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【咲-Saki-SS:久咲】久「痛いの痛いの、飛んでいけ」【ヤンデレ】【依存】【異常行動】

<あらすじ>
『痛いの、痛いの、飛んでいけ』

それは取るに足らない子供だまし。
なのに、部長が使うとたちまちに、
全てを治癒する魔法に変わる。

私はその効果に夢中になった。
その魔法が、危険な呪詛であるとも知らずに。


<登場人物>
竹井久,宮永咲

<症状>
・異常行動(重度)
・ヤンデレ
・依存(重度)

<その他>
次のリクエストに対する作品です。
・痛いの痛いの飛んでいけ

・若干の婉曲的なグロ表現があります。
 苦手な方はご注意を。


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躓いて転んだ。

石一つ落ちていない、綺麗に舗装された道。
段差もない安全なはずの道。
なのに見事に躓いた。


「あいたたっ…」


膝から全身に痛みが広がっていく。
じんじんと疼きながら伝わる痛みに
自然と目頭が熱くなる。

ぎゅっと目を閉じて耐える事数秒。
少しだけ余裕ができて、激痛の大元に目を向ける。

膝頭から血が滲んでいた。


「うわっ…すごい血が出てる…!
 痛いわけだよ…」


慌てて傷から目を背けるものの、
痛みはまるで治まらない。

こんな時は、部長に
『痛いの痛いの飛んでけ』して
もらわなくちゃ。
あの魔法を掛けてもらえれば、
きっとこの痛みも楽になるから。


「は、早く部長のところに行かないと…」


痛む足を引き摺りながら、
部長の待つ部室を目指し始めた。



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『痛いの、痛いの、飛んでいけ』







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初めて『それ』をしてもらったのも、
今日みたいに躓いた時の事だった。


「ありゃりゃ、すっごい転び方したわね」

「うぅっ…痛いですっ……」


膝を押さえて涙ぐむ私。そんな私に、
部長は幼子を見る様に優しく微笑む。
そして、『あの』魔法を掛けてくれたのだった。


「いたいのいたいの、とんでけー」

「しょ、小学生じゃないんですから」


何となく馬鹿にされた気がして、
ついつい頬を膨らませる。
それでも部長は気にする事なく
にこにこして私に語り続ける。


「私ね、この魔法好きなのよ。
 案外馬鹿にしたもんじゃないと思うわよ?」

「…そうですか?」

「うん。ほら、実際今も
 痛みから気が逸れてるでしょ?」

「…あ」


言われてみてはたと気づく。
確かに部長と話している間、
私は痛みを忘れていた。

今も痛みは鈍く疼いているけれど、
先程までの苛烈さは感じない。


「効果抜群だったでしょ」


にひひ、と部長が口角をあげる。
なんとなく敗北感を味わいながら、
私はぽつりと呟いた。


「…まあ、多少は」


私の反応を受けて、部長の顔が
意地悪な笑みに変わる。
心の機微に敏感な部長は、
私の胸の内なんてお見通しなんだろう。
胸を占める悔しさの比率がさらに増していく。


「あはは、ちょっとでも効けば何よりだわ。
 さ、応急処置はこのくらいにして
 医務室に行きましょっか」


そう言うと、部長は当然のように
私の体を持ち上げた。
不意に感じた浮遊感と、
急激に近づく部長の顔。
心臓が早鐘のように鳴り出して、
頬に熱がたまっていく。


「わわわっ!?何してるんですか!?」

「何って…お姫様抱っこだけど」

「は、恥ずかしくないんですか!?」

「でも歩いたら痛いでしょ?
 大人しく私に抱かれてなさい」

「だ、抱くって!」

「ほらほら騒ぐと余計傷が広がるわよー。
 色んな意味で、ね」


喧騒を耳にした部外者が足を止める。
そして私達の姿を見つけて色めきたつ。
黄色い声が上がり始めるのを聞いて、
私は思わず叫び出していた。


「も、いいですから
 早く行ってください!早く!」

「はいはい、承知しましたお姫様」


恭しく返事した割には、
部長の歩みは牛歩のように遅く。
好奇の目にじっくりと曝されて、
私は顔を真っ赤にして俯いた。


「うぅぅ…もう死にたい……!」


ふるふると羞恥に震えながら、
一心に医務室に辿りつくのを待ち続ける。

足の痛みなんて頭から消えていた。
それが部長の気遣いだとは、
その時の私にはわからなかったけど。



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これが、私が初めて魔法を受けた時の出来事。
確かに効果はあったけれど、これだけなら
ただの懐かしい思い出で終わっていただろう。


『それ』が絶大な効果を発揮したのは二回目の時。

四月からずっと積み上げてきた努力が、
一瞬で台無しになったあの日の事だった。


「……」


滞在先のホテル。部屋の片隅で膝を抱える私。
部長はそれとなく人払いすると、
私の正面で屈みこむ。

何も言わない私の胸に、
そっと優しく手を添えて。
部長はあの時と同じ魔法を唱え始めた。


「……痛いの、痛いの、飛んでいけ」


無性に心がささくれ立って、
思いがけず低い声が出た。


「…何してるんですか」

「だって、咲、痛そうだから」

「……」


私は思わず歯噛みした。

確かにあの日、擦りむいた怪我に
効果があったのは認める。

でも所詮は子供だまし。
そんな安易な言葉で癒せる程、
この傷は浅くはない。

私は努めて冷たい声で言葉を返した。


「…痛いです。でも、この傷は
 その魔法じゃ癒せません」


だからほっといてほしい。
暗にそう伝えたつもりだった。
そうして一方的に
拒絶したつもりだったのに、
それでも部長は怯む事なく
立ち向かってくる。


「私はそうは思わないわ」

「痛いの痛いの飛んでいけ、ね。
 うん、本当に痛みが飛んでいくわけじゃない。
 それは勿論わかってるわ」

「でもね、大切なのは効き目じゃないの。
 自分の事を心配してくれる人が居る。
 自分のために、痛みを取り去ろうと
 してくれる人が居る」

「その事実を伝える事が大切だと思うのよ」

「だから、私は言い続けるわ」

「貴女の痛みが、飛んでいくまで」

「……」

「勝手にしてください」


私は部長を突き放す。
それでも部長は離れない。

私を固く抱き寄せたまま、
何度も何度も魔法を唱え続ける。


「……痛いの、痛いの、飛んでいけ」

「……痛いの、痛いの、飛んでいけ」

「……痛いの、痛いの、飛んでいけ」


繰り返す内、私の頭に熱い何かが
滴り落ちるのを感じた。


部長の涙だった。気づけば部長の声には
嗚咽が混じり、声は震えてか細くなった。


「……痛いの、痛いのっ…飛んでいけっ…」


まるで、部長が私の痛みを
肩代わりしているようだった。
でも、どうして部長が。
部長に、私の痛みなんてわかるはずもないのに。


そこまで考えて、私の脳裏にある記憶がよぎった。
そう言えば聞いた事がある。
部長も一度名字が変わってるって。
家族との離別を経験してるって。

そう考えたら、今度は部長の痛みが
流れ込んでくる気がした。
私の痛み、部長の痛みが混ざりあって、
頭がぐちゃぐちゃになって
わからなくなってくる。


「……っ」


気づけば私も泣いていた。
部長と二人で、縋りつきながら泣いていた。
そして、自然と口に出していた。


「痛いの…痛いの…飛んでいけっ……」

「…飛んでけっ…」


うわ言のように繰り返す。
わけもわからず繰り返す。

痛い、痛い、痛い、痛い。

魔法を繰り返せば繰り返すほど、
自分が痛がってるのを思い知らされる気がする。
飛んでいくどころか、
私達の間をぐるぐると痛みが
循環している気にすらなる。


「飛んでけっ…!飛んでってよぉっ……!」


それでも私達は唱え続けた。
夜が終わって空が白み、
日が差し込んでも唱え続けた。
疲れ果てて眠り込むまで。

そして、二人抱き合って眠った後は……
少しだけ、痛みが楽になった気がした。



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結局のところ、『その』の言葉には
魔法のように苦痛を
取り去るような力はなかった。

それでも、部長はことある事に
私に魔法を掛けてくれた。

ちょっとした怪我をした時は勿論、
物思いに沈んでいる時。
少しでも私が顔をしかめると、
部長は魔法を唱えてくれる。


「…痛いの、痛いの、飛んでいけ」

「…わかっちゃいました?痛がってるの」

「わかるわよ。そんな顔してたら」


抱き寄せられて耳元で囁かれる度に、
魔法は魅力を増していく。

例え効果がなかったとしても、
部長の気遣いが嬉しかった。


「部長。魔法、掛けてもらっていいですか」

「いいわよ。おいで?」


少しずつ魔法に依存していく。いつしか私は、
魔法をねだるようになっていた。
ほんのちょっとでも苦しい事があると、
部長の姿を探し始めるようになった。


「…痛いの、痛いの、飛んでいけ」


部長は部長で、どんな時でも嫌な顔一つせず
魔法を唱えてくれた。心を込めて、
優しく魔法を唱えてくれた。


すると、不思議な事が起こり始める。


なんと、本当に痛みが消えるのだ。
どれだけ苦しくても、悲しくても、辛くても。
部長の魔法を聞いただけで、
すっと全てが楽になる。


「ありがとうございます…
 すっかり良くなりました」


魔法が、本当に魔法になった。
私にとって部長は、絶対に欠かす事のできない
『魔法使い』になっていた。



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痛いの、痛いの、飛んでいけ


私の全てを癒す魔法の言葉


部長の魔法さえあれば、
私はどんな痛みにも耐える事ができる




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その効果の虜になった私は


それが破滅に繋がる呪詛でもある事に


気づく事ができなかった





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その日、私は胸に耐えがたい痛みを覚えた。
だから、いつものように部長に魔法を求めた。

でも、部長は魔法を唱えてはくれなかった。
寂しそうに微笑みながら、
部長は私の唇に指をあてる。


「駄目よ、咲」

「私はもうこの学校を卒業する。
 今までのように、いつも咲のそばに
 居るわけにはいかないの」

「いつまでも、私の魔法を頼りにしてちゃ駄目」


どくん。胸の痛みが激しくなった。
胸を握り締めて押さえつけるも、
痛みはどんどん酷くなっていく。


「お、お願いです。部長。
 まほう、唱えて、ください」


激痛に顔をしかめながら懇願するも、
部長は首を横に振った。


「ねえ咲。私は確かに卒業するわ。
 でも、咲の周りには、
 私以外にも居るでしょう?」

「和も、優希も、まこだって。
 長野にまで範囲を広げれば、
 衣やはじめだっている」

「皆に掛けてもらいなさい。
 魔法を使えるのは私だけじゃないわ」


どれだけ縋りついても結局、
部長は魔法を掛けてはくれなかった。

私は痛みに耐え切れず、
半狂乱になって叫び出す。

そして、部長の代わりに
魔法を掛けてくれる人を探し始めた。



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色んな人に魔法を掛けてもらった
皆が皆真剣に唱えてくれた
私の苦しみが少しでも軽くなるように


『痛いの痛いの飛んでいけ』

『痛いの痛いの飛んでいけ』

『痛いの痛いの飛んでいけ』

『痛いの痛いの飛んでいけ』

『痛いの痛いの飛んでいけ』


駄目だった
『痛いの』は全く飛んでいかなかった

苦痛は私に留まり続け
その激しさを増していく
荒れ狂う痛みが私の心を壊していく


そこで初めて私は気づいた

誰でもいいわけじゃないんだ
部長じゃなきゃ駄目なんだ

お願い、部長
私に魔法を掛けてください
お願い お願い お願い


絶え間なく襲い掛かる激痛に
喉を掻きむしりながら
私は部長に希う


願いは返ってこなかった


どうすればいい?どうすれば部長は
私に魔法を唱えてくれる?

追い詰められた私は意味もなく視線を泳がせる
そしてついに見つけてしまった

そうだ、『これ』なら部長はきっと
私に魔法を掛けてくれる

私は『それ』を手に取ると、
逆手に持って、深々と腕に振り下ろす


目の前が真っ赤になった
痛い、痛い、痛い!!


でも、これなら…!


『痛いの、痛いの、飛んでいけ』
してくれるよね……?



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大学のキャンパスの入り口に私は陣取る
部長が通り過ぎるのをひたすら待ち続ける

部長がどこに居るかは知っていた
卒業したとはいえ、部長はまだ
長野に留まっていたから


「ひっ…な、何あれっ……!」

「ヤバくない…!?警察呼んだ方が……!」


帰り道、私の姿を目にとめた大学生が
恐怖に顔を引きつらせる
そそくさと逃げる様に去って行く者もいれば、
心配そうに様子を伺う者もいた

一応隠しては来たけれど、
やっぱりそれなりに目立っちゃうみたい
部長、早く来ないかな
じゃないと通報されちゃうかも


「…さ、さき」


幸い、ほどなくして部長は姿を現した

他の学生と同じように、顔を真っ青に染めて
小刻みに体を震わせている

私はにっこり微笑むと、
部長の前で両腕を広げた


「ぶちょう。痛いです」

「まほう、かけてください」

「これだけ、ひどいけがなら…
 まほう、となえてくれるよね」


部長は、はらはらと目から涙を零しながら、
私をぎゅぅと抱き締めた


「ばかっ……!」


そうして私をしかりつけながらも、
朱に染まった私の手を取って

傷口に擦り込むように、
いつもの魔法を唱えてくれた


『痛いの、痛いの、飛んでいけ』


ああ、ああ。
その魔法は、まるで本当に魔法のように
私の体から苦痛を取り去ってくれる
傷の痛みはもちろん、心の傷の痛みすらも


「やっぱり、ぶちょう じゃなきゃ だめなんだ」

「他の人じゃだめなんだ
 ぶちょうじゃなきゃ だめ」


安堵の笑みを浮かべる私とは対照的に
部長は苦しそうに唇を噛む


「部長も いたいの?」


痛みに耐えるようなそのしぐさを見て
今度は私が魔法を掛けた


「いたいのいたいのとんでいけ」


ありがとう

部長はしゃくりあげながら
私を固く抱き締めた



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私達は片時も離れず寄り添いあった
どちらかが少しでも傷ついたら、
すぐにもう片方が魔法を掛ける


『痛いの、痛いの、飛んでいけ』


それでもう一安心
痛みは飛んで消えていく

久さんが言っていた
これは暗示療法っていって
精神病なんかに使われる
治療の一つだと

思い込みの力は強いから
心にイメージを植え付け続けると、
そのイメージは実際に
体の反応となって表れる
そんな反応を治療に生かすのだと


でも、使い方が非常に難しくて
素人がやるとかえって
危険な事になるらしい


「私は使い方を間違えた」


そう言って久さんは泣いた
私はすぐに魔法を唱えた


『痛いの、痛いの、飛んでいけ』


そしたら久さんは笑顔になった
私をぎゅっと抱き締めると
壊れた笑顔で囁いた


「そうね…どうせ間違えちゃったなら
 いっそ貫いちゃいましょう」

「貴女の魔法で、私を癒して頂戴」

「私も、一生貴女に唱え続けるから」


私も笑顔で頷いた
久さんは嬉しそうに私に頬ずりすると、
そっと唇に口づけた



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そして今日も唱え続ける
私達は唱え続ける


『痛いの、痛いの、飛んでいけ』


私達を救う魔法の言葉を


……私達を縛り続ける呪詛の言葉を



(完)
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posted by ぷちどろっぷ at 2016年01月16日 | Comment(5) | TrackBack(0) | 咲-Saki-
この記事へのコメント
久視点待機ですな!
Posted by at 2016年01月17日 02:25
タイトルだけ見たら甘々の赤ちゃんプレイ……? とか思ったけど良い感じに病んでた。
Posted by at 2016年01月17日 09:41
いっそ咲さんも呪詛を唱えればさらに素敵な具合に…?
言葉は呪詛にも心の支えにもなりえるから怖い
それを自由自在に操れるここの久はほんと凄い…
Posted by at 2016年01月17日 23:57
コメントありがとうございます!

久視点待機>
久「いや今回は腹黒じゃないわよ?」
咲「でも裏で何か考えてても
  違和感ないですよね」

良い感じに病んでた>
久「最初はあまあま予定だったわ」
咲「そっちもリクエストされてるので
  追加で書くかもです」

自由自在に操れるここの久>
久「いやだから今回の私はまともだから」
咲「裏がなかった分たち悪いですよ…」
Posted by ぷちどろっぷ(管理人) at 2016年01月18日 16:42
完全に共依存の状態に入った段階で久さんに対する呼び名が部長から久さんに変わってるんですね。久さん視点が待ち遠しいです!

言い忘れるとこでした、久さんかわいい!
Posted by at 2016年01月19日 00:30
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