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【咲-Saki-SS】照「ねえ菫。貴女は人狼?」【ファンタジー】【絶望】

<警告>
テーマの都合上、
残酷な描写が頻繁に登場します。

本作品はあくまでフィクションであり、
パラレルワールドであり、
あくまで一つの物語としてとらえてください。

残酷な描写、ホラー、
好きなキャラが不遇な目に合うのが
苦手な方は今すぐ本ページを閉じる事を推奨します。


<あらすじ>
人狼。

それは国中を恐怖に陥れた人外の存在。
人の皮を被った狼の化け物。

二、三匹で固まって行動し、拠り所を持たず、
村から村を転々とする放浪の魔物である。

彼らは人知れず村に侵入し、
何食わぬ顔で殺した村人とすり替わる。
そして、隣人を装って
残りの村人も食い殺そうとする。

人に紛れた人狼を退治にする
たった一つの手段。
それは皆で団結して話し合い、
人狼と疑わしき人物を
多数決で処刑する事。

だがそれは、昨日までの隣人を
化け物として疑い、
自分が生き残るために殺す事を意味していた。


<登場人物>
宮永照,弘世菫

<症状>
・ファンタジー
・狂気
・異常行動
・絶望
・殺害

<その他>
・元ネタはパーティーゲーム
 『汝は人狼なりや?』です。
 原典が不明のため、興味のある方はWikipediaを参照の事。
 とはいえ推理物ではなく、あくまで人狼世界での物語のため、
 元ネタを知らなくても問題はないかと思います。

・救いようのない純然たるバッドエンドです。
 苦手な方は回避を推奨します。



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人狼。それは人をかどわかし、
滅びに追いやる死の獣。

いつ頃か現れたその生き物を前に、
人類は滅亡の危機に追いやられていた。


人狼は決して強くはない。
確かに、一対一なら確実に殺される事だろう。
だが、二人いれば逆に絞首台に登らせる事も可能だ。
なのにここまで猛威を振るうのは、
ひとえにその狡猾さが原因だった。

人狼は隣人の皮を、記憶を、思いを奪う。
自らが殺した人間に何食わぬ顔ですり替わり、
夜になればまた別の誰かを食い千切る。

そうして人狼の手に掛かり、
静かに滅びを迎えた村は、いまや数百を超えていた。



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『ねえ菫。貴女は人狼?』





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「……っ!?」


鋭い悪寒で瞼が開く。

宮永照は素早くベッドから身を起こし、
外界と部屋を隔てるカーテンを引っ張った。


「…っ、やっぱり……!」


たった一晩。そう、たった数時間で、
世界は地獄に姿を変えた。

窓から覗く景色だけでも、相当な範囲が
赤に塗り替えられている。
そして周囲に立ち込める薄気味悪い霧。


村が、人狼に襲われた証左だった。


人狼は闇深い夜に侵入すると、
夜のうちに殺せる限りの人間を殺戮する。
生き残った人間の数が
そのまま自分の脅威となるからだ。

そうして殺した相手の肉を、至る所に撒き散らす。
見た者が狂気に襲われ、そのまま廃人となる事を期待して。


「うっ…ぷ」


無残な死体が氾濫する光景に、
胃の中の食べ物が逆流し始める。
反射的に照は指を噛み、
襲い掛かる嘔吐感を押し殺した。


――心を折るな
  戦いはもう始まっている


心が壊れたらそこで終わりだ。
このゲームは、冷静さを失った者から落ちていく。

本の虫だった宮永照は、過去の文献から
経験則を受け継いでいた。


「…行かなきゃ」


ぴんと跳ねた寝癖もそのままに、
宮永照は外に飛び出す。

照が目指すは村長宅だ。正午までに着かねば殺される。
視界の端々に映る無残な骸を
必死に脳裏から追い出しながら、
宮永照はひた走った。



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人狼を葬り去る方法。それは村人の間で投票を行い、
疑わしいと思われる者を絞首台に登らせる事。
つまりは多数決で殺すのだ。
人間はこの殺戮行為に皮肉を籠めて、
『人狼ゲーム』と呼んでいる。

人狼の力は強くない。村の総意で殺すと言えば、
素直に殺されるしかない。
人に化けるという習性を逆手に取った対処法だった。
無論、誤って人間を殺してしまう事も多々あるのだが。


ちなみに、人狼側にはこんな遊戯に興じる義理はない。
なのに付き合わざるを得ないのは、
ひとえに魔法の霧のせいだ。

人狼に苦慮した国家が考案した施策の一つ。
人狼が村に侵入すると、呪い師が村に施した魔法が発動し、
村は魔法の霧に包まれる。
この瞬間から、村は侵入も脱出も許さない牢獄と化す。

そしてこの霧は、人間か人狼のどちらかが
滅亡した時のみ晴れるようになっていた。


霧が発生すると、村人は村長の元に集う。
そして正午を回った後は、生存者全員で捜索を開始する。

霧が発生した日の正午までに村長宅に来なかった者は、
人狼と判断されて惨たらしく殺される決まりになっていた。

ゆえに人狼も出ていくしかない。
もし隠れているところを見つかれば、
暴行の末に殺されるのだから。
こうした歪な縛りの上に、
殺戮のゲームは成り立っている。


つまり、人狼にとっても襲撃は命がけの行為だった。
それでも人狼は村を襲い続ける。

その事実は、ゲームにおける人狼側の勝率が、
人間のそれを凌駕している事を意味していた。



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正午までに村長宅を訪れたのは、
宮永照を含めてもたった十数人だった。

彼らは生き延びた幸運な者達であり、
これからさらなる地獄を味わう薄幸の者でもあった。


「…よかった。お前も生き延びていたか」


背後から掛けられたその声に、
照は背筋を震わせる。

その反応に少し傷ついたように。
背後の人物は眉を下げつつ薄く笑った。


「…菫も、助かったんだね」

「まだ助かったと言えるかは怪しいがな」


肩を竦めるいつもの仕草に、
照の緊張がほどけていく。

そして照は次の瞬間、
激しく心を強張らせた。


(菫が生きていてくれてよかった)

(…でも、菫は私にとって一番の脅威になる)


弘世菫。

村を代表する名家にもかかわらず、
それを鼻に掛けず、思った事を愚直に吐き出す弘世菫。

そんな菫は、村の皆から慕われていた。
事実照が菫と打ち解けたのも、菫のある意味
空気を読まない武骨さによるところが大きい。

口数が少なく社交性が高いとは言えない照にとって、
いともたやすく壁を破ってくる菫の存在には
いつも助けられていた。


(…でも、だからこそ菫は危険)


もし人狼が菫に化けていたとして、
自分は彼女を殺す事ができるだろうか。

正直自信がない。否。むしろ菫が人狼だとしたら。
既に人狼に食い殺されていたのだとしたら。

自分は、その首に吊り縄を回してまで
生きたいと願うだろうか。

照の思考がどろりと濁っていく。
駄目だ、考えるな。
まだ菫が人狼と決まったわけじゃない。
人狼は多くていつも二、三匹。
善良な人間の方がはるかに多いのだから。


でも、でも。そう考える事自体が、
命取りだとしたら……?


心の不安を拭おうとしても、
後から後から闇が覆いかぶさってくる。
いつもの無表情に隠れた裏で、
照は気が違いそうだった。


だが、状況はそんな照を待ってはくれず。
明らかにやつれた村長の口から、
人狼ゲームの開始が告げられた。



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『いっそ一思いに殺して欲しい』


照はそう考えずにはいられなかった。
そうすれば、この地獄から
一足先におさらばできるのだから。

隣人を異形と疑い、生きたまま縄で縊り殺す。
泣き叫び自分を罵倒する仲間を手に掛ける。
心優しい照にとって、それは
死をも上回る苦痛をもたらした。


(…いっそ、自殺してしまおうか)


脳裏に過ぎった破滅的な思い付きが、
酷く甘美に思えて仕方ない。

信頼の絆は猜疑で千切れた。
両手は仲間の死で穢れて真っ黒だ。
この状況でなお、生に縋りつく事に
何の意味があるだろう。


(……死にたい。なのに、死ねない)


思考が絶望に染まりつつも、
それでも照は生を手放せなかった。
死ぬのが怖かったから?違う。
生きる事を義務付けられたから。
そう、なぜなら宮永照は――


――『占い師』になってしまったから。


人狼との化かしあいが始まると、
一部の人間は特異な能力に目覚める。
人類を勝利に導くために、呪い師が授けた魔法の力だ。

能力には三つある。

一つは『霊能者』。その日の夜、処刑された者が
人間なのか、もしくは人外なのかを知る事ができる。

一つは『狩人』。夜、人狼に襲われる人物を
一人だけ襲撃から守る事ができる。
ただし、自分の身は守れない。


そして、最後に…『占い師』。
毎晩一人ずつ、心に決めた相手が人狼かどうかを占う事ができる。


どれも村に必要な能力ではある。
だがもし、どれが一番重要かと問われれば、
言うまでもなく占い師だった。
紛れもなく、占い師は村の命綱なのだ。

だからこそ、照は軽々に死ぬ事は許されない。
しかもなお悪い事に、偽者も名乗りを上げている。

占い師の真贋をわからなくするために、
人狼が能力者を騙る事は、人外側の定石となっていた。

この状況で偽者に流れを持っていかれれば、
村の滅亡は確定してしまうだろう。

だから照は生き続ける。
死に安寧を求めながら生き続ける。

そしてまた今日も一人。
照は村の仲間を首吊りに追いやった。



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照はなかなか死ねなかった。
幸か不幸か、彼女は聡明だったからだ。

普段から他人と距離を置くその神秘性。
一度口を開けば紡がれる理路整然とした弁舌。
本人が望むかは別として、照は占い師として
これ以上ない逸材だった。


そして、だからこそ彼女は長く苦しむ。


村から信用を得ている占い師を、
人狼が見逃すはずもない。
通常であれば、一番の襲撃対象となるところだ。

それは照にとって望むところではあったが、
村からの信頼が身罷る事を許さない。


端的に言えば、彼女は狩人に守られていた。


夜更けになると、人狼は人間を一人選んで噛み殺す。
だが、余程狩人の腕がいいのだろうか。
此度の人狼は二度も襲撃に失敗していた。


襲撃なしの朝を迎える度、
照は複雑な思いで瞼を開く。


(…ああ、また一日、地獄が延びた)


今日も誰かを吊るすのだろう。
指差された者は異常な程の涙を流し、
死から逃れようと暴れまわるところを取り押さえられ、
やがては絞首台を揺らすのだろう。


(だめっ…かんがえ、たらっ……)


不意によぎった光景に、胃液が食道を昇り始める。
咄嗟に口に指をあてるも、照はそのまま吐いてしまった。



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日に日に弱っていく照の拠り所。
それを上回って余りある恐怖。
それは、菫がまだ生きている事だった。

照がその占いと発言で信用を勝ち取ったように、
菫もまたその言動で命を長らえさせていた。


「心を折るな!諦めず戦え!
 私達はもう何人も殺したんだ!」

「仲間を死に追いやったあげく、人狼に滅ぼされました…
 なんてふざけた結末は許さない!」


菫はどこまでも強かった。
そして酷く眩しかった。
それは、崇拝の対象となる程に。

人の死に涙を流し、それでも生を諦めず。
村の未来を守るため、歯を食いしばりながら戦う菫の姿は、
強く村人の心を打った。


『菫が人狼なら仕方がない。
 その時はあまんじて破滅を受け入れよう』


人々は菫を占う事無く、人として確定させる道を選んだ。
その事実が、また照の闇を深くしていく。


(どうして?どうしてそんなに妄信できるの?)


信頼できる人からこそ、縋りたいからこそ占うべきだ。
菫が人狼なら諦める?馬鹿な。
それはただの思考停止に過ぎないではないか。


(…違う。本当は羨ましいんだ)


そんな風に思い切れたなら、どれだけ楽になれただろう。
菫は味方、敵になる事はあり得ない。
そう妄信できたなら、どれだけ幸せだったろう。


だが照は不幸にも聡明だった。


聡明だったからこそ彼女は気づく。
菫の行動は少し怪しいと。

確かに、菫の言動は琴線に触れる。
だがそれは感情的な面が大きい。
その実推理として見れば、
菫は驚くほど何も語っていないのだ。


――迷彩。


そう、まるで自らの本性を覆い隠すための
迷彩に思えてしまう。


(…いっそ、独断で占っちゃおうか)


だがそれも躊躇われた。

村からの信用を失うリスクもある。
だが、それ以上の障害があった。


結局は、照も菫に依存しているのだ。


もし本当に、菫が狼だったら。
少し想像しただけで、照の身体は震え出し。
歯がカチカチと音を立て始めてしまう。

そして今日も、照は菫を信じ切れないまま。
自らの死を願って瞼を閉じる。



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だが、そんな照の疑念は。
思いもよらぬ形で解消された。




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村中が悲しみに包まれていた。
殺し合いを始める事も忘れ、ただただ皆が慟哭した。
亡骸に縋って泣きじゃくる者もいた。


無残に四肢を引き千切られ、
達磨と化した菫の骸に。


皆が悲しみに耽る中、照は一人胸を撫で下ろす。


嗚呼、よかった。菫は違った。
私達の、私の敵じゃなかったんだ。
それが分かった事が何よりも嬉しかった。


そして同時にこうも思った。
最愛の親友の死を前にそんな事を考える自分は、
もうとっくに死んでいたのだろうと。


がらがら、がらがら。
照の耳元で音が聞こえる。
それは酷く不快な音で。
照は思わず耳を塞いだ。


がらがら、がらがら。
今度は大地が割れ出した。
足元が崩れていく光景に、
照は思わず目を覆った。


がらがら、がらがら、がらがら、がらがら。


目を覆っても、耳を塞いでも、
崩壊から逃げる事はできない。


がらがら、がらがら、がらがら、がらがら。
がらがら、がらがら、がらがら、がらがら。


気付いた。私自身が壊れてるんだ。
壊れて、崩れて、粉々に。


がらがら、がらがら、がらがら、がらがら。
がらがら、がらがら、がらがら、がらがら。
がらがら、がらがら、がらがら、がらがら。
がらがら、がらがら、がらがら、がらがら――



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――やがて、照はその場に崩れ落ちた。




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結論を先に言ってしまえば、照の村は滅亡を免れた。

早々に真占い師を妄信し、挙句襲撃から二度も守った。
きっとこの村の戦いは、類稀なる人類側の大勝利として、
永く語り継がれる事だろう。


もっとも照は語り部になるつもりはなかった。
自分の役目は終わったのだ。
もう楽になっていいだろう。

散っていった人達の、菫の葬儀を終えた後。
自分もひっそり幕を閉じよう。
照はそう考えた。


村の英雄として、菫の葬儀は盛大に行われる予定だ。
もっとも、悼む者はたった四人しかいないのだが。

死臭が漂う村の中、照は菫の家を訪れる。
生前菫が大切にしていた品を、炎に乗せて届けるために。
送別の品を選ぶ大任を与えられていた。

照は固辞しようと考えた。
最後まで菫を信じなかった自分にそんな資格はない。
そう何度も主張した。だが残りの人間も固く譲らず、
照は仕方なく菫の棲み処を荒らす事になる。


(…酷い荒らされ方)


菫の部屋は荒れ放題だった。襲撃を受けた夜、
人狼が当たり散らしていったのだろう。

人狼に酷く憎まれていた。裏を返せば、
それだけ菫は人々の希望だったのだ。


(…なのに、私は、そんな菫を)


緩む涙腺に歯を食いしばりながら、
照はできるだけ無事なものを探そうとする。

普段から使っていた弓は無残に叩き折られていた。
戸棚の食器は一枚残らず割れていた。

何か、何か一つでも人狼に襲われていない物はないか。
きょろきょろと部屋を見渡した時、
小さな机が目に留まった。


照の頭の中に、ある一つの思い出が過ぎる。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


『照。お前にだけは伝えておこう。
 もし私が先に逝ったら、お前にある物を託したい』

『机の引き出しが二重底になってるんだ。
 そこに、大切なものをしまっておくから』

『謹んでお断り申し上げます』

『なんでだよ!?そこは神妙な顔で頷くところだろ!?』

『縁起でもない。そういう若き日の熱い病気は、
 原稿用紙にでも書き殴って』


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


まだ幸せだったあの日、
夢見がちな親友を切って捨てた事があった。


(…思い出さなければよかった)

心の底からそう思った。それでも思い出した以上、
放置するわけにもいかなかった。

もし照がそれに目を瞑れば、菫の『大切なもの』は
このまま闇に埋もれて消えるのだから。

自分が受け継ぐことはないにせよ、
誰かに託す必要があるだろう。


机は粉砕されていた。それでも二重底は機能したのか、
折れ曲がりながらも中のものを守っていて。
照はそこから、はみ出たノートを見つけ出す。


ノート。書き物。下手をすれば遺書。


照の心が重くなる。それでも確認しないわけにはいかず、
ゆっくり照はノートを開いた。



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『狩人日記 弘世菫』




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『一日目』
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不思議な力に目覚めたようだ。

おそらくは狩人という奴だろう。
毎晩人狼の襲撃から誰かを守る事ができる。
リアル狩人の私にはうってつけの能力だ。

文献によれば、狩人は日記をつけるのが定石らしい。
終盤、狩人である事が人である事の証明になり、
ひいては村の切り札になるケースもあるからだ。

というわけで、毎日誰を護衛したのかを
綴っていこうと思う。

もし私が仮に力尽きたとしても、
きっと照の奴が見つけてくれるだろう。


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『二日目』
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村はひどい有様だ。そこここに死体が氾濫し、
生き残った者も皆互いに疑心暗鬼の目を向けている。

そんな中、照が占い師だと名乗りを上げてくれて、
九死に一生を得た心地がした。

シンプルな構図になったからだ。
私と照は仲間。私はただ、照を守ればそれでいい。

無論、断定できない事はわかっている。
あれが照の皮を被った狼で、
占い師を騙っている可能性もある。

だがそれは、照の推理が明らかに
矛盾した時に考えればいいだろう。
親友を信じる、それすらできない人間に
まともな推理などできるはずがないのだから。

何より、私は照を疑う事はしたくない。
照は私にとって、唯一無二の ■■  
親友なのだから。


【今日の護衛は照を選んだ】


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『三日目』
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早々に運が回ってきたようだ。
もう照を疑う必要がなくなった。

人狼からの襲撃を防いだのだ。
自分でもどうやったのかよくわからないが、
被害者が出なかった事が何よりの証拠だろう。

無論、照の精神が狂っていて、
人にありながら狼に加担している可能性は残る。

それでもあいつは人間だ。
私と同じ、赤い血が流れている人間だ。


私は今日から心に決めよう。
例え命に変えてでも、絶対照を守り切ると。


【今日の護衛は照を選んだ】


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『四日目』
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今朝の死体は二つになった。
昨晩は守る事ができなかったのだ。

私には彼を守る力があった。
なのに私は見殺しにした。
すまない。だが、私は照から離れる事はできないんだ。

暗い話は忘れよう。吉報だってあったのだから。
そう、ついに照が人狼を一匹あぶり出した。

人見知りが激しい、無害そうな少女だった。
こんな娘にすら化けられるのかと、
擬態の完璧さに恐怖を禁じ得ない。

だがもう恐れる必要はない。
私が照を守り切れれば、それだけで勝負は決する。
照が健在でさえあれば、
必ずや人狼を見つけてくれるだろう。


【今日の護衛は照を選んだ】


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『五日目』
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朝になって歓喜に震えた。
昨晩も襲撃から人間を守る事ができたのだ。

元々九割九分信じていたが、
もうこれで間違いない。

まさかこの劣勢の中、狂人を
二度も襲撃する狼はいないだろう
照は、間違いなく真占い師だ。


村全体としても照を妄信する事に決まった。
そうだ、それでいい。
襲撃情報がなかったとしても、
照の理論に矛盾はないのだから。

真偽を明らかにするはずの
霊能者が出てこなかったのは残念だが、
もはや大勢は決したと言えるだろう。

真占い師が生きている。
残りの狼はたったの一匹。


勝利はもう目前だ。


【今日の護衛は照を選んだ】


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日記は、そこで止まっていた




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涙が、涙が止まらなかった

照が菫を信じ切れないで疑いの目を向ける中
菫は、一心に照を守り続けていたのだ

二度も人狼の襲撃を退け、自らの命を犠牲にして
ついには照を守り切った


ずっと、ずっと死を希っていた照の命を



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照は肩を震わせて嗚咽した

空を見上げて天を睨みつけ
そこに住まうであろう神を呪った



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嗚呼、神様
貴方はどうしてこんな惨い事をしたの

私は死にたかったのに
どうして菫を殺したの



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死ぬべきは私だったのに

菫が残るべきだったのに



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今からでも遅くない

私と、菫を取り換えて



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呪いを空に投げ掛け続ける

天が返事を返す事はなく

ただただ、照の泣き声だけが

周囲に木霊した――



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あの悲劇から数年後、今でも照は生き延びている

何度となく首に刃を突き付けた
その度唇を噛んで耐え凌いだ


心は、魂は死を願っている
だが自ら死ぬ事は、菫の死を犬死にに変えると同義
そう考えてしまったら、照は手を動かせなかった


自分の命は、菫の犠牲の上で成り立つ
だから自分は、生きて償わなければならない


それが、照が緩慢に生き続ける理由


毎朝照は目を覚ますと、
じょうろを片手に森に出掛ける
澄んだ森の奥深く
菫が眠る十字架に祈りを捧げるためだ

十字架の周りにはスミレを植えた
スミレは力強く咲き誇り、
墓を守るように揺れている


じょうろで水をやりながら、
照はいつものように菫に話し掛けた


「花は、何度も死んでは生まれ変わる。
 この子達は何代目だったっけ」

「もしかしたら、菫も生まれ変わって。
 どこかで元気に生きてるのかもしれないね」

「…私も、そろそろ生まれ変わっていいかな」


返事はなかった
でも照にはそれが、
無言の否定のように感じられた


「じゃあね。また、お昼になったら来るよ」


今度は返事をするかのように、
スミレが風に揺れ首を垂れる

それを見て照は薄く笑うと、
やってきた道を戻り始める


どろりと目を濁らせたまま



(完)


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作中明かさなかった裏設定
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照は菫が託した物を全て見つけたわけではない。
実際にはあの二重底には、狩人日記とは別に
もう一枚『遺書』が挟まれていた。

狩人が人狼に狙われやすく、短命だと知っていた菫は、
毎日遺書を書いては更新していた。

その中には照が菫を疑っている事、
そしてそれが照を苦しめている事に
気づいていた事がしたためられている。

その上で、照の役職上それは仕方のない事だから、
自分をあまり苦しめないようにと遺されていた。

さらに、もし照がその遺書に気づき
かつ注意深く遺書を観察したなら、
遺書に刻まれたへこみに気づいただろう。

それは、菫が遺書に一度は書き残し、
その上で破り捨てて書き直したものの、
筆圧の強さが災いし下の紙に残った残滓だった


『お前を愛していた。そして、死んでも愛している』


もしその文字を見つけられたなら、
照はその魂を肉体から解き放つ事ができ…
心だけは救われる事ができただろう。

だが照は遺書に気づく事なく、
菫に縛られたまま廃人としてその一生を終えた。

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posted by ぷちどろっぷ at 2016年11月19日 | Comment(6) | TrackBack(0) | 咲-Saki-
この記事へのコメント
照と比べれば菫さまに思い残すことがなかっただけに、残された照の心境は想像するに余りありますね…。二度と帰ってこない親友、生涯に渡って消えない十字架…。
Posted by at 2016年11月19日 22:38
人狼シリーズ大好きです結局救われないのが
Posted by at 2016年11月20日 05:24
これが本気の人狼百合……!
ゆるゆる(?)の百合人狼だったら、犠牲者は目隠し拘束でビクンビクンっ!してる所を村人に発見される形……だったかも知れない。
ゆるゆる百合人狼なるものがあるのかは分かりませんが。
Posted by at 2016年11月20日 12:03
ドロドロのエンドがたいへんスバラです。最後の解説でより内容を深く知ることができて良いです。
Posted by at 2016年11月20日 17:54
菫に食べられるの話かと勘違い。格好良かった。
Posted by at 2016年11月20日 22:25
よかったです。
てっきり菫先輩が人狼かと思いましたてへ
Posted by アントマソ at 2016年11月21日 19:40
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