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【咲-Saki-SS:怜竜】怜・竜華『「そして二人は混ざりあう」』【共依存】


<あらすじ>
怜「この話の後日談や」
怜「はい、竜華。怜ちゃんドリンクや」
竜華
 「多分読んどらんとわけわからんやろから
  先に読んだってな?」

照「リクエストの関係上、
  以下二つの話も関係がある」
咲「この二つは魂を千切るお話です」
照「…私達が…」菫「…病気?」
久「あれ?私は今誰だっけ」【ホラー】
久「こっちは読まなくても多分大丈夫だけど
  読んでおいた方がより楽しめると思うわ」


<登場人物>
園城寺怜,清水谷竜華,船久保浩子,竹井久,宮永咲,宮永照,弘世菫

<症状>
・ヤンデレ
・共依存
・異常行動

<その他>
以下のリクエストに対する作品です。
・前にあった怜「はい、竜華。怜ちゃんドリンクや」の続編。
 宮永家の魂をちぎるやり方を知った二人みたいな。

※頭おかしいです。ご注意を。

※軽い性的描写を含みます
 18歳未満の方の閲覧は禁止します


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――魂をちぎって他人に分け与える。

それはファンタジーとホラーを足して
2で割ったような話だった。


「こんな感じで…イメージで魂を千切って
 相手にねじ込むんです」


実際に久に魂を分け与えた経験者…
咲ちゃんが、手で何かの生地を
ぶちりっと引き千切る様なしぐさを見せる。

次に、実際魂をねじ込まれた久が
説明を引き継いだ。


「ねじ込まれた側は、
 自分と相手の境界が曖昧になって、
 記憶や感情まで流れ込んでくる。
 ほとんどの人はここで
 発狂して死に至るらしいわ」

「宮永家の秘術らしいけど…
 今まで成功した人は指で数えるくらいしか
 いないみたいね?」

「でも、それを乗り越えて魂が定着すれば…
 魂をくれた人といつでもそばにいられるし、
 ある程度の距離なら
 テレパシーまで使えるようになるの」


つまりは怜ちゃんドリンクの
時間無制限版と考えればいいのだろう。
…難易度は随分と跳ね上がってはいるけれど。


「魂を千切る側にデメリットはないん?」

「あります。まず全ての能力が半分以下に落ちます。
 千切ってしばらくは
 突然の体力の喪失についていけず、
 歩く事もできなくなるくらいです」

「実際咲なんかしばらく
 車いす生活だったもんね」

「後はもう一つの魂と交信できない程
 距離が離れてしまうと危険です。
 残された側の喪失感がすごくて
 廃人みたいになります」


事もなげに語る二人。
でもそれを聞いた私は
つい眉間にしわを寄せてしまう。

私の中に居る怜も同感だったのだろう。
私にだけ聞こえる声で、
怜がぽつりとつぶやいた。


『デメリットごっついな…』


自らの魂を引き千切る。
そんな暴挙に何の代償もないはずがない。

わかってはいたけれど。それでも、
咲ちゃんの口から語られた条件は、
安易に受け入れられるものではなかった。


「ま、代替方法があるのにあえて
 手を出す必要があるかと言われると…
 正直微妙なところよね」


久が苦笑しながら肩をすくめる。
その様子は、それとなく『やめておけ』と
言っているようだった。


「…ま、二人でよく考えてみる事にするわ。
 教えてくれてありがとな?」

「いえいえ。お礼は今度、
 怜ちゃんドリンクの作り方を
 教えてくれればいいわ」

「そうですね。久さんドリンク、
 私も飲んでみたいです」

「了解や。…作り方知っても引かんといてな?」

「あはは、そんなのお互いさまでしょ」

「確かに」


私は二人にお礼を告げると、
そのまま家を後にした。
帰路の途中、私は脳内の怜に語りかける。


「…ときはどう思う?」

『んー…千切った時の反動って
 どのくらいなんかなぁ。
 体鍛えてどうにかなるもんなんかな?』


代償の深刻さは認識しているはず。
それでも怜は乗り気のようで、
すでに千切った時の事を
考えているようだった。


「…とりあえず参謀にご意見を仰ごか」


私はため息をつきながら、
久しぶりに対策会議を開くべく
浩子の電話番号をコールした。



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「…ちゅぅわけで、どうしたらええか
 有識者を交えて検討するでー」


数日後。自宅に浩子を呼び出した私達は
早速検討を開始する事にした。

浩子は胸の内に抱いた感情を隠そうともせず、
ぶっきらぼうに吐き捨てる。


「……なんでうち呼ばれたんですかね」

「そりゃ、この手の会議に
 フナQ呼ばんとかありえへんやろ」

「はぁ…こちとらようやく精神病院通いが
 終了したばっかやったんですけど」

「え、浩子どっか悪かったん?」

「…もうええですわ。この狂人ども」


私の問い掛けに、浩子はさも
うんざりしたとばかりにため息をついた。


「で?今度は魂千切るんですっけ?」

「せや!効果は無期限怜ちゃんドリンク状態。
 ただし千切った側は全能力半分になる上、
 離れ過ぎると廃人化するらしいけどな!」

「アホちゃいますか?そんなん
 検討するまでもなく却下ですやん」


意気込んで語る怜とは裏腹に、
浩子の反応はどこまでも冷たい。


「…ちゅぅか園城寺先輩はなんで
 そんなに乗り気なんですか」

「そりゃ乗り気にもなるやろ。
 1分1秒離れる事なく、
 りゅーかと一緒に居られるんやで?」

「今だってべったりくっついてますやん。
 気持ち悪いくらいに」

「あかん。寝てる時がカバーできとらん」

「何言いよんねんこいつ」

「朝起きるとな?ドリンクの効果が切れとる。
 りゅーかとのリンクが切れとる。
 毎朝地獄の苦しみや」

「あー…確かにあれは怖いな。
 せめて体は離れんようにって、
 手を繋いでぐるぐる縛っとるけど…
 焼け石に水って感じやし」

「あれが無くなるなら命懸ける価値あるで」

「…で、いちかばちかに賭けて
 あっさり死亡ですか。
 それもう自殺と大差ないですやん」

「死なんかもしれんやろ」

「いや間違いなく死にますて。
 アンタ自分の病弱設定忘れとるんちゃうか?」

「私は病弱アピールやめたんや」

「アホ。止めたからなんやねん」


口論とも漫才ともつかないような
やり取りを繰り返す怜と浩子。

そのやり取りにどこか引っかかりを覚えて、
私は思い付きを口にした。


「…それなんやけど、別に
 ときが千切る必要ないんちゃう?」

「へ?」

「ほら、うちなら健康体やし、
 千切っても多分大丈夫やろ?」

「そしたらときも無理して
 怜ちゃんドリンク作らんでもよくなるし。
 結果的にはそっちの方が、
 二人とも長生きできるんちゃうかな」


我ながら名案だと思ったのだけれど。
私の提案を聞いた浩子の反応は、
またも呆れ果てたと言わんばかりだった。


「…まったくこのダニ先輩は」

「ひどない!?」

「自分の立場わかっとります?
 世界大会の日本代表選手さん」

「せ、せやけど浩子も言ってたやん。
 ときに千切らすんは自殺行為やって」

「うちは徹頭徹尾どっちも千切るなって
 言ぅてるつもりなんですけど?」


ぎろりと鋭い視線に射抜かれて、
私はつい後ずさる。

でも、そんな私にとっても。
怜と、寝てる時間も含めて
ずっと一緒に居られるというのは、
あまりにも魅力的な話過ぎて。

はいそうですかと簡単に
諦める気にはなれなかった。


散々三人で話し合う。

そしてようやく結論が出た頃には、
話し始めてから数時間が経っていた。



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『清水谷竜華プロ、まさかの長期休養宣言!

 世界大会で大活躍した期待の新人の身に何が?』





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ようやく時がやってきた。

自分の置かれた立場に対して
最低限の責任を果たした私は、
怜と二人、ベッドで向かい合っていた。


「さて…いっちょ千切ってみよか。
 とき、狂ったりせんといてな?」

「アホか。私らとっくに狂っとるやん」

「…そやったな」

「ええからはよ。私この日が来るの
 指折りで待ち望んどったんやで?」


まるで玩具をせがむ子供のように、
ぐいぐいと私の腕を引っ張る怜。

その様子はとてもこれから命を懸けた試練に
チャレンジするようには見えず、
私はつい苦笑した。


「はいはい。じゃ、いくで?」


咲ちゃんに教えてもらった通り、
まずはゆっくり目を閉じる。
頭の中で宙に漂う魂をイメージして、
それを両手でしっかりと掴む。

両側から引っ張る。
イメージの魂が捻じれて引き伸ばされていく。
刹那、全身に激痛が走り、
体中に警鐘が鳴り響く。


「ぅっ…!…ぎっ…ぐぅうっっ……!!」


本能で悟る。これは確かに自殺行為だ。

味わった事のない痛みを前に、
反射的に手を離してしまいそうになる。
それでも意志の力で抵抗を押し潰すと、
私は無理矢理引っ張り続けた。


そして…


『ぶちりっ』


「――っ、あ゛ぁああ゛あ゛っ!!!!?」


ついに、それが千切れた。

文字通り体が真っ二つに引き裂かれたような、
絶望的な衝撃に殴られる。

不意に意識が遠のいた。
脳が強すぎる痛みから
精神を守ろうとしたのだろう。

ここで気を失えたらどんなに楽か。
それでも、私は歯を食いしばる。


「ぐっ…ぁ゛っ…ぎぃっ…ぅっ……!」


瞬く間に目に涙が溢れ、朦朧としながらも。
何とか私は耐えきる事ができた。


「はっ……はぁっ……はっ」

「…っ、お、おま、たせや……」


千切れた半身をその手に握りながら、
心配そうに様子を伺う怜に微笑みかける。


「……め、めっちゃ痛そうやん……
 初めての時とどっちが痛い?」


場にそぐわない軽口を叩く怜。
でもそれは怜なりの気遣いなのだろう。
本当は気が気でないのか、
怜の目にも涙が滲んでいた。

私は少しでも怜を安心させようと、
懸命に笑顔を作りながら軽口を返す。


「…はは…こっちの方が…3倍はっ…痛いなぁ…っ……」


怜に言われて思い起こしてみる。
そう言えばあの時も痛かった。

でも、あまり苦には思えなかった。
痛みよりもはるかに
幸せが勝って(まさって)いたから。


「そっか……」

「これも…ときのための痛みや思うと…
 ちょっと…気持ちええかも……」


怜に自分を捧げられる。
そう考えれば、この体が千切れて
バラバラになる痛みさえも、
たまらなく愛おしく思えてくる。

苦悶の表情から一転、
うっとりと恍惚に浸り始めた私を見て。
怜が少し羨ましそうに私を見つめる。


「そう言われるとちょっと羨ましくなるな…
 確かに自分の半身捧げるとか悪くないわ」

「怜はもう十分うちに捧げてくれたやん」

「…そうかもな」

「…じゃあ、りゅーかぁ…来たってや…?」


怜が私の目の前で両腕を広げて誘い込む。
そのうるんだ瞳は、まるで本当に
誘っているように妖艶で。

不意に内側で膨れ上がりそうになる欲望を
必死に押し留めながら、私は鷹揚に頷いて見せた。


「うん…いくで?」


右手に握った『何か』を、
怜の体にそっと押し当てる。

それは「とぷんっ」とお湯につかるように、
何の抵抗もなく怜の体に沈んでいった。


「……っ!」


刹那、怜の体が大きく震える。
その瞳からは意志の光が消え、
どんどん濁りを帯びていく。


「……」


そのまま怜は、何一つ言葉を口にする事なく。
どさり、と私の方に倒れ込んで全体重を委ねてきた。
よくよく観察してみれば、
その体は小刻みに痙攣している。

一目で異常だとわかるその様に、
私は慄き戸惑いながら声をかけた。


「ど、どうなん?怜」


もっとも私の心配に反して、
怜の口から漏れ出たのは歓喜の言葉だった。


「さ…さいこうやぁ…りゅーかが、
 りゅーかが混ざってくるぅっ…!」

「感覚は…怜ちゃんドリンクに近いけど…
 なんちゅうか…溶けて混ざるみたいな……!」

「あぁ、うち今どっちなんやろ…とき?りゅーか?
 りゅーか?とき?」

「あぁ…ずっとこのままでいたいくらいや……!」


自分と他人が混ざりあう。
大半の人が発狂するという恐怖を前に、
うっとりと目を閉じて浸る怜。


狂ってる。


そう思わずにはいられなかった。
もっとも、そんな狂気に犯された怜を見て…
『羨ましい』だなんて思っているあたり、
私も相当手遅れなんだろうけど。


ともあれ、発狂の心配はなさそうだった。
怜は全く抗う事なく、
進んで私の半身を受け入れた。


…成功だ。


『すごいなこれ。ときの中に住んでるみたいや』

「ホントにな…正直、怜ちゃんドリンクと
 同じなんかと思ってたけど…」

「全然ちゃう。ただ一緒におるだけやない。
 感情までも共有しとる感じや」


怜の言う通りだった。怜の中に『私』が息づき、
怜の感情が、私の方にも流れ込んでくる。

喜び、幸せ、感動…あらゆる感情が
一気に溢れ出して、幸せで気が狂いそうになる。


「ちょ、りゅーか…勝手に飛ばんといてや?」

「あっ、ごめ…あんまり嬉し過ぎて
 意識飛びそうになっとったわ」

「何はともあれ…これからもよろしくな?
 一生」

「うん。大好きやで、りゅーか」


どちらからともなく口づける。
やわらかな唇の感触が、
二つの魂を通して二重に伝わってくる。

ただ口づけただけ。それだけなのに、
味わった事のない快感が
ぞわぞわと全身に広がってきて、
軽く達しそうになってしまった。


「『…あかんっ…我慢できひんっ…!』」


一気に火が付いた私達は、
そのままベッドの海に倒れ込んだ。



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こうして魂を半分もらった私は、
以前よりも深く竜華と繋がれるようになった。

どんな時でも必ず竜華が傍に居る。
喜びも悲しみも、比喩ではなく本当の意味で、
二人で分け合う事ができる。


「これでもう安心やな」


怜ちゃんドリンクの作成を始めてから、
随分長い事試行錯誤を繰り返してきたけれど。
ようやく満足いくところまで
行きつくことができた気がする。


もっとも、そう考えていたのは…
実は私だけだったのだけれど。



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「寂しい」


竜華の口を突いて出た言葉は、
予想外のものだった。


「寂しい言ぅても、
 私らいつも一緒におるやん」

「それはときん中におる『うち』やろ。
 うちだけなんかのけもんにされとる気分や」

「いやいやどっちもりゅーかやろ」

「ちゃうもん。例えばや、
 ときん中におる『うち』と
 リンクできんくらい遠く離れたとするやろ?」

「そしたらうちは一人ぼっちや。
 ときが『うち』と二人で楽しんどる間、
 うちは一人リンクが繋がるのを
 震えながら待ち続けるんや」

「怖い。怖くて仕方ない」

「ズルいやん。おんなじ竜華なのに、
 なんでうちだけ一人ぼっちなん」


端的に言ってしまえば、
自分に対してヤキモチを
妬いているという事だった。

そんな竜華が可愛くて、
思わず顔がにやけそうになるけれど。
実際厄介な問題でもあった。

竜華が元気で健気だから
この程度ですんでいるだけの事で。
本来ならばそれは、
廃人になってしまう程の孤独。

そんな苦しみをこっちの竜華一人だけに
負わせ続けるというのも酷な話だろう。


「…対策会議やな」


困った時のご意見番を呼ぼう。

私は対策会議を開くべく
フナQの電話番号をコールした。



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電話を受けたフナQは、例によって
ひどく面倒そうな表情を浮かべて姿を現した。


「で、今度はなんですか」

「予想外の問題が発生や」

「ほぉ」

「いやな?離れすぎると残された魂の方が
 廃人みたいになる言ぅてたやん?」

「全然ならへん。むしろめっちゃ
 ヤキモチ妬いてくる」

「だってズルいやん!うちかて竜華なのに
 そっちの『うち』だけ
 いっつもときと一緒におるとか」

「うちもずっとときと一緒に居たい!」

『うちも代わってあげられるんなら
 代わってあげたいけどなぁ』

『ちゅぅかそっちの「うち」かて
 ときにシテもらえるんやし
 悪い事ばっかやないんちゃう?』

「ま、まぁそれはそうやけど」


目の前で自分とのセルフ漫才を始めた竜華に、
フナQが辛辣なツッコミを入れる。


「ガチで自分にヤキモチとか…
 何しとるんですかダニ先輩」

『「ひどない!?」』

「ま、私は両方のりゅーかが
 楽しめて天国なんやけどな?」

「でも咲ちゃんも言うてたけど、
 本当なら廃人になるくらいの苦しさのはずや」

「そんな苦しみを、こっちのりゅーかに
 一人だけ味わわせ続けるのはちょっとな」

「ちゅぅわけで、何かええ案はない?」


そんな私の言葉を受けて。
フナQはぶっきらぼうに、
でも適切な解決法を私達に授けてくれた。


「はぁ…ならもう、いっそ園城寺先輩も
 千切ったらどうですか?」

「清水谷先輩の魂もろて
 だいぶ健康になったみたいですし…
 今なら千切っても大丈夫かも知れん」

「やったらこの際、完全に足して2で
 割ってしまえばええんちゃいます?」

「それ!それや!さっすがフナQ!」


まさに求めていた解決法だった。
さっそく事に移ろうと意気込む私に、
フナQは待ったをかける。


「あ、ちょっと待ってください。
 念のため確認取りますんで」


片手で私を制止しながら、
フナQが電話をかけ始める。
電話の相手は私達もよく見知った相手…
久だった。


『はろー。何か用?』

「あ、どうもです。ちょいと
 聞きたい事があるんですけど」

「魂って…二人とも千切って、
 分け合ったらどうなるんです?」

『あー、やっぱそれ気になっちゃうかー。
 私達もやろうと思ったのよね』

「…さすが狂人集団。考える事は同じかいな」

『あはは。ごめんね頭おかしくて』


スマートフォンを耳に当てたまま
フナQが眉を逆への字に曲げる。
それでも気を取り直したように、
フナQは会話を再開した。


「…でもその口ぶりやと、
 やらんかったっちゅぅ事ですよね?」

『うん。照に止められてね』

「それはどうしてです?」


『危なすぎるからだって』


……


久の口から又聞きで教えられた照の警告。
それを聞いたフナQは青ざめ、
一言「あかん」とつぶやいた。

でもその警告を聞いた私は、
むしろひどく心が躍った。
そして、それは私の中の竜華も同じだった。


「……そこの目ぇ輝かせとる狂人二人。
 言っときますけど今のは警告であって、
 メリット語られたんちゃいますからね?」

「え、なんでや。どう聞いても
 いい事づくめやったやん」

「……あれを聞いてなおその反応かいな」


フナQはそう呟いた後。
今度こそ見限ったとばかりに、
大きく大きくかぶりを振った。


「…わかりました。
 もううちは止めません」

「その代わり…どうなっても
 うちは知りませんからね?」



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そして、私達は表舞台から姿を消した。






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「…清水谷の奴、結局新シーズンになっても
 戻ってこなかったな」

「聞いた話だと、どうも魂を
 分けあっちゃったみたいなのよね」

「…なるほど」

「…負担に耐え切れず…という事か?」

「そうじゃない。菫は、私の魂が
 入ってきた時の事覚えてる?」

「……ああ。お前には悪いが…
 正直気が狂いそうだった」

「うん。それが普通。
 それでも菫が耐えられたのは…
 菫の魂が1に対して、
 私の魂が半分だったから」

「私の魂をねじ込んでも、
 それでも菫の方が多かった。
 だから、菫は主人格として残る事ができた」

「…もし、あの二人が魂を分けあう事で
 分量が1対1になったとしたら…?」

「……!」


「……どちらも主人格にならず、
 ぐちゃぐちゃに混ざりあうと思う」


「そうなったら最後」



「もう、まともな生活は送れない」



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真っ黒のカーテンで覆われた部屋の中
照明もつけず
暗闇に閉ざされた部屋の中で
私達は囁きあう


『「りゅーかぁ…」』

「『とき……』」


誰の囁きが
どちらの口から放たれたのか
私達にはわからない

私が言ったのかもしれないし
『うち』が言ったのかもしれない

もっとも
どちらでも同じ事だけど



――私達を待ち受けていた結末

それは完全に混ざりあって
お互いの境界がわからなくなる
というものだった


初めて魂を受け入れた時に覚えたような感覚
あれを数倍狂わせたようなもの
自分が怜で
竜華でもあって
もう自分が誰なのかわからない

気が付けば竜華
でも次の瞬間には怜
ううん
最初から怜でもあるし
竜華でもある気がする


ああ
もうわけがわからない
幸せ


『「すごいなぁ…これぇ……」』

「『うん…最高やぁ……』」


こうして部屋の光を遮ってしまうと
本当に全ての境界がなくなって
二人が融けて一つになってしまったようで

溺れて沈んで溶けるような感覚に
私達はすっかり魅入られてしまった


「『りゅーかぁ…』」

『「とき……」』


圧倒的な多幸感に全てが支配される
何もかもがどうでもよくなって
ただひたすらその悦びに浸ってしまう



…最初は確かに
私の能力を私に移すのが
目的のはずだった

私が死ぬ前に
私に能力を移すため

お互いが繋がるのはあくまで
手段に過ぎないはずだった

でもいつの間にか手段が目的になって
深く繋がるためなら
死をも厭わないなんて考え始めて


そして私達はついに、
最終形に辿り着いてしまった


ちなみにきっかけだったはずの麻雀は
やめてしまった

混ざりあったこの時が幸せすぎて
他の事なんてどうでもいい


そう
私達の命ですら


怜の肌をそっと撫でる
蕩けるような猫撫で声が
外から内から
脳内に響くように伝わってくる


『「『「りゅーかぁ…もっとして…?」』」』


甘ったるい声で囁いたのは果たしてどちらか
わからないまま
私はまた腰を振り始める

私の体が跳ねるようにびくりと震える
やがて私も負けじと腰を押し付けてきて
お互いの腰がぶつかりあって


私と私と私と私が同時に昇り詰める



『「『「――っっっ!!!」』」』



常人では到底味わえないような
脳を焼き切るような快感が
私達を突き抜ける

常人が味わったら
二度と正気を取り戻せないだろう快感に
私達は浸り続ける



『「『「りゅーかぁ……ときぃ……」』」』



絶頂の余韻にぶるぶると大きく体を震わせながら
どろりと混濁した瞳を向けて
私が私の名前を囁く

私は汗でびしょ濡れになった私の肌を抱き寄せると
私の唇を咥えて貪る

舌と舌が絡み合い
私と私の唾液が混ざりあう
ただそれだけで
甘い疼きが体内にじわじわと広がって
収まりかけた体が熱く火照り出す


『「『「もっかい……しよか……?」』」』

『「『「うん……」』」』


もう一回、もう一回、もう一回、もう一回


そう言ってもう何回繰り返しただろう
100を超えた時点で数えるのはやめたけど

このまま繰り返し続けたら
どんな結末が待っているのか
もちろんそれもわかっている

でも愛しい人と混ざりあって
どろどろに溶けたまま逝けるとしたら


『「『「そんな…幸せな事はないよなぁ……」』」』


少し想像しただけで
幸せが溢れてきてたまらなくなる

いずれ来るその結末を待ちわびながら
私達は狂ったように肌をすり合わせ始めた



ああ しあわせ



(完)
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posted by ぷちどろっぷ at 2015年10月12日 | Comment(8) | TrackBack(0) | 咲-Saki-
この記事へのコメント
楽しみに待ってました!
この二人は他の二組の上をいく狂人ですね。そこがまたいい。面白かったです。
二人にとっては最高のエンドなんでしょうね。
リクエスト聞いてくださってありがとうございました。
ここの小説を読むのがわたしの楽しみです。だからこれからも頑張ってください。
Posted by at 2015年10月12日 23:05
本人達は幸せだろうけど久しぶりに頭おかしいと思えた…
周囲から見ると悲劇(惨劇…?)なのがこのブログのSSなのが改めて…
Posted by at 2015年10月12日 23:09
宮永姉妹の二組とは違って、どちらも受身じゃなく能動的にに重すぎる依存症やったから、これは遅かれ早かれ辿り着く結末やったかんかなぁ。
いつも楽しみに読ませてもらうヤンデレのお話で今までにない結末というわけでもなかったのに、今回は不思議と無性に悲しくなって泣いてしもた。
Posted by at 2015年10月13日 03:03
コメントありがとうございます!

他の二組の上をいく狂人>
竜華
 「正直やり過ぎかとも思ったけどな」
怜「まぁでも原作でもぶっちりぎりやし
  こんなもんやろ」

周囲から見ると悲劇>
浩子
 「はたから見たら自我を保てなくなって
  崩壊したようにしか見えませんわ」
怜「頭おかしいのは…
  まぁ題材がもうアレやしな?」

今回は不思議と無性に悲しく>
怜「他と違って、このままやと私ら死ぬしな」
浩子
 「実は結末も決まっとりますけど
  どうなったかは明かさんでおきます」
Posted by ぷちどろっぷ(管理人) at 2015年10月13日 11:10
これが人類補完計画か…他人からは悲劇にしか見えないのだろうけど当人は幸せなんだろーなー
Posted by at 2015年10月13日 16:56
う〜ん壮絶……最後の狂ってるんだけど
2人にとってはこれが至上の快楽、幸せ
なんだろうなって感じが堪らないです。
これは堕ちているということなのか、
昇りつめているということなのか……。

そしてフナQは苦労人ですね、なまじ
頭が良かったばっかりに狂った愛に
相談役として付き合わされちゃって……。
何だか「お疲れ様」って言いながら
肩をトントンしてあげたい気分です。
Posted by at 2015年10月17日 14:26
当人は幸せ>
照「正直この二人はちょっと別格」
菫「それなりに狂ってる自覚がある私達でも
  ちょっと引くな」
怜「まぁでもヤンデレってそんなもんやで」

これは堕ちているのか>
怜「健常者視点では堕ちてるんちゃうかな」
竜華
 「うちら視点では昇華やんな。
  より高いステージに昇った感あるで」
フナ
 「実際この手の病人が傍に居たら
  逃げた方がええな。
  不用意に近づくとこっちまで狂うで?」
Posted by ぷちどろっぷ(管理人) at 2015年10月25日 19:51
この話は何度も読み返してしまう
本当に素敵です
Posted by at 2020年01月24日 00:13
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