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【咲-Saki-SS:咲豊】咲「笑顔が可愛い私の神様」【ほのぼの】
<あらすじ>
なし。その他のリクエストを参照してください。
<登場人物>
宮永咲,姉帯豊音,竹井久,熊倉トシ,その他宮守
<症状>
・ファンタジー
・若干の狂気
・シリアス/ほのぼの
<その他>
次のリクエストに対する作品です。
・咲→豊音で、全国終了後にヒッサ主催で清澄と戦った全高校と
打ち上げ的なのをして、そこで咲と豊音が再会して、
そこで豊音は笑ってるんだけど咲ちゃんが
久さんの時のような違和感を感じて
「何かあったの?」的な事を聞くと
豊音の空気が一変して一切合切拒否するんだけど、
それでも今にも泣き出しそうな雰囲気を出す豊音を
ほっとける筈も無い咲ちゃんが、
豊音の村の呪縛から解き放つ為に頑張るみたいなの。
ハッピーorドロドロはお任せ。
※ハッピーエンドになりました。
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全国大会も無事終了したある日の事。
まだ残っている対戦校の人達と、
打ち上げをする事になりました。
「袖振り合うも他生の縁ってね。
せっかくだから親睦を深めていきましょ!」
なんて言いながら、早速
各校の生徒と連絡を取り合う部長。
さすがに規模が規模だから、
全校一斉にというわけにもいかず。
捕まった高校と個別に開催という事になって。
最初に部長の毒牙にかかったのは、
宮守女子高校でした。
「本日はお招きくださりありがとうございます」
「あはは、そんなかしこまらなくてもいいわよ。
単にせっかくだからご飯でも食べましょ?
ってだけだから」
「ほら、あの子達を見習って」
臼沢さんと鹿倉さんが礼儀正しく頭を下げます。
もっとも頭を下げたのはその2人だけで。
残りの3人は自由奔放に動き回っていました。
「…ふむ…この椅子、なかなか悪くない…」
「あ、シロ!せめて挨拶してから座りなさいよ!」
「うわぁー!私こういうの初めてだよー!
こういうのなんて言うんだっけ!」
「Viking!!」
「そうそれ!片っ端から取っていくよー!」
「ちょっとトヨネとエイちゃんストップストップ!
まずは席を確保してから!」
宮守は全員3年生だったはずですけど、
清澄以上に自由な人が多くって。
ツッコミ担当とおぼしき2人が、
好き勝手に動き回る3人を
頑張ってお世話しているという印象でした。
若干慌てながら注意する鹿倉さん。
でも私は逆に、活発に動き回る姉帯さんの姿を見て、
ほっと胸を撫で下ろしました。
(よかった。あんまり気にしなくてよさそう)
実はこの企画を部長が持ち出した時。
正直心配で仕方がなかったんです。
2回戦。宮守と永水の未来を断ち切ったのは、
他ならぬ私でしたから。
大将戦。最初こそ心底楽しそうに打っていた姉帯さん。
でも最後には涙に濡れて。
目の前で慟哭した姉帯さんの泣き声は、
今でも私の耳に残っています。
いくら大会が終わったからとはいえ、
その傷はまだ残っているはずで。
傷を与えた私達が、
仲良く食事なんてできるのかな、なんて。
一人心配していたんですが。
どうやら杞憂だったみたいです。
「宮永さん食べないのー?」
唐突に横からかけられた声に、
現実に引き戻されました。
私の隣の席は、いつの間にか
たくさんのお皿が並べられていて。
姉帯さんが美味しそうに
お寿司を口いっぱいに頬張っていました。
「あ、姉帯さん!?いつの間に!?」
「えぇー!?結構前から座ってたよー!?」
「それより宮永さんも食べようよー!
これすっごい美味しいよー?」
「バイキングすごいねー!お寿司とカレーと
ラーメンが一緒に食べられるとか
やりたい放題だよー」
にこにこと満面の笑みを浮かべながら、
目の前の食事を頬張る姉帯さん。
その表情には一切の曇りがなくて。
姉帯さんが、この会を心から楽しんでいる事は
疑いようもありませんでした。
その混じりっ気なしの笑顔を見るだけで、
こっちまでぽかぽか心があったかくなって。
私にしては珍しく、ほとんど初対面なのに
気さくに会話する事ができたんです。
「あの嶺上開花はすごかったよー!」
「姉帯さんも…追っかけリーチとか
裸単騎とかすごかったです」
「んー、でも私の能力もちゃんと効いてるのに、
その上でかわされちゃったもん。
あんなの初めてだったよー!
宮永さんすごい!」
「あはは…たまたまですよ。
王牌を支配する人が私以外いなくて
助かっただけです」
「その能力強いよねー!
王牌に手を出せる人って少ないし、
王牌を支配するって事は結局
山にも影響が出るもん」
「あーでも、私も全体効果系を使えば
何とかなったかもしれないなー」
「まだ何か能力あるんですか!?」
「えっへん!実はまだ4つ
能力を隠してるよー!」
「4つも…!?…姉帯さんすごいです!」
いつしか会話は、あの時の対局の話になって。
それでも笑顔を絶やさず
話しかけてくれる姉帯さんに、
私は完全に心を許していました。
だからかもしれません。
そんな姉帯さんの異変に気付いたのは。
「その4つは使わなかったんですね」
「うん。使いどころが難しかったからねー。
石戸さんの絶一門に
気を取られ過ぎちゃったかもー」
「そうだったんですね…
全部の能力を使う姉帯さんとも
戦ってみたいです」
「……」
「…姉帯さん?」
「あ、あはは!そうだねー!!」
それは確かにほんの一瞬。
違和感というにはあまりにも小さな綻び。
でも確かにその瞬間。姉帯さんの表情に、
影が落ちた気がしたんです。
「…すいません。私、何か
気に障るような事を
言っちゃいましたか…?」
「え、あ!?いや、そ、そんな事ないよ!?」
今までの笑顔が一転、嘘のように慌てだす姉帯さん。
ぶんぶんと激しく顔を振った後。
寂しそうにぽつりと呟きました。
「ただ…私が宮永さんと打つことは
もう二度とないだろうから」
「そ、それってどういう事ですか!?」
なんだかひどく嫌な胸騒ぎがしました。
姉帯さんは3年生ですから、
もう次のインターハイには出てきません。
だから、再戦する可能性が低いのは事実です。
でも、機会なんてその気があれば
いくらでも作れるはずで。
なのに、姉帯さんは『二度とない』と
その可能性を否定したのです。
「何か事情があるんですか?」
「あ、えと…別に、大した話じゃないんだよー!」
「ただ、私は卒業したら山奥の村に引っ込むから、
もう機会はないだろうなってだけだよー」
「…うん、多分」
「もう出てこれないだろうから」
ぽつりとそうこぼした姉帯さんの顔は、
まるで今にも泣きそうで。
ただ故郷に帰るだけなんて、
そんな簡単な話には聞こえませんでした。
気の利いた言葉が思いつかなくて。
でも何か声をかけたくて、
おろおろと一人戸惑う私。
そんな中、無情にも部長の声が
タイムアップを告げました。
『はーい!そろそろ制限時間いっぱいだから
締めに入るわよー!』
結局その日、それ以上姉帯さんと
話す事はできませんでした。
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ホテルの自室に帰ってきてからも。
姉帯さんの事が頭から離れなくて。
ベランダで一人考え込んでいると、
部長が声をかけてきました。
「どしたの咲。何か思い悩んでるみたいだけど」
「…部長は、姉帯さんが
この後どうなるか知ってますか?」
「んー。聞いてなくもないけど、どうして急に?」
「…ちょっと気になる事があって」
会食の時の事を打ち明けました。
いつも笑顔の姉帯さんが、
急に泣きそうな表情に変わった事。
どうもそれが、姉帯さんの村に
問題がありそうな事。
全てを聞き終えた部長は、
神妙な面持ちで私の瞳を覗き込みます。
まるで、私の真意を探るかのように。
「…で、咲はそれを聞いてどうしたいの?」
「…どうというわけじゃないですけど…
何か、できる事はないかなって」
「姉帯さんがそうしてほしいって言ったの?」
「そ、そういうわけじゃないですけど」
「なら咲。それは誰のため?」
畳みかけるように質問してくる部長。
その質問には、いつもは感じない鋭さがあって。
部長らしくないその刺々(とげとげ)しさに、
私はまた違和感を覚えました。
部長の質問を頭の中で反芻します。
誰のためか。それはもちろん姉帯さんのため。
姉帯さんには笑っていてほしいから。
でも、それだけかと言うとそうでもなくて。
私は多分、まだ罪悪感を
ぬぐいきれないんだと思います。
姉帯さんは、村に戻ったら
もう二度と出られないと言いました。
だとしたら、そんな姉帯さんにとって。
今回が、最初で最後の
大切なお祭りだったわけで。
そんな大切なお祭りを、
私の手で終わらせてしまったんです。
もし私が勝たなければ。
姉帯さんは、もう少しだけ
思い出を作る事ができたのに。
自分の頭の中を整理してすっきりしました。
これはもちろん、姉帯さんのため。
でも、根本は私自身の罪滅ぼし。
つまりは。
「私自身のためです」
「ただの、私の自己満足です。
でも、ほおっておきたくないんです」
「……」
私の回答を聞いた部長は一転、
笑顔を取り戻して頷きました。
「そか。そこがわかってるならいいわ」
「熊倉先生に取り次いであげる」
部長は携帯電話を取り出すと、
誰かに電話をかけ始めます。
一歩前進…と思いながらも、
私はやはり違和感を拭えずにいました。
たかが女子高生の進路に、
なぜここまで異様な雰囲気が漂っているのか。
その時の私には、
理解ができませんでした。
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「実はね。今回の会食は、熊倉先生の方から
持ち掛けられたものなのよ」
「熊倉先生って…宮守高校の監督さんでしたっけ」
「そ。姉帯さんに、少しでも人と繋がる機会を
作ってあげたいって言われてね」
「姉帯さん限定だったんですか?」
「うん。変でしょ?それで私も疑問に思って、
いろいろ突っ込んで聞いてみたの」
「正直聞いて愕然としたわ。
この人ファンタジー小説か何かと
勘違いしてるんじゃないの?
って思ったくらい」
「でも、残念ながら本当っぽいのよねー」
「…具体的にどんな話だったんですか?」
「それを聞きに今から行くのよ。
又聞きより直接聞いた方が早いでしょ?」
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すでに席に座って待っていた熊倉先生は、
私達を見るなり口を開きました。
「いらっしゃい。わざわざ豊音の事を
心配してくれてありがとうね」
「いえ…プライベートな話に
口を突っ込んでしまってすいません」
「いいのいいの。できればこちらからも
お願いしたかったし丁度よかったわぁ」
「お願いしたかった…?一体何を?」
「まあそう焦らないで。
まず経緯を説明しなくちゃねぇ。
ほら、そんなところで立ってないで座った座った」
想像していたよりもずいぶん
気さくな感じの熊倉先生。
私は少しだけ緊張を解きながら、
促されるままに席につきます。
「さて、どこから話したもんかねぇ。
宮永さんにはどこまで話したんだい?」
「何も。直接お聞きした方がいいかと思いまして」
「なるほど…じゃあ最初から話そうかねぇ。
どうせ、大して長い話でもないし」
部長の返事を受け取った熊倉先生は、
まっすぐ私の方に向き直ると。
私の目をじっと見据えながら、
ゆっくりと語り始めます。
「まずは最初に大切な事を一つ」
「豊音はね…人間じゃないんだよ」
そして、非日常がその扉を開き始めました。
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姉帯豊音は人間ではない。
岩手の山奥。小さな村の守り神である。
遠野物語を読んだ事がある者なら、
山女の存在を知っているかもしれない。
甚だ大きな体躯を持ち。
六曜と密接な関わりがある占術の力を持ち。
目は爛々(らんらん)と紅く輝く。
豊音はそんな、山女の末裔。
山女は山に縛られていて、
山の麓にある村から出る事は叶わない。
山女の所有者である山が怒るからなのか。
それとも、元々その地域に何かの問題があって、
山女が離れて力が薄れる事で、
その問題が顕在化するのか。
とにかく、山女が村を離れると様々な祟りが起こる。
土砂崩れ。洪水。果ては噴火。
超常の天災に人々は為す術もなく。
結果、代々山女は半ば幽閉される形で
生きる事を余儀なくされてきた。
そして…それは豊音も同じ事。
村人は皆彼女を守り神といい崇め奉るけども。
結局はただの生贄で。村を守るためだけに、
彼女は一生を犠牲にする事になる。
過疎化が進み、限界集落となった死にゆく村のために。
「いくらなんでも不憫だと思ってねぇ」
せめて、思い出の一つでも作れたなら。
願わくば、彼女を救い出す事ができたなら。
そう思い、私は彼女を連れ出した。
麻雀が好きだと豊音は言った。
ならインターハイはどうだろう。
仲間と共に、頂上を目指して戦う事ができたなら。
それはきっと豊音にとって、
一生の宝になるに違いない。
「まさか、ベスト8入りも
できないとは思わなかったけどね」
運がいいのか悪いのか。
今年の全国は本当に粒ぞろいで。
あれだけの人材を集めたのに、
2回戦を突破する事もできなかった。
かくして思った以上に早く、
豊音のインターハイは終わる事になる。
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「…というわけさね。だから、
もし二人が豊音の事を気に掛けてくれるなら…
時々村に顔を出して、
あの子と打ってくれるとうれしいねぇ」
そんな言葉で、熊倉先生は話を締めくくりました。
でも私は納得がいきませんでした。
「熊倉先生は、このままでいいと思ってるんですか?」
「思っちゃいないさ。でも、
どうしようもないんだよ」
「もう祟りは始まっているのさ。
いつもなら問題ないくらいの降水量で、
土砂崩れが頻発するようになってる。
幸い被害者は出てないけどね」
「あの村は豊音を必要としてる。
迷信でもなんでもなく、
豊音はあの村の守り神なんだから」
「豊音自身それを理解して納得…
ううん、諦めている以上、
私らが口を出しても仕方ないさね」
そう言って寂しそうに笑う熊倉先生。
その表情から、熊倉先生自身も
納得していない事は明らかで。
それでも、これからの話が出てこない辺り、
本当に打つ手がないという事なのでしょう。
だとすれば、私から言える事は
何もありませんでした。
「時間を取らせて悪かったね。
ま、今回の事は頭の片隅にでも
入れておいてくれると嬉しいねぇ」
会合はお開きになりました。
部長と私は、重苦しい雰囲気のまま
黙って帰路につくしかありませんでした。
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「…部長は、あの話信じてますか?」
「そうねぇ。私は信じるわ。
どっちかと言えば私もオカルト寄りだしね」
「もし、部長ならどうしますか?」
「うーん。今のところは二択かしら」
「熊倉先生の言う通り、これ以上深く考えない。
時々村を訪問して、姉帯さんに構ってあげる」
「それも悪くないとは思うわよ?
そりゃ自分の意志で山を下りられないのは不憫だけど、
都会に出てこれたらいいってわけでもないしね」
「友達の方から訪れてくれるっていうなら、
そんなに問題でもないんじゃないかしら?
宮守の子達が姉帯さんをほっとくとも思えないし」
「…もう一つの方は何ですか?」
「決まってるでしょ。あの子を連れて逃げ出すの」
「村は崩壊。代わりに姉帯さんは自由を手に入れる」
「…他に、手はないんですか」
「……」
「うーん。まぁなくもないでしょうけどねー」
「可能性を持ち出すならね?
そもそもそんな生贄が必要な土地なんか捨てちゃって、
皆で引っ越すってのも有りよ?」
「でもそれは、姉帯さんの自由と引き換えに、
村の人の生活を犠牲にするのと同義よね?
結局2つ目の案と大差はないわ」
「だから、あなたがあの子を救い出したいなら…」
「誰もが幸せになれる、
起死回生のアイデアを思いつくか。
そうでなければ、誰かに損な役回りを
押し付けるしかないんじゃないかしら」
「今は、それが姉帯さんだってだけなのよ」
「……」
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眠れませんでした。
頭の中には、熊倉先生と部長の言葉が
木霊しています。
『まさか、ベスト8入りも
できないとは思わなかったけどね』
ごめんなさい。姉帯さんの思い出作りを
邪魔したのは私です。
『誰かに損な役回りを
押し付けるしかないんじゃないかしら』
わかってます。誰だって
色んな事を天秤にかけて、
他人を犠牲にして生きているって。
私が事前に姉帯さんの事情を知っていたら、
わざと負けてあげる事ができたでしょうか。
ううん、そんな事はないでしょう。
私は胸を痛めながらも、
自分と姉帯さんを天秤にかけて。
結局は、今と同じ道を選んだと思います。
それでもやっぱり胸が苦しいんです。
何にでも興味津々の姉帯さん。
いつも笑顔の姉帯さん。
私は、姉帯さんの笑顔が大好きでした。
そんな人一倍好奇心旺盛な姉帯さんが、
寂れた村で一人朽ちていく。
その苦痛たるや想像を絶するものでしょう。
それでも姉帯さんは村の人のために、
自分の未来を諦める。
到底受け入れられません。
そんなの、悲し過ぎるじゃないですか。
なら私はどうすればいいのでしょう?
『誰もが幸せになれる
起死回生のアイデアを思いつくか』
結局はこれでした。
そもそもそんな都合のいいアイデアは
ないのかもしれません。
でも、考えるしかないんです。
(…何か。きっと何かあるはずだよ…)
一晩寝ずに考えました。
気づけば空は白んでいました。
それでも、私が妙案を思いつく事は
ありませんでした。
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「…おはようございます」
「おはよ、咲…って、すごい顔ね。
一晩寝ずに考えちゃった感じ?」
「…はい」
「気持ちはわかるけどね。
とりあえず今日は出かけてきたら?」
「…どこにですか?」
「遊びによ。考えるのも悪くはないけど、
こういうのってただ唸ってても閃かないものよ?」
「だったらこっちにいるうちに、
姉帯さんと思い出を作った方がいいんじゃない?」
「というわけで、本人呼んどいたから。
もう下に来てるわよ?」
「えぇ!?」
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慌てて身支度を整えてロビーに駆けつけると、
確かに姉帯さんが待っていました。
姉帯さんは私の姿に気づくと、
両手をぶんぶん振って出迎えてくれます。
「あ、宮永さんおはよー!!」
「お、おはようございます…!
でも、予定とかよかったんですか…?」
「せっかくの機会ですし、
宮守の皆さんと観光でもした方が
よかったんじゃ…」
「んー、皆とは団体戦が終わるまでに
もういっぱい遊んだからねー。
今は宮永さんと遊びたいな!」
「あ…ごめんなさい」
「あはは、謝らないでいいよー。
今日は目一杯遊んじゃおうよ!」
「は、はい!」
姉帯さんは私を連れ出すと、
東京の街に繰り出しました。
「見て見て!これどうかなー」
「あ…すごく可愛いです」
「さっすが東京だよねー。
私サイズの服もちゃんと揃えてあるよー」
それは石戸さんに教えてもらったというお店の
ウィンドウショッピングから始まって。
「ここ、気になってたけど
この前は人数が多すぎて入れなかったんだー」
「確かに…ちょっと狭いですけど、
落ち着いたいい雰囲気ですね」
「でしょー?」
歩き回って疲れたら、お洒落なカフェで
優雅に紅茶を嗜んでみたり。
「あ、もうちょっと!もうちょっと右です!」
「了解だよー!もうちょっと右…っと…
…やったー!取れたー!!」
「姉帯さんすごいです!こういうのって
取れないのが普通だと思ってました!」
ゲームセンターでクレーンゲームに興じてみたり。
どんな時でも姉帯さんはニコニコ楽しそうで。
気づけば私も、悩んでいた事も忘れて
思いっきり楽しんでしまったんです。
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時間を忘れて楽しんで。
我に返った頃にはもう日が暮れかけていて。
最後にご飯でも食べようと、私達は
適当なファストフードのお店に入りました。
さすがにファストフードは長野にもあるけれど。
それでも姉帯さんと一緒なら、
どこに居たって楽しいんです。
「楽しかったねー」
「はい…やっぱり東京って凄いですね。
面白いところばっかり」
「すっごくよくわかるよー。
もう町並み見てるだけで飽きないよねー」
「歩いて数分ですぐコンビニが見つかるとか、
私の住んでるところじゃ考えられないですね」
「うちなんかコンビニ行こうと思ったら
車で隣町まで行かなきゃいけないよー!」
コロコロと笑う姉帯さん。
釣られて私もクスクス笑います。
二人でひとしきり笑いあうと、
姉帯さんは穏やかな顔でつぶやきました。
「でもよかった。宮永さんが元気になって。
少しは気が晴れたかなー?」
「…っ」
「……私のため…だったんですか?」
「それだけじゃないけどねー。
私も宮永さんと遊びたかったし」
「…でも。宮永さん、熊倉先生から
私のこと聞いちゃったんだよねー?
それで苦しそうにしてるって、
竹井さんに聞いたから」
「…ごめんなさい」
「ううん。気にしてくれるのはうれしいよー。
でも、宮永さんが苦しむ必要ないんだよー?」
慈しむような笑みを浮かべて、
私の頭を撫でてくれる姉帯さん。
そんな姉帯さんからは、あの時の悲しみを
見て取る事はできません。
それでも私は、『あ、じゃぁ解決ですね』と
自分を納得させる事はできませんでした。
「姉帯さんは…納得してるんですか?」
「納得って言うとちょっと違うかなー。
そういうもんだって思ってた」
「村の外には出られないって、
小さい頃から言われてたから。
それが普通で、仕方ないって思ってたんだ」
「だから、そもそも今回外に出られたことが…
私にとっては、もうありえない奇跡なんだよー」
「…そんなの、悲し過ぎるじゃないですか」
「……」
姉帯さんは困ったように微笑むと、
今度は私の目をじっと見つめて
問いかけました。
「…実はね。私も宮永さんに
聞きたい事があったんだー」
「…なんですか?」
「ねえ。宮永さんはどうしてそんなに、
私の事を気にしてくれるのかな?」
「…え?」
「ちょっと気になったんだー。
どうして宮永さんはそんなに、
私の事を気に掛けてくれるのかなって」
「もしかして…2回戦で私達を
負かしちゃったからかな?」
「……っ」
「でもね。それは勝負だから仕方がないし、
宮永さんが悪いわけじゃないんだよー?」
「残りの団体戦の間は思いっきり遊んだから
それはそれで思い出になったし!」
「だからね?もし宮永さんが、
罪悪感で私に付き合ってるなら…
もう気にしなくていいんだよ?」
「私は、そっちの事は
本当に気にしてないんだから!」
なんて両手をぐっと握りしめて、
私を元気づけてくれる姉帯さん。
でも私はそれ以上に。
冒頭で投げかけられた問いが、
妙に心に引っかかりました。
『宮永さんは、どうしてそんなに
私の事気にしてくれるのかな?』
言われてみれば確かに不思議です。
どうして私はこんなにも、
姉帯さんの事が気になるんだろう。
最初で最後のインターハイを、
自分の手で終わらせてしまった罪悪感?
もちろんそれはあるけれど。
でも…改めて思い返してみると、
それだけじゃ動機としては弱い気がします。
しかも今、当の本人から
「気にしなくていい」って言われたのに。
それでも私は…姉帯さんの事が
気になって仕方がないんです。
それは、一体どうして?
黙り込んでしまった私に、
姉帯さんは慌ててフォローを始めました。
「な、なんかごめんねー?
かえって考え込ませちゃったみたいで」
「いえ…でも、自分でもよくわからないんです。
どうして私、こんなに
姉帯さんの事を気にしてるんだろう」
「あ、あははー。もしかして、
私の事が好きだったりしてねー」
「……!」
思わず私は目を見開きました。
多分、姉帯さんは冗談で言ったんだろうその言葉。
でも、それは私の中で驚くほどぴったり符合しました。
それしかないとすら思えるほどに。
「なーんちゃって!そんなわけないよn」
「…そうかもしれません…!」
「…ふぇ!??」
「私…姉帯さんの事が好きなんだ…」
「え、えぇ!?ちょっと待って!?」
最初は確かに罪悪感もあったと思います。
でも、思い返してみたらそれだけじゃなくて。
それ以上に、どんな事も全力で、
思いっきり楽しむ姉帯さんが眩しくて。
いつも笑顔で、キラキラ目を
輝かせる姉帯さんが魅力的過ぎて。
私の心をとらえて
離さなかったのではないでしょうか。
だから、その顔が悲しみに沈むのを
見たくないのではないでしょうか。
そう考えたら…何もかも納得がいくんです。
「そっか…私、姉帯さんに笑顔で居てほしいから…
こんなに頑張ってるんだ」
「ちょ、ちょっと宮永さん!?
漏れてるよー!?
心の声漏れちゃってるよー!?」
「あ、ごめんなさい…でも、なんだかすっきりしました」
「どうやら私、姉帯さんの事が
好きだったみたいです」
「そ、そ…そうなんだー…あははー」
「え、えと、どうしよー…
そんな事言われたの初めてだから」
「頭の中が熱くって…
まともに考えられないよー…」
突然の告白に頬を真っ赤に染めて、
頭から湯気を出しそうな勢いで
動揺する姉帯さん。
「あ、気にしないでください。
私が勝手に姉帯さんの事を好きなだけなので」
「そ、そんな事言われても気になっちゃうよー。
あーもう、もう宮永さんの顔が見れないよー!!」
「そ、そんなに照れないでくださいよ…
私まで恥ずかしくなってきちゃいますから…!」
年上なのにその様子がとても可愛くて。
同時に私も、勢いで告白してしまったという事実が、
今頃になって実感を伴ってきて。
つられて、頬に熱がたまっていくのを感じました。
「わわ、宮永さんまで赤くならないでよー!
ますます意識しちゃうからー!!」
「あ、ごめんなさい。無理です。
実感したら、何かすごく
恥ずかしくなってきました…!」
湧き上がる衝動を抑えきれずに、
ぶんぶんとかぶりを振り始める私。
それをみて余計に気が動転したのか…
「わー!わー!落ち着こう!
落ち着こう私達ー!!」
姉帯さんは同様のあまり大声を出しながら、
私をぎゅっと抱きしめました。
「えっ、えぇ!?姉帯さん!?」
とっさの事に、私も抱き締め返してしまいます。
でもそれが妙に落ち着いて。
私達はしばらくそのまま抱き合いました。
「あ…これ、落ち着くかもー…」
「そ、そうですね……」
そしてその抱擁は。そこが店内だと思い出して、
逃げるようにお店を飛び出すまで続きました。
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いたたまれなくなってお店を逃げ出してから数分間。
近くに公園を見つけた私達は、
缶ジュースを飲みながら
はやる心を鎮めていました。
「お…落ち着いたー?」
「は、はい…何とか」
冷静になってみれば、とんでもない事を
しでかしたと思います。
自分の気持ちに気づいてなかったとはいえ、
まさかファストフードのお店で告白した上、
しかもそのまま抱き合っちゃうなんて。
でもとんでもない醜態を晒したせいか、
なんだか妙に開き直った気分でした。
この際だから、もう全部
聞いてしまおうって気になったんです。
「なんかもう思いっきりやらかしちゃいましたし…
この際突っ込んで、いろいろ
聞いちゃってもいいですか?」
「お、お手柔らかによろしくだよー」
「姉帯さんって、村の守り神らしいですけど…
今こうして東京にいるのは大丈夫なんですか?」
「うーん。あんまりよくはないみたい。
山から離れれば離れるほど、
離れる時間が長くなるほど
祟りが大きくなるかなー」
「それはどうして?」
「よくわからないけどー。
単純に私自身の力が村に
及ばなくなるからじゃないかなー」
「山の神の怒りとかじゃなくてですか?」
「うーん。そういう神様みたいなのを
感じたことがないからねー。
多分私の力の方だと思う」
「でも今はまだ何とかなってるんですよね。
それなら、たまにちょっと出てくるくらいなら
問題ないんじゃないですか?」
「どうだろ。今は熊倉先生が
頑張ってくれてるって言ってたから。
何の加護もなかったら
きついんじゃないのかなー」
「なるほど……ん?加護?
加護って何ですか?」
「私もちゃんとは聞いてないけどー。
ちょっとした生贄を用意して、
私の力を一時的に強くしてるって言ってたよー?」
「生贄!?」
「う、うん…定期的に動物を
生贄に捧げる儀式をやる、
みたいな事言ってた…」
「……」
生贄。なんだかその言葉が
妙に強く心に残りました。
生贄を捧げれば、姉帯さんは外に出られる…?
もしかしたら、そこに…
解決の糸口があるかもしれません。
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ホテルに帰ってきた私は、
姉帯さんから聞いた情報を整理していました。
…祟りが起きるのは、
姉帯さんの力が届かなくなるから。
…山から離れれば離れるほど
力が届かなくなって、祟りの内容も酷くなる。
…それを防ぐために生贄を捧げて、
姉帯さんの力を一時的に強化する。
(……あれ?これって意外と
簡単に解決するんじゃないかな?)
私は自分の思い付きを
部長に相談してみる事にしました。
「…って事なんですけど、どう思います?」
「んー…咲と姉帯さんがそれでいいなら
いけるんじゃないかしら?」
私の提案を聞いた部長は、
苦笑いしながらも肯定します。
「ただそれって、結局犠牲者を出して
解決する方法なんじゃない?
犠牲者が姉帯さんから咲に代わるだけでしょ」
「私はむしろどんとこいです」
「あはは、そりゃそっか。
まー最初っからどこか
怪しいとは思ってたけどねー」
「そういう事なら了解!
あ、私は本職じゃないから、
本当にそれでいけるか、
一応その手の人に聞いてみるわね」
早速部長が永水の人に連絡を取ります。
電話を受けた石戸さんは、
こちらが望んだとおりの答えをくれました。
『可能だと思いますよ?
神境では割とよくある話ですし』
「よくあるんだ」
『神代でありながら、神格に恵まれなかった姫に
適用する事があるんです。
幸い小蒔ちゃんは当てはまらなかったけど』
『なんならやり方も教えましょうか?
…もちろん、贄となる子の同意が前提になりますが』
「あーそこは大丈夫。
持ち掛けてきたのがそもそも贄の子だから」
「というわけで咲。いけるってさ。
やり方も教えてくれるみたい」
「はい。私は姉帯さんに話を持ち掛けてみます」
一度話が転がり出すと、
後はとんとん拍子で進んで行って。
数日後には『儀式』の準備が整いました。
後は、姉帯さんと私が…
『儀式』を行うだけです。
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「……」
「まーたぼんやりしてる。一体何があったんだか」
「この前清澄の宮永さんと遊びに行ってからだよね!」
「…ダルい雰囲気」
「どこか遠くをぼんやり眺めてたかと思ったら、
急に真っ赤になって身もだえたりしてさー」
「ねえ、これってもしかしてアレじゃないかな!」
「フォーリンラヴ!」
「…っ!?」
「ち、ち、違うよー!?
好きになったのは私じゃなくて
宮永さんの方だよー!!」
「おおっとぉー?ようやく覚醒したかと思ったら、
いきなり爆弾発言しちゃうんだー?」
「えぇ!?トヨネ、宮永さんに告白されたの!?」
「わ、わわ!違うよ!?何もなかったよー!!」
「ダウト!」
「…そもそも、いきなり二人っきりで
遊びに行く時点で怪し過ぎるんだよなぁ…」
「あ、やっぱりそう思うよね。
いつの間に愛を育んでたんですかねー
トヨネさん?」
「あ、愛って!そう言うのじゃないよー!?」
「じゃぁ全然何とも思ってないんだ?」
「う…それは、そのー」
「脈ありだ」
「脈ありだね!」
「…むしろもう落ちかけてるんだよなぁ」
「フォーリンラヴ!」
「も、もー茶化さないでよー!
ちょっと一人で考える時間をください!」
「…あ、ごめん。それ実は無理なんだよね」
「なんでー!?」
「宮永さん、用事があるから
もうすぐこっちに来るってさ?」
「えぇえぇぇっーー!?」
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静寂。
その空間は異様なほどの
静けさに包まれていました。
動くものはただ、
中心から同心円状に設置された
蝋燭の炎の揺らめきのみ。
中心は祭壇のように盛り上がっていて、
純白の布団が一そろいだけ敷かれています。
周囲にはどこか蠱惑的な香りのする
お香が立ち込めていて…
この空間がもたらす非日常感を
一層際立たせています。
ここは、日本…ううん。
この世の世界ではないどこか。
永水の人が連れてきてくれた神の領域。
「え、えっとぉ…宮永さん、
これってどういう事なのかなー?」
何も聞かされず連れてこられた姉帯さんが、
戸惑った声で質問してきます。
「私考えたんです。もし、姉帯さん自身が
本当に神様だったとして」
「祟りが起きる理由が、姉帯さんが移動する事で、
力が届かなくなるからだったとしたら」
「姉帯さんの力を強くする事で、
移動できる範囲が広がりますよね?」
「う、うーん。そうかもしれないけどー。
そもそもそんな事できるのかなー」
「できるんです。これはそのための儀式です。
永水さんのお墨付きですよ?」
「え、えっとぉ…具体的に何をするのかなー?」
「ちょっと、あの真ん中のお布団が
すっごい気になるんだけどー」
「え、えーと、これって、もしかして…
そういう事ー?」
どこか恥ずかしそうに頬を染めながら、
布団をちらちらと意識する姉帯さん。
「はい。あそこで私と、一夜を共にしてもらいます」
「やっぱりぃぃぃーーっ!?」
「処女の純潔を散らして、その生き血を啜る事で
姉帯さんの神格をあげる作戦です」
「スプラッタだよー!?ていうかそれ、
神様っていうより鬼の所業だよー!?」
「そうですね。でも神か鬼かって、
結局人間の主観でしかないので。
どっちも神様としては同じらしいですよ?」
「さぁ。そういうわけでこちらにどうぞ」
私は一人祭壇に上ると、布団の上で正座して。
両腕を広げて姉帯さんを待ち受けます。
「聞いたところ、私も偶然
能力持ちっぽいですから。
私を食べるだけで、東京くらいまでは
カバーできるみたいですよ?」
「た、た、食べるって、そんな」
「宮永さん駄目だよー!
もっと自分の事を大切にして!?」
それでも優しい姉帯さんは、私の身を気遣って。
なかなか布団に踏み入ろうとはしません。
「私は大丈夫ですよ?
大好きな人に初めてを捧げられるなら、
こんなにうれしい事はないじゃないですか」
「それとも…私じゃ、駄目ですか?」
「そ、そんな事は…宮永さんはすごく可愛いし、
私も、ちょっと気になって、でも、こんなの」
「…それだけ聞けたら十分です」
私は姉帯さんの手を引くと、
そのまま私の方へ引き寄せます。
油断していた姉帯さんは、
突然の事にバランスを崩すと…
私を押し倒すような体勢で
倒れこんできました。
「わわっ、ごめんねっ、
これは、そういうのじゃなくて」
「…問答無用です」
私は姉帯さんの背中に腕を回すと、
そのまま強く抱き締めました。
姉帯さんの高鳴る鼓動が伝わってきます。
その激しさに身もだえしながら、
私は耳元でそっと囁きました。
「さぁ…姉帯さん。来てください」
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「た、ただいまー…」
「あ、お帰りなさい朝帰りのトヨネさん!」
「宮永さんとのデートはどうだったー?
…って何それどうなってるの!?」
「トヨネ、ツノ、ハエテル!」
「あははー…ちょっといろいろありましてー…」
「…気配が前よりダルい事になってる」
「……神格が一気に上がった結果らしいよー…」
「いやいやホント何してきたのよ」
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私の企てた試みは、
期待通りの結果をもたらしました。
私の破瓜の血を啜った豊音さんは、
見事にその神格を高める事に成功して。
東京や長野くらいまでなら、
故郷を離れてもカバーできるようになりました。
その代わり、豊音さんの頭には
ちょこっと小さな角が生えたけど。
背に腹は代えられないという事で
諦めてもらう事にしましょう。
これはこれで、なんだか可愛いですし。
自由を手にした豊音さんには、
私を散らした責任を取ってもらって、
長野に引っ越してもらいました。
そんなわけで私達は、
今日も寝床をともにしています。
神格を落とさないために、
日々の『日課』をこなしながら。
「え、えっとぉ…さき?
ちょっと休んだ方がいいんじゃないかなー」
「…駄目ですよ。神格が落ちちゃいます」
「ちょっとくらい落ちても大丈夫だよー」
「駄目です。後3回頑張ってください」
「うぅー///」
「…もう何度もしてるじゃないですか。
どうして急に嫌がりだしたんですか?」
「……」
「だって、何かその…最近、
すっごくよくなってきちゃってー」
「このまま続けてたら…歯止め、
効かなくなっちゃいそうなんだよー」
「いいですよ?歯止めなんてかけなくて」
「それで豊音さんが本当の鬼になっちゃっても、
私は全然かまいませんから。
好きなだけ私の事を貪ってください」
「うぅー…鬼はさきの方だよー」
なんて不平をこぼしながらも、
我慢しきれずに私を抱き寄せる豊音さん。
やがてその目から余裕が失われていって、
本気で私の体を貪り始めます。
どんな豊音さんが愛おし過ぎて、
私もつい、もっともっとと、
せがんでしまうんです。
……
予定のノルマより3回多くこなした私達は、
どろどろになった体をすり寄せながら、
行為の余韻に浸っていました。
「…今日もすごかったです」
「うぅ、言わないでよー。
神様になってからなんか我慢ができないんだよー」
「昔話でも神様ってけっこう我儘ですからね。
そういうものなのかもしれません」
豊音さんは照れ隠しに私を抱きしめます。
ああ、とっても幸せです。
幸せなんですけど…
一つだけ気がかりな事がありました。
私は豊音さんの胸に埋もれながら、
いつものように考えます。
「どうしたのさきー」
「いえ、どうしても一つ。気がかりな事があって」
結局、私のした事に意味はあったんでしょうか。
土地に縛られて、行きたいところに
行く事もできず一生を終える。
好奇心旺盛な豊音さんにとって、
それはとても悲しい事だから。
それをなんとかしたくって、
私は暴走してしまったわけですが。
結果、今はどうなのでしょう。
結局豊音さんは私に縛られていて。
縛る土地が岩手の山奥から長野に変わっただけ。
「…そう考えたら、本質は
何も変わってないじゃないかなって」
なんて溜息をつく私。
でも、そんな私の顔をじっと見つめながら、
豊音さんはお姉さんの顔をして笑いました。
「心配しなくても、全然違うよ?」
「…そうですか?」
「だって私は、自分の意志でここにいるんだもん」
「岩手にいた時は違った。私が逃げたら、
みんなに迷惑がかかっちゃうから。
だから仕方ないって諦めてた」
「でも今は違うんだよ。その気になれば、
私はいつでも出て行くことができるもん」
「その上で、私はここに居たいからいるんだよー」
「それができるのは、全部。
全部、さきのおかげ」
「ありがとね?」
そう言ってふにゃりと微笑むと、
豊音さんは私の唇にキスを落としました。
ああもう、この人は本当に。
どれだけ私の心をとらえれば気がすむんだろう。
思えば最初からそうでした。
初めての対局の時。
楽しそうに麻雀を打っていた豊音さん。
時には不敵な笑みを浮かべながら
打つその姿が印象的でした。
打ち上げの時もそう。
初めてのバイキングに満面の笑みを浮かべながら、
心底楽しそうに話す姿が印象的でした。
二人でデートした時は、
お姉さんみたいな
優しい笑顔も見せてくれて。
そして今、肌を重ねる時には。
情熱的でぞくぞくする笑みを見せてくれます。
いつもいつも。豊音さんの笑顔は、
私を虜にするんです。
月並みな台詞になっちゃいますけど、
多分笑顔に一目惚れしちゃったんだと思います。
「…責任、取ってくださいね?」
私を落としちゃった責任を。
代わりに私は、その笑顔を命にかえて守りますから。
「もちろん取るよー!ばっかり任せておいてー!」
豊音さんは、今度はお日様のように。
にっこりと私に笑いかけたのでした。
(完)
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この話を読んで、人は誰かに迷惑をかけて生きている、という言葉を思い出しました。
笑顔でお寿司を頬張る姉帯さん可愛い。
大きい姉帯さんが咲さんを抱き締めて乱れてると思うと、二人共エロ可愛い。
なかなか、ヤンデレでもここまで二人が幸せなヤンデレを書いてくれる方はなかなかいないので、これからも頑張ってください。
>人は誰かに迷惑をかけて生きている
豊音
「最初はまさにそういう話で
ジェノサイドエンドだったねー」
咲「気が付いたらほのぼのになってました」
>二人共エロ可愛い
咲「豊音さんかわいいです」
豊音
「咲ちゃんもかわいいよー!」
二人
「えへへ」
>これからも頑張ってください
豊音
「病んでてハッピーエンドって
意外と少ないよねー」
咲「ありがとうございます!
これからも頑張りますね!」