか!?」

「だって日本だと同性婚認めてもらえないしねー」

「ねー」

「…なんか、咲まで部長っぽくなってきてないか?」

「まぁ好きな人には似ちゃうよね」

「というか、咲と私って元々けっこう似てるわよね?」

「うん」

「部長と咲ちゃんがー?ないない!」

「ふふっ…ホントに似てるのよ?
 …一番、大切なところがね」

「…そうだね」

「それって何なのか
 お聞きしてもいいんですか?」

「ダメー。言ったら皆ガチ引きしちゃうから!」

「引くんかい!?」

「せ、性癖とか…ですかね…?」


「須賀君レッドカード退場です」



--------------------------------------------------------



咲と私は籍を入れた。
まぁ受理はしてもらえなかったけど。

でも気持ちは伝えあったし、
卒業したら二人で暮らそうと思う。


ちなみにあの読書会はまだ続いている。
と言っても、もうお互いに
腹の探り合いするのはやめた。
だって、どうせ私達の感性は
ぴったり一致してるのだから。


「久さん、この本読んだことある?」

「あー、ないわね。じゃぁ読みましょっか」


二人でタイトルを挙げあって、
どちらかが読んだことがなかったら
二人で一緒に寄り添って読む。

それで泣いちゃうなら素直に二人で泣くし、
感動するなら抱き合って多幸感に浸るし、
コーフンしちゃったなら…まぁ言わずもがなよね?


「…とは言え咲さん?こういう本だったなら、
 事前に言っておいてほしかったんだけど?」

「え、えへへ…」

「もう…まだ日も浅いのに…
 どうせ一日終わっちゃうじゃない」

「…ダメ?」

「…わかってるくせに」


そんなわけで今回は三番目。
コーフンする系でした。
まあ最近は割と三番ばっかりな気もするけれど。

咲ったら盛ってるのかしら?
って、それを言うなら私もか。

私はそっと本を閉じると、
あまえた表情で両手を広げる咲に
とびかかった。



--------------------------------------------------------



そんなわけで、当初の目的は
もう果たさなくなった読書会だけど。

それでも、私達はこれからも
続けていくと思う。

二人だけの読書会。
それは、私達を結び付けてくれた
コミュニケーション。

そして、私達だけの特別な
コミュニケーション。


私達は二人で同じ本を読みながら、
お互いの心をすり合わせていく。


きっとそれは、これからも。
そう、私達が二人で幕を閉じるまで。



(完)
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posted by ぷちどろっぷ at 2015年06月19日 | Comment(5) | TrackBack(0) | 咲-Saki-
この記事へのコメント
寧ろ『その時空は〜』を書いたのがどんな人なのか知りたい。
二回目に部長が出した本には官で能な表現がありましたが、部長も初めて読んだ時はドキドキしたんでしょうかね。
中学生の時に読んで『私は純粋に文学小説として云々』と人知れず言い訳してたりしたんでしょうかね。
Posted by at 2015年06月19日 21:48
こうゆう両片思いみたいな曖昧な関係でじゃれあっている話は大好きです。
しかも久咲で読めるとか感無量、そして同性婚認められてないから海外でとか、役所で受け取って貰えなかったとか現実的な会話する二人にまたまた感無量。癒やされました。m(_ _)m
Posted by at 2015年06月20日 13:00
口の中が糖蜜だらけ…ナイスな咲久ありがとうございます。
Posted by シノ at 2015年06月21日 10:37
このお話はわたしのお気に入りで、ちょくちょく読み返しにきてます。この二人の前ではどんな甘いケーキもただの苦い薬みたいなもんでしょうね。そんな溺れる甘さがたまに欲しくなるのです。いつも素敵なSSをありがとうございます。これからも応援してます。
Posted by at 2016年04月11日 05:31
好きな小説について語り合うのは嬉しい
そしてそれがマイナーなジャンルの場合には、格別に幸せ
Posted by at 2020年11月04日 19:12
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