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【オリジナル百合SS】「価値のない私に生きた意味をくれた貴女」【ヤンデレ】【悲劇】

<あらすじ>
社会から無視されて、
名前すら誰にも呼ばれないような女子生徒。

そんな無価値な『私』の、
ちょっとだけ悲しい物語です。


<登場人物>
少女A,先輩


<症状>
・…あえて言うなら異常行動


<その他>
・短編です。登場人物の名前なども出てきませんし
 比較的サラッと呼んでいただけると思います。

・私の中でテンプレート的なヤンデレ百合です。
 典型的でありがちな悲劇です。
 咲-Saki-でのSSとは違い普通にバッドエンドです。
 苦手な方はご注意を。

・ものすごく後味が悪いかもしれません。
 苦手な方はご注意を。



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あなたは一日に何回名前を呼ばれますか?



私はゼロです。名字呼びも含めて、
名前を呼ばれる事はまずありません。

いえ、そもそも名前呼びどころか。
人と関わる事自体ほとんどありません。

私が存在を認識される事があるとしたら、
保護者に殴られる時くらいでしょうか。

名前を呼ばれる事もなく。
ほとんど存在を必要とされる事もなく。
時折サンドバッグ代わりに使われる。

そんな、どこにでもいるレベルの容姿の、
面白味のない高校二年生女子。


それが『私』です。



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今日も一日が始まりました。



朝起きます。顔を洗います。
ご飯作ります。食べます。

制服に着替えて外に出ます。
学校につきます。


席について本を読みます。
授業が始まるので勉強します。

お昼休みが来きたら
自分で作ったお弁当を食べます。

午後の授業話始まったら勉強します。
そして放課後。
学校が終わったので帰ります。


家に帰ったら炊事洗濯をして。
明日のお弁当の仕込みをして。

後は自分の部屋で勉強でもしています。


すると保護者が順番に帰ってきます。
どうやら今日も言い争いをしているようです。
今日もまた殴られるでしょうか。


怒号と壁を殴る音がひとしきり続いた後。
そのまま静かになりました。
どうやら今日はサンドバッグになる業務はなさそうです。

静寂がそのまま続いている事を確認して、
私も眠りにつく事にしました。
おやすみなさい。



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これが私の典型的な一日です。
今日も人と話す事はありませんでした。
殴られなかったので比較的
幸運な一日だったと思います。

つまらないですか?
でも生(せい)ってそういうものでしょう?


生きる意味ですか?
そんなものありませんよ?


自分が何のために生まれてきたのか。
そんな事を考えられるのは、
ほんの一握りの、能力がある人だけの特権です。

どうして自分に意味があるなんて
考えられるんですか。
自意識過剰もいいところです。

私のような何の取り柄もない人間は、
生まれてきたから生きる。ただそれだけです。
生まれてきた理由はただの自然現象です。
そこに意味なんかありません。

死ぬ理由ならあるかもしれませんね。
いずれ生きる事に耐えられなくなったら
死のうとは思います。
そのくらいは許してほしいです。


こんな考えの私ですから、
今さら現状を打開しようとも思いません。
きっとこのままダラダラと
無味乾燥な生活を繰り返して、
何の感動もなく死んでいくのでしょう。


そういうものだと思っていました。
そう、『先輩』に出会うまでは。



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今日という日は、私にとって
特別な一日になりました。


客観的に見れば、イベントと呼べる程の
何かがあったわけではありません。

多分、普通の人からしたらそれは、
『なんだそんな事か』で
終わる程度の事だったでしょう。

でも私にとっては。
それは、心を。そして魂を揺さぶる程に
衝撃を受けた出来事だったのです。


その日、私は朝から体調不良に苛まれていました。

前日が『不運な日』だったので。
殴られた部位が、蹴られた箇所が
鈍い痛みを訴えていて。

痛みは寝不足を呼び、寝不足は体調不良を招き。
私はふらつきながら廊下を歩いていました。

そんな私は、いつもなら引っ掛からない、
タイルのつなぎ目に足を取られてしまったのです。


(あっ…)


唐突に世界がスローモーションになり、
ゆっくりと目の前に汚い床が近づいてきます。

それでも反応する事はできず、
ああ、このまま地面に叩きつけられるのだろうなと、
諦めの境地に至った刹那ーーー


「危ないっ!!!」


私は、誰かに抱きかかえられていました。


恥ずかしながら、私は何が起きたのか
理解することができませんでした。


ありえない事です。
ありえない事なんです。

私が。私なんかが、誰かに認識されて。
あまつさえ助けてもらえるだなんて。

ありえない。
夢でも見ているんじゃないでしょうか。


でもそれは夢ではありませんでした。
私は確かにその人に抱き締められていて。
その人は、私の顔を見てこう言ったのです。


「あー、危なかった」

「よかったね、何ともなくて」

「…え、っぅ、あの」

「驚きのあまり声も出ないかー。
 フラフラしてたけど寝不足?
 気を付けないと駄目だぞー」

「んじゃねー」


一言も満足に話せない私とは対照的に、
彼女は明朗闊達に語り掛けると。
スカーフを翻しながら、
軽い足取りで走り去って行きました。


私は突然の出来事に動くこともできず、
木偶人形のごとく立ち尽くします。


寝不足で回らない頭を必死で回転させて、
何が起きたのかを反芻して、
そして、ようやく理解して。


「…っ…っっ……」


肩を震わせて嗚咽しました。


堪えようとはしたんです。
でも、涙が後から後からこみあげてきて。
耐えられなかったんです。

人に認識してもらえる事が。
人に心配してもらえる事が。
そして人のぬくもりが。


こんなにもあったかいだなんて、
知らなかったんです。


制御できない感情の波に翻弄されて、
私は思わずトイレの個室に駆け込みました。
そしてみっともなくくぐもった声を
漏らしながら泣き続けました。


「…ぇぅっ…」

「ふっ……」

「っぁぁっ……!」


嬉しくて泣いたのは、
この日が初めての事でした。



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あまりに唐突な出来事だったので、
私は彼女の事をほとんど何も知る事はできませんでした。

それでもわかった事が三つあります。
一つ目は、彼女がとても優しい人で。
二つ目は、彼女がとても明るい人で。
最後は、彼女が先輩だという事です。

去って行く時に見えたスカーフの色。
紺色でした。うちの学校では、
紺色は三年生である事を意味します。
つまり彼女は最上級生です。


名前も知らないあの人。
私は彼女を、『先輩』と名付ける事にしました。

一概に『先輩』と言えば誰か
特定の人を指す単語ではありません。
でも、私は『先輩』と言ったら
あの人の事を指すと決めたのです。
『先輩』をあの人専用の固有名詞に変えたんです。

ここまでの特別扱いは初めてでした。
そうしてもいいと思うくらい、
私は彼女に心を奪われていたのです。


もっとも、だからと言って
先輩に近づきたいなどと
考える事はありませんでした。

だって私の事を知られたら、
嫌われてしまうかもしれません。
無視されるかもしれません。

私みたいな生き物が、
先輩のような輝かしい存在に近づこうだなんて
それだけで烏滸がましい事です。

ただ、せめて…
もっと、先輩の事を知る事だけは。
そのくらいは、許してもらえたらいいなと思いました。


出来る範囲で先輩の事を調べました。

先輩は陸上部の部長のようでした。
性格はあの時のまま、元気で優しい。
そんな先輩はいろんな人から慕われていました。

運動は当然得意。
勉強の方は…残念ながら
あまりできる方ではなさそうです。
それを補って余りある程に魅力的ですけど。

さらには委員会も兼務しており、
校内で彼女を知らない人はいないと言えるほどの
有名人のようでした。


知れば知る程、遠い世界の人間で、
ああ、こういう人もいるんだなぁと思いました。

私みたいな生き物とは違う選ばれた存在。
ただ存在するだけで、
人に幸せを与えられる存在。

生まれてきた意味のある人間とは、
先輩のような人の事を言うのでしょう。


放課後、誰もいない屋上に上って、
グラウンドを見下ろします。
そこでは先輩がいつも走っていて。
青春の汗を流しています。

先輩の目はひどく真剣で、
熱心に陸上に打ち込んでいる事が
一目でわかります。


(ああ、先輩。頑張ってください)


届くはずのないエールを心の中で投げかけて。
それだけで私は一人、
温かい気持ちになるのです。



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毎日、毎日先輩の事を想い続けました。
そしてその行為は、私に力を与えてくれました。

不定期のサンドバッグ業務も随分気が楽になりました。
口の中に血が滲んでいたとしても平気です。


『大丈夫…?なんて酷い事をするんだろ…
 私が一言ガツンと言ってあげるよ!』

「いえ、大丈夫です…慣れてますから」

『こんなの慣れちゃ駄目だって!
 ああもう、こんなに口を切って…
 今応急処置してあげるからね!』

「…ありがとうございます…」


だって傷つけば、先輩が慰めてくれますから。

紙に描いた先輩の似顔絵を眺めながら、
私は脳内の先輩と会話します。
私の中の先輩は、優しく私を介抱してくれました。

ああ、なんて幸せだろう。
むしろサンドバッグにされてよかった。
先輩と話すきっかけができたから。
今日は幸運な一日でした。



それにしても、私だけこんなに
もらってばかりでいいのでしょうか。

先輩は私を助けてくれるのに、
私は何もしてあげられない。
いえ、わかってます。
私みたいな何の取り柄もない人間に
施しを受ける程先輩は困ってはいない。
そんな事を考える事自体が傲慢だと。

それでも、何か先輩のためにできる事があれば。
そんな想いが、私の中に募っていったのです。



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そして、幸運にもやってきたのです!


私が、先輩のために何かをできる日が!


それも、あの日の恩を返す形で!!





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その日、先輩は一人で帰路についていました。

私は何をするわけでもなく、
先輩の後ろをついて歩いていました。
もちろんお邪魔にならないように、
視界に絶対入らないように。
遠巻きに後ろを歩いていました。


交差点に差し掛かり、
赤信号で先輩は止まります。
進行方向の赤信号を眺めている先輩。


不意に、なんだか嫌な予感がしました。
そして、その直感は当たりました。


マナーの悪い男が自転車でやってきました。
男は自転車から降りる事無く、
先輩の横を信号無視して
猛スピードで通り抜けていきました。

急な事に先輩は驚いてバランスを崩し、
そのまま尻餅をついてしまいます。


そして、尻餅をついた場所は…車道でした。


「先輩!!!!」


反射的に私は飛び出しました


轟音が聞こえました


私は先輩を突き飛ばしました


私の身体が何かに接触しました


気づけば私は飛んでいました


2,3メートルは飛んだ後


鈍い衝撃とともに硬いアスファルトに叩きつけられました


「〜〜〜〜〜っ!!!!!」


先輩は叫び声をあげながら
私に駆け寄ってきます

いつもは笑顔が眩しいその顔を
涙でぐしゃぐしゃにしながら
私に叫びかけました


「なんでっ…!!どうしてっ……!!」


声は出ませんでした
でも、そんなの決まってるじゃないですか

先輩が危険に晒されている
私が代わりになれる
飛び込むに決まってるじゃないですか

大切な先輩の命を、
私みたいなのの命で守れるなら
安いものです


声を出せない代わりに、
せめて笑顔を見せようと思いました

そんな自分の行動に少なからず驚きました

こんな醜い私の笑顔を見せて、
何の意味があるでしょう

でも、なんとなくそうしたかったのです


ああ、意味
そう、意味


そう言えば、過去に「何のために生まれてきたのか」なんて
自問した事もありましたね

あの時は、単なる自然現象だと結論付けました

アリやら微生物が勝手に沸いてくるように
私が生まれてきた意味など何もないと


その事実が変わるとは思っていません

でも、そんな風に生まれてきた私は、
意外にも世界の役に立つ事ができたようです


だって…先輩の代わりに死ぬ事ができるのだから


そう思った時、
私の目から涙が滲んできました

ああ、ああ、ああ

本当に、どこまで先輩は、
私を救ってくれるというのでしょう

何の価値もない私を救ってくれたばかりか、
生まれてきた意味まで与えてくれるなんて


「あぁぁああぁあぁっ!!!!」


私の涙の意味を勘違いしたのでしょう

先輩は酷く悲しそうに慟哭しながら
私の手を両手で強く握ります

違うんです、私は嬉しいんです
でも、それを伝える事はできなくて


代わりに私は指を握り返しました


ああ、なんて幸せ
まさか最期に
先輩に触れられながら逝けるだなんて


身体から感覚がなくなっていきます
思考が定まらなくなり、意識が遠のいていきます

やがて視界も狭まって
先輩の顔が歪んで黒く塗りつぶされていきます



最後に見たのは、やっぱり泣き顔の先輩でした


(完)
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posted by ぷちどろっぷ at 2015年07月29日 | Comment(6) | TrackBack(0) | オリジナル百合SS
この記事へのコメント
本人にとってはハッピーなエンドですね
Posted by at 2015年07月29日 21:47
その人が存在しているだけで日常の色を幸福に変えてくれる
そんな運命的な出会を、その時の境遇や環境が掻き消してしまう
結末が悲劇で無くても、みな誰にでも起こっていて気づかずに通り過ぎているのでしょうね
身につまされる話しで色々振り返ってしまいました。
Posted by at 2015年07月29日 22:15
まぁでも『私』にとっては本懐遂げた訳ですし、ハッピーエンドと言えなくもないかも?
Posted by at 2015年07月30日 06:09
百合ヤンデレSSはハッピーエンドもバッドエンドも大好物です
先輩サイドの話もお書きになるんですかね?
Posted by at 2015年07月30日 22:53
ハッピーぽいエンドですね、バッドエンド嫌いな自分がわりと好きな話だったので、ハッピーエンドなはず

話は変わりますが、このサイト百合ssで検索するとトップページに出るのにヤンデレssだと出ないのがちよっと意外
Posted by at 2015年07月31日 07:53
誰かの役にたっていけたら幸福でしょうね…
生まれた意味は決められなくても、生の使い道を自分で決められるのは幸せかもしれない…
Posted by at 2015年08月01日 15:43
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