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【咲-Saki-SS:久咲】咲「知らないでしょ?私は、貴女の事を、こんなにも」【ヤンデレ】
<あらすじ>
その他のリクエストがそのままあらすじです。
<登場人物>
竹井久,宮永咲,その他清澄高校
<症状>
・狂気
・ヤンデレ
・異常行動
<その他>
次のリクエストに対する作品です。
・知らないでしょう?
私は貴女のことをこんなにも
ーー………。
みたいな久咲
--------------------------------------------------------
知らないでしょう?
私が、貴女の事をこんなにも
−−しているだなんて
でもそれも当たり前の事
他ならぬ私自身が隠しているのだから
本当は貴女に知ってほしい
でも知られてはいけない
知ってしまえば、貴女は怖れる
そして私から離れていくだろう
だから私はひた隠す
自己矛盾に心を軋ませながら
今日も必死に笑顔を作る
貴女に、この想いを気取られぬように
--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
いつだったでしょうか。
部長の事が好きだと気づいたのは。
いつだったんでしょうか。
部長に心を奪われたのは。
何度か自問してみたものの、
答えを見つける事はできませんでした。
それほどまでに、部長は自然に
私の中に入り込んできて。
いつの間にか私を侵蝕していたんです。
気づいた頃にはもはや
取り除けない程に、深く。深く。
(なんて。私の気持ちなんて、
部長は知らないんだろうけどね)
(私が、こんなにも部長の事を、
愛しているなんて)
テーブルに突っ伏して、伏し目がちに目を向けます。
想い人はいつも通り飄々とした態度で
誰かと談笑していました。
「ねえまこ、明日まこの家行ってもいい?」
「何しに来るんじゃ」
「勉強会。最近やってなかったでしょ?」
「構わんが…部室でもええんじゃないか?」
「今の部室は誘惑が多過ぎてねー。
昔みたいに何もない状況で黙々とやりたいのよ」
「わしの家が娯楽ないみたいに言うのやめんか」
「あはは」
「否定せんのか」
はぁ。思わずため息がこぼれました。
最近はいつもこんな感じ。
部長が誰かと楽しそうに話す姿を見る度に。
私以外の人に笑みを見せる度に、
胸がキリキリと痛みます。
それでいて、あの人が
人に囲まれていない時なんて
ほとんどないのだから。
私は四六時中、この苦痛から
解放される事はないのです。
(…もう、いっそ告白しちゃおっかな)
もちろん十中八九振られるだろうけど。
それでも、この苦しみから解放されるなら、
それもありかもしれません。
なんて思ったりしながらも、
やっぱり想いを告げるのは怖くって。
今日も私は人知れず、恨めしそうな目で
部長をねめつけるしかないのでした。
--------------------------------------------------------
こと恋をする相手としては。
部長は最悪と言っても
過言ではないと思います。
誰にだって愛想がよくて。
心の距離をものともせず。
あっさりゼロ距離まで踏み込んで来て。
それでいて誰かとくっつくわけでもなく、
私のように嫉妬に狂う人を量産するのですから。
しかも、きっと本人は気づかないまま。
なんて罪深い人でしょうか。
今もほら。いつものように
人たらしの笑顔を浮かべながら、
鬼畜な質問を投げかけてきます。
「ねえ咲。最近元気ないけど、どうかした?」
「今ならこの私が直々に
相談に乗ってあげちゃうけど?」
「……」
胸の内に、黒い炎が灯ります。
炎はぼっと火の粉をあげて、
ちりちりと胸を焼きました。
『誰のせいだと思ってるんですか。
全部貴女のせいじゃないですか』
言えたらどんなに楽でしょう。
でも、それを言ったら全てはおしまい。
一時(いっとき)は楽になったとしても、
結局私は後悔するのでしょう。
「……っ」
危うく口から出かかった言葉を、
無理やり空気と共に押し込みます。
それでも、飲み込み切れなかった想いが、
少しだけ漏れ出てしまいました。
「…知らないですよね。部長は、
私が何に悩んでいるかなんて」
なんて。『少し』というには
多過ぎたかもしれないけれど。
「だから、それを教えてって
言ってるんだけどなぁ」
困ったように眉を下げながら苦笑する部長。
それを見て少しだけ溜飲が下がります。
そうだよ。部長も少しは
私の事で頭を悩ませればいいんだ。
せめて、私が部長の事を考える
十分の一でもいいから。
「教えません」
私は言葉を切りました。
部長は頭をかきながら、
なおも私の顔を覗き込み続けるのでした。
--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
私が機嫌を損ねると、
部長が心配して寄ってくる。
それはあまりに小さな気づき。
でも私は、そこに活路を見出しました。
(そっか。部長にとって、
手のかかる子になればいいんだよ!)
部長は一度仲良くなった人を
簡単に切り捨てたりはしない人です。
半年という短い付き合いではあるけれど、
それは確信を持って言える事。
例えば、こんな事がありました。
『部長、この名簿に書いてある人達って誰ですか?
会った事ないと思いますけど…』
『あー、いわゆる幽霊部員ね。
名前だけ借りてるっていうか。
さすがに1人のまま部を
存続させるのは難しかったから』
『ま、結局1年生の時に来なくなって以来、
一度も顔見せてくれてないけどねー』
『…なら、もう削っちゃって
いいんじゃないですか?』
『あえて削る必要はないでしょ?もしかしたら、
ふらっと戻ってきてくれるかもしれないし』
『まずないと思いますけどね……』
今はもう顔を出さない幽霊部員。
メンバーも5人揃った今、今更
そんな人が舞い戻って来たところで
迷惑なだけのはずなのに。
それでも部長は、そんな人達すら
切り捨てようとはしないのです。
他には、こんな事もありました。
『そういえば部長って、合宿の時に言ってましたよね』
『ん?』
『インターハイに出たかったって。
個人戦では出なかったんですか?』
『…んー』
『私は家族麻雀しか経験がないから、
インターハイの出場選手が
どのくらい強いのかはわかりませんけれど。
それでも、部長は強いと思います』
『部長がインターハイの個人戦で活躍すれば、
それを見た部員が入ってくれる事も
あったんじゃないかなって』
『…ま、それも考えなくもなかったんだけどねー』
『なら…どうして?』
『私個人の考えだけどね。麻雀って結局は
パーティーゲームだと思うのよ。
楽しく和気藹々と打ちたいのよね』
『個人戦って周りは全員敵なわけだし、
勝って喜ぶのも私だけでしょ?
なんだかそれが寂しくってね』
『…なるほど』
つまり部長は、ただインターハイに
出場する事が目的ではなくて。
誰かと楽しみを分かち合いたかったからこそ、
2年間じっと待ち続けたという事です。
2つのエピソードから導き出される答え。
それは部長が人懐っこくて、
意外に『重い』という事実。
そんな部長が、一人沈んだ面持ちでいる私を
放置しておくはずがない。
その事に気づいてからは。
少しずつ、意識的に毒を吐く事が
多くなっていきました。
「ねえ咲。なんでそんなに機嫌悪いの?
そろそろ教えてくれないかしら?」
「嫌です。自分で見つけてください」
「教えてくれないとこうよ!」
「っ…、な、何をされても教えせんから!」
急に後ろから抱きつかれて、胸の鼓動を速める私。
それでも私は、部長の懇願を突っぱねました。
だってそうすれば、部長がもっと
私の事を見てくれるから。
思わせぶりな事を言って、でも核心には触れないように。
そうすれば、部長の心を縛り付けられるから。
「…そっちがその気なら、
こっちにも考えがあるわよ?」
「な、なんですか」
「咲が悩みを白状するまで、
このままべったりと付き纏ってやるわ!」
「そっ、そんな脅しには屈しませんから」
「あ、もしかしてハッタリだと思ってる?
私、やる時はやる女よ?」
表面上は迷惑そうに顔をしかめながらも、
私は内心ほくそ笑みました。
そうやって私にばっかり目を向けて、
私にばっかり重たくなっていけばいい。
そしたら自然と、私達の仲が疑われるようになる。
他の人が入り込みにくくなる。
そしていずれは、部長を独り占めできたら…
そんな醜い欲望を胸に秘めながら、
私は部長を拒絶し続けるのでした。
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「…最近部長に話し掛けにくいじょ」
「ちょっとでも部長に話し掛けると、
咲ちゃんがカンカンに怒るんだじぇ」
「ゆーきもですか」
「私の場合は、部長の方から話し掛けてきたのに、
それでも機嫌が悪くなってしまいました」
「咲ちゃん、最近ちょっとおかしいじょ。
ヤキモチにしてもいき過ぎだじぇ」
「咲さんに恋敵だと思われているとしたら、少し…
いいえ。かなり悲しいですね…」
「部長には早いとこ気づいてほしいじょ…」
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手のかかる子になって関心をひく作戦。
それは絶大な効果を生んだものの、
根本的な解決には至りませんでした。
だって、部長は相も変わらず人に囲まれていて。
そんな人の中には、私と同じように
熱に浮かされた視線を送っている人が何人もいて。
それでいて、部長はそんな人に対しても
愛想よく対応するのですから。
中には和ちゃんや優希ちゃんみたいに
自分から部長に話し掛けなくなった子もいます。
でも結局部長から話しかけていく以上、
状況が好転したとは言えません。
「…どうしたら、部長を独り占めできるんだろ」
心が澱んでいくのを感じました。
黒く染まっていくのを感じました。
前に比べれば吐き出しているはずなのに、
穢れは広がっていくばかり。
それはきっと、部長が私の想いに
全然気づいてくれないからでしょう。
「咲も強情よねー。そろそろ
根負けしてもいい頃じゃない?」
「…なら、一つだけヒントをあげます。
私が不機嫌なのは部長のせいです」
「胸に手を当てて考えてみてください」
ほとんど答えと言ってもいいヒントでした。
我ながら、思いを告げるのが怖い
なんて言っていたのが嘘のようです。
だって、全然気づいてくれないから。
少しくらい嫉妬の色を漏らしたくらいじゃ、
まるで暖簾に腕押しだから。
だったらいっそ、もう少し踏み込んでもいいのかなって。
そう思ったんです。
「私!?全然身に覚えがないんだけど!?」
私の首に両腕を回しながら。
期待通り…そして期待外れな事に、
部長は大げさに驚きました。
そんな部長の様を見て。
私はさらに、心の闇が広がっていくのを感じたんです。
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「さ、咲ちゃん…もういっそ告白したらどうだじょ?」
「え」
「最近の咲ちゃん怖いじょ…
部長に近づく人みんなを睨みつけて…
すごく、すっごく冷たい目してるじょ」
「なんか、その…ちょっと…」
「病気みたいだじょ」
「……」
「でも、部長は気づいてないよ?」
「部長に期待しちゃいけないじょ。
咲ちゃんから言うべきだじょ」
「じゃないと、咲ちゃん。このままじゃ…」
「…このままじゃ?」
「ひ、一人ぼっちになっちゃうじょ?」
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自分でも気づいていました。
少しずつおかしくなってきてるって。
人が離れていくのを感じました。
向けられる視線に、
恐怖が混じっているのを感じました。
優希ちゃんは私を気遣って言わなかったけど。
本当は、もっと酷い噂が流れているのも知ってます。
『竹井久に関わると宮永咲に恨まれる。
あの二人には関わらない方がいい』
『宮永咲は、頭がおかしいから』
って。もっとも、事実だから
噂でも何でもないんですけど。
(周りはちゃんと気づいてくれてるのになぁ)
肝心の部長だけが、何一つ気づかないまま。
いつもと同じように接してくるんです。
私の気持ちなんて知らないまま、
気安く他人に接するんです。
(…でも、それならそれで悪くないかも)
周りが私達から距離を置いてくれているのは
いい傾向だと思います。
部長が今のまま他人に話し掛ければ。
それでいて、私が嫉妬する様を見せつければ。
いずれ皆、部長に話し掛けられるのを
恐れるでしょう。
そして最後に、私達だけが残ればいい。
想像してたのとは少し違ったけど、
結果的に私達が孤立していくのなら
願ったり叶ったりです。
外堀から埋めていく事に決めました。
そう。今まで以上に、
嫉妬を前面に押し出していく事で。
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「…なんか最近、皆から避けられてる気がするわ」
「…お前さん、本当に気づいちょらんのか?」
「まこまで咲みたいな事言うの?
一体全体何だって言うのよ」
「…噂、聞いた事ないんか?」
「どんなよ」
「お前さんと会話すると、ある人物に目をつけられる。
それでも、仲良さそうにしとったら…」
「消される」
「っちゅう話じゃ」
「その理屈で言ったらまこが
消えてないのはおかしいでしょ。
最初から破綻してるじゃない」
「…ま、噂は噂じゃ。じゃが、
あながち的外れとも言えん」
「わしからしたら、お前さんが
気づかんのが不思議で仕方ないくらいじゃ」
「そんな事言われても」
「……はぁ。もうええ」
「繊細な話じゃけぇ、自分で気づくのを待っとったが。
流石にこれ以上は待っとれん」
「わしが教えちゃる。お前さんの事を
病的に愛しちょる奴の事を」
「…ええか。噂の人物っちゅうのは……」
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ちょっとした噂を流しました。
部長に近づいたら酷い目にあうって。
もちろん作り話です。
現実にしてしまいたい気持ちはあるけれど、
その一線を越えてしまったら、
部長に愛してもらえるとは思えませんから。
でも抑止力としては十分。
期待通り、部長は孤立し始めました。
もっともそれでも近づく人がゼロにならないあたりが
流石…というか歯がゆいところですけれど。
「ねえ咲。ちょっと
真剣に話したい事があるんだけど、
いいかしら?」
ここに来て、部長もようやく
異変に気付いたのでしょう。
私を二人きりで部室に呼び出すと、
躊躇いがちに口を開きます。
「最近、よくない噂を耳にしたんだけど…
貴女は知ってる?」
「…どんな噂ですか?」
「貴女が、私と仲良くしてる人を襲ってるって話」
「それが嘘だって言うのは、
部長ならわかりますよね?」
「そうね。でもそんな噂が
流れる事自体異常でしょ」
「貴女、誰かに恨まれてたりしない?
最近様子が変なのも、それが原因なんじゃないの?」
私は思わず歯ぎしりしました。
この期に及んで、この人は。
どこまで私の事をわかっていないというのでしょう。
きっと、今のまま当たり障りのない
アプローチを繰り返しても、
部長は一生気づかない。
そう思わずにはいられませんでした。
だったらもう。いっその事……
――襲っちゃえばいいんじゃないかな?
あまりに見当違いの反応が、
最後の一押しになりました。
心が、真っ黒に塗り潰されるのを感じました。
「…部長は、本当に何も知らないんですね」
「いいです。私も流石に我慢の限界ですから
教えてあげます」
私は部長ににじり寄ると、両腕で部長を抱き締めて。
そのままの勢いで、近くにあった
仮眠ベッドに押し倒しました。
「さ、咲!?」
「鈍すぎる部長が悪いんです。あれだけ
アピールしても気づかないんだから」
「私がどれだけ、部長の事を愛しているかって」
「流石の部長も…襲われたらわかりますよね?」
私の瞳に狂気の色を感じ取ったのか、
部長の目に戦慄が走ります。
そのまま暴れ出す前に、
私は隠し持っていたナイフを取り出しました。
「…今さら逃げようとしても手遅れですよ」
自分でも驚くくらい低い声でした。
部長はひっと小さく息を呑んで、
小刻みに震えて縮こまります。
その反応に唇を噛み締めながらも、
もう引き返す事はできず。
部長の両手を手錠で拘束すると、
そのまま肉を貪り始めました。
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--------------------------------------------------------
「…ご馳走様でした」
「部長、初めてだったんですね」
破瓜の証を指ですくい取ると
部長の目の前でそれを広げた
「……」
部長は何も言わなかった
それでも頬には涙の痕が
くっきりと浮かんでいた
なんだか無性に悲しくて
跡を舌で舐めとった
「いくら泣いても駄目ですよ?
一部始終録画してありますから」
「……」
部長は何をしてもされるがままで
ひたすら沈黙を守り続ける
「嬉しいな。部長の最初から最後まで、
私が独り占めできるんだ」
「……」
「もう、部長は私のものです。
他の誰にも触らせません」
「……」
私だけが声を発して
矢継ぎ早に言葉を紡いで
「恨むなら、自分の鈍さを恨んでください」
「……」
次第に、その声も続かなくなって
「……なにか、言ったらどうですか?
私に言いたい事、あるんじゃないですか?」
「……」
「……」
静寂が全てを支配して
そして、ようやく、部長が、一言
--------------------------------------------------------
「…貴女こそ、意外と鈍いのね」
--------------------------------------------------------
虚を突かれ、言葉を返す事ができなかった
それまでのしおらしい態度は一変
部長が楽しそうに語り始める
--------------------------------------------------------
「私が本気で気づいてないとでも思っていたの?」
「気づかないわけないでしょう?
貴女が私の事を愛していた事くらい」
--------------------------------------------------------
「え、そんな。じゃぁ、どうして、あんな」
「……咲。貴女こそ、知らないでしょう?」
--------------------------------------------------------
「私が、貴女の事をどれだけ」
--------------------------------------------------------
「独り占めしたいと思っていたか」
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そして部長は、にこりと笑った
その笑みはあきらかに異常だった
そう、それは私なんて、目じゃない程の
--------------------------------------------------------
――狂気。
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--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
『SIDE 久』
--------------------------------------------------------
そう、私は気づいていた。
ううん。むしろ先に好きになったのは私の方だった。
咲の何もかもが魅力的だった。
小動物のような愛らしさに
庇護欲をかきたてられた。
麻雀を打つ時の、まるで
別人のような勇ましさに胸を射抜かれた。
心に押し隠した深すぎる闇と、
そこから滲み出る危うさに親近感を覚えた。
(嗚呼。好きよ、咲。大好き)
それとなく咲に近づいた。
激し過ぎる熱情を、笑顔の仮面でひた隠しながら。
咲はまるで気づかなかったけど。
意外に共通点の多い私達だったから、
仲良くなるのに時間はかからなくて。
咲の視線に、熱が籠り始めるのもすぐだった。
その時素直に告白していれば、
私達は普通に結ばれる事もできただろう。
「でも知ってた?貴女ね、意外と競争率高かったのよ?」
って、意外でも何でもないか。
全国大会で活躍できる才能を持ち、
容姿も可愛くて性格も悪くない。
客観的に見ても、モテない方がおかしい。
今はまだいい。私がそれとなく外敵を排除できるから。
でも、私が卒業したらどうなる?
私の目が届かなくなって、
誰かが咲に近寄ってきたら?
(…そんなのいやよ!
今のうちに何とかしないと!)
咲の周りから私以外を取り除きたい。
私がその全てを独り占めしたい。
そのためにはどうしたらいい?
「簡単な答えが一つあったの。
咲が孤立しちゃえばいいのよ」
咲が嫉妬するように、あえて咲を放置した。
鈍感なふりをして、咲の愛を重くした。
そして裏では噂を流した。
『咲は頭がおかしい子。私の事が好き過ぎておかしい子』
『近づいてはいけない。
何をされるかわからないから』
普通に考えたら一笑に付される嘘。
でも日が経つにつれて、噂は真実味を増していった。
だって、咲の目はどろどろと濁っていったから。
私が誰かに話し掛けると、
咲は濁り切った目を爛々と光らせる。
まるで獲物を食い殺さんとばかりの目。
それでいて、その目に気づいて
話し掛けられた子が逃げ出すと、
にたりと嬉しそうに笑う。
いつしか噂は噂ではなく、真実になっていた。
そして咲は孤立する。
密かに咲に色目を使っていた子達も、
いつの間にか姿を消していた。
「そして、私達は二人ぼっち」
「どう?お気に召したかしら?」
私は咲に微笑みかける。咲は一瞬硬直したけれど、
やがてこくんと頷いた。
私と同じ、壊れた笑みを浮かべながら。
--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
結果的には部長に嵌められた形になりましたけど。
だからと言って、何も問題はありませんでした。
だって、私が望んでいた状況と、
部長が望んでいた状況。
それはぴったり一致していたのですから。
私達が望んだのは、私達二人だけの世界。
私達以外誰も居ない閉じた世界。
それが今現実になっている。
ああ、なんて幸せなんでしょう。
…でも。
「そんな回りくどい事しなくても、
一言言ってくれればよかったのに」
「んー。それも考えたんだけどねー」
「でも、やっぱこうするのが最善だと思ったのよ」
「そうかなぁ。最初から素直に
好きって言ってくれてれば、
もっと早く付き合えてたんだよ?」
「それだと咲は健全なままじゃない」
「あの頃の貴女は
『私以外の人と完全に縁を切って』
って言われて、『はい切ります』
って即断できたかしら?」
「…無理だったかも」
「でしょう?」
くすりと部長は微笑みます。
一糸まとわぬ姿で私の頭を抱き寄せながら、
耳元に唇を近づけます。
「それじゃ駄目なの。だって私は壊れてるんだから」
「咲にも壊れてもらわないと…ね?」
「…部長がここまでおかしいとは思わなかったよ」
「ふふ。知らなかったでしょ」
「うん」
本当に知らなかった。
部長がそんなに私の事を愛してくれていた事も。
愛しすぎて、壊れてしまっていた事も。
私は何も知らなかった。
そう考えたらふと気になったんです。
本当は、まだ私の知らない事が
いっぱいあるんじゃないかって。
「…もっと教えて?私の知らない部長の事」
「…知らない方が幸せかもよ?」
「や、やっぱりまだ何かあるんだ…」
「知らないでしょう?私は貴女の事を」
「−−たいって思ってるの」
耳元で囁かれる狂気に、ぞくりと身を震わせます。
もっとも、私が感じたのは恐怖ではなく。
甘い痺れが全身を駆け巡っているあたり、
私もやはり壊れているのでしょう。
「いいよ?」
「本当に!?」
部長だって知らないでしょう?
もう、今更部長が何を望んだって、
私は喜んで受け入れちゃう事を。
そう、例えば今ここで。
二人で死んでと言われたとしても。
「全部、受け入れるよ?」
だから、教えて?
私の知らない、部長の事。
囁き返しながら、私は部長の唇を塞ぐのでした。
(完)
その他のリクエストがそのままあらすじです。
<登場人物>
竹井久,宮永咲,その他清澄高校
<症状>
・狂気
・ヤンデレ
・異常行動
<その他>
次のリクエストに対する作品です。
・知らないでしょう?
私は貴女のことをこんなにも
ーー………。
みたいな久咲
--------------------------------------------------------
知らないでしょう?
私が、貴女の事をこんなにも
−−しているだなんて
でもそれも当たり前の事
他ならぬ私自身が隠しているのだから
本当は貴女に知ってほしい
でも知られてはいけない
知ってしまえば、貴女は怖れる
そして私から離れていくだろう
だから私はひた隠す
自己矛盾に心を軋ませながら
今日も必死に笑顔を作る
貴女に、この想いを気取られぬように
--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
いつだったでしょうか。
部長の事が好きだと気づいたのは。
いつだったんでしょうか。
部長に心を奪われたのは。
何度か自問してみたものの、
答えを見つける事はできませんでした。
それほどまでに、部長は自然に
私の中に入り込んできて。
いつの間にか私を侵蝕していたんです。
気づいた頃にはもはや
取り除けない程に、深く。深く。
(なんて。私の気持ちなんて、
部長は知らないんだろうけどね)
(私が、こんなにも部長の事を、
愛しているなんて)
テーブルに突っ伏して、伏し目がちに目を向けます。
想い人はいつも通り飄々とした態度で
誰かと談笑していました。
「ねえまこ、明日まこの家行ってもいい?」
「何しに来るんじゃ」
「勉強会。最近やってなかったでしょ?」
「構わんが…部室でもええんじゃないか?」
「今の部室は誘惑が多過ぎてねー。
昔みたいに何もない状況で黙々とやりたいのよ」
「わしの家が娯楽ないみたいに言うのやめんか」
「あはは」
「否定せんのか」
はぁ。思わずため息がこぼれました。
最近はいつもこんな感じ。
部長が誰かと楽しそうに話す姿を見る度に。
私以外の人に笑みを見せる度に、
胸がキリキリと痛みます。
それでいて、あの人が
人に囲まれていない時なんて
ほとんどないのだから。
私は四六時中、この苦痛から
解放される事はないのです。
(…もう、いっそ告白しちゃおっかな)
もちろん十中八九振られるだろうけど。
それでも、この苦しみから解放されるなら、
それもありかもしれません。
なんて思ったりしながらも、
やっぱり想いを告げるのは怖くって。
今日も私は人知れず、恨めしそうな目で
部長をねめつけるしかないのでした。
--------------------------------------------------------
こと恋をする相手としては。
部長は最悪と言っても
過言ではないと思います。
誰にだって愛想がよくて。
心の距離をものともせず。
あっさりゼロ距離まで踏み込んで来て。
それでいて誰かとくっつくわけでもなく、
私のように嫉妬に狂う人を量産するのですから。
しかも、きっと本人は気づかないまま。
なんて罪深い人でしょうか。
今もほら。いつものように
人たらしの笑顔を浮かべながら、
鬼畜な質問を投げかけてきます。
「ねえ咲。最近元気ないけど、どうかした?」
「今ならこの私が直々に
相談に乗ってあげちゃうけど?」
「……」
胸の内に、黒い炎が灯ります。
炎はぼっと火の粉をあげて、
ちりちりと胸を焼きました。
『誰のせいだと思ってるんですか。
全部貴女のせいじゃないですか』
言えたらどんなに楽でしょう。
でも、それを言ったら全てはおしまい。
一時(いっとき)は楽になったとしても、
結局私は後悔するのでしょう。
「……っ」
危うく口から出かかった言葉を、
無理やり空気と共に押し込みます。
それでも、飲み込み切れなかった想いが、
少しだけ漏れ出てしまいました。
「…知らないですよね。部長は、
私が何に悩んでいるかなんて」
なんて。『少し』というには
多過ぎたかもしれないけれど。
「だから、それを教えてって
言ってるんだけどなぁ」
困ったように眉を下げながら苦笑する部長。
それを見て少しだけ溜飲が下がります。
そうだよ。部長も少しは
私の事で頭を悩ませればいいんだ。
せめて、私が部長の事を考える
十分の一でもいいから。
「教えません」
私は言葉を切りました。
部長は頭をかきながら、
なおも私の顔を覗き込み続けるのでした。
--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
私が機嫌を損ねると、
部長が心配して寄ってくる。
それはあまりに小さな気づき。
でも私は、そこに活路を見出しました。
(そっか。部長にとって、
手のかかる子になればいいんだよ!)
部長は一度仲良くなった人を
簡単に切り捨てたりはしない人です。
半年という短い付き合いではあるけれど、
それは確信を持って言える事。
例えば、こんな事がありました。
『部長、この名簿に書いてある人達って誰ですか?
会った事ないと思いますけど…』
『あー、いわゆる幽霊部員ね。
名前だけ借りてるっていうか。
さすがに1人のまま部を
存続させるのは難しかったから』
『ま、結局1年生の時に来なくなって以来、
一度も顔見せてくれてないけどねー』
『…なら、もう削っちゃって
いいんじゃないですか?』
『あえて削る必要はないでしょ?もしかしたら、
ふらっと戻ってきてくれるかもしれないし』
『まずないと思いますけどね……』
今はもう顔を出さない幽霊部員。
メンバーも5人揃った今、今更
そんな人が舞い戻って来たところで
迷惑なだけのはずなのに。
それでも部長は、そんな人達すら
切り捨てようとはしないのです。
他には、こんな事もありました。
『そういえば部長って、合宿の時に言ってましたよね』
『ん?』
『インターハイに出たかったって。
個人戦では出なかったんですか?』
『…んー』
『私は家族麻雀しか経験がないから、
インターハイの出場選手が
どのくらい強いのかはわかりませんけれど。
それでも、部長は強いと思います』
『部長がインターハイの個人戦で活躍すれば、
それを見た部員が入ってくれる事も
あったんじゃないかなって』
『…ま、それも考えなくもなかったんだけどねー』
『なら…どうして?』
『私個人の考えだけどね。麻雀って結局は
パーティーゲームだと思うのよ。
楽しく和気藹々と打ちたいのよね』
『個人戦って周りは全員敵なわけだし、
勝って喜ぶのも私だけでしょ?
なんだかそれが寂しくってね』
『…なるほど』
つまり部長は、ただインターハイに
出場する事が目的ではなくて。
誰かと楽しみを分かち合いたかったからこそ、
2年間じっと待ち続けたという事です。
2つのエピソードから導き出される答え。
それは部長が人懐っこくて、
意外に『重い』という事実。
そんな部長が、一人沈んだ面持ちでいる私を
放置しておくはずがない。
その事に気づいてからは。
少しずつ、意識的に毒を吐く事が
多くなっていきました。
「ねえ咲。なんでそんなに機嫌悪いの?
そろそろ教えてくれないかしら?」
「嫌です。自分で見つけてください」
「教えてくれないとこうよ!」
「っ…、な、何をされても教えせんから!」
急に後ろから抱きつかれて、胸の鼓動を速める私。
それでも私は、部長の懇願を突っぱねました。
だってそうすれば、部長がもっと
私の事を見てくれるから。
思わせぶりな事を言って、でも核心には触れないように。
そうすれば、部長の心を縛り付けられるから。
「…そっちがその気なら、
こっちにも考えがあるわよ?」
「な、なんですか」
「咲が悩みを白状するまで、
このままべったりと付き纏ってやるわ!」
「そっ、そんな脅しには屈しませんから」
「あ、もしかしてハッタリだと思ってる?
私、やる時はやる女よ?」
表面上は迷惑そうに顔をしかめながらも、
私は内心ほくそ笑みました。
そうやって私にばっかり目を向けて、
私にばっかり重たくなっていけばいい。
そしたら自然と、私達の仲が疑われるようになる。
他の人が入り込みにくくなる。
そしていずれは、部長を独り占めできたら…
そんな醜い欲望を胸に秘めながら、
私は部長を拒絶し続けるのでした。
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「…最近部長に話し掛けにくいじょ」
「ちょっとでも部長に話し掛けると、
咲ちゃんがカンカンに怒るんだじぇ」
「ゆーきもですか」
「私の場合は、部長の方から話し掛けてきたのに、
それでも機嫌が悪くなってしまいました」
「咲ちゃん、最近ちょっとおかしいじょ。
ヤキモチにしてもいき過ぎだじぇ」
「咲さんに恋敵だと思われているとしたら、少し…
いいえ。かなり悲しいですね…」
「部長には早いとこ気づいてほしいじょ…」
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手のかかる子になって関心をひく作戦。
それは絶大な効果を生んだものの、
根本的な解決には至りませんでした。
だって、部長は相も変わらず人に囲まれていて。
そんな人の中には、私と同じように
熱に浮かされた視線を送っている人が何人もいて。
それでいて、部長はそんな人に対しても
愛想よく対応するのですから。
中には和ちゃんや優希ちゃんみたいに
自分から部長に話し掛けなくなった子もいます。
でも結局部長から話しかけていく以上、
状況が好転したとは言えません。
「…どうしたら、部長を独り占めできるんだろ」
心が澱んでいくのを感じました。
黒く染まっていくのを感じました。
前に比べれば吐き出しているはずなのに、
穢れは広がっていくばかり。
それはきっと、部長が私の想いに
全然気づいてくれないからでしょう。
「咲も強情よねー。そろそろ
根負けしてもいい頃じゃない?」
「…なら、一つだけヒントをあげます。
私が不機嫌なのは部長のせいです」
「胸に手を当てて考えてみてください」
ほとんど答えと言ってもいいヒントでした。
我ながら、思いを告げるのが怖い
なんて言っていたのが嘘のようです。
だって、全然気づいてくれないから。
少しくらい嫉妬の色を漏らしたくらいじゃ、
まるで暖簾に腕押しだから。
だったらいっそ、もう少し踏み込んでもいいのかなって。
そう思ったんです。
「私!?全然身に覚えがないんだけど!?」
私の首に両腕を回しながら。
期待通り…そして期待外れな事に、
部長は大げさに驚きました。
そんな部長の様を見て。
私はさらに、心の闇が広がっていくのを感じたんです。
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「さ、咲ちゃん…もういっそ告白したらどうだじょ?」
「え」
「最近の咲ちゃん怖いじょ…
部長に近づく人みんなを睨みつけて…
すごく、すっごく冷たい目してるじょ」
「なんか、その…ちょっと…」
「病気みたいだじょ」
「……」
「でも、部長は気づいてないよ?」
「部長に期待しちゃいけないじょ。
咲ちゃんから言うべきだじょ」
「じゃないと、咲ちゃん。このままじゃ…」
「…このままじゃ?」
「ひ、一人ぼっちになっちゃうじょ?」
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自分でも気づいていました。
少しずつおかしくなってきてるって。
人が離れていくのを感じました。
向けられる視線に、
恐怖が混じっているのを感じました。
優希ちゃんは私を気遣って言わなかったけど。
本当は、もっと酷い噂が流れているのも知ってます。
『竹井久に関わると宮永咲に恨まれる。
あの二人には関わらない方がいい』
『宮永咲は、頭がおかしいから』
って。もっとも、事実だから
噂でも何でもないんですけど。
(周りはちゃんと気づいてくれてるのになぁ)
肝心の部長だけが、何一つ気づかないまま。
いつもと同じように接してくるんです。
私の気持ちなんて知らないまま、
気安く他人に接するんです。
(…でも、それならそれで悪くないかも)
周りが私達から距離を置いてくれているのは
いい傾向だと思います。
部長が今のまま他人に話し掛ければ。
それでいて、私が嫉妬する様を見せつければ。
いずれ皆、部長に話し掛けられるのを
恐れるでしょう。
そして最後に、私達だけが残ればいい。
想像してたのとは少し違ったけど、
結果的に私達が孤立していくのなら
願ったり叶ったりです。
外堀から埋めていく事に決めました。
そう。今まで以上に、
嫉妬を前面に押し出していく事で。
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「…なんか最近、皆から避けられてる気がするわ」
「…お前さん、本当に気づいちょらんのか?」
「まこまで咲みたいな事言うの?
一体全体何だって言うのよ」
「…噂、聞いた事ないんか?」
「どんなよ」
「お前さんと会話すると、ある人物に目をつけられる。
それでも、仲良さそうにしとったら…」
「消される」
「っちゅう話じゃ」
「その理屈で言ったらまこが
消えてないのはおかしいでしょ。
最初から破綻してるじゃない」
「…ま、噂は噂じゃ。じゃが、
あながち的外れとも言えん」
「わしからしたら、お前さんが
気づかんのが不思議で仕方ないくらいじゃ」
「そんな事言われても」
「……はぁ。もうええ」
「繊細な話じゃけぇ、自分で気づくのを待っとったが。
流石にこれ以上は待っとれん」
「わしが教えちゃる。お前さんの事を
病的に愛しちょる奴の事を」
「…ええか。噂の人物っちゅうのは……」
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ちょっとした噂を流しました。
部長に近づいたら酷い目にあうって。
もちろん作り話です。
現実にしてしまいたい気持ちはあるけれど、
その一線を越えてしまったら、
部長に愛してもらえるとは思えませんから。
でも抑止力としては十分。
期待通り、部長は孤立し始めました。
もっともそれでも近づく人がゼロにならないあたりが
流石…というか歯がゆいところですけれど。
「ねえ咲。ちょっと
真剣に話したい事があるんだけど、
いいかしら?」
ここに来て、部長もようやく
異変に気付いたのでしょう。
私を二人きりで部室に呼び出すと、
躊躇いがちに口を開きます。
「最近、よくない噂を耳にしたんだけど…
貴女は知ってる?」
「…どんな噂ですか?」
「貴女が、私と仲良くしてる人を襲ってるって話」
「それが嘘だって言うのは、
部長ならわかりますよね?」
「そうね。でもそんな噂が
流れる事自体異常でしょ」
「貴女、誰かに恨まれてたりしない?
最近様子が変なのも、それが原因なんじゃないの?」
私は思わず歯ぎしりしました。
この期に及んで、この人は。
どこまで私の事をわかっていないというのでしょう。
きっと、今のまま当たり障りのない
アプローチを繰り返しても、
部長は一生気づかない。
そう思わずにはいられませんでした。
だったらもう。いっその事……
――襲っちゃえばいいんじゃないかな?
あまりに見当違いの反応が、
最後の一押しになりました。
心が、真っ黒に塗り潰されるのを感じました。
「…部長は、本当に何も知らないんですね」
「いいです。私も流石に我慢の限界ですから
教えてあげます」
私は部長ににじり寄ると、両腕で部長を抱き締めて。
そのままの勢いで、近くにあった
仮眠ベッドに押し倒しました。
「さ、咲!?」
「鈍すぎる部長が悪いんです。あれだけ
アピールしても気づかないんだから」
「私がどれだけ、部長の事を愛しているかって」
「流石の部長も…襲われたらわかりますよね?」
私の瞳に狂気の色を感じ取ったのか、
部長の目に戦慄が走ります。
そのまま暴れ出す前に、
私は隠し持っていたナイフを取り出しました。
「…今さら逃げようとしても手遅れですよ」
自分でも驚くくらい低い声でした。
部長はひっと小さく息を呑んで、
小刻みに震えて縮こまります。
その反応に唇を噛み締めながらも、
もう引き返す事はできず。
部長の両手を手錠で拘束すると、
そのまま肉を貪り始めました。
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「…ご馳走様でした」
「部長、初めてだったんですね」
破瓜の証を指ですくい取ると
部長の目の前でそれを広げた
「……」
部長は何も言わなかった
それでも頬には涙の痕が
くっきりと浮かんでいた
なんだか無性に悲しくて
跡を舌で舐めとった
「いくら泣いても駄目ですよ?
一部始終録画してありますから」
「……」
部長は何をしてもされるがままで
ひたすら沈黙を守り続ける
「嬉しいな。部長の最初から最後まで、
私が独り占めできるんだ」
「……」
「もう、部長は私のものです。
他の誰にも触らせません」
「……」
私だけが声を発して
矢継ぎ早に言葉を紡いで
「恨むなら、自分の鈍さを恨んでください」
「……」
次第に、その声も続かなくなって
「……なにか、言ったらどうですか?
私に言いたい事、あるんじゃないですか?」
「……」
「……」
静寂が全てを支配して
そして、ようやく、部長が、一言
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「…貴女こそ、意外と鈍いのね」
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虚を突かれ、言葉を返す事ができなかった
それまでのしおらしい態度は一変
部長が楽しそうに語り始める
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「私が本気で気づいてないとでも思っていたの?」
「気づかないわけないでしょう?
貴女が私の事を愛していた事くらい」
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「え、そんな。じゃぁ、どうして、あんな」
「……咲。貴女こそ、知らないでしょう?」
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「私が、貴女の事をどれだけ」
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「独り占めしたいと思っていたか」
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そして部長は、にこりと笑った
その笑みはあきらかに異常だった
そう、それは私なんて、目じゃない程の
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――狂気。
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『SIDE 久』
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そう、私は気づいていた。
ううん。むしろ先に好きになったのは私の方だった。
咲の何もかもが魅力的だった。
小動物のような愛らしさに
庇護欲をかきたてられた。
麻雀を打つ時の、まるで
別人のような勇ましさに胸を射抜かれた。
心に押し隠した深すぎる闇と、
そこから滲み出る危うさに親近感を覚えた。
(嗚呼。好きよ、咲。大好き)
それとなく咲に近づいた。
激し過ぎる熱情を、笑顔の仮面でひた隠しながら。
咲はまるで気づかなかったけど。
意外に共通点の多い私達だったから、
仲良くなるのに時間はかからなくて。
咲の視線に、熱が籠り始めるのもすぐだった。
その時素直に告白していれば、
私達は普通に結ばれる事もできただろう。
「でも知ってた?貴女ね、意外と競争率高かったのよ?」
って、意外でも何でもないか。
全国大会で活躍できる才能を持ち、
容姿も可愛くて性格も悪くない。
客観的に見ても、モテない方がおかしい。
今はまだいい。私がそれとなく外敵を排除できるから。
でも、私が卒業したらどうなる?
私の目が届かなくなって、
誰かが咲に近寄ってきたら?
(…そんなのいやよ!
今のうちに何とかしないと!)
咲の周りから私以外を取り除きたい。
私がその全てを独り占めしたい。
そのためにはどうしたらいい?
「簡単な答えが一つあったの。
咲が孤立しちゃえばいいのよ」
咲が嫉妬するように、あえて咲を放置した。
鈍感なふりをして、咲の愛を重くした。
そして裏では噂を流した。
『咲は頭がおかしい子。私の事が好き過ぎておかしい子』
『近づいてはいけない。
何をされるかわからないから』
普通に考えたら一笑に付される嘘。
でも日が経つにつれて、噂は真実味を増していった。
だって、咲の目はどろどろと濁っていったから。
私が誰かに話し掛けると、
咲は濁り切った目を爛々と光らせる。
まるで獲物を食い殺さんとばかりの目。
それでいて、その目に気づいて
話し掛けられた子が逃げ出すと、
にたりと嬉しそうに笑う。
いつしか噂は噂ではなく、真実になっていた。
そして咲は孤立する。
密かに咲に色目を使っていた子達も、
いつの間にか姿を消していた。
「そして、私達は二人ぼっち」
「どう?お気に召したかしら?」
私は咲に微笑みかける。咲は一瞬硬直したけれど、
やがてこくんと頷いた。
私と同じ、壊れた笑みを浮かべながら。
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結果的には部長に嵌められた形になりましたけど。
だからと言って、何も問題はありませんでした。
だって、私が望んでいた状況と、
部長が望んでいた状況。
それはぴったり一致していたのですから。
私達が望んだのは、私達二人だけの世界。
私達以外誰も居ない閉じた世界。
それが今現実になっている。
ああ、なんて幸せなんでしょう。
…でも。
「そんな回りくどい事しなくても、
一言言ってくれればよかったのに」
「んー。それも考えたんだけどねー」
「でも、やっぱこうするのが最善だと思ったのよ」
「そうかなぁ。最初から素直に
好きって言ってくれてれば、
もっと早く付き合えてたんだよ?」
「それだと咲は健全なままじゃない」
「あの頃の貴女は
『私以外の人と完全に縁を切って』
って言われて、『はい切ります』
って即断できたかしら?」
「…無理だったかも」
「でしょう?」
くすりと部長は微笑みます。
一糸まとわぬ姿で私の頭を抱き寄せながら、
耳元に唇を近づけます。
「それじゃ駄目なの。だって私は壊れてるんだから」
「咲にも壊れてもらわないと…ね?」
「…部長がここまでおかしいとは思わなかったよ」
「ふふ。知らなかったでしょ」
「うん」
本当に知らなかった。
部長がそんなに私の事を愛してくれていた事も。
愛しすぎて、壊れてしまっていた事も。
私は何も知らなかった。
そう考えたらふと気になったんです。
本当は、まだ私の知らない事が
いっぱいあるんじゃないかって。
「…もっと教えて?私の知らない部長の事」
「…知らない方が幸せかもよ?」
「や、やっぱりまだ何かあるんだ…」
「知らないでしょう?私は貴女の事を」
「−−たいって思ってるの」
耳元で囁かれる狂気に、ぞくりと身を震わせます。
もっとも、私が感じたのは恐怖ではなく。
甘い痺れが全身を駆け巡っているあたり、
私もやはり壊れているのでしょう。
「いいよ?」
「本当に!?」
部長だって知らないでしょう?
もう、今更部長が何を望んだって、
私は喜んで受け入れちゃう事を。
そう、例えば今ここで。
二人で死んでと言われたとしても。
「全部、受け入れるよ?」
だから、教えて?
私の知らない、部長の事。
囁き返しながら、私は部長の唇を塞ぐのでした。
(完)
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まあ最高なんですけどね
ノーマルこそが壊れてるって感じですかね?
咲さんサイドと久さんサイド共にすばらでした。
久さんならその後自分の指を舐めてそうですが、咲ちゃんは目の前で広げて、その違いはなんだろうと考察した結果どっちもエロかわいいのでどうでも良いやという結論に達しました。
行動的な咲ちゃん>
久「咲の場合病んだら自滅していきそうよね」
咲「今回のはそうならないように
部長に誘導されましたけどね…」
壊れてるのがノーマル>
久「何がノーマルかは人それぞれなのよね」
咲「合わせる方は大変だよ…」
その違いはなんだろう>
久「私は単純に自分がしたいからする」
咲「私はその行為をした事実を
認識してほしいからする」
久「その違いじゃないかしら?」
冒涜的な欲求>
久「さすがに引かれると思ったから」
咲「まあ確かに驚きました」