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【咲-Saki-SS:優和】和「いつか、別れる日のために」【依存】
<あらすじ>
幼少からの出会いと別れ。
特に決別を繰り返し続けた和は、
諦め癖が染みついていた。
別れは必ず訪れる。それは
自分には止めようがないと。
しかしながら幸か不幸か、
彼女は出会いに恵まれていた。
新たに出会った優希に対し、
彼女は小さなぬいぐるみを贈る。
せめて、自分と別れた後も。
この小さな猫蛇(セアミィ)を見て、
自分を思い出してくれますように。
それは別れを前提とした餞別の品。
儚く切ない存在だったセアミィは、
優希が毎日身に着けた事で
その意味を大きく変え始める。
<登場人物>
原村和,片岡優希
<症状>
・依存
・トラウマ
・異常行動
<その他>
Twitterの以下の発言にうっかりミニSS書いたら
なんかの拍子で和掘り下げSSを書く話になったので
そんな感じです。
・みんみ @RUuKomimi
のどちゃんが出会って2ヶ月もしない女の子に
誕生日でもないのにどんな顔してなんて言って
セアミィをプレゼントしてしかも
装備させちゃったのかを考えるとすごく楽しいんだけど、
楽しくない???
--------------------------------------------------------
諦念。
それはまだ中学生だった頃、
私を支配していた感情でした。
両親の都合で転校。親友達とは離れ離れ。
関係は水に溶かすように薄らいでいき、
徐々に、徐々に消えていく。
抗う術はこの手になくて。
ただ、絶望を受け入れるしかありませんでした。
などと語れば、非難する人がいるかもしれません。
距離が離れた位で薄れる関係など、
最初からその程度だったのだと。
返す言葉はありません。
そう、きっと。『その程度』だったのでしょう。
繋ぎ止めようとはしたんです。
便りを送ろうとはしたんです。
なのに、筆を持つ手が止まります。
そんな自分が嫌でした。
まだ小学生だったあの頃は、毎日顔を突き合わせ、
考える前に言葉を交わせた相手。
それが今はどうでしょう。
ただ近況報告の手紙ですら、
書き出しを慎重に選んでしまう。
やがて私は筆をおき、
便箋を片づけてしまいました。
胸を支配するは絶望。
もう、『終わってしまった』という思い。
引き出しの奥にしまわれた便箋。
それが、本来の役割を果たす事はなく。
ただ、ただ、薄暗い過去として。
私を苛むだけに在り続ける事になりました。
--------------------------------------------------------
『いつか、別れる日のために』
--------------------------------------------------------
別れに次ぐ別れ。
幼少期からそれを繰り返した私は、
一つのルールを定めていました。
人に、深く立ち入らない事。
いずれ来る別れのために、
前もって準備をしておくのです。
別れの種類は多様です。
今回そうであったように、
私に起因する場合もあるでしょう。
自らの道を進むべく、相手から
切り出される事もあるでしょう。
ただ、別れの形がどうあれ。
揺るがない共通点が一つあります。
それは、私の手では覆せないという事。
ひとたび『それ』が起きてしまえば、
諦めて泣くしかないのです。
ならば、いっそ最初から。心を奪われなければいい。
ごく自然な帰結だと言えたでしょう。
でも、その対策が有効に働かない事も知っていました。
なぜなら、別れが避けられないように。
人との出会いも、容易に避けられるものではないから。
『わるいなっ、大きくてかわせなかったじょ……っ!』
中学二年生の春。唐突にそれは起きました。
まだ慣れない通学路。背後から迫る音に振り向くと、
胸にわずかな衝撃を覚えます。
『大丈夫か?』
気遣う言葉に顔を上げると、そこには
心配そうに私を覗き込む顔が一つ。
脳裏に浮かんだのは穏乃と憧。
そこには、別れた親友達を足して
二で割ったような少女が佇んでいました。
『どうかしたか?』
『……いえ。別れた友達に、
ちょっとずつ似てるなと思いまして』
そして、思わずその事を素直に告げると。
彼女は花が咲くように笑ったのです。
『じゃ、私とも友達になれるじぇ!』
言葉を詰まらせずにはいられませんでした。
胸に過ぎる思いは戸惑い。
嬉しさと、期待と、それを大きく上回る不安。
だって、もし、似てるから友達になれるのだとしたら。
いずれは彼女も、穏乃や憧と同じように。
つらい別れをもらたしてくるのでしょうか。
嗚呼、なのに私は弱いのです。
いずれ来る別れに震えながらも、一人では居られない。
垂らされてしまったか細い糸を、掴まずには居られない。
「……そうですね」
差し出された小さなその手を、
私は握ってしまいました。
彼女の名前は片岡優希。私の『次の』親友で、
『次に』別れをもたらす候補。
こうして私は。また、いつ弾けるかわからない
時限爆弾を抱えこむ事になったのです。
--------------------------------------------------------
もし、この世に神様が居るのだとしたら。
さぞかし残酷で皮肉屋なのでしょう。
別れなど経験したくはないのに。
ならば最初から出会わなければいいのに。
なのに、出会いには恵まれました。
それもこちらが好まざるとも、
深く踏み込んでくるのです。
「へえ、のどちゃんってぬいるぐみが好きなのか」
「はい。……少し、子供っぽいかもしれませんけど」
「むしろイメージぴったりだじょ!
じゃあ、今度ぬいぐるみショップ行くじぇ!」
「ぬいぐるみ…ショップですか?」
「おうともさ!駅前にファンシーなお店ができたんだじょ。
初デートにはもってこいだじぇ!」
「で、デートって」
惜別に浸る暇もなく。否、傷を塞ぐかのように。
片岡さんは私の中に入り込んできます。
その気安さと強引さは、やはりあの二人を
思い浮かべずには居られませんでした。
(…ぐいぐい来るところも似てますね)
もちろん、私が失意と絶望の中にある事など、
彼女の知るところではないでしょう。
普段から明るい彼女からすれば。
誰にでもする、軽いスキンシップなのかもしれません。
それでも、私にとって片岡さんは。
暗い地獄に垂らされた、輝く一本の糸でした。
優「いろいろありすぎて目移りするじょ。
のどちゃんは好きなキャラとかあるのか?」
和「エトペンとか好きですね。ほら、この子」
優「ふんふむ。じゃぁまずはこいつだな!
他にはおすすめとかあるじょ?」
和「この子とかどうですか?セアミィって言うんですけど。
普段使いにもできますし、片岡さんなら似合いそうです」
和「…せっかくですし、記念にプレゼントしますね」
二人で行ったファンシーショップ。
そこで私は、彼女に猫蛇のぬいぐるみをプレゼントしました。
今思えば、我ながら酷く面倒なチョイスだと思います。
気持ちが重過ぎるのです。
普段使いにできる。それは言い換えれば、
暗に常備を要求すると同じ事。
プレゼントされたぬいぐるみとなれば、
ただでさえ捨てにくいでしょう。
帯同できると手渡されれば、そうせざるを得ないでしょう。
重過ぎる。慌てて私は取り繕おうと試みました。
「とはいっても、別に、無理してつけなくてもいいですから」
なのに、片岡さんがその言葉を受け取る事はなく。
やっぱりコロコロ陽気に笑って、
すぐさま腰に巻き付けました。
そして。
「いい感じだじぇ!こいつには、
私と生涯を共にしてもらうじょ!」
なんて言ってしまうものだから。
涙腺がおもむろに熱を帯びて、
前が向けなくなってしまうんです。
きっと、いつか私達にも別れが訪れるのでしょう。
それでも。もし道を違えた(たがえた)としても。
私の代わりに、セアミィがそばにいてくれるなら。
記憶だけは、貴女のそばに居られる。
そう考えたら。いずれ訪れるつらい離別の、
準備ができた気がしたんです。
--------------------------------------------------------
そして訪れる中三の夏。
インターミドルを制した私は、
酷く物憂げに沈んでいました。
嗚呼、また別れがやってきた。
仲間を運命と共にしたのもつかの間。
あっさりと皆との夏は終わり、もう、
高遠原の全員で大会に出る事はありません。
今は横を歩くゆーきも、半年後には
道を違うのでしょう。
だって彼女は言ったから。
「春からのどちゃんとも離れ離れかー」
嗚呼、嗚呼。やっぱりそうでした。
この子は憧タイプです。
私の進路を聞く事もなく、すでに進路を提出している。
それでいて、明確に別れを切り出してきた。
道を揃えようとすら思わない。
自分の道を変える気が毛頭ないから。
だから私が追従しなければ、ここで関係は終わるのでしょう。
「高校に行ったらまた新しい友達ができるじょ」
「そうでしょうか」
それも否定はできません。
事実今、私の横にはゆーきがいる。
でも、でも。今私と共に歩く貴女を、
手放したくないと願うのは我儘でしょうか。
(……怖い)
別れへの準備。入念にしてきたはずでした。
それでも私は揺れている。心を酷く揺らされる。
怖い、怖い、怖い、怖い。
恐怖に震え続けた私。そんな私が次に取った行動は、
勇気を奮い立たせる事でした。
決別への?いいえ、もっと細やかで歪な勇気。
「私も……清澄高校に行くかもしれません」
そう。それは、進路を友達に委ねる事。
少しずつ、少しずつ。
私の中で、何かが変容していきました。
--------------------------------------------------------
出会いと別れ。そして再会。
様々な物語を紡ぎながらも、
ゆーきの傍に在り続けました。
穏乃や憧との再会に、心が震えたのも事実です。
例え物理的に道が断ち切れようと、
また交わる事もある。
阿知賀の皆がもたらしてくれた気づきは、
大きな救いとなりました。
それでもやっぱり思うんです。
別れないですむのなら、それに越した事はないと。
だって、一度でも決別したら。
道を再び繋ぐには、
途方もない苦労を伴うのですから。
だから私はすがります。
今ある関係を断ち切るまいと。
「むむ。またほつれてきたじょ。
そろそろこいつも楽にしてやるべきか」
「……貸してください。繕いますから」
中二の春から四年と半年。
高三の夏になっても、ゆーきの腰には
セアミィが巻き付いています。
もっともその姿は大分くたびれて、
延命措置を施されながら必死に生きる有様でした。
むしろここまで重用された事自体が驚きです。
まさか、寿命が来るまで使われるとは
思っていませんでしたから。
雨の日も風の日も、セアミィはゆーきと共に在りました。
ゆーきが忙しなく駆け回った結果、
周囲と擦れてその毛並みを摩耗しながら。
特に食事をこぼしてしまい、
二度と消えない染みをこしらえながら。
それでも。セアミィは、私達と
ずっと一緒に在り続けました。
「……もう、色が落ちませんね」
修繕したセアミィを、丁寧に手洗いして引き上げます。
純白だったその毛並みは、今や茶色に穢れていました。
汚れはもはや落ちません。ゆーきの言う通り、
眠らせてあげる頃合いなのでしょう。
心の声が囁きます。
(新しい子をプレゼントすればいいじゃないですか。
このままじゃ捨てたは最後、
次はつけてくれないかもしれませんよ?)
私の声が反論します。
(捨てて、次の子と取り換えるんですか?
過去に私がされたように?
今のセアミィをゴミ箱に捨てて?)
私の声が詰まります。
(こ、子供じゃないんですから……
物には全て寿命がある。
駄々をこねても仕方ないでしょう)
汚れたセアミィを抱き締めました。
(この子は私です。『捨てないで』、そう
ゆーきにしがみつく私です)
(自分を、どうして捨てられますか?)
気づけば涙が零れていました。
嗚呼、本当はわかっているのです。
どうしようもない事は。
それでも。セアミィとの決別が、
致命的な別れの幕開けとなるような気がして。
指の震えが止まらない。
「……それでも。手は打たないといけませんね」
涙で霞む視界の中、通販サイトを眺めてみました。
次善の策。ついに私は自分を切り捨て、
新しい自分を手に入れる事にしたのです。
その悲壮な決断は、しかしより深い絶望をもたらしました
なぜなら、そこにセアミィの姿はなかったのです
「ど、どうして?前は、あんなに一杯売っていたのに」
いくつものサイトを巡回し、非情な事実に気づきます
販売終了してしまったのでしょう
震えが、震えが、震えが、震えが
止まらない
最初から、『替え』なんてなかったのです
もう、この子が『最後』なのです
その事実に気づいた時
恐怖で目の前が真っ黒になりました
--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
「へ?のどちゃんが欠席?
珍しい事もあるもんだじぇ。
後でお見舞いに馳せ参じるじょ」
「へ?要らない?病気なのは自分じゃないから?
どういう事だじょ?」
「へ?……病気なのは――
--------------------------------------------------------
――セアミィ?」
--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
辿り着いた結論は、酷く単純なものでした
もはやこの子の替えはない
そもそも変える気も起こらない
だとすれば、この子を救うしかありません
腰のゴム紐は何度も交換してきたんです
ほつれだって修繕してきたんです
今回もそれと同じ事
茶色く穢れた皮をそぎ
新たな毛並みを与えればいい
そうすれば、この子はまだ生きていられる
--------------------------------------------------------
そうすれば
私は、まだ
ゆーきのそばにいられるはず
--------------------------------------------------------
だから私は、セアミィの肌を裂こうとして――
--------------------------------------------------------
『やめるじょ!!!』
--------------------------------------------------------
セアミィの肌にハサミを入れようとした刹那
ゆーきの声が飛び込みました
驚き顔を上げる私の瞳に
ゆーきの切羽詰まった表情が映ります
ずいぶん急いで駆け付けたのでしょう
額には汗が浮かんでいました
「そいつを手にかけるのはやめるんだ…!
それをしちゃったら…のどちゃん、
本当に戻れなくなるじょ」
諭すように、そして絞り出すように
ゆーきは私に投げ掛けました
到底受け入れられない言葉を
「ならどうするんですか。
もう、こんなにボロボロなのに」
「洗ってみてよくわかりました。
この子はこのままじゃ助からない。
汚れもそうですけど、表面がもう手遅れなんです。
遅かれ早かれ、移植する必要があります」
「大した事じゃありません。
人だって、皮を移植するじゃないですか。
時には心臓のような臓器すら。
セアミィも同じ事です。
この子はまだ生きていられる」
「だから。お願いします。
この子を、見捨てないでください」
この子を、『わたし』を
悲痛な思いは届いたのでしょうか
ゆーきは少し黙り込むと
やがて私に歩みを寄せて
そっと慈しむように
私を、そしてセアミィを抱き寄せます
「のどちゃん、たぶん誤解してるじょ」
「……なにを、ですか」
ゆーきの指が、優しくセアミィの肌を撫でました
所々擦り切れて、禿げた毛並みを労わるように
「セアミィはのどちゃんじゃない。
こいつが眠りについたとしても、
私達の関係は途切れないじょ」
「嘘です。後半年もすれば卒業します。
そしたら、私達を繋ぐのはセアミィだけです」
「その子を殺すと言うのなら……
どうして私達が繋がれますか」
「そこがもう間違ってるんだじぇ」
ゆーきが、私の頬を撫でます
セアミィに対してしたように、優しく、優しく
頬を伝う涙を拭った後
ゆーきは一冊の書類を取り出しました
「……私はこの大学に行こうと思ってるじょ。
学食にタコスがあるらしいからな」
「ほら、のどちゃんだってきっとあるだろ?
『こんな時、タコスがあったら……』
そう思った事、一度や二度じゃないはずです!」
それは、あの日の焼きまわし
道を違うと思った刹那、目の前に垂らされた一本の糸
「だから、もう。セアミィに縛られるのはやめるじょ」
その言葉は私のくさびを断ち切って
もう我慢ができなくなって
私は、幼子のように声を上げて
ただ、ただ
泣きじゃくるしかできませんでした
--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
思えば随分歪んでいました
そもそもセアミィを渡した理由は
いつか訪れる決別に備えるためだったのに
いつしかセアミィに魂が宿って
あの子は私になっていました
挙句、あの子の器を利用して
ゆーきを縛り付ける始末
否、ゆーきの言う通り
縛られていたのは私だったのでしょう
形のないものが怖かった
思いが見えなくて怖かった
だって、いつ繋がりが切れてしまうかわからなくて
切れてしまっている事にすら気づかないかもしれないから
だから、わかりやすく縛ってくれる
セアミィに心を奪われた
--------------------------------------------------------
でも、それじゃ駄目なんです
物理的に縛っても、
心が繋がってなければ意味がない
逆に、心さえ繋がっていれば
道を違う事もないのだと
--------------------------------------------------------
ゆーきが教えてくれたから
私はようやく
あの子を眠らせる事ができたんです
--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
それから半年の月日が流れ
桜が舞い散る季節が訪れました
晴れて大学生となった私達は、
二人で門をくぐります
私の横にたたずむゆーき
その腰にあの子の姿はありません
最後に腰ゴムが切れたあの日
私は延命をしませんでした
「セアミィなら、今頃ベッドで優雅に昼寝してるじょ。
のどちゃんだって知ってるだろ?」
視線の先を読み取られたのでしょう
ゆーきはにやりと口元を歪めると、
からかう様に言葉を吐きます
「わかってますよ。それでもやっぱり、
腰が寂しいなって思っただけです」
「だったらのどちゃんが何とかするじょ」
ゆーきはそう言って艶やかに笑うと、
私の手を取って腰に誘い(いざない)ました
思わず頬を染める私とは対照的に、
ゆーきはどこまでも自信満々に歩いていきます
それがなんだか悔しくて
少しだけ口をとがらせました
「新しい子を買えばいいんじゃないですか?
あれから調べてみましたけど、
エイミーの方はまだ居るみたいですよ」
「浮気はしないじょ。私の腰を任せられるのは
あいつだけだからな!」
「だったら延命しませんか?別に、
布を取り換えるくらい普通にあると思いますけど」
もう縛られているわけではありません
それでも、ゆーきが望んでくれるなら
あの子を腰に居させてほしい
ゆーきは少しだけ困ったように
でも、しっかりと首を横に振りました
「やだじぇ。そりゃ確かにすごい汚れてるけど。
あの汚れもひっくるめて、
セアミィと私が描いてきた軌跡だからな」
「何より……のどちゃんを
切り裂くようで気が引けるじょ」
ぼそりと零されたその言葉に、
思わず息を呑みました
それはゆーき自身が否定した事
セアミィは私ではないと
「セアミィはのどちゃんじゃない。
そんなのは当たり前の話だじぇ」
「でも、私は私なりにあいつを愛してた。
のどちゃんがくれた愛の証として」
「だから、あいつが。のどちゃん自身の手で
切り刻まれようとしてた時。
どうしても耐えられなかったんだ」
「……その。正直、のどちゃんが、
自殺してるような気分になって」
「だから、あいつはあのままで居させてほしいじょ。
ちゃんと、私が死ぬまで面倒見るから」
わずかに頬を染めながら
視線をずらして呟かれた言葉
それでも私は訝りました
自分が告げた言葉の重み
ゆーきは正しく理解しているのでしょうか
あの子を私と見立てている
その上で一生離さないと語る
つまり、これは言い方を変えれば
「プロポーズと同義なんですが」
「今更な話だじょ?」
刺してやったかと思いきや
予想外の反撃がきて、顔から熱が噴き出しました
嗚呼、嗚呼
これだからゆーきは本当に
ズルくて、優しくて、格好良くて、愛おしい
「周りも騒がしくなってきたし帰るじぇ!
今夜は寝かさないからな!」
「わかってるならなんで火に油を注ぐんですか……」
互いに頬を染めながら足早に帰路につき
新たな住処の扉を開きました
まだどこか違和感を覚える新居の中
見覚えのある姿を認めて
思わず頬が緩みます
(ただいま帰りましたよ)
ダブルベッドの上には、もう一人の私
汚れて穢れて傷ついたセアミィが、
悠々自適に寝そべっていました
(完)
幼少からの出会いと別れ。
特に決別を繰り返し続けた和は、
諦め癖が染みついていた。
別れは必ず訪れる。それは
自分には止めようがないと。
しかしながら幸か不幸か、
彼女は出会いに恵まれていた。
新たに出会った優希に対し、
彼女は小さなぬいぐるみを贈る。
せめて、自分と別れた後も。
この小さな猫蛇(セアミィ)を見て、
自分を思い出してくれますように。
それは別れを前提とした餞別の品。
儚く切ない存在だったセアミィは、
優希が毎日身に着けた事で
その意味を大きく変え始める。
<登場人物>
原村和,片岡優希
<症状>
・依存
・トラウマ
・異常行動
<その他>
Twitterの以下の発言にうっかりミニSS書いたら
なんかの拍子で和掘り下げSSを書く話になったので
そんな感じです。
・みんみ @RUuKomimi
のどちゃんが出会って2ヶ月もしない女の子に
誕生日でもないのにどんな顔してなんて言って
セアミィをプレゼントしてしかも
装備させちゃったのかを考えるとすごく楽しいんだけど、
楽しくない???
--------------------------------------------------------
諦念。
それはまだ中学生だった頃、
私を支配していた感情でした。
両親の都合で転校。親友達とは離れ離れ。
関係は水に溶かすように薄らいでいき、
徐々に、徐々に消えていく。
抗う術はこの手になくて。
ただ、絶望を受け入れるしかありませんでした。
などと語れば、非難する人がいるかもしれません。
距離が離れた位で薄れる関係など、
最初からその程度だったのだと。
返す言葉はありません。
そう、きっと。『その程度』だったのでしょう。
繋ぎ止めようとはしたんです。
便りを送ろうとはしたんです。
なのに、筆を持つ手が止まります。
そんな自分が嫌でした。
まだ小学生だったあの頃は、毎日顔を突き合わせ、
考える前に言葉を交わせた相手。
それが今はどうでしょう。
ただ近況報告の手紙ですら、
書き出しを慎重に選んでしまう。
やがて私は筆をおき、
便箋を片づけてしまいました。
胸を支配するは絶望。
もう、『終わってしまった』という思い。
引き出しの奥にしまわれた便箋。
それが、本来の役割を果たす事はなく。
ただ、ただ、薄暗い過去として。
私を苛むだけに在り続ける事になりました。
--------------------------------------------------------
『いつか、別れる日のために』
--------------------------------------------------------
別れに次ぐ別れ。
幼少期からそれを繰り返した私は、
一つのルールを定めていました。
人に、深く立ち入らない事。
いずれ来る別れのために、
前もって準備をしておくのです。
別れの種類は多様です。
今回そうであったように、
私に起因する場合もあるでしょう。
自らの道を進むべく、相手から
切り出される事もあるでしょう。
ただ、別れの形がどうあれ。
揺るがない共通点が一つあります。
それは、私の手では覆せないという事。
ひとたび『それ』が起きてしまえば、
諦めて泣くしかないのです。
ならば、いっそ最初から。心を奪われなければいい。
ごく自然な帰結だと言えたでしょう。
でも、その対策が有効に働かない事も知っていました。
なぜなら、別れが避けられないように。
人との出会いも、容易に避けられるものではないから。
『わるいなっ、大きくてかわせなかったじょ……っ!』
中学二年生の春。唐突にそれは起きました。
まだ慣れない通学路。背後から迫る音に振り向くと、
胸にわずかな衝撃を覚えます。
『大丈夫か?』
気遣う言葉に顔を上げると、そこには
心配そうに私を覗き込む顔が一つ。
脳裏に浮かんだのは穏乃と憧。
そこには、別れた親友達を足して
二で割ったような少女が佇んでいました。
『どうかしたか?』
『……いえ。別れた友達に、
ちょっとずつ似てるなと思いまして』
そして、思わずその事を素直に告げると。
彼女は花が咲くように笑ったのです。
『じゃ、私とも友達になれるじぇ!』
言葉を詰まらせずにはいられませんでした。
胸に過ぎる思いは戸惑い。
嬉しさと、期待と、それを大きく上回る不安。
だって、もし、似てるから友達になれるのだとしたら。
いずれは彼女も、穏乃や憧と同じように。
つらい別れをもらたしてくるのでしょうか。
嗚呼、なのに私は弱いのです。
いずれ来る別れに震えながらも、一人では居られない。
垂らされてしまったか細い糸を、掴まずには居られない。
「……そうですね」
差し出された小さなその手を、
私は握ってしまいました。
彼女の名前は片岡優希。私の『次の』親友で、
『次に』別れをもたらす候補。
こうして私は。また、いつ弾けるかわからない
時限爆弾を抱えこむ事になったのです。
--------------------------------------------------------
もし、この世に神様が居るのだとしたら。
さぞかし残酷で皮肉屋なのでしょう。
別れなど経験したくはないのに。
ならば最初から出会わなければいいのに。
なのに、出会いには恵まれました。
それもこちらが好まざるとも、
深く踏み込んでくるのです。
「へえ、のどちゃんってぬいるぐみが好きなのか」
「はい。……少し、子供っぽいかもしれませんけど」
「むしろイメージぴったりだじょ!
じゃあ、今度ぬいぐるみショップ行くじぇ!」
「ぬいぐるみ…ショップですか?」
「おうともさ!駅前にファンシーなお店ができたんだじょ。
初デートにはもってこいだじぇ!」
「で、デートって」
惜別に浸る暇もなく。否、傷を塞ぐかのように。
片岡さんは私の中に入り込んできます。
その気安さと強引さは、やはりあの二人を
思い浮かべずには居られませんでした。
(…ぐいぐい来るところも似てますね)
もちろん、私が失意と絶望の中にある事など、
彼女の知るところではないでしょう。
普段から明るい彼女からすれば。
誰にでもする、軽いスキンシップなのかもしれません。
それでも、私にとって片岡さんは。
暗い地獄に垂らされた、輝く一本の糸でした。
優「いろいろありすぎて目移りするじょ。
のどちゃんは好きなキャラとかあるのか?」
和「エトペンとか好きですね。ほら、この子」
優「ふんふむ。じゃぁまずはこいつだな!
他にはおすすめとかあるじょ?」
和「この子とかどうですか?セアミィって言うんですけど。
普段使いにもできますし、片岡さんなら似合いそうです」
和「…せっかくですし、記念にプレゼントしますね」
二人で行ったファンシーショップ。
そこで私は、彼女に猫蛇のぬいぐるみをプレゼントしました。
今思えば、我ながら酷く面倒なチョイスだと思います。
気持ちが重過ぎるのです。
普段使いにできる。それは言い換えれば、
暗に常備を要求すると同じ事。
プレゼントされたぬいぐるみとなれば、
ただでさえ捨てにくいでしょう。
帯同できると手渡されれば、そうせざるを得ないでしょう。
重過ぎる。慌てて私は取り繕おうと試みました。
「とはいっても、別に、無理してつけなくてもいいですから」
なのに、片岡さんがその言葉を受け取る事はなく。
やっぱりコロコロ陽気に笑って、
すぐさま腰に巻き付けました。
そして。
「いい感じだじぇ!こいつには、
私と生涯を共にしてもらうじょ!」
なんて言ってしまうものだから。
涙腺がおもむろに熱を帯びて、
前が向けなくなってしまうんです。
きっと、いつか私達にも別れが訪れるのでしょう。
それでも。もし道を違えた(たがえた)としても。
私の代わりに、セアミィがそばにいてくれるなら。
記憶だけは、貴女のそばに居られる。
そう考えたら。いずれ訪れるつらい離別の、
準備ができた気がしたんです。
--------------------------------------------------------
そして訪れる中三の夏。
インターミドルを制した私は、
酷く物憂げに沈んでいました。
嗚呼、また別れがやってきた。
仲間を運命と共にしたのもつかの間。
あっさりと皆との夏は終わり、もう、
高遠原の全員で大会に出る事はありません。
今は横を歩くゆーきも、半年後には
道を違うのでしょう。
だって彼女は言ったから。
「春からのどちゃんとも離れ離れかー」
嗚呼、嗚呼。やっぱりそうでした。
この子は憧タイプです。
私の進路を聞く事もなく、すでに進路を提出している。
それでいて、明確に別れを切り出してきた。
道を揃えようとすら思わない。
自分の道を変える気が毛頭ないから。
だから私が追従しなければ、ここで関係は終わるのでしょう。
「高校に行ったらまた新しい友達ができるじょ」
「そうでしょうか」
それも否定はできません。
事実今、私の横にはゆーきがいる。
でも、でも。今私と共に歩く貴女を、
手放したくないと願うのは我儘でしょうか。
(……怖い)
別れへの準備。入念にしてきたはずでした。
それでも私は揺れている。心を酷く揺らされる。
怖い、怖い、怖い、怖い。
恐怖に震え続けた私。そんな私が次に取った行動は、
勇気を奮い立たせる事でした。
決別への?いいえ、もっと細やかで歪な勇気。
「私も……清澄高校に行くかもしれません」
そう。それは、進路を友達に委ねる事。
少しずつ、少しずつ。
私の中で、何かが変容していきました。
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出会いと別れ。そして再会。
様々な物語を紡ぎながらも、
ゆーきの傍に在り続けました。
穏乃や憧との再会に、心が震えたのも事実です。
例え物理的に道が断ち切れようと、
また交わる事もある。
阿知賀の皆がもたらしてくれた気づきは、
大きな救いとなりました。
それでもやっぱり思うんです。
別れないですむのなら、それに越した事はないと。
だって、一度でも決別したら。
道を再び繋ぐには、
途方もない苦労を伴うのですから。
だから私はすがります。
今ある関係を断ち切るまいと。
「むむ。またほつれてきたじょ。
そろそろこいつも楽にしてやるべきか」
「……貸してください。繕いますから」
中二の春から四年と半年。
高三の夏になっても、ゆーきの腰には
セアミィが巻き付いています。
もっともその姿は大分くたびれて、
延命措置を施されながら必死に生きる有様でした。
むしろここまで重用された事自体が驚きです。
まさか、寿命が来るまで使われるとは
思っていませんでしたから。
雨の日も風の日も、セアミィはゆーきと共に在りました。
ゆーきが忙しなく駆け回った結果、
周囲と擦れてその毛並みを摩耗しながら。
特に食事をこぼしてしまい、
二度と消えない染みをこしらえながら。
それでも。セアミィは、私達と
ずっと一緒に在り続けました。
「……もう、色が落ちませんね」
修繕したセアミィを、丁寧に手洗いして引き上げます。
純白だったその毛並みは、今や茶色に穢れていました。
汚れはもはや落ちません。ゆーきの言う通り、
眠らせてあげる頃合いなのでしょう。
心の声が囁きます。
(新しい子をプレゼントすればいいじゃないですか。
このままじゃ捨てたは最後、
次はつけてくれないかもしれませんよ?)
私の声が反論します。
(捨てて、次の子と取り換えるんですか?
過去に私がされたように?
今のセアミィをゴミ箱に捨てて?)
私の声が詰まります。
(こ、子供じゃないんですから……
物には全て寿命がある。
駄々をこねても仕方ないでしょう)
汚れたセアミィを抱き締めました。
(この子は私です。『捨てないで』、そう
ゆーきにしがみつく私です)
(自分を、どうして捨てられますか?)
気づけば涙が零れていました。
嗚呼、本当はわかっているのです。
どうしようもない事は。
それでも。セアミィとの決別が、
致命的な別れの幕開けとなるような気がして。
指の震えが止まらない。
「……それでも。手は打たないといけませんね」
涙で霞む視界の中、通販サイトを眺めてみました。
次善の策。ついに私は自分を切り捨て、
新しい自分を手に入れる事にしたのです。
その悲壮な決断は、しかしより深い絶望をもたらしました
なぜなら、そこにセアミィの姿はなかったのです
「ど、どうして?前は、あんなに一杯売っていたのに」
いくつものサイトを巡回し、非情な事実に気づきます
販売終了してしまったのでしょう
震えが、震えが、震えが、震えが
止まらない
最初から、『替え』なんてなかったのです
もう、この子が『最後』なのです
その事実に気づいた時
恐怖で目の前が真っ黒になりました
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「へ?のどちゃんが欠席?
珍しい事もあるもんだじぇ。
後でお見舞いに馳せ参じるじょ」
「へ?要らない?病気なのは自分じゃないから?
どういう事だじょ?」
「へ?……病気なのは――
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――セアミィ?」
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辿り着いた結論は、酷く単純なものでした
もはやこの子の替えはない
そもそも変える気も起こらない
だとすれば、この子を救うしかありません
腰のゴム紐は何度も交換してきたんです
ほつれだって修繕してきたんです
今回もそれと同じ事
茶色く穢れた皮をそぎ
新たな毛並みを与えればいい
そうすれば、この子はまだ生きていられる
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そうすれば
私は、まだ
ゆーきのそばにいられるはず
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だから私は、セアミィの肌を裂こうとして――
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『やめるじょ!!!』
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セアミィの肌にハサミを入れようとした刹那
ゆーきの声が飛び込みました
驚き顔を上げる私の瞳に
ゆーきの切羽詰まった表情が映ります
ずいぶん急いで駆け付けたのでしょう
額には汗が浮かんでいました
「そいつを手にかけるのはやめるんだ…!
それをしちゃったら…のどちゃん、
本当に戻れなくなるじょ」
諭すように、そして絞り出すように
ゆーきは私に投げ掛けました
到底受け入れられない言葉を
「ならどうするんですか。
もう、こんなにボロボロなのに」
「洗ってみてよくわかりました。
この子はこのままじゃ助からない。
汚れもそうですけど、表面がもう手遅れなんです。
遅かれ早かれ、移植する必要があります」
「大した事じゃありません。
人だって、皮を移植するじゃないですか。
時には心臓のような臓器すら。
セアミィも同じ事です。
この子はまだ生きていられる」
「だから。お願いします。
この子を、見捨てないでください」
この子を、『わたし』を
悲痛な思いは届いたのでしょうか
ゆーきは少し黙り込むと
やがて私に歩みを寄せて
そっと慈しむように
私を、そしてセアミィを抱き寄せます
「のどちゃん、たぶん誤解してるじょ」
「……なにを、ですか」
ゆーきの指が、優しくセアミィの肌を撫でました
所々擦り切れて、禿げた毛並みを労わるように
「セアミィはのどちゃんじゃない。
こいつが眠りについたとしても、
私達の関係は途切れないじょ」
「嘘です。後半年もすれば卒業します。
そしたら、私達を繋ぐのはセアミィだけです」
「その子を殺すと言うのなら……
どうして私達が繋がれますか」
「そこがもう間違ってるんだじぇ」
ゆーきが、私の頬を撫でます
セアミィに対してしたように、優しく、優しく
頬を伝う涙を拭った後
ゆーきは一冊の書類を取り出しました
「……私はこの大学に行こうと思ってるじょ。
学食にタコスがあるらしいからな」
「ほら、のどちゃんだってきっとあるだろ?
『こんな時、タコスがあったら……』
そう思った事、一度や二度じゃないはずです!」
それは、あの日の焼きまわし
道を違うと思った刹那、目の前に垂らされた一本の糸
「だから、もう。セアミィに縛られるのはやめるじょ」
その言葉は私のくさびを断ち切って
もう我慢ができなくなって
私は、幼子のように声を上げて
ただ、ただ
泣きじゃくるしかできませんでした
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思えば随分歪んでいました
そもそもセアミィを渡した理由は
いつか訪れる決別に備えるためだったのに
いつしかセアミィに魂が宿って
あの子は私になっていました
挙句、あの子の器を利用して
ゆーきを縛り付ける始末
否、ゆーきの言う通り
縛られていたのは私だったのでしょう
形のないものが怖かった
思いが見えなくて怖かった
だって、いつ繋がりが切れてしまうかわからなくて
切れてしまっている事にすら気づかないかもしれないから
だから、わかりやすく縛ってくれる
セアミィに心を奪われた
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でも、それじゃ駄目なんです
物理的に縛っても、
心が繋がってなければ意味がない
逆に、心さえ繋がっていれば
道を違う事もないのだと
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ゆーきが教えてくれたから
私はようやく
あの子を眠らせる事ができたんです
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それから半年の月日が流れ
桜が舞い散る季節が訪れました
晴れて大学生となった私達は、
二人で門をくぐります
私の横にたたずむゆーき
その腰にあの子の姿はありません
最後に腰ゴムが切れたあの日
私は延命をしませんでした
「セアミィなら、今頃ベッドで優雅に昼寝してるじょ。
のどちゃんだって知ってるだろ?」
視線の先を読み取られたのでしょう
ゆーきはにやりと口元を歪めると、
からかう様に言葉を吐きます
「わかってますよ。それでもやっぱり、
腰が寂しいなって思っただけです」
「だったらのどちゃんが何とかするじょ」
ゆーきはそう言って艶やかに笑うと、
私の手を取って腰に誘い(いざない)ました
思わず頬を染める私とは対照的に、
ゆーきはどこまでも自信満々に歩いていきます
それがなんだか悔しくて
少しだけ口をとがらせました
「新しい子を買えばいいんじゃないですか?
あれから調べてみましたけど、
エイミーの方はまだ居るみたいですよ」
「浮気はしないじょ。私の腰を任せられるのは
あいつだけだからな!」
「だったら延命しませんか?別に、
布を取り換えるくらい普通にあると思いますけど」
もう縛られているわけではありません
それでも、ゆーきが望んでくれるなら
あの子を腰に居させてほしい
ゆーきは少しだけ困ったように
でも、しっかりと首を横に振りました
「やだじぇ。そりゃ確かにすごい汚れてるけど。
あの汚れもひっくるめて、
セアミィと私が描いてきた軌跡だからな」
「何より……のどちゃんを
切り裂くようで気が引けるじょ」
ぼそりと零されたその言葉に、
思わず息を呑みました
それはゆーき自身が否定した事
セアミィは私ではないと
「セアミィはのどちゃんじゃない。
そんなのは当たり前の話だじぇ」
「でも、私は私なりにあいつを愛してた。
のどちゃんがくれた愛の証として」
「だから、あいつが。のどちゃん自身の手で
切り刻まれようとしてた時。
どうしても耐えられなかったんだ」
「……その。正直、のどちゃんが、
自殺してるような気分になって」
「だから、あいつはあのままで居させてほしいじょ。
ちゃんと、私が死ぬまで面倒見るから」
わずかに頬を染めながら
視線をずらして呟かれた言葉
それでも私は訝りました
自分が告げた言葉の重み
ゆーきは正しく理解しているのでしょうか
あの子を私と見立てている
その上で一生離さないと語る
つまり、これは言い方を変えれば
「プロポーズと同義なんですが」
「今更な話だじょ?」
刺してやったかと思いきや
予想外の反撃がきて、顔から熱が噴き出しました
嗚呼、嗚呼
これだからゆーきは本当に
ズルくて、優しくて、格好良くて、愛おしい
「周りも騒がしくなってきたし帰るじぇ!
今夜は寝かさないからな!」
「わかってるならなんで火に油を注ぐんですか……」
互いに頬を染めながら足早に帰路につき
新たな住処の扉を開きました
まだどこか違和感を覚える新居の中
見覚えのある姿を認めて
思わず頬が緩みます
(ただいま帰りましたよ)
ダブルベッドの上には、もう一人の私
汚れて穢れて傷ついたセアミィが、
悠々自適に寝そべっていました
(完)
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今回は比較的軽く、甘々な百合でしたね。
ご馳走様です。
投稿お疲れ様でした。
和ssもっと増えて欲しいですね!
てかss出来上がるの早すぎてビックリしました
わだかまりが解けてからのラストが爽やかで好きです。今後も応援してます!
でも違和感はまるでなくて、描写の外で本編中にあってもおかしくない感じ
今回は比較的軽く、甘々な百合>
和「巻末漫画のゆーきって、結構ドライで
しかもカッコいいんですよね」
優希
「あの私ならのどちゃんが病むまで
ほっとかないと思うじょ」
和ssもっと増えて欲しい>
久「このブログのメインが久咲だから
割と不遇枠だけど、
割と好きな人物らしいわ」
和「私の話は読む方が好きらしいです」
タコス女史がすごい二枚目>
やだイケメン…!>
和「実際ゆーきはかっこいいと思います。
1年で先鋒というのもすごい事ですし」
優「も、もじもじしていいかな」
描写の外で本編中にあっても>
和「繰り返しになりますが、
実際似たようなやりとりしてますからね。
数年後くっついててもおかしくないかと」
優「子供までいたりしてな!」