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【咲-Saki-SS:咲久】 咲「もっと、私を頼ってください」【ヤンデレ】【共依存】【シリアス】

<あらすじ>
冒頭と<その他>があらすじ代わりです。


<登場人物>
竹井久,宮永咲

<症状>
・共依存
・ヤンデレ
・異常行動

<その他>
次のリクエストに対する作品です。
・久咲を…。久が両親離婚のトラウマから
 完全には立ち直っていないことを咲が気づき久を支える。
 咲の献身に依存した久が
 拠り所を失う恐怖から咲を縛りつけるべく謀略を実行、
 それを受け入れ包み込む咲…みたいな?
 これだとシリアス…というより
 白咲による弱った久さん救済物語?

 →ごめんなさい。どっちも真っ黒になりました。
  どうしてこうなった。



--------------------------------------------------------



気づいてしまったんです。

部長の弱さに。心の奥底に隠された深い傷に。

そのきっかけはただの偶然。
ちょっと二人で世間話をしていて、
たまたま家族の話になった時の事でした。


「咲って意外に料理上手いのねー。
 おうちで家事を手伝ってたりしてるのかしら?」

「あ、家の家事は全部私がやってるんです」

「うち…今お母さん居ませんから。
 その…離婚はしてないんですけど…
 別居してて」

「…そうなんだ」

「あ、えと!部長は料理とかするんですか?」

「あはは。ナイス切り返し!
 私も結構自信があるわよ!」


「何しろ両親が離婚して、
 私捨てられちゃって一人暮らしだからね!」


私の家庭環境を聞いて少し戸惑いを見せた後、
あまりにも明るい声でそう言い放った部長。

でも私は、それがただの空元気だと
瞬時に気づいてしまいました。


「……」


明るく振る舞って見せながらも、
どこか遠くを眺めた部長。
その目には何も映ってなくて。


その虚ろな表情に…強い既視感を覚えたんです。


それは、いつか見た私の顔。

あの日、お姉ちゃんから拒絶されて
一人絶望して帰ってきた時に、
鏡で見た自分の顔そのものでした。


「ごめんね、つまんない話しちゃって。
 そろそろ麻雀でも打ちましょっか」


でも部長がそれを見せたのはほんの一瞬の事。

そしてそれ以上この話題に触れようとはせず、
会話を打ち切ろうとしました。
部長にとってそれは、触れられたくない傷
だったのかもしれません。


でも。


「ま、待ってください!
 その話…もう少しだけ聞いてもいいですか?」


それでも私は、あえて蒸し返していきました。
ここで聞く機会を逃したら、
もう二度と聞けない気がしたんです。

部長は触れられたくないのかもしれません。
踏み込み過ぎかもしれません。


でも。


なんとなく、その傷を
そのままにしておいてはいけないって、
そう思っちゃったんです。



--------------------------------------------------------



別に聞かれて困る話というわけでもなかった。
単に聞かれなかったから話さなかっただけ。

あまりにプライベートな話だし、
聞く方も、こんな事を話されたところで
戸惑うしかないだろうから。

だから正直、咲が食いついてきた時は驚いた。
聞いたって面白くも何ともないのに。


「…ってわけでね。親はどっちも
 私の事を引き取りたがらなかったから」

「私は養育費だけもらって一人暮らしってわけ」


淡々と経緯と現状を説明する。
そういえば、この話を誰かにするのは
初めてかもしれない。


……


「本当は風越に入りたかったんだけどね。
 金銭的に余裕が無くなっちゃって、
 計画が全部パァになっちゃった」


咲は真剣に聞いてくれた。
私のすぐ隣に座って、じっと私の目を見つめながら。


……


「しかもこの話聞いたの、
 インターミドルの個人戦真っただ中よ?
 いい感じで勝ち進んでたのに、
 もう目の前が真っ暗になってさ」


いつの間にかそれは状況説明の枠を超えて、
心情の吐露にすり替わっていて。


……


「それでっ、個人戦がトラウマになっちゃってっ…
 でもっ…団体戦に出たくても、
 誰もっ、入って、くれ、なくて」


気づいた時には、私の声はみっともなく震えて、
嗚咽混じりになっていた。


……


「……っ、……っ」


正直自分でも驚いた。


とっくに消化したつもりだった。
だって両親が離婚して、もう丸々3年も経っている。

なのにいざその傷跡に触れてみたら、
まだ全然治ってなくて。

今もなお、その傷は私の中に
ぽっかりと大きな風穴を開けていたのだから。


「……」


私の悲痛な叫びに対して、咲は一切口を挟む事なく。
ただ静かに泣きながら、
私の肩をそっと抱き締めてくれた。

それで私は止まらなくなって。
ついには咲にしがみついて、
大きな声をあげて泣き始めてしまった。



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部長を支えたいと思いました。
もっと部長の傷に触れたい。
触れて、そして癒したい。そう思いました。


部長はきっと、気づかないふりをして
一人苦しんできたのでしょう。

心にそっと蓋をして。
癒えない傷をそのままにして。


確かに部長はいろんな人に囲まれています。
でも、その傷と向き合っていないままじゃ。
誰にも弱さを見せないままじゃ。

本当の意味で救われる事はないと思ったんです。


全国大会の2回戦を経験してわかりました。
部長はどこか、全てを一人で
抱え込んでしまうきらいがあります。

本当は不安で仕方ないのに。
怖くて怖くて仕方がないのに。

誰にも甘えられないから、『強い』自分を演出して。
そして一人、ひっそりと傷ついたまま生きていく。


そんなの悲しすぎるじゃないですか。


私にできる事なんて限られてる。
それはわかってます。
でも、愚痴を聞く事くらいはできます。
辛い時、そっと抱き締めるくらいはできます。


だから、部長…もう少し私を頼ってください。



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それから咲は事あるごとに、
私を気遣うようになった。

時には過干渉と思える程に。
一体何があの子をそこまで駆り立てるのかは
わからないけれど。

ちょっとだけしんどいなって思った時。
なんとなく気持ちが沈んだ時。
どこか心がむしゃくしゃした時。

そんな私の心情を鋭敏に感じ取って、
咲はそっと近寄ってくる。


「部長。大丈夫ですか?」


今までだったら。もし別の人に聞かれたなら。


『あ、うん。大丈夫。
 ちょっと疲れただけだから
 気にしないで?』


なんて、適当な返事でごまかしていたと思う。

でも咲にそれは通用しない。
だって咲は見抜いてるから。
『大丈夫じゃない』って確信した上で
声を掛けてきてるから。

だから私は観念して、素直に咲に甘える事にした。


「ん…ちょっとつらいかも。
 肩、貸してもらっていい?」

「はい」


咲の肩に頭を乗せる。咲は私の顔に頬を寄せると、
頭を優しく撫でてくれた。

傍から見たらひどく滑稽な状況だと思う。
年齢も身長も上の私が、
年下で背の低い咲の肩にもたれかかって
頭を撫でられている。
恥ずかしくって、他の人にはとても
見せられない姿。


でも、意外にもそれが…ひどく心地よかった。


こうやって、何も考えず
誰かに思いっきり甘えられる相手って、
初めてかもしれない。



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自分でも『ちょっとやり過ぎかな?』と思ったものの。
意外にも、部長は素直に受け入れてくれました。

最初は私の方からそれとなく察して、
その度に声を掛けていたけれど。

それを繰り返すうちに、
部長はだんだん自分から、
隠していた本当の気持ちを
伝えてくれるようになりました。


例えば麻雀部の引退宣言の時の事。


「というわけで、私は本日をもって
 麻雀部を引退します!」

「…今まで、本当にお疲れ様でした…」

「…結局お前さんが大会に出られたんは、
 最後の一回だけじゃったなぁ」

「まーでも、その最後の最後で
 最高の思い出をもらったからね!
 ホント、続けてきてよかったわ」

「インターハイ初出場にして全国準優勝!
 きっと伝説として末代まで語り継がれるじぇ!」

「いやいや今回限りの伝説で終わらせないでよ?
 清澄の歴史はここから始まるんだから」

「私の意思を受け継いで、
 次こそは全国優勝してちょうだい!」


「「「「「はい!!」」」」」



部長は一滴(ひとしずく)の涙も零す事なく。
声を震わせる事もなく。
いつも通りの飄々とした態度で
あっけらかんと引退を宣言しました。


でも、私は知っているんです。


これが、部長にとって
どれほどの苦痛を生む出来事なのか。

部長は、私にだけその胸の内を
打ち明けてくれました。


部活が終わり、皆が部室から引きあげて。
部長と二人で居残りました。
完全に二人きりになったとわかると同時に、
部長は大粒の涙を零し始めました。


「…っ、…っ」

「私の居場所っ、無くなっちゃったっ…!」

「もう、私はっ…ここに居られないっ……!」


肩を震わせ、声も震わせ。
涙ながらにかぶりを振る部長。
でも、それこそが部長の本音でした。

当然の事だと思います。部長にとって麻雀部は、
自分の体の一部のようなもので。
期限が来たから『はいさようなら』なんて
簡単に捨てられるほど、
軽いものじゃありません。

何もかも失ったボロボロの状態から
たった一人で、長い年月をかけて
一から作り上げてきた、
想いの結晶なのですから。


「絆ってね…意外と、脆い、もの、なのよっ…」

「心と体が繋がっててもっ…
 ほんのちょっとの行き違いで、
 あっさりっ、離婚しちゃうっ…くらいだものっ…」

「先輩と後輩の関係が、ずっと続くなんてっ、
 信じられるっ…方がっ…
 おかしいじゃないっ……!」
 

「きっとっ…私はっ…すぐ、忘れられるっ……!」


「…部長…」


返す言葉がありませんでした。
両親の離婚を経て、たった一人捨てられた部長。
実体験を伴ったその言葉には、
決して覆せない重さがありました。


「今はまだいいわ…引退したとはいえ…
 私はいつでも、この部室に来る事ができる…」

「でも…卒業したら、どう…?
 年度が替わって…新入生が入ってきたら…?」

「そのメンバーでっ、インターハイに出場してっ…
 ……優勝、しちゃったりしたら!?」

「その時私はっ、ただのOGっ…!
 過去の人になってっ、懐かしまれるだけっ!」


「今の感情なんて、何の当てにもならないのよっ……!」



一気にそこまで言い切って、両手で顔を覆う部長。

私は張り裂けんばかりに痛む胸を押さえながら、
必死でかける言葉を探します。
でも、慰めの言葉なんか何の意味も持たなくて。

それでも、なんとか部長は一人じゃないと伝えたくて。
苦し紛れに私が吐き出した提案はこうでした。


「そ、そうだ!だったらこうしませんか!?」

「…なにっ…」

「あ…新しい関係を作るんです!」

「これからは、私が部長の家に通います!」

「一緒に料理して、一緒にご飯を食べましょう!」

「時々は泊まって、一緒に寝たりしませんか!?」


「そうすれば、部長は過去の人にはなりません!」


私の腕に包まれながら提案を聞いた部長は、
あっけにとられたような表情を浮かべながら。
やがて、私を抱き締める腕の力を強めました。
そして、くぐもった声で呟いたのです。


「うん…それならっ……寂しく、ないかもっ……」


私はほっと胸を撫で下ろして。
胸に顔をうずめる部長を、
ぎゅっと強く抱き締めました。



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咲が我が家にやってくるようになった。
週に3回の限定通い妻だけど。

咲の家もシングルファーザー状態だから、
毎日家を空けるわけにはいかない。
それでも咲は、できる限りの時間を
私のために割いてくれた。


「本当に大丈夫なの?
 お父さん餓死したりしない?」

「お父さんも一応家事はできますから…
 今は誰よりも部長が最優先です」

「…私、そんなに重症に見える?」

「はい。正直呆れました。
 ジャンクフードばかり食べてたら
 健康に悪いですよ?」

「リンゴ酢とかオプションに凝る前に、
 まずはまともな食事を摂ってください」


まるでお母さんのように『めっ』と私をしかる咲。
私は茶目っ気たっぷりに舌を出しながら、
甘んじてそれを受け入れる。


…少しばかりの罪悪感を胸に抱きながら。


別に普段からジャンクフードばかり
食べてるわけではなくて。
いつもはむしろ、健康に気を遣った
献立を考えているのだけれど。

ここのところ気が滅入ってたから、
偶々サボっていただけだった。


「ふぅ。この調子だと、しばらくは
 集中して通った方がよさそうですね」

「あ、あはは。お手柔らかにお願いします」


狙ったわけではないけれど、
咲が思いのほか食いついて、
お節介を焼いてくれるものだから。
つい、本当の事を言いそびれてしまう。

そして、さらに悪い事には。


(そっか…私が駄目な子になればなるほど、
 咲は私をかまってくれるんだ)


なんて、あまりにも幼稚な考えに
思い至ってしまったのだった。



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最近、部長が不安定な気がします。
ちょっとした事ですぐ泣いて、
私に縋り付くようになりました。


でも、それも仕方のない事だと思います。

別れの機会が多過ぎました。
麻雀部を皮切りに、学生議会も引退の日を迎えて。

通常授業も終了して、
自由授業?に切り替わりました。


人との関わりが多い部長は、
それだけ人との別れも多く。
お別れイベントが起きる度に、
部長はその身を引き裂かれていったのです。


「明日から自由授業になるわ」

「何ですかそれ」

「学校に来てもいいし、来なくてもいい。
 授業はないから来ても自習するだけ」

「受験する大学によって
 必要な学力は様々だからね。
 自分で考えて勉強する時間が必要なのよ」


「次に全員揃うのは、卒業式になっちゃうかもね」


よどみなく説明してくれる部長。
でもその声には力がありません。
目が少し赤みを帯びているあたり、
私に会う前は泣いていたのかもしれません。


「…寂しくなりますね」

「そうね……」


部長と二人きりで話す機会が多くなって。
隠された心に触れる機会が多くなって。
それで気づいた事があります。

部長は私が思っていた以上に、
人懐っこくて寂しがり屋だという事。

自由登校になって、クラスメイトに
頻繁に会えなくなったというだけで、
部長の頬には涙が伝うのです。


「大丈夫です。私はずっといますから」

「ずっと、部長と一緒にいますから」


静かに涙を流す部長を抱き寄せて、
いつものように耳元で囁きました。
何度も、何度も。部長を安心させるように。


「うん…」


それを聞いた部長は、
まるで小さな幼子のように。

その長いまつげを伏せて、
私の胸にすり寄るのです。



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どんどん咲に依存していく。
心が弱くなっていく。
わかっていても、止める事は出来なかった。


学生議会に居場所がなくなった事も。
教室に人のぬくもりがなくなった事も、
悲しい事には間違いない。

でもそれは両親の離婚とは違って、
誰もが普通に経験する別れ。
自力で消化して乗り越えなければいけない試練。

そして昔の私ならきっと、
普通に消化できていたはずだった。


なのに、今の私は耐えられない。


ちょっとでも弱いところを見せれば、
すかさず咲が慰めてくれるから。
いつまでもずっと抱き締めていてくれるから。


「咲…咲はいなくならないわよね?」

「はい。これからも部長の側にいます」

「ずっと居てくれる?」

「はい」


咲はいつも私が欲しい言葉をくれる。
咲の言葉は私を癒し、そして私を弱くする。


そして私は…耐える事をやめてしまった。



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卒業が近づくにつれて、
部長はますます情緒不安定になっていきました。

そんな部長を慰めているうちに。
いつの間にか、ほとんど毎日
部長の家に通うようになっていました。

お泊りの回数も増えました。
今や月の半分は、部長の家に泊まっています。

知らず知らずのうちに、
部長の家に私の私物が増えていって。
やがて、下着や歯ブラシまで、
部長の家に常備するようになりました。

自分でも少しやり過ぎかなとは思います。
それでもやっぱり、部長の事が心配で。
部長の力になりたくて。

少しでも側に居たいんです。



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正直に言ってしまうなら。
もう卒業なんてどうでもよかった。

なのに私は、さも悲しそうに
泣きじゃくりながら咲にしがみついた。


だっていい口実だったから。


この頃になると私は、
咲に縋りつく理由を探すようになっていた。

ずっと側にいてほしい。片時も離れたくない。
そんな浅ましい欲望が、限りなく肥大化していく。
だから、咲に甘えられる理由を探す。


ちょっとでも不安を感じたら、
咲の家に電話を掛ける。
それだけで咲は駆けつけて、
私を思い切り抱き締めてくれる。

咲が帰ろうとしたら、目に涙を滲ませる。
それだけで咲は家に電話を入れて、
私の家に泊まってくれる。

今やもう、咲は毎日私の家に顔を出す。
もはやどっちが自宅なのかわからないくらいに。


それでも私は満たされない。


帰らないで。ずっと側にいてほしい。
どうか、一時も私から目を離さないで。



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でもそんな生活を、
いつまでも周りが許すはずもなかった。






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「部長。もう、咲さんを縛るのをやめてくれませんか」

「卒業を前にしてつらい気持ちはわかります。
 だから、今まではぐっと堪えてきました」

「でも、それももう限界です。
 部長が甘えているせいで、
 どれだけ咲さんに負担が
 かかっているかわかりませんか?」

「最近咲さんは部活にも出てきません。
 そんな時間ありませんから。
 放課後になったら一目散に家に帰って、
 家事をこなして、すぐ部長の家に
 駆けつけてるんですよね?」

「なのに苦言を呈しても、咲さんは
 『今の部長をほおってはおけない』
 の一点張りです」

「おかしいですよね。逆じゃないですか。
 なんで後輩が、卒業する先輩を心配して
 そこまで奔走しなくちゃいけないんですか」

「私の尊敬した部長は、
 一体どこに行ってしまったんですか」

「お願いですから。もういい加減咲さんを
 解放してあげてください」



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頭をガツンと殴られた気分だった。
久しぶりにまともな思考が蘇った気がした。

久しぶりに会った一年生の後輩に叱咤されて。
『もう解放してあげて』なんて、
深々と頭を下げられる。
ほんの数か月前じゃ考えられない事だった。

それでもぎりぎり間に合った。
和の痛烈な糾弾は、確かに私の心に届いて。
僅かばかり残っていた、なけなしの理性を刺激した。


このままじゃいけない。


今すぐ咲を解放するのは無理。
でも、少しずつ依存を減らしていこう。
少しずつ、少しずつ。
そのくらいなら、私にもできるかもしれない。

私は咲から離れる決意を固めた。
それは他ならぬ咲自身のために。



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いつものように部長の家を訪問した私は、
いつもと様子が違う部長から、
こんな言葉を聞きました。


「だ、だからね…このままじゃいけないと思うの」

「私、咲に甘え過ぎてた。このままじゃ、
 咲の人生まで駄目にしちゃう」

「だから、す、少しだけ…っ、
 きょりっ…置きましょ…?」


肩をかき抱きながら。ガタガタと体を震わせながら。
悲壮な声で、部長はそう告げました。

私は瞬時に、部長が誰かに攻撃された事を悟りました。
そうでもなければ、部長が私に、
別れを告げるはずがありませんから。


「……」

「さ…さき…?」

「…誰に脅されたんですか?」

「お、脅されたとかじゃなくて…
 私が、そうしないと、いけないと、思って」

「嘘」

「っ」

「今の部長が、私から離れられるわけないじゃないですか。
 ううん、離れちゃいけないんだよ」

「だって部長、すごい弱ってるもん。
 私が守らなきゃ駄目なんだよ」

「なのに、部長に私から離れろなんて、
 弱ってる部長を脅すなんて…」


許せない。


「ねえ、誰?部長の事を脅迫したの」

「……っ」

「ねえ、部長。教えて?
 部長を守るために必要なんだよ」

「……」

「…和ちゃん?」

「…っ!!」

「…やっぱりそうなんだ。
 前からずっと私にしつこく言い寄ってきてたもん。
 部長から離れろって」

「ち、違うの咲、そうじゃな」

「大丈夫だよ?全部私に任せておいて」


「部長は安心して、私に守られてればいいんだよ?」


私は部長から携帯電話を借りると、
和ちゃんに電話を繋いでもらう事にしました。

和ちゃんに絶交宣言をして、
ついでにこれ以上余計な口出しをしないように、
文字通り『釘を刺す』ために。



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『ぎりぎり間に合った』だなんて、
見当違いもいいところだった。
実際にはとっくに手遅れだった。

だって私がおかしくなっていったように、
咲だっておかしくなっていたのだから。


「ねえ部長。私もね、
 今のままじゃいけないと思うんだ」

「だって、今はお父さんに邪魔されて、
 ずっと部長と一緒に居られないもの」

「部長だって、私と一緒に居たいでしょ?
 1秒だって離れたくないでしょ?」

「だからね、部長。引っ越しちゃお?
 もう誰にも邪魔されないように。
 どうせプロになるんだし、
 東京とかの方が都合いいよね」

「私も退学してついてくから。
 部長のマネージャーになって、
 できるかぎり部長の側にいるよ」

「しばらくは部長に頑張ってもらうしかないけど…
 一生働かないで暮らせるだけのお金がたまったら、
 プロも辞めていいからね?」


「その後は、ずっと二人でくっついてよ?」


咲の考えた計画は、私と二人っきりで
生きていくための最短ルートだった。

他の人を完全に切り離した計画。
それをさも当然のように語る咲。
その瞳は、完全に狂人の色に染まっている。
でも、何より性質が悪いのは…


そんな咲の提案は、私にとって魅力的すぎた事。


散々咲に甘やかされて、思考力が鈍化して。
後輩の叱責で奮い立たせたなけなしの理性も
あっさりと叩き潰されて。

その上で、私が心から望む提案をされてしまっては…


もう、私に抗う術はなかった。



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--------------------------------------------------------



「部長、お疲れ様!帰って二人でゆっくりしようね」


「あ、インタビューとか駄目です、
 部長は疲れてますから。
 代わりに私が全部答えますから
 部長に話しかけないでください」



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「部長は何もしなくていいよ?
 ご飯も全部私が用意する。
 掃除も、洗濯も私がするよ。
 体も私が洗ってあげる。
 部長は何も考えなくていいの」


「これからの事も、私がちゃんと考えてるからね?」



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「部長、今までお疲れ様!
 これだけあればもう私達二人っきりで生きていけるよ」


「後はもう、私の事だけ考えてればいいからね?」




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そして、私は…
咲以外の事を考えるのを放棄した






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本当の気持ちに気づきました。
私は誰のためでもない、
自分のために部長を甘やかしていたんだって。

部長の傷を癒したいと思ったのは事実です。
支えたいと思ったのも事実です。


でも多分…そうやって部長を支える事で。
私は私で、自分の傷を癒していたのでしょう。
蓋を開けてみればただ。
私達はお互いに、家族に捨てられた傷を
舐めあっていただけだったのです。


お姉ちゃんみたいな部長に
求められるのが嬉しかったんです。
どんどん私に溺れていってくれるのが
嬉しかったんです。

そうやって私が尽くしていくうちに、
だんだん部長がおかしくなっていって。

いつしか手段が目的に代わっていった事も。
過剰に寂しがる事で、
部長が私を縛ろうとしている事も
気づいていました。

気づいていたのに、
見て見ぬふりをして受け入れました。
私に依存してくれる部長が
愛おしくてたまらなかったから。
もっと、もっと溺れてほしかったから。


もっとも、溺れていたのは私も同じで。


いつの間にか私は、
常に部長を甘やかしていないと
平静を保てなくなっていました。


「だからね?部長が気にする必要はないんだよ?」

「私は私で壊れてて、部長を支えてないと
 おかしくなっちゃうの」

「だからお願い、私にずっと甘えていて?」

「逃げちゃだめだよ?部長は私に
 支えられてなきゃ駄目なの」

「ね?部長」


私は部長の唇をついばみながら。
何度も呪いの言葉を吐き出します。


「うん…わたし、ずっと、咲に、あまえる」

「だからね?捨てないで。
 わたし、咲がいないと、駄目だから」

「ずっと、わたしをあいして。
 いやして。ずっと」


ひたすら甘やかされ続けて、
思考力が低下しきった部長も、
舌っ足らずにせがみます。


「うん、ずっと、ずっと、ふたりでいようね」


「うん、さき、すき、さき」


そこにはもう、傷を持った部長はいませんでした。
でも、あの頃の凛々しい部長もいませんでした。

そこにいるのはただ、
私で埋め尽くされた可愛い部長だけ。


そんな部長が愛おしくて。
私はまた耳元で愛をささやくのです。



もっと、部長を駄目にするために。



(完)
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posted by ぷちどろっぷ at 2015年08月08日 | Comment(8) | TrackBack(0) | 咲-Saki-
この記事へのコメント
素晴らしい読んでてゾクゾクした
Posted by at 2015年08月08日 23:30
人間を駄目にするには望む物を与え続ければいい、という意味の言葉を最近ネットで見かけました。
それは子育てとか復讐とかの意味で用いられていたのですが、まんまこのSSに当てはまるなあと感じました。
まあ回りに迷惑をかけず、二人で完結してるから問題はないな!
Posted by at 2015年08月09日 03:48
これは必然。
孤独感を癒してくれて相手が目の前に現れたら仕ないですわ
Posted by at 2015年08月09日 19:54
応援してます。

久は弱いところがあるのが可愛いんですよね……
Posted by at 2015年08月09日 23:51
コメントありがとうございます!

ゾクゾクした>
久「救済されるはずがより陥れることに…」
咲「部長がかわいすぎるのがいけないんです」

人間を駄目にするには>
久「何もする必要がなければ、
  そのうち何もできなくなるわよね」
咲「いいじゃないですか。
  私がいれば困らないんですから」
久「貴女がいなくなった時どうするのよ」
咲「追いかけてきてください」

これは必然>
咲「実際心の弱さを見せられる人がいたら
  久さんは甘えん坊になる気がします」
久「原作でも靖子辺りには
  そんな感じ見えるわね」

久は弱いところがあるのが可愛い>
咲「天然人たらしの最たるところですよね」
久「誰だって弱さくらいあるでしょ」
咲「ギャップがズルいんですよ」
Posted by ぷちどろっぷ(管理人) at 2015年08月10日 19:50
たまらんッ!部長のかわいさにニヤニヤが止まらねー

やっぱ依存関係っていいですねー
Posted by shiki at 2015年08月10日 20:33
今更ですが…
リクエストに答えていただきありがとうございます。
咲が弁当を部長に作るSSを読んで、白咲ならどんな部長でも受け入れるのではないかな?と考えたことがきっかけです。
どんな部長も大好きですよ、のような終わり方を予想していましたが、読んでみるとさらにドロドロの共依存状態…。
謀略久ではなく弱い心を隠せない久、弁当咲と同じく献身的なのにどこか病んでる咲…。予想を超えてました。凄いです…。
これからも楽しみにしています。
Posted by at 2016年03月31日 05:02
かわいい。
Posted by at 2018年09月20日 04:29
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