現在リクエスト消化中です。リクエスト状況はこちら。

【咲-Saki-SS:久咲】 咲「あの日、選べなかった道」【狂気】

<あらすじ>
触れれば無残に刻まれる。
近づいてはいけない諸刃の剣。
それが、私にとっての咲だった。

それでも咲を癒したい。
今も血が流れるその傷を舐めてあげたい。
そうする事で、少しでも咲の苦しみを
和らげる事ができたなら……

そして私は今日も。斬られると
わかっていながら手を伸ばす。


<登場人物>
竹井久,宮永咲,その他

<症状>
・ヤンデレ
・狂気
・トラウマ
・異常行動

<その他>
次のリクエストに対する作品です。
・咲さん自身が諸刃の剣みたいな、
 そんな咲に触れたくなる久をお願いします

※宮永家の真実および上埜家の真実が
 原作で詳しく明かされていない状態で書いています。
 心理描写など含め原作とは多分に異なると
 感じる点があるかもしれませんがご容赦を。

※予想外に長くなったので切りました。
 続き(サイド咲:解説編)を読みたい方は
 コメントで「久さんかわいい」をお願いします。
 →
 書きました。
 (咲「今度は私も、選べる気がする」)




--------------------------------------------------------



夢を見た。
大勢の大人に取り囲まれる夢を。


奪われた。
私を表していた名前の一部を。


名札を乱暴に引き千切られた。
ノートに記してあった名字を
黒く塗り潰された。
体操服のゼッケンも、上履きも、ロッカーも。
名前の付くものはひとつ残らず奪い取られた。

名字を失った私。
代わりに与えられた名字は――


『竹井』


私が塗り替えられていく。
自らの意思とは無関係に、
強制的に作り変えられていく。


『竹井、竹井、竹井久』

『お前はもう竹井久』


顔のない大人達が皆その名を口にする。
耳を塞いでかぶりを振っても、
呪わしい声が直接脳を揺さぶってくる。


『上埜久はもういない』

『上埜久はもう死んだ』


お前はもう竹井、竹井、竹井、竹井――



--------------------------------------------------------







「やめてぇぇえっ!!!」







--------------------------------------------------------



自らの絶叫で目が覚めた。
勢いよく上体を起こした私は、
そこが自分の部屋である事に気づく。


「――夢っ…」


いまだ呼吸を乱しながら、
私はそう結論付けた。

視界を埋め尽くしていた大人達は消え去った。
それでも、不安は今もなお。
私の脳に色濃くこびりついている。

恐る恐る背後の闇を振り返る。
無人。誰も居ない事を確信して、
私はようやく安堵のため息をついた。

額をぐいと手で拭う。
手の甲には脂汗がべっとりと
纏わりついている。


「…久しぶりに見たわね…」


とうに吹っ切れたと思っていた。
なにせ『あれ』から、ゆうに3年の月日が流れている。
当時は頻繁に見たこの夢も、
記憶からすっかり抜け落ちたはずだった。


「…なんで、今になって蒸し返しちゃうのかしら」


口をついて出た疑問。ううん、
目を背けたかっただけだ。
本当は何が原因かなんてわかりきっている。


「……咲」


そう。咲に触れてしまったからだろう。
今まさにもがき苦しむ、咲の傷に。



--------------------------------------------------------







『あの日、選べなかった道』







--------------------------------------------------------



きっかけは些細な事だった。

部活が終わった帰り道。
咲と二人で歩いていたら、
仲睦まじい二人組の姿が目に留まった。

まだ小学生くらいのおさげの少女が、
お姉さんらしき少女の腕に
しがみついている。

お姉さんはそれを窘めつつも、
満更でもない笑みを浮かべていた。


(仲いい子達ね。姉妹かしら?)


もっとも、ただそれだけの出来事だ。
別に特筆する事はない。
少し心が温まってそれでおしまい。
次の瞬間には、私の関心は
今晩の食卓に移っていた。


「ねえ咲、お惣菜買いたいから
 スーパーに寄ってもいいかし……ら?」


軽い気持ちで咲の顔に視線を移し、
私はとっさに息を呑む。

瞳に映る咲の顔は、今までに
見た事がないものだった。


「……さ、咲?」


問い掛けの言葉に返事はこない。
咲の双眼は名も知らぬ姉妹に
釘付けになっていた。

ただ一度の瞬きもせず、
咲は姉妹を凝視し続けている。
目を見開き、表情のない顔のまま。


「…咲、どうしたの?様子が変よ」

「……」

「……咲!」

「っ!?は、はい」


語気を強めて呼び掛けて、
ようやく咲は戻ってきた。
それでも周囲に立ち込める緊張は解けず、
場を張り詰めた空気が支配している。


「急にどうしたのよ…あの二人、
 実は知り合いだったとか?」

「い、いえ…そういうわけじゃ」


歯切れの悪い応答を返した後、
咲は儚げに目を伏せる。
次に虚ろな瞳で空を仰ぐと――
ぽそりと、絞り出すように呟いた。


「私にも、姉が居るんです」

「もう、居ませんけど」


たった二言。にもかかわらず、
その言葉は激しく矛盾している。


その矛盾は、痛烈に私の胸を突き刺した。


自然と理解できてしまった。
その矛盾が意味する処を。
だって、その矛盾は、
私も抱えているものだったから。


私にも両親が居て、でも、もう居ない。


今もあの人達は、どこかで生きているだろう。
でも、私の世界にはもう居ない。


「…咲もだったのね」

「…え?」

「私ね。旧姓は上埜なのよ。
 今はもう、竹井に変わっちゃったけどね」

「中学校の時に両親が離婚してさ。
 どっちからも捨てられて、
 今は貧乏な一人暮らしの真っ最中」

「……そう、だったんですか」

「ま、今は気にしてないけどね。
 もうずいぶん前の話だし」


嘘偽りのない事実だった。
両親を除けば、私は人に恵まれた。
おかげで私は、この事実を
過去に葬り去る事ができた。

…でも、どうしてだろう。
咲に刺された胸の痛みはまだ消えず。
棘のようにいつまでも残り続けている。


咲は神妙な面持ちで聞いていた。
私が言葉を区切ったとみると、
今度は自分の身の上を語り始める。


「……」

「うちは…今はまだ、離婚はしてないんですけど」

「でも、お母さんとお姉ちゃんは
 遠くに行っちゃって。
 もう、ずっと別居状態です」


咲は辛そうに唇を噛んだ。
『今は、まだ』
咲は確かにそう言った。
でもこの様子を見る限り、
先行きは決して明るくないのだろう。

咲はしばらく俯いて押し黙った後。
やがて、縋るような目で私に問い掛ける。


「…もし、駄目になっちゃったとして」

「私も、吹っ切る事ができるでしょうか」


「部長みたいに」


いつしか私達は足を止め、
お互いの顔を覗き込んでいた。

時計はまだ六時を刻んだばかりだった。
空は夕陽に照らされて、
周囲を赤く染めている。

なのに私たちの周りだけ、黒く、黒く。
決して振り払えない闇に
飲み込まれていくようだった。

そんなありえない錯覚に囚われたのは。
咲の目が、あまりにも深い
闇を湛えていたからだろう。


「……」


なおも咲は見つめ続ける。
その目をじっと覗き込んでいると、
言い知れぬ不安がざわめき始める。


(…私は本当に、吹っ切る事ができたのかしら)


私はアレを過去の物にできたのだろうか。
私は、完全に竹井久になれたのだろうか。

だって。今も。私は。
咲の。言葉が。刺さって。胸が。


痛い


咲が私を凝視する。心の傷がどんどん
開いていくような気がする。

呼吸が浅くなる。心拍数が上がっていく。
まるで、本当に傷が開いて
血が流れているかのような――


「終わる前から、そんな事を考える必要はないわ。
 そういうのはね。本当に終わってから考えればいいの」


これ以上、この話題に触れるのは危ない。

私は呼吸を詰まらせながらも、
なんとか上辺を取り繕った。



--------------------------------------------------------














--------------------------------------------------------



血を分けた家族との破局。

その事実を知られてから急に、
咲と触れ合う機会が増えた。


「部長、一緒に帰りませんか?」


咲は目に見えて私に懐くようになった。
身の上に共感を覚えたからか、
だからこそ胸の内を吐き出せると判断したのか。

咲は私と一緒に居る事を好み、
積極的に思いを伝えるようになった。


「今日、お父さんが出張で居ないんです」

「一人の家に帰ると思うと、
 なんだかすごい寂しくて」


先輩として頼られるのは素直に嬉しい。
咲のように、どこか一歩引いて
距離を置くような子ならなおさらだ。
私は逡巡しながらも、咲の誘いに乗っかった。


「まったく咲はあまえんぼねえ。
 ま、仕方ない。お姉さんが送ってあげるわ!」

「あ…ありがとうございます!」


暗く沈んだ咲の顔に、ぱあっと明るい光が灯る。
そんな咲に愛らしさを覚えつつも、
胸に不安が広がっていくのを感じた。
だって咲は、事あるごとに――


私の傷を抉ってくるから。


咲に触れられると、癒えたはずの古傷が
じくじくと疼きだす。しかも一度開いた傷は、
決して癒える事はない。

ほら今日も。咲は取り止めのない雑談中に、
唐突に刃を突き付けてくる。


「夕ごはんどうしようかなあ。
 一人分って、勝手がわからないから
 作りにくいんですよね」

「あー、わかるわかる」

「急に人数が変わるの、本当に嫌だな……」

「……」

「例えばほら、料理本のレシピとか
 見るとするじゃないですか」

「ああいうのって、大体
 三人前か四人前ですよね」

「…そうね」

「前だったらそれでぴったりだったのに。
 でも今は、半分にしなくちゃいけないんです」

「…ああ」

「それで毎回思い知らされるんです。
 ああ、もう二人は居ないんだなぁって」

「それが。寂しくて仕方ないんです」

「……」

「わかるわ」


私にも身に覚えがあった。もっとも、
私の場合は三人前から一人前だったけど。

その違いは意外な程に大きい。
単純に数を減らせばいい、
なんて単純な問題ではないのだ。

まず食材の高さに気が滅入る。
大根を丸ごと一本買えば安く済むのに。
独り身では使い切れないから、
割高なカット済みを買わなければならない。

調理器具だってそうだ。
三人の時にはちょうどよかった鍋も、
一人分には大きすぎる。


でも、何より辛くて怖いのは。
それを食卓に並べた時だ。


私の脳裏に、寒々しい食卓の風景がまざまざと蘇る。
座る人の居ない椅子。作り過ぎた料理。
「美味しい」と呟いた後の沈黙。

それを初めて味わった時。
目の端から涙が滲んで、
味がまったくわからなくなった。

それでも頑張って作っていたけれど。
自分が一人になったという事実ばかりが
重く圧し掛かってきて。

そして私は、自炊する事をやめた。


(ああ。だから。咲と一緒は嫌なのよ……)


咲の姿、言葉を通して、
私は過去の苦痛を再体験する。

一度は乗り越えたはずの悲しみが、
私の心を再び引き裂いてくる。


「もう、今日はお惣菜で済ませちゃおうかな」


結局咲が出した結論は、
私が選んだそれと同じものだった。
その言葉を聞いた時、なぜか涙腺が酷く緩んで。
思わず顔を背けながら、私はこんな言葉を吐いた。


「じゃ、私がお相伴にあずかろうかしら?
 そしたら二人分になるでしょ」

「…っ、いいですね!」


私の言葉を受けて、咲の顔に笑顔が戻る。
それはまるで、絶望の淵から
救い上げられたとばかりに。
細められた目の端には涙が鈍く光っていた。


(ああ、これだ…この子が、本当に厄介なところ)


触れたら触れただけ傷つけられる。
わかっているのに、それでも
つい手を差し伸べてしまう。
その傷を舐めて癒したいなんて思ってしまう。


その日は結局、咲の家でご飯を食べた。
二人で一緒にお風呂に入って、
そのまま互いに抱き合って眠った。


「ああ。なんだか嬉しいな」

「お姉ちゃんが戻ってきてくれたみたい」

「…なんてそんな事……
 ありえないんですけど」


灯りを消した暗闇の中、
ぽつりとこぼした咲の言葉。

それがまた、私の心を突き刺した。



--------------------------------------------------------














--------------------------------------------------------



触れれば無残に刻まれる。
古い傷が次々ぱくりと開き、
傷から血が流れ落ちていく。

近づいてはいけない諸刃の剣。
それが、私にとっての咲だった。

傷つくのはもちろん嫌だ。
それでも触れずにはいられないのは、
咲の今に、私の過去を見るからだろう。

激しく斬られて初めてわかる。
咲が今まで、どれ程の苦悩を隠してきたのか。

咲の身に何があったのか、
細かいところは聞けてない。

途方もない闇に身を投げ出すようで、
踏み出す勇気が奮い起こせないから。

それでも。言葉の節々から伝わる片鱗だけでも。
咲が極めて危うい状態にあるのは、
容易に想像する事ができた。

少しでも咲を癒したい。
その傷をそっと舐めてあげたい。
それで、少しでも咲の苦しみを
和らげる事ができたなら……


そして私は今日も。斬られると
わかっていながら手を伸ばす。



--------------------------------------------------------














--------------------------------------------------------



全国大会が始まり、駒を進めていくにつれ。
咲はどんどん不安定になっていった。

妙に明るく気丈に振る舞っていたかと思えば、
途端に足を止めて先に進む事ができなくなる。
笑っていたかと思えば、
次の瞬間には真顔になって
空を虚ろに眺めている。

一見すれば不条理な咲の行動。
でも私は、その意味を正確に理解していた。

咲が麻雀で全国を目指した目的。それは、
疎遠になったお姉さんと再び絆を取り戻すため。

麻雀で全国に駒を進めれば、
いずれはきっとお姉さんとぶつかる。

言葉では伝える事が出来なかったとしても。
幼い頃慣れ親しんだ麻雀でなら、
想いを告げる事ができる。
咲はそう信じて疑わない。


「麻雀を通してなら…心を
 通わせられる気がするんです」


それは裏を返せば、もはやそれ以外に
手が見つからないという事でもあった。

もし今回、お姉さんが咲を
受け入れる事がなかったら。
その時こそ、咲の家族は本当に。
致命的な結末を迎える事になるのだろう。


咲の想いの終着点であり、そして
不安材料でもあるもう一人の宮永。
彼女とまみえる時が刻一刻と近づいている。
咲が不安になるのも当然の事だった。


「ついに、ここまでやって来ました」

「白糸台高校。お姉ちゃんがいる学校」

「私のこれまでが、すべて明日にかかってる」


真っ直ぐ前を向いたその眼差しはとても強く。
でもどこか酷く危うい。

その強すぎる瞳に言い知れぬ不安を感じて、
私はあえて口をはさんだ。


「…せっかくやる気なのに水を差すのもなんだけど…
 貴女のお姉さんは先鋒よ?」

「いいんです」

「お姉ちゃんの学校の大将を『叩き潰せ』ば…
 きっと、私の想いもお姉ちゃんに伝わるはずだから」

「……!?」


ゾクリッ


背筋が激しく粟立った。

まるで理解ができない発想だった。
狂気に染まり切ってるとしか思えなかった。

全力を出し切った上での感動を狙うならまだわかる。
でも、手を取り合ってきた
かけがえのない仲間を蹂躙されて、
どうして和解が訪れるだろうか。


(…ど、どうしてそんな結論になっちゃったの!?)


あまりにも咲らしくない
乱暴な発想だった。

確かに私は、咲に何度も傷つけられた。
でもそれは咲が悪いわけじゃない。
私が勝手に、咲の中に過去の自分を見出して。
一人で勝手に傷ついていただけだ。

咲自身は、少し人見知りで気が弱くて。
遊びの麻雀ですら、人に勝つ事すらためらって、
表情を伺うような子だったはずだ。


その咲が、どうして――


「部長のおかげです」


「部長が、勝つ事の楽しさを教えてくれたから。
 私に麻雀の楽しさを思い出させてくれたから」

「部長が、部活に誘ってくれたから。
 麻雀でお姉ちゃんと再び触れる道筋ができた」

「昔の私は間違ってました。
 怒られるのが嫌で、
 プラマイゼロなんてして。
 そんなの誰も楽しくないのに」

「今の私ならわかります。だから、
 全力であの子を叩き潰します」

「そう思えるようになったのも、
 全部部長のおかげです」


「ありがとうございます」


私の思考を咲が遮る。そして咲は、
自分が狂った原因は私にあると告げた。
頬を綻ばせ、感謝の言葉を口にしながら。


目の前が真っ暗になった。


今の今まで、自分は被害者だとばかり思っていた。
いつも深い闇に覆われている咲。
その咲に引っ張られて、私まで
不安定になってきているのだと。

でも、咲の言った事が事実なら。
全ての原因は私にあって。私の言葉を拠り所に、
咲は狂気に囚われていった事になる。


もし、これで、そのせいで。
咲とお姉さんの関係が、
より破滅的になってしまったとしたら――


私は咲に、どうやって償えばいいんだろうか。


私にできる事はと言えば、
全てがうまくいくように祈る事だけだった。



--------------------------------------------------------














--------------------------------------------------------














--------------------------------------------------------














--------------------------------------------------------






――そして、破局が始まる






--------------------------------------------------------














--------------------------------------------------------














--------------------------------------------------------














--------------------------------------------------------



きたる決勝。咲は宣言通り大将を叩き潰した。
いささかの迷いもなく。徹底的に彼女を蹂躙した。


その行為が姉の目にどう映ったか。
それを彼女が口にする事はついになかった。

でも、大将戦の終わりを告げるブザーが鳴り響き。
会場に駆け付けた宮永さんの悲しい瞳が、
何よりも雄弁に物語っていた。

雀卓に突っ伏して、力なく嗚咽する大星さん。
その姿を見て、宮永さんは目を伏せる。
肩が、少し震えているように見えた。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」

「テルの三連覇、駄目にしちゃってごめんなさい」


宮永さんの姿を目に留めると、
泣きじゃくりながら、ただただ
謝罪の言葉を口にする大星さん。


「…いいんだよ。皆、全力で戦った」

「いい試合だった。淡は、何も悪くない」


そんな大星さんに慰めの言葉をかけながら、
優しくその肩を抱く宮永さん。

宮永さんが大星さんを抱き起こす。
二人は寄り添うように会場を去っていく。


宮永さんは、ただの一言も咲に言葉を贈らなかった。
視線を向ける事すらしなかった。



--------------------------------------------------------




咲は、立っていた。

ただ、立っていた。

何も言わず。人形のように。




--------------------------------------------------------




違う 咲はきっと待っていたのだ


愛するお姉さんに声をかけられるのを


固唾を飲んで待っていたのだ


でも 何もなかった


彼女がお姉さんからもらえたのは


昔と同じ


拒絶


それだけだった




--------------------------------------------------------






こうして 咲の家族は終わった






--------------------------------------------------------














--------------------------------------------------------














--------------------------------------------------------














--------------------------------------------------------



姉との繋がりを断ち切った咲の刃
その矛先を次に向けられたのは私だった

斬られる理由はいくらでもあった
私には、咲の刃を受ける義務があった

私のせいなのだ
私が咲を部活に引きずり込まなければ
私が咲に勝つ楽しさを教えなければ

咲はここまで 絶望的に
傷つく事もなかったのだから


「もう、宮永家は終わりですね」

「私も、部長みたいに名字が変わるのかな」

「私は大丈夫かな。お父さん側だもん」


「捨てられる側だから」


咲が斬る、斬る、斬る、斬る
私の心を、魂を切り刻む


「部長はどんな気持ちでした?」

「完全に家族の縁が切れて、
 もう二度と修復できないって悟った時」

「やっぱり泣きました?
 死んじゃいたいって思いました?」


「今の私みたいに」


それでも私は抱き締める
剥き出しの刀身を抱き締める


「……そうね。でも、咲はまだ
 ましな方だと思うわよ」

「…どうしてですか?」

「私が……いるじゃない」


血が噴き出して流れ出す
それでも私は力を籠める


「部長もどうせ、私を捨てて
 どこかに行ってしまうんじゃないですか?」

「……私は行かないわ」

「嘘ですよ。血の繋がった家族ですら、
 私の事を捨てたのに」

「きっと、私はもう許される事はないんだ。
 ずっと、ずっと独りぼっちなんだ」


咲は自らを嘲るように吐き捨てる
泣きながら笑う咲の姿は、
あの時の私そのものだった

そんな咲を救いたかった
でも、私の言葉は咲に届かない

せめて私にできる事は
咲の刃をその身で受けて
一緒に血を流す事だけだ



--------------------------------------------------------














--------------------------------------------------------



あの日を境に、咲は私に対しても
距離を取るようになった


話せば斬りつけてはくるけれど
今までのように私に心を預けてくる事はなくなった


抱き締めても、抵抗する事はない
でも、抱き締め返してはくれない


それでも、できる限り咲の傍にいた
いつか咲が、私を許してくれる日を夢見て



--------------------------------------------------------



周りは私達の事を心配した
それとなく精神病院の受診を促される事もあった


それを聞いて私は思った
やっぱり周りは何もわかっていない


今咲に必要なのは人との繋がりだ
咲を助けられるのは私しかいない



--------------------------------------------------------





ねえ咲 私を信じて


私なら貴女を捨てたりしないから


いくらでも斬られてあげるから





--------------------------------------------------------














--------------------------------------------------------







そして、運命の日が訪れる







--------------------------------------------------------














--------------------------------------------------------



その日も私は咲に付き纏っていた

ストーカー並みに咲の情報を嗅ぎまわっていた私は
咲のお父さんが出張するのを知っていた


「ねえ咲。今日咲の家に行っていい?
 ご飯作るのがめんどくさくなっちゃって」


つまり、咲は家に一人になる
子狡い考え方だけど、それを機に
咲の心にもう一度入り込めるかもしれない


「…ごめんなさい」

「そこをなんとか。ほら、私を助けると思ってさ」

「……」

「部長」

「何?」

「どうして部長は、そこまで私に構うんですか」


落ちくぼんだ咲の目が
ぎょろりと私の姿を捉える

その目に一切の光は灯らない
耐性のない人が向けられたら、
悲鳴すら上げたかもしれない

それでも私は喜んだ
咲に見てもらえた事が嬉しかった


「言ったでしょ。貴女の傍に居たいの。
 貴女を独りにしたくない」

「……」


もう何回も 何十回も言い続けた言葉
今までは空振りに終わっていたけれど

その日、咲は考え込んだ
やはり家に独りぼっちという状況が
咲の心に影を落としたのかもしれない


「わかりました。その言葉…
 一度だけ、試してみる事にします」


やがて、咲は首を縦に振る
私はつい感極まって、思わず咲に抱きついた



--------------------------------------------------------




その日は半年ぶりに、咲と二人で眠った


残念ながら、その日はすぐに寝入ってしまったけれど


思っていた以上に、私も疲れていたのかもしれない


でも気に病む事はない


きっとこれからは、また


こうして二人で寝る機会も増えていくはずだから





--------------------------------------------------------














--------------------------------------------------------





――パチ…パチパチ





--------------------------------------------------------





パチパチッ…

パチッ…ボッ…





--------------------------------------------------------






――――ゴウッッッ






--------------------------------------------------------













--------------------------------------------------------



息が苦しくて目が覚めた


視界に映り込んだ色は、赤

全てが赤く染まっている

火の粉が爆ぜ、私の横を瓦礫が崩れ落ちていく


「…火事!?」


状況を理解するのに数秒かかった

私はようやく覚醒すると

傍らで寝ているだろう咲に声を掛ける


「……咲!?」


布団はもぬけの殻だった

最悪の想像が脳裏をよぎる

激しく胸打つ鼓動を抑えながら

私は必死に咲の姿を探す


「――咲!!」


咲は立っていた

ただ何もせず立っていた


木々が燃え盛る部屋の隅っこで


「何やってるの咲!そんなところに
 居たら危ないわ!」


「逃げましょう!早く!!」


咲は微動だにしなかった

場にそぐわない淡々とした声で

私に選択を突き付ける


「ぶちょう。選んでください」

「私を助けようとして、一緒に死ぬか」

「それとも、私をおいて、一人で逃げるか」

「何をばかなことを言ってるの!!!」

「どっちかを選んでください。
 私は逃げる気はありません」

「お願いさき!はやく!こっち来て!」


「死んじゃう!死んじゃうのよ!!」


「……」


「だったら、それが正解なんだよ」


火の粉が激しく舞い上がる

それでも咲は動かない

咲を見捨てて生き残るのか

咲と一緒に燃え尽きるのか


私はどちらかを選ばなければいけない


「…ぶちょう。えらんで。
 まだ。すがたが。みえる。うちに」


刹那、私達の前に炎の柱が立ち昇る
咲への道が炎に遮られる

もはや問答をしている猶予はない

私は足を踏み出した



そして、私が選んだ道は――



--------------------------------------------------------




「――」


「――」




--------------------------------------------------------




「――」


「――」





--------------------------------------------------------







「――」






--------------------------------------------------------














--------------------------------------------------------






燃え盛る炎が、私達の全てを包み込んだ






『真相』
 Yahoo!ブックマーク
posted by ぷちどろっぷ at 2016年02月21日 | Comment(28) | TrackBack(0) | 咲-Saki-
この記事へのコメント
久さんかわいい!
ブログのほうにコメントするのは、さりげなく初めてだったりします。
締めがとても謎めいていて、真実が気になります。どうか解説編もお願いします……!
Posted by アモルファス at 2016年02月21日 21:35
久さんかわいい!

お互い病んでて重い話で、前回とは違った感じで面白かったです!
Posted by at 2016年02月21日 21:36
底が見えないほどブラック
Posted by 名無し at 2016年02月21日 21:39
あぁ .. 今回もゾクゾクしました !!
咲さんが平仮名で喋るあたりがとても好きです !!!
咲視点期待してます !!!


久さん可愛い !!
咲さん可愛い !!
Posted by とあるヤンデレ百合好き at 2016年02月21日 22:05
今回もゾクゾクしました。
平仮名になる所とても好きです !!
咲視点期待してます!
咲さん可愛い !!
久さん可愛い !!
Posted by at 2016年02月21日 22:06
久さんも結構想いが重いですね。
咲以外の友人や後輩に対してはまた違った想いを抱くんでしょか。
照たちの動向や心理についても気になる所存です。
そして久さんかわいい。
Posted by at 2016年02月21日 22:14
久さんかわいい
Posted by at 2016年02月21日 23:15
久さんかわいい
Posted by あ at 2016年02月22日 00:25
久さんかわいい
Posted by まる at 2016年02月22日 01:43
久さんかわいいです。咲さんの病み具合が最高です。続きがとても気になりますのでぜひ続きをお願いします。
Posted by at 2016年02月22日 05:43
久さんかわいい!
って言えるほど軽い内容ではないですね…
でも咲ちゃんを救おうと必死になる久さんやっぱりかわいい
Posted by at 2016年02月22日 07:27
久さんかわいい!
Posted by えすみ at 2016年02月22日 10:42
久さんかわいい!!
続き期待してます!
Posted by at 2016年02月22日 18:35
久さんかわいい!
続きがちょーきになるよー
Posted by at 2016年02月22日 19:12
久さんかわいい!
Posted by みすと at 2016年02月22日 19:18
久さんかわいい!
Posted by at 2016年02月22日 20:50
いつかまたじくじくみたいなのもやっちくり
久さんかわいい
Posted by 名無し at 2016年02月22日 21:43
久さんかわいい!
どーなるんだろ…
Posted by at 2016年02月22日 22:11
久さんかわいい!!
続きが気になりつつ、照サイドがどうなっているかが気になります。
いつもわたしの楽しみを作ってくださり、ありがとうございます。
Posted by at 2016年02月23日 00:37
久さんかわいい!
死んじゃったかぁ…
Posted by at 2016年02月23日 04:52
ひっささき、ひっささき
久さんかわいい
Posted by at 2016年02月23日 06:06
これはデッドエンドなのだろうか…?
ぷちさんのデッドエンドは初めてな気がする
 
何も出来ぬまま崩壊してゆく様に心打たれた
 
この後宮永家に何か変化は起こるのか、麻雀部の皆は何を思うのか?そもそも本当に死んだのか?
とても続きが気になりますよ〜
 
なので…… 久さん可愛い!!
Posted by ろ過されたホモ at 2016年02月24日 05:56
末路がなんにせよ…、久さんかわいい。スバラです❗
Posted by くま at 2016年02月25日 12:41
久さんかわいい
Posted by at 2016年02月25日 23:48
狂気の沙汰程、面白い…。久さんかわいい。
Posted by くま at 2016年02月26日 21:58
久さんかわいい
Posted by at 2016年03月06日 13:33
久さんかわいい
Posted by at 2016年03月12日 00:50
コメントありがとうございます!!
久さんかわいい以外はできるだけ
コメントします!
(重複してる奴はまとめちゃいました…)

どうか解説編もお願いします>
久「こちらでは初めましてね」
咲「解説編も書きました!本編より
  長くなりましたけど!」

お互い病んでて重い話で、前回とは違った感じ>
咲「前回も読んでくださって
  ありがとうございます」
久「どっちも脆くて危ういっぽいから、
  歯車狂うと重くなっちゃいそうなのよね」

底が見えないほどブラック>
菫「解説編で書いたが、実際には
  これよりはるかに重かったな」
照「全員病んでるという」

咲さん平仮名>
咲「解説編書きました」
久「この時咲はあんなこと思ってたのねー」

久さんも結構想いが重い>
菫「4人で雀卓を囲む事もできないのに
  2年待ち続けるくらいだからな」
照「各人の動向は解説編で」

咲ちゃんを救おうと必死になる久さん>
咲「部長って事がうまくいってる時は
  飄々としてるけど、そうじゃない時は
  みっともなく取り乱しながら
  手を伸ばす人な気がします」
咲「そんな人だから好きなんですけどね」

いつかまたじくじくみたいなのも>
菫「意外とこのブログって人死なないんだよな」
宥「そうだね」
玄「意外に死んでないよ!」

照サイドがどうなっているか>
菫「実はこっちはこっちでボロボロだった」
照「そうでもなかったでしょ」
菫「自覚がないだけだ」

これはデッドエンドなのだろうか>
菫「解説編を参照いただきたい」
照「宮永家の闇」
Posted by ぷちどろっぷ(管理人) at 2016年03月27日 12:50
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/174152683
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。

この記事へのトラックバック
 なんかブログランキング参加してみました。
 押してもらえると喜びます(一日一回まで)。