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【オリジナル百合SS】 「そして、私達は死に寄り添う」【共依存】【狂気】

<あらすじ>
五つにして死の宣告を受けた私。
明日の命すら保証されず、未来も希望もない私。

そんな私が、激痛に血を撒き散らしながら、
それでも生き続ける理由。

それは、私以外には見えない
『あの子』のためだった。


<症状>
・狂気
・共依存

<その他>
・管理人が夢で見たシリーズ。
 例によって複雑な話ではないので
 肩の力を抜いて読んでいただけると。



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死の宣告。

私がそれを受けたのは、確か五つの頃だった。

病気じゃない。単に初期不良だっただけだ。
医者は言う。私の心臓は欠陥品。
十五まで鼓動を刻む事は叶わないだろうと。

医者は言う。深く眉間にしわを寄せ、
口から血を吐き出すように。


『毎日を。最期の日だと思って生きなさい』


まだ幼い私には、その真意を理解できなかった。
ただ、母が私をかき抱き。
震える声で叫んだ事を覚えている。


『こんな幼い子に何て事をっ……
 それでも貴女は医者なんですかっ……!』


医者の目尻にも涙が見えた。
それでも彼女は言葉を続ける。残された時間は短い。
だからこそ、貴重な時間を浪費して欲しくないと。

いくら希っても、もはや届かぬ道がある。
早々に死を理解し、できる事、やりたい事を選択して。


『残り少ない人生を、最大限輝いて生きて欲しい』


医師は唇を噛んでいた。肩は嗚咽に震えていた。
母はもう言葉を紡げず、ただただ私を抱きながら。
ぽたり、ぽたりと、抱き締めた私の頭に涙をこぼし続けた。



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『そして、私達は死に寄り添う』




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死の宣告。

それが実体を伴って私に襲い掛かるまでに、
さほど時間は掛からなかった。


『い゛っ……づっ……!!!』


突如訪れる心臓を握り潰されるような痛み。
視界が一瞬にして真っ白になる。
思考を喰い取る程の激痛に、胸を押さえて崩れ落ちた。

痛い、いたい、いたい゛、い゛だい゛!!!

痛みのあまり意識を放棄して逃避する。
次の瞬間舞台は移動し、病院のベッドに転がされていた。

そんな事が何度も続けば。いくら幼子と言えど、
嫌でも理解せざるを得ない。


『ああ。私は本当に。
 いつ死んでもおかしくないんだ』と。


明日も知れない儚い命。
日々痛みに呻き声をあげながら、
それでも私は生き続けた。

何のため?わからない。
でも、敢えて理由を作るなら――


――『あの子のため』なんだろう。



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私には幼馴染がいる。
片時だって離れない、いつも一緒の大切な人。


『……』


初めて出会ったのは七つの時。
彼女は病室の隅にぽつんと立っていた。

真っ黒な装束に身を包み、死人のように白い顔。
見る人が見たら悲鳴すら上げただろう。
でも、幼い私は躊躇う事なく声を掛ける。


『ねえ。アナタは誰なの?』
『……』


彼女は言葉を返さなかった。
なおも話し掛ける私を目にして、
部屋に居た母が酷く狼狽したのを覚えている。


『ど、どうしたの急に』
『だってほら。あそこに女の子が居るよ?黒い服の』

『……誰も居ないわ。お母さん以外居ない』
『え、でも。ほらそこに』


母はつらそうに眉を顰め、それでも何とか笑顔を作る。
諭すような優しい声で、でもあの子を拒絶した。


『……そう。じゃあきっとお見舞いに来てくれたのね。
 でも、仲良くしちゃ駄目よ』
『どうして?』

『その子は悪い子だから、他の人には見えないの』


おそらく、幻覚を見ていると判断したんだろう。
心臓の痛み、もしくは疾患により脳までもが狂い始めていると。
実際、どうやら彼女は私以外には見えないようだった。

話し掛けると周りに気味悪がられる。
自然、私も彼女を無視するようになる。
もっとも、二人きりの時は一杯話し掛けたけど。

嬉しかったのだ。ずっと一緒に居てくれたのが。
いつ死ぬかわからない孤独の中、
自分を見てくれている人がいる。
その事実が、涙が出る程嬉しかった。


『アナタが誰かは知らないけど、
 一緒に居てくれるんだよね』

『勝手に居なくなったらやだよ?』


願いが通じたのかはわからない。
でも、彼女は消えなかった。
いつまでもいつまでも。私を見守っていてくれた。


そう。本当に、どんな時でも。


『エマージェンシー(緊急事態)です!
 306の患者さんの容態が急変しました!』

『今すぐICU(集中治療室)に移動させてください!
 後、至急ご家族に連絡をお願いします!』


ICUに入った時もついてきた。
たまたま親が居ない時で、酷く勇気づけられたのを覚えている。


『ご家族の方がいらっしゃいました!』
『わかりました!緊急手術の説明をしに行きますよ!』


やがて私の身体はストレッチャーに乗せられ、手術室にその身を移す。
どこか寒々しさを感じるその空間で、涙ぐましい延命のため。
体を大きく切り開かれる。


そんな時ですら、彼女は私をじっと見ていた。


『……』


最初は遠く部屋の隅。でも少しずつ近づいてくる。
私が死にそうになってる時は
目と鼻の先まで近寄ってきて。
私の手をぎゅっと握ってくれた。

涙でにじむ視界の中、彼女の顔が映り込む。
人形みたいに整った奇麗な顔。震える唇が形を変える。


『が ん ば っ て』


名前も知らない。正体も知らない。
それでも。彼女の応援は心に響いた。

自らも痛みに耐えるように歪んだ表情。
その悲痛な表情を見て、
痛いのは私だけじゃないと教えてくれた。


『う、ん。がん、ば、る、よ』


呼吸器をつけられた口から音は漏れない。
それでも、握られた手に力が籠り。
気持ちが通じた事を教えてくれる。


『が ん ば っ て』
『う゛、ん』


どのくらい繰り返していただろう。
私達は二人痛みに耐えながら励ましあう。
永遠に続くかと思われる苦しみの中。
ただ彼女の唇と、握り締められた手だけに意識を集中させた。


やがて周囲が薄闇に包まれる。
手術の終わり。私は闘いに勝ったのだ。
黒がもたらす安寧の中。
彼女は私に微笑みかける。

その笑顔を見て思う。
ああ、頑張って生きてよかったと。
同時に感謝する。彼女が居てくれたから助かった。


『あ、り、が、とう』


そんな死地を何度か乗り越えて、
彼女と私は親友になった。

言葉の一つも交わせない。彼女の事は何も知らない。
それでも、私が生きていられるのはこの子のおかげ。

ううん。この子が生を願うから、
そのためだけに私は生きる。


いつしか彼女は、私の生きる目的になっていた。



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生きる。そう、私は生き続けた。
にじり寄ってくる死に抗い、生に執着してもがき苦しんだ。

でも、そうまでして頑張って、何か為せたか自分に問うと。
正直何も浮かばない。


幼くして死刑宣告を受けたあの日、医者は私にこう言った。
『できる事、やりたい事を選択しなさい』と。
果たして。それは可能だったのだろうか。

選択するには経験が必要となる。
人生のほぼ全てを病室で過ごし、外界を知らない私では、
選択肢を上げ連ねる事すら困難だった。
もっとも、そもそも選択肢があったかすら怪しい。


どちらにせよ私は、結局一度として輝く事なく。
十四歳も半ばを迎えた今も床に伏している。


「結局。お医者さんの忠告を無駄にしちゃったな」


病室のベッドに安置された私。
そんな私の脇に寄り添うように、
黒服の少女が佇んでいた。


「……」


彼女は悲しそうに顔を歪める。
言葉は紡がれないけれど、
代弁するならこんなところだろうか。


「『そんな事言わないで。まだ間に合う』とか?」
「……」


少女は頷く。悲しませた事は心苦しいけれど。
でも、彼女の思いに応える事はできそうにない。


「貴女も聞いてたでしょ。死刑宣告第二弾」


ついさっき、ついに二度目の宣告を受けた。
私の心臓はもう後一か月もたない。
悔いが残らないように。
やりたい事を好きなようにしなさいと。


「そんな事言われても。したい事なんて特にないよ」


明日には。否。次の瞬間には死ぬかもしれない。
その事実を前提として、一体何ができるだろう。

外に出て遊ぶ?痛みと引き換えに寿命が縮むだけだ。
勉強する?もうすぐ死ぬのに何の意味が?
美味しいものを食べる?味なんて感じた覚えがない。


ほら、何もない。私には選択肢がそもそも無いんだ。


「思っちゃうんだよね」
「……」
「『今日が最期の日だと思え』とかさ。
 いかにも他人事だよねって」
「本当に、その日が最後だと思ったら、
 何も手につかないんじゃない?」


「次の瞬間には死ぬかも。死ぬかも。死ぬかも。死ぬ。
 ずっとそう思ってたら、果たして正気を保てるのかな」


寿命が長い他の個体。そんなのが何を言っても他人事だ。
いつ死ぬかわからない恐怖。
寄り添う死の気配は私から気力を奪った。

正直に本音を言ってしまおう。
二度目の宣告を聞いて肩の荷が下りた。
頑張って生きてきたけれど、
ようやく楽になれるんだって。


「励ましてくれた貴女には悪いと思うけどね。
 もう、このまま終わりにしたいんだ」
「……」


どうせ次の瞬間には死んでしまうなら、
もう余計に苦しみたくはない。
何も感じず。何も望まず。ただ。ただ。


眠るように、死を。


「その時に、貴女が。手を握っててくれると嬉しいな」


もし敢えて告げるなら、それだけが私の望み。


少女の目に涙が光る。おずおずと触れられた手は、
死人のように冷たかった。



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そして。『最期の日』がやってくる。




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全身から力が奪われる

凍傷に襲われたように末端がかじかんで
耐え難い痛みを訴えてくる


「っ……ッっ〜〜……ッ!!」


苦痛に悲鳴を上げようにも、声は喉を通らない
もう、声を出す力も残されていなかった


ただただ苦痛に襲われる
痛い
痛い
痛い
痛い

痛い、痛い、痛い、痛い
なんで?せめて眠るように死なせて欲しい


無理だ、私は苦しみの中に死ぬ


どれ程もがき苦しんだろう
不意に、指に何かが絡む感触


感じたのは冷気
ああ、彼女だ、彼女の指だ


酷く重い瞼を必死でこじ開ける
全てがどす黒い暗闇の中
同じく真っ黒な彼女がはっきりと視界に入る


彼女は目に涙をためながら
あの日と同じように、私の手を握ってくれていた


(あ…り、が、と……)


彼女は願いを叶えてくれた
それだけで、私の心に灯が点る(ともる)

私は頬を緩めると、多幸感に身を委ねる


そして、私は――



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『23時52分。ご臨終です』




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――命を、深い闇に落とした




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黒い
黒い闇の中を揺蕩っていた

目を閉じても開いても
視界には黒が広がっている

死んだという自覚はあった
だとすれば
ここは死後の世界なのだろうか


無限に広がる虚無の中
一人の人形(ひとがた)が浮かび上がる

私は思わず目を開き
次に喜びをもって語り掛けた


『貴女は…!貴女はこっちにも来れるの!?』


返事を求めてはいなかった
だって彼女には声がない

だが予想を裏切り
彼女は明確な言葉を返した


『はい。というより、私にとっては
 こちらが本当の棲み処なんです』


唇は動いていない
それは脳内に直接染み込むような
声ではなく信号によるやり取り

なんて、そんな些細な事はどうでもいい
ようやく、ようやく彼女と話せる!!


『やっと、やっと聞ける。貴女は一体何者なの?』
『死神の子供です。生者の魂を摘み取るのが仕事です』


言葉に詰まる
つまり
彼女は私を殺した張本人なのだろうか


『少し違います。死神の子供は、
 死に瀕した人に寄り添うだけ』
『自然死した後。
 魂を摘んでお父様のもとに運ぶだけ』


『それ、摘まれた人はどうなるの?』
『……消滅します』


『そっか。……そっかぁ』


返す言葉がないとはこの事だろう

私はただ、告げられた事実を反芻するように
意味のない相槌を打つしかなかった

嗚呼
私に与えられた運命は
なんでここまで無慈悲なんだろう

唯一の拠り所に捨てられた
ずっと寄り添ってくれたこの子は
ただ責務を果たしただけだったのだ

こんな事実知りたくなかった
それならいっそ何も告げず、
目を覚ます前に摘んで欲しかった

そうすれば
最期まで幸せな気持ちのまま、
やすらかに消滅できたのに


『……もういいや。さっさと殺してよ』


これ以上続けても、憎悪が膨らむだけだろう
仮初にも温もりをくれたこの子を相手に、
そんな感情を持ちたくない

心は繋がっていなかったとしても
私にとって、この子が最愛の人である事実に
変わりはないのだから


『仕事なんでしょ?持っていきなよ。
 私の魂なんかに価値があるとは思えないけど』

『私の魂が貴女の役に立つって言うなら。
 殺されちゃってもいいや』


少女は何も言わず腕を翻す

刹那、その右手に大きな鎌が握られた
命を刈り取る大鎌が私の首筋に回される
そして、そのまま一思いに――


――鎌が、振り下ろされない


『……どうしたの?』


すぐに首を落とされるのかと思いきや、
鎌が動く気配はなかった


小刻みに揺れている
携える少女の両腕が震えていた


信号が、脳を震わせる


『生きたい。ですか?』

『……は?』

『生きたくない、ですか……っ?』


脳裏に響いた問い掛けは
むしろ懇願のようだった



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死を司る神。

その子供と呼ばれる私は、
実際には神ではありません。

非業の死を迎えた幼子は、
死神の『慈悲』を与えられます。
従者となる事で永遠の消滅を免れるのです。

従者となった子供達は、死に瀕した人に寄り添い。
没した後の魂を刈り取って死神に捧げます。


そして。それを未来永劫繰り返すのです。


慈悲。果たしてこれは慈悲なのでしょうか。
幼く無知で愚かな私は、
消滅の恐怖から逃れるために
従者を選びましたけど。
代わりに、永遠の苦悩に苛まれる事になりました。


死に極々近い人。そんな人だけが私達をその眼に映します。
私達を見た人は皆、一様に呪詛を投げかけました。


『来るな』『人殺し』『寄るな』『化け物』
『消えろ』『死神』『死ね』『死ね』『死ね』


嗚呼、嗚呼、違うんです。
私だって本当は助けたい。
叶う事なら生きていて欲しい。


でも無理なんです。私にそんな力はないから。


無力な私にできる事。それは、ただただ憎まれる事。
抗えない死への恐怖。やがて憎悪に変わったそれを。
ただ、黙って受け止めるだけなんです。



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何百。否、何千という人を刈り取って、
心を麻痺させる術を学びました。

黙して何も語る事なく、ただ盲目に魂を摘む。
そんな機械となり果てた私を、人間に戻してしまった存在。


そう。それが貴女だったんです。


『ねえ。アナタは誰なの?』


幼い貴女は私も見ても怖がる事無く、
ただ無邪気に話し掛けてくれた。
それがどれ程稀有な事で、どれ程残酷な事だったのか。
貴女は知る由もないでしょう。

死神の子に身を窶して(やつして)以来、
初めて向けられた純粋な好意。
それがどれ程私を壊したか、
貴女は知る由もないでしょう。


『が ん ば っ て』
『う、ん。がん、ば、る、よ』


憎むべき死神の応援を素直に受け取ってくれた貴女。
ずっと独りぼっちだった私に寄り添ってくれた貴女。
愛を知らない私に愛をくれた貴女。
今わの際。私とともに逝く事を願ってくれた貴女。


そんな貴女の魂を。どうして刈り取れるでしょうか。


『生きたい。ですか?』

『……は?』

『生きたくない、ですか……っ?』


咄嗟に問いを投げ掛けました。
嗚呼。なんて私は罪深いのでしょう。
彼女の事を想うなら、このまま鎌を振り下ろすのが最善なのに。

なのに私は。
この子を失いたくない、ただそれだけの理由で。
この子を自分と同じ地獄に貶めようとする。


『……ていうか。助かる方法なんてあるの?』

『あります。私と同じ存在になる事です』


嗚呼、駄目。それ以上話しては。
駄目。この子をこれ以上苦しめては。


駄目、なのに。


『幼いうちに不条理な死を迎えた子供は、
 望むなら死神の従者になれます』

『それになれば、貴女と離れないでいられるの?』

『はい。ただし。未来永劫人の死を
 看取り続ける事になりますけど』

『なんだそんな事か。いいよ。なる』


嗚呼、わかってました。こういう回答になるって。
当然です。永遠の消滅と比べれば、
それはあまりにも小さい代償に見えるから。
でも、そこに幸せはない。あるのは塵積る不幸だけ。
でも。でも。でも。でも。彼女と二人なら。


幸せに……なれるの、かもしれません。


『じゃあ。これからもよろしくね』


彼女が手を差し出します。それは何度も握った手。
温かくて大好きだった彼女の手。
でも、その時握った彼女の手は。
酷く冷たく凍っていました。



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こうして、私は死神の子供になった。

あの子と二人で手を取り合って、
何千何万という人の魂を摘み取っている。


『地獄』


彼女は今の状況をそう評したけれど。
成程その通りだと思う。

人の死に様は様々だ。でも。
心安く逝く人はほとんどいない。

病死。轢死。溺死。焼死。
圧死。凍死。墜落死。失血死。
他殺。自殺。事故死。

幾度となく見せられる。
目を覆いたくなるような凄惨な現場を。

そうやって苦しんで死んだ魂を摘む。
罵倒、嗚咽、慟哭、軽蔑。
ありとあらゆる負の攻撃に打ちのめされながら、
私達は魂を刈り取る鎌を振るう。


大半の『子』は何人か魂を摘み取ると自ら消滅を望むらしい。
もう許してくれと。この地獄から解放してくれと。

気持ちは痛いくらいによくわかる。
それでも、私はまだ現世に留まっている。
だって彼女と一緒に居られるから。


『クソガキッ!死ね!お前らが代わりに死ね!!
 人の不幸を嘲笑いやがっ――!!!』


今日も魂を一つ刈り取った。

さんざ罵詈雑言をまき散らした魂が、
私の手の中で見苦しく蠢いている。

汚い魂を麻袋にほおりこむと、
蹲って涙をこぼす彼女の頭を撫でた。


『毎回気にし過ぎだよ。テキトーに聞き流せばいいんだって。
 私達のせいじゃないんだから』

『言われた言葉がつらいんじゃないんです。
 そんな言葉を零さずにはいられなかった、
 あの人の苦しみが痛いんです』


私よりもずっとベテランの『先輩』は、
今日も人の死に心を痛めている。

その優しさが愛おしくもあり、
私以外の存在に心を動かす様が憎くもあり。
私は彼女を抱き締めると、なかば無理やり唇を塞ぐ。


『考えるのはもうおしまい。ほら。私の事だけを考えて』

『……はい』


彼女の目から光が消えて、
ただただ漆黒の闇に染まる。

この状態の彼女は好きだ。
苦しみから目を背けるように、
一心不乱に甘えてくれるから。


啄むようにキスを落としながら、
喪服をそっとめくり上げる。
露になった肌に手を這わせ、
やがて一糸纏わぬ姿で抱き合う。

触れ合った彼女の肌は。
いつも通り、死体のように冷たかった。



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心はどんどん摩耗していく。
精神は歪に捻じ曲がっていく。


それでも私はこれからも、
魂を刈り続けるだろう。


ようやく見つけたんだ。
やりたい事。他の何を捨ててでも、
見苦しく生きる目的を。


彼女と永遠を生き続ける。
いつまでも、いつまでも。
愛し合って、生きて行く。


そして今日も、私達は死に寄り添っている。
傍らの恋人に愛を紡ぎ、人の命を刈り取るために。


(完)





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<夢の中設定>
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上記は私が実際に見た夢をSSに描き起こしています。
作中で語られていない設定もあるため
ここに書き殴っておきます。
興味のある方だけどうぞ。














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<喋れない>
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『死神の子』は基本的に憑りついた人間と深い関係を持ってはいけない。
これは賢しい人間であれば死神の子から情報を得る事で
自らの死を回避する可能性があるため。

このため、『死神の子』は
現世において口を利く事が禁止されている。

それは唇を動かす事も例外ではなく、
『先輩の子』は掟を破った罰として
手術中、全身に電流を流される程の苦痛を与えられている。

それでも『先輩の子』が激励をやめる事はなかった。
生と死の境で苦しむ『欠陥品』を前に、
自分も痛みを受ける事でともに戦う事を選択したため。


最終的に死神がこの行為を許容した理由は三つある。

『欠陥品』は手術中意識を保っていたが、
これは全身麻酔がとけた事による術中覚醒ではない。
この時彼女はすでに仮死状態にあり、
中途半端に肉体の器から切り離された事で意識を取り戻していた。
(彼女が感じた苦痛は麻酔の不足による物理的な痛みではなく
 精神的外傷がもたらす痛みだった)
この状態で『欠陥品』が命を繋ぎ止める可能性は極めて低く、
半ばあの世で会話しているのと同じ状態と言えた。

一つは、『先輩の子』がこの娘に依存し始めている事に気づいたため。
作中にもある通り、『死神の子』となった個体の生存期間は極めて短く、
数回人間を看取ったら自ら消滅を願うようになる。
そんな中で『先輩の子』は乖離により例外的に長持ちしている個体であり、
処分するには勿体ないと考えたため。

最後は、『欠陥品』自体にも
『死神の子』としての素養があったためである。


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<本来の寿命>
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本来であれば『欠陥品』の寿命は『七歳』であり、
容体急変後、手術の甲斐もむなしく命を落とす予定であった。

『死神の子』も無限に存在するわけではないため、
基本的には死期の直前のみ姿を現す。
『欠陥品』に『先輩の子』が見えたのは、
『欠陥品』の死期が近づいて『先輩の子』が派遣されたためである。

しかし、出会ってからの少しの間、
『欠陥品』は『先輩の子』に屈託なく話し掛けた。
その事実が『先輩の子』の心を融かし、
結果彼女は『欠陥品』を救おうと励ます事になる。
『欠陥品』は『先輩の子』の励ましにより一命を取り留めた結果、
(死神に憑かれた子としては)長い付き合いが始まった。


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<結末>
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永く永く寄り添い続け、命を摘み取り続けた二人は、
その異質な精神性を評価されて本物の死神となる。

生前に希望を見いだせなかった少女達は、
死んで初めて幸せをつかみ取る事ができた。

しかし、死神として人の生き死にを管理するという事は、
輪廻の輪から完全に外れる事を意味する。

『生きて行く』

『欠陥品』はそう心に決めたが、進歩も成長もなく
ただ同じ状態で停止したその様子は、
肉体と同様『死んでいる』と考える事もできる。

彼女達が『生きている』のか『死んでいる』のかは
人によって判断が分かれる事だろう。


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posted by ぷちどろっぷ at 2017年10月22日 | Comment(1) | TrackBack(0) | オリジナル百合SS
この記事へのコメント
『欠陥品』は最初から壊れてたんですね……。
潜在的なヤンデレ気質だったのかも……。
ごちそうさまでした……。
Posted by at 2017年10月23日 19:31
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