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【咲-Saki-SS】咲「貴女は人狼ですか?」【ファンタジー】【真相は闇の中編】

<警告>
テーマの都合上、
残酷な描写が頻繁に登場します。

本作品はあくまでフィクションであり、
パラレルワールドであり、
あくまで一つの物語としてとらえてください。

残酷な描写、ホラー、
好きなキャラが不遇な目に合うのが
苦手な方は今すぐ本ページを閉じる事を推奨します。


<あらすじ>
人狼。

それは国中を恐怖に陥れた人外の存在。
人の皮を被った狼の化け物。

二、三匹で固まって行動し、拠り所を持たず、
村から村を転々とする放浪の魔物である。

彼らは人知れず村に侵入し、
何食わぬ顔で殺した村人とすり替わる。
そして、隣人を装って
残りの村人も食い殺そうとする。

人に紛れた人狼を退治にする
たった一つの手段。
それは皆で団結して話し合い、
人狼と疑わしき人物を
多数決で処刑する事。

だがそれは、昨日までの隣人を
化け物として疑い、
自分が生き残るために殺す事を意味していた。


そして今日も、人狼はある村に紛れ込む。
のどかな村は一転、
死と隣り合わせの狩場となった。

死の運命に囚われた彼らは。彼女達は。

運命に抗い、生き残る事ができるだろうか。


<登場人物>
片岡優希,染谷まこ,
竹井久,原村和,宮永咲,須賀京太郎,
福路美穂子,池田華菜,
東横桃子,加治木ゆみ,
龍門渕透華,天江衣
宮永界

<症状>
・ファンタジー
・狂気
・異常行動
・絶望
・殺害

<その他>
・元ネタはパーティーゲーム
 『汝は人狼なりや?』です。
 元ネタを知らなくても
 楽しめるように配慮はしたつもりです。

・できるだけロジック破綻は
 しないように気を付けてますが、
 真面目に推理すると多分悲しい事になります。
 あくまで人狼風味の読み物として
 楽しんでいただければ。

・冒頭は人狼を知らない人に対する
 人狼の説明が大半となります。
 このため、人狼をご存知の方は
 ☆まで読み飛ばしていただいて構いません。

 この村に存在する能力者は以下の通りです。
 人狼 :村人を食い殺す存在。人間に化けている。
 狂人 :人間にもかかわらず人狼に味方する精神異常者。
 占い師:一日一回、指定した者を占って
     人間か人狼かを判定できる。
     占いができるのは夜で、発表できるのは翌日。
 霊能者:死んだ人間が人間か人狼かを判定できる。
     判定ができるのは朝。
 狩人 :一日一回、指定した人を人狼から
     守る事が出来る。自分が狙われた場合は殺される。



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人狼。

それは国中を恐怖に陥れた人外の存在。
人の皮を被った狼の化け物。

二、三匹で固まって行動し、拠り所を持たず、
村から村を転々とする放浪の魔物である。

彼らは、この中世において
小さな村が壊滅する最たる要因となっていた。

人狼の力はあまり強くない。
一対一では人間に勝ち目は事はないが、
それでも二人がかりなら
凡人でも倒せる程度である。

そんな人狼が、なぜこれ程までに猛威を振るうのか。
それはひとえに、手口が巧妙だからだろう。

彼らは人々が寝静まった深夜に
人知れず村に忍び込む。
夜のうちに、人間を
食い散らかせるだけ食い散らかす。

そして夜が明けて騒ぎが大きくなる前に、
食い殺した人間に化けてしまうのだ。
外見はもちろん、人格や記憶すら
全くそのままに写し取る事で。

その後は元々居た村人として
何食わぬ顔をして暮らしつつ、
毎晩一人ずつ村人を食らっていく。

住人は一人ずつ、一人ずつ減っていく。
最後、村人と人狼の数が同数になって、
村が人狼に対抗できなくなった時…

残った村人に襲い掛かり、
一気に村を滅ぼしてしまう。

こうして滅ぼされた村は、
もう百を超えていた。


……


そして今日もまた、不幸にも
一つの村が人狼に目をつけられる。

辺境の村だった。
長く平和を享受していた村にとっては、
人狼の脅威もどこか遠くのお伽噺で。
ある村人が、戸締りを怠ってしまったのだ。


『珍しいな。門が施錠されていないようだ』

『随分平和ボケした村だな。
 じゃあ、この村にしようか』


もしこの時、門が固く閉ざされていたならば。
悲劇は起きなかったのかもしれない。

だが、ほんの少しの気の緩みが、
人狼に付け入る隙を与えてしまう。


『いつも通り行くぞ。できる限り数を減らす。
 屈強な男を中心に』

『雌ばかり十匹程度残せたら上出来だな』

『よし、喰おう』


満月が夜空を支配する深夜。
人狼は素早く村の中に滑り込む。

そのまま人知れず家屋に浸入し、
安らかに眠る人々の喉仏を噛み切った。


『もうじき夜が明けるか…
 今回も殺しきる事はできなかったな』

『残念だがこれもいつもの事だ。
 あの狂ったゲームに参加するしかないだろう』



そしてまた、殺戮のゲームが始まる。



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『…貴女は、人狼ですか?』







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異変にいち早く気づいたのは、
交易人見習いの京太郎だった。

彼は隣町で商品を仕入るために、
毎朝早くに村を出る。
その日もいつも通りに村を出ようと、
彼は身支度を整えた。

だが玄関の扉を開けるなり、
京太郎は異変を感じ取る。


町中に…強烈な血の匂いが漂っている。


京太郎
 「うぇっ…な、なんだこれ…」


狼狽する京太郎はさらに見つけてしまう。
村の外を覆う不気味な霧。
そして…


四肢を乱雑に食い千切られた無惨な死体の山を。


京太郎
 「ま…魔法の…霧が出てやがる!
  そ、それにし、し、し…死…」

京太郎
 「っ…うぷっ…」


余りに凄惨なその骸を見て、
京太郎は食べたばかりの朝飯を
吐き出してしまう。

いや、むしろそれだけで済んだ事を
褒めるべきだろう。
並の人間であれば
発狂してもおかしくはなかった。


京太郎
 「くそっ!聞いた事あるぞ…!
  魔法の霧に、死体の山…
  考えたくねえけど…」

京太郎
 「じ…人狼の仕業か……!!」


脱出不可能な魔法の霧。
人の仕業とは到底思えない悲惨な骸。
それらは、村に人狼が入り込んだ事を意味していた。


国の施策として、村には
呪い(まじない)師による
特殊な魔法がかけられている。

この魔法は人狼の侵入を検知して
村の周囲を霧で覆う。
侵入した人外を閉じ込めるためだ。
もっとも、人間も出られなくなるのだが。


京太郎
 「ともかく…界さんに報告するしかねぇ!」


慌てて村長の家に駆けこんだ京太郎は、
藁にも縋る思いで
村長の宮永界に問いかける。


京太郎
 「ど…どうすればいいんですか?」

界「…国から伝えられている通り、
  『人狼ゲーム』をやるしかないだろうな」

界「村の皆を集めてくれ。
  ゲームについて説明をしなくちゃいけない」

京太郎
 「わ、わかりました」


京太郎は踵を返して走り去る。
その背中を見送る事はなく、
界は即座に家の中を駆け出した。

一つの部屋に駆け寄ると、
震える手でそっとノックする。


界「さ…咲。起きてるか?」


一瞬の沈黙。界にはその沈黙が
まるで永遠のように感じられた。
だが、やがて部屋の中から、
間の抜けた少女の声が返ってくる。


咲「……んん…おはようお父さん。
  なんか、今日は早いね?」


界は深い、深いため息をついた。
最愛の娘は、とりあえず生きてくれていた。


界(…咲は無事か…よかった)

界(……いや)

界(何も知らないで、
  皆と一緒に死ねていた方が…
  幸せだったのかもな)


殺戮はまだ終わってはいない。
今はまだ日常に身を置く咲も、
すぐにこの地獄に引き込まれるだろう。
そして、あの狂ったゲームの参加者となる。


界(くそっ…!他に手はないのか…!?)


代案を必死で考える。だが結局界には、
自らが置かれた境遇を呪う事しかできなかった。



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『一日目』






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生存者は…十三名。

宮永界。
片岡優希。染谷まこ。竹井久。
原村和。宮永咲。須賀京太郎。
福路美穂子。池田華菜。
東横桃子。加治木ゆみ。
龍門渕透華。天江衣。



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村役場の小さな会議室に、
生存者が一堂に会していた。

住民のほとんどは食い殺されていた。
残ったのはたったの十三人。
しかも、界と京太郎を除けば
全員が力のない女性ばかりだった。

これでは人狼を退治できたとしても、
村を存続させるのは難しいだろう。

界は生き残りの顔色を窺った。
皆一様に暗い顔をしている。
溢れる涙を止める事ができない者も多かった。
中には立つ事すらできない者も。
だがその状況を見て、界は素直に喜んだ。


界(…強いな。お前達は)


外にはおぞましい死骸が溢れている。
死臭も漂うようになってきた。
この生き地獄の中において、
誰一人として精神が崩壊していないのは
奇跡と呼んでいいだろう。


界(…頼む…これからも、そのまま強くあってくれ)


界は祈るように目を伏せると。
やがて意を決したように顔をあげ、
止まる事無く言葉を吐きだした。


界「お前達、よく生き残ってくれた。
  皆、辛くて仕方ないだろうな。
  だが、悪いが落ち込んでいる暇はない」

界「俺達はこの十三人で
  『人狼ゲーム』をしなくちゃいけない。
  …聞いた事はあるか?」

久「噂で聞いたり、本で読んだ事はあるわ。
  …趣味の悪いお伽噺だと思いたかったけど」

界「無理もない。正気の沙汰とは思えない内容だからな。
  それでも、俺達はやらないといけない」

界「…説明するぞ」


沈痛な面持ちで界は語り始める。
恐るべき、殺戮ゲームの全容を。


人狼ゲーム。


それは、人間と人狼との知恵比べ。
ゲームと言えば聞こえはいいが、
要はただの殺し合いである。

村人は毎日全員で話し合いを行う。
そして一日の終わりに、
人狼と思わしき人物一名を処刑台に上らせる。
つまりは殺す。

対して人狼は毎晩一人ずつ人間を食い殺す。

村人が全滅する前に人狼を全て処刑できれば、
村は生き残る事ができる。

逆に、誤って人間を処刑してしまい、
やがて人間の数が人狼と同数になってしまえば…
もはや村は人狼に対抗する事はできなくなり、
滅びを迎える事になる。


理屈では理解できる。
それでも異を唱える者はいた。
だがそれは、まともな神経を持っていれば
当然の事だった。


和「村の人を処刑するんですか!?
  同じ村で育った仲間なのに…!」

界「人狼は身近な人間に化けてる上、
  一対一では勝ち目がない。
  何もせずほっとけば、
  一人ずつ食い殺されていくだけだ」

界「だとしたら、人狼の正体を突き止めて…
  奴らも文句を言えない方法で
  処刑するしかないだろう?」

美穂子
 「間違えて村人を吊って
  しまったらどうするんですか…!?」

界「その時は…俺達の知恵が、
  人狼に及ばなかったって事だ」

久「どうしてもやらなきゃ駄目なの?
  確か、霧の魔法は自分達で解除できるはずよね?
  正直、逃げちゃえばいいと思うんだけど」

界「霧の魔法が発動した事はすでに
  国にも伝わってるはずだ。
  逃げたら極刑の罪人扱いになる。
  俺達はもう、人狼ゲームを勝ち抜くしか
  生きる術はないんだよ」


そう。何人たりとも、
このゲームから逃げる事は許されない。
これは国の法律として定められている事だった。

霧の魔法が発動した事は
自動的に国に伝わる仕組みになっている。

そして国には、霧の魔法が
『どうやって解除された』のかも
伝わるようになっている。

霧の魔法を解除する方法は二つ。
一つは人狼を絶滅させる事。
もう一つは、霧の結界を発動させている
魔方陣を消し去る事。

人狼を絶滅させず魔法が解除された場合、
即座に国から確認の兵が送られる。

その時村人が生き残っていれば…
即座に捕えられて全員処刑されるだろう。
そこにいるのは人狼か、
ゲームを放棄した罪人なのだから。

仮にその場で見つからずとも、
指名手配犯となるだけだ。


華菜
 「無茶苦茶だし!なんで何も悪くないのに
  極刑にされなきゃいけないんだし!
  国は私達に死ねって言うのか!?」

界「ぶっちゃけちまえばその通りだ」

華菜
 「なっ…!?」

界「せっかく人狼が網にかかったんだから、
  命を犠牲にしてでも人狼を退治しろって事だよ」

美穂子
 「ありえないわ…人の命を何だと思っているの…!」


余りの事に憤る村人達。
だが国にとってはどうしても必要な事だった。

実際、村に出たり入ったりを繰り返されて
着実に食い殺されたのでは、
人狼のやりたい放題になってしまう。
それを見過ごし続ければ、
間違いなく国家衰退に繋がっていくだろう。

だから人狼が出た村は、
その人狼を退治する責任を負う事になる。

このゲームは、長い間人狼と戦い続けた
人類の知恵でもあった。


界「もう何百年と続いてきたルールだ。
  今更変えられないと思うぞ。
  異議を申し立てるより、素直に
  これからどうするのか話し合った方がいい」

優希
 「でもそんなの無理だじょ!
  都合よく人狼だけ処刑するとか…!」


皆の顔に絶望が広がっていく。
それも当然の事だった。

人狼はただ似姿を揃えるだけでなく、
喰らった人間の記憶や人格すらもコピーする。
そんな化け物の正体をどう見破るというのだ。


ゆみ
 「そもそも奴らが何匹潜んでるかも
  わからないんじゃ話にもならない。
  下手したら多数決で押し切られるのは人間の方だ」

界「ああ、そこは安心してくれ。
  数は魔法の反応でわかっている。
  二匹だ」
  
まこ
 「二匹じゃと…!?…たった二匹で、
  こがぁな数の人間を食い殺したっちゅぅんか!?」

界「…恐ろしい事にな。それに、
  望みが何もないわけじゃない。
  俺達には三つの望みがある。
  『占い師』と『霊能者』…そして『狩人』だ」


さすがにただ閉じ込めて
村人に処刑させるだけでは、
人狼を根絶する事は難しい。
それは国も重々承知だったのだろう。

ゆえに国はもう三つ、各村に魔法をかけていた。
それは、いざ人外との化かし合いになった時に
力となるであろう存在を生み出す魔法。


占い師。霊能者。そして…狩人。
村を勝利に導く希望の光。


『占い師』は一日一回、指定した人物を占って
その人物が人間かどうかを調べる事ができる。

『霊能者』は、処刑された存在が
人間だったのかどうかを知る事ができる。

『狩人』は、人狼に狙われた人間を一人だけ
人狼の襲撃から守る事ができる。
ただし、自分が襲われた場合は守れない。

この三人の能力者を上手く扱う事ができれば、
村が人狼を排除する手助けとなる。


和「…本当にゲームみたいな能力ですね…」

優希
 「なんでもっとわかりやすい能力にしないんだじょ。
  人狼だけ物凄い光るとかにすればよかったんだじぇ」

界「その辺は俺も思うけどな…
  確か、人狼を魔法の力で強制的に
  参加させるための条件だったはずだ」

界「このゲームがなければ…人狼は村に潜伏して、
  ゲリラ的に一人ずつ殺す事もできるわけだしな」

久「人狼を戦いの舞台に引き込む。
  その上で人間有利になる。
  何とか両立できたのがこの魔法だったってわけね?」

ゆみ
 「そうみたいだな。この魔法が上手く使えれば、
  人間有利で戦う事ができるだろう」

界「…もっとも、実際にはそう
  上手くはいかないけどな」

界「一番の問題は、この能力者が誰なのか、
  実際にゲームを始めて見ないとわからない事だ」

透華
 「なっ…なんですのその欠陥システムは!
  そんなの、最初から秘密裏に
  任命しておけばよいではありませんの!」

界「…運悪く任命者が食われて
  人狼にすり替わってたらどうするんだ。
  始まる前から村の滅亡が確定じゃないか」

透華
 「……!」

界「そんなわけで、これらの能力は
  霧の魔法が発動した後で生き残っている人間に
  与えられる事になっている。
  力を受け取った奴は、その使い方も
  自然と理解できるはずだ」

界「だが、当然人狼もそれを知っている。
  だから単純に名乗り出させても、
  必ず偽物が現れて真贋の区別が
  つかないようにしてくるだろうな。
  ま、狩人は存在がばれたら食い殺されるだけだから、
  名乗り出てくる事自体ないだろうが」

界「俺達は本物の占い師と霊能者を
  弁論によって見つけ出して、
  人狼を処刑しなきゃならないわけだ」

界「…他に質問はないか?ないなら…
  明日からゲーム開始だ。今日は帰っていいぞ」


界の言葉に、村人はとぼとぼと帰路につく。
皆が皆疲れた目をしていた。
だがその目は、恐怖と猜疑心に揺らいでいる。


(やっぱり…こうなっちまったか)


界は一人嘆息した。

もし、幸運にも人狼を
打ち倒す事ができたとしても。

住民達は今まで通りの関係に
戻る事はできないだろう。

理由はどうあれ…彼らは今から殺し合う。
自らの命を賭けて疑いあうのだ。


せめて生き残った者が、
再び手を取り合えん事を。
がらにもなく神に祈る。


『トントントン』


そんな彼の肩を叩く者が居た。


界は予期していたかのように、
振り向く事なく返事する。


界「…ああ。わかってるさ。
  『初日』は俺でいい」
 
界「やってくれ」


界がそう言い終わるや否や、
部屋中に血しぶきが飛び散った。


界「がはっ…!」


界が人狼ゲームを説明する上で。
一つだけ、意図的に伝えなかった事がある。
それは…


人狼はこのゲームを承諾する腹いせに、
『誰か一人を無条件で食い殺せる』という事。


界は最初から自分が犠牲になるつもりだったのだ。
人狼もその思いを汲み取ってやったのかもしれない。
もっとも、単純に界が厄介だっただけかもしれないが。


薄れゆく意識の中、界の口が僅かに動く。


「…さ…き……」


それは、最愛の娘の名前。


ああ、こんな事になるのなら

あいつと駄目になった時に、
咲も引き取ってもらえばよかった

そうすれば、咲を、
こんな狂ったゲームに巻き込まずに…


『ぐちゃりっ』


そこで界の意識は途切れる。

現実では、人狼が界の心臓をその爪で抉り出して。
くちゃくちゃと美味そうに頬張っていた。



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『二日目』






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生存は…十二名。

片岡優希。染谷まこ。竹井久。
原村和。宮永咲。須賀京太郎。
福路美穂子。池田華菜。
東横桃子。加治木ゆみ。
龍門渕透華。天江衣。


死亡者は…一名。
宮永界。



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心臓を食い破られた界の亡骸は、
咲の手で手厚く葬られた。

咲は明らかに憔悴していた。
目はくっきりとくまが浮かび、
頬には涙の痕が残っている。
虚ろに開かれた瞳も真っ赤に染まっていた。


和「…咲さん…無理して参加しなくても…!」


心配そうに様子を伺う和を前に、
咲は抑揚のない声で断った。


咲「…いいんだよ。最初から、
  こうなるってわかってたから」

久「…知っていたの…?」

咲「本の虫でしたから…
  人狼ゲームについての本も一杯読んでたんです。
  だから知ってました。
  人望のある村長は、高確率で初日に殺される事を」

咲「気にしてないって言ったら嘘になりますけど…
  もう、気持ちの切り替えはできてます」


父親を殺されてもなお、
気丈にゲームの続行を促す咲を前にして。
ゲームの中断を申し出られる者は居なかった。

内心はまだ抵抗があった者も居ただろう。
だがそんな事を言えば、人狼と疑われて
処刑されるのは目に見えている。


咲「…始めましょう」


こうして、恐怖のゲームが幕を開ける。


生き残った者はたった十二人。
しかも、京太郎を除けば皆年若い女性ばかりだった。

片岡優希。染谷まこ。竹井久。原村和。宮永咲。須賀京太郎。
六人は麻雀という異国の遊戯で繋がっており、
その仲の良さは村でも評判だった。

次に、福路美穂子と池田華菜。
彼女達は交易人で、たまたまこの地に
滞在していたところを不運に見舞われた。

東横桃子と加治木ゆみ。
この二人は遠方から移住してきた。

龍門渕透華と天江衣。
彼女達も同じく移住勢だ。
どこか影があり引きこもりがちな天江衣を、
常に守るように龍門渕透華が保護している。


久「一時的に、私が進行を執り行うわ」


長である界が居なくなった今、
その場を仕切る事を申し出たのは赤毛の少女。
そう、竹井久だった。

若くして村役場の役職持ちの彼女は、
皆から一目置かれる存在でもある。


華菜
 「ちょっと待てし。
  お前が人狼じゃないって保証は
  どこにあるんだ」

久「ないわ。でも誰かが仕切らないと
  話がまとまらないでしょ?
  誰かが人間確定したら、
  その人に司会を譲ればいいわ」

久「…立場的には咲の方が
  妥当なんでしょうけど…
  今の咲にそれをやらせるのは
  酷ってもんでしょ」

久「異論はある?我こそはって人が居るなら、
  名乗り出てもらっていいわ」


言いながら久が辺りを見回す。
彼女がこの場を取り仕切る事に
異を唱える者は居ないようだった。


久「…異論はないみたいね?
  なら、占い師の力を持ってる人は
  今すぐ名乗り出てくれる?」

久「あ、もちろんすでに誰かを占ってるわよね?
  占った相手と、その理由も一緒に発言して頂戴」


久の言葉を受けて、
二人の人物が手を挙げる。


桃子
「私が占い師っす…
 私は村長さんを占ってたっす。
 私を含めて皆が頼りにしてる人でしたから、
 この人がすり替わってると
 大変だと思ったのが理由っす」

桃子
 「…結果的に、占いを一回無駄にしちゃったっす。
  本当に申し訳ないっす…」


気まずそうに頭を下げる桃子に対し、
勢いよくその弁を遮るものが居た。


華菜
 「気にする必要はないな。
  どうせそいつは偽物だし!」

華菜
 「華菜ちゃんが本物の占い師だし!
  今日の処刑対象は
  その影が薄い女で間違いないし!」


どこか存在感が希薄な桃子と、
対照的に声の大きい華菜。

久は二人をじっとねめつけると、
やがて華菜に冷たい目を向ける。


久「…池田さん?私は、
  占った相手とその理由を発言してと
  お願いしたはずだけど…?」

華菜
 「あっ…ごめんだし。
  占ったのはキャプテンだし。
  キャプテンが人狼だったら
  私にとって一大事だからな!」


事もなげにそう告げる華菜に対し、
久の目がさらに細くなる。
声はさらに鋭く冷たさを増した。


久「…池田さん。貴女、立場わかってる?
  貴女が本物の占い師なら、
  間違いなく村の命綱なのよ?」

久「だから、占い師の真贋は
  村の行く末を左右する。
  貴女は皆の信用を
  勝ち取る必要があるの」

久「もう二度と、そう言った
  自分本位な占い方はしないで頂戴」

華菜
 「…ごめんだし…でも、どうしても無理だったし…
  キャプテンが人狼とか考えたくないし…」


辛辣な久の言葉に、華菜が堪らず涙ぐむ。
部屋は重苦しい沈黙に包まれる。

そして、その沈黙を破るのもまた久だった。


久「…今のうちに、皆にも言っておくわね?
  これは、村の存亡をかけた殺し合いよ」

久「貴方達が私の仲間なら、
  個人の感情的な発言はやめて、
  建設的な発言をお願いするわ」

久「個人の感情を優先させても、
  いたずらに議論が発散するだけ。
  そうなれば得をするのは人狼よ」

久「だから私は、この議論において
  一切の感情を排除するわ。
  …仮にそれが、私の愛する
  麻雀部の一員であってもね」

久「冷たいと思うならそれでもいい。
  でも、私は一人でも
  多くの人を生きながらえさせたい」

久「人狼に、脅威だと思われて
  食われてもいいとさえ思ってるわ」

久「以上よ。じゃあ、議論を再開しましょうか。
  まずは占い師の真贋を見極めたいわね」


場の雰囲気を一新するためか。
久は『ぱんっ』と一拍手を叩く。
それを皮切りに議論の内容は
占い師の真贋に移る。


ゆみ
 「占い師の二人に聞きたい。
  次は誰を占うつもりなんだ?」

桃子
 「私は竹井さんを占うつもりっす。
  理由は村長さんと同じで、
  味方なら心強いっすけど…
  敵だとしたらこれ以上怖い人はいないっす」

華菜
 「…私も竹井を占うし。これで人狼だったら
  ただじゃおかないし」

ゆみ
 「…悪いが、私は池田さんの心象が
  かなり悪くなったな。
  久にあれだけ言われたのに
  結局感情論じゃないか」

華菜
 「な、なんでだし!占う相手は一緒だろ!?」

美穂子
 「…華菜…占う理由が問題なのよ。
  貴女はどうして、久を占うの?」

華菜
 「そ、そりゃ…こいつが敵だったら嫌すぎるし。
  ペース持ってかれ過ぎだし」

まこ
 「…結局東横さんとほとんど同じ理由じゃの」

和「…後追いっぽいですね」

華菜
 「なっ!?」


一度与えてしまった悪印象は
なかなか払拭する事ができない。

場が華菜叩き一色となりそうな雰囲気に包まれる中、
咲がおずおずと手を挙げた。


咲「あ、あの」

久「…ん?何かしら咲?…と言うか、
  無理しなくてもいいわよ?」

咲「だ、大丈夫です…
  その…もう、次の議論に移りませんか?」

透華
 「次の議論?具体的に
  何を議論するつもりなんですの?」

咲「その…占い師は二人出ていて、
  どちらかは偽物ですよね…?
  で、どちらも部長を占うって言ってますから…」

咲「多分部長、明日の判定
  分かれる気がするんです。だから、
  その可能性について語った方が…」

久「……んー、確かにそうなる
  可能性もあるかもね?」


咲の提案は、少し先読みして
久の判定が割れた時の決断を話し合う事だった。
少し飛躍したその提案に、
理解しきれず疑問符を頭に浮かべる者も少なくない。


優希
 「どういう事だじょ?」

久「いやさ、もちろん私は
  自分が人間だってわかってるわよ?
  んで人狼からしたら、私って
  うっとおしい事この上ないでしょ」

久「人狼にとって不利益な人を処刑させるのが、
  偽占い師の役目でしょうし。
  人狼がヘタレじゃなければ、
  私を人狼扱いしてくるかもしれないわね」


説明する久の言葉を受けて、
今度は華菜が食ってかかる。


華菜
 「…その発言はおかしくないか?
  まるで今から判定割れるのがわかってて
  前もって言い訳してるように聞こえるし」

久「んー、言い出したのは咲だから、
  私に言われても困るんだけど」


さらには、もう一人の占い師である桃子が、
ぶんぶんと手を振りながら口を挟んできた。

桃子の両目は議論の中心となっている久ではなく、
咲の方を真っ直ぐと見据えている。


桃子
 「…すいませんっす。占い先を
  変えさせてもらっていいっすか?
  宮永さんを占いたいっす」

ゆみ
 「…どうしてだ?」

桃子
 「私の知っている宮永さんは、
  こんな風にいきなり発言したりしないっす。
  これはかなり怪しいっすよ?」

久「私の真偽は確かめなくていいの?」

桃子
 「ええと、正直占う必要ないかなって
  思えてきたっす」

美穂子
 「なんとなく理由はわかるけど…
  一応聞いてもいいかしら?」

桃子
 「竹井さんが目立ち過ぎだからっす。
  こんだけ目立ったら普通占われますし、
  実際占いの対象に上がってるっす」

桃子
 「わざわざ占われるために出てきて
  結果やっぱり人狼でした、とか
  おバカにも程があるっすよ。
  逆説的に、竹井さんの行動は
  人狼にはできない行動だと思うっす」

桃子
 「…と言うわけで、私の中で
  竹井さんがかなり人間臭くなったので
  もう占いを消費したくないってのが本音っす」

ゆみ
 「私もその意見に賛成だ。久は十分
  貢献してくれているように見えるし、
  今後の発言で判断できるだろう。
  むしろ人間確定して食われる方が怖い」

久「……ぶっちゃけちゃっていい?
  正直私、結構心が弱いのよね。
  疑われながらビクビクしてるより
  いっそ人間確定して食われた方が
  私の精神衛生上はましなんだけど」

咲「ば、バカな事言わないでください!
  生き延びてくださいよ!!」

久「…そうね。ごめんなさい」

久「じゃ、多数決取りましょうか。
  私を占いたい人と、咲を占いたい人で多数決」


久に手を挙げたのは三人。
まこと、透華、それに…
占い師候補の華菜だった。
残りの皆は、咲を占う事に手を挙げた。


久「じゃあ、今日は咲を占って頂戴。
  …池田さん。言っておくけど、
  無視して私を占ったりしたら…
  もう本物だとしても信用ゼロよ?」

華菜
 「…私だってそこまで馬鹿じゃないし」

久「さて、もう一つ
  決めておかないといけないわね」


久「…今日、誰を処刑するか」

「……っ」


場が一気にどよめいた。
皆が皆、目を背けていた事実。
そう、今日からもう、
誰かを処刑しなければならない。


久「今日は、占い師二人と咲と私以外から
  投票してもらおうと思ってる。
  …多数決で一番票が多い人に
  犠牲になってもらおうと思ってるわ」

和「…占い師と咲さんが含まれないのはわかります。
  でも、なんで部長も除外なんですか?」

久「発言して貢献してるからよ。
  逆に言えば、怪しければ
  発言でボロが出るでしょ?」

久「逆に、喋らない人に狼が居たらどうする?
  占い師の真贋がわかれば判断できるけど…
  それまでは情報ゼロになっちゃうわ」

久「一番怖いのは、
  『疑われるくらいなら口をつぐむ方が安全』ってなる事。
  そしたら人狼の思う壺よ?
  情報なしで処刑したら、人間が処刑される確率の方が
  はるかに高いんだから」

久「明日以降は議論次第で
  私も投票対象にして構わないわ。
  でも、今日まったく喋ってない人もいるわよね?
  そんな人の中に狼が居たら困るのよ」

久「生き延びたいなら喋りなさい?
  発言で村に貢献なさい?
  難しいのはわかるわ。でも、
  黙ってたら殺されるわよ?」


一同はどよめき、我先にと口を開き始める。
議論…時には口論に発展するそれを、
久は冷静に処理しながら議論をまとめていく。
結果、その日処刑される事になったのは…


全く会話に参加していなかった衣だった。

票が集中した事を久に言及され、
初めて衣は口を開く。

語られた言葉は、
このゲーム自体への批判だった。


衣「…本当に…誰かを
  殺さないといけないのか?」

衣「なぜこんな…簡単に人を殺せる?
  衣達は…友達じゃなかったのか?」

衣「なんで…他の道を探さない…
  皆が笑って生き残れる道を……」

衣「衣にはわからない…
  お前達が…わからない……」


衣は怯えたように目を揺るがせた。
その目は、会議に参加する全員に向けられている。

人の死に対して麻痺している。
強いられているとはいえ、
安易に友を殺そうとしている。

彼女の問いかけは皆を痛烈に突き刺した。
それでも、それでも……


『発言をしていないから
 村に貢献する気がない』


そう見なされた彼女が、
票を集めたのも仕方のない事だった。


透華
 「ありえませんわ!!衣が、
  衣が殺されるだなんて…!」


縮こまる衣を庇うように
背後に居た透華が立ちはだかる。
彼女は衣に投票していなかった。


透華
 「衣を絞首台に上らせるくらいなら、
  私が代わりになりますわ!」


髪を逆立て、闘志を燃やしながら
語る透華とは対照的に。

久の言葉はどこまでも冷たい。


久「…そういうのはやめて頂戴。
  本当に天江さんが狼だったらどうするの。
  演技なんて誰にでもできるわ」

透華
 「…っ!貴女には
  血も涙もないんですの!?」

久「……あるわ。あるからこそ、
  私は皆を全滅させるわけにはいかないのよ」

久「私だって友達を殺したいわけじゃない。
  代案があるならいつでも言いなさい」

久「でも、代案がないなら…
  貴女達のしてる事は皆の心を悪戯にかき乱してるだけよ」

透華
 「……っ」


久の強い言葉にたじろいだ透華。
それでも何か言い返そうとして、
透華は久を睨みつける。

そして、透華は気づいてしまった。

久の握りしめられた拳に、
血が滲んでいる事に。
その拳が…微かに震えていた事に。

何も言えなくなった透華を押しのけて、
衣は久の前に出る。


衣「…代案は…ない。ずっと、
  それだけを考えてたけど。
  衣には思いつかなかった」


衣「だから…衣は…受け入れる」


透華
 「衣!!!」

衣「すまない、透華…
  でも、衣には無理だった…
  皆を敵だと疑って、
  弁舌の刃で殺す事が…」

透華
 「……ころも……」

衣「皆に悪い事をした。
  もう、衣は逃げも隠れもしない。
  絞首台に行くぞ」

久「…私が連れていくわ。
  …透華はここに残りなさい」


久は衣の手を取ると、会議室を後にする。

透華を除いた一同は立ち上がり、
力なくその後をついていった。

村役場を出たその足は、のそのそと
村はずれの絞首台に向かう。

牧歌的な村に場違いな絞首台は、
異様な雰囲気を醸し出していた。

村が設立された時からあった絞首台。
その不気味な佇まいに、
取り壊しを提案する声も度々あった。
そもそも、今まで一度も使われた事は
なかったからだ。

誰一人として、自分が『これ』に
関わるとは思っていなかった。

まさか友達を吊るす事になるとは
夢にも思っていなかった。

でも今現実に、絞首台には縄が括り付けられ。
木箱の上に立った衣の首に
輪が通されている。


衣「さ、やってくれ」


気丈にもそう言ってのけた衣。
無論恐怖がないわけではないのだろう。
顔色は青ざめ、小さく肩を震わせている。


久「…ごめんなさい。
  本当にごめんなさい」


自分より背が高くなった衣を、
久が思い切り抱き締める。
その目には涙が光っていた。
衣も耐えきれず顔を
ぐしゃぐしゃに歪ませた。


衣「辛くなるから…早くしてっ……!」

久「うんっ…うんっ……!」


久は木箱を蹴飛ばした。
ロープが伸び切るその瞬間。
久は衣の呟きが聞こえた気がした。


− 衣…何か悪い事…したのかなぁ… −


久の目から涙が溢れる。
両手で顔を覆って泣き崩れた。


久「ごめんなさい…ごめんなさいっ……!!」


慟哭と共に告げられる謝罪。
それにこたえる声はなく。


『ぎぃぃぃ…ぎぃぃぃ』


ただ、縄の揺れる音だけが、
久に返された全てだった。


こうして一人の尊い命が、
人狼ゲームによって奪われた。



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『三日目』






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生存は…十名。

片岡優希。染谷まこ。竹井久。
原村和。宮永咲。須賀京太郎。
池田華菜。東横桃子。加治木ゆみ。
龍門渕透華。


死亡者は…二名。

天江衣。福路美穂子。



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村から二人の人間が姿を消した。
一人は…処刑された衣。
そして、もう一人は…


華菜
 「きゃ、キャプテン…嘘ですよね…?
  こ、こんな時に冗談はやめてくださいし…!」

華菜
 「ど、どこですキャプテン?
  出てきてください!お願いですから!
  お願いしますから!!」


村はずれの門の前。

そこに、彼女の『血に染まった』靴と、
綺麗な金色の髪の毛が一束安置されていた。
無惨な死骸を晒さなかったのは、
人狼によるせめてもの慈悲だろうか。


華菜
 「ぁあぁぁあぁあぁあぁっ!!!!」


まるで自らの体を千切られたかの如く、
狂ったように泣き叫ぶ華菜。

彼女を慰められる者は一人も居なかった。
唯一それができた人は…
もう、この世には居ないのだろう。

皆が皆心を切り刻まれていた。
目に見えて目から活力が失われていた。

それでも、彼女達が
歩みを止める事は許されない。

数時間後。両目を真っ赤に染めた久が、
会議の始まりを宣言する。


久「…二人の犠牲を無駄にしないためにも、
  私達は先に進まないといけないわ」

久「まずは占い師の結果を
  発表してもらいましょうか」

桃子
 「私は宮永さんを占って…人間だったっす」

華菜
 「……」

久「池田さん…?」

華菜
 「…宮永は人間だったし」


昨日までの剣幕が嘘のように、
華菜はぽつりと呟いた。
その目は虚空を捉えており、
もはや何も映っていないように見える。


久「……っ」


久は辛そうに唇を噛みながら
華菜から視線を外すと、それでも
何事もなかったかのように話を続ける。


久「…じゃぁ咲は人間確定ね。
  どうする?私は司会を下りてもいいけど。
  皆も人間だってわかった人の方が
  従いやすいでしょうし」

咲「…わかりました。司会を変わります。
  議論する内容は、次の占い先と、
  霊能者をどうするかと…
  次の処刑者をどうするかです」

咲「ちなみに、よっぽど疑わしい人が出ない限りは、
  今日も処刑者は多数決にするつもりです。
  …皆さん、何でもいいから
  喋ってくれると嬉しいです」


咲から議論を促されて、
すっと手を挙げる者がいた。


まこ
 「…一ついいか?正直わしは、
  今日は被害者が出んか…
  久が殺されとるもんじゃと思っとった」

久「…わお。その心は?」

まこ
 「あがぁに目立っとったんじゃ。
  人狼にとって害があるなら、
  真っ先に狙われると思ったんじゃが」

まこ
 「久よ…お前さんはどうして生きちょる?
  お前さん自身がどう考えとるのか聞いてみたい」

久「そう?ぶっちゃけ私は
  殺されないと思ってたけど」

ゆみ
 「なぜだ?」

久「二つあるけど…一つは
  まこ自身が言ってるじゃない。
  昨日の狩人の護衛対象は
  私の可能性が高いでしょ?」

久「占い師は真贋がつかないわけだしさ。
  防衛される可能性高いのに
  博打を打つ意味がないもの」

久「二つ。私を残しておけば、
  その不自然さに私を疑う人が絶対出てくる。
  必然私はそのうち処刑できると
  思ってるんじゃないかしら」

和「…なるほど。理に適ってますね」

まこ
 「ふむ。疑ってすまんかった」

久「ううん、それでいいのよ。悲しいけど、
  これはそういう戦いなんだから。
  怪しいと思ったらすぐに発言すべきよ」

咲「…もういいですか?じゃあ、
  誰かこの人を占いたいという人は
  いらっしゃいますか?」

ゆみ
 「…私は須賀君を占いたい」

京太郎
 「っ…ど、どうして俺が!?」


唐突に名を挙げられて、
京太郎が驚きの声をあげる。

だが提案したゆみの方は
当然とばかりに肩をすくめた。


ゆみ
 「だって事件の第一発見者だろう?
  普通に考えて怪しいじゃないか」

ゆみ
 「一人だけ男なのも気にかかる。
  実は人狼についての文献を漁ったんだが…
  抵抗された時の事を考えて、
  男は優先的に殺されると書いてあった。
  現に君以外は殺されている」

ゆみ
 「なぜ君だけが生きている?
  申し訳ないが普通に恐怖だ」

ゆみ
 「無論、人狼による罠だと考えたいが…
  占って安心しておきたいと思う
  気持ちもわかってほしい」

京太郎
 「ぐっ…言われてみると確かにそうだ…
  ぶっちゃけ怪しいな俺」

咲「…自分で認めちゃったらどうしようもないね…
  じゃあ、次の占い先は京ちゃんだね?」

京太郎
 「ああ…疑われたままってのもつらいしな…
  疑念を払拭するにはちょうどいいさ」

久「…じゃ、次は霊能者かしら?
  個人的には、隠れていてほしいけど」

咲「…まだ占い師の判定も一致してますからね。
  下手に出てきて護衛対象が増えるのも困ります」

久「そうね。特に異論がなければ、
  処刑者の話に移りましょうか…」


処刑者の選定。久の言葉に、
再び重苦しい沈黙に包まれる。

皆が皆、昨日の衣の最期を
思い浮かべているのだろう。

沈黙を打ち破ったのは、
今日一言もしゃべってない透華だった。


透華
 「…私を殺してくださいまし」

久「…理由を聞かせてもらってもいいかしら」

透華
 「聞かないとわかりませんの?」

久「……」


透華の目はまっすぐに久に向けられている。
でもその目は久を映してはいない。

目から光は失われており、
それは華菜と同じものだった。


透華
 「もうこの世に衣は居ません。
  私達が殺したんですから。
  そんな世界に何の意味があるんですの」

久「…できれば拒否したいわ。
  自殺志願者に人狼がいるとは思えないもの。
  無為に人殺しを重ねるだけになりかねない」

透華
 「…私には言いませんの?
  これが、人狼の演技だったらどうするのかと」

久「……」


黙して語らない久を前にして、
透華は寂しそうに笑う。
自らを嘲るような笑みだった。


透華
 「…失言でしたわ。忘れてくださいまし。
  貴女も…衣のために
  涙を流してくれた一人でしたものね」

透華
 「そして私も、衣を殺した殺人者です」

透華
 「……」

透華
 「もう、これ以上は言いません。
  私を、殺してくださいまし」


透華はすくりと立ち上がり、
自ら絞首台へと向かう。

残されたものは皆、
無力感に苛まれながらただ押し黙る。

堪え切れずに漏れ始めたすすり泣きが
会議室を支配していた。


久「皆はここで待ってなさい。
  私が最期を見届けるわ」


それでも久だけは立ち上がり、
一人透華の後を追う。
もっとも久とて平気なわけではなかった。


久「私は…後何回これを
  繰り返さないといけないの……?」


誰に言うでもなくこぼれた呟きは、
か細くかすかに震えていた。



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『四日目』






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生存は…八名。

片岡優希。染谷まこ。竹井久。
原村和。宮永咲。須賀京太郎。
池田華菜。東横桃子。


死亡者は…二名。

龍門渕透華。加治木ゆみ。



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悲しみの朝が訪れる。

この日も死の痕跡は二つ。
一つは、処刑された透華の物。
そして、もう一つは…紫色の髪の毛だった。


桃子
 「あいつを殺してやるっす!!!」


会議が始まるのを待たずして、
桃子が狂ったように京太郎を糾弾する。


桃子
 「これは、これは人狼による制裁っす!
  この男は、自分が占い先に指定された怒りで
  先輩を虐殺したんっすよ!」

桃子
 「須賀は人狼だったっす!まぎれもなく人狼だったっす!
  今日の処刑はこいつ以外にありえないっす!!」


涙を溢れさせながら掴みかかる桃子に対し、
京太郎はひどく動揺した声をあげる。

京太郎
 「ちょ、ちょっと待ってくれよ!
  俺は人狼じゃない!
  なんかの間違いじゃないのか!?」

桃子
 「そりゃ人狼ならみんなそう言うっすよ!
  返してくださいっす!!私の先輩を!!
  返せ!!!」

昨日までの冷静さは一転して、
まるで狂ってしまったかのように掴みかかる桃子。

明確に殺意を持った指が
京太郎の首にかけられた刹那、
まこが慌てて桃子を羽交い絞めにした。


当然、皆の疑惑の目は一身に京太郎に注がれる。


そんな彼に救いの手を差し伸べたのは…
意外な人物だった。


華菜
 「…須賀は人間だったし」


そう。もう一人の占い師。
池田華菜その人だった。

久は大きくため息を吐くと、
腕を組んで考え込む。


久「…咲。貴女はどう思うかしら?」

咲「…正直、何とも言い難いですね…」

優希
 「…池田の奴、もう壊れてるじょ…
  あれで嘘をつくとは思えないじぇ…」

咲「うん…でもそうすると、東横さんは
  自分で加治木さんを殺しておきながら
  京ちゃんに食ってかかってる事になるし…
  それもちょっと考えにくいよ…」

まこ
 「あだだだっ…!大人しぅせんかっ!
  これが演技じゃとしたら…
  とんでもない役者じゃっ!」

桃子
 「離せっす!殺してやるっす!」


目を血走らせ、狂気のままに
襲い掛かる桃子を目のあたりにして。

京太郎はしばらく考え込んだようだった。
だがやがて決意を込めた
眼差しをもって宣言する。

京太郎
 「わかった。次の処刑は俺でいい」

優希
 「じょ!?何を言ってるんだじょ!?
  お前も自殺志願者か!?」

京太郎
 「いや…状況的に仕方ねぇだろ。
  ていうかちょうどいい。ここで
  俺を吊れば、占い師の真贋が付く」

優希
 「馬鹿犬!どうせ霊能者も偽物が出てくるじょ!
  そしたらお前は無駄死にになっちゃうじょ!」

咲「…優希ちゃん。多分、偽物は出ないよ」

優希
 「…え?」

久「…すでに人狼は占い師で一匹出てきてるわ。
  その上霊能者にも偽物を出したら、
  その時点で場に全員出てきちゃうじゃない」

久「そしたら後は占い師と霊能者を吊ってしまうだけ…
  負けが確定になるのに出てきたりはしないでしょ」

優希
 「じょ…でも…でも…!」

京太郎
 「な?俺の死は無駄にはならない」

優希
 「い、や、だ、じょ!!!」

和「優希……」

優希
 「なんで!なんでだじぇ!
  なんでそんな、簡単に割り切れるんだじょ!!
  死ぬんだぞ!?もう、二度と、会えないんだぞ!!」

優希
 「真贋を確定させるのに殺してみる!?
  京太郎は…京太郎は人間だじょ!
  リトマス紙じゃないんだじょ!?」

優希
 「おかしいじょ!皆おかしいじょ…!狂ってr」

京太郎
 「やめろ!!」

優希
 「じょっ…」


半狂乱になって喚き散らす優希を、
京太郎が制す。

でも次の瞬間苦笑しながら、
ぽんと優希の頭を撫でた。


京太郎
 「…ありがとよ、優希。でも…それ以上言うな。
  それ以上は、皆を傷つけるだけだ」

京太郎
 「俺の事を想ってくれるなら…
  俺の仇を討ってくれ」

京太郎
 「そして…皆で生き残ってくれよ」

優希
 「……っ」


京太郎は優希の肩に両手を置くと、
優希の目をじっと見つめた。

見つめられた優希も、
涙のたまった目で京太郎を見つめ返す。

京太郎の目に絶望の色はなく…
むしろ強い意志の光があった。

優希の目に光が灯る。
一思いに涙をぬぐい、
優希は京太郎の決意に応えた。


優希
 「わかったじょっ…!!
  絶対に仇、取ってやるじょ…!!
  私の、力でっ…」


京太郎
 「…ああ。頼んだぜ!」

京太郎
 「じゃ、ちょっくら行ってきますよ。
  あ、部長もついてこなくていいっすよ。
  ちゃんと一人でやれますんで」

久「…でも」

京太郎
 「…部長。最期なんで言っときます。
  一人で無理しないでください」

京太郎
 「池田さんや東横さんもアレだけど…
  俺には、部長もかなりヤバそうに見えます。
  ああ、人狼とかそういうのじゃなくて…心の方で」

久「私は、部長だから」

京太郎
 「…部長がもし人間だったら、
  これからも頑張ってもらわないといけない。
  正直ここから復興できる目があるとしたら、
  もう部長しか居ないと思ってます」

京太郎
 「…どうか。皆を引っ張ってください」


そう言って京太郎は、
一人絞首台に消えていった。


久「…終わりましょうか…」

咲「…そうですね」


全身の活力が抜けてしまったかのように、
力なく久が会議の終了を提案する。

相槌を打つように咲が答えると同時に、
呆れる様に桃子が反論した。

どうやら、敵討ち(かたきうち)が成った事で
理性を取り戻したようだった。


桃子
 「…何寝ぼけた事言ってるんすか。
  まだ占い先が決まってないっすよ」

まこ
 「…そうじゃったな」

桃子
 「…私は原村さんを指定させてもらうっす」

和「私…どうして、私なんですか?」

桃子
 「原村さん超デジタルっすよね?
  この手の理詰めのゲームは得意中の得意なはずっす」

桃子
 「なのにここまでの会話、ほとんど相槌ばっかりで
  自分の意見を出してないっす…
  らしくなさすぎっすよ」

和「そ、それは…」

久「…ま、いいんじゃない?
  占うんだとしたら、ステルスっぽい
  麻雀部三人のどっかでしょ」

咲「…部長、さすがに投げやり過ぎませんか?」

久「正直、もう須賀君が人狼で終わってほしいのよ…
  後残ってるの麻雀部だけじゃない。
  これ以上身内を疑いたくないの…」


久の声には明らかに疲れが見えた。
度重なる処刑を一手に引き受け。
そして、ついに麻雀部の犠牲を出した。
久の心も壊れかけている。

そもそも、今まで久に頼り過ぎていたのだ。
京太郎の言葉もあって、
皆は改めてその事実を痛感した。


咲「じゃぁこれで終わりましょう。
  占いは和ちゃんで。
  明日、占い師は占った結果を。
  後、霊能者の人も開口一番で名乗り出てください」


元々の進行役だった咲が
そう言って締めくくり、
会議は随分と早く終わりを告げた。



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『五日目』






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生存は…六名。

染谷まこ。竹井久。
原村和。宮永咲。
池田華菜。東横桃子。


死亡者は…二名。

須賀京太郎。片岡優希。



--------------------------------------------------------



次の日の朝。二人の遺体が発見された。
一人は処刑された京太郎の物。
そして、もう一人は…


和「…こうなるとは…思っていました……
  思ってましたけど……っ!」


真っ白だったはずの猫のぬいぐるみが、
赤黒く変色している。
それは、優希が肌身離さず身につけていたものだった。


…殺されたのは、優希。


久「優希…貴女、馬鹿よ…本当に馬鹿……!!」

久「『私の力で』って何よ…!
  なんでそんな事言っちゃうのよ…!
  狙ってくださいって言ってるようなもんじゃない…!!」


麻雀部の全員が声をあげて泣いていた。
その悲しみは深く、深く。
ようやく泣き止んだ後も、
誰一人として会議を始めようとはしなかった。

それまで麻雀部の一員は
誰一人として欠けていなかった。
だがここにきて一気に二人がこの世を去った。
その衝撃に耐えるには、彼女達の心は弱り過ぎていた。

建設的な発言が出るはずもなく、
長い沈黙が支配する。
その沈黙を打ち破ったのは…
これまた、意外にも…


華菜
 「…片岡は人間だったし」


池田華菜だった。


久「…池田…さん……」


久がふらふらと華菜に目を向ける。
久にとって、そもそも華菜の存在は異質だった。

序盤に大切な人を殺されて、
早々に生きる望みを失ったはずなのに。


それでも彼女は…
ゲームを降りてはいない。


久「池田さん…貴女は…どうして続けるの?」


相変わらず華菜の目に光はない。
それでも、抑揚のない声で話し始める。


華菜
 「…私はもう、キャプテンの仇を討つためだけに
  ここに居るんだし」

華菜
 「どうせもう少しで終わる。
  さっさと終わらせるし」


同時に、それまで押し黙っていた桃子も口を開く。


桃子
 「空気読んで黙ってたっすけど、
  ようやく始まるみたいっすね。
  でもそれ以上猫に喋らせるわけにはいかないっす」

桃子
 「原村さん、人間だったっす。
  というか、よく考えたら私視点ではもう
  人狼は見つかってたんすよね。
  占う間でもなかったっす」

桃子
 「後はこの猫を殺せば終わりっす。
  それで、この先輩の敵討ちが完了するっすよ」


両占い師は、お互いの仇を討つために
燃えているようだった。
そして、その熱に感化された者が一人いた。


和がすくりと立ち上がる。


和「……」

和「1つ念のため確認を。
  霊能者として名乗り出る人は居ませんか?」

久「…霊能者は優希でしょ…
  あの捨て台詞が痛すぎたわ」

和「そうですね」


機械のように澱みなく受け答えする和。
頬を上気させた彼女は、
躊躇う事なく今日の処刑者の名を挙げた。


和「わかりました。では東横さんを吊りましょう」

久「…考えを聞かせてもらってもいいかしら?」

和「東横さんの役目が終わったからです。
  彼女の言う通りなら、
  人狼は須賀君と池田さんで確定です」

まこ
 「なら素直に池田を吊ればええじゃろが」

和「それはあくまで東横さんを真として見た場合です。
  仮に東横さんが偽物だった場合…
  最悪人狼が丸々生き残っている可能性があります」

和「現在6人。その中に人狼が2匹いるとしたら…
  池田さんが真だった場合、人間が2人いなくなります。
  明日、4人で人狼と人間の数が揃います」


和「その場合ゲームオーバーです。
  明日はありません」


まこ
 「…っ!」

和「逆に、東横さんが真だった場合は、
  須賀君が人狼ですから1人は確実に吊れている。
  今日は、『安全策』で東横さん…
  そして次の日に池田さんの順番で
  吊るべきでしょう」


安全策で人を殺す。和はそう言い切った。
思わず久は目を見張る。


久「…デジタルね。すごく」

和「…私は、後悔しています。
  最初からこうしていなかった事を」

和「東横さんの言う通りです。私はこの手の
  理詰めのゲームは得意な方でしょう。
  でも、なかなか言い出せなかった」

和「人の命が懸かっている。私の発言で、
  誰かを死に至らしめるのが怖かったんです」


デジタルの天使の目に、
ほんの少しだけ人間らしい揺らぎが映った。


和「結果優希が死にました。
  私の大切な親友が。
  しかも私は気づいていた。
  優希が霊能者である可能性に」

和「せめてあの時、優希が
  霊能者である可能性を示唆していれば。
  優希は狩人に守られて、
  死なずに済んだかもしれません」

和「……」


そして和は目を伏せる。
しばしの沈黙の後…彼女は再び顔をあげる。

そこにはもう、
人らしさは存在しなかった。


和「もう私は迷いません。
  大切なものを守るためなら、
  私は手を汚す事を厭いません」

和「今日の処刑は東横さん。
  そして明日は池田さん。
  ここまでは確定です」

桃子
 「……」


和の無慈悲な決定に、
桃子は大きく息を吐き出した。

それでも決定を覆そうと、
声を荒げる事はしなかった。


桃子
 「…別にいいっすよ。そこの猫を
  ちゃんと殺してくれればそれでいいっす」

桃子
 「私の役目は終わったっす。
  どうせ生きてても仕方ないっすから、
  一足先に先輩に会いに行くっすよ」

華菜
 「…占い先はどうするんだ?」

桃子
 「何言ってるんっすか。
  本命っぽい占い師が
  念のためで殺されるんっすよ?
  アンタの占いなんか意味ないっす」

桃子
 「しかも、アンタ昨日の指示を
  無視したじゃないっすか。
  完全に占い師失格っすよ」

華菜
 「私からしたらお前は人狼だし。
  人狼の聞く耳は持たないし」


二人の言い争いを和は冷静に観察する。
確かに華菜はリーダーの命令を無視している。
信頼度−1。
だがあの場で占い先の決定をしたのは、
対抗占い師。
リーダーは意思決定を行う能力を喪失していた。
華菜の判断は占い師として間違っていない。
信頼度+1。

過去の桃子と、華菜の行動を
記憶のデータベースから検索する。
華菜の行動。
桃子の行動。
美穂子の死。
華菜の行動。
桃子の行動…


……


意思決定終了。
華菜の占いはまだ有効。


和「私を占ってください。
  私は東横さんに占われています。
  貴女からも人間判定をもらえば
  私は人間確定になります」

久「今から他の人を占っても
  片方に占われて真偽が不明になるものね…
  それはそれでありだと思うわ」

和「私は池田さんの占いはまだ有効と考えます。
  明日は両吊りとして処理しますが…
  思考停止せず情報を提供してください」

華菜
 「……」

華菜
 「お前こそ最初からそうしてろし」

桃子
 「…ま、明日猫を殺すなら
  私は文句ないっす。
  じゃ、私は逝ってくるっすよ」


特に気にする風でもなく、
桃子は普通に立ち上がり、
そのままの足で歩き出す。

もはや誰一人悲しむ者はいなかった。
皆、心が麻痺してしまっていた。
他人の死にも。そして、自分が死ぬ可能性にも。


そして今日も、
絞首台が不気味な音を立てる。



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『六日目』






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生存は…五名。

染谷まこ。竹井久。
原村和。宮永咲。
池田華菜。


死亡者は…一名。

東横桃子。



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その日、死体は一つだけだった。
昨日処刑した桃子の死体。

久は皆を点呼して、
久しぶりに頬をほころばせた。


久「…長生きするといい事もあるものねぇ。
  どうやら人狼は襲撃に失敗したみたいだわ」

和「そうですね。池田さん、
  占いの結果を教えてください」


依然として和は機械のままだ。
それでも、声に少しだけ抑揚が生まれた気がした。

人狼の襲撃を防いだ。

それは、悲しみばかりの毎日に
一筋差し込んだ確かな希望だった。


華菜
 「…原村、人間だったし。
  …結局私は、キャプテンの仇を
  見つけられなかったな」

和「これで私が人間なのは確定ですね」

久「さて、どうしたもんかしら。
  私視点では後は池田さんかまこが
  人狼なんだけど…
  まこが人狼だとは考えたくないわね」


少しだけ元気を取り戻した久が
思案顔で首を傾ける。

そんな彼女に応えたのは、
対抗として名を挙げられたまこだった。


まこ
 「そがぁな心配はせんでええ」


まこはまるで勝利を確信したかのように
朗らかな笑みを浮かべている。


まこ
 「このゲームはもう終わりじゃ。
  何しろ、わしは狩人じゃけぇの」

久・咲
 「えぇ!?」

和「…なぜそれを宣言したんですか?」

まこ
 「わし視点でも人狼は池田か久になる。
  人狼が池田なら終わりの話じゃ。
  じゃが、もし続くとしたら…
  久とわしの一騎打ちになるじゃろう」

久「そうね」

まこ
 「じゃけぇ狩人宣言じゃ。
  今日の護衛成功で、
  狩人が生きとる事は確定しとる。
  久、対抗したいならしてもええぞ?」


まこの意図に気づいたのだろう。
久は一瞬笑顔になって…
そして、悔しそうに歯を食いしばる。


久「するわけないじゃない…!
  私が狩人だったなら、
  あの日絶対に優希を守ってたわよ…!!」

まこ
 「…すまん。じゃが、これで確定じゃ」

和「…成程。もし部長が人狼なら、
  池田さんを吊っても終わらない。
  しかも染谷先輩が狩人として確定していたら
  部長が人狼である事も確定しますね」

久「つまり私が人狼なら、どんなに不利でも
  狩人として対抗する必要があるわ。
  でも、それをしなかったって事は…」

まこ
 「そういう事じゃ。池田が人狼。
  それで終わりじゃ」


まこがビシッと人差し指を
華菜に突きつける。

人狼として断定された華菜は…
それでも、動揺する事はなく。

これまでと同じように、
ガラスのように透き通った目で
宙を見つめるだけだった。


ただ。ただ一言。
彼女はぽつりとつぶやいた。


華菜
 「…どこで。どこで間違えたんだし?」


彼女の呟きが何を意味するのか。
真意を図ろうとする者は居なかった。


久「…さあね。ただ言える事は…
  皆が皆、間違えたと思うわ」

久「でも、これ以上は間違えない。
  ここで、終わりにさせてもらうわよ」


久は華菜の手を取って、
勢いよく会議室の扉を開けた。

今日ばかりは誰一人留まろうとはせず、
自らの意志で絞首台に歩き出す。

もはや華菜の首に縄をかける事に、
抵抗を感じる者は居なかった。

あれは池田華菜ではなく。
人の皮を被った魔物なのだから。


数分後、処刑を終えた一行は、
皆思い思いに帰路につく。


明日起きれば、この陰鬱とした霧も晴れているだろう。
明日からは復興の日々が始まる。

考える事はいろいろあった。
まずは放置されて腐臭がひどくなっている
死体を焼き払う事から始めようか。


それでも今日だけは。
今日だけは、久方ぶりの安らぎを……



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そして、『最終日』の朝が訪れる。







(真相編に続く)
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posted by ぷちどろっぷ at 2015年09月21日 | Comment(12) | TrackBack(0) | 咲-Saki-
この記事へのコメント
わかんねー謎解きは諦めました。読み返すと余計にわからなくなるし…
管理人さんの描く悲劇な物語を楽しむ事にします。真相編期待して待ってます

Posted by at 2015年09月21日 21:09
狂人の方は?
Posted by at 2015年09月21日 22:54
読んでる限りでは、ステルスとまこが黒に見えました。でも推理的な結末の正誤なんておまけなのです。この世界観と管理人さんの咲シリーズが超絶合ってて引き込まれました。
Posted by at 2015年09月22日 00:47
こわいい
Posted by at 2015年09月22日 01:17
面白かったです。
続きも楽しみです。
Posted by at 2015年09月22日 03:02
いつも見てます、面白すぎますこれ。早く最終日みたいてます、推理は諦めました笑
Posted by at 2015年09月22日 12:10
コメントありがとうございます!

読み返すと余計にわからなくなるし>
咲「真相編はもうできてるので
  そっちを読めばわかるかもです」
久「本編だけの情報だと
  わかりにくいかもしれないわ」

狂人の方は?>
久「本編では語られてないけど普通に居るわ。
  当てる事も可能だと思うわよ」
咲「実際に当てた人もいましたね」

推理的な結末の正誤なんておまけ>
桃子
 「それでいいと思うっす。
  正直管理人も書きたいのは
  真相編で、こっちがおまけって
  言ってたっす」

こわいい>
久「正直読む人を選ぶのは事実だから
  無理だと思ったら引き返してね?」

続きも楽しみです>
久「真相編近日公開予定よ」
咲「もう書き終えて推敲段階なので
  今日か明日には出せるかと」

推理は諦めました>
和「…最終日がどうして来ているのか。
  最終日に残っている人狼は
  誰なのかを考えると
  芋蔓式に答えが出ます」
咲「まあ、どうせもうすぐ真相編出るけどね」

Posted by ぷちどろっぷ(管理人) at 2015年09月22日 20:13
人狼の味方がいるのは当人たちは知らないのか…。和の推理の前提が…。
自分なりに考えながら楽しみにしています。
Posted by at 2015年09月22日 20:22
すっかり狂人のこと忘れてました……
占い:界
霊能:優希
狩人:まこ
狂人:池田
狼:咲、桃子
と予測したのですがどうでしょう?で今夜死ぬのはまこ
Posted by てるてる at 2015年09月22日 21:44
人狼…モモ・久
占い師…池田
霊能者…優希
狩人…まこ
狂人…咲さん
と予想します

久しぶりにドハマリのssでした!
真相編が楽しみです
Posted by at 2015年09月24日 02:55
占い師:池田
霊能力者:優希
狩人:まこ
狂人:モモ
人狼:久・衣?
の予想
ぷちさんの作る話で部長が黒幕じゃない方が珍しいし
Posted by at 2015年09月24日 03:24
コメントありがとうございます!
意外に推理してくださる人が多くて嬉しい!

ちなみに冒頭にある通り元々
推理目的では書いてないので、
人狼を遣った事がある人なら、
最終日の内訳を考えれば
比較的答えが出しやすいと思います。
ヒントは
「なぜ人狼は最終日を許容したのか?」
ですね。

解答は今日か明日にはアップします。
Posted by ぷちどろっぷ(管理人) at 2015年09月24日 14:55
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