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【咲-Saki-SS:智葉×成香】「聖女は今日も悪魔にすがる」【狂気】【共依存】

<あらすじ>
成香
 「この話(『茨姫は今日も輝く』)の私視点です」


智葉
 「後は、私達の末路も語られている」

<登場人物>
辻垣内智葉,本内成香

<症状>
・ヤンデレ(重度)
・狂気(重度)
・トラウマ(重度)
・異常行動(重度)
・共依存(重度)

<その他>
以下のリクエストに対する作品の視点変更SSです。
・智葉×成香でガイトさんが攻め
 ※軽めの話にしようと思ったのに、
  思った以上に酷い話になりました。
  智葉さんが酷い事に。

※タイトルがアレですが、猟奇的なシーンはありません。
 ただし精神的にはかなり重苦しい話となります。
 苦手な方はご注意を。



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強い人。
困難から目を背けず常に前を向ける人。
でも、そんな人は一握りなんです。

自分が取るに足らない人間と知り、
導いてくれる人に縋りつく。
そんな人が大半なんです。

私もその一人です。
その生き方に不満はありませんでした。
もし間違いがあるとしたら。


信仰する神を、間違えてしまったのでしょう。



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『聖女は今日も悪魔にすがる』




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ユキちゃんアイドルプロデュース作戦。

その一環でインターハイに挑む事になり、
私、本内成香は先鋒に抜擢されました。

疑問は覚えませんでした。部員の中では、
私だけが麻雀未経験者でしたから。
単純に弱い順なのかな、くらいに思ってました。

でも実際には異例だったのでしょう。
チカちゃんは眉を顰めると、爽さんに異を唱えます。


「ちょ、ちょっと爽。本気なの?」

「ああ。むしろこれしかない」

「でも、先鋒ってエース区間じゃない。
 よりによって初心者のなるかをぶつけなくても…」


ぎょっとしました。そう。
初心者の私は知りませんでしたけど。
麻雀における先鋒は、エースポジションだったのです。

インターハイの団体戦では、
最初に与えられた10万点を、
チームで持ち越していきます。

序盤で大きく点を稼げれば、
後に続く選手は無理をせず早上がりで逃げられます。
逆に序盤で引き離されると大変です。
後半の選手は大物手を作る必要があり、
かなり窮屈な戦いを強いられる事になるのです。

序盤での点差が酷く重要。だからこそ、
先鋒は絶対のエースを置く事が常套手段との事でした。


「強豪校ならチカの言う通りだ。
 でも、私らの場合はトビ終了を考慮しないといけない」


今度は爽さんが反論します。
団体戦におけるもう一つの大きなルール。
それは、途中で点数を全て失ったら、そこで試合が終わる事。


「その意味じゃ、先鋒が一番気楽だろ?
 なーに、失った点棒はチカが取り返してくれる」


なるほど、そういう考え方もあるんですね。
結局最初の案が受け入れられ、私は
先鋒として頑張る事になりました。


その戦術は確かに正しかったのでしょう。
有珠山高校は私という素人を抱えつつも、
他の皆さんのおかげで地区優勝を果たします。
そう、間違ってはいなかった。

でも、私は優勝を素直に喜べませんでした。

単純な話です。だって、結局私は、
一度も点数を増やす事はできなくて。

ただ、皆さんの足を引っ張っただけなのですから。



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初めて出場したインターハイで、全国ベスト8入り。
有珠山高校は偉業を成し遂げました。

でも、私が誇る事はできそうにありません。
結局私はただひたすら点数を減らしただけ。
特に、準決勝で私が減らした点数は、なんと53300点。
一人でチームの点数を半分以上溶かしてしまいました。

もし私が、失点をこの半分に抑えていたら。
結果はまるで違っていたかもしれないのです。

全国大会が終了し、一人ホテルで夜空を見上げます。
下を向いていると、いつまでも涙が零れ落ちていきそうで。
もう何も考えたくなくて。ただ薄暗い空を眺めていました。


「成香には、本当に助けられちゃったな」


突如背後から掛けられた声に、びくりと体を震わせます。
振り向いたその先には、珍しく物憂げな表情をした
爽さんが佇んでいました。


「ごめんなさい。ちょっと、よくわかりません。
 私はただ、点数を減らしただけです」
「……うん、そう考えちゃうよな。でも」


「成香は本当に頑張ってくれたんだ」


私の横に並んだ爽さんは、苦しそうに顔を歪ませました。
そして、さながら罪を懺悔するかのように。
ゆっくり、ゆっくりと言葉を絞り出します。


「本来エースを置くポジションに、私達は成香を置いた。
 エース同士で潰しあうよりも、
 勝てるポジションを大差で勝つためだ」

「もちろん、そのためには
 成香の失点を後続で取り返す必要がある。
 でも、正直成香は私が思ってたよりも
 はるかに失点を抑えてくれた」

「うちがここまでこれたのは、
 本当に成香のおかげだよ。……でも」

「成香は……多分、楽しくなかったよな」

「ごめん」


爽さんは頭を下げます。酷く顔を歪ませながら。
ともすれば、私よりもつらそうに。
でも、その懺悔を聞いて。すっと楽になれたんです。


「そうですか。私も、役に立ててたんですね」

「嬉しいです」


私の言葉を聞いた爽さんは、
ぐっと痛みをこらえる様に瞳を閉じると。
ただ、何も言わず私を抱き締めました。



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後になって、辻垣内さんに言われて知りました。

爽さんがした事は、私が思っていたよりも
遥かに残酷な事だったのだと。

辻垣内さんは言いました。
もし意図的に遂行したのであれば、鬼畜にも劣る所業だと。

もし、これが次鋒あたりだったなら。
私が勝てる可能性も少しはあった。
でもエース区間の先鋒では、
万に一つも勝ちはあり得ない。

爽さんは、最強に対して最弱をぶつける事で
不良債権を効率的に処理した。
戦う事は一切許さず、ただ後続を
温存するための捨て駒とする事で。

あまつさえ、初心者にその仕打ちを強いる事で、
後続を鼓舞するマッチポンプに使ったのだと。

でも、それを聞いてもなお。
爽さんに告げた感想は変わりませんでした。


「嬉しいです」


だって、お荷物に過ぎないはずの私が。
自分一人では何もできないはずの私が。

誰かの役に立つ事ができるのですから。


私の感想を聞いた辻垣内さんは、
驚いたように目を見開くと。
私の目に光る涙を指で掬い取りながら、
今までに見た事もないような
どろついた瞳を私に向けます。


「誰かの役に立てるなら。
 自分は血に塗れても構わないのか?」

「どれ程つらくとも。どれ程苦しくとも。
 『嬉しいです』と笑えるのか?」


本能的に察知しました。この問い掛けは危ういと。

回答によっては、私はより険しい茨の群れに
身を投じる事になるのでしょう。
でも。私は嘘がつけません。


「はい、嬉しいと思います」

「……そうか」


辻垣内さんは酷く残忍な笑みを浮かべると。
私の手を引きました。


「流石はミッション系高校の出身なだけある。
 まるでお前は聖女のようだ」

「ならば遠慮なく。その身を捧げてもらうとしよう」



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こうして、戦績全敗のプロ雀士が誕生しました。

私はプロでも先鋒として使用され、
順調に黒星を積み上げていきます。

有珠山時代とは違い、明確な捨て駒。
悲劇の客寄せパンダとして。


噂によると、うちのチームのファンは
もう先鋒戦を見てないそうです。
先鋒戦が終わる頃にチャンネルを切り替えて、
そこから本格的に応援するんだとか。

チームのみんなも、誰一人
私が勝つ事には期待していないようでした。


そして今日も私は負けて、
チームは勝ち星を重ねました。

黒く濁った瞳を湛えて、智葉さんが私を抱き締めます。


「成香。敵をとってきたぞ」
「ありがとう、ございます。うれしい、です」


いつものように、智葉さんは私の涙を舌で掬い取ると。
恍惚に蕩けた笑みを浮かべて、耳元で囁きます。


「なあ、成香」

「なんですか」

「逃げないのか?」

「……」


それは、過去にも問われた質問。
牢獄のように私を包む智葉さんの腕の中で、
私はぽつりと零します。


「考えた事、ありませんでした」


智葉さんはにやりと微笑むと。
今度は唇にキスを落としました。



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そんな生活が続いたある日。
爽さんが私のもとを訪れました。

久しぶりに会った爽さんが、
酷く大人びて見えるのは。
その眉間に、皺が寄っているからでしょうか。

あの、遊び心たっぷりの爽さんが、
何一つ遊びを挟む事なく。
開口一番こう切り出しました。


「なあ、成香。もう止めないか?」
「なんのことですか?」

「決まってるだろ。麻雀だよ」
「???どうしてですか?」

「楽しくないんだろ?苦しいんだろ?
 いっつも目に涙を浮かべて、痛そうに顔をしかめてる」
「そんな思いをしてまでやる必要はないんだよ」


「でも。わたしが苦しむと。
 さとはさんが喜んでくれるんです」


 爽さんが目を見開きました。その目に怒りが宿ります。
いつも優しくて誰かを思いやる爽さん。
その爽さんが、こんな風に怒るのを見るのは初めてでした。


「成香。目を覚ませ。お前は依存してるんだ。
 あんな悪魔に生殺与奪を握らせるな」

「行くところがないならうちに来ればいい。
 働く力がないならつけてやる。
 これ以上、壊れる道を選ぶのはやめろ」


ありがたい申し出でした。爽さんは、
心から私を慮ってくれているのでしょう。
でも。その言葉を聞いた時。
私はある聖書の一説が浮かびました。


「ヤコブの手紙1」

『ただ、疑わないで、信仰をもって願い求めなさい。
 疑う人は、風の吹くままに揺れ動く海の波に似ている』


爽さんは再度目を瞠る(みはる)と、
苦しそうに絞り出しました。


「あいつは。辻垣内は信じるべき神じゃない」



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きっと、爽さんのような人にはわからないんです。
チカちゃんにもわからないでしょう。
だって、あの二人は自分で輝けるから。

誰もが皆輝けるわけではないのです。
自ら道を切り開き、歩いて行ける人ばかりではないのです。


はるか雲の上にいる神を見上げ、
すがって生きていくしかない人もいるんです。


生まれた時からそうでした。
誰かの後を雛鳥のようについて行って。
自分で選ぶ事もせず、ただ与えられて生きてきました。
最初はチカちゃん。高校に入ってからは爽さんも。

そんな私にとって、何より一番怖い事。
それはもちろん『捨てられる事』です。
だって、自分一人では何もできないのですから。
役立たずと見限られて、廃棄されるのが何より怖い。


でも。チカちゃんと爽さんは、
そんな私を捨てました。
二人で手を取り合って、卒業して行ってしまった。


失意のどん底。智葉さんに声を掛けられたのは、
ちょうどそんな時でした。
爽さんとチカちゃんが遠い大学に進んでしまって、
追い掛ける事もできなくて。

卒業後どうすればいいかわからない。
そんな、ついていく人が誰も居ないさなかに
声を掛けられました。


『私が連れて行くのは地獄だ。
 お前は今後一生苦しむ事になる』

『逃がしてやるつもりはない。
 だが、お前は一生私の役に立てる』

『どうする?』


手を取らないはずがありませんでした。

例え、その先にどんな苦渋が広がっていても。
私はこの人の役に立てる。
生きる道を示してもらえる。


何も感じないわけではありません。
私は弱い人間ですから。
痛みも、苦しみも、人一倍感じて怯えます。
日に日に心が崩れていきます。

でも、それが智葉さんの幸せに繋がるのなら。
私は心から嬉しいのです。

智葉さんは言ってくれます。
お前の涙は綺麗だと。絶望に染まる瞳が美しいと。
もっとお前を苦しめたいと。


嬉しいです。私は必要とされている。


でもやっぱり怖いです。だって、いつも泣いてるだけじゃ。
いつかは智葉さんに飽きられてしまうでしょう。

怖いです。怖いです。怖いです、怖いです。


何も感じなくなるのが怖い。
確かに痛いはずなのに、もう負けるのが当たり前すぎて、
心が麻痺していくんです。

負ける事よりも、智葉さんに飽きられる事の方が怖い。
捨てられるの怖いです。だって生きていけません。

だから、もっと苦しめてください。
より過酷で、より凄惨で、
より惨めな舞台に立たせてください。


痛くて、痛くて。涙が止まらない程酷い舞台に。



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『悪いな。もう飽きている』




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恐れていた事が起きました
智葉さんが、私の戦力外を通達してきたのです


「チーム的にもそろそろ潮時だろう。
 麻雀は興行だからな。一番の華となる先鋒を
 捨てっぱなしというのはありえない」

「おかげで2度も優勝したし、有力選手も確保できた。
 もう、お前の涙に頼る必要もないだろう」


「今までご苦労様。後は好きに生きるといい」


どこまでも冷たく言い放ち、
私を捨てようとする智葉さん

その背中にしがみつき、私はひたすら懇願しました
光が、消える、行ってしまう
道が途切れる、生きていけない


怖いです


怖いです、こわいです、こわいです、
こわい、こわい、こわい、こわい


こわい、こわい、こわい、こわい
こわい、こわい、こわい、こわい
こわい、こわい、こわい、こわい
こわい、こわい、こわい、こわい
こわい、こわい、こわい、こわい
こわい、こわい、こわい、こわい
こわい、こわい、こわい、こわい
こわい、こわい、こわい、こわい
こわい、こわい、こわい、こわい


こわい!!!


「こわいです、すてないでください!!!」

「ん?囲って欲しいと言う事か?
 まあ、そのくらいはしてやってもいいが」


涙ながらに首を縦に振りました
形なんてどうでもいいです
捨てないでください、見捨てないでください
ただそばにいさせてください


こうして、無勝のプロ雀士は舞台から姿を消して
小さな、小さな囲い女の部屋に閉じ込められました



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カツン、カツン、カツン、カツン

酷く無機質で寒々しい足音を立てながら
地下への階段を下りていく

カツン、カツン、カツン、カツン

事務所の地下
駐車場よりも奥深くの一室を目指し
私は歩みを進めていた

カツン

幾重にも重ねたドアを開けて
最奥の部屋にたどり着く

ギィ、ィ

重く分厚い扉を開く
そこには、何一つ身に着ける事無く
肌をむき出しにした聖女が転がっていた


「さとは、さん」


恐怖、悲哀、歓喜、不安
様々な感情がぐちゃぐちゃに混ざり合った表情で
成香がしがみついてくる


「さとはさん、さとはさん、さとはさん、さとはさん!!!」


聖女はまるで亡者の如く
ただ、狂ったように私を求めた



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飽きるなんてとんでもない
成香に対する情動は、
日に日に激しさを増す一方だった

ただただ私のためだけに傷つき、苦しむ成香
涙に煌めくその瞳を見るたびに、
自分が狂っていくのを感じていた

足りない、足りない、足りない、足りない

不純物を取り除きたかった
成香を苦しませるのも、喜ばせるのも、
悲しませるのも、痛めつけるのも、
悦ばせるのも、全て、全て私でなければならない

誰にも分けてやるものか
成香は全部私のものだ


そんな折、獅子原爽が成香に接触した
さらには、成香から手を引けと詰め寄ってきた


狂おしい程の、殺意と恐怖に支配される


海に沈めてやろうか
否、それでは根本的な解決にはならない
成香を知るものを全て殺す?悪くない
だが流石に時間が掛かりすぎる

一番手っ取り早い対処法
それは、成香を外界から切り離してしまう事だった
丁度いいと思った、成香自身も気づいているだろう
自分が、もはや敗北程度では傷つかなくなっている事に

お払い箱にすればいい
成香は自分から縋りついてくるはずだ
そして、自分から檻をせがむだろう


『すてないでください!!!』


成香は期待通りの反応を示す
こうして私は成香を壊し、この小さな部屋に幽閉した
ただ、一つだけ命令を残して


『起きている間は、一秒として間をあけず
 私の事を考え続けろ。
 そうしている間は愛してやる』

『もっとも、できなくても構わない。
 その場合は捨てるがな』


濁り切った成香の目が限界まで見開かれる

次の瞬間、まるで凍傷にでもかかったように
ガタガタとその全身を震わせた



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狂気の信仰が始まった
成香は胸の前で両手を重ね
ただ私の名前を呼び続ける


『さとはさん、さとはさん、さとはさん、さとはさん、さとはさん、
 さとはさん、さとはさん、さとはさん、さとはさん、さとはさん』


食事も、排泄も、何もかもを放棄して
ただ私の名前を呼び続ける
やがて喉が渇きを覚え、
声を発する事が困難になっても
成香は掠れた声を吐き出し続けた

ちなみに、成香が住む部屋の壁は
全面マジックミラーになっている
計36個の監視カメラが24時間作動している
360度全方位から成香を監視できるように


ゴトリッ


やがて、成香は力尽きたように崩れ落ちる
昏睡した成香を介抱してやると、、
再び監視室に戻って目覚めを待つ

数時間後に目を覚した成香は、
はっと息を呑んで全身を恐怖に震わせた
目を覚ました刹那、意識の空白があったからだろう


『さとはさん゛、さとはさん゛、さとはさん、さとはさん゛』


怯え、縋り付くように、成香は祈りを再開した
その様に私は満足し、そしてふと疑問に思う



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いったい、どうして
こうなってしまったのだろう



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前を向くものが好きだった
困難に立ち向かうものが好きだった
それがどうしてこうなった



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否、何も変わってはいないのだろう


結局のところ、私は真剣な者が好きなのだ
そして、思いの向かう先が正しいかは問題ではない


今の成香ほど真剣なものがいるだろうか
ただ私だけに全てを注ぎ、捧げ、希う
溺れるのも道理と言えた



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嗚呼、儚く哀れで健気な成香
私はお前を愛している




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成香と、そして辻垣内の失踪は
かなり大きなニュースになった。

なにしろ連覇したチームのエースと
よくわからない落ちこぼれの組み合わせだ。
これ程格好のネタもそうそうないだろう。


メディアは連日、二人の関係を
ある事ない事撒き散らし続ける。

嘘か真もわからない報道が続く中。
一つだけ、私の気を引く内容があった。


『辻垣内智葉と本内成香は、お互いに強く依存していた。
 その依存はついに社会生活が不可能なレベルに達してしまい、
 二人は自ら社会生命を絶った』


根も葉もない噂に過ぎない。でも私は確信した。
おそらくこれが真実なのだろうと。
突然失踪したにしては、全てが滞りなく回り過ぎているのだ。
おそらく、この失踪は前もって計画されていた。


さらに決定的だったのは、成香の戸籍謄本だ。
少しでも手掛かりを増やそうと、
親族に謄本を取ってもらった。
そして、出てきた謄本を見て私は驚愕する。


『辻垣内成香』


それが今の成香の正式名称。
つまり成香は結婚していたのだ。
入籍日は失踪よりも後だった。


「ねえ、爽…これって」

「ま、そういう事だろ。形はどうあれ、
 辻垣内は成香を愛していた」

「酷くねじ曲がった愛だけど」


正直理解できない世界だった。あの日見た成香の瞳も、
辻垣内に直談判しに行った時の眼差しも。

どちらも等しく狂っていて。
お互いしか見えていなかった。


だとしたら、部外者が口を出す事じゃないのかもしれない。
違うな。もう手を出せる領域じゃない。
二人は手の届かない世界に行ってしまった。


「私の、せいだ」


罪悪感が胸を締め付ける。一番の罪人は私だ。
あの日、私が成香を先鋒にしなければ。
今頃は違う結末が待っていただろう。


「……」


せめて、無責任ながらも神に祈る。
あの二人の狂った愛が、決して失われぬように。
死がふたりを分かつまで。共に狂い続けますように。


祈りが通じたのかどうか。
それを、私が知るすべはなかった。


(完)
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posted by ぷちどろっぷ at 2017年05月07日 | Comment(4) | TrackBack(0) | 咲-Saki-
この記事へのコメント
指でなぞって涙を掬う。(前半)
私の涙を舌で掬い取ると。(後半)
同じ場面かと思っていましたが、違う部分がありました。試合後毎回同じやりとりを繰り返し、次第に発展?していったのでしょうか。お、お味はいかがでしたか…?
爽と智葉の会話も見たかったです。「お前が先にやったことだろう?」などと言われて反撃されそうですね。
Posted by at 2017年05月07日 19:04
コメントありがとうございます!

違う部分>
智葉
 「驚いたな。違いに気づいてもらえるとは」
成香
 「ここは同じ場面です。智葉さんは1回目に
  指で掬い取った後、
  2回目で舌を使っています」
爽「それは説明されないとわからないだろ」

爽と智葉の会話>
智葉
 「本編では省略したわけだが、
  設定ではまさにその返答で撃退している」
爽「さらに言えば
  『捨てた奴が口を出すな。偽善者が』
  とも言われたな。容赦ない」
Posted by ぷちどろっぷ@管理人 at 2017年05月07日 19:52
何も身につけてない……という事は髪も結んでない?
雰囲気が大人っぽくなりそうですね。
そんな子を地下に閉じ込めるなんて流石ガイトさんですわ……!
この人極まるとドSとか監禁のイメージがありますがヤンデレ入ると殊更厄介ですねぇ。
Posted by at 2017年05月07日 20:37
ひどくダークで素晴らしいSSありがとうございました。いつかまたこの2人の話を書いて欲しいです。
Posted by at 2017年05月07日 22:33
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