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【咲-Saki-SS:成誓】「なるちか日記」【依存】
<あらすじ>
私、岩館揺杏にとって
本内成香は未知の生命体だった。
意外とワガママなチカセンを追っかけて、
ミッション系高校までついてきた天使系小動物。
まったく、どういう経緯でそうなったのやら。
探るチャンスがやってきた。
ある日部室で二人が綴っていたもの、
その名もなんと『なるちか交換日記』。
ダメもとで頼んだら貸してくれた。
私は爽と共に、二人の過去を紐解いていく。
<登場人物>
桧森誓子,本内成香
<症状>
・依存
<その他>
次のリクエストに対する作品です。
・成誓とか、病んでる所が全く想像出来ないペア
※今のところギャグの予定(もしくはどシリアス)
→ギャグなのかシリアスなのか
よくわからないものになりました。
※キリスト教設定などは原作では明らかになっていないので
あまり気にしないでいただけると嬉しいです。
※若干キャラ崩壊かも。
フィーリングで楽しんでいただければ。
--------------------------------------------------------
有珠山高校に入学して約1か月。
私、岩館揺杏はいまだ学校の雰囲気に馴染めずにいた。
やっぱ、ミッション系って事もあって
聖人系が集まってくるのかね?
あまりにも掛値なしの『いい奴』が多過ぎて、
逆にちょっと対応に困る。
まあ、それがクラスメイト程度であれば、
当たり障りなく接してればいいんだけどさ。
その手の聖人が、なんとこんないい加減な部活にまで
生息してるとは思わなかった。
そう、その聖人の名は本内成香。
『素敵です!』『怖いです!』が口癖の天使系小動物だ。
成香は進路の決め方もちょっとアレだった。
憧れの先輩の後を追い掛け、進学先までついて行く。
フィクションならド定番、でも現実じゃあまり聞かない話だ。
まあ私、岩館揺杏もその口ではあるけれど。
『爽大好き』で追っ掛けたのかと聞かれると、
やっぱりそれはちょっと違う。
腐れ縁の親友が先に人柱として飛び込んで、
結果が「悪くない」なんて評価だったからで。
無論評価が酷ければ、平然と別の高校を選んだだろう。
ま、入ってみたら結構騙された感もあったけど。
そんな私からすれば、純粋100%混じりっ気なしで
チカセンについてきた『本内成香』って存在は、
『ちょっとヤベえ』以外の何者でもなかった。
「何いきなりモノローグ入れてんだ揺杏」
「いや、ヤベーっしょ本内成香」
「なぜフルネーム」
「や、だって成香って実家牧場だろ?
ミッション系高校とかすげーイレギュラーじゃん。
これ間違いなくチカセン狙いっしょ」
「前から少し気になってたんだよね。
成香がチカセンの事どう思ってるのかさ。
ぶっちゃけるとライクなのかラブなのか」
「そんな時に、『こんなもん』見つけちゃったらさ」
爽の前に差し出した一冊のノート。
表紙には『なるちか交換日記』
なる文字が刻まれている。
昨日二人が部室で書いてるのを見掛けて強奪したものだ。
爽は目を輝かせて興味を示しつつ、
でもありがちな警告を口にした。
「いや、凄いお宝なのは確かだけどさ。
流石にそれを覗き見るのは看過できないな」
「私だってその辺はわきまえてるって。
本人達の許可はちゃんと取ってある」
「取れたのかよ!?凄いななるちかコンビ!」
「見ていい?って言ったら割とあっさり許してくれたけど。
ちょうど最後のページになったからって」
「マジか…私が交換日記とかしてたら、
その事実自体秘匿するけどな。
でも、見られていいとか一体何書いてんだ?」
「な、気になるだろ?というわけで読もうぜ。
お、ちょうど入学式の頃の日記もあるじゃん。
この辺から読むか」
「あれ?頭から読まないのか?」
「や、赤の他人だった頃の日記を読むのは、
流石に配慮に欠けるっしょ」
「なるほど」
爽と二人並んで座ると、私はノートを広げて置いた。
ノートには成香らしい丸文字と、
チカセンの意外と角ばった文字が散りばめられている――
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
----------------------------------------------
4/6『成香』
----------------------------------------------
明日から、ようやくチカちゃんと同じ学校、素敵です!
これからは交換日記を書くのも楽になりますね。
いつもチカちゃんに来てもらうの、
心苦しく思ってたんです。
新しい学校ってことで少し不安もありますけど、
こういう時、私は恵まれてるなって思います。
素敵な先輩が居てくれて本当によかったです。
そういえば、チカちゃんがいつも話してくれる
獅子原さんにも会えるんですね。
今からとっても楽しみです。
----------------------------------------------
『誓子』
----------------------------------------------
交換の話は私がなるかに会いたくて行ってるだけだから
気にしなくていいんだけど…これからは確かに楽になるかもね。
それはそれとして、有珠山高校にようこそ!
ミッション系の高校だから
ちょっと特殊な授業が多いけど、
なるかならすぐ慣れると思うわ。
爽と私は麻雀部に入ってるの。
あ、でももう麻雀はやってなくて、
トランプとかオセロとか、そういう
ボードゲーム全般を遊ぶゆるい部活だから安心して。
爽は…うーん。悪い子じゃないんだけどね。
まあ前から話してるから知ってると思うけど、
ちょっと言葉遣いが男子っぽくて
変な行動が多いから、温かい目で見てあげて。
何かあったら言ってね?私が爽から守るから。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「私の扱いいきなり酷いな!!」
「やー、正直擁護できないわ」
最初のページを読み解くなり、爽が激しく突っ込んだ。
しかし、本人が『読んでいい』というだけあって、
実に毒のない、当たり障りのない内容だ。
「しかし、 さっすがなるちかコンビ…
すっげー平和で平凡。え、この調子でずっと続けてんの?
それはそれでヤバくね?」
「……」
思ったままを口にする。でも、
爽は違う印象を持ったようだった。
珍しく眉間にしわを寄せると、内緒話するように声を潜める。
「……いや、これ結構危ないと思うぞ」
「どこが?」
「途中から始まってるからかもしれないけどさ。
まず、成香が追いかけてきた事を
チカが当然のように受け止めてる」
「あー。まあでもそれは受験の時に解決済みなんじゃね?」
「かもな。でもさ、成香がチカと同じ部活に入るのまで
前提みたいになってるのはおかしくないか?」
「あー」
「毎日交換日記を届けてるのも結構重い。
何よりそれって、毎日会ってるって事だろ?
毎日二人きりで会って、かつ交換日記って…
なかなかのなかなかだろ」
「言われてみると確かに」
何の変哲もない平凡な日記。だったはずが、
爽の分析を通すと途端に闇が漏れてくる。
果たしてその闇はただの杞憂か、それとも。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
----------------------------------------------
4/7『成香』
----------------------------------------------
登下校も、部活でもチカちゃんと一緒。
今日一日、とってもすてきでした!
でも、みなさん幼馴染だったんですね。
なんか、私だけ一人割り込んじゃったみたいで
申し訳ないです…
お話では伺ってましたけど、
獅子原さんや岩館さんと話すチカちゃんは、
私の知ってるチカちゃんとちょっと違った気がします。
なんというか…その、すごく自然っていうか。
私、今までチカちゃんに
我慢させちゃってたのかなって思うと、
すごく、すごく申し訳なくて。ごめんなさい。
----------------------------------------------
『誓子』
----------------------------------------------
私も久しぶりになるかと学校に通えて嬉しかった。
これからまた2年間よろしくね?
幼馴染って言っても、爽や揺杏とは幼稚園までで、
小学校からはバラバラだったから…
なるかが思ってる程付き合いは長くないよ?
懐かしくて昔話で盛り上がったのは事実だけど、
私にとって、一番の幼馴染はなるかだから。
あんまり気にしなくていいと思う。
我慢とかも違うかな。ただ、爽は同級生だけど、
なるかは私にとって妹みたいなものだから。
いいところ見せたいって頑張っちゃうのはあるかも。
それは私の自己満足だから許してほしいな。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
なんとなく、二人がこの交換日記をどんな風に
使ってきたのかわかった気がする。
多分、口には出しにくい本音を吐き出して。
お互いにわかりあうためのものなんだろう。
そうやって、二人はずっと繋がってきた。
「……なんていうか、すげー」
そうやって本音を剥き出しにした上で、
それでも出てくるのは相手への気遣い。
それは成香の純真さからくるものなのか、
教会の娘であるチカセンの本領発揮か。
どちらにせよ、穢れがなさ過ぎてなんか眩しい。
「マジであの二人、聖人君子か何かじゃねーの?」
「まあ、内容だけ見ればそうなんだけどな」
「ん?爽探偵はこの内容にも異論があるわけ?」
私にはごく普通の青春物語にしか見えないんだけど。
爽は無言でノートを手に取ると、ぱらぱらとページをめくっていき。
OH…と大げさに肩をすくめた。
「ヤバいな」
「だから何がだよ」
「先頭に日付が書いてあるだろ?おかしいと思わないか?」
「ん?毎日ちゃんと書いてて偉いねーってくらいしか……」
「……って、あれ?」
言われてみて気づく。あれ?なんで毎日日付が書いてあって、
しかも成香から始まってんだ?交換日記じゃなかったっけ。
「変だろ?つまりこの日記は毎日『往復』してるって事だ。
それも一日の大半が終わるタイミングで」
「例えば放課後とかに成香が書いて、
チカがその場で返事してる、とかじゃないか?」
「え、何それ。メールじゃダメなの?」
「駄目なんだろ」
「まあでも、学校でやってるならまだわかるんだけどな。
今ちょっと見たら、入学式前のページも毎日続いてた」
「え、ちょ、なんで?それ毎日会ってるって事だろ?
直接口で言えばいいじゃん」
「だよなぁ」
書いてある内容は微笑ましい。
でも、状況と照らし合わせるとどこか歪だ。
なんだこれ。ちょっと背筋がゾクゾクしてきた。
どうしたもんかと逡巡していると、
爽が意を決したように提案してくる。
「なあ、少しページを遡ってみないか?
私の予想が当たってたら、ちょっと怖い事になってるはずだ」
「ホラーかよ。まあ、見ていいって
言われてんだからいーんじゃねーの?」
「オーケー。じゃ、遡るぞ」
爽は再びノートを手に取ると、パラパラとページを遡る。
それはまるで、最初から目的が決まっているかのような動き。
そして狙いすましたように、特定の日付で指を止めた。
刻まれた日付は3月3日。
その日は流石に私も覚えている。
受験生にとっては特別な日。
有珠山高校の、合格発表が掲載された日だ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
----------------------------------------------
3/3『成香』
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合格してました、素敵です……!
これで私も、4月からチカちゃんと同じ
有珠山高校の生徒です。
また二人で一緒に登校できますね。
人がいっぱいいる前で抱きついちゃってごめんなさい。
結果を見るの、本当に怖かったんです。
受かってるってわかって、本当に嬉しかったんです。
また、チカちゃんと同じ学校に通えることが。
嬉しくて、すごく嬉しくて。素敵です。
----------------------------------------------
『誓子』
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よかったね。でも私は心配してなかったよ。
なるかがすごく頑張ってたの、私が一番知ってたから。
なんかこの流れ、中学校の時を思い出すな…
あの時も二人で掲示板を見に行って、
なるかは私に、泣きながら抱きついてきてくれた。
3年経っても変わらずにいられるのがすごく嬉しい。
これからもよろしくね。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
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3/2『成香』
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受験発表、怖いです……
チカちゃん、一緒に見てくれませんか?
一人だと悪い方向にばかり考えちゃって
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『誓子』
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もちろんそのつもり。一緒に見に行こうね。
大丈夫。どんな結果になっても、
私はなるかの傍にいるから。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
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3/1『成香』
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怖いです…落ちちゃったらどうしよう。
万が一、落ちちゃったら、
3年間チカちゃんと離れ離れになっちゃいます……
怖いです、怖いです、怖いです、助けてください。
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『誓子』
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なるかなら大丈夫。2年間、ずっと二人で
過去問やってきたんだから。
もし落ちちゃったら私も責任取るから大丈夫だよ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
――ぞくり。
悪寒が背筋を駆け巡る。
なんだろう。二人はお互い寄り添っていて、
微笑ましいやりとりのはずなのに。
どこか、纏わりつくような寒さを感じてしまうのは。
「やっぱりか…ここまでくると『依存』だな」
私が感じた悪寒の正体。
爽はそれを端的に表現してくれた。
『依存』
そう、二人は依存しきってる。
この3日間の日記だけでも、
二人の関係が浮き彫りになってくる。
『2年間過去問を解き続けた』
つまり成香は、チカセンが進路を決めた段階で
同じ道に進むために勉強を始めたという事だろう。
『3年間チカちゃんと離れ離れになっちゃいます』
これもなかなかだ。成香は大学も同じように
チカセンを追い掛ける事を暗喩してる。
『もし落ちちゃったら私も責任取るから』
極め付けがこれだ。責任取るってなんだ。
転校でもする気なのか。いや、もしかしたらもっと……
「しかもこれ、中学進学の時も同じだったんじゃないか?」
爽の言葉に愕然とする。確かに日記は、
その可能性を色濃く示唆していた。
私達も似たような腐れ縁ではあるけれど、
私立と公立ではまるで意味が違ってくる。
私達は、何もしなければエスカレーターで同じになるのに対し。
チカセンと成香は、狭き道をあえて選んで一緒に居るのだ。
「爽はこれ、どう思うよ?」
「んー。まあ道が一緒でもいいとは思うよ。
それを、成香が自分の意志で選んでるならさ」
「でも、少なくともここまでは、成香本人の意志が見えない。
チカにべったり依存してるようにしか」
爽は腕を組んで考え込む。いや、別に私達が悩む話でもないし、
本人の好きにすればいいとは思うけど。
なんとなく複雑な気持ちになるのは事実だ。
「……チカは、成香の事どう思ってるんだろうな」
「実はちょっと困ってるのよね」
「うわぁっ!!?」
返事を期待しなった呟きに、本人からの応答が返る。
唐突に姿を現したチカセンに、
私達は二人して椅子をひっくり返した。
「え、びっくりし過ぎでしょ。一応ちゃんとノックしたわよ?」
「マジか。集中し過ぎてた…でも、困ってるってなんだ?」
「読んだんでしょ?なるかの事だってば」
溜息をつきながら、チカセンは成香の過去について語り始める。
成香とは小学校の鼓笛隊で仲良くなった事。
純真無垢でとてもいい子で。でもそのせいで、
人を傷つけるのを怖がってあまり本音を語らない事。
それを、チカセンはずっと気にしていた事。
「なるかは気にしなくていいって言ってくれるんだけど。
ほら、私は結構自分の思いを言っちゃうタイプだから」
「なるかに押し付けちゃってるんじゃないかなって。
でも、なるかは本音を言わないでしょ?」
だから交換日記。
成香が口に出せない本音を、文字を通して吐き出すための。
これを使うようになってからは、
比較的本音がわかるようになってきたらしい。
チカセンに言わせれば、最近では交換日記というよりは
筆談みたいになってるとの事だった。
「で、本音を覗いてみたらチカセンにべったりだったと」
「うん。最初はてっきり、
私に合わせてくれてるのかと思ったんだけど」
合わせてるどころか、『チカセン命。チカセン絶対』だったわけだ。
聞けばこの流れは今に始まった事じゃなくて、
やっぱり小学校の頃からずっとらしい。
「それで、ちょっと悩んでたんだけど…
揺杏に見られて、読んでいいかって聞かれたから。
この際相談に乗ってもらおうと思ったの」
「なるほど」
「で、チカとしては成香をどうしたいんだ?」
「え?そりゃもちろん、最終的には――
--------------------------------------------------------
「結婚したいけど」
「「は???」」
--------------------------------------------------------
爽と二人、綺麗に声がハモってしまう。
出た、出たよチカセン恒例の流れぶった切り天然発言。
「わかってるのよ。うちは日本聖公会だから
同性愛の結婚は認められてない。
それは有珠山高校も同じ事」
「そんな私が、なるかに求愛するのは茨の道だって」
「でも、小学校の頃からずっと私の後をついてきてくれて、
私に笑いかけてくれるなるかが可愛くて仕方ないの」
「でも、なるかは私の言う事なら最終的には
何でも受け入れてくれちゃうから。
二つ返事でOKしちゃうんじゃないかって」
「えーと、シリアスモード解除って事でいい?」
「私はずっとシリアスだってば!」
ぷんすこ頬を膨らませるチカセン。
いや、確かに言ってる事はそんなに変ではないし、
流れもそこまでおかしくはないんだけど。
なんか、闇だ依存だなんて怯えてたのが馬鹿らしくなってくる。
爽も同感なのだろう。
すっかり脱力して机に寝そべりながら、
だるそうにチカセンに問いかける。
「成香が盲目的にべったりな事はどう思ってるんだ?」
「なるかが我慢してるなら困るけど、
負担に思ってないなら問題ないでしょ?
愛の形なんて人が定義するものじゃないと思うわ」
「おい教会の娘」
「でも、それなら別に問題ないんじゃねーの?」
「プロポーズくらいは、なるか本人の気持ちが欲しいでしょ?
私に言われたから結婚します!っていうのは流石にちょっと」
まあ、言いたい事はわからなくもない。
私立のお受験に盲目で取り組むのも相当だとは思うけど、
結婚とでは重さが違い過ぎる。
……って、なんで交換日記覗いただけで、
幼馴染の結婚相談受ける事になってんの?
なんだか頭が痛くなってきた。
なんて頭を抱えてたら、もう一人の問題人物が顔を出す。
なるちかコンビの小動物の方だ。
「お、遅くなりました」
また面倒な事になりそうだ。私はそれとなく交換日記を隠す。
そしてその裏表紙をチラ見して、なんだかどうでもよくなった。
「ねえチカセン、ちょうどいいし、もう直接聞いちゃったら?」
「言えるわけないでしょ!?」
「大丈夫だって。ぶっちゃけ二人とも
ドン引きするくらい愛が重いから」
交換日記の裏表紙。そこには小さく『NO.108』と刻まれていた。
ええと、単純計算で小学校1年生から続けてるとして9年だろ?
ノートが30枚綴りの60Pだから、1年365日として…
うん、1日2ページ、9年間欠かさず続ける計算だ。
私や爽だったらこんなの3日で投げ出すね。
盲目的であろうと何にせよ。
成香のチカセンへの愛は、正直病気レベルに重い。
むちろん、チカセンの保護欲も。
「え、ええと……何の話ですか?」
「その、ね。なるかは優しいから、
私に無理して合わせてくれてるんじゃないかって」
「ええ!?それを言うならむしろ
チカちゃんの方じゃないですか!?」
成香がぶんぶんと勢いよく首を横に振る。
そういえば日記でも同じようなやり取りしてたっけ。
二人のやり取りは平行線を辿る。
やがて、成香は意を決したようにペンを執ると、
カバンからノートを取り出して何かを書きなぐり始めた。
ああ、なるほどこんな感じで使ってたのか。
成香が刻んだ文字を見て、チカセンは驚いたように目を見開くと、
涙を浮かべてペンを受け取る。
ぼんやりその様子を眺めていたら、爽に肩を叩かれた。
『帰ろうぜ』
『そだな』
後の事は若いお二人でゆっくりと。
私達は邪魔しないように音を立てずにその場を立った。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
----------------------------------------------
4/28『成香』
----------------------------------------------
私はチカちゃんが好きです。
中学校と高校、チカちゃんについてきたのも。
チカちゃんと同じ部活に入るのも。
ずっとチカちゃんと一緒に居たいからです。
我慢なんてしてません。むしろ、チカちゃんと
一緒に居たいって言う私の我儘なんです。
チカちゃんと一緒に居られるなら、
私はそれで幸せなんです。
----------------------------------------------
『誓子』
----------------------------------------------
ごめんね。私が誤解してたみたい。
私が自分勝手になるかを引っ張って、
なるかが盲目的に
受け入れてくれてるんだって思ってた。
なるかにとっては、そこはあんまり
重要じゃなかったってだけなんだね。
じゃあ、その……もし。
私が結婚してほしいって言ったら、
受け入れてくれる?
きっと、すごく大変でいばらの道になっちゃうけど。
----------------------------------------------
『成香』
----------------------------------------------
素敵です!
--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
次の日、二人仲良く揃って部室に現れたなるちかコンビは、
恥ずかしそうにしながらも幸せそうに頭を下げた。
「このたび、私、桧森誓子と本内成香は
結婚する事になりました!」
「相談に乗ってくれてありがとう!
揺杏と爽のおかげだわ」
「「ありがとうございます!!」」
開口一番の爆弾発言に、私はぽかんと口を開けると。
「ああ、そう」なんて、木偶人形みたいに頷いた。
……やっぱりこいつら、マジやべえ。
(完)
私、岩館揺杏にとって
本内成香は未知の生命体だった。
意外とワガママなチカセンを追っかけて、
ミッション系高校までついてきた天使系小動物。
まったく、どういう経緯でそうなったのやら。
探るチャンスがやってきた。
ある日部室で二人が綴っていたもの、
その名もなんと『なるちか交換日記』。
ダメもとで頼んだら貸してくれた。
私は爽と共に、二人の過去を紐解いていく。
<登場人物>
桧森誓子,本内成香
<症状>
・依存
<その他>
次のリクエストに対する作品です。
・成誓とか、病んでる所が全く想像出来ないペア
※今のところギャグの予定(もしくはどシリアス)
→ギャグなのかシリアスなのか
よくわからないものになりました。
※キリスト教設定などは原作では明らかになっていないので
あまり気にしないでいただけると嬉しいです。
※若干キャラ崩壊かも。
フィーリングで楽しんでいただければ。
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有珠山高校に入学して約1か月。
私、岩館揺杏はいまだ学校の雰囲気に馴染めずにいた。
やっぱ、ミッション系って事もあって
聖人系が集まってくるのかね?
あまりにも掛値なしの『いい奴』が多過ぎて、
逆にちょっと対応に困る。
まあ、それがクラスメイト程度であれば、
当たり障りなく接してればいいんだけどさ。
その手の聖人が、なんとこんないい加減な部活にまで
生息してるとは思わなかった。
そう、その聖人の名は本内成香。
『素敵です!』『怖いです!』が口癖の天使系小動物だ。
成香は進路の決め方もちょっとアレだった。
憧れの先輩の後を追い掛け、進学先までついて行く。
フィクションならド定番、でも現実じゃあまり聞かない話だ。
まあ私、岩館揺杏もその口ではあるけれど。
『爽大好き』で追っ掛けたのかと聞かれると、
やっぱりそれはちょっと違う。
腐れ縁の親友が先に人柱として飛び込んで、
結果が「悪くない」なんて評価だったからで。
無論評価が酷ければ、平然と別の高校を選んだだろう。
ま、入ってみたら結構騙された感もあったけど。
そんな私からすれば、純粋100%混じりっ気なしで
チカセンについてきた『本内成香』って存在は、
『ちょっとヤベえ』以外の何者でもなかった。
「何いきなりモノローグ入れてんだ揺杏」
「いや、ヤベーっしょ本内成香」
「なぜフルネーム」
「や、だって成香って実家牧場だろ?
ミッション系高校とかすげーイレギュラーじゃん。
これ間違いなくチカセン狙いっしょ」
「前から少し気になってたんだよね。
成香がチカセンの事どう思ってるのかさ。
ぶっちゃけるとライクなのかラブなのか」
「そんな時に、『こんなもん』見つけちゃったらさ」
爽の前に差し出した一冊のノート。
表紙には『なるちか交換日記』
なる文字が刻まれている。
昨日二人が部室で書いてるのを見掛けて強奪したものだ。
爽は目を輝かせて興味を示しつつ、
でもありがちな警告を口にした。
「いや、凄いお宝なのは確かだけどさ。
流石にそれを覗き見るのは看過できないな」
「私だってその辺はわきまえてるって。
本人達の許可はちゃんと取ってある」
「取れたのかよ!?凄いななるちかコンビ!」
「見ていい?って言ったら割とあっさり許してくれたけど。
ちょうど最後のページになったからって」
「マジか…私が交換日記とかしてたら、
その事実自体秘匿するけどな。
でも、見られていいとか一体何書いてんだ?」
「な、気になるだろ?というわけで読もうぜ。
お、ちょうど入学式の頃の日記もあるじゃん。
この辺から読むか」
「あれ?頭から読まないのか?」
「や、赤の他人だった頃の日記を読むのは、
流石に配慮に欠けるっしょ」
「なるほど」
爽と二人並んで座ると、私はノートを広げて置いた。
ノートには成香らしい丸文字と、
チカセンの意外と角ばった文字が散りばめられている――
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
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4/6『成香』
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明日から、ようやくチカちゃんと同じ学校、素敵です!
これからは交換日記を書くのも楽になりますね。
いつもチカちゃんに来てもらうの、
心苦しく思ってたんです。
新しい学校ってことで少し不安もありますけど、
こういう時、私は恵まれてるなって思います。
素敵な先輩が居てくれて本当によかったです。
そういえば、チカちゃんがいつも話してくれる
獅子原さんにも会えるんですね。
今からとっても楽しみです。
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『誓子』
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交換の話は私がなるかに会いたくて行ってるだけだから
気にしなくていいんだけど…これからは確かに楽になるかもね。
それはそれとして、有珠山高校にようこそ!
ミッション系の高校だから
ちょっと特殊な授業が多いけど、
なるかならすぐ慣れると思うわ。
爽と私は麻雀部に入ってるの。
あ、でももう麻雀はやってなくて、
トランプとかオセロとか、そういう
ボードゲーム全般を遊ぶゆるい部活だから安心して。
爽は…うーん。悪い子じゃないんだけどね。
まあ前から話してるから知ってると思うけど、
ちょっと言葉遣いが男子っぽくて
変な行動が多いから、温かい目で見てあげて。
何かあったら言ってね?私が爽から守るから。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「私の扱いいきなり酷いな!!」
「やー、正直擁護できないわ」
最初のページを読み解くなり、爽が激しく突っ込んだ。
しかし、本人が『読んでいい』というだけあって、
実に毒のない、当たり障りのない内容だ。
「しかし、 さっすがなるちかコンビ…
すっげー平和で平凡。え、この調子でずっと続けてんの?
それはそれでヤバくね?」
「……」
思ったままを口にする。でも、
爽は違う印象を持ったようだった。
珍しく眉間にしわを寄せると、内緒話するように声を潜める。
「……いや、これ結構危ないと思うぞ」
「どこが?」
「途中から始まってるからかもしれないけどさ。
まず、成香が追いかけてきた事を
チカが当然のように受け止めてる」
「あー。まあでもそれは受験の時に解決済みなんじゃね?」
「かもな。でもさ、成香がチカと同じ部活に入るのまで
前提みたいになってるのはおかしくないか?」
「あー」
「毎日交換日記を届けてるのも結構重い。
何よりそれって、毎日会ってるって事だろ?
毎日二人きりで会って、かつ交換日記って…
なかなかのなかなかだろ」
「言われてみると確かに」
何の変哲もない平凡な日記。だったはずが、
爽の分析を通すと途端に闇が漏れてくる。
果たしてその闇はただの杞憂か、それとも。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
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4/7『成香』
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登下校も、部活でもチカちゃんと一緒。
今日一日、とってもすてきでした!
でも、みなさん幼馴染だったんですね。
なんか、私だけ一人割り込んじゃったみたいで
申し訳ないです…
お話では伺ってましたけど、
獅子原さんや岩館さんと話すチカちゃんは、
私の知ってるチカちゃんとちょっと違った気がします。
なんというか…その、すごく自然っていうか。
私、今までチカちゃんに
我慢させちゃってたのかなって思うと、
すごく、すごく申し訳なくて。ごめんなさい。
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『誓子』
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私も久しぶりになるかと学校に通えて嬉しかった。
これからまた2年間よろしくね?
幼馴染って言っても、爽や揺杏とは幼稚園までで、
小学校からはバラバラだったから…
なるかが思ってる程付き合いは長くないよ?
懐かしくて昔話で盛り上がったのは事実だけど、
私にとって、一番の幼馴染はなるかだから。
あんまり気にしなくていいと思う。
我慢とかも違うかな。ただ、爽は同級生だけど、
なるかは私にとって妹みたいなものだから。
いいところ見せたいって頑張っちゃうのはあるかも。
それは私の自己満足だから許してほしいな。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
なんとなく、二人がこの交換日記をどんな風に
使ってきたのかわかった気がする。
多分、口には出しにくい本音を吐き出して。
お互いにわかりあうためのものなんだろう。
そうやって、二人はずっと繋がってきた。
「……なんていうか、すげー」
そうやって本音を剥き出しにした上で、
それでも出てくるのは相手への気遣い。
それは成香の純真さからくるものなのか、
教会の娘であるチカセンの本領発揮か。
どちらにせよ、穢れがなさ過ぎてなんか眩しい。
「マジであの二人、聖人君子か何かじゃねーの?」
「まあ、内容だけ見ればそうなんだけどな」
「ん?爽探偵はこの内容にも異論があるわけ?」
私にはごく普通の青春物語にしか見えないんだけど。
爽は無言でノートを手に取ると、ぱらぱらとページをめくっていき。
OH…と大げさに肩をすくめた。
「ヤバいな」
「だから何がだよ」
「先頭に日付が書いてあるだろ?おかしいと思わないか?」
「ん?毎日ちゃんと書いてて偉いねーってくらいしか……」
「……って、あれ?」
言われてみて気づく。あれ?なんで毎日日付が書いてあって、
しかも成香から始まってんだ?交換日記じゃなかったっけ。
「変だろ?つまりこの日記は毎日『往復』してるって事だ。
それも一日の大半が終わるタイミングで」
「例えば放課後とかに成香が書いて、
チカがその場で返事してる、とかじゃないか?」
「え、何それ。メールじゃダメなの?」
「駄目なんだろ」
「まあでも、学校でやってるならまだわかるんだけどな。
今ちょっと見たら、入学式前のページも毎日続いてた」
「え、ちょ、なんで?それ毎日会ってるって事だろ?
直接口で言えばいいじゃん」
「だよなぁ」
書いてある内容は微笑ましい。
でも、状況と照らし合わせるとどこか歪だ。
なんだこれ。ちょっと背筋がゾクゾクしてきた。
どうしたもんかと逡巡していると、
爽が意を決したように提案してくる。
「なあ、少しページを遡ってみないか?
私の予想が当たってたら、ちょっと怖い事になってるはずだ」
「ホラーかよ。まあ、見ていいって
言われてんだからいーんじゃねーの?」
「オーケー。じゃ、遡るぞ」
爽は再びノートを手に取ると、パラパラとページを遡る。
それはまるで、最初から目的が決まっているかのような動き。
そして狙いすましたように、特定の日付で指を止めた。
刻まれた日付は3月3日。
その日は流石に私も覚えている。
受験生にとっては特別な日。
有珠山高校の、合格発表が掲載された日だ。
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3/3『成香』
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合格してました、素敵です……!
これで私も、4月からチカちゃんと同じ
有珠山高校の生徒です。
また二人で一緒に登校できますね。
人がいっぱいいる前で抱きついちゃってごめんなさい。
結果を見るの、本当に怖かったんです。
受かってるってわかって、本当に嬉しかったんです。
また、チカちゃんと同じ学校に通えることが。
嬉しくて、すごく嬉しくて。素敵です。
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『誓子』
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よかったね。でも私は心配してなかったよ。
なるかがすごく頑張ってたの、私が一番知ってたから。
なんかこの流れ、中学校の時を思い出すな…
あの時も二人で掲示板を見に行って、
なるかは私に、泣きながら抱きついてきてくれた。
3年経っても変わらずにいられるのがすごく嬉しい。
これからもよろしくね。
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3/2『成香』
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受験発表、怖いです……
チカちゃん、一緒に見てくれませんか?
一人だと悪い方向にばかり考えちゃって
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『誓子』
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もちろんそのつもり。一緒に見に行こうね。
大丈夫。どんな結果になっても、
私はなるかの傍にいるから。
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3/1『成香』
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怖いです…落ちちゃったらどうしよう。
万が一、落ちちゃったら、
3年間チカちゃんと離れ離れになっちゃいます……
怖いです、怖いです、怖いです、助けてください。
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『誓子』
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なるかなら大丈夫。2年間、ずっと二人で
過去問やってきたんだから。
もし落ちちゃったら私も責任取るから大丈夫だよ。
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――ぞくり。
悪寒が背筋を駆け巡る。
なんだろう。二人はお互い寄り添っていて、
微笑ましいやりとりのはずなのに。
どこか、纏わりつくような寒さを感じてしまうのは。
「やっぱりか…ここまでくると『依存』だな」
私が感じた悪寒の正体。
爽はそれを端的に表現してくれた。
『依存』
そう、二人は依存しきってる。
この3日間の日記だけでも、
二人の関係が浮き彫りになってくる。
『2年間過去問を解き続けた』
つまり成香は、チカセンが進路を決めた段階で
同じ道に進むために勉強を始めたという事だろう。
『3年間チカちゃんと離れ離れになっちゃいます』
これもなかなかだ。成香は大学も同じように
チカセンを追い掛ける事を暗喩してる。
『もし落ちちゃったら私も責任取るから』
極め付けがこれだ。責任取るってなんだ。
転校でもする気なのか。いや、もしかしたらもっと……
「しかもこれ、中学進学の時も同じだったんじゃないか?」
爽の言葉に愕然とする。確かに日記は、
その可能性を色濃く示唆していた。
私達も似たような腐れ縁ではあるけれど、
私立と公立ではまるで意味が違ってくる。
私達は、何もしなければエスカレーターで同じになるのに対し。
チカセンと成香は、狭き道をあえて選んで一緒に居るのだ。
「爽はこれ、どう思うよ?」
「んー。まあ道が一緒でもいいとは思うよ。
それを、成香が自分の意志で選んでるならさ」
「でも、少なくともここまでは、成香本人の意志が見えない。
チカにべったり依存してるようにしか」
爽は腕を組んで考え込む。いや、別に私達が悩む話でもないし、
本人の好きにすればいいとは思うけど。
なんとなく複雑な気持ちになるのは事実だ。
「……チカは、成香の事どう思ってるんだろうな」
「実はちょっと困ってるのよね」
「うわぁっ!!?」
返事を期待しなった呟きに、本人からの応答が返る。
唐突に姿を現したチカセンに、
私達は二人して椅子をひっくり返した。
「え、びっくりし過ぎでしょ。一応ちゃんとノックしたわよ?」
「マジか。集中し過ぎてた…でも、困ってるってなんだ?」
「読んだんでしょ?なるかの事だってば」
溜息をつきながら、チカセンは成香の過去について語り始める。
成香とは小学校の鼓笛隊で仲良くなった事。
純真無垢でとてもいい子で。でもそのせいで、
人を傷つけるのを怖がってあまり本音を語らない事。
それを、チカセンはずっと気にしていた事。
「なるかは気にしなくていいって言ってくれるんだけど。
ほら、私は結構自分の思いを言っちゃうタイプだから」
「なるかに押し付けちゃってるんじゃないかなって。
でも、なるかは本音を言わないでしょ?」
だから交換日記。
成香が口に出せない本音を、文字を通して吐き出すための。
これを使うようになってからは、
比較的本音がわかるようになってきたらしい。
チカセンに言わせれば、最近では交換日記というよりは
筆談みたいになってるとの事だった。
「で、本音を覗いてみたらチカセンにべったりだったと」
「うん。最初はてっきり、
私に合わせてくれてるのかと思ったんだけど」
合わせてるどころか、『チカセン命。チカセン絶対』だったわけだ。
聞けばこの流れは今に始まった事じゃなくて、
やっぱり小学校の頃からずっとらしい。
「それで、ちょっと悩んでたんだけど…
揺杏に見られて、読んでいいかって聞かれたから。
この際相談に乗ってもらおうと思ったの」
「なるほど」
「で、チカとしては成香をどうしたいんだ?」
「え?そりゃもちろん、最終的には――
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「結婚したいけど」
「「は???」」
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爽と二人、綺麗に声がハモってしまう。
出た、出たよチカセン恒例の流れぶった切り天然発言。
「わかってるのよ。うちは日本聖公会だから
同性愛の結婚は認められてない。
それは有珠山高校も同じ事」
「そんな私が、なるかに求愛するのは茨の道だって」
「でも、小学校の頃からずっと私の後をついてきてくれて、
私に笑いかけてくれるなるかが可愛くて仕方ないの」
「でも、なるかは私の言う事なら最終的には
何でも受け入れてくれちゃうから。
二つ返事でOKしちゃうんじゃないかって」
「えーと、シリアスモード解除って事でいい?」
「私はずっとシリアスだってば!」
ぷんすこ頬を膨らませるチカセン。
いや、確かに言ってる事はそんなに変ではないし、
流れもそこまでおかしくはないんだけど。
なんか、闇だ依存だなんて怯えてたのが馬鹿らしくなってくる。
爽も同感なのだろう。
すっかり脱力して机に寝そべりながら、
だるそうにチカセンに問いかける。
「成香が盲目的にべったりな事はどう思ってるんだ?」
「なるかが我慢してるなら困るけど、
負担に思ってないなら問題ないでしょ?
愛の形なんて人が定義するものじゃないと思うわ」
「おい教会の娘」
「でも、それなら別に問題ないんじゃねーの?」
「プロポーズくらいは、なるか本人の気持ちが欲しいでしょ?
私に言われたから結婚します!っていうのは流石にちょっと」
まあ、言いたい事はわからなくもない。
私立のお受験に盲目で取り組むのも相当だとは思うけど、
結婚とでは重さが違い過ぎる。
……って、なんで交換日記覗いただけで、
幼馴染の結婚相談受ける事になってんの?
なんだか頭が痛くなってきた。
なんて頭を抱えてたら、もう一人の問題人物が顔を出す。
なるちかコンビの小動物の方だ。
「お、遅くなりました」
また面倒な事になりそうだ。私はそれとなく交換日記を隠す。
そしてその裏表紙をチラ見して、なんだかどうでもよくなった。
「ねえチカセン、ちょうどいいし、もう直接聞いちゃったら?」
「言えるわけないでしょ!?」
「大丈夫だって。ぶっちゃけ二人とも
ドン引きするくらい愛が重いから」
交換日記の裏表紙。そこには小さく『NO.108』と刻まれていた。
ええと、単純計算で小学校1年生から続けてるとして9年だろ?
ノートが30枚綴りの60Pだから、1年365日として…
うん、1日2ページ、9年間欠かさず続ける計算だ。
私や爽だったらこんなの3日で投げ出すね。
盲目的であろうと何にせよ。
成香のチカセンへの愛は、正直病気レベルに重い。
むちろん、チカセンの保護欲も。
「え、ええと……何の話ですか?」
「その、ね。なるかは優しいから、
私に無理して合わせてくれてるんじゃないかって」
「ええ!?それを言うならむしろ
チカちゃんの方じゃないですか!?」
成香がぶんぶんと勢いよく首を横に振る。
そういえば日記でも同じようなやり取りしてたっけ。
二人のやり取りは平行線を辿る。
やがて、成香は意を決したようにペンを執ると、
カバンからノートを取り出して何かを書きなぐり始めた。
ああ、なるほどこんな感じで使ってたのか。
成香が刻んだ文字を見て、チカセンは驚いたように目を見開くと、
涙を浮かべてペンを受け取る。
ぼんやりその様子を眺めていたら、爽に肩を叩かれた。
『帰ろうぜ』
『そだな』
後の事は若いお二人でゆっくりと。
私達は邪魔しないように音を立てずにその場を立った。
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4/28『成香』
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私はチカちゃんが好きです。
中学校と高校、チカちゃんについてきたのも。
チカちゃんと同じ部活に入るのも。
ずっとチカちゃんと一緒に居たいからです。
我慢なんてしてません。むしろ、チカちゃんと
一緒に居たいって言う私の我儘なんです。
チカちゃんと一緒に居られるなら、
私はそれで幸せなんです。
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『誓子』
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ごめんね。私が誤解してたみたい。
私が自分勝手になるかを引っ張って、
なるかが盲目的に
受け入れてくれてるんだって思ってた。
なるかにとっては、そこはあんまり
重要じゃなかったってだけなんだね。
じゃあ、その……もし。
私が結婚してほしいって言ったら、
受け入れてくれる?
きっと、すごく大変でいばらの道になっちゃうけど。
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『成香』
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素敵です!
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次の日、二人仲良く揃って部室に現れたなるちかコンビは、
恥ずかしそうにしながらも幸せそうに頭を下げた。
「このたび、私、桧森誓子と本内成香は
結婚する事になりました!」
「相談に乗ってくれてありがとう!
揺杏と爽のおかげだわ」
「「ありがとうございます!!」」
開口一番の爆弾発言に、私はぽかんと口を開けると。
「ああ、そう」なんて、木偶人形みたいに頷いた。
……やっぱりこいつら、マジやべえ。
(完)
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タイトル名だけ見ればこれまでにないほどのただならぬ闇を感じました
シリアスからの手の平返しは控えめに言ってすばら
まあ、オチはサスペンス、ホラー調でしたけど。
リクエストに応えて下さってありがとうございます!!