現在リクエスト消化中です。リクエスト状況はこちら。
欲しいものリスト公開中です。
(amazonで気軽に支援できます。ブログ継続の原動力となりますのでよろしければ。
『リスト作成の経緯はこちら』)
PixivFANBOX始めました。ブログ継続の原動力となりますのでよろしければ。
『FANBOX導入の経緯はこちら』)

【咲-Saki-SS:久咲】咲「嫌いだけど、好き」【シリアス】

<あらすじ>
なし。<その他>のリクエストを参照の事。


<登場人物>
宮永咲,竹井久

<症状>
・特になし

<その他>
以下のリクエストに対する作品です。
・お互いが「嫌いだけど好き」みたいな感じな久咲で
 出来ればシリアス&Happy End

※病み成分がなくなりました。
 ごめんなさい。



--------------------------------------------------------



「ねえ、咲。今から聞くものについて、
 好きか嫌いかの二択で答えて?」

「は、はぁ」

「読書」

「あ、好きです」

「迷路」

「…嫌いです」

「麻雀」

「…今は好きです」

「麻雀部員」

「好きですよ?」


「…じゃあ、私の事は?」


「……っ」

「ふふ、やっぱりね」



--------------------------------------------------------






だって私もそうだもの


貴女の事が






--------------------------------------------------------






嫌い。






--------------------------------------------------------















--------------------------------------------------------



部長の事が苦手でした。

それは、心の距離をものともせずに、
気安く話しかけてくるところだったり。

まるで心を覗き見されているかのように、
考えている事を見透かしてくるところであったり。

それでいて、部長自身はいまいち
何を考えているのか読めないところであったり。

どこか得体が知れなくて、怖い。
好きか嫌いかの二択で問われれば、
『嫌い』に属してしまう人でした。

もちろんそれは、私の好みの問題で、
決して悪い人ではないと思います。
それでも、あまり自分から
近寄りたいとは思わなくって。

だから、率直に問い掛けられた時。
一瞬、返答に詰まってしまったんです。


「ふふ、やっぱりね」


沈黙の意味。それを正確に読み取ったはずなのに、
部長はにっこりと微笑みます。

どうしてそこで笑うのでしょうか。
『好きです』と即答すべきところで
沈黙されたのだから、
怒るのが普通だと思いますけど。


「さ、そろそろ皆も来る頃だし、
 部活の準備でもしましょっか」


部長は会話を打ち切りました。
私は部長に対する申し訳ない気持ちと、
何とも言えないもやもやを抱えたまま
取り残される事になりました。


ああ、これだから、
部長の事が苦手なんです。



--------------------------------------------------------



自分から部活に引き込んでおいて酷い話とは思うけど。
正直、咲の事はそこまで好きではなかった。

自分で言うのもなんだけど、私は結構人にもてる。
それは恋愛に限った話じゃなくて、
人に好かれるという意味で。

そんな、普段何もしなくても人に囲まれている私は、
これまで咲みたいなタイプの人間と
絡む事はほとんどなかった。


一応交流は試みた。
好きな作家は誰?どんなジャンルが好き?
他には何か趣味があるの?
エトセトラ、エトセトラ。

咲はいつも生返事。
どこか一歩引いたように愛想笑いを浮かべながら、
当たり障りのない回答を繰り返す。

自己主張するわけでもなく、
かといって踏み込んでも拒まれる。
端的に言ってしまえば、
ほっといてくれとでも言いたげな態度。

そんな態度を取られては、
私としても敢えて交流を
続けたいとも思えなくて。

だから、ある時ずばっと聞いてみた。


「私の事は…好き?」

「……っ」


予想通り、咲は即答しなかった。

嫌い…とまでは言わなかったけど、
好きとも即答しなかった。


つまりは嫌いって事だ。
ま、苦手って言った方が近いかもだけれど。


「ふふ、やっぱりね」


笑顔で会話を打ち切った。それが私の三下り半。
今後私は、咲に深く関わる事は止める事にした。



--------------------------------------------------------















--------------------------------------------------------



好き嫌いを問われたあの日以来。
部長は、私にあまり関わってこなくなりました。
それは私にとってありがたい事だったけど、
どこか居心地が悪いものでした。

まるで、もう二度と分かり合う事ができないような。
大きな、大きな確執が生まれた気がするんです。

だからと言って、完全放置されているわけでもなく。
例えば、強くなるための特訓なんかでは
私の分のメニューもしっかり練り上げられていました。


だからこそ、私はぞっとするんです。


「宮永さんは普通じゃ見えないものが見えてそう。
 ネット麻雀でいろんな人と打ってみたら?」


部長が考案した特訓メニューは、
私に対してひどく有効なものでした。

同じ麻雀とは思えない程に、
まるで何も見えなくなって。
私はつい泣きなくなるくらい負け続けました。

得意だったはずの麻雀で、こんな弱点があるなんて。
自分ですら知らなかったのに、
どうして部長は見つけられたのでしょうか。

わからない。あの人は、本当に底が見えない。


(…やっぱり、怖いよ)


相手の手が見えない恐怖。ネット麻雀とおんなじです。
私はその日何度目かのラスを引きながら、
何故か部長に挑んでいるような気になりました。



--------------------------------------------------------



咲との確執が深まっていくのとは裏腹に、
他の1年生とはあっさり仲良くなる事ができた。


優希は言わずもがなだった。
表裏のない子犬のような性格。
頼れる先輩である事を見せつけただけで
簡単に懐いてくれた。

和もあれで簡単だった。確かに、
麻雀の打ち方で衝突する事は多々あるけれど。
それでも和は自分の思いを
ストレートにぶつけてきてくれる。
意見は違えど、そういう熱い子は嫌いじゃない。


やっぱり咲だけが異質だった。


時々寝ながら考える。どうして私は、
あの子と仲良くなれないのか。

私側の答えはもうとっくに出ている。
自己主張が乏しい癖に、
こちらから踏み込むことも許してくれないから。

ならあの子はいったい、私のどんなところが嫌で、
私の事を拒絶するんだろう。


部活が終わった帰り際。
少し皆から離れながら、私は咲を覗き見る。
1年生トリオに両脇を囲まれた咲は、
普通に笑顔を見せていた。

でも私が見ている事に気づくと、その表情が陰り、
まるで隠れる様に顔を背ける。

その態度がまた、私に何とも言えない
もやもやをもたらした。



--------------------------------------------------------















--------------------------------------------------------



――自分の知らない事にすら気づかれている。

その事実を知ってから、私は部長を
注意深く観察する事にしました。

私だけ何もわからないまま、
内面を見透かされていくのは嫌だったんです。

改めて意識してみると、
何度か部長と目が合う事がありました。


(やっぱり見られてたんだ)


慌てて目を逸らします。それでいて、
部長に気づかれないように
その表情を覗き見ました。

でもやっぱり部長は無表情で。
そこからは、何の情報も与えてくれません。


(…部長。貴女は一体、何がしたいんですか)


わからない。それが気持ち悪くて、
また部長を観察します。そうやって、
部長と目が合う機会が増えていきました。

自分でも何をやってるんだろうって思います。
嫌いなら嫌いで、素直にほおっておけばいいのに。
関わり合いにならなければいいのに。


でも、気になって仕方なかったんです。



--------------------------------------------------------



咲にちらちらと視線を送られるようになった。

誰かの視線を感じてふと周りを見回すと、
いつも咲に見られている。

かといって私と目が合うと、
慌ててふいっと顔を背ける。


(いやいや。何がしたいのよ)


貴女は私の事が嫌いなんでしょう?
なのになんで私を気にするの?

わからない。でも無性に気になって。
私も、咲の事を前よりも観察するようになった。



--------------------------------------------------------















--------------------------------------------------------



互いに観察しあう日々。
視線を絡ませては離す日々。


お互い嫌いなはずなのに。
なぜか、私達は他の誰よりも
相手の事を知ろうとしていて。


そして、そんな私だから、
気づいてしまったんです。


あの日、部長がおかしかった事を。



--------------------------------------------------------















--------------------------------------------------------



全国大会の二回戦。部長はおかしくなりました。
そして、私はそれを見抜いていました。


もちろん私は心配しました。
でも、それ以外の感情を胸に抱いたのも事実。
そう。ちょっとだけ嬉しかったんです。


いつもは見えない部長の本音が、
ほんの少し見えた気がして。


「…あの時、部長ちょっと変でしたよね」


私はそれを部長に伝えました。
今思えば、意趣返しだったのかもしれません。

隠していた気持ちを暴かれた部長が、
一体どんな反応を示すのか。
見てみたくなったんです。
もっと部長の中を覗きこんでみたかったんです。


でも、部長の反応は私が思っていたものと違いました。


「そっかぁ。咲は気づいてたのね」


てっきりばつが悪い顔をするか、
ひょっとしたら怒り出すかと思ってたのに。

部長は驚い顔をして私を問い詰めた後、
酷く私に無防備になりました。


「だったら、次からは会場行く前に
 咲に様子を見てもらおうかしら」


なんて、にっこりと私に微笑んで。
その全てをさらけ出してきたんです。


「……っ」


その唐突な変化に、私は
戸惑うしかありませんでした。
そして、自分の心の変化にも驚きました。

人の心とは、こんなにも簡単に
変わってしまうものなのでしょうか。

だって、部長が少しだけ。
少しだけ心をさらけ出しただけで。
私は、こんなにも…


(ずるいよ…そんな急にこられたら)


やっぱり、この人は苦手だ。この人といると、
私はどこか普通ではなくなってしまう。



--------------------------------------------------------



私自身気づいていなかったかすかな変化。
意外にも、咲はそれに気づいていた。


「…あの時、部長ちょっと変でしたよね」

「…いつから気づいていたの?」

「えと、会場に向かった時から」

「でも、途中で元に戻ったみたいで…安心しました」


なんて、しれっと言うものだから。
思わず咲に抱きついてしまった。


「気づいてたなら言いなさいよ!」

「だ、だって、もう出ちゃう時だったから!」

「時間はあったんだから
 追いかけてこればよかったでしょ!」

「あの時、すっごく心細かったんだから!」


口走ってから、自分でも変だなって思った。
それは、いつもだったらひた隠す気持ち。
なのに私は、自然と吐露してしまっていた。


「でも」

「…そっかぁ。咲は気づいてたのね」

「だったら、次からは会場行く前に
 咲に様子を見てもらおうかしら」


そしたら咲は、なんでか急に笑顔になって。
まるで幼い子に接するみたいに優しい顔をする。


「じゃあ、今度からはちゃんと確認しますね」


その笑顔は、今まで向けられてきた
気味の悪い愛想笑いではなく。
本当に心から笑っているのがよくわかった。


私の中で、嫌いが好きに
ひっくり返った瞬間だった。



--------------------------------------------------------















--------------------------------------------------------



部長と少しだけ分かり合えた事はよかったものの。
二回戦を勝ち抜いてから、私は
少しずつ不安定になっていきました。

お姉ちゃんの背中が見えてきて。
かつてのトラウマが蘇ってくる気がしました。
部長の不安に呼応してしまったのかもしれません。


準決勝を見に行く、そう言って駆ける和ちゃん達。
私はそれを追いかけながら、
ある地点で立ち止まってしまいました。

会うために追いかけてきたのに。
取り戻すために足を踏み出したのに。
いざ近づいてみると、
私の足は震えだして、
まったく動いてくれないのです。

また、あの時みたいに
拒絶されたらどうしよう。
そしたら、本当に終わってしまう。


怖い、怖い、怖い、怖い。


結局私は、目的地に辿りつくことはなく。
踵を返して、来た道を戻る事にしました。

不安で、恐怖で押し潰されそうで。
でも、誰にも言えなくて。
全てを胸の内に押し込んだまま、
必死で普通を装っていました。


「……」


不意に部長と目があいます。
その瞳に射抜かれた刹那。
私はこんな事を思いました。


――ああ、部長だったら
私が胸の内に抱いている苦悩を
見通してしまうのかな


今まではそれが怖くて遠ざかっていたのに。
見抜いてほしいなって思いました。
我ながら勝手だとは思います。
でも、それだけ私も弱っていたのでしょう。


そして、私の期待通り。


「咲。ちょっといい?話したい事があるの」


部長は私を見透かしていたのです。



--------------------------------------------------------



気づいたのは二回戦終了後。

咲は少しずつ不安定になっていった。
皮肉な事に、それに気づいたのは
いがみ合ってるはずの私だけだった。


「なんですか?」

「…咲。私前に言ったわよね」

「『気づいてたなら言いなさいよ!』って」

「だから私も言うわ。貴女、
 最近様子がおかしいけどどうかしたの?」

「…やっぱり、気づいてましたか」

「それだけあからさまにおかしければ気づくわよ」

「気づいてるのは部長だけみたいですけど」

「……」


実際には違うと思った。
少なくとも、和辺りは気づいてると思う。
でもそれを伝えたくはなかった。
その理由はわからないけれど。

ただ一つ、そんな不安を隠そうとする咲を見て、
わかった事がある。


「ねぇ、咲。私わかった事があるの」

「…なんですか?」

「あなたの事が、嫌いだった理由」

「……っ!?」


この子と私は同じなんだ。
臆病で、だから本音を出せなくて。
一人では抱えきれない爆弾を
胸のうちにしまいこむ。

つまりは単なる同族嫌悪。


「でも、この前咲に気づかれて。
 私は本音をさらけ出したわ」

「今度は咲の番。何を抱えているかはわからないけれど。
 一思いに吐き出しなさい」


でも、だからこそ、
私たちは誰よりもわかりあえる。


「ねえ、咲。貴女の感情、見せて?」


私が貴女を支えるから。
あのひ、貴女が私にしてくれたように。


「……っ」

「私…お姉ちゃんがいるんです」


咲が、ぽつりぽつりと吐き出し始める。
最初は淡々としていた言葉は、
いつしか合間に嗚咽が混じり。
やがて咲は喋れなくなった。


「ぅっ……うぅっ……」


私はそんな咲を、慈しむように抱き寄せる。
咲の中に溜まっていた感情を全て受け止める。


ゆっくりゆっくり時間をかけて。
咲は感情を吐き出していく。

幸せだった過去。車いすの少女。
悲しい事件。お姉さんとの確執。

咲が一人で抱えていた事実の深刻さに、
驚かずにはいられなかった。

今なら、咲が私を警戒していた理由もわかる。
咲が背負っていたものはあまりにも大きすぎるから。
不意に私がそれをつついて、
咲に意識させてしまったら。
きっと、咲はそれに耐えられなくて、
自分を壊してしまっただろう。


「でも、今なら大丈夫」

「咲の苦しみ。悲しみ。全部私が受け止めるから」

「その代わり。咲も私の事を受け止めて?」


咲は返事をしなかった。
でも、私の腕の中で、小さくこくりと頷いて。
私の背中に腕を回すと、ぎゅぅっと固く抱きついた。



--------------------------------------------------------















--------------------------------------------------------



「ねえ咲、今から聞くものについて、
 好きか嫌いかの二択で答えて?」

「…またですか」

「いいからいいから…読書は?」

「好きです」

「麻雀」

「好きです」

「お姉さん」

「…今は、好きです」


「…じゃあ、私の事は?」


「……っ」


咲は即答しなかった。あの時と同じだった。
でも、少しだけ違ったのは…

咲の頬が、朱に染まった事。


「そこはしっかり口に出してほしいんだけどねー」


うりうり、なんてからかうと、
咲はほっぺを膨らませながら怒り出す。


「…部長のそういうところは嫌いですっ」

「あらら。じゃぁ、やっぱり
 さっきの問いの結果もそうなるのかしら?」

「……」


咲は少しだけ沈黙すると、やがてそっぽを向きながら。
本当に小さな、消え入りそうな声で囁く。


『嫌いだけど、好きですよ』


私は咲を抱き締めた。

咲は恥ずかしそうに身をよじりながらも、
逃げる事はしなかった。


「ふふ。そっか。じゃぁ同じね」


私も、貴女の事が好き。


(完)
 Yahoo!ブックマーク
posted by ぷちどろっぷ at 2015年12月12日 | Comment(3) | TrackBack(0) | 咲-Saki-
この記事へのコメント
好きの反対は無関心という言葉もあります。それはそれとして久さんかわいい!
Posted by at 2015年12月13日 10:52
上手く言葉に出来ないような良さがありますね…
Posted by at 2015年12月13日 19:17
あま〜い

甘いのはいいっすね((o(^∇^)o))
Posted by at 2016年09月05日 08:55
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/169775260
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。

この記事へのトラックバック
 なんかブログランキング参加してみました。
 押してもらえると喜びます(一日一回まで)。
 
人気ブログランキング