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【咲-Saki-SS:菫淡】菫「事の真相を君に告げよう」【ヤンデレ】

<あらすじ>
菫「『淡「ストーカーが、いるみたいなんだ…」』の私視点だ」

<登場人物>
弘世菫,大星淡,宮永照

<症状>
・ヤンデレ
・依存
・狂気
・異常行動

<その他>
以下のリクエストに対する作品です。
・菫淡で。淡に一目惚れした菫は
 淡をストーカーするようになる。
 最初は付きまとう程度であったが
 徐々に行為はエスカレートし盗撮や盗聴にまで及んだ。
 菫が犯人だと気付かず相談し彼女の家に
 泊めてもらうことになり一安心した淡。
 しかし本当の恐怖はこれからだった…
 というのをギャグまたはシリアスで。

※あくまでフィクションとしてとらえてください。
 実際にこんな事を実行したら
 おそらくあっさり捕まると思います。

※リクエストの都合上、白糸台高校寮設定などは
 除外しています。ご容赦を。



--------------------------------------------------------



一目惚れだった。

人の目を引く鮮やかな金髪も、
ころころと目まぐるしく変化する豊かな表情も。
それでいて一度麻雀を始めたら、
人が変わったかのように
全てを蹂躙するその力も。
全てが私を魅了した。

一目惚れの相手は大星淡。
今年入ったばかりの大型ルーキーだ。


そんなわけで、少しでも親交を深めようと
一年生の寮を視察に行ったが、
そこに大星淡の姿はなかった。

白糸台高校は基本寮生活だが、
希望者は自宅から通う事が許される。
私もそのうちの一人ではあるが、
淡はどうやら一人暮らしをしているようだった。

なぜか?問いただしてみると、
いかにも淡らしい回答が返ってきた。


「え?だって一人暮らしって面白そうじゃないですか」

「こう、誰からも縛られない開放感っていうか!」


つまりは、これと言って
切迫した理由はなかったらしい。

実家からも十分通える距離だった。
当然寮に入る事もできた。
それでも淡は一人暮らしを選んだ。
ただ『面白そう』、それだけの理由で。


そんな淡が、
健全な一人暮らしを成立させることなど…
到底不可能な話だった。


ある日私は淡が自活できているのか心配になって、
微妙に嫌がる淡を押し切って
無理矢理部屋に上がり込んだ。


そしてその選択は正解だった。


「なん、だ…これ、は……!」

「えへへ…まあその、
 日々の生活に追われまして…」


部屋の至る所にゴミが散乱している。
シンクには洗っていない食器が
積み上げられている。
下着すら、そこらへんに乱雑に
放置されている状態だった。


「一人暮らし、やめた方がいいんじゃないか?」

「えぇ!?それはやだ!
 一度この開放感を味わったら、
 もう手放せないよ!」


明らかに自活能力が無いくせに
一人暮らしをやめる気はさらさらないらしい。
私は思わず頭を抱える。


「はぁ…せめて、このゴミの山は何とかしろ…
 仮にもインターハイの代表選手が、
 ゴミ屋敷で周りに汚臭を振りまいてますとか
 洒落にならん」

「うー、わかりましたよーだ」


ぶつくさと愚痴を垂れながら、
一つ一つごみを拾い上げていく淡。
だがそれが続いたのもたった数分で、
あっさりと淡は根を上げてしまう。


「もー無理。こうさーん」

「馬鹿か。まだ5分も掃除してないだろう」

「やー、だってこれ絶対
 今日中に終わんないじゃないですか。
 もういいです。私はゴミ屋敷の女王として
 この界隈に名を馳せることにします」

「別に今日一日でやれとは言ってないだろう。
 毎日少しずつでいいから片付けろ」

「それができてたらこうはなってませんー。
 菫先輩が来てる今日だけが
 千載一遇のチャンスだったんですー」

「あーもう、わかったわかった。
 しばらくは私も来て手伝うから」

「ホント!菫先輩話が分かる!!」


途端に目を輝かせる淡に対し、
私は大きなため息を吐いた。

まったくこいつは…私がしっかり
見てやらないと駄目そうだ。

なんて肩をすくめながらも、
淡に世話を焼くことに喜びを
禁じえない自分がいたのは事実で。

うまく定期的に入り浸る口実ができた私は、
次の週も当然のように、
淡のアパートに向かうのだった。



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--------------------------------------------------------



そんなこんなで定期的に
淡の家を訪問する事になったわけだが。
行けば行くほど、淡の生活に対する
心労は増していくばかりだった。


ピンポーン

その日も私は、部屋を掃除するために、
淡の家を訪れていた。

呼び鈴を鳴らし、淡の登場を待つ。
だがいつになっても、淡は姿を現さない。

痺れを切らして2度目のチャイムを鳴らすと、
今度はどこからともなく声が聞こえた。


『菫先輩ー?』

「そうだが…いるならさっさと出てこい」

『今ちょっと出られないー。
 鍵あいてるから入ってきてー』

「…はぁ?」


言われるがままにドアノブを回すと、
確かに鍵はかかっていなかった。

私は思わず眉をひそめながらも
恐る恐る扉を開く。それと同時に、
視界に飛び込んできたものは…


ほぼ全裸で、辺りにぽたぽたと
水滴を飛び散らせながら、
頭をわしわしとバスタオルでこする淡の姿。


私は慌てて玄関に滑り込むと、
返す手で勢いよく扉を閉めた。


「いやー、ちょうどシャワー
 浴びたところだったんだよねー」

「お前は馬鹿か!?来たのが私だったからともかく、
 別の奴だったらどうするつもりだったんだ!」

「その時は居留守使うってー」

「鍵が開いてたら居留守使っても意味ないだろう!
 侵入されたらどうするつもりだ!」

「え、えーと…その時考える!!」


駄目だこいつ…危機管理能力ゼロだ。
そもそも、私だったら大丈夫と考える時点で
まったく危険を理解していない。
なぜなら、私だって…


淡の裸を目の当たりにして、
邪な感情を抱く人間だと言うのに。


(早急に対策する必要があるな…
 …私以外の誰かに襲われる前に)


私は一計を巡らすことにした。


あまり褒められた方法ではないが、
少し怖い思いをしてもらって、
実際に危機感を持ってもらうしかないだろう。

そうだ、疑似ストーカーになる
なんて言うのはどうだろうか。

正直なところ、見張ってなければ
そのうち勝手に死んでしまいそうだし、
その点でもちょうどいい。

早速私は、監視カメラと盗聴器を用意する事に決めた。
淡の生活の一部始終を把握するために。


--------------------------------------------------------



淡の留守を狙い、業者を使って
いくつかの機材を仕掛けた。

さすがに私が指導した後だけあって、
扉には鍵が掛かっていたが。
私はとっくに合鍵を作成済みだった。


早速仕掛けた監視カメラで、
淡の様子を観察する。

淡の私生活は、それはもう
ずぼらなものだった。


「おい…いつまで裸でいるつもりなんだ…!」


風呂に入った後、裸にバスタオルを
巻いただけの格好で堂々と
部屋をうろつき回る淡。

それだけでも頭が痛くなるのに、
さらに淡は驚くべき蛮行に出る。


「おい!馬鹿なのか!なんでその格好で
 ベランダに行く!?」


どうやらようやく服を着ようとしたものの、
着られる下着がなかったために、
干してある下着を取ろうとしたらしい。

そもそも女子高生の一人暮らしで
馬鹿正直に下着を外に干す時点で
論外ではあるが。

しばらくの間は様子見に徹するつもりだったが、
もう初日から我慢ができなくなった。

私は正体がばれないように
いかにも適当なメールアドレスを調達すると、
淡の携帯めがけて送信する。


『From:temp_use_for_awai@xxx.com
 ---------------------------------------------------
 半裸のままベランダに行くのはやめてください。
 あまりにも危険です。                』


部屋にこだまする携帯電話の着信音。
淡は下着を穿くのを中断し、
携帯を操作し始める。


『……っ』


メールを受け取った淡の顔から、
さーっと表情が消えていく。
次いで私は二通目のメールを送信した。


『From:temp_use_for_awai@xxx.com
 ---------------------------------------------------
 そもそもベランダに下着を干すのはやめましょう。
 盗んでくださいと言っているようなものです。     』


二通目を受け取った淡は、
せわしなくきょろきょろと部屋を見回す。
そして怯えたように
その身をバスタオルで隠しながら、
そそくさと洗面所へと消えていく。

次に現れた時には、がっちりと
長袖のパジャマを着こんでいた。

そうだ、それでいい。
私は期待をはるかに上回る効力に満足した。

怯えさせてしまうのは心苦しくはあるが、
今後もこうやって
淡を正しい方向に導いていこう。


そう、他でもない淡自身のために。


私はそれからも、何か淡が問題行動を起こすたびに
メールで指摘する事にした。


『From:temp_use_for_awai@xxx.com
 ---------------------------------------------------
 麻雀ゲームのやり過ぎです。
 麻雀部だから正しいと言えば正しいですが
 学生の本分は勉強である事を忘れないように。     』


『From:temp_use_for_awai@xxx.com
 ---------------------------------------------------
 過度に長時間の入浴は控えた方がよいでしょう。
 特に貴女は水分補給を怠るきらいがありますから。   』


『From:temp_use_for_awai@xxx.com
 ---------------------------------------------------
 また鍵が開いていますよ。不審者に入られないように
 今すぐ鍵を掛けてください。             』


やがて淡は、携帯電話が鳴るたびに
その身を震わせるようになった。
まるで絶対服従を命じられた奴隷のように、
メールによる指示を忠実に実行していく。

私はそれが嬉しくて、つい毎日…いや、
毎時間のように淡にメールを送ってしまうのだった。



--------------------------------------------------------













--------------------------------------------------------



こうして淡の生活は改善されていったが、
それでも私が安心しきるには至らなかった。

そもそも私は、淡の住んでいる場所が
気に入らなかった。

例えば郵便受けを漁ってみると、
風俗をイメージさせるような
低俗なチラシが入っている事が多々あった。
他にも、高校生には
毒にしかならないような
ダイレクトメールも大量に。

その内容が指し示す通り、
あの一帯は決して治安がいいとは言えない。

淡はなぜあそこを選んだのか。
いや、聞くだけ無駄だろう。

どうせ「んー、安かったから!!」
なんて答えるに決まっている。

次の私の目標は、淡をあの部屋から
立ち退かせることだった。


と言ってもやる事は変わらない。
ただ、監視のレベルを一段上げるだけの事。

郵便受けも監視対象になっている事を淡に示唆した。
携帯電話の中も監視されている事も。
そう、全て。全て。
淡の私生活は今、全て
監視されている事をほのめかした。


それを知った淡は家に帰りたがらなくなり。
帰っても、極力行動を起こさないようになった。
当然だろう。全て監視されているのだから。


とはいえ淡も、大人しく
現状に甘んじていたわけではない。

部屋中をひっくり返して監視カメラを探したり、
警察に助けを仰いだりと、
いろいろ手を尽くしたようだった。

だがどれも徒労に終わった結果、
淡は急速に不安定になっていく。


感情の起伏が激しくなった。
急に泣いたり怒ったり。
ちょっとしたことですぐに
感情を爆発させるようになった。


「あー、イライラする!!!」

「淡…一体何があったの…」

「なんでもないよ、別にっ……!」

「そんなわけないでしょ…理由を説明して」

「説明できないんだってば!!!」


一番懐いていたはずの照を含め、
周囲はそんな淡を持て余しているようだった。

無理もない。事情を聞こうにも淡は固く口を閉ざす。
それでいて、態度はずっと荒れたままなのだから。

健気な事だ。きっと淡は、
これ以上被害を拡大させまいと考えているのだろう。
その証拠に、淡は監視されていると気づいてから、
私を部屋に上げなくなった。


せっかくだからこの状況を利用させてもらおう。
私は荒ぶる淡を、一人個人ルームに呼び出すことにした。


「淡。ちょっと個人ルームに来い」


淡は一瞬怯えたような顔をして。
でもすぐ次の刹那には虚勢を張った。
ズタボロになった心を強い言葉で覆い隠すかのように、
剣呑な声音で吐き捨てる。


「…何か用?言っとくけど私、
 聞かれても答えるつもりないからね」


だが私は淡から何も聞くつもりはなかった。
当然だ。聞く必要がないのだから。
ただ、淡を優しく慰めた。


「勘違いするな。別に私は、
 お前を問いただすつもりはない」

「ただ、一つだけ覚えておいてくれ」

「もし、お前が自分一人では対処しきれない
 困難にぶち当たった時…」

「私は、いつでもお前の助けになるつもりだ」

「つらい事があったんだろう?
 理由は言わなくていい」

「ただ、せめて…」


「胸を貸すくらいの事はさせてくれ」


それは、淡にとって予想外の対応だったんだろう。
てっきり怒られるとでも思っていたのか。
淡は、きょとんと狐に包まれたような顔をして…


やがて、ぽろぽろと涙を零し始めた。


私は淡の隣にそっと移動して、
頭を優しくなでてやる。
淡は抵抗する事もなく、私の肩に頭を乗せて。
静かに、静かに泣き続けた。



--------------------------------------------------------



これを繰り返していくうちに、
淡は私に依存するようになってきた。

部室にやって来た時も、照ではなく
まず私の方に駆け寄ってくるようになった。

ほら今日も、淡が私に
慰めてもらおうと近寄ってくる。


「菫先輩…ちょっと、いいかな」

「ああ。個人ルームでいいか?」

「うん」


個人ルームに入った淡は、
すぐさま私に抱きついて涙を流し始める。
私はいつも通り理由も聞かず、
ただひたすら慰める。

ちなみに淡がこんなに参っているのは、
私がいつもよりメールを多く送ったからだ。


『From:temp_use_for_awai@xxx.com
 ---------------------------------------------------
 最近上の空になる事が多くなりましたが大丈夫ですか? 』

『From:temp_use_for_awai@xxx.com
 ---------------------------------------------------
 勉強もほとんどしていませんが、
 授業にはついていけてますか?            』

『From:temp_use_for_awai@xxx.com
 ---------------------------------------------------
 苦しい時でも食事は必ず摂ってください。       
 食事を抜くことは活力の低下に繋がります。      』


エトセトラ、エトセトラ。


自分が原因であることを棚に上げて、
私はメールを送り続ける。

というのも、そろそろ次の段階に進まないと
危険になってきたからだった。

淡の学校生活での態度が問題になり始めている。
メールにも書いたように覇気が無い。
麻雀の成績も落ち込んでいる。
それでいて、何かあると烈火のごとく怒りだす。

今の淡が精神的に異常なのは、
誰から見ても明らかだった。


このままの状態が続けば、
生徒指導や実家への連絡など、
好ましくない対策を取られる可能性が高い。

いい加減、淡の方から私に相談を
持ちかけてもらう必要がある。


私は毎日メールによる攻撃を繰り返した。
徐々に、淡の目から光が消えていく。

それを十日ほど繰り返してやっと…
淡は根を上げて、
私に相談する事を心に決めたのだった。



--------------------------------------------------------



「…菫先輩…相談、乗ってもらっていいかな…」

「…聞いてもいいのか?」

「うん…菫先輩だけにしてほしいけど」

「そうか」

「実はさ…その…私の周りに…」


「ストーカーが、いるみたいなんだ…」


「……そうか」

「…驚かないの?」

「…もしかしたら、とは思っていた。
 何らかの犯罪に
 巻き込まれているのかもしれない…とな」

「…どうして?」

「もし、お前に何らかの問題が起きていて、
 それを周りに相談しない理由」

「そんなものがあるとしたら…
 よほど個人的な理由で言いにくいか」

「もしくは、私達を巻き込まないように
 一人で我慢しているのか…どちらかだと考えていた」

「だから、お前が話さないと決めた以上は、
 私から無理に聞くことはしまいと決めていたんだが…」

「…さすがに、そろそろ限界だった」

「最近、お前の様子がおかしかったからな。
 私の方も声を掛けようと思っていた」

「…もっと早く気づいてやるべきだったな。
 すまなかった」

「ううん…その言葉だけで嬉しいよ」



--------------------------------------------------------



相談を受けてからの行動は早かった。
当然だ。何をするべきか、
事前に計画を立てていたのだから。

まずは業者を手配して、大々的に部屋を捜索する。
その上で大量のカメラと盗聴器を発見させる。

目の前に広がった悪意の塊に、
淡は震えてしがみつく。
だが素直な淡は、これですべての脅威が
取り除かれたと考えたようだった。


実際にはそんな事はない。


業者に摘出を命じたのは全体の半分。
残りの半分は、そのまま手を触れず
見逃すように指示をした。

この行動には三つの意味があった。

一つ、淡からさらなる信頼を勝ち取る事。
一つ、周囲からの信頼も勝ち取る事。
そして最後は…後でどんでん返しすることで、
淡の精神を揺さぶるための伏線として使う事。


自分では発見できなかった盗聴器やらを発見した事で、
淡は私を盲信したようだった。
何の疑いも持たず、登下校で引率される事を受容した。


同時に私は、周囲を黙らせることにも成功する。
淡を監視する上で、最も厄介なのは照だった。
照は淡の事を人一倍気にかけていたから。

だが、淡のストーカー被害について
『私が』相談された事。
それを受けて即座に
業者を使って対処した事を告げると、
照は複雑な表情を浮かべながらも、
一線を退くことにしたようだった。


「…私にできる事があったら、何でも言ってほしい」


照は歯噛みしながらそう告げた。

自分は相談されなかったという負い目。
そして仮に相談されたとしても、
自分では私のような手段は取れなかったという無力感。
そんなものがありありと見て取れた。
それでいい。私とて、お前を
力づくで排除したくはない。


これで準備は整った。


後は1カ月ほど、何もない平穏な日々を送らせる。
安心と信頼をちらつかせて
どっぷりと私に依存させた上で、
最後にそれを一気に奪う。


そして来たる一か月後。
私は引率の終了を申し出る。

淡は動揺と恐怖をあらわにしながらも、
反対しようとはしなかった。


「じゃ、さよ、なら」


形式的な挨拶をする淡。
その声はもう小刻みに震えている。
踵を返して立ち去る淡。
私は物陰に隠れたままその様子を伺った。

淡は挙動不審に辺りを警戒しながら歩みを進める。
少しずつその足は小走りになり、
最後には全力疾走に変わる。

急に一人にされた恐怖に
怯えている事は明らかだった。


携帯電話のGPSから淡が
家にたどり着いたことを確認し、
満を持してメールを送信する。


『From:temp_use_for_awai@xxx.com
 ---------------------------------------------------
 弘世菫による引率が終了するようなので、
 また私が貴女を警備することにします。        』


『From:temp_use_for_awai@xxx.com
 ---------------------------------------------------
 後は郵便物についても登下校時に弘世菫が
 確認していたようですが、今後はまた私が
 事前確認しますから安心してください。        』


『From:temp_use_for_awai@xxx.com
 ---------------------------------------------------
 そういえば弘世菫が来る際に、
 貴女はろくに確認もせず一目散に扉を開けていましたね?
 あれは危険ですからやめてください。
 呼び鈴を鳴らす回数で判断していたようですが、
 そんなものは私でも把握できますよ?         』


……


やがて、淡が顔面を
ぐしゃぐしゃにして戻ってくる。

淡は私を見つけるなり飛びかかってきた。
私はさも予想外でしたと言わんばかりに
バランスを崩し、淡と一緒に倒れ込んで見せる。


「…何か起きたのか?」


淡は言葉を発することもできず、
ただただ、私の胸に顔をうずめて泣きじゃくった。



--------------------------------------------------------













--------------------------------------------------------



淡が私の家に引っ越してきた。
こうして、私の長いストーカー生活も
終わりを告げる事になるはずだった。

だが、いざ淡が家にやってきて。
何の心配もなくなって初めて。
私はある一つの事実に気づく。


私は…淡の監視をやめられなくなっていた。


最初は確かに、淡を思っての行動だったはずだ。
危なっかしい淡を守るため。
愛しい淡を守るため、
心を鬼にして取った行動のはずだった

だが振り返ってみればどうだろう。
私は誰よりも淡を傷つけ、怖がらせ、狂わせていた。

それでも今までは
「淡のため」という大義名分があった。

しかし今、それがなくなってもなお、
私の中で淡を監視したいという気持ちが消えてくれない。

淡の事で、私が知らない事があるのが許せない。
淡の全てを掌握しておきたい。
淡をずっと手元に置いておきたい。


淡を…私以外の者に触れさせたくない。


思わず私は笑い出していた。


「はっ……」

「はははははははっ!!!!」


なんと私は醜いのだろう。
結局のところ、私は一目ぼれした相手を
手中に収めたかっただけなのだ。

何が淡のためだ。徹頭徹尾、
私は自分のために動いていた。


「ははっ…はははははっ……」


いつしか笑い声には嗚咽が混じっていた。
胸を引き裂かんばかりの罪悪感。
淡に対する謝罪の念。


だが、今更善人ぶるのもおかしな話だろう。


私はひとしきり泣いて、のどを掻き毟った後。
最後の計画を立てる事にする。

どうせここまでやったんだ。
いっそ開き直って完全な外道に堕ちよう。


しかも、そのためにやるべき事は
もうほとんど残っていない。
一度やったことを繰り返せばいい。


どうせ、淡の精神はとうの昔に壊れている。


後はたった一歩分…背中を押してやればいい。



--------------------------------------------------------













--------------------------------------------------------



授業中にストーカーからのメールを受け取った淡は、
発狂して派手に暴れまわった


机を蹴り飛ばし、椅子を投げ、
生徒も教師もお構いなしに傷つけて


耳をつんざくような叫び声をあげて私を呼んだ


困り果てた教師が私を呼び出す
私は胸の内に喜びを、表には不安を張り付かせて
淡の教室に向かう


教室は血みどろになっていた


それは取り押さえようとした淡に
返り討ちに会ったのだろう教師の血

そしてあまりに強大な恐怖に耐えきれず、
がむしゃらに暴れまわる事で
傷つき散らされた淡自身の血


想像以上に凄惨な現場に思わず血の気を引きながら、
私は淡の前で両手を広げる


淡が私の懐に飛び込んでくる
まるで二度と離さないとばかりに、
加減を忘れた強さでぎりぎりと締め付ける


私は痛みに呻きながらも
淡に優しく声を掛けた



「大丈夫…もう大丈夫だからな…」



そう…もう大丈夫だ


なぜなら、お前の社会人生は
たった今終わりをつげたのだから


もうお前は、私の保護なしには生きられない


だから、大丈夫


私がお前を、一生見守り続けてやる



--------------------------------------------------------













--------------------------------------------------------













--------------------------------------------------------













--------------------------------------------------------



「…というわけだ」


「一連の事件。あれは全て私の手によるものだった」


「それを知った今。私に何か言いたいことはあるか?」


「あはは」


「それ、どうせわたしが、おこらないって、
 わかっていってるでしょ」


「まあな」


「でも、そっかぁ…あれ、すみれだったんだぁ…」


「…ああ」


「そっかぁ…そっかぁ…」


「……」


「えへへ…だめ…うれしすぎる……」


「すみれ、わたしのこと、そんなに、すきだったんだぁ…」


「わたしのこと、こわしちゃうくらい……」


「えへへ……」


「すっごく……うれしい……」



--------------------------------------------------------



私に囲われてからの数年間。

淡はずっと、ある感情に
苦しめられてきたようだった。


それは、私に対する謝罪の念。


『私のせいで、スミレの人生を駄目にしちゃったね』


『スミレは全てを与えてくれるのに、
 私からは何一つあげる事ができないね』


『なのに、私はスミレを手放す事はできないんだ…』


淡はそう自分を責め続けていた。
何年経っても、変わらない生活を続けて
思考力が衰えてきても。
その念だけは、一向に淡から消え去ることはなかった。


だがそれは、実際には逆だった。


私が。

私の方こそが淡の人生を駄目にした。
私が淡を欲しくて囲い込んだ。


その事実を知った時、
淡はようやく、全ての苦しみから
解き放たれたかのように。


「そっかぁ…そっかぁ…」


何度も何度も噛みしめるように頷いた後。
白痴がごとく笑みを浮かべて、
私に覆いかぶさってきた。


「だったらわたし…もう、
 えんりょしなくていいんだよね?」

「ああ」

「もう、わたし、えんりょしないよ?」

「ああ」

「いちびょうも、めを、はなさないでね?」

「ああ」

「わたしがしんだら、いっしょにしんでね?」

「ああ」

「すみれがしんだら、わたしもしぬから」

「ああ」


淡はだらしない笑みを浮かべたまま、
私の唇を貪ってくる。


その笑顔は、私が今まで見たことがないものだった。


自分を縛り付けていた重荷から
解放されたからだろうか?
こんなにゆるみきった、
幸せそうな淡を見るのは初めてで。

ここまで一緒にいてもまだ、
淡の事を把握しきって
いないのだと思い知らされる。


ああ、淡


どうやらまだ監視が足りないみたいだ


もっと、もっとお前のことを教えてくれ


お前の全てを把握するまで


ずっと、ずっと、ずっと



そう心の中で希い(こいねがい)ながら、
淡の唇をついばんだ。


(完)
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posted by ぷちどろっぷ at 2015年07月20日 | Comment(14) | TrackBack(0) | 咲-Saki-
この記事へのコメント
案の定というかやっぱり菫先輩が犯人だったんですね……。

ずぼらな淡を正すために思いつくのが擬似ストーカーとは、菫先輩は最初からそこそこ危険思考ですね。
Posted by アイアンマソ at 2015年07月20日 13:50
病ませようと色々策略をめぐらせ、淡を落とそうとしている自分がもっと深い沼に落ちている。すごく良い菫淡でした。ありがとうございます!
Posted by オリ at 2015年07月20日 15:55
淡菫わっほい!
Posted by at 2015年07月20日 16:27
思考力が下がってセリフがひらがなだらけになる様は実に背徳的ですなぁ。
Posted by at 2015年07月20日 16:36
もう書かないのかと思っていたら遂に!計画の見直しが長すぎて菫さんヤバすぎ
Posted by リリー at 2015年07月20日 22:26
そんな菫の行動を、とある旅館の座敷牢でずっと監視していた人がいます
Posted by at 2015年07月20日 23:59
菫先輩の本気…。相変わらずの怖さ。
淡だけでなく、周囲も傷つけそうな手段だった
Posted by at 2015年07月21日 02:04
とても癒されるヤンデレ!!すばら!!

ただ淡視点でも、菫視点でも、ちょこっとしか出てこないテルテルがちょっと哀れ…笑
Posted by momo at 2015年07月21日 03:21
ヤンデレは自己愛の究極なのですか?
Posted by at 2015年07月21日 18:16
やはり菫視点をリクエストして正解だった
Posted by at 2015年07月21日 22:47
なんだこの良SSは...
Posted by 黒 at 2015年08月10日 16:07
すっごい良いssだぁ…
Posted by at 2016年07月31日 21:43
あぁ…すごく良いです。最後の2人の問いかけ合い、最高ですね…
Posted by at 2018年09月13日 22:23
ハッピーエンドね!
Posted by 仮名 at 2021年12月03日 15:58
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