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【咲-Saki-SS:菫淡】淡「純粋培養!」【狂気】【依存】【異常行動】

<あらすじ>
なし。その他のリクエストを参照してください。


<登場人物>
弘世菫,大星淡,宮永照,渋谷尭深

<症状>
・狂気
・依存
・異常行動

<その他>
次のリクエストに対する作品です。
・濃厚な菫淡
 菫さんが病んでてあわあわが少しずつ病んでいく話
・菫淡で菫先輩が無自覚なヤンデレ
 ※上とまとめちゃいました。

※不条理な感じで終わりたかったので
 真相編を切りました。
 菫視点のあまあま真相編が欲しい方は、
 コメントにて「あーわあわ!」と呟いてください。


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桜吹雪が空を舞い、
出会いと別れが交錯する季節。

私、大星淡も御多分に漏れず、
人生の新展開を迎えていた。


「はい。ここが、今日から貴女が暮らす寮」


私のすぐ横を歩いていたテルが、
眉一つ動かさず淡々と告げる。

私は間の抜けた声を出しながら、
その存在感に圧倒されていた。


「へぇぇぇ…なんか、歴史的建造物って感じだね!」

「明治時代からあるらしいから」

「ほほー!確かにすごい雰囲気出てる!」


目の前にそびえ立つ建物は白塗りで、
いかにも耽美な雰囲気を醸し出している。

それがちょっと威圧的に感じるのは、
私がひねた子だからだろうか。


「テルもここから通ってるの?」

「うん。と言っても全員個室だから、
 そこまで集団生活って感じはしないけどね」

「ふむふむ」


相部屋だったらよかったのにな。
なんて、ぽそりと呟いたのが聞こえたらしく、
テルは少しだけ表情が曇る。


「一応相部屋もあるんだけどね。
 ただ、あまりいい理由では使われないんだ」

「どゆこと?」

「相部屋になるのは、大抵の場合は懲罰目的。
 素行の悪い寮生を矯正するためとかね」

「まあ私が知る限りでは、
 そういう子は今まで見た事がないけど」

「ふーん。ま、いかにも
 お行儀よさそうな子ばっかりだもんね」


校門を通り抜けてここに来るまで、
すでに何人かの生徒に出会った。

そのすれ違う人皆が皆『御機嫌よう』と声を掛けてきて。
思わず『漫画か!』ってツッコミそうになって、
慌ててテルに口を押さえられた。

あれがこの学校のノーマルだとすれば、
私は間違いなく異分子だろう。


「まあ、淡が私史上初めての
 懲罰者にならない事を祈ってるよ」

「あはは、先に謝っておくね!ごめんなさい!」


無表情のまま抗議の視線を送るテル。
もちろん、私としても別に率先して
テルの顔に泥を塗りたいわけじゃない。

でもこの学校は、
学び舎、宿舎、どこを取っても
『純粋培養の箱庭です』と
言わんばかりの雰囲気が漂っていて。

多分私が普通に過ごしているだけでも、
この学校的にはアウトなんだろうな
っていう確信があった。


「まあ、私も外から入って来た側だからわかるけど。
 その辺も含めて気を付けてほしい」

「はーい」


努めて元気に返事する。
できるだけテルが安心できるように。

そう、さすがの私も。
まさかこの返事をして、たった1時間後に
懲罰送りになるとは夢にも思っていなかったのだ。



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『純粋培養』





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寮に侵入して1時間後。

私は『筆舌に尽くしがたい無礼者』として
相部屋送りになっていた。


「…というわけで入寮初日で
 いきなり懲罰送りなわけだが。
 何か申し開きはあるか?」

「はいはーい!監督官さん、
 この学校狂ってると思いまーす!」

「正直否定はしないがな。
 だが残念ながらこれもルールだ」


私が犯した罪状は3つ。

1つ、先輩を下の名前で呼び捨てにした事。
1つ、さらにはタメ口をきいた事。
そして最後に…それを窘められて口答えした事だ。


「そんな事言われてもさぁ。
 そりゃね、この学校で先輩後輩
 スタートの人ならわかるよ?」

「でも、テルは元々知り合いだったわけだし。
 ちょっと素が出ちゃっても仕方ないじゃん。
 それであんな怒られ方したらさ、そりゃ
 こっちも反論したくなるでしょ」

「…相手が照だったのが最悪だったな。
 あいつはこの学校では崇拝の対象なんだ」

「何それ!?時代錯誤にも程があるでしょ!!」


腹の虫がおさまりきらず頬を膨らませる私に、
同居人となった菫先輩が苦笑する。


「ま、運が悪かったな。実はこの学校の生徒には
 2種類のタイプがいるんだ」

「1つは、お前みたいな高校からの入学者。
 で、もう1つは小中学校からのエスカレーターだ」

「後者は純粋培養でガチガチのお嬢様だ。
 そしてこちらの方が圧倒的に数が多い」

「で、お前は運悪くその手の人間に
 目をつけられたわけだ。
 おかげで私が面倒を見る事になった」


聞けば菫先輩はこの寮における寮生側のトップ…
つまり監督生の立場にあるらしい。


「でも、その割には怒ったりしないんだね。
 徹底的指導するための相部屋じゃないの?」

「お前の言い分も理解できるからな。
 私も若干純粋培養側だが、正直息が詰まるのも事実だ。
 この部屋では無理にお行儀よくしなくてもいい」

「やった!ていうか菫先輩にまで怒られたら
 退学考えるところだったよ!」


テル程ではないけれど、菫先輩とも
それなりに面識がある。それも、
入学前からタメ口だった先輩として。

つまり、私にとっては味方側の人間。
その認識が間違ってないとわかって、
私は思わず歓声を上げた。


もっとも、その声は即座に遮られる。


「おいおい、そう諸手を挙げて喜ぶな」

「…へ?」

「無罪放免というつもりもない。
 外でボロを出さない程度には
 躾けないといけないからな」


口調だけは穏やかなまま、菫先輩は私に近寄ると。
手際よく私の体を椅子に縛り付ける。


「待って、待って待って待って!
 いきなり何始める気なの!?」

「なに、そんなに怯えるな。
 楽しい楽しい教育ビデオの始まりだ」

「え?え?」

「流石に休憩は挟んでやるが。
 それでも8時間あるから頑張れよ」


私の動揺なんて意にも介さず、
菫先輩は頭をすっぽり覆うような
大きいヘッドフォンを私に被せる。


そして、当然のように洗脳を開始した。


『白糸台高校の皆さん御機嫌よう。
 それでは本日も楽しく、
 淑女としての作法を学びましょう』


「いっ……」

「いやぁぁああああ〜〜〜っっっ!!」


宿舎中に私の絶叫が木霊する。
その声は3日3晩途絶える事はなかった。



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春休みの間中、たっぷりと
洗脳ビデオに蹂躙された私。

入学式を迎える頃には、なんとか
噴き出さず挨拶ができるようになっていた。


「大星さん御機嫌よう」

「せ、先輩もご機嫌麗しゅうございます」


挨拶を交わしてきた寮生は、
私の返事を受けて満足そうに微笑む。


「粗野な物言いは改善されたようですね。
 流石は弘世様ですわ」

「ひ、弘世…様ですかっ!?」


また噴き出しワードが飛び出して、
反射的に唇を手でふさいで事なきを得る。

でも、洗脳ビデオにも先輩を様付けで呼ぶなんて
ルールはなかったはずだけど。


「ええ。もしかしたら、貴女は
 弘世様と相部屋にされた事を
 不服に思っているかもしれませんけれど」

「それは本来なら貴女のような俗物には
 到底与えられない幸運なのですよ?
 もっとも災禍(さいか)にもなりえますが」

「は、はぁ」


何を言っているのかよくわからない。
これは日本語なんだろうか。
読み込めてない感を全力で醸し出す私を前に、
先輩様はなぜか自慢げに語り始めた。


「この学び舎において、弘世様と宮永様は
 尊崇(そんすう)の対象なのです。
 …事実、崇拝者がいる程に」

「にも関わらず、貴女は初日に
 宮永様を呼び捨てにしましたね?
 挙句弘世様の同居人となった事で、
 初日にして多数の敵を作りました」

「……」

「今日から学校が始まりますが、
 貴女は多くの敵意に晒されるでしょう。
 その事をゆめゆめお忘れなきよう」


さらりと脅迫じみた警告を残し、
寮生は優雅な足取りで去っていく。
私はその背中を茫然と見つめるしかない。

うん、どうやら誤解していたらしい。
この学校は確かに箱庭だ。


ただそれは、凶悪な猛獣のひしめいた…だけど。


「テルーのバカー。こういう学校だっていうなら
 最初に教えといてよー…」


小さな声で密かに呟く。
それすら災いの種になると気づき、
慌てて周りを見渡した。



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毎日毎日息の詰まりそうな生活。

そんな私にとって不幸中の幸いだったのは、
チーム虎姫に吸収された事だった。

しずしずとたおやめに廊下を歩き、
虎姫ルームに辿りつく。

そして上品にドアを閉めるなり、
ソファーめがけてダイブした。


「あー、ようやく解放!
 今日も学校しんどかった!!」

「…淡ちゃん、それ毎日言ってるね……」


大の字になって転がる私に苦笑しながら、
渋谷先輩がお茶を持ってきてくれる。


「私ずっと監視されてるからね!
 ホント、心休まるのは
 虎姫ルームと自分の部屋だけです!」


超攻撃型チーム、その名もずばりチーム虎姫。
そんな凶暴な名前が指し示す通り、
虎姫のメンバーは他とは少し
毛並みが違っている。

純粋培養組は菫先輩と渋谷先輩の2人だけ。
残り3人は外からの入学組だ。
おかげで学内ルールの縛りが弱い。

さらには純粋培養側の2人も、
私の素行を見逃してくれる。
つまりこの5人は、私が素を曝け出せる
酷く貴重な仲間なのだ。

もっとも私の仲間はそれで全部。
後は全員敵なわけだけど。


「ていうかさ、『菫先輩と相部屋』
 ってのがヤバいんだよね!
 背中に刺さる殺意が
 日に日にパワーアップしてるもん」

「…弘世先輩、ファンクラブあるくらいだから…」

「え、なんで!?芸能人でもないのに!?」

「…弘世先輩と宮永先輩はほとんど芸能人扱いだよ?
 雑誌やテレビにもいっぱい出てるし、
 弘世先輩に至っては100人単位のファンがいるから」


私は思わず絶句する。それはすなわち、
100人単位で私の敵がいるという事だ。


「え、なんで菫先輩私と相部屋になったの?
 私の事殺す気なの?」


なんて不平を零していたら、
本人に頭を叩かれた。


「お前が入寮初日から照を
 大声で呼び捨てにしたからだろうが。
 言っとくが、照にも
 ファンクラブがあるからな?」

「え」

「さらに言えば、誰もお前の監督生を
 やりたがらなかったのもある。
 お前の素行次第では
 自分が巻き添えを喰らうわけだしな」

「私が名乗り出なければ、お前は
 『素行不良者への制裁』という大義名分のもと、
 照のファンに公開処刑されていただろう」

「うっげぇ…」


聞けば聞くほど嫌になってくる。
何なのこの病んだ学校。
この際ヤンデレ台とかに改名すればいい。


「ていうかテルもテルーだよ。
 入る前にこんな学校だって知ってたら、
 流石に考え直したかもしんない」

「よくわかってなかったんだろ。
 照は元々優等生で問題を起こさなかった上に、
 すぐに崇拝される側に回ったからな」

「なるほど!じゃあ私も
 崇拝される側になればいいんだね!」

「その前に優等生にならないとな」


菫先輩の言葉にがっくりと肩を落とす。
やっぱり前途は多難らしい。


「まあそんなに心配するな。
 本当の気品は付け焼刃で
 身につくものではないだろうが…
 上手く騙す術くらいは教えてやる」

「お前が周囲に殺されないように」


なんて、眉だけ下げてにやりと笑う菫先輩は
とても淑女には見えないけれど。
今はその言葉が頼もしい。

頼んだよ菫先輩。
今の私は、菫先輩が命綱なんだから。



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『気が抜けるのは虎姫ルームと自分の部屋だけ』

なんて言ってはみたけれど。
実際のところ、私は自分の部屋でも
それなりに躾を受けていた。


「虎姫ルームでも話したが…
 『弘世菫でも大星淡の矯正は無理だった』
 なんて事になれば、苛烈ないじめの末
 退学確定だろうからな」


そんなわけで、この部屋で実践する事はないにせよ、
優等生に擬態する術を学ぶ必要があったのだ。


「違う、カトラリーは外側から順番に使うんだ!
 使いたい奴を勝手に使うな!」

「おい、パンくずをこっそり床に落とそうとするな。
 ほおっておけば勝手に掃除してくれる」


菫先輩の個別指導はあらゆる点に及んだ。
箸の持ち方なんて初歩中の初歩から、
フランス料理の作法まで。

もちろん勉強も見てもらったし、
気品ある立ち振る舞いとかも講座の範囲内だ。


「おい淡、上手くいかないからって
 髪の毛浮かせるのをやめろ。
 冒涜的な魔物にしか見えん」

「勝手に浮くんだから仕方ないでしょ」

「感情を表に出さないのも淑女の必須要件だ。
 ほら、やり直し」

「は〜〜〜い」


時にそれは、数時間に及ぶこともある。
それは純粋培養じゃない私にとって、
本来なら苦痛のはずなんだけど。

それでもあんまり苦にならないのは、
菫先輩が適度にガス抜きしてくれるからだろう。
さすがは大所帯の部長だけある。


「今度はどうですか、弘世先輩?」

「いいぞ。その振る舞いなら、
 教師も淑女だと騙されるだろう」

「本当は魔物なんですけどね」

「よし、今日はこれで終わろう。
 ポテチをだらしなく貪る事を許可する」

「わーい!私うすしおビッグパック!」


オンとオフを上手に使い分けてくれる。
甘やかす時は徹底的に甘やかしてくれる。
それが、なんだか癖になる。


「よし、うすしお終了。風呂に行くぞ。
 優等生の大星淡を演じるように」

「体の洗い方も教えた通りにするんだぞ」

「イェッサー!」


こうして始まるオンとオフの切り替え。
そんなこんなを続けていると、
周りがみんな敵の中、2人で秘密を共有して
こっそり潜入してるような気分になってきた。

なんだかゲームみたいで楽しい。
もっとも、私の味方はチーム虎姫、それ以外は全部敵。
そんな絶望感半端ないゲームではあるけれど。

それでも、菫先輩がいるなら勝てる気がした。
だから、捨てないでね菫先輩。



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そんな感じで、スミレ先輩は
少しずつ私を躾けていった。

指示に従えば従う程、徐々に
息苦しさがなりを潜めていく。
喋り方で怒られる回数も大分減った。
振る舞いを見咎められる事も少なくなった。

少しずつ、狂った学校に仲間入りしていく。
でもいいんだ、これはあくまで擬態だから


「よし、いいぞ。寮長に聞いたが、
 今日は全然怒られなかったそうじゃないか」

「擬態が上手くなってきたからね!」

「だがここで油断するなよ?
 そろそろ慣れてきて逆にボロが出る頃だ」

「今まで以上に注意して指示に従うように。
 私の指示に従えば間違いない」

「はーい、弘世様!」

「今は菫でいい」


事実、スミレ先輩の指示は完璧だった
まるで過去の失敗例を見てきたかのように
危険を回避してくれる

こんなところに落とし穴があったんだ、
なんて驚かされる事も多くって
そのたびにスミレ先輩に感謝した

そんなわけで…この頃になると、私はスミレ先輩に
全幅の信頼を置くようになっていた


「あ、そう言えば。帰る時
 3年生から手紙もらったよ?」

「ふむ。まずは検閲させてもらおうか。
 脅迫状だったら問題だからな」

「はーい」

「ほう。意外にもこれはラブレターだな。
 今から断り方考えるから待ってろ」

「はーい」


だから私は気づかない


いつの間にか、自分の生活のほとんどが
スミレ先輩に管理されている事に

部屋にいる間も、超人的なスケジュールで
ガチガチに躾けられている事に


全然気づかず、馴染んでいった



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インターハイも幕を閉じて、
季節が秋口に差し掛かる頃
スミレは私に1つの指示を出した


「淡。わかっていると思うが、
 私はもうすぐ部活を引退する」

「うん」

「虎姫も再編成のために解体される。
 そうなれば、もはや部内も危険になるだろう」

「そうだね」


変化の兆しを肌で感じとっていた
肌を刺すような殺意の視線
入学当時に感じていた敵意がぶり返してきてる

まるで、この時をずっと
待っていたとでも言わんばかりに


「照や私が守ってやれない事も多くなる。
 これからは、部活でも素を出すのは禁止だ。
 この部屋にいる時以外は擬態を演じ切るんだ」

「うん」

「いいな。お前が本当の自分を出せるのは
 私と二人きりの時だけだ」

「うん」


スミレの言う通りだ
今の私は、少しでも隙を見せたら食いつかれる

今まで以上に淑女になり切らないと
付け入る隙なんて与えない程に


スミレ以外はみんな敵
そのくらいで考えた方がいい


「よし、じゃあ少し試してみようか。
 今からお前は大星だ」

「はい、弘世様」

「淡に戻れ」

「はーい」

「大星」

「はい、弘世様」


スミレの指示に従って
擬態と本物を切り替える

パチン、パチン
まるでスイッチを切り替えるように


「よし。問題なさそうだな。
 じゃあ食事に行こう」

「はい、お供させていただきます」


「弘世様」


私は擬態を身に纏い
弘世様の少し後ろからついて行った



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問題なく月日が流れて行った

私の擬態は完璧だったし、
スミレの指示も一字一句正確に遂行した

やがて、少しずつ潮目が変わっていく
弘世様や宮永様の後継として
『大星様』なんて派閥が形成されていく
全てが順風満帆に思えた


でも、実際は歪に狂ってる


私にその事実を教えたのは
意外にも『純粋培養』側の人間だった


「はい、それでは授業を終わりにします。
 皆さまお疲れ様でした」

「お疲れ様でした」


1時限目の授業を終えて、休み時間に入り
軽く要点を復習しようとノートを開く私に
声を掛けてくる生徒がいた


「大星様、少々よろしいでしょうか?」

「はい、なんでしょう」

「先程大星様が解答されていた問題なのですが、
 その、若干わかりかねる箇所がありまして」

「ああ。難しかったですよね。
 私も初見では正答できなくて
 弘世様に教えていただきましたから」

「こちらをどうそ」


昨日予習した時のノートを見せながら説明する
ふんふんと頷きながら
ノートを目で追っていた同級生は、
やがて眉を潜めて動きを止めた


「あの…大星様。こ、こちらは、
 一体何でしょうか?」


彼女の手は、ノートの末尾に記載されていた
一覧表を指差している


「ああ、こちらですか?弘世様にいただいた、
 本日の私のスケジュール管理表です」


私は少し誇らしげに
そのスケジュール表を見せびらかした


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

……

<9:20>
●1時限目終了
 ・問3の理解が困難な可能性あり
  (不明点があればメモしておく事)
 ・お手洗い確認
  (3年生が移動教室で
   1年生の教室の前を通る。
   危険回避のため可能な限り我慢する事)

<9:30>
●2時限目開始
 ・この数学教師は毎年63Pの
  類似問題をテストに出題する
  集中して聞き取る事

<9:50>
 ・授業の内容が例題4の場合は聞く必要なし
  聞いているふりをして脳を休めるとよい
 ・参考書72Pの発展問題に進んだ場合は
  注目する事

<10:00>
 ・小テストの可能性あり。
  解けなかった場所はメモしておく事。

<10:20>
●2時限目終了
 ・体育のため移動
  (更衣室利用不可。
   個人ルームで着替える事)
  (いじめ防止のため着替えた服は
   個人ルームに置く事)
  (1階廊下で体育から戻る2年生と
   遭遇する可能性あり。
   2階を経由して下足箱に移動)
 ・お手洗い確認
  (必要であれば。部室のトイレを使用)

……

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「……っ」


同級生が目を見開いた
そして次の瞬間、私に
怯えるような眼差しを向ける


「そ、その…これ…全て
 守ってらっしゃるんですか?」

「はい?ええ、もちろんですよ?
 私のために弘世様が
 計画してくださったんですから」

「ええと…その、少々、
 細かすぎるのではありませんか?」

「そうでしょうか?でも、私のような劣等生には
 このくらいの指示は必要かと」

「そ、そ、そうですか」


きょとんとした眼差しを返す私を見て、
同級生の顔にありありと恐怖が浮かぶ


「あ、あの…ありがとうございました!
 そろそろ時間ですので失礼しますね!」


そしてまるで逃げ出すように、
そそくさと席を立って離れていった


「……?」


訳が分からず脳に疑問符を浮かべる私
何か失敗しただろうか

なんて考えていたところで、
去り際に微かに聞こえたつぶやきが
その答えを教えてくれる


『…狂ってる』


ぼそりと、恐怖に震えたその声が
いつまでも私の耳に残った



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彼女の言葉が妙に気にかかった私は、
二人きりになった時スミレに問い掛けた


「…という事件があったんだけど、
 私達って狂ってるかな?」

「そんなのわかり切った事だろう」

「えぇ!?当然のように肯定!?」


意外な事にスミレはあっさり肯定した
狼狽する私を前に、スミレは
当然だとばかりに語り続ける


「いや、お前だって言ってたじゃないか。
 この学校は狂っていると」

「健常者のお前が、短期間で
 その狂った学校に馴染めるように
 指示をしているわけだからな」

「相手側から見たら狂ってるように
 見えても仕方がない」

「ふーむ。なるほどなるほどー?」


人間から見たらゾンビが異常に見えるように、
ゾンビから見たら人間が異常に見える感じだろうか


「まあお前が嫌だというなら
 私は別にやめてもかまわないぞ?」

「え、やだ。やめないで」


私がここまでボロを出さずに来れたのは
スミレの指示があったからだ

そもそも私は、スミレの指示を
苦だとは思ってないわけで
止める理由が見つからない


「だったら別に問題ないだろう?」

「そうだね!これからもよろしく!」


うん、別に狂ってても構わない
これからも、スミレの指示に従っていこう
改めてそう心に決めた



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でも、今にして思えば




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この事件は私にとって
最後の分岐だったのかもしれない

自分達の狂気に気がついて
振り返る事ができたなら
まっとうな道に戻る事ができたのかもしれない

でも、この頃にはもう私は
スミレといる時しか本当の自分を出せなくて
スミレが私の全てになってた

そんな私にとってスミレとの接点が減るのは
何より一番避けたい事で

スミレがくれるスケジュール表は
私の大切な大切な宝物

それが無くなる事と比べたら
狂ってるかどうかなんて些細な事だった



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ううん、むしろ都合がいいや
スミレがちょっと狂ってて
私も一緒に狂ってる

世界で私達だけ狂ってて
スミレと私以外はみんな敵



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だったらスミレは、
私から離れて行かないよね?




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それなら、むしろもっと狂いたいかな!




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『ねえ、お聞きになった?
 大星様が監督生になられたそうですよ?』

『ええ、聞きましたとも。
 当然の帰結だと思いますわ』

『弘世様の正当な後継者ですものね。
 あの方以上に監督生として
 ふさわしい方なんていらっしゃらないでしょう』

『……皆さんは忘れてしまったのですか?
 大星さんが、この学び舎にやって来た時の所業を』

『もちろん覚えておりますわ。
 だからこそ、弘世様の手で直々に
 完璧な淑女として育てられたのではありませんの』

『…ところで、前々から少々気になっていたのですが。
 もしかして貴女……』


『大星様に、敵意をお持ちなのかしら?』


『そ、そういうわけではありませんけど』

『なら、ゆめゆめお忘れなきよう。
 今や大星様は、宮永様と弘世様の跡を継ぐ――



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――この、白糸台高校の象徴なのですから』




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…数か月後。




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スミレがこの学校を卒業して
私は一人取り残された

それでも別に困る事はない
スミレは3日に1回は会いに来てくれるし
会えない間の指示もくれるから


『いつか私が迎えに行く日まで擬態を続けろ』


その言葉を忠実に守り、
私は今も自分を偽ってる
次にスミレが来てくれるその日まで


でも


時々、ふとわからなくなる

スミレの指示に従って盲目に擬態を続ける私
そしてスミレの前でだけ出せる昔の私

どっちが本当の私なんだろう
もう、擬態の時間の方がずっと長いのに

考えてもよくわからなかった
今度スミレに聞いてみよう


「よし。そろそろ登校しようかな」

「……」


独り言が妙に反響した
がらんとした二人部屋
スミレが居なくなった今、
この部屋は少し広過ぎる


「……」


なんだか少し寂しくなって、
スマートフォンを取り出した

画面のロックを解除して
慣れた手つきでボタンを押すと
いつもの声を再生する


『よし、登校だ。大星になれ』

「はい、わかりました。弘世様」


笑顔で写真に話し掛けると、
裾を正して扉を開いた


そして今日も、擬態が始まる


(完)
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posted by ぷちどろっぷ at 2016年09月03日 | Comment(22) | TrackBack(0) | 咲-Saki-
この記事へのコメント
これから読みますけど、とりあえず……
あーわあわ!
あわすみわっほい!
Posted by at 2016年09月03日 22:22
あーわあわ!
Posted by たもつ at 2016年09月03日 22:37
あーわあわ!
いつもぷちさんのssから癒しをもらっています!!
ぜひ続編もよろしくお願いします!!
Posted by at 2016年09月03日 23:54
程度の差はあれど実際にこういう擬態をしている(せざるを得ない)人は一定数いるんだろうなー
あーわあわ
Posted by at 2016年09月04日 00:35
あーわあわ
Posted by at 2016年09月04日 01:43
おや菫さま、クトゥルフ神話をご存知で?
それはさておき淡が自分で自覚しながら望んで狂っていく様は圧巻でした。菫は「たすけて下さい この女の人わるい人」なんて書かれてもおかしくないのに。
なんにせよあーわあわあーわあわ!
Posted by ひさっしも! at 2016年09月04日 02:47
入学当初は頼りなかったオモチも今や立派にあーわあわ!
Posted by at 2016年09月04日 05:10
あーわあわ!
ぷちさんの書くあわあわ可愛すぎる…
Posted by at 2016年09月04日 08:08
2人の狂気がスバラです!
淡ちゃんも自分の狂気にすら気付いていないのがいいです。
あーわあわ!
Posted by at 2016年09月04日 08:36
ここまでお嬢様に全振りした白糸台はあんまり見ないですねー
あわあわが可愛すぎる、それはともかくあーわあわ!
Posted by at 2016年09月04日 19:38
あーわあわ
Posted by こん at 2016年09月04日 20:40
狂気とわかりつつも突っ込む淡、ハイライトの行く末は…

あーわあわ!あーわあわ!
Posted by 閑古鳥 at 2016年09月04日 21:45
淡がこんなになるまで照さんなにしてたの…。
あーわあわ!
Posted by at 2016年09月04日 21:47
あーわあーわ
Posted by at 2016年09月04日 21:54
いあ!いあ!あーわあわ!
いい感じに二人が軽度の不定の狂気発症しててとてもほっこりした。(SAN 0)
Posted by at 2016年09月05日 03:13

あーわあわ! あーわあわ!
お疲れさまです!

この菫のスケジュール表の異常さにゾクゾクしました♪
少しずつ病んでいくっていう流れが毎回いつも凄いなぁと思ってます♪

菫視点も見たいです!
あーわあわ! あーわあわ!
Posted by 如月ルーシェ at 2016年09月05日 10:20
あーわあわ!
Posted by at 2016年09月05日 16:30
あーわあわ!今回も良かったです!
Posted by 如月 at 2016年09月05日 22:44
あーわあわ!
菫さんサイド是非読みたいです!
あわいちゃん素直でかわいすぎます!!
Posted by at 2016年09月06日 19:49
あーわあわ!
Posted by 淡 at 2016年09月07日 16:07
あわあわ受けいつも楽しみにしてます、太陽のようなあわあわがおちていくのがたまらないですね、あーわあわ!
Posted by at 2016年09月07日 18:20
あーわあわ!
Posted by at 2016年09月10日 15:28
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