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【咲-Saki-SS:エイ白】「エイスリン・ウィッシュアート」【シリアス】【ヤンデレ】
<あらすじ>
意気揚々として挑んだ交換留学。
でも赴いた先は期待とは裏腹に
冷やかな対応で。
一人孤独感を覚えていた私に、
声をかけてくれたのは。
そう、シロ。あなただったんだよ。
<登場人物>
エイスリン,小瀬川白望,その他宮守
<症状>
・依存
・ヤンデレ
・狂気
・異常行為
<その他>
以下のリクエストに対する作品です。
・エイスリンさんと白望さんの病み系の百合SS。
筆談とかをなんらかの形で生かす。
病むのはどちらでも…場合によっては両方でも…。
ハッピーもバッドもいいが
可能なら一と透華のSSの終わり方みたいなラストで。
※リクエストの都合上、
純然たるハッピーエンドとは言えません。
むしろかなりバッドエンド寄りです。
苦手な方はご注意を。
-------------------------------------------------------
PART: Aislinn
-------------------------------------------------------
未来、に希望を抱き過ぎていた。
交換留学。異国の土地にぽつんと一人。
それでも、何とかやっていけると信じていた。
自分なりに準備は重ねてきたつもりだったから。
毎日日本語を猛勉強した。
文化についても事前に調べた。
だから、分かり合えると思っていた。
何より自分には絵があるから。
最悪言葉が通じなくても、
絵を見せれば何とかなると思っていた。
いつでも絵が描けるよう、
スケッチブックとペンも常備した。
万全の態勢で挑んだはずの交換留学。
でも現実は厳しかった。
留学先の高校。そこで私は、
珍獣を見るがごとく遠巻きに観察されて。
二言三言、話しかけられたとしても
会話はすぐに途切れてしまって。
やがて、声を掛けられる機会も少なくなった。
こちらから話しかけても同じだった。
思い描いていたよりもずっと
人間関係が閉鎖的で。
誰もが皆、すでに構築済みのコミュニティーを
あえて変えたいとは思っていないようだった。
そして今日も私は一人。
ぽつんと寂しく放課後を迎える。
ふと前方に目を向ければ、
前の席の女子が誰かに誘われている。
確か…小瀬川さんだったっけ。
羨ましいなって思った。
私には何かに誘ってくれる人はもちろん、
挨拶してくれる人すらいないから。
「今だるいからまた誘って…」
小瀬川さんはけだるげに誘いを断った。
羨ましいなって思った。
私がこんな風に断ればきっと、
『またの機会』なんて永遠に来ないだろう。
心は空虚感に塗りつぶされて。
思わず大きなため息をつきそうになる。
小瀬川さんがのけぞってきたのは、
丁度そんな時だった。
--------------------------------------------------------
「留学生の……後ろの席だったんだ……」
椅子の背もたれにもたれかかりながら、
随分と間延びした声で彼女は言った。
「ッ……」
せっかくだから何かを話しかけなくちゃ。
必死に頭をフル回転させ始めた、そんな時…
グクゥ〜〜〜
不意に彼女のお腹が鳴った。
私は反射的に、思ったままを口にする。
「オナカスイタ?」
「うん」
「パンタベル?」
「うん」
酷く簡潔で無味乾燥な会話。
そしてすぐ訪れた沈黙。
でも私は、どこか居心地の良さを感じていた。
思えば、小瀬川さんが
長く喋っていた記憶がない。
どちらかと言えば寡黙。
なのに彼女はいつも誰かに声を掛けられ
誘われている。
それはきっと、この独特な
雰囲気によるものなのかもしれない。
もう少し。もう少しだけ。
この穏やかな雰囲気に浸っていたい。
そんな思いを抱いた刹那。
無情にも沈黙は破られる事になった。
ガラリ。
教室の扉が開けられて、二人の女子が顔を出す。
「あっ、いたいた」
「シロっ、熊倉先生が例の子連れてきたって」
まただ。また小瀬川さんをどこかに
連れていこうとする声。
たださっきと違ったのは、
小瀬川さんが快諾した事だった。
「ん……ぃまぃぐ」
「ごちそうさま ありがとう」
振り向きざまにお礼を言いながら、
そのまま立ち去ろうとする彼女。
私は突如訪れた別れに
気持ちを切り替える事ができないまま。
ただ曖昧な笑顔を浮かべる事しかできなかった。
でも、小瀬川さんは、
そんな私の心情を読み取ったのか。
「一緒にくる?」
なんて。私が一番かけて欲しかった
言葉をかけてくれたんだ。
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物語が少しずつ転がり出した。
初めて打った麻雀は、ルールがとっても難解で、
なかなか覚える事はできなかったけど。
それでも、誰かと何かをする事は楽しかった。
小瀬川さんと話をする機会も増えた。
元々教室の席が前後だったのもある。
でも何より大きかったのは、
彼女が私の絵を理解してくれた事だった。
あの日連れていかれた麻雀部室で、
初めて見せた一枚のイラスト。
「何その絵!?」
なんて言い放った臼沢さんを責める気はない。
でも、わかってもらえなかったのは
少なからずショックで。
私は人知れず目を伏せる。
でも。
『みんなで地区大会に出て入賞しよう』
皆が戸惑いの顔を見せる中、
一人小瀬川さんだけは意味を正確に理解していた。
それも、一字一句違わずに。
一連の体験は、私が小瀬川さんに
心を開くのには十分だった。
小瀬川さんとなら、焦って話す必要はない。
もし言葉が通じなくても、
絵を見せればきっとわかってくれる。
「エイスリン…次の教室どこ…?」
「アッ…home economics room…ノー」
「…コレ!」
「鍋にエプロン…家庭科室か。
ありがとう。じゃぁ行こっか」
「ウン」
ほら今も。私の絵を見て、ちゃんと
言いたい事をわかってくれた。
小瀬川さんの言葉は少ない。
私が話せる言葉も少ない。
でも私達は、絵を通じて語り合える。
「エイスリンの絵はわかりやすいなぁ…」
「ホント!?」
「デモ、ワカルノ…コセガワサンダケ」
「わかりやすいと思うんだけどなぁ…」
「ジャァ、コレハ?」
「だらけてる人…私の事でしょ」
「セイカイ!ジャァコレハ?」
「餌をあげてる人…エイスリンの事?」
「セイカイ!」
「エイスリンって、意外ときつい事言うよね…
まぁ別にいいけど」
言葉を。そして絵を交わすたびに、
心が温かくなっていく。
私にとって、絵は母国語の次に
思いを伝える大切な手段。
だから…それを唯一理解してくれる
小瀬川さんに惹かれていったのも、
ごく当然な事だった。
--------------------------------------------------------
でも、そんな私の恋路は前途多難だった。
だってシロは、いつも人に言い寄られていたから。
--------------------------------------------------------
「小瀬川さーん。一緒にご飯食べなーい?」
「シロー、たまにはカラオケ付き合ってよ」
「小瀬川さん…その、ちょっと、いいですか」
「白望」
「シロ」
「小瀬川さん」
常にダルそうで人付き合いの悪い彼女。
なのに、そんな彼女は人気者で。
皆が皆、シロと接触する機会を
待ち望んでいるようだった。
そのせいで、私が彼女を独占できる時間なんて
数えるくらいしかない。
お昼、シロが気まぐれにみんなの誘いを断った時と。
放課後シロが動き出すまでに必要になる
だらけタイムの間だけ。
「もっと…シロと一緒に居たいな」
「難しいよね」
机に寝そべりながら独り言ちる。
気もそぞろに右手を動かしていたら、
いつの間にか白いカンバスの上では、
シロと私が二人手を繋いで笑っていた。
「この絵みたいになったらいいのに」
自重じみた笑みを浮かべながら、
私はカンバス上のシロを指ではじく。
「ありえないか。絵に描いた夢が現実になるなんて」
なんて事を考えていたら、
熊倉先生に変な事を言われたのを思い出した。
『どうやら、エイスリンには不思議な力があるみたいだね』
理想の牌譜を脳裏に思い浮かべて、
それを絵のように描き出す事で、
実際の対局に反映させる事ができる能力。
正直説明を受けても半信半疑だったけど、
実際にそうなっていたのは事実で。
もし私に、そんな
数奇な能力があるのだとしたら。
どうか、このカンバスに描いた夢も、
現実に変えてくれないだろうか。
--------------------------------------------------------
なんて事を考えていたら…
--------------------------------------------------------
次の日、夢が叶った。
--------------------------------------------------------
「ちょっと備品を買いに行くよ。
何人か一緒についてきて頂戴」
その日はたまたま買出しに行く必要があって。
車を出す熊倉先生についていく人と、
残る人とで分かれる事になった。
「私は行くよー!麻雀用品いろいろ見てみたい!」
「私も!」
「ダル…」
「まあシロはそう言うと思ったよ。
私はついていこうかな」
「ジャア、ワタシ、シロノメンドウミル」
麻雀用品店という珍しい行先に、
大半の部員は目を輝かせた。
でも、当然のようにシロはパス。
私もちょっと興味があったけど、
シロの面倒を見るという名目で居残った。
「…エイスリンも行けばよかったのに」
「メンドウミル」
「面倒も何も…私居眠りする気なんだけど」
「イイヨ」
「…じゃぁ、お言葉に甘えて…」
最後まで言い終わらないうちに
こっくりこっくりと船をこぎ始めるシロ。
私はシロが寝静まったのを見計らって、
その手をそっと握りしめた。
「叶っちゃった…本当に」
それは夢と言うにはあまりにもささやかで。
でも、確かに私が願ったもので。
私は自分の頬が緩んでいくのを
堪える事が出来なかった。
--------------------------------------------------------
それからというもの、
私は夢を叶えるのに躍起になった。
毎晩毎晩、シロと二人きりになれるように
願いながら絵に起こす。
必ずしも成功するとは限らなかったけど。
強く願えば願う程、叶う確率は高くなる。
そしてそれは、偶然の枠を大きく逸脱した確率だった。
「…最近、エイスリンと二人になる事多いなぁ…」
「ソウダネ」
「ま、私もエイスリンと二人だと楽でいいや…」
「ソウナノ?」
「無理して喋らなくていいし…
なんていうのかな」
「……」
「コウ?」
スケッチブックに描いたのは、
二人で並んだ女の子。
胸の位置には大きなハートマーク。
二つのハートは赤い糸で繋がっている。
「そう、そんな感じ」
シロは否定しなかった。私はそれが嬉しくて、
シロをぎゅっと抱きしめた。
--------------------------------------------------------
シロと心が通じ合っている。
それを否定されなかった事で、
私はさらに欲を出してしまった。
心が通じ合っているのは嬉しい。
でも、その想いの意味は違うと思う。
きっと、シロは私の事を友達として愛している。
でも私は、シロの事を恋愛対象として愛している。
『夢が、叶いますように』
浅ましい私は、さらに関係を深める事を求めた。
具体的には、それを思い願って、
いつものように描き出してしまった。
そう、それは…
シロと私が、唇を重ねている絵。
出してはいけない欲だった。
人の想いまで、自分の夢で上書きする。
超えてはいけない境界線を踏み越えた行為だった。
でもその時の私は。
その行為の恐ろしさに気づかない程に。
シロに焦がれてしまっていた。
「夢が、叶いますように」
もう一度、今度は声に出しながら。
私はその絵に口づけた。
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そして、蜜月は終焉を迎える。
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それは受け入れてもらえなかった。
すんでのところでシロの動きが止まる。
「ちょいタンマ」
「シ…シロ?」
「…ごめん。ちょっと考えさせて」
「……」
「……」
「……」
唇まで後数センチ。なのにシロは、
私から体を離すと。
やがて、迷ったような顔をしながらも
毅然として言い放った。
「…やめよう」
「何か、上手く言えないけど…違う」
「これは、しちゃダメだ」
それは、私がシロから受けた、
初めての明確な拒絶だった。
思い描いた夢が、ただの夢として散って。
全てを失った瞬間だった。
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PART: Shiro
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ずっと違和感を覚えていた。
そう、エイスリンとの関係に。
エイスリンの事は好きだ。そこは間違いないと思う。
でも、なんというか…誰かにそう仕組まれているような。
作為的なものを感じずにはいられなかった。
二人っきりになる頻度が多過ぎる。
ムードを高めるシチュエーションが多過ぎる。
そんな展開に喜びを覚えた事は事実だけれど。
でもどこか、出来過ぎているような気がして。
『まるで、夢を見ているみたいだ』
なんてふと思った時に。私はそれが、
核心である事に気づいてしまった。
これはきっと、エイスリンが描いた夢だ。
多分だけど、エイスリンは私の事を愛していると思う。
そして、私もエイスリンの事は好きだ。
告白とかはダルいからしないけど。
もしエイスリンから告白されたら、
特に断る事無く付き合ったと思う。
でも。
もしエイスリンが。
『こうなるように』
『夢を描いていて』
『その通りになっていた』
としたら。
それは、私の想いと言っていいんだろうか。
「…わからない」
そこに気づいてしまった以上、
このまま進むわけにはいかないと思った。
少し冷静になって考える必要があると思った。
いずれエイスリンを受け入れるにしても。
これが間違いなく私の本心であると、
はっきりしてからにしたくって。
だから、迷った末に拒絶した。
その判断が…よりひどい結末に
繋がっている事も知らないまま。
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PART: Aislinn
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シロは散々迷った末に、結局は私を拒絶した。
私はそれに耐えられなかった。
「どうして、どうして、どうして、どうして」
わからない。どうしてシロは拒絶したの?
わからない。ちゃんと夢に描いたのに。
わからない。どうしてシロは迷ったの?
そして私は、一つの考えに行き着いた。
迷う。それは選択肢があるから。
シロしか居ない私とは違って、
シロには選べる相手がたくさんにいる。
それらと私を天秤にかけて…
シロは答えを保留したんだ。
そこに思い至った私の出した結論は。
「選択肢があるからいけないんだよね」
「だったら…迷わなくていいようにしてあげる」
「私以外、消えちゃえ」
私はペンを取り出した。
そして欲望のまま、狂気のままにペンを走らせる。
カンバス上に6人の女性を描く。
ふわふわの白い髪の毛を携えた女の子。
スケッチブックを抱えた女の子。
小さくて人形みたいな女の子。
頭にお団子を付けた快活そうな女の子。
一人だけ身長が異常に高い女の子。
最後に、年老いた女性を描いた。
後ろから順番に、グシャグシャに。
グシャグシャに黒く塗り潰していく。
年老いた女性に×。
背の高い女の子に×。
お団子頭に×。
お人形さんに×。
大きな大きな×を付けた後で、
力任せにぐりぐりと塗り潰した。
そして、最後に残った者は、ほら。
スケッチブックの女の子と
ふあふわの白髪の子の二人だけ。
こうなれば、シロが迷う事なんてない。
「消えちゃえ」
「消えちゃえ」
「消えちゃえ」
「消えちゃえ」
何度も、何度も繰り返した。
何度も同じ絵を描いて、
何度も何度も塗り潰した。
何度も。何度も。何度も。何度も。
--------------------------------------------------------
そして、私が描いた夢は…今度こそ現実になる
-------------------------------------------------------
PART: Shiro
-------------------------------------------------------
楽園はあっという間に崩壊した。
麻雀部の面子は、エイスリンを除いて
全員転校する事になった。
塞も。胡桃も。トヨネまで。
塞と胡桃は、どちらも両親の仕事の都合。
どうしても残る事はできなかったらしい。
トヨネに至っては、熊倉先生が村と結んだ契約が
一方的に反故にされて、強制的に
帰らされる事になったようだった。
そうなってしまえば、
熊倉先生がこの学校にいる意味もない。
元々インターハイを指揮するために
来たようなものなのだから。
こうして、あまりにもあっけなく。
私達の絆は断ち切られた。
一週間前。そう、ほんの一週間前には。
まだこの部室には6人全員が揃っていて。
笑い声は絶える事なく、
陽だまりのようなぬくもりに包まれていた。
でも今や、残されたのはエイスリンと私だけ。
二人しかいない部室は酷くがらんどうで寒々しい。
それでもエイスリンは、
にこにこと笑顔を浮かべている。
もっともその笑顔には、
もはや光は灯っていないけれど。
「…エイスリン」
「ナニ?」
「これも、エイスリンが望んだ夢なの…?」
「ウン」
「どうして?」
エイスリンは質問には答えず。
代わりに、一冊のスケッチブックを取り出した。
最初に描かれていたのは6人の女性。
皆が皆笑顔で笑っている。
エイスリンがページをめくる。
次のページでは、一人の女性が黒く塗り潰されていた。
エイスリンがページをめくる。
その次のページでは、また一人消えた。
エイスリンがページをめくる。
その次のページでまた一人黒くなった。
エイスリンがページをめくる。
そして…最後に、二人の少女が残された。
残された少女は二人、涙を浮かべながら手を取り合って。
最後には目を閉じて、口づけを交わしていた。
「それが…エイスリンの望んだ夢なんだ」
「ウン」
選択肢を間違えた事に気づいた。
もし現実が、エイスリンの願う通りだったなら。
抵抗するだけ無駄だったんだ。
何も考えなければよかったんだ。
抗わなければよかったんだ。
私が余計な疑念を抱いたせいで、
皆が散り散りになってしまったんだ。
もう、考えるのはやめよう。
「…わかった。エイスリンの夢、叶えてあげる」
エイスリンの肩を抱く。カンバスに描かれた通り、
私はエイスリンに唇を落とす。
涙が頬を伝っていた。
私の頬にも。エイスリンの頬にも。
もっともお互いの涙の意味は、
おそらく違っていただろうけど。
…いや、もういい
考えるのは
やめよう
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PART: Aislinn
-------------------------------------------------------
シロが私のものになった
私がそう描いたから
シロはもう、私以外の人には反応しない
私がそう描いたから
シロの周りに人はいない
私がそう描いたから
シロは私が望む事を何でもしてくれる
私がそう描いたから
シロは私の理想のシロになった
私がそう描いたから
-------------------------------------------------------
ああ
-------------------------------------------------------
いつから私の夢は
こんなに黒く
救いのないものになってしまったんだろう
--------------------------------------------------------
私を抱き締めて眠るシロ
それはもう本当のシロじゃなかった
これは私が思い描いた理想のシロ
私が描いた、偽りのシロ
私が欲しかったシロは、
こんなシロだったんだろうか
違う
私は人形が欲しかったんじゃない
私が欲しかったのは
私が本当に思い描いた夢は
スケッチブックを手に取った
手は思うように動かなかった
もう夢を描くには
罪を犯し過ぎていた
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PART: ……?
-------------------------------------------------------
頭に靄(もや)がかかっていた。
体が思うように動かなかった。
ただ、エイスリンが苦しんでいる事だけはわかった。
人形になった私を抱いて、
涙を流している事はわかった。
『…だったら…やり直そう』
『…大丈夫。エイスリンならできる』
私は柄にもなく必死になって、
エイスリンに呼びかける。
声は出なかった。
体もピクリとも動かなかった。
それでも私は呼び続ける。
『…夢を描けばいい』
『…今までそうしてきたように』
『…今度こそ、本当にエイスリンが望む夢を』
いつか、この思いがエイスリンに届く日を夢に描いて。
私は私の檻の中で呼びかけ続ける。
その日も、声は出なかったけど。
(完)
意気揚々として挑んだ交換留学。
でも赴いた先は期待とは裏腹に
冷やかな対応で。
一人孤独感を覚えていた私に、
声をかけてくれたのは。
そう、シロ。あなただったんだよ。
<登場人物>
エイスリン,小瀬川白望,その他宮守
<症状>
・依存
・ヤンデレ
・狂気
・異常行為
<その他>
以下のリクエストに対する作品です。
・エイスリンさんと白望さんの病み系の百合SS。
筆談とかをなんらかの形で生かす。
病むのはどちらでも…場合によっては両方でも…。
ハッピーもバッドもいいが
可能なら一と透華のSSの終わり方みたいなラストで。
※リクエストの都合上、
純然たるハッピーエンドとは言えません。
むしろかなりバッドエンド寄りです。
苦手な方はご注意を。
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PART: Aislinn
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未来、に希望を抱き過ぎていた。
交換留学。異国の土地にぽつんと一人。
それでも、何とかやっていけると信じていた。
自分なりに準備は重ねてきたつもりだったから。
毎日日本語を猛勉強した。
文化についても事前に調べた。
だから、分かり合えると思っていた。
何より自分には絵があるから。
最悪言葉が通じなくても、
絵を見せれば何とかなると思っていた。
いつでも絵が描けるよう、
スケッチブックとペンも常備した。
万全の態勢で挑んだはずの交換留学。
でも現実は厳しかった。
留学先の高校。そこで私は、
珍獣を見るがごとく遠巻きに観察されて。
二言三言、話しかけられたとしても
会話はすぐに途切れてしまって。
やがて、声を掛けられる機会も少なくなった。
こちらから話しかけても同じだった。
思い描いていたよりもずっと
人間関係が閉鎖的で。
誰もが皆、すでに構築済みのコミュニティーを
あえて変えたいとは思っていないようだった。
そして今日も私は一人。
ぽつんと寂しく放課後を迎える。
ふと前方に目を向ければ、
前の席の女子が誰かに誘われている。
確か…小瀬川さんだったっけ。
羨ましいなって思った。
私には何かに誘ってくれる人はもちろん、
挨拶してくれる人すらいないから。
「今だるいからまた誘って…」
小瀬川さんはけだるげに誘いを断った。
羨ましいなって思った。
私がこんな風に断ればきっと、
『またの機会』なんて永遠に来ないだろう。
心は空虚感に塗りつぶされて。
思わず大きなため息をつきそうになる。
小瀬川さんがのけぞってきたのは、
丁度そんな時だった。
--------------------------------------------------------
「留学生の……後ろの席だったんだ……」
椅子の背もたれにもたれかかりながら、
随分と間延びした声で彼女は言った。
「ッ……」
せっかくだから何かを話しかけなくちゃ。
必死に頭をフル回転させ始めた、そんな時…
グクゥ〜〜〜
不意に彼女のお腹が鳴った。
私は反射的に、思ったままを口にする。
「オナカスイタ?」
「うん」
「パンタベル?」
「うん」
酷く簡潔で無味乾燥な会話。
そしてすぐ訪れた沈黙。
でも私は、どこか居心地の良さを感じていた。
思えば、小瀬川さんが
長く喋っていた記憶がない。
どちらかと言えば寡黙。
なのに彼女はいつも誰かに声を掛けられ
誘われている。
それはきっと、この独特な
雰囲気によるものなのかもしれない。
もう少し。もう少しだけ。
この穏やかな雰囲気に浸っていたい。
そんな思いを抱いた刹那。
無情にも沈黙は破られる事になった。
ガラリ。
教室の扉が開けられて、二人の女子が顔を出す。
「あっ、いたいた」
「シロっ、熊倉先生が例の子連れてきたって」
まただ。また小瀬川さんをどこかに
連れていこうとする声。
たださっきと違ったのは、
小瀬川さんが快諾した事だった。
「ん……ぃまぃぐ」
「ごちそうさま ありがとう」
振り向きざまにお礼を言いながら、
そのまま立ち去ろうとする彼女。
私は突如訪れた別れに
気持ちを切り替える事ができないまま。
ただ曖昧な笑顔を浮かべる事しかできなかった。
でも、小瀬川さんは、
そんな私の心情を読み取ったのか。
「一緒にくる?」
なんて。私が一番かけて欲しかった
言葉をかけてくれたんだ。
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物語が少しずつ転がり出した。
初めて打った麻雀は、ルールがとっても難解で、
なかなか覚える事はできなかったけど。
それでも、誰かと何かをする事は楽しかった。
小瀬川さんと話をする機会も増えた。
元々教室の席が前後だったのもある。
でも何より大きかったのは、
彼女が私の絵を理解してくれた事だった。
あの日連れていかれた麻雀部室で、
初めて見せた一枚のイラスト。
「何その絵!?」
なんて言い放った臼沢さんを責める気はない。
でも、わかってもらえなかったのは
少なからずショックで。
私は人知れず目を伏せる。
でも。
『みんなで地区大会に出て入賞しよう』
皆が戸惑いの顔を見せる中、
一人小瀬川さんだけは意味を正確に理解していた。
それも、一字一句違わずに。
一連の体験は、私が小瀬川さんに
心を開くのには十分だった。
小瀬川さんとなら、焦って話す必要はない。
もし言葉が通じなくても、
絵を見せればきっとわかってくれる。
「エイスリン…次の教室どこ…?」
「アッ…home economics room…ノー」
「…コレ!」
「鍋にエプロン…家庭科室か。
ありがとう。じゃぁ行こっか」
「ウン」
ほら今も。私の絵を見て、ちゃんと
言いたい事をわかってくれた。
小瀬川さんの言葉は少ない。
私が話せる言葉も少ない。
でも私達は、絵を通じて語り合える。
「エイスリンの絵はわかりやすいなぁ…」
「ホント!?」
「デモ、ワカルノ…コセガワサンダケ」
「わかりやすいと思うんだけどなぁ…」
「ジャァ、コレハ?」
「だらけてる人…私の事でしょ」
「セイカイ!ジャァコレハ?」
「餌をあげてる人…エイスリンの事?」
「セイカイ!」
「エイスリンって、意外ときつい事言うよね…
まぁ別にいいけど」
言葉を。そして絵を交わすたびに、
心が温かくなっていく。
私にとって、絵は母国語の次に
思いを伝える大切な手段。
だから…それを唯一理解してくれる
小瀬川さんに惹かれていったのも、
ごく当然な事だった。
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でも、そんな私の恋路は前途多難だった。
だってシロは、いつも人に言い寄られていたから。
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「小瀬川さーん。一緒にご飯食べなーい?」
「シロー、たまにはカラオケ付き合ってよ」
「小瀬川さん…その、ちょっと、いいですか」
「白望」
「シロ」
「小瀬川さん」
常にダルそうで人付き合いの悪い彼女。
なのに、そんな彼女は人気者で。
皆が皆、シロと接触する機会を
待ち望んでいるようだった。
そのせいで、私が彼女を独占できる時間なんて
数えるくらいしかない。
お昼、シロが気まぐれにみんなの誘いを断った時と。
放課後シロが動き出すまでに必要になる
だらけタイムの間だけ。
「もっと…シロと一緒に居たいな」
「難しいよね」
机に寝そべりながら独り言ちる。
気もそぞろに右手を動かしていたら、
いつの間にか白いカンバスの上では、
シロと私が二人手を繋いで笑っていた。
「この絵みたいになったらいいのに」
自重じみた笑みを浮かべながら、
私はカンバス上のシロを指ではじく。
「ありえないか。絵に描いた夢が現実になるなんて」
なんて事を考えていたら、
熊倉先生に変な事を言われたのを思い出した。
『どうやら、エイスリンには不思議な力があるみたいだね』
理想の牌譜を脳裏に思い浮かべて、
それを絵のように描き出す事で、
実際の対局に反映させる事ができる能力。
正直説明を受けても半信半疑だったけど、
実際にそうなっていたのは事実で。
もし私に、そんな
数奇な能力があるのだとしたら。
どうか、このカンバスに描いた夢も、
現実に変えてくれないだろうか。
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なんて事を考えていたら…
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次の日、夢が叶った。
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「ちょっと備品を買いに行くよ。
何人か一緒についてきて頂戴」
その日はたまたま買出しに行く必要があって。
車を出す熊倉先生についていく人と、
残る人とで分かれる事になった。
「私は行くよー!麻雀用品いろいろ見てみたい!」
「私も!」
「ダル…」
「まあシロはそう言うと思ったよ。
私はついていこうかな」
「ジャア、ワタシ、シロノメンドウミル」
麻雀用品店という珍しい行先に、
大半の部員は目を輝かせた。
でも、当然のようにシロはパス。
私もちょっと興味があったけど、
シロの面倒を見るという名目で居残った。
「…エイスリンも行けばよかったのに」
「メンドウミル」
「面倒も何も…私居眠りする気なんだけど」
「イイヨ」
「…じゃぁ、お言葉に甘えて…」
最後まで言い終わらないうちに
こっくりこっくりと船をこぎ始めるシロ。
私はシロが寝静まったのを見計らって、
その手をそっと握りしめた。
「叶っちゃった…本当に」
それは夢と言うにはあまりにもささやかで。
でも、確かに私が願ったもので。
私は自分の頬が緩んでいくのを
堪える事が出来なかった。
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それからというもの、
私は夢を叶えるのに躍起になった。
毎晩毎晩、シロと二人きりになれるように
願いながら絵に起こす。
必ずしも成功するとは限らなかったけど。
強く願えば願う程、叶う確率は高くなる。
そしてそれは、偶然の枠を大きく逸脱した確率だった。
「…最近、エイスリンと二人になる事多いなぁ…」
「ソウダネ」
「ま、私もエイスリンと二人だと楽でいいや…」
「ソウナノ?」
「無理して喋らなくていいし…
なんていうのかな」
「……」
「コウ?」
スケッチブックに描いたのは、
二人で並んだ女の子。
胸の位置には大きなハートマーク。
二つのハートは赤い糸で繋がっている。
「そう、そんな感じ」
シロは否定しなかった。私はそれが嬉しくて、
シロをぎゅっと抱きしめた。
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シロと心が通じ合っている。
それを否定されなかった事で、
私はさらに欲を出してしまった。
心が通じ合っているのは嬉しい。
でも、その想いの意味は違うと思う。
きっと、シロは私の事を友達として愛している。
でも私は、シロの事を恋愛対象として愛している。
『夢が、叶いますように』
浅ましい私は、さらに関係を深める事を求めた。
具体的には、それを思い願って、
いつものように描き出してしまった。
そう、それは…
シロと私が、唇を重ねている絵。
出してはいけない欲だった。
人の想いまで、自分の夢で上書きする。
超えてはいけない境界線を踏み越えた行為だった。
でもその時の私は。
その行為の恐ろしさに気づかない程に。
シロに焦がれてしまっていた。
「夢が、叶いますように」
もう一度、今度は声に出しながら。
私はその絵に口づけた。
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そして、蜜月は終焉を迎える。
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それは受け入れてもらえなかった。
すんでのところでシロの動きが止まる。
「ちょいタンマ」
「シ…シロ?」
「…ごめん。ちょっと考えさせて」
「……」
「……」
「……」
唇まで後数センチ。なのにシロは、
私から体を離すと。
やがて、迷ったような顔をしながらも
毅然として言い放った。
「…やめよう」
「何か、上手く言えないけど…違う」
「これは、しちゃダメだ」
それは、私がシロから受けた、
初めての明確な拒絶だった。
思い描いた夢が、ただの夢として散って。
全てを失った瞬間だった。
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PART: Shiro
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ずっと違和感を覚えていた。
そう、エイスリンとの関係に。
エイスリンの事は好きだ。そこは間違いないと思う。
でも、なんというか…誰かにそう仕組まれているような。
作為的なものを感じずにはいられなかった。
二人っきりになる頻度が多過ぎる。
ムードを高めるシチュエーションが多過ぎる。
そんな展開に喜びを覚えた事は事実だけれど。
でもどこか、出来過ぎているような気がして。
『まるで、夢を見ているみたいだ』
なんてふと思った時に。私はそれが、
核心である事に気づいてしまった。
これはきっと、エイスリンが描いた夢だ。
多分だけど、エイスリンは私の事を愛していると思う。
そして、私もエイスリンの事は好きだ。
告白とかはダルいからしないけど。
もしエイスリンから告白されたら、
特に断る事無く付き合ったと思う。
でも。
もしエイスリンが。
『こうなるように』
『夢を描いていて』
『その通りになっていた』
としたら。
それは、私の想いと言っていいんだろうか。
「…わからない」
そこに気づいてしまった以上、
このまま進むわけにはいかないと思った。
少し冷静になって考える必要があると思った。
いずれエイスリンを受け入れるにしても。
これが間違いなく私の本心であると、
はっきりしてからにしたくって。
だから、迷った末に拒絶した。
その判断が…よりひどい結末に
繋がっている事も知らないまま。
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PART: Aislinn
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シロは散々迷った末に、結局は私を拒絶した。
私はそれに耐えられなかった。
「どうして、どうして、どうして、どうして」
わからない。どうしてシロは拒絶したの?
わからない。ちゃんと夢に描いたのに。
わからない。どうしてシロは迷ったの?
そして私は、一つの考えに行き着いた。
迷う。それは選択肢があるから。
シロしか居ない私とは違って、
シロには選べる相手がたくさんにいる。
それらと私を天秤にかけて…
シロは答えを保留したんだ。
そこに思い至った私の出した結論は。
「選択肢があるからいけないんだよね」
「だったら…迷わなくていいようにしてあげる」
「私以外、消えちゃえ」
私はペンを取り出した。
そして欲望のまま、狂気のままにペンを走らせる。
カンバス上に6人の女性を描く。
ふわふわの白い髪の毛を携えた女の子。
スケッチブックを抱えた女の子。
小さくて人形みたいな女の子。
頭にお団子を付けた快活そうな女の子。
一人だけ身長が異常に高い女の子。
最後に、年老いた女性を描いた。
後ろから順番に、グシャグシャに。
グシャグシャに黒く塗り潰していく。
年老いた女性に×。
背の高い女の子に×。
お団子頭に×。
お人形さんに×。
大きな大きな×を付けた後で、
力任せにぐりぐりと塗り潰した。
そして、最後に残った者は、ほら。
スケッチブックの女の子と
ふあふわの白髪の子の二人だけ。
こうなれば、シロが迷う事なんてない。
「消えちゃえ」
「消えちゃえ」
「消えちゃえ」
「消えちゃえ」
何度も、何度も繰り返した。
何度も同じ絵を描いて、
何度も何度も塗り潰した。
何度も。何度も。何度も。何度も。
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そして、私が描いた夢は…今度こそ現実になる
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PART: Shiro
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楽園はあっという間に崩壊した。
麻雀部の面子は、エイスリンを除いて
全員転校する事になった。
塞も。胡桃も。トヨネまで。
塞と胡桃は、どちらも両親の仕事の都合。
どうしても残る事はできなかったらしい。
トヨネに至っては、熊倉先生が村と結んだ契約が
一方的に反故にされて、強制的に
帰らされる事になったようだった。
そうなってしまえば、
熊倉先生がこの学校にいる意味もない。
元々インターハイを指揮するために
来たようなものなのだから。
こうして、あまりにもあっけなく。
私達の絆は断ち切られた。
一週間前。そう、ほんの一週間前には。
まだこの部室には6人全員が揃っていて。
笑い声は絶える事なく、
陽だまりのようなぬくもりに包まれていた。
でも今や、残されたのはエイスリンと私だけ。
二人しかいない部室は酷くがらんどうで寒々しい。
それでもエイスリンは、
にこにこと笑顔を浮かべている。
もっともその笑顔には、
もはや光は灯っていないけれど。
「…エイスリン」
「ナニ?」
「これも、エイスリンが望んだ夢なの…?」
「ウン」
「どうして?」
エイスリンは質問には答えず。
代わりに、一冊のスケッチブックを取り出した。
最初に描かれていたのは6人の女性。
皆が皆笑顔で笑っている。
エイスリンがページをめくる。
次のページでは、一人の女性が黒く塗り潰されていた。
エイスリンがページをめくる。
その次のページでは、また一人消えた。
エイスリンがページをめくる。
その次のページでまた一人黒くなった。
エイスリンがページをめくる。
そして…最後に、二人の少女が残された。
残された少女は二人、涙を浮かべながら手を取り合って。
最後には目を閉じて、口づけを交わしていた。
「それが…エイスリンの望んだ夢なんだ」
「ウン」
選択肢を間違えた事に気づいた。
もし現実が、エイスリンの願う通りだったなら。
抵抗するだけ無駄だったんだ。
何も考えなければよかったんだ。
抗わなければよかったんだ。
私が余計な疑念を抱いたせいで、
皆が散り散りになってしまったんだ。
もう、考えるのはやめよう。
「…わかった。エイスリンの夢、叶えてあげる」
エイスリンの肩を抱く。カンバスに描かれた通り、
私はエイスリンに唇を落とす。
涙が頬を伝っていた。
私の頬にも。エイスリンの頬にも。
もっともお互いの涙の意味は、
おそらく違っていただろうけど。
…いや、もういい
考えるのは
やめよう
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PART: Aislinn
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シロが私のものになった
私がそう描いたから
シロはもう、私以外の人には反応しない
私がそう描いたから
シロの周りに人はいない
私がそう描いたから
シロは私が望む事を何でもしてくれる
私がそう描いたから
シロは私の理想のシロになった
私がそう描いたから
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ああ
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いつから私の夢は
こんなに黒く
救いのないものになってしまったんだろう
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私を抱き締めて眠るシロ
それはもう本当のシロじゃなかった
これは私が思い描いた理想のシロ
私が描いた、偽りのシロ
私が欲しかったシロは、
こんなシロだったんだろうか
違う
私は人形が欲しかったんじゃない
私が欲しかったのは
私が本当に思い描いた夢は
スケッチブックを手に取った
手は思うように動かなかった
もう夢を描くには
罪を犯し過ぎていた
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PART: ……?
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頭に靄(もや)がかかっていた。
体が思うように動かなかった。
ただ、エイスリンが苦しんでいる事だけはわかった。
人形になった私を抱いて、
涙を流している事はわかった。
『…だったら…やり直そう』
『…大丈夫。エイスリンならできる』
私は柄にもなく必死になって、
エイスリンに呼びかける。
声は出なかった。
体もピクリとも動かなかった。
それでも私は呼び続ける。
『…夢を描けばいい』
『…今までそうしてきたように』
『…今度こそ、本当にエイスリンが望む夢を』
いつか、この思いがエイスリンに届く日を夢に描いて。
私は私の檻の中で呼びかけ続ける。
その日も、声は出なかったけど。
(完)
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