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【咲-Saki-SS:菫淡】菫「全てが狂ったこの箱庭で」【狂気】【依存】【異常行動】

<あらすじ>
菫「この話の私視点だ」

淡「純粋培養!」



<登場人物>
弘世菫,大星淡,宮永照

<症状>
・狂気
・共依存
・異常行動

<その他>
※個人的にはほのぼのあまあま
 ハッピーエンドのつもりですが
 人によってはバッドエンドと
 感じるかもしれません。

※白糸台の中高一貫制、および菫が
 中学校も白糸台だったなどは
 原作にはない独自設定です。


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これは伝え聞いた話だ
ある学校の寮で女生徒が死んだ

死因は自殺
相部屋の同居人が所用で留守にした隙に、
それは慌ただしく行われた

最期に会った者はこう語る
別れた時、確かに彼女は笑っていたと
そもそもいつも明るい子で、
とても自殺をするとは思えなかったと


だが、彼女は逝ってしまった


天井の照明から吊り下げられた縄
無残な姿になった遺体が
ぎぃぃ…ぎぃぃ…と軋んだ音で鳴く

第一発見者の同居人は、変わり果てた彼女を見て
泡を噴きながら意識を失った

そしてそのまま病院に担ぎ込まれ、
今も精神病院の閉鎖病棟で
叫び声を上げ続けていると聞く


これは、伝え聞いた話だ
ある学校の寮で女生徒が死んだ


そして、その学校の名は――



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――『白糸台』と言う




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『全てが狂ったこの箱庭で』




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白糸台は中高一貫のお嬢様学校だ。

今時珍しく寮制を組んでおり、
大半の生徒が寮から学校に通っている。

寮は複数棟用意されており、
生徒には一人一人個室が提供される。
だが素行の悪い生徒が居た場合は、
模範的な監督生と相部屋にされて
徹底的指導を受ける。

旧態依然とした制度ではあったが、
保護者からは絶大な支持を得ていた。
学生の大半が良家のお嬢様である事もあり、
むしろ世間から隔離したいという思いもあったのだろう。

かくして、この箱庭は現代とは思えない程封鎖的で、
独自の規則に縛られていた。

そんな逸脱した箱庭の中で、
私、弘世菫も息の詰まる生活を送っている。



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だがそんな白糸台も、俗世から完全に
遮断されているわけではない。

白糸台高校は、中学からのエスカレーターだけでなく、
受験による外部生の入学も認めていた。

もっとも、こんな学校に途中入学する物好きなど
そう多くはないのだが――


「大星淡、ただいま参上!!」


――このように、残念ながらゼロではないのである。

しかも、そうやって入ってくる学生に限って
一癖も二癖もある奴が多い。


私が入学した年には、右腕から暴風を
巻き起こしながらお菓子を貪り食う女子が外部入学した。
しかも妙に鋭角に尖った寝癖を
直しもせずしれっと登校してくる痴れ者だ。

次の年には、まるで少年が如き短髪で
芝生としか形容しようがない頭をした生徒が入学した。
父親の影響で釣りが趣味との事で、
その点でも周りとのギャップが凄まじかった。


そして、私が最上級生になった今年は…
それらを遥かに超える問題児がやってきたわけである。


「…お前、本当にうちの学校に来たのか」

「まぁね!テルに泣いて誘われちゃったし!」

「この超新星淡ちゃんが、白糸台高校に
 新たな旋風を巻き起こすよ!」


自信満々のその台詞に、私は一人嘆息する。
彼女の言葉が現実になる光景が目に浮かんだからだ。


もちろんそれは、悪い意味で。


私がまだ中学生だった時の事だ。
自分が所属している寮ではなかったが、
寮生の一人がいじめを苦に自殺した事があった。

『彼女』は、高校から入学した外部生で。
白糸台特有のルールに馴染めず、
周りと軋轢が生じた結果の悲劇だったらしい。


(……危ういな)


噂では自殺した女性も、天真爛漫で
思った事をすぐに口にするタイプだったという。

何かしら対策を打たねばなるまい。
私は深く溜息をつき、一人頭を悩ませる。


「ちょっと、なんでそこでため息つくのさ!
 ほらほら、そんな風に顔しかめてたら
 幸せが逃げちゃうよ?」

「ほら、笑顔笑顔!」


そんな私の苦労も知らず、
淡は能天気に笑っていた。



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私が予想した通り、淡は入寮初日から
問題を引き起こした。

あろうことか、照の崇拝者の目の前で
照の事を呼び捨てにしたのだ。


「テルと同じ寮でよかったー!」

「て、テル…!?貴女のような
 外部の下賤な一年生に、宮永様を
 呼び捨てにする権利などありません!」

「恥を知りなさい!!」


あっという間に淡の悪名は学校中に轟き、
多数の敵をこしらえた。
即刻寮内対策会議が実施され、
あわや退寮寸前まで話が進んだ。

不幸中の幸いだったのは、
なんとか私と相部屋にできた事だろう。


「…というわけで入寮初日で
 いきなり懲罰送りなわけだが。
 何か申し開きはあるか?」

「はいはーい!監督官さん、
 この学校狂ってると思いまーす!」

「正直否定はしないがな。
 だが残念ながらこれもルールだ」


そう。これが、狂った箱庭のルールなのだ。
親しみを込めて下の名前で呼ぶ事も許されない。
照のように慕う者が多い相手の場合は特に。

まるでそれは、自らが勇気を出せないから
他者の足を引っ張るかのように。
皆が皆、足並みをそろえて周りを警戒している。

そんな彼女達からすれば、
淡は真っ先に排除すべき敵なのだろう。


(…教育する必要があるな)


守ってやる必要があると思った。
このやんちゃで表裏のない一年坊を。

私が守ってやらなければ、きっと。
一年後、この学校から淡の姿は消えているだろうから。



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躾は難航した。

休み中に徹底的に礼儀作法を叩き込んだものの、
所詮は付け焼刃に過ぎず。淡は毎日のように
誰かからの叱責を受けていた。

部屋に戻り、ふくれっ面で俯く淡を前に、
苦笑いしながら話し掛ける。


「今日もこっぴどく怒られたそうだな」

「ていうかさぁ。『菫先輩』って呼んで怒られたの
 ホントに納得いかないんだけど。
 『先輩』ついてるんだしいいじゃん!」

「私視点では別に気にしないんだがな」

「今まで『菫先輩』だったのを
 急に『弘世様』にする方が無理ってもんだよ!
 呼び名はホント勘弁して!」


そう。淡も別に、わざと反抗しているわけではないのだ。
ただ、ふとした時にポロリと素が出てしまうだけで。
照の名を読んだ時もそうだった。

とは言えそれを仕方ないと許していたら、
淡はいつまでたっても怒られっぱなしだろう。
淡自身のためにも、何とかして対策を考える必要がある。


「……そうだ。いっそ演技するのはどうだ?」

「演技?」

「ああ。もうこの際、最初から猫かぶりで
 優等生の大星さんを演じるんだよ」


照の営業スマイルと同じようなものだ。
要は気を抜いているからボロが出るのだ。
なら、素の淡をおしとやかで上品に仕上げるよりも、
常に演技させる方が失敗は少ないのではないだろうか。


「えぇー。なんかすっごい疲れそう」

「考え方次第じゃないか?。
 ゲーム感覚でやってみればいいだろう」

「ゲーム?」

「大星淡潜入ミッション。舞台は白糸台高校。
 見事平凡な女子高校生を演じて
 スパイ作戦を完遂させろ、みたいな」

「!そう言われると確かにちょっと面白そう!!」

「怒られる回数が少なかったら報酬として
 お菓子をくれてやろう。せいぜい演技に励むように」

「イェッサー!!」

「私はSirじゃない」


これで少しでも怒られる回数が
減ってくれればいいのだが。
いきなり凡ミスを犯す淡に肩を竦めながら、
自身の策が実を結んでくれることを切に願った。



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スパイ作戦は目覚ましい効果をあげた。
別人に擬態する事で、うっかりミスが激減したのだ。

だが予想していた通り、精神的な疲労も相当な物らしい。
それはそうだ。常に別人を演じて気を張っているわけだから。


「あぁあ〜〜、疲れたぁぁぁ〜〜〜っ!」


部屋に辿りつきドアを閉めるなり
ぐんにょりと崩れ落ちる淡。
私は呆れながらもそんな淡を労ってやる。


「でも今日は4回しか
 怒られなかったらしいじゃないか。
 寮長も『人が変わったみたいだ』って驚いてたぞ」

「そりゃー頑張って別人演じてるからねー」

「というわけで、もー今日は頭使えません!
 頑張ったので思いっきり甘やかしてください!」

「はいはい。よく頑張ったな。淡は偉い」


倒れ込んだままうねうねと床で蠢く淡。
膝をついてその頭を撫でてやると、
淡は気持ちよさそうに目を細めながら
私の方に擦り寄って来た。


「えへー。もっと、もっとお願いします!
 ほら、私褒められて伸びる子だから!」


淡は蕩けるような笑みを浮かべながら、
さらなる称賛を要求した。



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褒められると伸びるタイプ。
なんてことを言われたので、
この際徹底的に褒めてやることにした。

確かに淡は褒めてやるとあからさまに機嫌がよくなる。
そして、さらに褒められようと素直に頑張る。

私に褒められ続けた淡は、褒められる機会を得るために
自分から積極的に躾をねだるようになった。


「ねえ菫先輩。こういう時はどうすればいいの?」


何をするにも逐一私に確認をとるようになった。
いい傾向だと思ったから、
特に異を唱える事はしなかった。


そうするうちに、やがて淡は
普段私と離れている時に対処に困った事を
殊勝にもメモに残して後で聞いてくるようになり。

それを繰り返すうち、私は淡の行動から
起きうる事態を予想して、
あらかじめ対策を与える事を思い付く。
つまりは計画書を作っておくのだ。


そして、その効果は覿面だった。


「これすごいよ菫先輩!
 なんか監視されてるみたいにぴったり当たった!
 ストーカーみたい!」

「もう少し言い方考えろ」


計画書を与えたその日。
淡は初めて一度も怒られず
一日をやり過ごすという快挙を成し遂げた。

怒られなかったのがよほど嬉しかったのだろう。
淡はその日、終始笑顔でべったりと私にしがみ付く。


そしてこうねだったのだ。


「これからもずっとお願いね!」

「はいはい」


これまた特に異論はないので、
昨日と同じように計画書を作って渡してやる。

私が与えた計画書をまるで宝物のように
大事そうに抱き締める淡を見て。
心がじんわりと温かくなった。



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そして私はより管理の手を引き締め、
淡も喜んで受け入れた。


「スミレ先輩。もうちょっと指示細かくなんない?」

「今の粒度じゃ足りないか?」

「うん。例えばトイレ行く時とかさ。
 時々上級生が通りがかって
 因縁つけられるんだよね」

「ふむ。上級生の行動予測も指示に組み込むか」

「やった!スミレ先輩愛してる!」


指示はどんどん細かくなっていく。
最初は要点だけを記載したそれは、
いつしか時間単位でスケジュールが組まれるようになり。


やがて、分単位で行動を制御するように姿を変える。


そして、こうした改善を何度も繰り返すうちに…
私達は、どうしようもなく壊れていった。



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『菫、やり過ぎ。このままじゃ淡は駄目になる』




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ある日、照に苦言を呈された。

わざわざ二人きりになった上で放たれたその警鐘に、
疑問符を浮かべて首をかしげる。


「…?現状の何が問題だと言うんだ?」

「今の淡はもう叱られる事もない。
 それどころか『大星様』として
 崇拝される対象にまでなっている」

「育成計画は順風満帆だと思うが」


それは偽らざる本音だった。
だが照は驚いたように目を見開くと、
そんな事もわからないのか、
とばかりに鋭い口調で咎めてくる。


「順風満帆どころか、破滅一歩手前だよ」

「最近の淡は、なんでもかんでも菫に指示を仰いでる。
 頭を使わなくていいような些細な事まで」

「例えば、いつトイレに行くか…とか、
 そんな事まで菫に質問してるでしょ?」

「ああ。私がそうするように指示したからな」

「……ねえ菫。私達はもう三年生。
 後数か月で卒業するんだよ?」

「私達が卒業した後、淡は一人で
 頑張って行かなくちゃいけない」

「菫は、今の淡を一人にできる?
 安心して卒業できるの?」

「今の淡は、菫がいなくなったら…
 人形みたいに動かなくなりそうで怖い」

「……」


照に言われてようやく気づいた。
そうだ。淡との別れの日は刻一刻と近づいているのだ。

その事実は私の身体に鉛のように圧し掛かり、
その日は何も手につかなかった。


(…私が、居なくなった時の事か…)


相部屋で二人。密着して頬ずりしてくる
淡を撫でながら考える。

擬態を解くべきだろうか。
淡の擬態はもはや二重人格と呼べるほどに浸透している。
本物の淡にそれを適用する事は難しくないだろう。


(…だが)


いいや、そもそも嫌だ。
私以外に、本物の淡を晒したくない。
淡の笑顔は私だけのものだ。


苦悩に眉を潜める私に気づいたのか、
淡が心配そうに顔を覗き込んでくる。


「…どうしたのスミレ。なんかつらそうだよ?」

「ああ、ちょっと考え事をしていてな」

「何を?」

「ほら。もう12月だろ?後3カ月もすれば、
 私は白糸台高校を卒業する」

「うん」

「そしたらお前は一人になる。
 そうなった時…お前をどうするのが
 いいかを考えていた」


黙って私の言葉に耳を傾けていた淡は、
愕然とした表情で私を見つめる。

やがてその体は小刻みに震え出し。
今にも泣きそうにくしゃりと歪んだ。


そして、一言。



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『え、スミレ…私から離れちゃうつもりなの?』




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淡のか細く悲痛な問い掛け。それこそが、
私の求める解だった。




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あくる日の朝。私は照を呼び出すと、
開口一番こう告げた。


「照。昨日の質問の答えが見つかったよ。
 私が離れた後淡はどうするんだ、だったな?」

「…うん。考え直してくれた?」

「ああ。簡単な事だったよ」

「絶対に離れない。私は、一生淡を管理し続ける」

「……」


私が出した結論は、照が期待した答えではなかったのだろう。
大きな、本当に大きなため息をつきながら、
照は投げやりに吐き捨てた。


「…狂ってるね。菫も結局、
 箱庭側の人間だったって事か」

「なんとでも言えばいいさ。私は淡を独り占めしたいし、
 淡もそれを望んでるんだ」

「なら、誰も困らないだろう?」


照は再び深いため息をつく、
だがそれ以上、咎める事はしなかった。



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…三か月後。




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桜が花開き舞い散る4月。
淡は私の跡を継いで寮の監督生の座に就いた。


「本日から監督生に就任した大星淡です。
 先代の弘世様とは比ぶべくもない若輩ですが、
 精進して参りますのでどうか
 ご協力いただけたらと存じます」


それは私の指示によるもので。
私という後ろ盾を無くした後の、
対抗勢力の台頭を抑止する意味があった。

もっとも、もはやあまり
意味をなさないのも事実だが。


「…とは言っても、後29日もすれば
 弘世様が白糸台高校麻雀部のコーチに
 就任されるそうです」

「その際はまたこの寮で私と相部屋になります。
 つまり私は引き続き弘世様に
 ご指導いただく事になります。なので、
 あまり心配される必要はないかと思います」


「以上、よろしくお願いいたします」


そう。私が淡を手放すのはほんの一か月だけ。
手続きが済んだらすぐに、私は寮に舞い戻る。

そしてしばらくの間はプロとコーチを掛け持ちしつつ、
淡が卒業したらそのまま娶る。
これが私の出した答えだった。


「遅いよスミレ!30日って言ってたのに
 結局31日かかってるじゃん!!」


卒業して一か月と後少し。
約束通り部屋に戻った私に、
淡は飛びつきながら悪態をつく。
顔という顔にキスの雨を降らせながら。


「すまんすまん。思ったより交渉が難航してな。
 ていうか3日に1回は会ってただろ」

「つまり3日に2日も不在だったわけじゃん。
 まあ帰ってきてくれたからいいけどさ。
 で、交渉は何が問題になったの?」

「遠征の時お前を同行させる。
 ミーティング時にお前の参加を許可する。
 主にこのあたりだな」

「大丈夫だったの?」

「ああ。私がプロとして行動する時、
 お前は私の携行品扱いになる」

「やた!!」


上々の結果に歓声を上げると、
淡は再び私の顔に頬を擦り寄せた。


「あ、そう言えば。スミレが居ない間
 結構いろいろあったんだ。
 全部メモっといたから答え教えて」

「ああ。…って、随分たくさんあるな」


淡が手渡してきたメモ帳に目を通しながら、
私は一つ一つ指示を描き込んでいく。

半分くらい進んだところで、
私の筆がぴたりと止まった。


「…これは?」

「あ、うん。ちょっと気になっただけ」


大したことじゃない、そう淡は付け加える。


だがたった二行のその質問は、私達の行動が
狂っているという事実を端的に突き付けていた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


『擬態を続ける私と、スミレの前で見せる昔の私』

『どちらが、本当の私なのでしょうか』


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


私は即答できずに唇を結ぶ。
頭の中で自問する。


一体どこで間違えて、
どうしてこうなったのだろう、と。


最初は無用なトラブルを避けるために、
最小限の擬態を覚えさせるつもりだったのだ。

なのに、私達はいつの間にか。
擬態をより完璧にする事に没頭していた。


目的がすり替わっていた。
この箱庭で安全に暮らすという目的が、
いつの間にか、それ自体が私達の愛を育むための
コミュニケーション手段となっていて。

気付けば淡は、もはや自分では
何も考える事ができなくなり。
私は私で、淡の全てを管理しなければ
気がすまなくなっている。

世間一般からすれば、間違いなく私達は
壊れていると判断されるだろう。


だがそこまで考えて、
あの時と同じ結論に辿りついた。

別に狂っていてもいいじゃないか。
だって、私達は幸せなのだから。


一呼吸置いた後。淡の問いに答えてやる。


「そうだな。一日を占める時間だけで考えれば、
 もはや擬態の方が長いだろう。
 その点では、擬態の方が本物と言えなくもない」

「だがそれは誤りだ。擬態をしている間のお前は、
 言うなればロボットみたいなもんだからな」

「お前がお前で居られるのは、
 私と一緒に居る時だけだ」

「私から離れたらお前は生きていけない。
 いいや、生きていてはいけない。
 その事は肝に銘じておけ」


「…うん!わかった!!」


健常者が聞けば震えすら覚えるだろう言葉。

なのに、淡は心底嬉しそうに頬を緩める。
私もその反応に満足すると、
くしゃりと頭を撫でてやった。



--------------------------------------------------------









--------------------------------------------------------



こうして、私という箱庭の中で純粋培養された淡は、
今日も擬態を演じ続ける。

目に光を湛える事なく、ロボットとして
正確に指示を遂行しながら。

そして、私と二人きりになった時だけ人間に戻り、
あまったるい愛を囁くのだ。



--------------------------------------------------------



今日も淡は笑っている。
全てが狂ったこの箱庭の中で。



(完)
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posted by ぷちどろっぷ at 2016年09月10日 | Comment(10) | TrackBack(0) | 咲-Saki-
この記事へのコメント
すばらです
Posted by at 2016年09月10日 21:36
まさか菫さんにこのような気持ちがあったとは…2人の深い関係が狂気に満ちながらも切なく良かったです。続きが見れてとても良かったです。
Posted by at 2016年09月10日 22:18
照さん警告してたのか。箱庭側だったのか、という台詞が切ない…。どこかで淡にも同じようなことを言ってそう。
(淑女なあわあわも一目見てみたい…)
Posted by at 2016年09月10日 22:24
いいねぇ…いいねぇ…!(SAN0)
菫は結構早い段階で気づいたんですね。そして皮肉なことに気づいたことで加速して、振り切った。よい…
Posted by 閑古鳥 at 2016年09月10日 23:31
これがバッドエンドという人はおかしいと思う!淡を完璧に守り切った菫さまがこんなにすばらなのに!

ところで「右腕から暴風を巻き起こしながらお菓子を貪り食う女子」って誰なのかな…?かな…?
Posted by at 2016年09月11日 01:26
あわすみわっほい!
Posted by at 2016年09月11日 04:22
自覚しながら狂っていくのは最高すぎる
すばらです!
Posted by at 2016年09月11日 13:21

お疲れ様ですっ!
何気に病んじゃってる菫様がすばら過ぎてニヤニヤしちゃいました!
支配系はゾクゾクして本当に良いですね♪
楽しかったです♪
Posted by 如月ルーシェ at 2016年09月11日 17:48
菫先輩が思ってたより遥かに純粋だったので黒さを感じない狂気でした。むしろ菫があわあわに狂気を培養された気さえするレベルです。
いつも素敵な作品をありがとうございます。我儘ながら、どうか続けて欲しいです。本当にいつも楽しみにしてます。
Posted by at 2016年09月11日 19:07
徹底的に管理、支配されるのはなんか幸せそうです…
思考を放棄して、何もかも決めて欲しいと思う時が偶にあります
Posted by at 2020年10月21日 03:35
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