現在リクエスト消化中です。リクエスト状況はこちら。

【咲-Saki-SS:菫宥】宥「人生の分岐点」【ヤンデレ】

<あらすじ>
与えられた選択肢。一見些細なその選択が、
松実宥の人生を大きく変える。

敷かれ続けた安全な道。
用意された道を歩んでいくうちに、
人生が分岐していく。少しずつ、少しずつ。
でも、取り返しがつかない方向に。

<登場人物>
松実宥,弘世菫,松実玄

<症状>
・狂気
・依存(重度)
・知能低下

<その他>
次のリクエストに対する作品です。
・濃厚な菫宥を菫さんが病んでる方



--------------------------------------------------------



人生の分岐点。一つ挙げろと言われたら、
貴方は即座に浮かぶでしょうか。

高校、大学、人によってはもっと前。
進学が契機になる人は多いと思います。
社会人の方であれば、
就職が大きな意味を持つでしょう。

あるいは、分岐とすら思えない些細な事。
後から振り返れば、あれが人生を変えていた、
そんな人もいるかもしれません。

もし、私。松実宥がこの質問を問われたら。
逡巡し。言葉を濁し。質問者から目を背けながら。
でも、やがて。こう呟くでしょう。


『あの人と、連絡先を交換した事』


それ自体は些細な出来事。でも、重要だった選択肢。
私は気づけなかったから、今こうして『ここ』に居ます。



--------------------------------------------------------




『人生の分岐点』




--------------------------------------------------------



『連絡先を交換してくれないか?』


そう投げ掛けられた時、少なからず驚きました。
申し出た人は弘世菫さん。
インターハイの対戦相手で、2度対局した人です。

逆に言えばそれだけでした。
会話をした事はありません。
赤の他人。そう言っても過言ではないでしょう。

なぜ私なのか。疑問符が頭に浮かびます。
同じ条件の人なら他にもいるのです。
安河内さんや二条さん。ハオさんや染谷さん。
なのに彼女は、私だけに声を掛けました。


『えと、その…どうして、私なんですか?』


別に、連絡先くらい交換すればいい。
なのに、思わず問い返していました。
今思えば、無意識に警戒していたのかもしれません。

あまり友好的とは言えない私の反応。
でも、弘世さんは少し表情を緩めます。


『今まで、狙った相手に躱された挙句、
 反撃までされた事はなかったんだ。
 相手があの照であってもな』

『初めてだったんだ。気づいたら、夢中で君を追っていた』

『これで終わりにはしたくない』


思わず息をのみました。
だって彼女の言葉は、聞きようによっては愛の告白で。
にわかに胸の鼓動が速くなって、
頬に熱が溜まっていきます。


『そ、それって麻雀の事ですよね?』

『?もちろんそうだが、他に何かあるのか?』

『い、いえ。一応、その。念のため』

『何と誤解されたかはわからないが、
 要はまた対局したいってだけだ。
 ここで素直に別れたら、おそらく
 再戦の機会はなさそうだしな』

『で。受け入れてもらえるだろうか』

『そ、そういう事なら』


いまだ高鳴る胸を押さえながら、携帯電話を取り出します。
アドレスを打ち込む弘世さんを横目で見ながら、
小さくため息をつきました。

複雑な気分だったんです。
弘世さんとの対局は、酷く寒くて冷たかった。
獲物を狙う狩人の眼差し。その射貫くような鋭い視線に、
どれだけ体温を奪われたでしょう。

できれば次は遠慮したい。
でも、弘世さんの再戦を願う言葉、ううん、
弘世さん自身に熱を植え付けられたのも事実で。
つい、受け入れてしまったんです。


『よし、登録できた。そのうち連絡を取ると思うが、
 あまり構えず気楽に答えてくれると嬉しい』

『は、はい』


複雑な心境でした。
連絡が欲しいような欲しくないような。
どちらかと言えば遠慮したいけど、
何もなしというのも寂しいような。
妙に曖昧な気分のまま、弘世さんと別れます。


そんな私は気づいていませんでした。
これが、自身の人生を変える大きな分岐点だった事に。
一人そそくさと立ち去る私を、
弘世さんがあの目で凝視していた事に。

でも、こうも思うんです。もし、この日。
弘世さんの視線に気づいていたとして。
そしたら、何か変わっていたのでしょうか。



--------------------------------------------------------









--------------------------------------------------------



再戦を取り付けるための連絡先。
それが本来の役割を果たす日は来ませんでした。

そもそも二人とも受験生。進路に専念すべき時期ですし、
そうでなくても奈良と東京は遠過ぎます。
片道で6時間近くかかりますから、
『土日にちょっと行ってくる』
なんてわけにもいかないのです。

なら、連絡先は死蔵されたのかと言うとそうでもなくて。
むしろ頻繁に使われる事になりました。


『ようやく引継ぎが終わったよ。
 部長を誰にするかでかなり揉めたが』

『そうなんだ。うちは灼ちゃんが続行だし、
 引継ぎとかなかったなぁ』

『それなんだよな。今後の中心は淡になるだろうから、
 いっそ今年から淡を部長にすべきって意見が出た。
 でも淡は感覚派だからまだ人を引っ張る段階にない、
 みたいな意見もあって…まあ、喧々諤々だった』

『うわぁ…やっぱり強豪校って大変なんだね。
 来年、再来年も見越していかないといけないし』

『それもあるが。去っていく先輩として、
 少しでもいい環境を残してやりたいからな』


菫ちゃんの事を誤解していました。
一見冷たくて怖い印象を受ける菫ちゃんだけど、
その実はとても温かくて優しい。
何より。意外に、というと失礼ですけど。
本当に、意外に親しみやすかったんです。


菫ちゃんとのやり取りは、日常会話がほとんどでした。
てっきり事務的に試合の日程を送り付けられると思ってたら、
届く内容は日々の穏やかな報告ばかり。
つられて私も返事をすると、また温かい返信が飛んできます。

それを繰り返していくうちに、連絡を取る事へのハードルが
どんどん低くなっていって。
いつしか、私達は毎日連絡を取るようになっていました。


『ま、そんなわけで一区切りだ。
 これからは進路について考えないとな』

『菫ちゃんはやっぱりプロとか目指したりするの?』

『それも選択肢の一つではあるけどな。
 特に絞るつもりはないよ。
 そもそも麻雀一本で行く気もない』

『え、そうなんだ……あ、そういえば
 アーチェリーもできるんだっけ』

『いや、できるのは事実だが。
 別にスポーツだけ、という話じゃなくてだな。
 学業だっておろそかにはしてないからな?』

『あ、あはは。ほら、私は運動駄目だから。
 活かさないのは勿体ないなって』


同級生。同じ目線。距離が遠いからこそ話しやすい。
どんな話でもちゃんと聞いてくれる。

そんな菫ちゃんだから。
時には阿知賀の皆にも話さないような悩みすら、
菫ちゃんには打ち明けるようになっていました。


『そんなわけで、私の方はこれからスタートだな。
 宥はやっぱり実家を継ぐのか?』

『えと。最終的にはそうなると思うんだけど。
 その前に経済学を勉強したいんだぁ』

『ふむ。となると、奈良大学か近畿大学ってところか』

『うん。それも考えてるんだけど……
 どうせなら一度奈良の外に出るのもありかなって』

『まあ、確かに旅館に就職となると、
 ここで出ないともう一生機会がないだろうな』


密かに持ち続けていた悩み。
玄ちゃんに言ったら悲しむだろうし、でも
玄ちゃんに隠して他の皆に打ち明けるのも違うかなって。
そんな、心の奥に溜まった悩み。
菫ちゃんになら話せると思ったんです。


『そういう事なら、こっちに来ないか?』


もしかしたら、こう後押ししてくれる事を
期待していたのかもしれません。


『観光地の女将として、外から見た奈良を
 把握しておくのも重要だろう。
 何より、この手の挑戦は諦めると一生後を引く』


菫ちゃんが紡いだ言葉。それはどれも、
私が掛けて欲しかったものばかりで。
言葉が耳によく馴染み、私は吸い寄せられていきます。


『東京に出てくるといい。私がサポートしてやれるし、
 肌に合わなければ戻ればいいさ。
 大切なのは一歩踏み出す事だ』


与えられた道。それが酷く魅力的なものに思えて。
心がどんどん傾いていく。


『なんなら、同じ大学に入ってルームシェアでもするか?』


冗談交じりに加えられた言葉すら、
真面目に可能性を考えてしまう程。
私は一気に傾倒しました。


『うん。それも、ありかもしれない。
 東京で一人暮らしって高くつくんだよね?』

『東京の家賃もそうだが、そもそも一人暮らしがな。
 特に食費がかさむって先輩から聞いた』

『先輩が言うには、割と節約しても
 月に12万くらいかかるらしいな。
 結局その先輩もルームシェアに切り替えたって言ってたよ』

『12万!?それ生活費だけだよね!?
 そんなのうちも出せないよ……!』

『金銭的な負担を考えるなら、ルームシェアした上で
 麻雀特待がある大学を狙った方がいいかもな。
 奈良の大学はわからないが、
 こっちの大学ならいくつか候補を紹介できる』

『う、うぅ……いろいろお世話になります……』


敷かれた道に従えば、次から次へと
有効牌が飛び込んできます。
曖昧だった夢が形を成してきて、
いつの間にか手が届く位置まで来ていました。


それはまるで、対局の時みたいに。


(だとしたら、私。最後は射抜かれちゃうのかな)


刹那、脳裏によぎった想像。
それは甘い震えをもたらして。
胸に灯ったぬくもりに、私は考えを改めました。


(ううん。もう、射抜かれてるのかも)


相談をしてから4か月後。菫ちゃんが待つ
マンションに引っ越す事になりました。
大学も菫ちゃんが紹介してくれた
実績のある大学だから安心。

奈良から上京してきた私を、
菫ちゃんが駅で出迎えてくれます。

数日間の衣類を詰めたスーツケースを
当然のように受け取りながら、
優しく微笑む菫ちゃん。

その穏やかな表情に、
当初の冷たさはまるで感じません。


もう、麻痺していたのでしょう。
だって、私は。


『ようやく、捕まえたぞ』


視線をわずかにそらした刹那、こんな独り言を聞いたのに。
確かにゾクリと背筋が震えたはずなのに。
それすら、甘い疼きに変換してしまったのですから。


『えと、それって…どういう意味?』

『おっと聞こえていたか。まあ、
 好きな意味で取ってくれて構わないさ』

『だが、覚えているか?私が最初、
 連絡先を交換したいと申し出た時の事を』

『夢中で君を追っていた、と』


甘い疼きが全身を駆け巡り、お腹の奥を熱く焚きつけます。
官能の炎が思考を奪い。脳が痺れて蕩けます。
このまま菫ちゃんに寄りかかりたくなる衝動に駆られながら、
やっとの事で言葉を吐き出しました。


『それ、って…麻雀の事なのかな』

『さあな』


どこか妖艶に微笑みながら、菫ちゃんが手を差し伸べます。
私はその手を払いのけるどころか、自らせがむように受け入れて。
恋人がするかのように、指の一本一本を絡ませてしまったのでした。



--------------------------------------------------------









--------------------------------------------------------



菫ちゃんとの生活は、快適の一言に尽きました。

すべてが完璧だったのです。
名家の生まれだった菫ちゃん。きっと、
相当な修行を積んできたのでしょう。
そんな菫ちゃんは、家事全般を
プロ顔負けのレベルでこなします。

それだけではありません。
白糸台の部長を経験したからなのか、
元々備わっていた能力なのか。
菫ちゃんは、課題に対する対応力が飛びぬけていました。


『どうした宥。浮かない顔をして』

『あ、うん。通年の単位があるんだけど、
 すっごく難しいらしくって』

『ああ、毎年留年生を量産してるって噂の奴か。
 だがちゃんと準備すれば大丈夫さ』

『うん。勉強はしてるんだよ?
 でも、試験内容も毎回変わるらしいし。
 …まあ、そもそも過去問もらえてないけど』

『どうやらまだ準備が足りてないな。ほらこれを見ろ』

『えっと…?』

『12年間分の過去問だ。一見毎年変わっているが、
 実は4年単位でループしてるだけなんだよ。
 標準の4年で卒業するなら、
 毎年受けても気づかないだろうけどな』

『わぁ、すごい…どうしてこんなの見つけられたの?』

『5年生の先輩に教えてもらった。
 5回受ければループに気づく仕組みなんだろう。
 温情なのかは知らないが』

『ま、そういうわけで最悪これを見れば合格できる。
 無論、これがなくても大丈夫なくらい学習するべきではあるが』

『ありがとう。ちゃんと勉強して、
 最後のお守りで使わせてもらうね?』


こんな感じで、ちょっと私が悩みを抱えても。
問題に対処したレールがすでに敷かれているんです。
私はその道を歩むだけで、着実に前に進んで行ける。

もし、これが私一人だったら。
過去問をもらう事もできず、もちろん法則に気づく事もなく。
挙句、単位を落としていたのでしょう。
だって私は結局、初見でその過去問を解けなかったから。


二人で暮らしていくにつれ。弘世菫ちゃんの存在が、
どんどん大きくなっていきます。
どんどん、どんどん。もはや取り除く事すら考えられない程に。

もちろん、私も最初から菫ちゃんに
甘えるつもりだったわけじゃないんです。
そもそも、私が東京に出てきたのも、
玄ちゃんから独り立ちしようという思いも強かったですし。
入学時点でもう甘えっぱなしでしたから。


できるだけ一人で頑張ろうと試みました。
でも、そういう時って大体が失敗しちゃうんです。
頑張ろうとして、結果空回りして、
それを菫ちゃんがフォローする。

そんな事を繰り返すうち。いつしか私は最初から、
菫ちゃんに相談するようになっていました。


『ねえ、菫ちゃん。ちょっと
 参考書買うの付き合ってもらっていいかな』

『ああ、だがその参考書はやめておけ。
 情報量は多いが要点がまとまってない。
 こっちの参考書がおすすめだ』


『この単位を取ろうと思うんだけど』

『それ、先輩から聞いたが地雷だぞ。
 ただ教科書を読むだけらしい。
 単位を取りたいってだけなら楽だけどな』


『後どんな単位を取ったらいいと思う?』

『そうだな…ちょっと履修候補を見せてくれ。
 あ、ゲーム講座取ってないじゃないか。
 経営シミュレーションのゲームをやるらしいが、
 意外と実践的でためになるらしいぞ』


菫ちゃんの敷いた道はいつも理想的。
私が考えたのよりずっといい。
だから、つい頼ってしまいます。

徐々に、徐々に。自分で考える事がなくなっていきます。
最初から菫ちゃんに聞くようになっていきます。
だって、考えてもどうせ無駄なんだもの。


『ねえ、菫ちゃん。私何を履修すればいいかな』

『そうだな。考えるからちょっと待っててくれ』


そうして続けた4年間。大学を卒業する頃には、
全部の選択を菫ちゃんに委ねるようになっていました。



--------------------------------------------------------









--------------------------------------------------------




そして。




--------------------------------------------------------









--------------------------------------------------------




卒業後、私は。

彼女がくれた優しさの、
本当の意味に気づいたのです。




--------------------------------------------------------









--------------------------------------------------------



「菫ちゃん、どうしよう。
 周りが知らない人ばっかりだよ」


「菫ちゃん、失敗してお客さんに怒られちゃったよ。
 でも、誰も助けてくれなかった」


「菫ちゃん、助けて。
 勉強したのと帳簿のつけ方が全然違う」


「菫ちゃん。私、何の役にも立てないよ。
 どうしたらいいのかな」


「菫ちゃん、菫ちゃん、すみれちゃん」



--------------------------------------------------------




「おねがい、たすけて」




--------------------------------------------------------









--------------------------------------------------------



大学生の4年間。

菫ちゃんが用意してくれた道を
ただ歩いていただけの私は、
道を選べなくなっていました。

4年間。あんなに頑張って勉強したのに、
知識はまるで役に立ちません。
否、役に立たない事はないのでしょう。
でも、使い方がよくわからない。
だって、菫ちゃんが教えてくれないから。


「お゛姉ちゃん……ここには……
 弘世さんは居ないんだよっ゛……!!」


毎日居もしない菫ちゃんを呼ぶ私に、
ついに耐えかねたのでしょう。

涙ながらに抱き締めながら、玄ちゃんが放った言葉。
真摯に受け止めるべきその言葉。


でも。私はもう耐える事ができませんでした。



--------------------------------------------------------




「すみれちゃんが、いない……?そんなの、むりだよ」




--------------------------------------------------------




「そんなの。生きていけるわけないよ」




--------------------------------------------------------



絶句して表情を失う玄ちゃんと対照的に、
懐でけたたましい音が鳴り響きます

携帯電話でした

仕事中は切っておかなくちゃいけない電話
でも、だって、もしかしたら
菫ちゃんが掛けてきてくれるかもって
そんな幼い未練から、
電源を切る事ができませんでした

その電話が鳴っています
まるで、示し合わせたかのように



--------------------------------------------------------




『宥。そっちはどんな感じだ?
 辛かったら戻ってきてもいいんだぞ?
 なんてな』




--------------------------------------------------------




希望は現実になりました
ほかでもない、菫ちゃんの手によって

嗚呼、嗚呼
やっぱり菫ちゃんだけが頼りです




--------------------------------------------------------









--------------------------------------------------------



かつて生まれ育った実家
終の棲家になるはずだった家

そんな家から逃げ出すように、
一人電車に飛び乗りました

身支度も満足に整えず、わずかな交通費だけ携えて
ぼろぼろ涙を零しながら、会いたい、会いたいって呟きながら
ひたすら電車に揺られます

後先なんて考えていませんでした
行く先に菫ちゃんが居ればいい
もう、それ以外はどうだってよかったんです


たっぷり6時間後、私の前に菫ちゃんが現れます
あの日、上京してきた私を出迎えてくれた時のように
優しく穏やかな笑みを浮かべて

私は菫ちゃんに飛びついて
子供みたいに泣きじゃくりました

そんな私を撫でながら
諭すように彼女は言ったんです



--------------------------------------------------------




「よしよし、辛かったな
 だが、もう苦しむ必要はない」




--------------------------------------------------------




「私の敷いた道だけを歩いていればいいんだ
 そうすれば、私が一生守ってやる」




--------------------------------------------------------





「もう二度と。私の道から外れるな」





--------------------------------------------------------




私はしゃくりあげながら、何度も何度も頷きました




--------------------------------------------------------









--------------------------------------------------------









--------------------------------------------------------









--------------------------------------------------------



そして、私は今『ここ』に居ます


菫ちゃんが用意してくれたお部屋
窓一つないお部屋の中
菫ちゃんの事だけ考えて過ごせるお部屋

監禁されているわけではありません
扉に鍵は掛かってないんです
出ようと思えばいつだって出られます
菫ちゃんも、自由に外出していいと言ってました


でも、出られません
出たくないんです


だって、ドアを開けたらすぐ分岐があるんです
分かれちゃ駄目です
どれが菫ちゃんの道かわからないもの


「やれやれ。今日も外出しなかったのか?」

「あっ、すみれちゃん!」

「少しは日に当たらないと健康に悪いぞ」

「だったらすみれちゃんが連れてって。
 わたしひとりじゃ選べないもの」


一人で外に行くなんて論外です
分岐がいっぱい、選択肢がいっぱい
選べるはずがありません


「順調だな」

「?なんのこと?」

「ああ、こっちの話だ。気にするな」

「さて、玄関を出て外に出ようか。
 ああ、その前に服を着ないとな。
 コンビニに行ってアイスを買おう。
 まあそう震えるな。その後いっぱい温めてやるから」


菫ちゃんが事細かく指示を出して、私はそれに従います
ちょっとあったかくない内容もあるけど、
菫ちゃんの指示だから仕方ありません

道を逸れるなんてありえないのですから


「ああ。そう言えば今日、妹さんが押し掛けてきたぞ。
 『おねーちゃんを返してください』だそうだ」

「っ……!こ、ことわってくれたんだよねっ!?」

「ああ。本人の意志でここにいるわけだしな。
 丁重にお断りして帰ってもらった」


ほっと胸を撫で下ろします
玄ちゃんには悪いけど
私はもう、菫ちゃんから離れたら生きていけないから


「流石に少し心苦しかったな。
 泣きじゃくりながら、しきりに
 『どうしてこうなっちゃったの』って
 繰り返していたよ」


「……ふふ。『どうして』か。宥。お前はどうしてだと思う?」


菫ちゃんの問い掛けに、少し頭を捻ります
どうして、どうして
人生の分岐点
私の分岐はどこにあったんだろう


「その。すみれちゃんと、れんらく先を
 こうかんしたからかな」


やがて思いついた答えを、
少しためらいながら告げました
でも、菫ちゃんは首を振ります


「私は少し違うと思う」

「……じゃあ、どうして?」


「過去に言ったろう?お前が私の攻撃を躱したからだ。
 あの時、夏のインターハイでな」


ああ、そういえばそれで菫ちゃんが夢中になったって
ああ、やっぱりあれ、麻雀の事じゃなかったんだ

あれ?でも、あの時私には、
避けずに射抜かれるなんて選択肢はなくて

避ける以外にあり得なくって
あれ?じゃあ、私には選択肢なんて


あれ?じゃあ、分岐ってどこ?


……

……ああ

ああ、ああ、ああ、ああ


「……そっか。分岐なんて、なかったんだね」

「分岐、か。そうだな。どうして、も何も、
 お前は最初からこうなる運命だった」


そっか
最初から菫ちゃんに捕まるって決まってたんだ
選べる道なんてどこにもない


私には、この道しかなかったんだ


「あは、あはは」


心の中に残ってた、最後の何かが崩れ落ちる
現状に甘んじる事に対する警鐘
良心からくる玄ちゃんへの罪悪感

そんな、人として捨てちゃいけない最後の欠片が
ガラガラと、音を立てて、崩れ落ちて、なくなる


だって、こんなの仕方ないよね?
決まってたんだもん
こうなるって、最初から


「あは、あはは」


なんだかすごい楽になる
頭の中がすごくすっきりして
すみれちゃんでうまっていく

なやむ、必要なんてない
だって、最初からこうなるって
きまってたんだから


すみれちゃんのことだけ
かんがえてればいい


「あは…あはは……ぁっ」


ただ心が求めるままに、
すみれちゃんにすりすりくっつく

すみれちゃんはちょっとだけ笑いながら、
一言ぽつりとつぶやいた


「どうやら、最後の分岐が終わったようだな」

「これで、お前は完全に私のものだ」


わたしには、そのいみは
もうわからなかったけど


(完)
 Yahoo!ブックマーク
posted by ぷちどろっぷ at 2017年07月23日 | Comment(8) | TrackBack(0) | 咲-Saki-
この記事へのコメント
待ちに待ったSS心待ちにしてました。
菫さんの底知れない狂気がたまりません、玄ちゃんの返してくださいの悲痛さや宥ちゃんの壊れ具合も最高です。
菫さん視点も是非お願いします。
Posted by at 2017年07月23日 22:36
共依存は両方『幸せ』になれるから最高ですね。
共依存こそ、お互い支え合って『人』って感じがします。
やっぱり共依存は正義…!!
Posted by at 2017年07月23日 22:49
菫さん悪役似合ってる。頭の良い人はおっかない…。
Posted by at 2017年07月23日 23:19
おおー!
すばら!
ぞくぞくする怖さと安堵感を味わえた。
Posted by at 2017年07月23日 23:57
メリー…メリーバッドエンド…

菫さんのひたむきな愛情(語弊あり)と
宥さんのそれに対する安心感の心情が
よくわかるSSでした...良い…
Posted by at 2017年07月27日 07:51
これはまさしく親切な人
Posted by at 2017年07月27日 20:01
菫さんやっぱ悪役に回るとこれ以上なくぴったりハマる……やべぇよ…(小声)
超面白かったです、菫さん視点も読んでみたい、この人頭の中どうなってんや……穏やかに狂ってる、だと( 'ω')ふぁっ!?
Posted by at 2017年08月10日 01:40
コメントありがとうございます!

返してください>
玄「酷いよね!おねーちゃんを返して!」
菫「姉妹仲いいからどうもこうなるんだよな。
  玄ちゃん抜きには語れない、みたいな」
宥「菫ちゃん視点は…気が向いたら書くかも」

共依存は両方『幸せ』になれるから>
菫「逆に言うと共依存しないと
  幸せになれない感じもあるな」
宥「お互いが納得して依存してるなら
  悪いことだけじゃないと思うの」

頭の良い人はおっかない…>
これはまさしく親切な人>
菫「私がこっちサイドに回ると大体
  怖いって言われるんだよな…
  こんなに親切なのに」
宥「無制限の優しさ程人を壊すものはないよ?」

ぞくぞくする怖さと安堵感>
菫「徹頭徹尾、私のものにするために
  動いてはいるが、ちゃんと
  責任も取ってるからな」
宥「見ようによってはあまあま砂吐きかも」

メリーバッドエンド>
菫「正直原作の宥も依存相手が違うだけで
  結構似たようなものだと思うんだよな。
  私が保護してやるべきだ」
玄「私が保護するからいいんです!」

この人頭の中どうなってんや>
菫「狙った方に『寄せた』だけだ」
宥「原作の菫ちゃんも
  結構そういうところあるよね」
Posted by ぷちどろっぷ@管理人 at 2017年08月19日 20:28
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/180430506
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。

この記事へのトラックバック
 なんかブログランキング参加してみました。
 押してもらえると喜びます(一日一回まで)。