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【オリジナル百合SS】「アンタ、私にぜったいふくじゅーね!」【ヤンデレ】【依存】【狂気】

<あらすじ>
私がまだ3年生だった頃。
男子に虐められていた私は、
ある一人の少女に手を差し伸べられた

「私がアンタを守ってあげる」

「その代わり」

「アンタ、私にぜったいふくじゅーね!」

それは幼心に交わされた約束。
でも、少し普通じゃなかった私達は、
その約束を大学生になっても続けていて……


<登場人物>
少女A、少女B


<症状>
・狂気
・依存
・異常行動
・シリアス

<その他>
・管理人が夢で見たシリーズ。
 比較的ありがちな百合だと思うので
 肩の力を抜いて読んでいただけると。



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Side−B






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彼女、そう仮にAと呼ぶ事にしよう。
Aは、私の小学校以来の幼馴染だ。
私の事は…そう、便宜上Bとする。

出会いは小学校3年生の時。
男子に虐められて泣きじゃくっていた
私の目の前に颯爽と現れて、
男子を容赦なく叩きのめしところから関係が始まる。


誤解がないように最初に断っておく。
Aは決して善人ではない。
彼女が私を助けたのは、私が彼女と
同じクラスだったから。

クラスの支配者として、
私をその手中に収めるためだった。


「なんであんなのにいじめられてんの?」

「だ、だって、こわい」

「あー、アンタどんくさそうだしねー」

「ま、でも安心しなよ!
 これからは私が守ってあげるからさ!」


「そのかわり、アンタは私に
 『ぜったいふくじゅー』ね!」


Aの言う通りどんくさく、人見知りで
友達との交流もままならない私にとって。
Aという存在は、突如として現れた
救世主のように見えた。

勝気な笑みを浮かべながら差し出されたAの手を、
私は手で涙を拭きながら握り返す。

これが、Aと私のなれそめだった。
そして私はこの日から、Aの所有物になった。



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小学校が終わり、中学生として
制服に袖を通すようになった頃。
私達の関係にも、少しずつ変化が生まれてきた。


「ん、これ私の分の宿題。一緒にやっといて」

「明日の調理実習。私の分の食材も持ってきてね?」

「あ、私いちごオレ飲みたいから買ってきて」


Aが私の事を召使いのように使い始めた。

中学生になった彼女は、流石に
クラスのボスを気取る事こそなくなったけれど。
それでもAは、私達のグループの支配者で。

私はAのお情けで同じグループに
入れてもらっている以上、彼女の命令を
拒絶するわけにはいかなかった。


「わかりました」


もっとも私は、Aの命令を拒否するつもりはなかった。
そこは彼女の上手いところで。
私に課せられる命令は、全て私が
抵抗なく許容できる範囲にとどまっていたからだ。

宿題にせよ、食材の調達にせよ。
どうせ自分の分を処理する必要がある以上、
Aの分が増えたところで大した負担増にはならない。

ジュースのパシリについても同じ事。
彼女はそれを指示する前に、必ず私に問い掛ける。


「ねえ、喉渇いてない?」


と。そして、彼女にそう問われる時。
私は確かに喉が渇いていて、
何か飲み物を欲しているのだ。


「はい。何か飲みたいです」

「あっそ。じゃ、私はカフェオレよろしく」


Aが私に課す負担。それは全て
私自身のついでで賄える。
たったそれだけの軽微な負担で、
どんくさくてコミュニケーション能力に
難がある私が平穏に学生生活を送れるのだ。

私は彼女に感謝の念すら覚えていた。


ちなみにAの召使いは私だけではなかった。
他にも荷物持ち、ゲームのレベル上げ係など、
多種多様な奴隷を取り揃えていた。

Aの恐ろしいところは、相手に合わせて
それぞれ切り口を変える事だ。
例えば荷物持ちの子であればこんな感じになる。


「ちょっとー、なんであんたのカバン
 こんなに重いのー?」

「アンタと違って教科書持って帰ってるし」

「おーもーいー。ねえ、ちょっと
 私の代わりに持ってくれない?」


その重さに根を上げた荷物持ちが、
より序列の低い私にその役を押し付けようとする。
Aは、血相を変えてそれを遮った。


「あ、駄目!他の子に渡しちゃ駄目!」

「なんでよ」

「私はアンタだから信頼して荷物を預けてんの!
 誰でもいいわけじゃないんだってば!」

「っ…ま、まー仕方ないなぁ。
 そこまで言うなら持ってやるかー」


Aの荷物を運べる事、それは光栄な事である。
そう洗脳された荷物持ちは、
Aの荷物を大事そうに抱え込む。

さらに恐ろしい事に。一緒に帰っていた他の子達まで、
荷物持ちに対して羨望の眼差しを向けていた。


こんな感じで、Aはグループの人心を
完全に掌握していた。

もっとも、それで困る事は何一つなかった。
本人はその状況に満足しているのだから。
皆が皆、望んでAに支配されているのだから。

その状況は、進級して
クラス替えが発生しても変わる事はなく。
その都度Aは召使いを増やし、皆例外なく
彼女に傅いて(かしずいて)いった。



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中学校を卒業し、高校に進学する年になっても。
私はAに首輪をつけられたままだった。

Aは私が受ける高校を指定した。
それはもちろん、Aと同じ高校だった。


「そっか。残ったの、アンタだけだったか」


Aについて来たのは私だけだった。
否、もう少し厳密に言えば、
他の全員は残れなかったという方が正しい。

彼女はどこまでも天才だった。
そのゴーストライター役を仰せつかっていた私は、
気付けば学年2位の学力を身につけていた。

Aは当然のように県トップの高校を志望した。
学力的についていけたのが、
全クラス通しても私だけだったのだ。


「今まで、本当に、本当にありがとっ……!」

「学校は別れちゃうけど…私達、
 心はずっと友達だからっ…!」


中学校の卒業式、Aは目に
大粒の涙を浮かべて泣きじゃくった。

召使いだった子達と何度も何度も抱きあって。
別れ際には姿が見えなくなるまで
ずっと手を振っていた。

召使い達は後ろ髪をひかれるように
何度も何度も振り返る。

Aはいつまでも手を振っていた。
その姿は、彼女達の脳に幸せな思い出として
深く刻み込まれた事だろう。


奴隷たちの姿が見えなくなると、ようやく
Aはため息をついて私と帰路に就き始める。

酷く疲れた声で、こんな台詞を口にしながら。


「はぁ…召使いも最初から作り直しかあ。
 せっかく各種便利に取り揃えたのになあ」


流石の私も、この言葉にはぞっとした。
まだAの頬には涙の跡が残っている。
つい先ほど流したその液体は、
ただの飾りだったとでも言うのだろうか。


「…それ、嘘泣きだったんですか?」


少し棘のある私の問い掛けに、
彼女はこともなげに言い捨てる。


「は?当ったり前じゃん。
 アンタも身につけとくといいよ?
 嘘泣き、すっごい便利だから」

「…あの子達との別れ、
 全然悲しくなかったんですか?」

「や、それなりに悲しかったよ?
 『ああ、さらば私の召使い!』みたいな」

「……」

「それ、現在進行形で召使いの
 私に言っていいんですか?」

「いーのいーの。アンタは
 あの子達とは違うから」

「…どういう意味で?」


「アンタは、私に絶対服従でしょ?」


彼女はにっこり微笑んで、私の顔を覗き込む。
邪気を隠そうともしないその笑みに、
全身がぶるりと震えあがった。


「ていうか勘違いしてるみたいだけど。
 そもそもアンタは召使いじゃないからね?」

「召使いってのは報酬を対価に
 労働力を提供するお仕事。
 ある種対等の関係なのよ」

「アンタは違う。アンタは私の所有物。
 もしアンタがあの高校落ちてたら、
 ガチで怒り狂ってたよ?」


「そこんとこ、絶対に忘れないでね?」


反論を許さないその声音に、
私はただ首を縦に振るしかない。
Aはそんな私の対応に気を良くすると、
私の手を握って帰り道を歩き始めた。



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高校入学。新しいステージを迎えたAは、
驚くべき変化を遂げた。

なんと、よりにもよって
守ってあげたい系女子に転じたのだ。

朝。彼女は、おぼつかない足取りで
つらそうに通学路を歩く。
新たにできた友人が心配そうに見守る中、
くらりっ、と眩暈を覚えたかのように
バランスを崩す。

慌てて友人が抱きとめると、
Aはふにゃりと力なく笑った。


「あは…ありがとぉ〜…」

「ああもう、フラフラじゃん。大丈夫なの?
 帰った方がいいんじゃない?」

「あははー、だいじょう、ぶー…
 …じゃないかもぉ…」

「うん、帰りな。送ってあげるから」

「…んー…単なる寝不足だから〜…
 学校楽しいから行きたいし〜…」

「はあ…ほら、せめて荷物貸しな?
 あんま辛いなら保健室行くんだよ?」

「りょーかいー……」


友人になかば強引に荷物を奪われながら、
Aは再びよたよたと歩き始めた。


「……」


そんなAの背中を見て、私は一人眉を顰める。

小中の頃の彼女を知っている者が今の姿を見れば、
その変貌ぶりに驚愕するだろう。

中学校の彼女は背筋をピンと伸ばし、
怖いものなど何もないとばかりに
胸を張って歩く女子だった。

それが今や、あっちにふらふら、こっちにふらふら。
自分のカバンすら持つのもおぼつかず、
周りが見かねて介護する有様なのだから。


もちろん、私はそれが演技である事を知っていた。
Aは、私と二人きりの時だけは
本音を隠さず自然体で語るから。


「…また、ずいぶんと激しく方向転換しましたね」

「ん。入ってみてわかったけど。
 ここ、ガッチガチの進学校じゃん?
 当然学生も相応に頭が良くて品行方正なわけで」

「正攻法で行くとさ、多分こう言われるよね」

『はぁ、荷物持ち?私はあんたの奴隷じゃないけど?』
『自分の事は自分でやりなさいよ』

「ってさ」

「だから方向転換。真面目だけどお人よしは多いから。
 これからは保護が必要な小動物として
 あれこれ面倒見てもらうわ」

「…中身は真っ黒ですけどね」

「それを知ってるのはアンタだけだからいいのよ」


Aはにやりと口角を上げながら、
私に宿題のノートを押し付けた。



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私達の関係は高校に入ってからも相変わらずだった。
私はAの命令を機械的にこなす所有物のまま。

もっとも自由に操作できる召使いが減った分、
私に回ってくる仕事は多くなった。

ただ、この頃になると私もいい加減気づいていた。
命令に従うだけでいい。
それがどれ程、楽でありがたい事なのかと。

皆が学力の伸び悩みに苦しみ、進路に頭を抱える中。
私は天才のAの指示に従うだけで、
ここでも学年2位をキープできていた。

進路だってどうせAが決めてくれるのだから、
そしてそれは、おそらくは模範解答なのだろう。
私はただそれに従うだけでいい。

そんなわけで、やはりAの命令を拒む気はなかった。
そもそも6年もずっと一緒に居るのだ。
私にとって、もはや彼女の命令に従う事は
息をする事と同義だった。


でも、そんな風にいつも互いに寄り添っている私達は、
周りからは少し奇異に見えるらしい。

端的に言ってしまえば。
私達は愛し合っているのではないかと
疑われるようになっていた。


「アンタらってさ、ホントいっつも一緒に居るよね」

「まぁね〜」

「…実は、レズだったりする?」

「なんでまたそんな結論に〜?」

「いやさ、Aってすっごい人気あるのに、
 男子に告られても片っ端から振ってるでしょ?」

「BはBで可愛いのに、全然浮いた話聞かないし」

「となると周りから聞かれるわけよ。
 『あの二人、もしかしてそういう関係なのか』って」

「で、実際どうなの?」

「ん〜…」


ずいっと身を乗り出した友人に対し。
Aはいつも通り偽りの天然ぼんやり感を演出する。

とはいえ流石に否定するだろう。
普段周りからどう見えていようと。彼女と私の関係は、
ご主人様と奴隷に過ぎないのだから。


ところが、彼女が発した言葉は、
私の予想を裏切るものだった。


「そんな恥ずかしい事、
 私の口からはとてもとても〜…」

「それ、ほとんど答えじゃん」

「えへー。でも、周りの人に言っといて〜?
 私達を口説いても無駄だよーって」

「はいはい」


Aは明言こそ避けたものの、
友達の疑念を否定したりはしなかった。

そのため、私達はこの日から
二人でセットの扱いになり。
Aが男子に言い寄られる事はなくなった。
そしてもちろん、私の方も。


あまりに意外なこの展開に、私は彼女を問い詰める。


「…今度は何を企んでるんですか?」

「ん?企みも何も、シンプルに
 男子除けだったんだけど?」

「…もしかして本当に同性愛者なんですか?」

「んにゃ、そう言うわけでもないけどさ。
 この学校の男子じゃ私に釣り合う奴いないからね」

「それで私も巻き添えですか」

「巻き添えも何も、アンタは
 最初から私のもんでしょうに。
 その辺の雑魚男子にくれてやるわけないでしょ」

「それとも何?がっついた男子に
 言い寄られたかったわけ?」

「……それは」


本音を言えば助かった。私にとって、
男子は恐怖の対象でしかないから。

小学校の時に虐められて以来、
男子とまともに会話した事はない。
酷い時には、話し掛けられただけで
ひきつけを起こす程だった。

今でこそ事務連絡くらいなら何とかこなせるけれど。
関わらなくて済むならそれに越した事はない。


「だったらいいじゃない。
 3年間私と百合っぷるって事で」


私の膝枕の上に頭を乗せて寝そべりながら、
彼女は私に微笑みかける。

その笑顔を見て私はため息をつくと。
手持無沙汰になった手で、彼女の頭を撫でまわした。



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恐ろしい事に。本当に恐ろしい事に。
私達のこの主従関係は、
大学生になっても続く事になった。


「ほら、この大学受けるよ。
 落ちたら許さないからね?」

「うん、よくできました。
 大学入ってからは二人暮らしだから、
 この条件で部屋を探しといて。
 はい、賃貸探しはこのURL」

「家賃は私が出すわ。その代わりアンタは
 学年1位になりなさい。私はアンタの
 学習成果を使って2位になるから。
 狙うは二人して返済義務のない
 奨学金をふんだくる事よ」

「わかったら、今から3週間以内に引っ越しなさい。
 私が来るまでには電気ガス水道ネットは
 使えるようにしといてね?
 手続きの方法はこのサイトに載ってるから」


この頃になると、私にできる雑務は全て
回されるようになっていた。

私にとってもそれが当然になっていて。
彼女に言われるがままに部屋を用意すると、
受け入れ状態を万全にして彼女を待つ。


「…でも」


さすがに少しだけ気になった。
Aは大学でも彼氏を作る気がないのだろうか?

後2年もすれば、私達も二十歳を迎えて
『大人』の仲間入りをする事になる。
その2年後には、私達は就職して
社会に出ていく事になる。


「…私は、いつまで奴隷で
 居続けられるんでしょうか」


Aは言っていた。別に自分は
同性愛者というわけではないと。
であれば、いつかは誰かと
結ばれる事も想定しているだろう。


その時、私はどうなるのだろうか。


私の脳裏をよぎった疑問。

その問いに関する回答は、
思いもよらぬ事件がきっかけで。
唐突にAから突き付けられる事になった。



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『Bちゃん。俺と付き合ってくれないかな』

『…はい?』





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男性に告白される。それは私にとって、
生まれて初めての体験だった。


Aがちょっと席を外したタイミングを見計らって、
私はある男子に告白された。

Aと一緒に入ったサークルに居た、同級生の男子。
曰く、『初めて見た時から気になっていた』
『今度二人で一緒に遊びに行かないか』との事だった。


この体験は、同時にもう一つの
初体験を引き起こした。

10年近く共に過ごしてきて初めての体験。
そして、できれば一生遭遇したくなかった体験。
それは――


あのAが、声を荒げて激昂するというものだった。


「はぁ!!?アンタ、誰の断りを受けて
 この子に告白してるわけ!?」


席に戻って来たAは、私に言い寄る
男子の姿を目にして怒り狂った。

そして、まるで殴り掛からんとばかりの勢いで
まくしたてたのだ。


「この子は私のだから!勝手に話し掛けないで!」

「ほら!Bも言ってやりなよ!
 私はこの人の所有物ですって!」

「え、えっと」

「しょ、所有物ってなんだよ!
 Bちゃんは物じゃないだろ!?」

「Bは私のモノよ!この子は全部
 私のものなんだから!」


「見てなさい!」


Aはそう吠えながら、私の肩を抱き寄せる。
そのまま私に密着すると、有無を言わさず
唇を私の顔に近づけてくる。

どうしようと躊躇っているうちに…
私のファーストキスはAに奪われていた。

それも一度では終わらなかった。
二度、三度。Aの唇が私のそれを啄んでいく。

もはや数える事も諦める程の口付けを奪った後、
Aは勝ち誇ったように言い放つ。


「…わかった!?アンタは許可もなく
 私達の間に割って入ったクズ野郎なんだってば!」

「わかったら目障りだから消えなさい!!」

「…っ」


男性は唇を噛みしめながらも、
何も言わず踵を返してその場を立ち去った。
それでもAの怒りは収まらず、
爛々と燃える瞳を彼の背中に向けている。

そしてその怒りは、残された私にも
降り注ぐ事になった。


「アンタもアンタよ!
 あんなのに気を許してさ!」

「き、気を許したも何も…
 向こうから話し掛けてきたのを
 聞いていただけなんですけど」

「さっき即座に言わなかったじゃない!
 私はこの人の所有物ですって!」

「い、言おうとしたら
 キスしてきたんじゃないですか」

「アンタが一瞬躊躇したからよ!
 次はノータイムじゃないと許さないからね!!」


怒り狂った彼女は強引に私の手を取ると、
その足でサークルの部室に乗り込んだ。
二人して退部する旨を低い声で告げると、
そのまま大股で部室を後にする。

彼女の怒りの苛烈さに圧倒された私は、
ファーストキスを奪われた事について
追求する機会を失った。

あれは、私が知る限りでは――


彼女にとっても、
ファーストキスだったはずなのに。



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小学校から高校に入るまで。常に人心を掌握し、
支配者として君臨してきた彼女。

自分以外の人間を、自分が楽するための
召使いとしか考えていなかった彼女。

小中高と、友人との別れを経験しても
心から悲しんだ事のなかった彼女。


そんな彼女が、初めて執着を見せた相手。
それは、召使いよりも地位が低いはずの私だった。


その豹変に戸惑う私を置き去りにして、
Aはどんどん話を進めてしまう。


「よく考えたら、もうBがなんでも
 言う事聞くんだから他の召使いはいらないわ」

「うん。学部の友達も切っちゃおう。
 ちょっかいかけてこられる方がウザい」


サークルに参加したのは、言うまでもなく過去問のため。
学部の人と接触したのは代返、代筆、休講連絡などのため。
全ては楽をするための施策だった。

自らが楽をするためなら、人の心を弄ぶ事も厭わない彼女。
そんな彼女が、ただ私を周りから
孤立させるためだけに苦労を背負う。

その姿を目の当たりにして、
私は、抱いてはいけない疑問を抱いてしまった。


――もしかして、彼女は私を、
  本当に愛しているのではないかと


考えてはいけない事だった。
でも、確かめたくて仕方なかった。
私は胸の高揚に掻き立てられるままに、
その疑問を口にしてしまう。


「…なんで、そんなに私にこだわるんですか?」

「…へ?」

「本末転倒じゃないですか。
 楽するために私を連れて来たのに、
 私を守るために楽する道を捨てるだなんて」

「貴女は…も、もしかして、その、私の事g」


最後で言わせてはもらえなかった。


「調子に乗るんじゃないわよ!!!」


私の質問は、彼女の怒号でかき消される。

また初体験だ。私はこれまで一度も、
彼女に怒鳴られた事はなかった。

恐怖にびくりと身を震わせた私を見ると、
彼女はひどく低い声で私を襲う。


「…正直意外だった。アンタが、
 そんな生意気な口を利くなんて」

「てっきりもう、完全に
 私のものになってると思ったのに」

「あ、あの、その、私は、そういう意味じゃ」

「黙って」

「っ……」

「…ま、いいわ。アンタ、今自分がどういう存在なのか、
 まだわかってないみたいだし」

「明日、お仕置きしてあげるから。
 覚悟しときなさい」


「…寝るわよ」


体の芯まで凍てつくような冷たい声で言い放つと、
彼女は一人寝床に入ってしまう。
私は明日訪れるだろう絶望に慄きながら、
眠れぬ夜を震えて過ごした。



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結局、私が意識を落とせたのは明け方になった頃。
そして私は、眠ってしまった事を後悔する事になる。






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なぜなら、私が次の目を覚ました時…






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彼女は、姿を消していたのだから。







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目覚まし時計の騒音に耳を揺さぶられ、
私は気怠い体を無理矢理起こした。

動かない頭の中が後悔の念で埋め尽くされる。
今日はお仕置きをされる日だというのに、
いきなり失態を演じてしまった。
恐る恐る、私は隣で眠っているだろう彼女に目を落とす。


…だが、そこに彼女の姿はなかった


私はただそれだけで、思考が不安に塗り潰される
恐慌状態に陥りながら、私は慌ててテーブルに駆け寄った

多分、何かの勘違いだ
きっと、ちょっと用事か何かを思い出して、
先に出ていっただけに違いない
であれば私に対する命令が書き置きされているはず


期待通り、テーブルには一枚の書き置きがあった
私は心から胸を撫で下ろし、
そこに書かれた文字列を読み始める


そして、力なくその場にへたり込んだ


『  私に楯突く所有物なんて要らない
   アンタの好きにすればいい
   命令されない恐怖をたっぷりと味わいなさい  』


「あっ、ああっ、あっ」

「あっ…」

「あ゛ぁぁぁあ゛あぁぁぁぁあ゛あ゛ぁっっ!!!!」


恐怖が私のすべてを支配する
ガタガタと全身が震え出し、
床に私の汚水がじわじわと広がっていった


無理、無理、無理、無理!


彼女と出会ってから9年
まだ小学校低学年だった頃から、
私はずっと彼女の持ち物だった

自分で考える事もなく、
ただ彼女の命令に従って生きてきた


考える能力なんてとっくに消えていた
意思決定なんてできるはずない


狂気に囚われた頭で必死に考える
どうすれば、どうすればいいの

あ、彼女は恐怖を味わえと言った
だったら私は怖がっていればいい

馬鹿、それだけじゃ駄目でしょ
何か行動を起こさないと

でもいつもだったら今頃彼女が私に
何を食べたいのか言ってきて


そうだ、彼女の朝ご飯を作ればいいんだ!


半狂乱になった私が取った行動
それは昨日彼女にされた命令を
トレースするというものだった

彼女のためにスクランブルエッグを作る
お昼のお弁当を作って
時間割を確認してから準備する

そうだ
少なくとも彼女が決めた計画に変更はないはずだ
私は授業を受けて、彼女のためにノートを取って
単位を荒稼ぎして奨学金をもらわなければいけない


何はともあれ、授業を受けなければ


私は時計を確認してまた震え上がる
慣れない思考を繰り返した私は
随分と時間を浪費してしまっていた


カバンを抱えて部屋を飛び出そうとして、
ようやく股が濡れてしまっている事に気づく

私は目に涙をためながら乱暴に服を脱ぐ
雑にティッシュでこすった後、替えのズボンを一気に穿いて


そして、今度こそ部屋を飛び出した


部屋に自分の粗相の証が残っている事など、
まるで考えもしなかった

命令をもらえなくなった私の知力は、
廃人のレベルまで落ち込んでしまっていたから



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危ういタイミングで講義室に着いた私は、
彼女の姿を見つけようと、狂ったように首を振り回す

そして私は安堵する
彼女はいつもの場所に座っていた

一目散に駆け寄ろうとして、
私はまた絶望を味わう事になる

彼女は私の存在を見とめると、
手振りで『来るな』と指図した


ぼろぼろと涙が頬を零れ落ちる
ハンカチで拭こうとして忘れてきた事に気がついた
それがまた悲しみを助長して、
私は俯きながら手で涙をぬぐい取る

何よりも救われないのは、
『来るな』という命令をもらえた事で初めて、
少しだけ正気を取り戻せた事

自分がどれ程愚かで、
彼女なしに生きていけない存在なのか
痛感せざるを得なかった



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一限目が終わり、二限目になっても
私が近づく事は許されなかった

私はもう体面を取り繕う事はできず、
嗚咽を繰り返しながら授業を受ける

教師から心配そうに声を掛けられても、
ただ無言で首を振って授業を受けた

授業が終わると、彼女は
そそくさと教室を出て行ってしまった
追い掛ける事もできなかった私は、
一縷の望みに縋って立ち上がる


もし、彼女の行動がいつも通りなら
人気のないベンチに座って
私の弁当に手をつけるはずだ
そこで誠心誠意謝れば許してもらえるかもしれない
もう一度所有してくれるかもしれない

凍傷に襲われたかの如く
ガクガクと全身を震わせながら、
おぼつかない足取りで教室を退室する

階段を転げ落ちそうになりながら壁伝いに降りると、
建物を出て件のベンチへと歩みを進める

そして、ベンチが見えてきて…



--------------------------------------------------------






そこには、誰も居なかった






--------------------------------------------------------





誰も居ないベンチを見て、私はお弁当を取り落とす

地面に叩きつけられた弁当箱から、
中身が乱雑に吐き出されるのを見た瞬間





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私の中で、何かが壊れてしまった






--------------------------------------------------------






「あっ…あぁぁ」






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「っ」






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「あ゛ーーーん!!!!」

「あ゛ぁ゛ーーーん!!!!」







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もう何も考えられなかった
ただただ悲しくて、私は小学生のように泣きじゃくった

突然の号泣に道行く人が足を止めても
私は我関せずで泣き続けた

心配してくれた人が近寄って声を掛けてくる
それで私は泣きじゃくりながら走り出す

だってAが言ってた
他の人と接触するなって

泣いて、走って、転んで、泣いて
逃げて、走って、泣いて、転んで

そして私はついに動けなくなって
私はその場に蹲って――



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涙が、喉が嗄れるまでただひたすら泣き続けた






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(Side−Aに続く)
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posted by ぷちどろっぷ at 2016年06月17日 | Comment(5) | TrackBack(0) | オリジナル百合SS
この記事へのコメント
いつも楽しみにしています。今回の作品もとても良かったです。続きが気になるところです。これを夢で見たというのはほんとに狂気を感じますね。(笑)
Posted by at 2016年06月17日 21:40
見た夢を咲キャラに置き換えず、オリジナルで通す所にぷちさんの拘りを感じる。

しかし……替えのズボンを履いたとは書いていたが、下着については言及されていない? もしやここで咲感を演出……?
Posted by at 2016年06月18日 05:23
相手の自信をなくしてこんな自分でも拾ってくれてる、と思わせる手法ですか。
ゲスい、ゲスすぎる…。
罰の間AがBが離れないか不安で震えていたら幾らかほっこりする、けどそんなことはなさそうですね。
Posted by at 2016年06月19日 20:01
うらやましい限りです。自分もこうなりたかったんですよね。
Posted by at 2016年06月26日 18:48
Aの「見てなさい!」が良かった。
Posted by at 2016年06月26日 19:26
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