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【咲-Saki-SS:久咲】 久「たった、一口だけのチョコ」【時事ネタ:バレンタイン】

<あらすじ>
バレンタインらしく甘酸っぱい感じの
咲久SSです。

<登場人物>
宮永咲,竹井久,その他清澄

<症状>
・あまあま砂吐き?

<その他>
病み成分ほぼゼロの健全SSです。白久白咲。
ご注意を。


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寒さが厳しい2月の長野。
駅前を歩いていたら、身を切るような風に
肌を撫でられて、ぶるりとその身を震わせました。


「うぅっ、今日も寒いなぁ……」

「早く帰ろ……んん?」


足早に通り過ぎようとした私の耳に、
明るい喧騒が届きます。
華やいだ雰囲気に足を止めると、
そこにはお菓子屋さんがありました。

ピンクを基調にしてたくさんのハートが
これでもかとちりばめられた看板。
その看板の横を、私と同じくらいの
年の女の子がひっきりなしに出入りしています。


(あ、そっか…もうすぐバレンタインだっけ)


自分にはあんまり関係ないな。
なんて一度はふいと視線を戻して、
そのまま通り過ぎようとしたものの。

視界の端に見覚えのある姿を見つけて、
慌ててぐるんと向き直ります。


(え…部長!?)


それは確かに部長でした。
鮮やかな赤髪をなびかせながら、
スタスタと店の奥に消えていきます。


(あ、見失っちゃう…!追いかけないと!)


反射的にお店のドアをくぐってしまう私。
人ごみに身を潜めながら、
こっそり部長の後をつけていきます。

我ながら変な事をしてるとは思ったけれど。
『部長が誰かのためにチョコを用意する』
その事実を前にしては、とても
冷静ではいられなかったんです。


(…どうか、義理チョコでありますように)


迷い無くフロアを一直線に進む部長は、
ある棚に辿り着いてぴたりと足を止めました。

左から右へ、一通り視線を巡らせた後に、
やがて一つの大きな箱を掴みます。


『あったあった』


それは小さなチョコレートが一杯入った、
いわゆる「お徳用」と呼ばれるような代物で。
友チョコだとか義理チョコだとか、
いかにもそんな用途に使われそうなチョコでした。

部長はそのまま、寄り道する事なく
まっすぐレジへと歩いていきます。
その様子を見届けて、私は
ほっと胸を撫で下ろしました。


(…よかった。さすがにあれが
 本命チョコって事はないよね)

(…って、何してんだろ私。早く帰ろ)


心配が杞憂だったとわかると同時に、
自分のしていた事が急に恥ずかしくなってきて。

お店を出ようと踵を返したところで、
ある棚の商品が目に留まりました。


(あ…こっちは手作り用のチョコなんだ)


そこに陳列されていたのは、
ちょっとお高めの製菓用チョコレート。

『特別な人に、特別な材料で』

なんてメッセージと共に印字された値段は、
手を出すには少し躊躇する額で。

それでも私は、なかなかそのチョコから
視線を外す事ができませんでした。


(…特別な人に、かあ)


買おうかどうか、散々逡巡を繰り返して。
誰にも見つからないように、
きょろきょろ周囲を見渡した後。

私はこそっと隠れるように、
包みを1つだけ手に取りました。



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レジで会計を終えて、大切に鞄にしまいこんだ後。
足早に帰路につきながら、私は一人
思考の海に埋没していました。


(手作りチョコなんていつぶりだろう)


まだお姉ちゃんが家にいた頃は、
頻繁に作っていた気がします。
生チョコみたいに少し手の込んだチョコになると、
買うより作る方がはるかに安いですから。

でもある日、あの事件が起きて。
お姉ちゃんと離れ離れになって。

渡す相手がお父さんと京ちゃんだけになってからは、
自然と作る事もなくなりました。

いや、別にお父さんや京ちゃんが
特別じゃないって事もないんだけれど。
お父さんだけに手作りチョコっていうのも
少しやり過ぎな気がします。
かと言って京ちゃんだけになんて贈ったら、
それこそ周りに勘違いされそうですし。

そんなわけで、もう何年もチョコなんて
作った記憶がありませんでした。


でもあの時、製菓用チョコレートを見て。
『特別な人に』って文字を見た瞬間、
あの人の顔が思い浮かんでしまったんです。

麻雀の楽しさを忘れていた私に、
勝つ楽しさを教えてくれたあの人。

麻雀部に私を勧誘して、結果的に
お姉ちゃんと仲直りする
きっかけを作ってくれたあの人。

いつも飄々としてこちらを振り回す癖に、
実は弱いところもあって。
気づけば私の心を奪い取っていたあの人。


――あの人に、特別な想いを届けたい


つい、そんな事を考えてしまったんです。


「あ、咲ちゃん!やっと見つけたじょ!!」

「わひゃぁっ!?」


自分の世界に浸りきっていた私を、
突然の大声が呼び戻します。

慌てて声のする方に振り向くと、
和ちゃんと優希ちゃんが
駆け寄ってくるところでした。


「むむ、なんだか怪しい反応だじょ。
 さてはよからぬ事をしていたな!」

「そ、そんな事ないよ?それより、
 やっと見つけたってどういう事?」


本気で問い詰める気はなかったのでしょう。
話題のすり替えに突っ込む事もなく、
優希ちゃんは質問に答えてくれました。


「もうすぐバレンタインだじょ?
 日頃お世話になってる部活のみんなに
 手作りチョコケーキを振る舞おうと考えたのだ!」

「みんなが別々に同じ事を考えていたら、
 当日大変な量になってしまうと思いまして…
 せっかくなので一緒に作りませんか?」


日頃の感謝の気持ちを込めてチョコを作る。
あまりに健全なその提案に、
酷く恥ずかしくなりました。

私は本命にばかり気を取られて、
すっかり忘れちゃってましたから。


(…そっか。そっちも用意しなくちゃだった)

「うん、私もその方が助かるよ」

「じゃ、さっそく材料買いに行くじょ!」


言うが早いか、和ちゃんと私の
手をとりながら歩き出す優希ちゃん。
慌てて歩調を整えながらも、いつしか私の思考は、
また同じ方向に流れていきます。


(何作ろう…多分たくさんもらうんだろうし、
 少しずつ食べられるタイプがいいよね)

(いっぱいもらうって事は、普通の味だと
 飽きちゃうかな。ちょっと
 隠し味とか入れた方がいいかも)


そう、それはこれからみんなで作る
チョコレートの事ではなく。
こっそりとあの人にだけ渡す、
本命チョコの事でした。



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そして迎えたバレンタインデー当日。

部長が持ってきたチョコは、やっぱり
あの時買っていたお徳用チョコでした。


「ハッピーバレンタイン!
 はい私からの友チョコよ!
 日頃の感謝の気持ちを込めて!」

「まーたお前さんは大袋か」


その口ぶりを聞くに、去年も同じだったのでしょう。
呆れるように肩をすくめる染谷先輩に、
部長は悪びれる事もなく言い返します。


「学内平和のためよ。私が
 手作りチョコなんて持って来たら、
 血で血を洗う争いが始まっちゃうでしょ?」

「言ってんさい」

「今年は作る事も考えたんだけどねー。
 でも、むしろ持って来ない方が
 いいかなって思って」

「どがぁな意味じゃ」

「冷蔵庫開けてみればわかるわよ」


言われるがままに冷蔵庫の扉を開ける染谷先輩。
中には似たような大きさの箱が3つ、
所狭しと詰め込まれていて。

頭をかいて苦笑しながら、
染谷先輩はそっと扉を閉じました。


「…あー。考える事は同じじゃったか」

「かぶる可能性も考えてはいたんですが…
 先輩方には、できれば1年生だけで
 日頃の感謝を伝えたかったので」

「でもなんで3つあるんだろ」

「わり、1つは俺が持ってきた奴だ」

「なんで犬までケーキ作ってきてるんだじょ」

「今和が言ったじゃねぇか。
 バレンタインは日頃の感謝の気持ちを
 伝えるもんだろ」

「相変わらず女子力高いわねー」

「この一年で鍛えられましたからね。
 でも、裏目に出ちゃったみたいで…すいません」


そう。私達だけならまだしも、
何故か男子の京ちゃんまで
ケーキを作ってきていて。

直径18cmの日持ちしないケーキが3つ、
整然とテーブルに並ぶ事になりました。


「…これはさすがにキツイわね」

「気持ちは嬉しいんじゃが…
 6人でホールケーキ3つか」

「1人あたりホール半分って事になるわね。
 しかも皆揃って6号サイズ」

「みんなで食べるなら大きい方が
 いいと思ったんだじょ」

「ねえ知ってる?ケーキのカロリーは
 大きさや種類でまちまちだけど、
 6号のケーキだとなんと、
 3000キロカロリーに及ぶ事もあるそうよ!」

「なしてそれを今言うんじゃ」

「いやだってもし私まで持ってきてたら、
 ケーキが4つになってた可能性もあったわけで。
 見事回避した私をほめるところでしょ」

「はいはい流石最高学年」

「1人当たり1500キロカロリーですか…
 目に見えて太りそうですね…」

「おにぎり1個が約180キロカロリーとして
 8個ちょい食べる計算ね」

「そう聞くと意外とたいした事ないじょ」

「優希ちゃん基準ならそうかもだけど…
 太る以前に食べきれる気がしないよ」

「今日一日で食べきらなくてもいいんじゃない?
 二日に分けて食べれば。明日お昼ご飯抜いてさ」

「それもはや耐久レースの様相を呈してるじょ」

「…ま。味が落ちる前に、
 少しでも量を減らしときますか」

「そうね」


食べる前から少しげんなりした面持ちで
フォークを手に取る私達。

最初の一口二口こそ美味しい美味しいと
口々に賞賛しながらも。
食が進んでいくにつれ、やがて
皆の口数は少なくなっていきます。

そんな中でただ一人。私だけは
別の理由で気が重くなっていました。


(…こんなに食べちゃったら…
 多分私のチョコ食べる余裕なんてないよね…)


少しでも部長にわたる分量を減らそうと
頑張ってはみたものの。
元々どちらかと言えば小食な私は、
自分に分配された分を消化する事すらできなくて。

部長が口にケーキを運ぶさまを、
暗い面持ちで眺める事しかできませんでした。



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皆で悶え苦しみ…もとい歓談しながら
たらふくケーキを平らげて。
誰も練習しようとしなかったので、
そのまま解散となりました。


「明日はちゃんとお昼抜いてくるようにねー。
 じゃあ、今日もお疲れ様でした!」

「「「「「お疲れ様でした」」」」」」


徐々に遠ざかっていく人影を
ぼんやり虚ろに眺めながら。
私は一人、大きくため息を吐き出します。


「…はぁ。結局渡せなかったなぁ」


私の想いは、いまだ鞄の奥に
閉じ込められたままでした。

大量のケーキを頬張ったあの人は、
若干青白い顔でしきりにお腹をさすっていて。

そんな状態でさらにチョコを渡しても、
ただの嫌がらせにしかならないと思ったのです。


「……こんな事だったら、
 さっさと朝渡しちゃえばよかった」


なんて毒づいてはみたものの、
それはそれで難しかったわけですが。

下駄箱も、引き出しの中も、
すでに朝からたくさんのチョコで
埋め尽くされていて。
その中に無理やり押し込む気には
とてもなれませんでした。

結局、あの人にチョコを渡そうなんて
考え自体が間違いだったのでしょう。


「…はぁ。無駄になっちゃったなぁ。
 どうしよう、これ……」


『それ』を取り出してまじまじと眺めながら、
ぽそりと小さく呟きます。

どうしようも何も、もう捨てるか
自分で食べるかしかないのだけれど。
どちらも選びかねて、無情に天を仰いでいると――


――後ろから声をかけられました。


「どうしようもなにも、
 普通に渡せばいいじゃない」

「ぶ、部長!?」

「その呼び方、全然直らないわねー。
 今の部長はまこでしょう?」

「あっ…た、竹井先輩」


振り向いたその先には、
なぜか部長が佇んでいました。

なんで、どうして。
確かに別れたはずなのに。


「や、だってまだ大切な用事が終わってないし」

「用事って何ですか?」

「んー、ちょっとここでは
 話しにくいのよね。だから…」


「ついてきてくれる?」

「えっ、あ…部長!」


私の返事を聞く前に、部長は
すたすたと歩き始めてしまいます。

慌てて後を追いかけて、こっそり
部長の顔を覗き込むものの。
その表情から、部長の感情は読み取れなくて。

私は戸惑いながらも、ただ黙って
後をついていくしかありませんでした。



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部長についていく事数分。てっきり近場の
人通りの少ない公園にでも行くのかと思ったら、
部長は私の手を引いて電車に乗りこんでしまいました。

降りた後も歩き続けてまた数分、
とあるアパートまで辿り着いて。
そこでようやく部長は足を止めました。


「ようこそ我が家へ!」

「えぇぇ!?」

「ささ、立ち話もなんだから入った入った」

「え、ええ…?…お邪魔します…?」


訳も分からず、促されるままにお邪魔して。
綺麗に整頓された部屋に通されます。

そこで部長は、私の前にずいっと身を乗り出して。
満面の笑みで両手を差し出しました。


「さ、ちょうだい?咲の本命チョコ」

「ええ!?」


瞬時に全身が沸騰し、汗が吹き出します。
もっともそんな私の様子なんてお構いなしに、
部長は催促し続けるのですが。


「ほれほれ、持ってるんでしょ?
 早くちょうだい」

「ど、どうしてそう思うんですか?」

「ん?」

「その、これが……ほ、本命チョコだって」

「だって咲ってば、今日一日中
 私の事チラチラ見てたじゃない」

「あんな熱っぽい目で見続けられたら、
 誰だって簡単に気づくわよ」

「うぅっ」

「ほらほら、早く出しなさい?
 私のもちゃんとあげるから」


うりうりー、と私に絡みつきながら催促する部長。
その過剰なスキンシップに頭から湯気が立ち昇る私。
それでも流石に、その爆弾発言を
聞き漏らす事はありませんでした。


「え…私の分、あるんですか!?」

「もちろんあるわよ?しかも、
 世界にたった一つだけの手作りチョコ!」

「え、だって、部長、あの時」

「うん。確かに尾行されてた時は、
 友チョコ分しか買わなかったけどね」

「き、気づいてたんですか!?」

「私の洞察力をなめちゃ駄目よ?
 あの後こっそり製菓用のチョコも買ったのよ」

「な、なんでそんな事」

「あの後逆に咲の事を監視してたんだけど、
 咲が製菓用チョコ買ってたからねー」

「咲が手作りチョコくれるのに、
 私だけ既製品ってわけにはいかないでしょ?」

「ぶ、部長のためとは限らないじゃないですか」

「ま、そこはそうだけどね。
 でもあんな固唾をのんで動向を見守られてたら、
 もしかして本命私かな?って思うでしょ」

「うぅ…ちゃんと隠れてたはずなのに……」

「あはは。身を隠したかったら
 まずはオーラを隠さないとね」


ニヤニヤと意地悪い笑みを浮かべる部長は、
少しだけ私から距離を置きます。
そして傍らにあった鞄をごそごそ漁って、
一つの箱を取り出しました。

それは一目で特別なものだとわかるくらいに、
丁寧に、綺麗にラッピングされています。


「さ、封を開けて?」

「は、はい…」


破かないように恐る恐る包装を取り除くと、
中から可愛らしい箱が顔を出しました。

さらにその箱の蓋を持ち上げると…
入っていたのは、たった一つの小さなトリュフ。

部長はそれをひょいと摘まむと、
私の口元に運びます。


「はい、あーん」

「え、あ、その」

「ほら、あーん。溶けちゃうから早く食べて?」


有無を言わさず眼前に突きつけられるチョコ。
私は頬を真っ赤に染めながら、
部長の指ごとチョコをくわえこみます。


「…どう、美味しい?」

「……お…美味しい、です……」


本当に美味しいチョコでした。

少し前にあんなに一杯チョコを食べたばかりで、
『もう当分チョコはいいや』
なんて思っていたはずなのに。

美味しくて、美味しくて。
目に涙が滲んでしまう程でした。


「うん、食べたわね!あ、これ
 言うまでもなく本命チョコだから。
 咲はこれで、私の告白を
 受け入れたってことで!」

「えぇえ!?部長、私の事好きなんですか!?」

「うん。ずっと前から好きでした!
 付き合ってください!」

「順番逆じゃないですか!?」

「いやー先に既成事実作ってからの方が、
 話が通しやすいかなと思って」


言いながら、部長がどんどん詰め寄ってきます。
その勢いに押されながら後ずさっているうちに、
気づけば私は部長に押し倒されていました。


「で、返事はどっちなの?
 イエス?それとも…はい?」

「そ、それ、どっちも同じじゃないですか」

「そりゃ、ここまで来てノーなんて
 返事は許さないもの」

「ほら。返事ちょうだい?早く言わないと…
 有無を言わさず食べちゃうわよ?」


部長の目がじっと私を見つめます。
もちろん、答えなんて最初から決まっているのだけれど。

あまりに唐突な展開に、
私の脳は処理が追いつかなくて。
この幸せが本当に現実なのか
掴み切れなくて。

思考の限界を振り切ってしまった私は、
答えをまとめるを放棄して、
思ったままを口にしてしまいました。


「じゃ、じゃあ…食べてください」

「…チョコより先に、本人を
 食べる事になるとは思わなかったわ」


私の返事に、部長は少し吹き出しながらも。
やがて私に覆いかぶさって…
そのまま唇を塞いでくれました。



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それからは、いろんな事があり過ぎて。
ふと我に返った頃には、もうどっぷりと夜は更けて。
結局そのまま、部長の家に泊まる事になりました。


「今日はご馳走様でした」

「…ど、どういたしまして……」


部長と二人、一つの布団に包まりながら。
少しだけ冷静さを取り戻した私は、
どうしても聞きたかった事を
聞いてみる事にしました。


「あの、一つ聞いてもいいですか?」

「なーに?」

「あの、私の事本当に好きなんですよね」

「冗談でこんな事言うわけないでしょ?」

「で、でも。どうして私なんですか?
 部長なら、他にいくらでも…」

「何言ってるの。貴女以外に誰がいるっていうのよ」

「えと、だって…」


信じられなかったんです。


だって、部長みたいに凄い人なら、
あえて私なんか選ばなくっても。
もっと綺麗で、頭が良くて、
相応しい人が居るはずで。

だから、想いを告げようとはしたけれど。
まさかそれが成就するとは、
露程も思っていなかったんです。


「だから…どうして部長が、私を選んだのか、
 さっぱりわからなくて」


私の心情を聞いた部長は、
「あはは」と少しだけ苦笑して。

私の頭をくしゃりと優しく撫でながら、
ゆっくりと語り始めます。


「ねえ咲。貴女は、やたら私の事を
 雲の上の人みたいに持ち上げてくれるけどね」

「私にとっても、貴女は
 ヒーローみたいなものなのよ?」

「ヒーロー…?」

「そ。いろんな意味でね」

「3年かけて、部員が揃うのを待ち続けて。
 それでもやっぱり5人に届かなくって」

「夢を諦めかけていた時に、
 貴女がやってきてくれた」

「……」


思わず唇を噛みました。

部長が語ってくれたそれは、
確かに事実ではあるけれど。
私自身の意志で成し遂げた事では
ありませんでした。


「…でも、それってただの偶然ですよね」

「そうかもね。でも、あの時私は救われた。
 貴女が麻雀部に入ってくれて、
 私がどれだけ喜んだかわかってないでしょ」

「私、陰でこっそり泣いてたからね?」

「……」

「それだけじゃないわ。
 例えばインターハイの団体戦オーダー。
 あれは私が考えたわけだけど」

「私が貴女を大将にした理由…わかる?」

「それは…点数調整に慣れてるからじゃ」

「それもあるわ。でもね、実はもう一つ。
 もう一つだけ、私の我儘な理由が入ってるの」

「我儘…ですか?」

「考えてみたの。もし、団体戦で
 自分の命運を誰かに託すとして。
 もし、それで負けてしまったとして」

「それが誰だったら諦めがつくかなって」

「考えた時、貴女の顔が思い浮かんだ。
 貴女しか考えられなかったの」

「…自分が大将になろうとは
 思わなかったんですか?」

「私?あはは、ないない。
 自分の性分はよくわかってるもの」

「咲だって知ってるでしょ?
 私は見た目程心が強くないって」

「自分だけならまだしも、
 他人の想いまで背負って戦うなんて。
 そんなプレッシャー耐えられるわけないわ」


私の問いかけに、部長はちょっとだけ
自重するように眉を下げました。
でもそんな顔をしたのはほんの一瞬。
すぐに部長は、熱のこもった視線で私を見据えます。


「だから私は、貴女に託した。そして貴女は
 期待通り、私達を全国に導いてくれた」

「もちろんそれは、まこも、和も、優希も、須賀君も。
 皆の力があっての全国だけど」

「それでも、最後の最後、
 その切符を掴み取ってくれたのは貴女」

「私にとって、貴女は
 文句なしにヒーローなのよ」


そう言うと、部長は私の肩に腕を回して、
私の顔を引き寄せます。


「ぶ、部長…」

「もう。何度も言わせないでよ。
 今の私は部長じゃないってば」

「あ、ごめんなさい…たけいせんぱ」


それも最後まで言う事は許されず。
そっと唇に指を添えて、
部長は訂正を促しました。


「それも、もう違うでしょ?」

「…え、ええと」

「わかるわよね?」

「……」


「ひ、ひさ」


「ハイ正解。じゃあ、次に、
 何したらいいかも…わかるわね?」

「……」


目と鼻の先で部長が微笑みながら。
そのまま、すっと瞼を閉じます。

私は小さく震えながらも、
同じように瞳を閉じて、そして――


――。


「……よくできました」


部長は目を細めて、少しだけ頬を染めながら。
とろけるような笑顔で微笑んだのでした。



(完)


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−おまけ−





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「うん。やっぱり咲のチョコは美味しいわねー」

「久さんの作ってくれたチョコも
 すごく美味しかったですよ?」

「……」

「…でも、久さんってやっぱり怖いなあ。最初から
 『ああなる』事を見越してたって事ですよね?」

「『ああなる』って?」

「いやほら久さん、一口分しか
 用意してなかったじゃないですか。
 それって皆がケーキ持ってきて、
 お腹いっぱいになる事を予想してたって事ですよね?」

「…あ、あはは……」

「…あれ?違うんですか?」

「……」

「……本当に予見してたなら、
 そうなる前にストップかけるでしょ」

「誰かは持ってくるとは思ってたけど。
 まさか3つも並ぶとは思ってなかったわよ」

「…じゃあ、あのチョコはどうして……?」

「……」

「あ、あの…久さん?」

「あーもう、白状するわよ!
 手作りチョコなんて初めてだったから、
 単に失敗しまくっただけ!」

「唯一渡せる形で残ったのが
 一口だけだったのよ!悪い!?」

「え、えーと」

「もっと言わせてもらえばね!
 てっきりすぐくれると思ったのに
 全然くれなかったから、
 内心ハラハラし通しだったのよ!?」

「もしかして全部私の思い過ごし
 だったんじゃないかって、
 本気で泣きそうだったんだから!」

「……」

「……」

「な、なによその沈黙」


「……久さん、可愛い」

「ちょいちょいそういう可愛いの
 入れてくるの、本当にズルイです」


「っ!ああもう、うるさいうるさーい!」


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posted by ぷちどろっぷ at 2016年02月13日 | Comment(9) | TrackBack(0) | 咲-Saki-
この記事へのコメント
実はドキドキしてた久さんちょー可愛いです!(^^)
ドロドロしてなくて珍しいなと感じました!
Posted by at 2016年02月14日 00:17
ひっささき!
いつも素晴らしい久咲ありがとうございますっ、
久さんめっちゃ可愛い!
Posted by at 2016年02月14日 00:30
せっかくのバレンタインなのに血は入らないんですか?
Posted by at 2016年02月14日 00:53
アマ━━━━(゚∀゚)━━━━イ!!!!
チョコより先に咲ちゃんを食べちゃう久さんカッコ良い。でも手作りチョコを失敗しちゃう久さんかわいい。
こういう健全なのもたまにはいいですね。ここから後日病むのを想像しちゃうのはここで訓練されてるから仕方ないとして。
Posted by at 2016年02月14日 05:17
健全なのに注意を促される謎の現象。

料理が苦手っぽい久さん可愛い。 定番のチョコ塗りプレイは来年に持ち越しですかね。
Posted by at 2016年02月14日 05:47
これはかわいいですわ、
Posted by at 2016年02月14日 06:54
血入チョコレートでヤンヤンするのかと思ったら甘甘だった !!!
こういう久咲もいいですねぇ ..

久さんかわいい !!
咲さんかわいい !!
Posted by とあるヤンデレ好き at 2016年02月14日 19:20
久さんも咲ちゃんも可愛いなぁ!
Posted by at 2016年02月15日 08:24
コメントありがとうございます!

ドロドロしてなくて珍しい>
久「たまには甘いのもね!」
咲「久さん可愛い」

久さんめっちゃ可愛い>
咲「久さんって、実はすごい可愛いんですよ?」
久「やめて頬から火が出るからやめて」

血は入らないんですか>
咲「入れてないって言いましたっけ?」
久「やめて!せっかくいい感じなのに!」

ここから後日病むのを想像しちゃう>
咲「病むとしてもあまく病んでいくと思います」
久「お互いの事しか見えない、みたいなね」

定番のチョコ塗りプレイ>
咲「そ、それって裸って事じゃ…!」
久「指とか想像しないむっつり咲さんでした」
咲「もー!もー!!」

血入チョコレートで>
久「血入りチョコレート予想多過ぎでしょ」
咲「うちのブログだと定番ですしね」
久「いやすぎでしょそんな定番」

かわいい>
久「咲さん可愛い」
咲「久さん可愛い」
Posted by ぷちどろっぷ(管理人) at 2016年03月27日 12:59
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