現在リクエスト消化中です。リクエスト状況はこちら。

【オリジナル百合SS】「ヤンデレ気質の駄目ドラゴン」【ヤンデレ】【ギャグ】

<あらすじ>
竜の谷。名が示す通り、そこには竜が棲んでいる。

危険極まりない魔窟。だがそこに、
無謀にも一人の冒険者が足を踏み入れた。

その目的は、自分ではない誰かを生かすため。

薬の調合に必要な薬草を採取するため、
少女は自らの命を賭して竜に挑みかかる――


あ、ちなみにどっちかというとギャグです。


<登場人物>
少女,竜

<症状>
・ヤンデレ(軽微)
・割とあまあま

<その他>
・管理人が夢で見たシリーズ。
 珍しく軽い百合話に。


--------------------------------------------------------



絶対見つかるわけにはいかなかった。
存在を認識された時。それは私が死ぬ時だ。

すがるように、何度も何度も祈りながら。
ダンゴムシのように丸まって、
じりじりと少しずつ前に進む。


「うぅっ…出てきませんように…!
 絶対に出てきませんようにっ…!」


緊張のあまり額に滲む汗を拭いながら、
私は反対側の壁、高さ20mくらいの位置に視線を移す。

そこには、竜が棲むと言われている洞穴が
ぽっかりと口を開けていた。
奥を見通せないその深淵を見つめていると、
そこに引きずり込まれそうな錯覚に陥る。
それがまた、私の中の恐怖を一段階押し上げた。


そう。今私が侵入しているエリアは竜の縄張りど真ん中。
もし仮に、竜が洞窟から姿を現したとしたら、
その時点で私の命はかき消える。

だから祈る。出てきませんように。
見つかりませんようにと。

ちなみに私は駆け出しの冒険者だ。
どのくらい駆け出しかと言うと、
酒場で仲間を募っても誰も
相手にしてくれないくらいのビギナーだ。
最弱と名高いオークですら
3体も出てくればボコボコにやられる自信がある。

そんな私がなぜ危険極まりない竜の縄張りを
侵しているのかと言うと…


これが、このあたりの冒険者にとって
一番簡単な依頼だと言われたからだった。



--------------------------------------------------------



『はあ!?ドラゴンの寝床を荒らす!?』

『ああ。お前みたいなレベル1の
 クソ雑魚冒険者でもできる簡単なお仕事だ』

『いやいや何の冗談!?ドラゴン退治とか
 レベル30のフルパーティーでも足りないでしょ!』

『普通のドラゴンならな。それに、
 そもそも倒せなんて言ってないだろ』

『同じじゃん!縄張り入ったら
 襲い掛かってくるんだから同じじゃん!』

『そこだ。どういう理由かは知らないが、
 あの谷の竜は襲って来ない』

『こっちから無駄に刺激したりしなければ
 普通にやり過ごす事ができるだろう』

『…ホントに?』

『本当だ。いくらお前が、レベル1で
 何のツテもなく一人で酒場に乗り込んできた上に
 依頼をよこせとすがりつく
 ウザいアホだとしても、
 死なれたら流石に夢見が悪いからな』

『なんでちょいちょい罵倒挟んでくるの!?』



--------------------------------------------------------



聞けば、ここの竜が無害なのは有名な話で。
この谷での採集作業は、駆け出し冒険者定番の
お使いイベントとのことだった。

過去に調子に乗った街の若者が、肝試しと称して
谷を練り歩いた事もあったらしい。
それでも別に殺されたりはしなかったそうだ。


『だから大丈夫だ。安心して採取に勤しんでこい』

『…まあ、そういう事なら…』


そんなわけで、私は渋々この依頼を引き受けた。

そうは言っても。私の中で、
竜と言えばまさに最強かつ最凶の象徴で。
いくら口で説明されても、
この目で見ていない以上疑心暗鬼は拭えない。

…というわけで、念には念を入れて
隠密行動を取っているわけだ。


「あ、でも後少し…!」

「この谷さえ抜けちゃえば…」


少しずつ、本当に少しずつ。視界から穴が遠ざかる。

後少しで死角に逃げ込む事ができる。
いっそ駆け出したくなる衝動を必死でこらえながら、
牛歩の歩みを繰り返す。

そして、ついに私は…
洞窟から見えない位置まで進む事ができた。


「はあぁぁっ……怖かったぁぁっ……!」


地べたに大の字になって寝転がると、
大きな、大きな安堵のため息をつく。

死と隣り合わせの緊張感は、
予想以上に私から体力を奪っていた。


『…何がそんなに怖かったの?』

「何がって決まってるじゃん…
 ドラゴンだよ、ドラゴン」

『…へえ。貴女、ドラゴン怖いんだ』

「当ったり前でしょ。相手は生物最強だよ?
 アンタだって、怖い、で、しょ……」


不意に掛けられた、少女のように高い声。
てっきり通りすがりの同業者かと思い、
普通に受け答えをしながら声がした方に顔を向ける。


そして、私は言葉を失った。


『ども。ドラゴンです。怖がって』


私の後ろに佇んでいた存在は。
てっきりやり過ごしたと思っていたはずの、
世界最強の生物だった。



--------------------------------------------------------







『ヤンデレ気質の駄目ドラゴン』







--------------------------------------------------------



パニック状態に陥った私は、
相手が竜だという事もお構いなしに、
半ば叫ぶように問い詰めた。


「えぇぇえぇえっっ!?なんで
 ドラゴンがここに居るののぉぉぉっ!?」

『や、たまたま食事で外出てたんで』

「はぁああああっ!?何それ聞いてない!!
 私の苦労は何だったの!?」

『誰も居ないエリアを警戒して
 ダンゴムシスタイル』

「いやぁぁああああっ!!傷塩ぉぉおおっ!!」

『でも可愛かったよ』

「んなわけないでしょぉぉっ!!?
 どこの世界にダンゴムシ系女子を
 可愛がる奴がいるってのよ!
 テキトーなフォローしないでよぉぉっ!!」

『…えと、なんかその、ごめんなさい』

「ていうかアンタ何なのよ!?
 生物最強なら生物最強らしく
 高みの見物でふんぞり返ってなさいよ!
 なんでこんなフツーの道に佇んでるのよ!?
 雑魚か!雑魚モンスターか!!」

『そんな事言われても』

「後無駄に声高い!トラップか!
 ハニーポット的なトラップか!
 それならそもそも人間に変身しなさいよっ!!」

『ていうかこれ地声なんだけど』

「知るか!ギャップあり過ぎてキモい!!
 とりあえず声変えるか姿変えるかして!」

『じゃ、じゃあニンゲンモードになる…』


極度の緊張と弛緩を短時間で往復し、
テンションがおかしくなった私。

そんな私の理不尽な逆ギレに気圧された竜は、
言われるがままモゴモゴと何かの呪文を唱える。

すると、みるみるうちに
その姿は小さく縮んでいき…
数秒もしないうちに、声相応の女性へと変貌を遂げた。


「できるんじゃん!!最初からそっちで出てきてよ!」

『ご、ごめんなさい。ちょっと羽を伸ばしてたから』

「まったくもう!次からは気を付けてよね!!」


ぷんぷんと頬を膨らませる私に、
ペコペコと頭を下げる竜。
そんな彼女は、こうべを垂れながら
上目がちにこちらの顔を覗き込むと、
おずおずとこちらの機嫌を伺う様に問い掛けた。


『その…ちょっと聞きたい事があるんだけど』

「何よ」

『や、私…一応、ドラゴンなんだけど…』


『…怖くないの?』


間の抜けた沈黙が周囲を支配する。


『……』

「……」

「うわぁあああああっ!!そういえば
 ドラゴンだったぁああ怖いぃぃいっ!!!」

『…そのリアクション最初に欲しかった』


慌てふためく私を前に、少女は
肩を落として溜息を吐いた。



--------------------------------------------------------














--------------------------------------------------------



『…粗茶です』

「あ、うん…ありがと」


袖振り合うも他生の縁とは言うけれど。
私はなぜか竜の住居にお邪魔して、
熱いお茶を啜っていた。


「本当に無害なドラゴンって居るんだねえ。
 正直半信半疑っていうか思いっきり疑ってたよ」

「てっきり、私をウザがった酒場のマスターが、
 秘密裏に葬り去ろうとしてたのかと」

『…どれだけ迷惑かけたらそんなに恨まれるの』


下らない会話を挟みながら、
ドラゴンの身の上を少し聞いた。
彼女は親竜のもとから逃げ出して、
この谷に一匹で棲みついているらしい。


「なんで逃げ出したの?」

『財宝集めろ、縄張り守れ、ニンゲンに怖がられろ。
 いちいち小言がうるさかったから』

「あー。でもそっちの方がドラゴンっぽいけどなあ」

『意味が分からない。私達が金銀財宝集めたって
 使えないじゃない』

「…まあ、確かに」

『欲に駆られるからニンゲンに恨まれる。
 財宝に拘らなければ楽に生きられる』

『誰にも会わず、洞窟で一匹で過ごしてる方が気が楽』


独特の持論を展開しながら床に寝そべる少女竜。
言ってる事は納得できるし、そんな彼女だからこそ
私は今こうして生きているわけだけど。

でも、なんというか、その…


「考え方が引きこもりっぽい」

『竜なんてみんな引きこもりだから』


きっぱりと言い切るドラゴン。
その様に思わずがっくりと肩を落とす。

私にとって、竜は恐怖の象徴なのは間違いない。
でも、だからといってただ怖いだけでもなくて。
その絶対的な強さと存在感に、ある種
畏敬の念なんてものを抱いていたわけで。

この残念っぷりには幻滅せざるを得ない。


「じゃあ、なんで私には話し掛けてきたの」

『…実は私、恥ずかしながら性的な経験が皆無でして』

「…はあ」

『でも年相応にえろっちい事には興味がありまして』

「…で?」

『で、長い間この谷を通る人間を物色してたんですが、
 四つん這いで這いずる貴女を見て』

『こう、ムラッと』

「最悪だ!!」

『求愛してるんだから、ちょっとは
 喜んでほしいんだけど』

「求愛のつもりだったの!?そもそも、今の話で
 私のどこに惹かれる要素があったっていうのさ!?」

『ダンゴムシ』

「特殊性癖過ぎでしょ!?」

『後は私を怖がってくれてたのもポイント高い。
 この街の人間は私の事なんか
 ちっとも怖がってくれないし』

「結局怖がって欲しいんじゃん!」

『怖がれとまでは言わないけど…
 肝試しツアーまでされると
 流石にちょっと涙出てくる』

「実は傷ついてたの!?」

『まあそんなわけで、一目見た時から好きでした。
 交尾させてください』

「絶対にやだよ!?ていうかアンタ
 一応メスなんでしょ!?
 そこは男を捕まえるところでしょ!」

『オス怖い』

「ああもうこの駄目ドラゴン!!」

『えと…罵倒で悦ぶ性癖はないけど、
 貴女が求めるなら頑張って受け入れる』

「なんで私がアレみたいな感じになってるの!?」

『私尽くすメスだから。
 ほら、ニンゲンとの初夜のために
 ふかふかのお布団も用意した』


「藁じゃん!!」


漫才みたいなやり取りをしながら、
駄目ドラゴンが私を押し倒そうとする。

そんな彼女を邪険に払いのけながら、
私は今日何度目かわからないため息を吐いた。



--------------------------------------------------------














--------------------------------------------------------



そんなこんなで、引きこもりの駄目ドラゴンに
貞操を狙われてから2週間。

私はいまだ、駄目ドラゴンと
奇妙な同居生活を続けていた。


『ご飯できた。今日は新鮮な猪肉の焼き肉。
 搾りたての生き血を添えて』

「いただきまーす…うん、美味しい。
 アンタホント料理うまいよね」

『嫁を捕まえるために頑張ったから。
 ほら、生き血も飲んで?』

「そこは普通婿だと思うけど。
 後生き血は絶対に要らない」


あ、もちろん純潔は守り通した。
ならどうしてまだここに居るのかと言うと、
微妙なギブアンドテイクの結果だったりする。

引きこもりドラゴン曰く。

『ぼっちはやっぱり寂しい。
 食べさせてくれなくてもいいから
 しばらく一緒に居て』

『後はニンゲン界のごはんとかアイテムが欲しい。
 ニンゲンの作るものは面白いのが多いから』

『流石に街は竜除けの結界があって入れない。
 代金は払うから運び屋になって』

とのことだった。

私としても、この谷の素材採取以外は
これといった食い扶持がなかったわけで。
仕事が増えるのは大歓迎だった。

後、彼女は私の戦闘訓練も申し出てくれた。
レベル1のペーペー冒険者としては、
ドラゴンが稽古をつけてくれるなんて
望外の幸運以外の何物でもない。

さらに言えばこの駄目ドラゴン、
なぜか異様に家事能力が高いのだ。
普通に人間の料理も作れるし、
洗濯もしてくれるし洞窟内も
清潔感にあふれている。
人間だったら普通に優良物件だったのにね。


そんなわけで、この生活は
今の私にとって理想的なもので。

不本意ながらも居心地の良さを感じながら、
私は差し出された湯呑をぐいとあおった。

そして吐いた。


「だから生き血は要らないって言ったでしょ!?」


どうしても飲んでほしくて、
わざわざバレにくい器に移し替えたらしい。

たまにこういうことをやらかしてくるのが
駄目ドラゴンの駄目な所以なんだけど。

喉にこびりつく血の感触にげんなりしながら、
私は大きくため息を吐いた。



--------------------------------------------------------














--------------------------------------------------------



快適だったのは事実だけれど。
それでも、私はこの生活をそこまで長く
続けるつもりはなかった。

まあ半年…長くて1年くらいかな?
なんて、なんとなく勝手に思っていた。

だって、私は夢見る冒険者なわけで。
あくまで今の生活は大海原へ旅立つための下準備なわけで。
少なくとも、この平和な谷に骨を埋めるつもりなんて
まるでなかったのだ。

だから、この生活が1年半に差し掛かった時。
心の中で生じた変化に、私は酷く恐怖を覚えた。


気付けば私は…この駄目ドラゴンの事を、
妙に可愛いと思うようになってしまっている!


いや騙されるなこいつはダンゴムシフェチだ。
引きこもりだしコミュニケーションに難ありだし
そもそも初対面の私を交尾目的で
棲み処に連れ込んだ最低の駄目ドラゴンだ。

なんて自分を一生懸命説得しようとしても、
なんかその駄目さ加減すら愛おしく思えてしまう。

ちなみにこの頃になると、駄目ドラゴンの誘い方も
随分と露骨になってきていた。
水浴びの時には当然のように肌を擦り合わせてくるし、
朝起きたら服を脱がされていて、
二人で生まれたままの姿で
抱きあってるなんてのもしょっちゅうだ。

最初の頃こそ何かされるたびに怒っていたけれど、
いつの間にか、抵抗が随分薄れていて。
キスくらいなら普通に
受け入れてしまいそうな自分が怖い。

でも何より怖いのは。

もし、駄目ドラゴンに
『行かないで』と泣かれたら。
私は断る事ができるだろうか。


別れを切り出すなら今のうちだろう。
このままズルズルと続けていけば、
私は本気でこの駄目ドラゴンに落とされて、
この谷から離れられなくなる。
でも泣かれたらどうしよう。
いやあいつは多分絶対泣く。ガチ泣きする。


『…何を悩んでるのか知らないけれど。
 そんな時は飲み物でも飲んで落ち着くといい』

「…ありがと」


浮かない顔で黙り込んでいる私をみかねたのか、
駄目ドラゴンが湯呑をそっと目の前に差し出してくる。

そんな姿に癒されて、それがまた苦悩の種になって。
私は大きく息を吐くと、差し出された
生き血をぐいと飲み干した。



--------------------------------------------------------














--------------------------------------------------------



もっとも、そんな私の悩みは、
予想外の方向で解決される事になる。


それからさらに半年が経過して。
いよいよ心を決めなくちゃ、
と私が決心した頃。


とある事件が起きたからだ。



--------------------------------------------------------














--------------------------------------------------------




いつものように、谷で採取した素材を届けるべく
街に入ろうとして。


私は、見えない壁に弾き飛ばされた。


『え?何これ。結界?街でなんかあったの?』


街に変化の兆しは見えなかった。
いつも通り平穏な空気が漂っている。


なのに、私はそこに入れない。


ガラスのような何かが私と街を隔てていて。
通り抜ける事はもちろん、
体当たりしてもぶち破る事はできなかった。


『ちょっ、もっ…何なのよコレ!
 入れてよ!こちとらたんまり
 荷物背負ってきて疲れてるんだから!』


騒動に気づいた街の人間が警備の傭兵を呼び出した。
傭兵はなぜか剣を携えて鬼気迫る表情で
こちらへ向かってくる。


『な、なによその顔…わ、私、
 悪い事何もしてないからね!?』


慌てて踵を返して逃げ出した。
なんだか、自分がこの街の枠から
外されてしまったような気がした。



--------------------------------------------------------














--------------------------------------------------------



とぼとぼと肩を落として棲み処に帰る。

その日起きた出来事を駄目ドラゴンに愚痴ったら、
駄目はどこか嬉しそうに微笑んだ。


『そっか。長かったね』


と。

それはまるで、こうなる日を
待っていたかのような口ぶりだった。


『どういう意味?』

『前に話さなかったっけ』


『あの街には、竜除けの結界があるって』


『はぁ!?なんで私が竜除けで
 弾かれないといけないのよ!?』

『ねえ。この料理美味しい?』

『は?何よ急に』

『いいから答えて。美味しい?』

『はいはい、美味しいわよ。
 真面目な話してるんだから
 ちゃんと答えてよ』

『答えたよ?今、貴女が私に返した言葉。
 それが全ての答え』

『新鮮なゴブリンの生肉。
 搾りたての生き血を添えて』


『…美味しいんだよね?』


はっと目を見開いて、目の前の皿に視線を落とす。
そして出された肉きれを一口食べる。

血が滴っていて美味しい。

グラスにつがれた液体を口に含む。
どろりと喉にこびりつく感覚がたまらない。


…あれ?おかしくない?


『…私、もしかしてニンゲンやめちゃってる?』

『うん。割と結構前から』

『なんで?』

『毎回料理の隠し味として私の血を少々』

『やりやがったねこの駄目ドラゴン!!』

『気づかなかった貴女の方が駄目ドラゴンでしょ』


やられた。完全にやられた。
言われてみれば私も確かに迂闊すぎる。


思い返してみれば、ずいぶんと前から
生肉ばかりを出されていた。

『特殊な加工をして生で食べられるようにした』
なんて言われて鵜呑みにしてたけど。

だからって、肉と生き血だけの料理で
生きてられる事に疑問を抱かないとは。

駄目はどこか成し遂げたようなドヤ顔のまま、
淡々と独白を続けていく。


『貴女がいずれ、この地を
 去るつもりなのは知っていた』

『阻止したかった。そして、
 簡単にできる方法が二つあった』

『一つ目は貴女の四肢を切断して動けなくする事。
 でもこれは流石に最終手段』

『二つ目は、貴女を竜にしてしまう事』

『貴女が今日体験したように、
 竜の身では人間の街には入れない』

『そうなれば、冒険を諦めて
 二匹寄り添って暮らす事になるかと』


そう言ってニッコリと満面の笑みを浮かべる駄目。
その笑顔が愛らし過ぎて、私は言葉に詰まってしまう。


『っ…じ、自信過剰過ぎでしょ。こんな事されて、
 私がアンタになびくと思ってんの?』

『…私は気づいてる。最近貴女が私を見る目、
 酷く熱っぽくていやらしい』

『うぐ』

『もっと言えば。貴女が私の名前を呼びながら
 一人でしてる秘め事もお見通し』

『やめてぇえぇぇえっ!!』

『そんなわけで、退路を絶たれた今。
 貴女はむしろ安心して
 私に溺れる事ができるはず』

『だから今こそ、もう一度あの言葉を紡ぐ』


『一目見た時から好きでした。
 交尾させてください』


それは、二年前にもぶつけられた言葉。
当時はドン引きしたのを覚えてる。

二度聞いた今も正直どうかと思う。
もっと気のきいたセリフがあるだろうと。

なのに、なのに、私の胸は――


――早鐘のように、高鳴ってしまっている。


そんな私は、やっぱりもう手遅れで。
駄目ドラゴンの仲間入りを
してしまっているのだろう。


『…駄目?』

『……』

『駄目だって言っても…
 今度は引く気ないんでしょ』

『うん』

『だ、だったら……』


『食べたければ…勝手に食べればいいじゃないっ…』


ぶっきらぼうに吐き捨てた言葉に、
駄目ドラゴンは蕩けそうな笑みを浮かべると。

私の身体に、愛おしそうに尻尾を巻き付けた後。
身動きが取れない私の唇を優しく食んだ。



--------------------------------------------------------














--------------------------------------------------------



あれから何年が経ったのか、
正確な年数は覚えていない。

100を超えたあたりからどうでもよくなった。
多分500はいってないと思うけど。


まんまと駄目ドラゴンの策略にハマった私は、
それからもずっと二匹で暮らす事になった。

こうなってみて初めて分かる。
確かに竜は引きこもりだ。

世俗から離れた場所で、大好きなものに
囲まれて生きていたい。
それが竜の根本的な考え方。

普通の竜にとっては、
『大好きなもの』と言えば金銀財宝で。
だから本当は寝てたいけれど、
仕方なく人間を脅して上納させるわけだ。
自分は穴蔵の中に引きこもりながら。

駄目ドラゴンは財宝に興味が持てなかっただけ。
その点を除けば、竜として至極
まっとうだったのかもしれない。


『まあ、それでも私が特殊なのは否めない』

『そうなんだ?』

『うん。そもそもメスに発情してるし、
 普通竜はニンゲンの事を玩具くらいにしか
 考えていないから』

『一般的な竜だったら、貴女の意思なんか聞かずに
 無理矢理押し倒して破いてたと思う』


そう言われるとぞっとする。

私は今までさんざん彼女の事を
駄目ドラゴンだと罵倒してきたけれど。
彼女が駄目じゃなかったなら、私はあの日、
やっぱり命を落としていたんだろう。


『でも、私が特殊なのはそこだけ』

『欲しいものは何をしても
 手に入れる点は他の竜と一緒』


『…そして、それは今の貴女も同じ事』


薄く笑うと、彼女は私に口付けた。

確かに、彼女が私を手に入れた手段は、
人間の感覚で言えばやり過ぎ…
いや、病的と言っても過言ではないだろう。

でも今の私にはそれが変だとは思えない。
もし、彼女が私を捨てて
誰かになびこうとしたとすれば。

私は最悪、彼女の四肢を引き千切ってでも
自分のもとに置いておくと思う。


『あーあ。私もヤンデレ気質の駄目ドラゴンに
 なっちゃったわけだ』

『ヤン…?何それ?』

『心が病んじゃうくらいにアンタにデレデレって事』

『ふむ。素晴らしい。もっとヤンデレて』


『…だったら、どうしたらいいか…わかるでしょ?』


私は舌なめずりしながら彼女の首に腕を回すと。
甘ったるい声で囁いて、いつものように愛をせがんだ。



--------------------------------------------------------



ヤンデレ気質の駄目ドラゴン。
今日も二匹は、洞窟の奥に引きこもって愛を育んでいる。



(完)
 Yahoo!ブックマーク
posted by ぷちどろっぷ at 2016年04月29日 | Comment(5) | TrackBack(0) | オリジナル百合SS
この記事へのコメント
きゃー!かわいい!
Posted by at 2016年04月29日 23:17
どこまでも平和で、2人も可愛らしくておとぎ話みたいでした。ヤンデレの話なのになぜかほっこり幸せな気分です。
Posted by at 2016年04月30日 04:26
コメントありがとうございます!

きゃー!かわいい!>
駄目
 「かわいいでしょ」
少女
 「いや実際可愛いんだけどそういう事
  言っちゃうから駄目なのよ」

2人も可愛らしくておとぎ話>
駄目
 「剣と魔法のファンタジー世界で起きた
  二人の少女が紡ぐほのぼの話」
少女
 「初対面で交尾してとか言ったくせに
  何言ってんの」
Posted by ぷちどろっぷ(管理人) at 2016年04月30日 10:45
個人的にとても好きな話でした!
オリジナルの作品もいつも面白いので楽しみにしています。
ヤンデレなのに幸せで、不思議と微笑ましくて、読んでいて楽しかったです。
これからも応援してます。
Posted by at 2016年04月30日 15:28
夢が…すばら(*´ω`*)
Posted by テッシュ準備してました。 at 2017年02月04日 12:56
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/175091509
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。

この記事へのトラックバック
 なんかブログランキング参加してみました。
 押してもらえると喜びます(一日一回まで)。