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【ガルパン:エリみほ】いつしか消えた境界線_前編

<あらすじ>
逸見エリカと西住みほが、最終的にお互いしか見えない
ドロドロの共依存に陥っていく話です(前編)。
最後はハッピーエンド。

<登場人物>
逸見エリカ,西住みほ,秋山優花里

<症状>
・狂気
・異常行動
・共依存

<その他>
ブログシステムの都合でPixivに公開した作品です。
内容は変わりませんが、可読性向上のためこちらでも公開します。
読みやすいほうでお読みいただければ。

Pixivはこちら。パソコンなら
こっちの方が読みやすいかも。




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 タイマーが鳴る10分前に目を覚まし、セットしたアラームを解除する。
その場で軽くストレッチをして、凝り固まった筋肉をほぐした後。
私こと逸見エリカは、勢いよく部屋の窓を開け放った。

「絶好の練習日和ね」

 陽の光が降り注ぐ。
このところ陰鬱な雨が続いていたけど、今日は気持ちよく戦車を駆れる事だろう。
練習が待ち遠しくて、今から気分が高揚してくる。

ヴーーーッ、ヴーーーッ

 一人戦場に思いを馳せていたところに、無機質な振動音が横槍を入れてきた。
なんとなく嫌な予感がする。でも無視するにもいかず発信源に手を伸ばす。
メールだった。液晶には送り主の名前が表示されている。
その名前を見ただけで、盛り上がったテンションは一気に鎮火されてしまった。

「…何なのよ、もう」

 取るに足らない内容だった。
大きくため息を吐いて、スマートフォンをベッドに投げ捨てる。
改めて気合を入れなおすべく、洗面台へと足を運んだ。
打ち捨てられた携帯の画面には、今も内容が映し出されたまま。
鈍く、薄気味悪い光を放ち続けていた。

『FROM:元副隊長
 ----------------
 おはようございます。大洗はひどい大雨だけど、
 逆に黒森峰は晴れてるのかな。今日も一日頑張りましょう!』





 西住みほ。
 私にとって、彼女は何度引っぺがしても纏わりついてくるヘドロのような存在だった。

 とは言っても、今はもう彼女を憎んではいない。
第63回全国大会、そして大学選抜との試合を経て。
彼女に抱いていた負の感情は払拭できている…つもりだ。

 あの子が当時一人で逃げ出したのも、黒森峰では
自身の戦車道を貫けないという思いが根底にあったからだろう。
逃げた先でのうのうと戦車道を続けていたのも、
学園艦の廃艦という危機に立ち向かうためには仕方がなかったのだろう。

 あの子自身からの謝罪も受けた。
状況を全て知った上で、彼女の軌跡と結果を
一つずつ紐解いて見れば、むしろ労をねぎらってやりたい気分にすらなった。
だから過去のしがらみは、とっくに水に流している。

 でも。なら、今は『お友達』なのかと言えば、断じてそんな事はない。

 経緯はどうあれ、あの子は黒森峰の優勝を2度も潰した張本人だ。
そして来年も私達の前に立ちはだかってくるだろう。
黒森峰に3度目の屈辱を与えるために。

 倒さなければならない明確な『敵』。
もっと言えば、今後私が戦車道を続けていくのならずっと纏わりついてくるだろう『呪い』。

 それが、私にとっての西住みほだった。



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 メールを送る事数分。
ドキドキしながら待ってたけれど、エリカさんから返事は帰ってきませんでした。

 わかってます。
こんな早朝にメールを送って、返事を期待する方がワガママなんだって。
それでも、少しだけ胸が苦しくなります。

「はぁ…」

 ため息をつきながら玄関の扉を開けると、バケツをひっくり返したような土砂降りで。
心が重くなると同時に、思わず納得してしまいました。
空を覆いつくす黒。激しく打ち付ける雨。
無意識に、あの日を思い出してしまったのかもしれません。

ヴーーーッ、ヴーーーッ

 思考が暗い川底に落ち込んでいく刹那、携帯電話のメールが助けてくれました。
慌てて送り主を確認して、思わず頬が緩んでいきます。
ドアを開いたその手を離し、玄関にとんぼ返りして。
何度も何度も読み返しては、幸せな気分を噛み締めました。

『FROM:エリカさん
 ----------------
 こっちは雲一つない快晴よ。せいぜい悔しがりなさい。』





 逸見エリカさん。
 黒森峰から逃げた私にとって、彼女は唯一の心残りといえる存在でした。

 『西住流』に支配された黒森峰において、私は少し異質な存在として扱われていて。
向けられる目は恐怖か崇拝。
それはどちらも『西住』に向けられたもので。
私自身を見てくれた視線ではありませんでした。
 そんな中、一人だけ私を見てくれた人。
ちょっと荒っぽくて怖かったけど、それでも真っすぐぶつかってきてくれた人。
それがエリカさんだったんです。

『ったく。あなた、戦車から降りると本当にポンコツね』
『え、えへへ…ごめんなさい』
『ほら、もっとしゃんとしなさいよ。妹のあなたがそれじゃ、隊長まで舐められるんだから』

 エリカさんは西住流にこだわってはいたけれど、私を特別扱いはしませんでした。
皆が私を遠巻きに眺める中、物おじせず私を見据えて。
率直に叱ってくれました。
それが、なんだか『友達』っぽくて……すごくうれしかったんです。

 でも、私は。そんなエリカさんを捨てました。

 いっぱいいっぱいだったんです。心が壊れて崩れそうだったんです。
私は自分が可愛くて、一人黒森峰を逃げ出しました。
ここには私の居場所はない。信じる道は閉ざされてる。
なんて、一人悲劇のヒロインを演じながら。

心が安定した今ならわかります。あの日、私は一人じゃなかった。
お姉ちゃんは私を守ってくれていた。
エリカさんは決勝戦で私の取った行動を、一度も責めたりしなかった。

『あなたの信念に基づいた行動なんでしょう?だったら胸を張りなさい』
『言ってやればいいじゃない。これが私の戦車道だって』

 そう、黒森峰にも救いはあったんです。手は差し伸べられていたんです。
でも弱り切ってた私は、その手を掴む事ができなくて。
何もかもが嫌になって、結果全てを捨ててしまった。
もしかしたら友達になることができた、あの人を捨ててしまったんです。

 大洗に来て友達ができました。自分の信じる道を見つける事もできました。
そんな風に、今が充実しているからこそ。
エリカさんとの関係だけが、『棘』のようにチクチク疼いてる。

 それをなんとか変えたくて。私は今日も、エリカさんにメールを送るんです。
もし、エリカさんが許してくれるなら。今度こそ、『友達』になりたいって願いながら。



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『FROM:元副隊長
 ----------------
 熊本限定ボコが発売されたらしいです。今度、
 帰省する事になるかもしれません。もし都合があえば会いませんか?』

 毎日のように届くあの子からのメール。時に辟易しながらも、拒絶する事はしなかった。
そこにあまったるい理由はない。あるのは寒々しい理由だけだ。
 黒森峰を率いる事が確定している私にとって、
最大のライバルになり得る大洗の隊長と知己になっておくのは悪くない。
 それにこっぴどく拒絶して、またオドオドした子犬のような目で見られるのも不快だ。
会う度に『エリ…逸見さん』なんて未練がましく呼ばれる時の
苛立ちを考慮すれば、機械的にメールを返す方が楽というものだ。
 つまり、私があの子を切らないのは。次期黒森峰隊長として、
切らない方が都合がいいだろうという合理的判断に過ぎない。

 そんな私の対応を見て、人は時々呆れたように肩をすくめる。
仲良くすればいいじゃないですか、なんて気安く諭してくる事もある。

馬鹿じゃないの?

 確かに私は彼女を許した。不可抗力だったのだ、と一度は握り締めた拳を下ろした。
でもそれだけだ。
かつては仲間だったはずの彼女が、なおも黒森峰に立ち塞がる事実は変わらない。

 来年、私達は『西住』を失う。その上で『西住』と戦う必要がある。
そんな苦境を想像すれば。
生温い仲良しごっこに興じて、わざわざ戦意を削いでいる余裕なんてあるはずもなかった。



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 毎日交わすようになったエリカさんとのメール。
私は喜びを覚えながらも、どこか壁を感じていました。

『FROM:エリカさん
 ----------------
 あっそ。好きにすればいいけど、熊本に行っても
 黒森峰の学園艦が寄港してるとは限らないわよ。』

 確かに、エリカさんは欠かさず返事を返してくれる。
でも、エリカさんから自発的に送ってくれた事は一度もありませんでした。
内容もそう。どこか突き放されてるような、寒々しい印象を受けてしまいます。

 わかってはいるんです。今、黒森峰は改革の真っ最中。
隊長がお姉ちゃんからエリカさんに引き継がれ、すごく多忙なんだと思います。
そんな中、返事をくれるだけでも幸せだって。
 やっぱり、直接会いたいな。会って、できれば街をぶらぶらしたりして。
普通のお話ができないかな。
 ううん、もしかしたらまだ許してもらえてないのかも。
だとしたら、やっぱりもう一度ちゃんと謝りたい。どちらにしても会わないと。

「…というわけで、何とかできないかな」

 お姉ちゃんに相談しました。
大学選抜との交流試合が終わった後は、お姉ちゃんとも頻繁に連絡を取っていて。
エリカさんの事で、いっぱい相談に乗ってもらってたから。

『なるほど。そういう事ならちょうどいい』

 お姉ちゃんはある提案をしてくれました。
ちょっと職権濫用し過ぎかな?とは思ったけど、誘惑には勝てなくて。
私は、そのアイデアに乗っかる事にしたんです。



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『FROM:元副隊長
 ----------------
 練習試合、しませんか?新生黒森峰と大洗で。』

 そのメールを受け取った時。全身から冷たい汗が噴き出した。

(……勝てる、わけがっ……)

 呟きかけたその言葉。何とか飲み込む事ができたけど。
心の中に居る冷静な自分が、既に敗北を結論づけていた。

 相手は戦神、西住みほ。
大洗も3年生が抜けて戦力が大幅ダウンするとはいえ、もっとも重要な隊長は据え置きだ。
 対して黒森峰はどうだろう。
同じく戦神と名高い隊長が、ただの[[rb:私 > 逸見エリカ]]に置き換わる。
加えて言えば、私はみほが黒森峰にいた頃から、一度も彼女に勝った事はなかった。

 脳裏に浮かぶのは、ちぐはぐな大洗の戦艦達の前に無様に転がる重戦車の群れ。
必死に拭い去ろうと頭を振っても、敗北の映像が幾度となく襲い掛かる。
大敗北。失望。不協和音。戦意喪失。空中分解。
勝利の絵は浮かばない。
なのに、最悪のシナリオだけは繰り返し見た映画のように、至極明確にイメージできた。

 それでも受けないわけにはいかないだろう。これを辞退する事は敵前逃亡を意味する。
そんな行為、王者たる黒森峰に許されるはずもない。

「…そうよ。黒森峰には歴史がある。世代交代するならこっちが有利じゃない」

 己に言い聞かすように、低い声で私は唸る。
でも、メールを返すその指は見るも無残に震えていた。



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『FROM:エリカさん
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 受けて立つわ。けちょんけちょんにしてあげるから覚悟してなさい。』

 そのメールを受け取った時、思わず小躍りしてしまいました。
正直、受けてくれるかは半々だったからです。

 3年生が抜ける今、大洗の戦力ダウンは目を覆いたくなるくらいでした。
幾度となく窮地を救ってくれたカメさんチームはなんと全員が離脱します。
本来なら運用に堪えないポルシェティーガーを
最大戦力に押し上げてくれた自動車部の皆さんも大幅離脱。
操縦手のツチヤさんが残ってくれるのは九死に一生ですけど…
すぐに壊れる車輌を直しつつ走行する神業はもう望めません。
 カモさんチームやアリクイさんチームにも欠員が出ますから再構成が必要で。
 元々人数が少ない大洗にとっては、一人抜けただけでも大打撃です。
このままじゃ練習試合が成立するかも怪しいところでした。

 対して黒森峰は…世代交代の影響は他校より少ないはずです。
世代を越えた勝利を義務付けられた黒森峰は、下級生の育成にも余念がないはずで。
選手層の面でも練度の面でも、大幅な戦力減は考えにくいでしょう。
 それに加えて、全国大会では情報の少なさを武器に戦えたけど。
今回はその利も生かせそうにありませんでした。

 はっきり言って敗色濃厚でした。かつてのエリカさんなら
『今の大洗で練習試合ぃ?せめて世代交代を乗り切ってから言いなさいよ』
なんて言われても仕方ない状況。

 それでも、エリカさんは受けてくれたんです。
なんだか、私達を認めてくれた気がして嬉しくなりました。

「…だとしたら、失望されないように頑張らないと!」

 戦車の性能差は歴然。隊員の練度でも多分及ばない。
そんな私達が勝つ目があるとしたら…

 エリカさんの作戦を読み切る事。

 記憶の中のエリカさん、私が知らない間のエリカさん。
全ての情報をインプットして、エリカさんの戦術を先読みする。
その上で、地形、天候…あらゆるものを利用して、鉄壁の防御を打ち砕く必要がある。

「うーん。この時のエリカさんだったら、分散しても一気に攻めてきてくれそうだけど…」
「多分もう通用しないよね。少なくとも、
 一対一には絶対なってくれなさそう。この時のエリカさん凄い顔してるし」
「陽動も難しいかなぁ。でもどっしり待ちかまえられたらジリ貧だし…」
「こうしてみると、全国大会は本当に運がよかったんだ…
 アリクイさんチームのコレ、ただの操縦ミスだったんだよね」

「ふふ。やっぱりエリカさんって怖いなぁ」

 膨大な量の資料とにらめっこを続けました。持てる時間全てをエリカさんに費やしました。
皆には根詰め過ぎだって心配されたけど。それは、私にとってすごく楽しい時間で。
練習試合が、待ち遠しくて仕方なかったんです。

『FROM:元副隊長
 ---------------
 ついに明日ですね…!全力で頑張ります!』

『FROM:エリカさん
 ---------------
 そうね。』



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 そして、練習試合という名の蹂躙が始まった。
その日、私を支配した感情。
それを端的に一言で表すとしたら、酷く有り触れたものになるだろう。

 『絶望』
 そう、まごう事なき絶望だった





 起きるはずのない事が起きていた。
砲撃を通さないはずの重戦車が、無様にひっくり返って転がった。
 こちらの考えは全て見透かされていた。
蜘蛛の糸に搦め取られるように少しずつ、少しずつ衰弱していく。
やがて、フラッグ車から間の抜けた音が鳴り、私達は白旗を上げて降伏した。





 脳裏に描いた通りになった。隊員達の表情に失望の闇が広がっていく。
戦力的に考えれば負けるはずがない。なのにどうしてこうなった?
決まっている。戦術で圧倒的に水をあけられたからだ。
そもそも西住元隊長ですら勝てなかったのだ。逸見隊長で『勝てるはずがない』

 この差は来年になっても埋まらないだろう。
否、今年優勝した大洗は新年度になれば有望な選手が入ってくる可能性もある。
新たなスポンサーが名乗りを上げたりすれば車輌の増強も期待する事もできる。
少なくとも、今より弱体化する事はあり得ない。

 対して黒森峰はどうだ。練度を上げる?
単純な練度なら今でも既に上回っているはずなのに?

 もはや考える間でもなかった。黒森峰に、勝利を掴む未来はない。

 隊員達は私を責める事はなかった。隊長が悪いんじゃない、単に運が悪すぎただけ。
アレと比較する事自体が酷過ぎる、と。

 諦観の底無し沼に囚われていく隊員達を前にして、私は言葉を発する事ができなかった。



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 その日の夜、みほと二人で反省会を開いた。

 わざわざ二人きりでやった理由。それはもちろん、甘酸っぱい理由なんかじゃない。
 これ以上の絶望を与えてしまったら、黒森峰は本当に再起不能になる。
そんな確信があったからだ。もっとも、もうとっくに手遅れかもしれないけれど。

 私とて、心が折れる寸前だった。それでも逃げる事は許されない。
敗軍の将として、この無様な負け戦を心に刻み。
血反吐を吐いてでも糧に変える必要がある。

…でも。

 歯を食いしばりながら臨んだ反省会で、私はさらなる絶望を味わう事になった。
いいや、違う。
それは絶望なんて高尚なものではなくて。
もっとこう、本能的で原始的なもの。

『恐怖』

そう、それは純然たる恐怖だった





「で、あなたはどうしてこの戦力差の前に正面から向かってきたわけ?」
「うん、と。エリカさんはもう中途半端な陽動には引っかかってくれないと思ったから」
「っ…、その理由は?」
「ええと。その、前の戦いで色々あったし…分断されて局地戦になるのを嫌うと思ったの。
 だから、ちょっとやそっとの奇襲じゃ戦力を分散してくれないと思って」
「だからってどうしてわざわざフラッグ車以外全車輌で向かってきたの?
 正面衝突しても勝ち目はないんだから、何か裏があるってバレバレじゃない」
「うん。でも対処しないわけにもいかないよね。エリカさんは多分こう考えたと思うんだ」
『何か罠があるだろうけど、相手にとっても諸刃の剣なのは間違いない』
『相手の目的は読めないけど、冷静に対処してここで少しでも戦力を削いでおくべきだ』
「…どうかな?」
「っ……当たり、よ」
「これで、エリカさん達を釘付けにする事には成功した。
 後は何か、一気に局面をひっくり返す一撃を加える必要があるけど…
 正直、それを私達の車輌に求めるのは無理だって諦めてた」
「それで、天候か、地形を使えないかなって色々調べてみたんだけど…」
「この辺の地域って最近雨続きだったから、川がかなり増水してる事に気づいたんだ」
「ほら…ここ。このポイントを砲撃すれば、増水した水を黒森峰の陣地にだけ流し込めるよね?」
「……っ」





「でね、この時エリカさんはきっとこう考えるんじゃないかなって思った」
「多分エリカさんはこんな風に思う」
「エリカさんならきっと」
「で、エリカさんは」





「エリカさんなら」「エリカさんなら」
「エリカさんなら」「エリカさんなら」
「エリカさんなら」「エリカさんなら」
「エリカさんなら」「エリカさんなら」





 身体が凍てついていくのを、他人事のように感じていた。
まるで冷水に沈められたかのように、血が引いて背筋が粟立っていく。
みほが挙げ連ねた『推測』は、全てが見事に的中していて。
自分の何もかもを見透かされた錯覚すら覚えて、思わず肩をかき抱いた。

 ありえない、こんな事が可能なの?あなたは本当に人間なの?
 思考を恐怖が埋め尽くす。纏わりつく悪寒に手足の感覚が失われていく中。
何故か私は、不意にある事実に気づいてしまった。

『そうだ、よく考えてみれば』
『普段から、この子の行動はおかしかった』

 毎朝目を覚まして伸びをする。そのタイミングでメールが届く。
 ジョギングしてシャワーを浴びて。ふうと息を吐いたらメールが届く。
 練習が終わって、夕食を取って食休みのタイミング。見ていたかのようにメールが届く。
 寝床に潜り込む刹那、寝顔を確認するかのようにメールが届く。


 ど う し て?


 部屋を盗撮されている。
もしくは黒森峰にスパイが居て、私の情報が筒抜けになっている。
そんな被害妄想が頭をよぎる。
それはそれで恐怖ではあったけど、まだその方が安心できただろう。
でも、それらは全て不正解だった。
 声を震わせ問い掛ける私に対し、みほは、はにかんだ笑みを浮かべてこう言った。

「え、エリカさんの事…一生懸命考えたから……」

 納得できるタネなんてどこにもなかった。
そこに在ったのは、ただ狂人の異常性。
言われてみればそうだった。
黒森峰に居た頃も、彼女はチームメイト全員の詳細なプロフィールを暗記していた。

『いつか友達になるかもしれないから』
 ただそれだけのために。

 彼女はその、病的な能力の全てを私だけに集中させた。
私に関する、手に入れられる範囲でのありったけの情報をかき集め。
何度も何度も脳内で分析を繰り返し。
結果、私を丸裸にしてのけたのだ。

 そんな狂人じみた行動を、みほは熱に浮かされたようにうっとりと語る。
心底楽しそうに、まるで夢でも見るかのように。

「なに、よ……なんなのよ、それっ……!!」

 こんな化け物にどうやって勝てばいいのだろう。
ただの人間に過ぎない私は、一体どうすれば並び立てるの?
考える間でもない。勝てるはずがない。だって……

 相手はまともな人間じゃない。

 頭の中で、積み上げてきた何かが壊れていった。
足元がガラガラ崩れ落ちる。
崩壊は止まらない。
勝てない、勝てない、勝てない、勝てない。

 ぐらりと視界が反転して、世界がぐるぐるぐるぐる回る。

 それに抗う事すらできず――

――私は、意識を手放した。



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 こうして、私が隊長となって初めての練習試合が幕を閉じる。

 今思えば、この時戦車道を止めてしまえていれば。
私はこれ以上壊れずに済んだのだろう。でも悲しいかな、私は諦めが悪かった。
覆しようのない圧倒的な才能の差、人にあるまじき異常性を見せつけられた上で。
それでも私は、自分がみほから逃げる事を許さなかった。

 それが高過ぎるプライドから来たものか。はたまた元隊長への忠誠からか。
もしくは……もう既に、この時点でみほに心を奪われていたからなのか。
今となっては、もうわからないけれど。





 かくして崩壊が始まった。それでも、この時の私はまだ。
自身の行動が私を壊し、みほを狂わせて。
やがて、二人が一つに混ざり合うきっかけになるとは、露程も思っていなかった。

後編に続く
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【ガールズ&パンツァーの最新記事】
posted by ぷちどろっぷ at 2017年04月20日 | Comment(2) | TrackBack(0) | ガールズ&パンツァー
この記事へのコメント
更新待ちに待ちました
ガルパンでもねっとりした狂人でドロドロした恐怖がたまりません
続きとても楽しみにしてます
Posted by at 2017年04月21日 00:23
こんにちは
ガルパンの鬱百合ssを書いてくださってありがとうございます
続きを楽しみにしてます
Posted by at 2017年04月21日 22:49
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